2月8日(月)、渋谷のユーロライブにて日本バレエ協会主催創造されたバレエの夢 Ballet Creation 2020 Special 記録映像上映
『真夏の夜の夢』『七つの短編』開映前、上映会での配布資料に寄稿され、長年舞踊評論家として第一線で活躍されながら
2月5日に急逝された山野博大さんへの黙祷が捧げられました。
享年84歳、大学在学中から評論を発表なさっていたそうですから
実に約60年以上も世に発信し続けてこられた功績に敬意を表すとともに心よりお悔やみ申し上げます。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/84661
日本のバレエ団体、殊に観客が集まりにくい創作作品上演においても歴史を辿り網羅するかのように多くの舞台をご覧になっていたようです。
記憶違いでなければ13年前には徳島の公演会場でもお見かけした気がしており、更には2014年大阪での野間バレエ団公演『ロミオとジュリエット』であったか
最寄駅から会場のソフィア堺への行き方が分からず周辺を見渡していると山野さんのお姿を発見、
怪しまれない程度について行ってしまい無事到着できた思い出もございます。
また私の中では、山野さんはいわゆる「バレエ評論家」「舞踊評論家」の肩書きを持つ方がお顔の写真入りで媒体に登場された紙面にて初めて目にした評論家でいらっしゃり、
1990年の小林紀子バレエシアター12月公演『くるみ割り人形』プログラムに掲載された若手ダンサー対談会の記事でした。
(1989年の同団くるみにも行っているはずの管理人だがプログラムが自宅に見当たらず)
小林シアターのプログラムではその後も山野さん司会進行での座談会が度々掲載され、1993年だったか鳩がバレエに登場するらしいと耳に挟み私も観に行った
アシュトン振付『二羽の鳩』国内バレエ団としては初演であった頃のリハーサル裏話も面白く拝読。
鑑賞した日の主演は加藤久美子さんと志村昌宏さんが務め、絵にぴたりと嵌る勝気な少女と爽やか少年なるペアでした。
それから約20年後の2016年お盆、山野さんが後半のプログラムにて司会進行を務められた、世田谷区内の貝谷バレエ団のスタジオで開催
東京バレエ團(昭和21年結成のちに解散)や『白鳥の湖』全幕日本初演を振り返るシンポジウムに参加。(ご参考までに、当時の感想はこちらです)
一般客は少なかったものの、書籍等で何度も目にした重鎮な方々が目の前に勢揃いする光景及び次々と飛び出す当時にタイムスリップしたかのような
熱く臨場感ある語りを山野さんが取りまとめてくださっていたお姿も忘れられません。
今回の資料の文章を拝読すると山野さんは日本の振付家が生み出したオリジナルバレエの継承、再演や
後世に残していくための映像データの保存や公開する機会の重要性を強く問いていらっしゃいます。
日本のバレエ黎明期以降映像の入手も大困難であった時代、海外に頼らずに国内では自らのアイディアを絞り出しての創作があちこちで行われ、
大きな作品も多数発表されるものちに増加する海外からの来日公演がバレエ愛好者の関心を吸い寄せてしまい、現在も尚日本の創作バレエの上演が盛況になりづらく
再演がなかなかされぬ要因を分析され、歴史的背景も踏まえつつ解説文に記されています。
日本における『白鳥の湖』全幕初演以降1950年代から80年代にかけて発表された創作作品名がいくつも挙げられていましたが、
その中でも管理人が特に気になったのは1957年の横井茂さん振付『美女と野獣』。
国内外でバレエ化はされていて、国内の振付家では近年ですと昨年末に宝満直也さんによる演出振付で小野絢子さん福岡雄大さん主演による全幕上演が実現、
ご覧になった方も大勢いらっしゃるかと思います。
※つい先日ダイジェスト動画が公開されました。ステップの散りばめ方や音楽の使い方にも興味を持たせる振付演出です。
https://youtu.be/oZSnvhx47Ds
また発表会にて教室独自の演出で行っているところもあるようです。
海外であれば2008年に来日上演された英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のビントレー版がよく知られているかもしれません。
私も足を運び、佐久間奈緒さんの主人公ベルはもとより、山本康介さんのカラスがユニークで印象深く残っております
(管理人は勿論、DVDも所有しておりますカデル・ベラルビ版が好きでございます。DVDでのキャストを筆頭に綴り始めると一晩かかりますのでここでは割愛)
しかし1960年以前の、まだカラーテレビ本放送前で日本は街頭テレビで力道山を応援する人々で溢れ返っていた時代
日本のバレエ黎明期にあたる時期に日本人によるバレエ化がなされていた題材であったとは大変な驚きを覚えました。
そういえば、20年ほど前の書籍に横井さんのインタビューが掲載されていたと思い出し取り出して見たところ発見。
残念ながら『美女と野獣』の写真はなかったものの、現役時代の横井さんによるジークフリート王子や
(アダージョでオデットを抱える場面、憂愁を帯びた表情がなかなか色っぽい)
のちに創作した『オルフェ1960』、『リチャード三世』、『ジャンヌ・ダルク』等、重厚そうな作品が並んでいます。
インタビューによれば、1930年に能楽宝生流17代宗家に生まれた横井さんは医師を目指していた学生時代に
松尾明美さん、東勇作さん、小牧正英さんが主要役を務める帝国劇場での『白鳥の湖』を鑑賞してすぐにバレエに取り憑かれ、バレエで生きていくと決意。
内緒で小牧バレエ団に通い、その後は全国ツアーにも参加され自身の役以外の振付も全部頭に入れていて急遽の白鳥のトロワ代役にもすぐ対応でき
入団3年目あたりから主役にも抜擢されて充実していたようです。一方で早くから創作にも意欲を見せ、長編の創作第1弾が『美女と野獣』で1956年初演。
(山野さんの資料では1957年と明記だが、どちらが正しいかは分からず)
演出の記録として、装置に頼らずにボディータイツを着用した男女6人ずつのダンサーの組み合わさりによって館の門を造形したり寝台を作ったり、
肉体美を生かした舞台セットであったそうです。一昨年来日上演され、生身のダンサー達が彫刻と化して地獄門を作り上げていた
ボリス・エイフマン振付『ロダン』初演(2011年)の半世紀も前の日本で似た手法を用いた長編バレエ作品の創作上演にただただ驚くばかりでした。
映像は残ってはいないと思いますが、写真だけでも目にしてみたい作品です。
※20年ほど前、音楽之友社発行雑誌Balletにて島田廣さんや谷桃子さん、牧阿佐美さん、関直人さん、石井清子さんや大滝愛子さん、
天野陽子さん(鈴木稔さんのお母様)を始め日本のバレエ黎明期を支えた方々の連載シリーズがあり、また偶然なのか管理人在住地域の図書館にも
似た傾向の書籍が次々と入荷され、読み耽けておりましたが当時は現在のようにバレエについてあれこれ語り合える交友関係が全く出来ておらず
1人心の中にしまってお終いでございました。会場が停電したため蝋燭を灯して『レ・シルフィード』上演を敢行したら
幻想的でむしろ大評判であったなど(天野さんの記事より)
今では考えられぬぶっ飛び逸話がてんこ盛りです。もし書籍を手に取る機会があれば、是非お読みください。
少しあとの世代では、私の中でバレエ『赤い靴』と言えば話題沸騰真っ盛りなマシュー・ボーンではなく
今でも思い起こす1971年放送の同名のテレビドラマ主演ゆうきみほさんも登場なさっていました。
話は戻りますが、山野さんは日本のバレエ、日本で生まれたバレエ作品をもっと多くの方に観て欲しいと長年願ってこられ、
特にバレエ協会のプログラムはほぼ毎回執筆なさっていたかと思います。
クラシックの大作や海外からの来日公演でなければ客が集まりづらい状況をどうにか打破したいとお考えであったに違いありません。
我が身を振り返ると、日本のバレエ団の鑑賞が好きであると口走っている割には、
今回上映会で取り上げた25本の作品で上演当時実際に足を運んで鑑賞したのは7本のみ。
そもそも15年ほど前まではバレエ協会の公演会場の雰囲気が苦手とまで口にして敬遠しがちであった自身が恥ずかしいばかりです。
(観客も出演者の関係者が多くを占め、夜公演にも拘らず四方八方から聞こえる◯◯先生おはようございますとの挨拶に
芸能界でも稽古場でもないのだから夜ぐらいこんばんはでええやんと毎度思う捻くれた部外者であった点、お許しください)
またコロナ渦で暫くは来日公演実現も困難であろう今、日本で作られたオリジナル作品の掘り起こしも重要となってくると思っており、
制作の時期によっては改訂も必要になってくるかもしれませんが
新潟シティバレエでは近年も上演されていながら本家の牧阿佐美バレヱ団で
昨年42年ぶりに上演された『角兵衛獅子』はいくらか改訂もされたかもしれないもののテクニックの見せ場や群舞の入れ方と言い
今観ても決して古色蒼然な印象はなく、見応えがあったのは記憶に新しいところ。
他の団体においても過去に上演しながら眠ったままになっている日本生まれの作品の掘り起こし、
そして国内の振付家作品の初演が相次ぐ上演機会となればと願っており、私も一層学びたいと思っております。
上映会チラシの裏、上映作品の振付家の一覧にて錚々たる方々が勢揃い。範囲を広げ、時期や場所を問わず鑑賞したことのある振付家となれば17名。
以下長い且つ大雑把な感想で失礼、鑑賞時の印象など作品によっては10年以上遡っての備忘録。
青木尚哉さん作品は10年前に高知の発表会で観たか、伊藤範子さんは2019年1月藤原歌劇団『椿姫』における
バレエ場面がたった10分程度であっても抑揚に富んだステップやドラマも盛り込まれていて秀逸でした。
遠藤康行さんが2018年にジャポンダンスプロジェクトでの夏の夜の夢は随分風変わりなテイストであったが、
来月の協会公演コンテンポラリーいばら姫は心より楽しみにしている次第。
ハルバートさんの真夏…の愛おしさは前半の記述の通り。彩の国さいたま芸術劇場の次期芸術監督就任の近藤良平さんによる
『ねこ背』はバレエの規格から外へ出つつ声出しもユニークでした。
篠原聖一さんのオリジナル大作、古典の改訂もあちこちで拝見(北は北海道南は愛媛まで!)
下村由理恵さんによる青山円形劇場での『水の精霊』、篠原さんによる『アダージェット』を上演したリサイタルは
鑑賞人生において2番目の至近距離で観た舞台として記憶、記録。
https://www.dance-square.jp/syas1.html
https://www.dance-square.jp/syas2.html
田中祐子さんの沖縄の要素が盛り込まれた作品も不思議な魅力があり、
中原麻里さんは昨年夏の大和シティーバレエで
新国立から珍しいペア誕生させた、ショパンのノクターンにのせたルナティックがいたく神秘的でございました。
中村さんは前の記述の通り、好みな作品が私の中でもぱっくり分かれ、我が感性に問題ありかもしれません。
日原永美子さんがNHKバレエの饗宴で発表されたオセローがシュトニケの重苦しい音楽とよく合い、
平山素子さんは新国立で上演された兵士の物語、ザハロワや小野さん、本島さんも挑戦されたRevelationそしてバタフライ(3月楽しみです)も印象深い。
深川秀夫さんのお洒落で麗しい作品は関西でしばしば鑑賞、中でもソワレ・ド・バレエを全編鑑賞した体験は
新国立で抜粋のパドドゥを観て感激された方にも度々自慢しているほど笑、宝物です。
松崎すみ子さんの『マッチ売りの少女』はほぼ全曲邦楽で構成され、少女の悲しみを尺八、街の賑わいを琴や三味線で表現する手法に舌を巻き
前田さんのいのちでんでんこ、当初はバレエ公演での上演にはびっくりな舞台でしたが独特の世界観に引き摺られて行くような力もあり。
矢上恵子さん作品は大阪で、愛媛で、徳島でも多く拝見、その度にパワーと浄化が同時に迫る感覚に。
山本康介さん版くるみ割り人形を3年前に江戸川にて鑑賞、ドロッセルマイヤーを若くたっぷり踊れる役として描き、
女の子が男の子を踊るときに変な違和感がないよう配慮された髪型、衣装も好印象でした。
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