バレエについての鑑賞記、発見、情報、考えたことなど更新中
2020年よりこちらに引越し、2019年12月末までの分はhttp://endehors.cocolog-nifty.com/blog/に掲載
2021年2月25日木曜日
新国立劇場 舞台美術展で巡るオペラ・バレエの世界開催
先週末あたりから寒暖差が非常に激しい日々となりましたが皆様如何お過ごしでしょうか。
昨年に引き続き、東京スカイツリータウン内の東京ソラマチに入っているスペース634では新国立劇場の舞台美術展が開催されます。
https://www.tokyo-solamachi.jp/event/1610/
昨年はバレエ『マノン』真っ最中の頃で、また感染に関して今以上に混迷状態にあり、行きそびれておりましたが
今年もバレエやオペラの衣装などが展示されるそうで、入場無料。2日間のみの開催ですので、お近くにお住まいの方やスカイツリー方面にご用事のある方、
是非お立ち寄りください。昨年バレエはくるみ割り人形とドン・キホーテの衣装が展示されたとのこと。今年については記載が見当たらず、
私の調査不足で展示規模も分からずですが、ミニコンサートもあるようです。
東京スカイツリーは2012年の開業日に行ったきり足を運んでおらず、夜の報道番組内での気象情報にて映っている夜景及び
東京文化会館前から眺める程度ですが、東京タワーの倍近くの高さを誇っていますから久々に上ってみたい思いでおります。
(生まれも育ちも現在の住まいも東京だが、スカイツリーや東京タワーよりもなぜだか通天閣の方が馴染みがある笑)
2021年2月21日日曜日
バレエカレッジ講座 マエストロ・井田勝大氏「バレエ音楽の魅力と秘密」『眠れる森の美女』中編
2月13日(土)、バレエカレッジの講座 マエストロ・井田勝大氏「バレエ音楽の魅力と秘密」『眠れる森の美女』中編をオンライン受講いたしました。
https://balletcollage-maestro15.peatix.com/view
今回は1幕を中心に講義。音符だけ見ると奇妙なオーロラ登場曲や花のワルツにワーグナーを彷彿の旋律が取り入れられたり(確か)、
ローズアダージオにおける楽器総動員での壮大さ、短調長調の組み合わせ効果の隠れなど音楽を次々と紐解き分析しながら説明してくださいました。
携帯の操作をそのままテレビ画面に映すアプリが役立ち(いかにして使いこなせるようになったか記憶が曖昧で、
昨年の新国立2016年ロミジュリ配信で何としてでもパリスを大画面で堪能したいが為に執念で辿り着いたやり方であった笑)
楽譜を示しながらのお話も譜面がよく見え、パートごとの役割も分かりやすく伝わりました。
ところで冒頭あたりに井田さん、長音階をdur(カタカナ表記ではドゥアー?)短音階をmoll(モール)とドイツ語読みで説明している旨を
分かりづらいかもしれないと心配され、言い直しもなさっていたりしていましたが、
子供の頃にピアノを習っていた際に教えてくださっていた先生がドイツ人と結婚なさった方で、音名はドレミではなくツェーデーエー、
長調短調もハ長調等とは呼ばずドイツ語読みで習っておりましたため、頭には入ってきやすい気がしております。
ただ習っていた経験があるとは言え、バレエその他美術工作含む全ての芸術そしてスポーツと同様自身は鑑賞者向きであるとは幼少期から自覚しており、
一生懸命練習していたとは言い難く恥ずかしい限りですが(現在は弾けません)、当時の知識が役立ち少し喜びを覚えております。
話が逸れました。講座から1週間後の昨日、新国立劇場バレエ団『眠れる森の美女』を鑑賞しローズ・アダージオの音楽の重み、
オーロラ姫小野絢子さんの誇り高さも合わさって上階席からの鑑賞でも十二分にスケール感が響く場面であると再確認いたしました。
この場面で今も忘れられないのは2007年の2月まだセルゲイエフ版を上演していた頃の新国立劇場での眠りで、川村真樹さんが待望の主役デビュー日。
大作中の大作と呼ばれる『眠れる森の美女』主役デビューであるためか オーロラ姫登場前のソワソワした音楽以前から
舞台上は迎える態勢万全、客席は緊張と期待で落ち着かず(笑)、そして遂に川村さんオーロラが現れた瞬間
当時頻繁にゲスト出演していたザハーロワ登場時よりも遥かに大きな拍手に沸き、ローズアダージオが無事終わると近隣の初台商店街にまで音漏れしそうな
割れんばかりの拍手が轟いていた光景は今もはっきりと脳裏を過ります。主役経験豊富なダンサーであっても恐怖な大場面ですから、
コール・ドで入団し、コリフェ、ソリスト、(のちにファーストソリスト 、プリンシパルに昇格であったと記憶)と
着実に昇進を続けてきた叩き上げで、満を持しての主役デビュー公演でしたから殊更舞台上も観客も一体となって歓喜と安堵に包まれた空間と化したのでしょう。
話が逸れました。井田さんの眠り音楽講座はひとまずは全3回構成とのことですが、最後まで終わらなければ追加企画の可能性もあるもよう。
楽しみに待ちたいと思います。そしてオーケストラにも注目しつつ、本日も「生」で、昼夜通して眠りの音楽を堪能して参ります。
※写真は15年ほど前に購入したCD、サンクトペテルブルク放送交響楽団演奏です。
2021年2月18日木曜日
舞踊評論家山野博大さん逝去/日本の創作バレエ上演、再演、継承の難しさ
2月8日(月)、渋谷のユーロライブにて日本バレエ協会主催創造されたバレエの夢 Ballet Creation 2020 Special 記録映像上映
『真夏の夜の夢』『七つの短編』開映前、上映会での配布資料に寄稿され、長年舞踊評論家として第一線で活躍されながら
2月5日に急逝された山野博大さんへの黙祷が捧げられました。 享年84歳、大学在学中から評論を発表なさっていたそうですから
実に約60年以上も世に発信し続けてこられた功績に敬意を表すとともに心よりお悔やみ申し上げます。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/84661
日本のバレエ団体、殊に観客が集まりにくい創作作品上演においても歴史を辿り網羅するかのように多くの舞台をご覧になっていたようです。
記憶違いでなければ13年前には徳島の公演会場でもお見かけした気がしており、更には2014年大阪での野間バレエ団公演『ロミオとジュリエット』であったか
最寄駅から会場のソフィア堺への行き方が分からず周辺を見渡していると山野さんのお姿を発見、
怪しまれない程度について行ってしまい無事到着できた思い出もございます。
また私の中では、山野さんはいわゆる「バレエ評論家」「舞踊評論家」の肩書きを持つ方がお顔の写真入りで媒体に登場された紙面にて初めて目にした評論家でいらっしゃり、
1990年の小林紀子バレエシアター12月公演『くるみ割り人形』プログラムに掲載された若手ダンサー対談会の記事でした。
(1989年の同団くるみにも行っているはずの管理人だがプログラムが自宅に見当たらず)
小林シアターのプログラムではその後も山野さん司会進行での座談会が度々掲載され、1993年だったか鳩がバレエに登場するらしいと耳に挟み私も観に行った
アシュトン振付『二羽の鳩』国内バレエ団としては初演であった頃のリハーサル裏話も面白く拝読。
鑑賞した日の主演は加藤久美子さんと志村昌宏さんが務め、絵にぴたりと嵌る勝気な少女と爽やか少年なるペアでした。
それから約20年後の2016年お盆、山野さんが後半のプログラムにて司会進行を務められた、世田谷区内の貝谷バレエ団のスタジオで開催
東京バレエ團(昭和21年結成のちに解散)や『白鳥の湖』全幕日本初演を振り返るシンポジウムに参加。(ご参考までに、当時の感想はこちらです)
一般客は少なかったものの、書籍等で何度も目にした重鎮な方々が目の前に勢揃いする光景及び次々と飛び出す当時にタイムスリップしたかのような
熱く臨場感ある語りを山野さんが取りまとめてくださっていたお姿も忘れられません。
今回の資料の文章を拝読すると山野さんは日本の振付家が生み出したオリジナルバレエの継承、再演や
後世に残していくための映像データの保存や公開する機会の重要性を強く問いていらっしゃいます。
日本のバレエ黎明期以降映像の入手も大困難であった時代、海外に頼らずに国内では自らのアイディアを絞り出しての創作があちこちで行われ、
大きな作品も多数発表されるものちに増加する海外からの来日公演がバレエ愛好者の関心を吸い寄せてしまい、現在も尚日本の創作バレエの上演が盛況になりづらく
再演がなかなかされぬ要因を分析され、歴史的背景も踏まえつつ解説文に記されています。
日本における『白鳥の湖』全幕初演以降1950年代から80年代にかけて発表された創作作品名がいくつも挙げられていましたが、
その中でも管理人が特に気になったのは1957年の横井茂さん振付『美女と野獣』。
国内外でバレエ化はされていて、国内の振付家では近年ですと昨年末に宝満直也さんによる演出振付で小野絢子さん福岡雄大さん主演による全幕上演が実現、
ご覧になった方も大勢いらっしゃるかと思います。
※つい先日ダイジェスト動画が公開されました。ステップの散りばめ方や音楽の使い方にも興味を持たせる振付演出です。
https://youtu.be/oZSnvhx47Ds
また発表会にて教室独自の演出で行っているところもあるようです。
海外であれば2008年に来日上演された英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のビントレー版がよく知られているかもしれません。
私も足を運び、佐久間奈緒さんの主人公ベルはもとより、山本康介さんのカラスがユニークで印象深く残っております
(管理人は勿論、DVDも所有しておりますカデル・ベラルビ版が好きでございます。DVDでのキャストを筆頭に綴り始めると一晩かかりますのでここでは割愛)
しかし1960年以前の、まだカラーテレビ本放送前で日本は街頭テレビで力道山を応援する人々で溢れ返っていた時代
日本のバレエ黎明期にあたる時期に日本人によるバレエ化がなされていた題材であったとは大変な驚きを覚えました。
そういえば、20年ほど前の書籍に横井さんのインタビューが掲載されていたと思い出し取り出して見たところ発見。
残念ながら『美女と野獣』の写真はなかったものの、現役時代の横井さんによるジークフリート王子や
(アダージョでオデットを抱える場面、憂愁を帯びた表情がなかなか色っぽい)
のちに創作した『オルフェ1960』、『リチャード三世』、『ジャンヌ・ダルク』等、重厚そうな作品が並んでいます。
インタビューによれば、1930年に能楽宝生流17代宗家に生まれた横井さんは医師を目指していた学生時代に
松尾明美さん、東勇作さん、小牧正英さんが主要役を務める帝国劇場での『白鳥の湖』を鑑賞してすぐにバレエに取り憑かれ、バレエで生きていくと決意。
内緒で小牧バレエ団に通い、その後は全国ツアーにも参加され自身の役以外の振付も全部頭に入れていて急遽の白鳥のトロワ代役にもすぐ対応でき
入団3年目あたりから主役にも抜擢されて充実していたようです。一方で早くから創作にも意欲を見せ、長編の創作第1弾が『美女と野獣』で1956年初演。
(山野さんの資料では1957年と明記だが、どちらが正しいかは分からず)
演出の記録として、装置に頼らずにボディータイツを着用した男女6人ずつのダンサーの組み合わさりによって館の門を造形したり寝台を作ったり、
肉体美を生かした舞台セットであったそうです。一昨年来日上演され、生身のダンサー達が彫刻と化して地獄門を作り上げていた
ボリス・エイフマン振付『ロダン』初演(2011年)の半世紀も前の日本で似た手法を用いた長編バレエ作品の創作上演にただただ驚くばかりでした。
映像は残ってはいないと思いますが、写真だけでも目にしてみたい作品です。
※20年ほど前、音楽之友社発行雑誌Balletにて島田廣さんや谷桃子さん、牧阿佐美さん、関直人さん、石井清子さんや大滝愛子さん、
天野陽子さん(鈴木稔さんのお母様)を始め日本のバレエ黎明期を支えた方々の連載シリーズがあり、また偶然なのか管理人在住地域の図書館にも
似た傾向の書籍が次々と入荷され、読み耽けておりましたが当時は現在のようにバレエについてあれこれ語り合える交友関係が全く出来ておらず
1人心の中にしまってお終いでございました。会場が停電したため蝋燭を灯して『レ・シルフィード』上演を敢行したら
幻想的でむしろ大評判であったなど(天野さんの記事より)
今では考えられぬぶっ飛び逸話がてんこ盛りです。もし書籍を手に取る機会があれば、是非お読みください。
少しあとの世代では、私の中でバレエ『赤い靴』と言えば話題沸騰真っ盛りなマシュー・ボーンではなく
今でも思い起こす1971年放送の同名のテレビドラマ主演ゆうきみほさんも登場なさっていました。
話は戻りますが、山野さんは日本のバレエ、日本で生まれたバレエ作品をもっと多くの方に観て欲しいと長年願ってこられ、
特にバレエ協会のプログラムはほぼ毎回執筆なさっていたかと思います。
クラシックの大作や海外からの来日公演でなければ客が集まりづらい状況をどうにか打破したいとお考えであったに違いありません。
我が身を振り返ると、日本のバレエ団の鑑賞が好きであると口走っている割には、
今回上映会で取り上げた25本の作品で上演当時実際に足を運んで鑑賞したのは7本のみ。
そもそも15年ほど前まではバレエ協会の公演会場の雰囲気が苦手とまで口にして敬遠しがちであった自身が恥ずかしいばかりです。
(観客も出演者の関係者が多くを占め、夜公演にも拘らず四方八方から聞こえる◯◯先生おはようございますとの挨拶に
芸能界でも稽古場でもないのだから夜ぐらいこんばんはでええやんと毎度思う捻くれた部外者であった点、お許しください)
またコロナ渦で暫くは来日公演実現も困難であろう今、日本で作られたオリジナル作品の掘り起こしも重要となってくると思っており、
制作の時期によっては改訂も必要になってくるかもしれませんが 新潟シティバレエでは近年も上演されていながら本家の牧阿佐美バレヱ団で
昨年42年ぶりに上演された『角兵衛獅子』はいくらか改訂もされたかもしれないもののテクニックの見せ場や群舞の入れ方と言い
今観ても決して古色蒼然な印象はなく、見応えがあったのは記憶に新しいところ。
他の団体においても過去に上演しながら眠ったままになっている日本生まれの作品の掘り起こし、
そして国内の振付家作品の初演が相次ぐ上演機会となればと願っており、私も一層学びたいと思っております。
上映会チラシの裏、上映作品の振付家の一覧にて錚々たる方々が勢揃い。範囲を広げ、時期や場所を問わず鑑賞したことのある振付家となれば17名。
以下長い且つ大雑把な感想で失礼、鑑賞時の印象など作品によっては10年以上遡っての備忘録。
青木尚哉さん作品は10年前に高知の発表会で観たか、伊藤範子さんは2019年1月藤原歌劇団『椿姫』における
バレエ場面がたった10分程度であっても抑揚に富んだステップやドラマも盛り込まれていて秀逸でした。
遠藤康行さんが2018年にジャポンダンスプロジェクトでの夏の夜の夢は随分風変わりなテイストであったが、
来月の協会公演コンテンポラリーいばら姫は心より楽しみにしている次第。
ハルバートさんの真夏…の愛おしさは前半の記述の通り。彩の国さいたま芸術劇場の次期芸術監督就任の近藤良平さんによる
『ねこ背』はバレエの規格から外へ出つつ声出しもユニークでした。 篠原聖一さんのオリジナル大作、古典の改訂もあちこちで拝見(北は北海道南は愛媛まで!)
下村由理恵さんによる青山円形劇場での『水の精霊』、篠原さんによる『アダージェット』を上演したリサイタルは
鑑賞人生において2番目の至近距離で観た舞台として記憶、記録。
https://www.dance-square.jp/syas1.html
https://www.dance-square.jp/syas2.html
田中祐子さんの沖縄の要素が盛り込まれた作品も不思議な魅力があり、 中原麻里さんは昨年夏の大和シティーバレエで
新国立から珍しいペア誕生させた、ショパンのノクターンにのせたルナティックがいたく神秘的でございました。
中村さんは前の記述の通り、好みな作品が私の中でもぱっくり分かれ、我が感性に問題ありかもしれません。
日原永美子さんがNHKバレエの饗宴で発表されたオセローがシュトニケの重苦しい音楽とよく合い、
平山素子さんは新国立で上演された兵士の物語、ザハロワや小野さん、本島さんも挑戦されたRevelationそしてバタフライ(3月楽しみです)も印象深い。
深川秀夫さんのお洒落で麗しい作品は関西でしばしば鑑賞、中でもソワレ・ド・バレエを全編鑑賞した体験は
新国立で抜粋のパドドゥを観て感激された方にも度々自慢しているほど笑、宝物です。
松崎すみ子さんの『マッチ売りの少女』はほぼ全曲邦楽で構成され、少女の悲しみを尺八、街の賑わいを琴や三味線で表現する手法に舌を巻き
前田さんのいのちでんでんこ、当初はバレエ公演での上演にはびっくりな舞台でしたが独特の世界観に引き摺られて行くような力もあり。
矢上恵子さん作品は大阪で、愛媛で、徳島でも多く拝見、その度にパワーと浄化が同時に迫る感覚に。
山本康介さん版くるみ割り人形を3年前に江戸川にて鑑賞、ドロッセルマイヤーを若くたっぷり踊れる役として描き、
女の子が男の子を踊るときに変な違和感がないよう配慮された髪型、衣装も好印象でした。
『真夏の夜の夢』『七つの短編』開映前、上映会での配布資料に寄稿され、長年舞踊評論家として第一線で活躍されながら
2月5日に急逝された山野博大さんへの黙祷が捧げられました。 享年84歳、大学在学中から評論を発表なさっていたそうですから
実に約60年以上も世に発信し続けてこられた功績に敬意を表すとともに心よりお悔やみ申し上げます。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/84661
日本のバレエ団体、殊に観客が集まりにくい創作作品上演においても歴史を辿り網羅するかのように多くの舞台をご覧になっていたようです。
記憶違いでなければ13年前には徳島の公演会場でもお見かけした気がしており、更には2014年大阪での野間バレエ団公演『ロミオとジュリエット』であったか
最寄駅から会場のソフィア堺への行き方が分からず周辺を見渡していると山野さんのお姿を発見、
怪しまれない程度について行ってしまい無事到着できた思い出もございます。
また私の中では、山野さんはいわゆる「バレエ評論家」「舞踊評論家」の肩書きを持つ方がお顔の写真入りで媒体に登場された紙面にて初めて目にした評論家でいらっしゃり、
1990年の小林紀子バレエシアター12月公演『くるみ割り人形』プログラムに掲載された若手ダンサー対談会の記事でした。
(1989年の同団くるみにも行っているはずの管理人だがプログラムが自宅に見当たらず)
小林シアターのプログラムではその後も山野さん司会進行での座談会が度々掲載され、1993年だったか鳩がバレエに登場するらしいと耳に挟み私も観に行った
アシュトン振付『二羽の鳩』国内バレエ団としては初演であった頃のリハーサル裏話も面白く拝読。
鑑賞した日の主演は加藤久美子さんと志村昌宏さんが務め、絵にぴたりと嵌る勝気な少女と爽やか少年なるペアでした。
それから約20年後の2016年お盆、山野さんが後半のプログラムにて司会進行を務められた、世田谷区内の貝谷バレエ団のスタジオで開催
東京バレエ團(昭和21年結成のちに解散)や『白鳥の湖』全幕日本初演を振り返るシンポジウムに参加。(ご参考までに、当時の感想はこちらです)
一般客は少なかったものの、書籍等で何度も目にした重鎮な方々が目の前に勢揃いする光景及び次々と飛び出す当時にタイムスリップしたかのような
熱く臨場感ある語りを山野さんが取りまとめてくださっていたお姿も忘れられません。
今回の資料の文章を拝読すると山野さんは日本の振付家が生み出したオリジナルバレエの継承、再演や
後世に残していくための映像データの保存や公開する機会の重要性を強く問いていらっしゃいます。
日本のバレエ黎明期以降映像の入手も大困難であった時代、海外に頼らずに国内では自らのアイディアを絞り出しての創作があちこちで行われ、
大きな作品も多数発表されるものちに増加する海外からの来日公演がバレエ愛好者の関心を吸い寄せてしまい、現在も尚日本の創作バレエの上演が盛況になりづらく
再演がなかなかされぬ要因を分析され、歴史的背景も踏まえつつ解説文に記されています。
日本における『白鳥の湖』全幕初演以降1950年代から80年代にかけて発表された創作作品名がいくつも挙げられていましたが、
その中でも管理人が特に気になったのは1957年の横井茂さん振付『美女と野獣』。
国内外でバレエ化はされていて、国内の振付家では近年ですと昨年末に宝満直也さんによる演出振付で小野絢子さん福岡雄大さん主演による全幕上演が実現、
ご覧になった方も大勢いらっしゃるかと思います。
※つい先日ダイジェスト動画が公開されました。ステップの散りばめ方や音楽の使い方にも興味を持たせる振付演出です。
https://youtu.be/oZSnvhx47Ds
また発表会にて教室独自の演出で行っているところもあるようです。
海外であれば2008年に来日上演された英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のビントレー版がよく知られているかもしれません。
私も足を運び、佐久間奈緒さんの主人公ベルはもとより、山本康介さんのカラスがユニークで印象深く残っております
(管理人は勿論、DVDも所有しておりますカデル・ベラルビ版が好きでございます。DVDでのキャストを筆頭に綴り始めると一晩かかりますのでここでは割愛)
しかし1960年以前の、まだカラーテレビ本放送前で日本は街頭テレビで力道山を応援する人々で溢れ返っていた時代
日本のバレエ黎明期にあたる時期に日本人によるバレエ化がなされていた題材であったとは大変な驚きを覚えました。
そういえば、20年ほど前の書籍に横井さんのインタビューが掲載されていたと思い出し取り出して見たところ発見。
残念ながら『美女と野獣』の写真はなかったものの、現役時代の横井さんによるジークフリート王子や
(アダージョでオデットを抱える場面、憂愁を帯びた表情がなかなか色っぽい)
のちに創作した『オルフェ1960』、『リチャード三世』、『ジャンヌ・ダルク』等、重厚そうな作品が並んでいます。
インタビューによれば、1930年に能楽宝生流17代宗家に生まれた横井さんは医師を目指していた学生時代に
松尾明美さん、東勇作さん、小牧正英さんが主要役を務める帝国劇場での『白鳥の湖』を鑑賞してすぐにバレエに取り憑かれ、バレエで生きていくと決意。
内緒で小牧バレエ団に通い、その後は全国ツアーにも参加され自身の役以外の振付も全部頭に入れていて急遽の白鳥のトロワ代役にもすぐ対応でき
入団3年目あたりから主役にも抜擢されて充実していたようです。一方で早くから創作にも意欲を見せ、長編の創作第1弾が『美女と野獣』で1956年初演。
(山野さんの資料では1957年と明記だが、どちらが正しいかは分からず)
演出の記録として、装置に頼らずにボディータイツを着用した男女6人ずつのダンサーの組み合わさりによって館の門を造形したり寝台を作ったり、
肉体美を生かした舞台セットであったそうです。一昨年来日上演され、生身のダンサー達が彫刻と化して地獄門を作り上げていた
ボリス・エイフマン振付『ロダン』初演(2011年)の半世紀も前の日本で似た手法を用いた長編バレエ作品の創作上演にただただ驚くばかりでした。
映像は残ってはいないと思いますが、写真だけでも目にしてみたい作品です。
※20年ほど前、音楽之友社発行雑誌Balletにて島田廣さんや谷桃子さん、牧阿佐美さん、関直人さん、石井清子さんや大滝愛子さん、
天野陽子さん(鈴木稔さんのお母様)を始め日本のバレエ黎明期を支えた方々の連載シリーズがあり、また偶然なのか管理人在住地域の図書館にも
似た傾向の書籍が次々と入荷され、読み耽けておりましたが当時は現在のようにバレエについてあれこれ語り合える交友関係が全く出来ておらず
1人心の中にしまってお終いでございました。会場が停電したため蝋燭を灯して『レ・シルフィード』上演を敢行したら
幻想的でむしろ大評判であったなど(天野さんの記事より)
今では考えられぬぶっ飛び逸話がてんこ盛りです。もし書籍を手に取る機会があれば、是非お読みください。
少しあとの世代では、私の中でバレエ『赤い靴』と言えば話題沸騰真っ盛りなマシュー・ボーンではなく
今でも思い起こす1971年放送の同名のテレビドラマ主演ゆうきみほさんも登場なさっていました。
話は戻りますが、山野さんは日本のバレエ、日本で生まれたバレエ作品をもっと多くの方に観て欲しいと長年願ってこられ、
特にバレエ協会のプログラムはほぼ毎回執筆なさっていたかと思います。
クラシックの大作や海外からの来日公演でなければ客が集まりづらい状況をどうにか打破したいとお考えであったに違いありません。
我が身を振り返ると、日本のバレエ団の鑑賞が好きであると口走っている割には、
今回上映会で取り上げた25本の作品で上演当時実際に足を運んで鑑賞したのは7本のみ。
そもそも15年ほど前まではバレエ協会の公演会場の雰囲気が苦手とまで口にして敬遠しがちであった自身が恥ずかしいばかりです。
(観客も出演者の関係者が多くを占め、夜公演にも拘らず四方八方から聞こえる◯◯先生おはようございますとの挨拶に
芸能界でも稽古場でもないのだから夜ぐらいこんばんはでええやんと毎度思う捻くれた部外者であった点、お許しください)
またコロナ渦で暫くは来日公演実現も困難であろう今、日本で作られたオリジナル作品の掘り起こしも重要となってくると思っており、
制作の時期によっては改訂も必要になってくるかもしれませんが 新潟シティバレエでは近年も上演されていながら本家の牧阿佐美バレヱ団で
昨年42年ぶりに上演された『角兵衛獅子』はいくらか改訂もされたかもしれないもののテクニックの見せ場や群舞の入れ方と言い
今観ても決して古色蒼然な印象はなく、見応えがあったのは記憶に新しいところ。
他の団体においても過去に上演しながら眠ったままになっている日本生まれの作品の掘り起こし、
そして国内の振付家作品の初演が相次ぐ上演機会となればと願っており、私も一層学びたいと思っております。
上映会チラシの裏、上映作品の振付家の一覧にて錚々たる方々が勢揃い。範囲を広げ、時期や場所を問わず鑑賞したことのある振付家となれば17名。
以下長い且つ大雑把な感想で失礼、鑑賞時の印象など作品によっては10年以上遡っての備忘録。
青木尚哉さん作品は10年前に高知の発表会で観たか、伊藤範子さんは2019年1月藤原歌劇団『椿姫』における
バレエ場面がたった10分程度であっても抑揚に富んだステップやドラマも盛り込まれていて秀逸でした。
遠藤康行さんが2018年にジャポンダンスプロジェクトでの夏の夜の夢は随分風変わりなテイストであったが、
来月の協会公演コンテンポラリーいばら姫は心より楽しみにしている次第。
ハルバートさんの真夏…の愛おしさは前半の記述の通り。彩の国さいたま芸術劇場の次期芸術監督就任の近藤良平さんによる
『ねこ背』はバレエの規格から外へ出つつ声出しもユニークでした。 篠原聖一さんのオリジナル大作、古典の改訂もあちこちで拝見(北は北海道南は愛媛まで!)
下村由理恵さんによる青山円形劇場での『水の精霊』、篠原さんによる『アダージェット』を上演したリサイタルは
鑑賞人生において2番目の至近距離で観た舞台として記憶、記録。
https://www.dance-square.jp/syas1.html
https://www.dance-square.jp/syas2.html
田中祐子さんの沖縄の要素が盛り込まれた作品も不思議な魅力があり、 中原麻里さんは昨年夏の大和シティーバレエで
新国立から珍しいペア誕生させた、ショパンのノクターンにのせたルナティックがいたく神秘的でございました。
中村さんは前の記述の通り、好みな作品が私の中でもぱっくり分かれ、我が感性に問題ありかもしれません。
日原永美子さんがNHKバレエの饗宴で発表されたオセローがシュトニケの重苦しい音楽とよく合い、
平山素子さんは新国立で上演された兵士の物語、ザハロワや小野さん、本島さんも挑戦されたRevelationそしてバタフライ(3月楽しみです)も印象深い。
深川秀夫さんのお洒落で麗しい作品は関西でしばしば鑑賞、中でもソワレ・ド・バレエを全編鑑賞した体験は
新国立で抜粋のパドドゥを観て感激された方にも度々自慢しているほど笑、宝物です。
松崎すみ子さんの『マッチ売りの少女』はほぼ全曲邦楽で構成され、少女の悲しみを尺八、街の賑わいを琴や三味線で表現する手法に舌を巻き
前田さんのいのちでんでんこ、当初はバレエ公演での上演にはびっくりな舞台でしたが独特の世界観に引き摺られて行くような力もあり。
矢上恵子さん作品は大阪で、愛媛で、徳島でも多く拝見、その度にパワーと浄化が同時に迫る感覚に。
山本康介さん版くるみ割り人形を3年前に江戸川にて鑑賞、ドロッセルマイヤーを若くたっぷり踊れる役として描き、
女の子が男の子を踊るときに変な違和感がないよう配慮された髪型、衣装も好印象でした。
2021年2月17日水曜日
創造されたバレエの夢 Ballet Creation 2020 Special 日本バレエ協会 Ballet クレアシオン公演 記録映像上映 『真夏の夜の夢』『七つの短編 』 2月8日(月)
2月8日(月)、渋谷のユーロライブにて日本バレエ協会主催創造されたバレエの夢 Ballet Creation 2020 Special 記録映像上映
『真夏の夜の夢』『七つの短編』2作品を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/ballet-creation-2020-special/
キミホ・ハルバート振付作品『真夏の夜の夢』
タイターニア:本島美和
ヘレナ:森田真希
ハーミア:清水あゆみ
オーベロン:山本隆之
ライサンダー:池田武志
デミトリウス:福田圭吾
パック:菊池いつか
ボトム&妖精:横山翼
ほか
上演当時の本島さんのブログに、ハルバートさんや出演者との写真が掲載されています。色気を放つ美男美女な妖精夫婦です。
https://gamp.ameblo.jp/motojima-miwa/entry-11807363199.html
新国立劇場の研修所やハルバートさんが育った岸辺バレエスタジオ発表会などで形を変えながら上演を重ねている作品で、今回は2014年ゆうぽうとでの上演版。
出演者のお名前からして当時私が足を運んだのは言うまでもありませんが、2014年3月ですからソチ五輪すぐあとの頃の時期。
つい最近の出来事のように思い返しながら映像を鑑賞いたしました。
まず、本島さんタイターニアと山本さんオーベロンの並びが実に耽美でこれ以上にない美男美女な妖精夫婦。
タイターニアは膝丈のウェディングドレスのような衣装でオーベロンはシンプルな白い衣装、お2人の生来の美しさがそのまま活かされた印象です。
チャーミングな面もたっぷり描かれ、オーベロンはタイターニアの尻に敷かれてお小姓を取られては悔しがったりすっとぼけた表情を浮かべたり、
相棒のパックと舞台後方の坂道に腰掛けて一生懸命考え事をする様子は可愛らしくもあり。(ドラえもんとのび太が公園の土管に座っている光景が重なります笑)
随所に入るパ・ド・ドゥは互いを慈しむように伸びやかで柔らかく、すっと解放されるかの如く気持ち良い振付。
オーベロンの包容力、勝気なはずのタイターニアがふと見せる甘えるような愛らしさには蕩けるしかありません。
妖精達の平均年齢が非常に若く、瑞々しくユーモアを含む踊りが次々と繰り出されて紡いでいく流れで飽きさせず。
録音音源しかも今回はカメラワークほぼ定位置の記録映像にも拘らずメンデルスゾーンの音楽が更にきらっと輝くように耳に響いてきたほどです。
衣装は白を基調に可愛らしさと爽やかさを薫らせ、タイターニアがお昼寝をする場所は木の根元の穴ではなく、
天蓋白いカーテン付きのスペース配置。(本島さんタイターニアですから素材はシルクを彷彿)
パックの悪戯に翻弄されたライサンダーとデミトリウスの争いも笑いを起こし、テクニック盤石な池田さん福田さんの
表情と身体を張って踊りながらの主張の食い違いには、当時近くの客席にいた小学校低学年であろう女の子も大笑い。
終演後もしきりに楽しかったと親御さんに言葉を発していて、上質な作品は子供心にもきちんと届くことを証明していたのでした。
約30分の作品でありながら楽しさと美しさが凝縮し、実質15分もない印象。それだけダンサーの魅力を引き出す振付、配役、衣装、音楽全ての要素が
見事なまでにぴたりと嵌っていた作品です。再演お待ちしております。
中村恩恵振付作品『七つの短編』
出演:中村恩恵 首藤康之 山本隆之 ほか
2017年メルパルクホールにて上演された、曜日ごとに場面展開していく作品。中村さんお得意の暗闇に黒系衣装のダンサーを配して光を当てる演出が多く、
管理人の脳内構造に問題大いにありなのだが内容が難解でいかにして鑑賞に臨めば良いか分からぬまま終演。
今回の映像鑑賞でも同様で精神性の恐ろしく高い、哲学的な世界観は苦手なのかもしれません。
(中村さん作品の中ではシェイクスピア・ソネットや火の鳥、ベートーヴェン・ソナタは好きなのだが)
小さめの劇場にて、舞台に近い席から鑑賞すれば印象も変わる気がしております。
そうは言っても山本さんの近寄り難いほどの存在感には管理人の目も冴え渡り、支配力に感嘆。至近距離で観てみたい作品と再確認です。
当時のプログラム持参で映画館1階のカフェにて開映前にハーフアンドハーフビールで乾杯。『真夏の夜の夢』『七つの短編』2作品を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/ballet-creation-2020-special/
キミホ・ハルバート振付作品『真夏の夜の夢』
タイターニア:本島美和
ヘレナ:森田真希
ハーミア:清水あゆみ
オーベロン:山本隆之
ライサンダー:池田武志
デミトリウス:福田圭吾
パック:菊池いつか
ボトム&妖精:横山翼
ほか
上演当時の本島さんのブログに、ハルバートさんや出演者との写真が掲載されています。色気を放つ美男美女な妖精夫婦です。
https://gamp.ameblo.jp/motojima-miwa/entry-11807363199.html
新国立劇場の研修所やハルバートさんが育った岸辺バレエスタジオ発表会などで形を変えながら上演を重ねている作品で、今回は2014年ゆうぽうとでの上演版。
出演者のお名前からして当時私が足を運んだのは言うまでもありませんが、2014年3月ですからソチ五輪すぐあとの頃の時期。
つい最近の出来事のように思い返しながら映像を鑑賞いたしました。
まず、本島さんタイターニアと山本さんオーベロンの並びが実に耽美でこれ以上にない美男美女な妖精夫婦。
タイターニアは膝丈のウェディングドレスのような衣装でオーベロンはシンプルな白い衣装、お2人の生来の美しさがそのまま活かされた印象です。
チャーミングな面もたっぷり描かれ、オーベロンはタイターニアの尻に敷かれてお小姓を取られては悔しがったりすっとぼけた表情を浮かべたり、
相棒のパックと舞台後方の坂道に腰掛けて一生懸命考え事をする様子は可愛らしくもあり。(ドラえもんとのび太が公園の土管に座っている光景が重なります笑)
随所に入るパ・ド・ドゥは互いを慈しむように伸びやかで柔らかく、すっと解放されるかの如く気持ち良い振付。
オーベロンの包容力、勝気なはずのタイターニアがふと見せる甘えるような愛らしさには蕩けるしかありません。
妖精達の平均年齢が非常に若く、瑞々しくユーモアを含む踊りが次々と繰り出されて紡いでいく流れで飽きさせず。
録音音源しかも今回はカメラワークほぼ定位置の記録映像にも拘らずメンデルスゾーンの音楽が更にきらっと輝くように耳に響いてきたほどです。
衣装は白を基調に可愛らしさと爽やかさを薫らせ、タイターニアがお昼寝をする場所は木の根元の穴ではなく、
天蓋白いカーテン付きのスペース配置。(本島さんタイターニアですから素材はシルクを彷彿)
パックの悪戯に翻弄されたライサンダーとデミトリウスの争いも笑いを起こし、テクニック盤石な池田さん福田さんの
表情と身体を張って踊りながらの主張の食い違いには、当時近くの客席にいた小学校低学年であろう女の子も大笑い。
終演後もしきりに楽しかったと親御さんに言葉を発していて、上質な作品は子供心にもきちんと届くことを証明していたのでした。
約30分の作品でありながら楽しさと美しさが凝縮し、実質15分もない印象。それだけダンサーの魅力を引き出す振付、配役、衣装、音楽全ての要素が
見事なまでにぴたりと嵌っていた作品です。再演お待ちしております。
中村恩恵振付作品『七つの短編』
出演:中村恩恵 首藤康之 山本隆之 ほか
2017年メルパルクホールにて上演された、曜日ごとに場面展開していく作品。中村さんお得意の暗闇に黒系衣装のダンサーを配して光を当てる演出が多く、
管理人の脳内構造に問題大いにありなのだが内容が難解でいかにして鑑賞に臨めば良いか分からぬまま終演。
今回の映像鑑賞でも同様で精神性の恐ろしく高い、哲学的な世界観は苦手なのかもしれません。
(中村さん作品の中ではシェイクスピア・ソネットや火の鳥、ベートーヴェン・ソナタは好きなのだが)
小さめの劇場にて、舞台に近い席から鑑賞すれば印象も変わる気がしております。
そうは言っても山本さんの近寄り難いほどの存在感には管理人の目も冴え渡り、支配力に感嘆。至近距離で観てみたい作品と再確認です。
燻製おつまみが嬉しい。ハッピーアワーのためコーヒーよりもビールがお手頃。
2021年2月14日日曜日
バレリーナを夢見る新解釈 NBAバレエ団 ヨハン・コボー版『シンデレラ』 2月6日(土)
2月6日(土)、NBAバレエ団 ヨハン・コボー版『シンデレラ』を観て参りました。世界初演の初日です。
https://www.nbaballet.org/performance/2020/cinderella/
スパイスイープラスにコボーさんへのインタビューが掲載されています。
https://spice.eplus.jp/articles/281838
シンデレラ:高田茜
ピアニスト(シンデレラの継母):関口祐美
2人の姉(シンデレラの義理の姉):
ホワイト 岩田雅女
ブラック:浅井杏里
教師:峰岸千晶
王子:宮内浩之
ヴァイオリニスト:大森康正
男子生徒:刑部星矢
3人の女子生徒:井上優紀/白井希和子/向山未悠
ドリームポスター:竹田仁美
スワンポスター:佐藤圭
レッドポスター:鈴木恵里奈
高田さんの舞台は2018年のバレエ・アステラスにおける大トリ『ジュビリー』パ・ド・ドゥ以来の鑑賞で、
友人に代わって足を運んだ一昨年の来日公演『ドン・キホーテ』に主演予定でしたが怪我で降板され、待望の国内公演全幕初主演です。
空間を大きく使い芯ある柔らかな踊りを繰り出し、バレリーナ志望の少女の物語設定においてヒロインの変貌をいじらしく華々しく表現。
ピンク色の古めかしいワンピース姿は純朴で愛らしく、しかし隠しきれない華は内側から表れ、隅っこにいても、水撒きしたり
譜めくり係を担当していても目を惹くオーラが眩いこと。
岩田さんと浅井さんによるシスターズが大胆な笑いを与え、時には身体を思い切り張っての王子への言い寄りも濃厚。
シンデレラに対しては意地悪ではあっても陰湿にはならず、目立ちたい願望を募らせて前へ出しゃばったりとシンデレラへのいじめはさほど多くなく
その分絡むときは遠慮なしに絡んで関係性をはっきりとさせ、 またいじめる場面よりもお姉さん同士のバトルに焦点を当てたスカッとする演出も好印象。
バーレッスンでの悪戯し合う様子もやり過ぎず、されどここぞのときには足を技と激突させて思い切りずっこける鉄板なコンビぶりも
作品をより楽しいものへと引き上げてくださいました。レッスンでのお団子2つの髪型も憎めぬ可愛らしさで、岩田さんがホワイト、浅井さんがブラックと名付けられ
各々白鳥と黒鳥の衣装を纏っても登場。早替えが抜群に早く、チームの結束力を思わせるひと幕です。
じわりと毒々しさを放っていたのは関口さん。シンデレラを譜めくり係として座らせるときも冷たい表情で接し、胃が縮み上がりそうでございます。
しかし黒く長めの丈の衣装がきりっと決まっていて、同時に惚れ惚れいせずにいられず。
シンデレラに、舞台全体に安心感をもたらしていたのは峰岸さんの教師。(仙女な役割)
踊りはダイナミックで優雅ながら毅然とした立ち振る舞いでシンデレラを見守って導き、初日でまだ全体がやや硬めであった舞台の序盤を
ビシッと纏め上げる頼もしさに、ベテランの誇りを見せていただいた思いがいたします。
役柄の設定の捉え方が難しいと感じたのは王子で、王族の生まれではない設定(恐らく)で、しかしレッスン場での皆の憧れのスターであり
2幕では宮殿な雰囲気の中でシンデレラをパートナーとして踊るため、立ち位置が掴みづらいと思えたところ。
宮内さんのパートナーリング、ソロ共に安定しただけに「女性の理想を結晶化した究極の王子」として刷り込まれている役柄の新解釈の難しさとして捉えております。
仕掛けで面白かったのはポスターで、レッスン場に3枚掲示。それぞれに白鳥、ドリーム(恐らくタイターニア)、レッド(火の鳥らしい絵)が描かれ
シンデレラがひとりぼっちになったふとした瞬間にビリビリと音を立ててまずはドリームポスターから絵そのままの衣装でタイターニアなキャラクターが登場。
ドリフの障子破りコントと同級の音量で(生での鑑賞経験はございませんが)、一瞬何事かと落ち着かなかったほどです。
四季の精として描かれる演出が多い場面に3人を当てはめてドリームにはバッタとトンボの曲で軽快に跳ねるテクニックが竹田さんの持ち味によく合い、
秋がレッドで吹き荒ぶ曲調と鈴木さんの豪快な踊りの噛み合いも宜しく、冬がスワンで白がそのまま従来のイメージを引き継いで
優美な羽ばたきがしんしんと降る雪の旋律に溶け合い、3役それぞれ曲との調和が取れていた印象です。
1幕前半は踊りの箇所が少なくやや話の進展がゆっくりと感じられてしまい、これまで『ブルッフ ヴァイオリン協奏曲』『ケルツ』『海賊』『11匹わんちゃん』など
身体能力が高いNBAダンサーの魅力を十二分に引き出すテクニック満載な、踊りでぐいぐいと進展させていく作品を鑑賞してきたため
尚更思えてしまったのかもしれません。ただ後半は色とりどりの衣装姿をした舞踏会のカップル達や
流星群を散りばめたような背景と似た模様で彩られた星々達のコール・ドの大掛かりな見せ場がふんだんにあり満足度の高い振付でした。
高田さんのソロも豊富で、途中からは金に近い黄色いチュチュに着替えて夜空を背景に軽々と舞い、弧を描く長い手脚も美しく魅せていました。
最後はしんみりと、しかし寂しさは無くかねてからシンデレラに思いを寄せていたヴァイオリニスト(舞踏会では道化であった!?)と
手を取り合いレッスン場をあとにして幕。静かで堅実さのある幸福な結末でした。
新規入国制限により当初シンデレラ役に予定されていたフランチェスカ・ヘイワードの招聘が不可能になってから高田さんの出演決定発表まで非常に早く
何よりこの状況下にコボーさんが来日され隔離期間を経て指導を続け、 全幕世界初演の実現に心より拍手を送りたいと思います。
上演前にはコボーさんのプレトークあり。喋り過ぎないよう気を配りながら一生懸命語るお姿から、NBAとの初仕事が幸せな時間であったのであろうと想像。
コボーさんとシンデレラで思い出すのは。13年前の新国立劇場『シンデレラ』客演。パートナーが怪我で途中降板してしまい
舞台監督が指揮者に事情を伝える時間もなかったのでしょう。順番からして先に披露するはずのシンデレラヴァリエーションのときに突如登場して
舞台の上から自ら指揮者に穏やかに語り掛けて王子の曲の演奏を促して2人でオレンジ持つお小姓と並び歩く場面はお1人でこなし
2幕中盤以降当日はアンダーのペアが続投した初日。カーテンコールでは私服姿で控えめに登場して深々と一礼し、
てんてこ舞いな出来事があったとは思えぬほど落ち着いたお姿であったのは今も忘れられません。
他日代役を務めたさいとう美帆さんとの共演もぎこちなさが無く、当時の光景を思い出しつつ困難を乗り越えて実現したNBAシンデレラ全幕世界初演を讃えた初日夜でした。
上野も飲食店は20時終わりのため真っ直ぐ帰宅後、レシピを参考に
シンデレラカクテルを作りホワイトベルグビールを入れてアルコール増しにしてみた。1秒で完飲。
2021年2月12日金曜日
創造されたバレエの夢 Ballet Creation 2020 Special 日本バレエ協会 Ballet クレアシオン公演 記録映像上映 『真紅の風流るる地にありて踏みしむ土の薫黒き』『Bourbier 』 2月6日(土)
2月6日(土)、渋谷のユーロライブにて、日本バレエ協会主催創造されたバレエの夢 Ballet Creation 2020 Special 記録映像上映
『真紅の風流るる地にありて踏みしむ土の薫黒き』『Bourbier 』2作品を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/ballet-creation-2020-special/
大岩ピレス淑子振付 『真紅の風流るる地にありて踏みしむ土の薫黒き』
初見作品。失礼ながら振付者の大岩さんについても存じ上げず鑑賞に臨みましたが
トワイラ・サープのカンパニーやフランスのプレルジョカージュでも活躍されたダンサー、振付家とのこと。
ブラジルのパーカッションを盛り込み、演奏者も舞台に上げての晴れやかな躍動感のある舞台でした。
世田谷区を拠点に活動するバッキバとの共演により、とどまることなく続く曲調に聴き入りつつダンスを眺めているうち瞬く間に終演。
時間の経過がいたく早く感じ、終演後は客席に下りて通路を踊りながらの幕切れもその場に居合わせあたらさぞ楽しい気分に浸れたであろうと想像いたします。
出演者の1人、振付家としても活躍中の日原永美子さんはダンサーとしては谷桃子バレエ団『ドン・キホーテ』ジプシーなど何度か鑑賞しておりますが
今も記憶に強く残っているのは薄井憲二さん開設のロシア(開設時は昭和末期であったため名称はソビエト)・バレエ・インスティテュートとして
ソ連崩壊後間もないボリショイバレエ学校への留学についての見開きの大きな記事。
レッスン以前に国が大混迷な最中で食糧難に見舞われながらも懸命にバレエに打ち込む様子が写真でも紹介され、
映像であってもお姿を目にするとその記事が脳裏を過ぎります。
※舞台写真
http://www.j-b-a.or.jp/stages/平成24年度バレエクレアシオン/
※バッキバの方々による当時のブログ
http://baqueba.blogspot.com/2012/12/1110.html
矢上恵子振付作品 『Bourbier』
上演直後ダンススクエアに舞台写真が多数掲載されました。作品の迫力をどうぞご覧ください。そして干支一回り前、福岡雄大さんがあどけない!
https://www.dance-square.jp/bsym2.html
初演は2007年大阪、東京では2009年が初披露。山本隆之さん、福岡雄大さん、福田圭吾さん、紘也さん始め、多数のプロダンサーを輩出している
大阪の名門Kバレエスタジオ主宰三姉妹の三女で、先駆者として昭和の時代からコンテンポラリーの作品発表、指導に
力を注いでこられた矢上恵子さん(2019年逝去)振付です。
Kスタ出身、所属ダンサー中心に出演者は28人で大人数で一斉にハイスピードで駆け、
右から左から中央奥から変則的なフォーメーションを組みつつ集団で斬り込み迫る振付と言い寸分の隙もなく展開。
ただ単に機械のような構成ではなく随所に柔らかな部分も含ませ、マスカーニ作曲のカヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲を用いて
安らぎをも与える、実に緩急に富んだ点も特徴で飽きさせません。
主軸は若き福岡雄大さんで、2009年11月当時は新国立劇場入団間もない頃。葛藤を吐き出す感性は鋭く、はち切れんばかりの身体能力で
只者ではならぬ存在感を示していたのはアップのカメラワークが殆どない記録映像であっても明らかです。
間奏曲に乗せた終盤のソロ部分を抜粋して踊った2008年のヴァルナ国際バレエコンクールにて3位入賞を果たし恵子先生は振付賞を受賞され
師弟にとって、特別な思い入れのある作品であるのは想像に難くありません。
尚、出演者の中には新国立入団4年目であったKスタ出身の福田圭吾さんやのちにNBAに入団し、この上映直後に初日を迎えたコボー版シンデレラにて義理の姉を踊られた岩田さん、
スターダンサーズ入団の井後さん、ノイズム入団の井本さんも名を連ね、懐かしさと喜びがひとしおでした。
思えば私が初めてKバレエスタジオの舞台に足を運び恵子先生の振付を初鑑賞した作品でもあるためか、干支一回り前の出来事であっても
大阪初演においては14年前の舞台であっても昨日のことのように思い出すのですから不思議なものです。
ちなみに大阪での初演は恵子先生そして山本さんも出演され、プログラムを読み返したところ51人構成。
Jr2、Jr3と小中学生までもが入ったチームも出演し、子供の生徒さんまでもが相当な訓練で鍛えられている様子が初見でも窺えた大衝撃は今も忘れられません。
恵子先生の作品は関西圏では上演機会が今も頻繁にありますが関東では少なく、2010年の日本舞踊との融合作品や
2014年のPDA(関西中心とした男性ダンサー集団)東京公演、最後の青山バレエフェスティバル、佐藤勇次さんスタジオやDAIFUKUでのソロ作品披露など
私が東京で鑑賞した恵子先生作品上演舞台は両手指にも至らぬ回数です。
(遡れば2000年代前半のダンスアクト舞台スターダストin上海もあり、観たかったが。後年にプログラムは購入)
今回記録映像上映会が開催され、恵子先生作品を初めてご覧になった方も感激のお声が聞こえて誠に喜ばしい機会となりました。
韓国国立バレエにも招聘された恵子先生を讃えて、会場近くで韓国焼酎チャミスルをちょこっと1杯。 薩摩で口にした焼酎より爽やかで飲みやすい。
2009年の東京上演前に宣伝宜しくといただいた香織先生からのお手紙とチラシも手に参りました。
当時はまだまだバレエを通した交友関係が今ほど築けておらず 先生、12年ぶりにチラシ新たに2枚捌けました。遅過ぎてすみません!
上映鑑賞前にカンジャンセウ丼、大きな海老が3本入っています。前のブログと合わせても韓国料理は初登場です。
2021年2月9日火曜日
【今夏の注目】福田圭吾さん演出・振付の『Rock Ballet with QUEEN』
7月8日(木)、新宿文化センター大ホールにて新国立劇場バレエ団の福田圭吾さん演出・振付の『Rock Ballet with QUEEN』が上演されます。
ギターと同化した米沢さんのポーズもインパクト大です。
https://www.dancersweb.net
※ダンサーズサポートさんのサイトより抜粋
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●演出・振付:福田圭吾
(新国立劇場バレエ団ファースト・ソリスト)
●キャスト ※五十音順
秋元康臣 (東京バレエ団プリンシパル)
池本祥真 (東京バレエ団ファースト・ソリスト)
井澤駿 (新国立劇場バレエ団プリンシパル)
菊地研 (牧阿佐美バレヱ団プリンシパル)
長瀬直義 (元東京バレエ団ソリスト)
米沢唯 (新国立劇場バレエ団プリンシパル)
【公演概要】日本のトップバレエダンサー × QUEEN の競演!
演出・振付の福田圭吾は、ダンサーとしてだけでなく、所属バレエ団以外にも多くの新作を発表している次世代を牽引する期待のアーティストです。
本公演は、世界的なロック音楽とクラシックバレエを掛け合わせることによって、これまで「クラシックバレエは居が高い」と思われている方達にも
楽しんでいただけるスタージにしたく、コアファンの方にも日本を代表するダンサーたちの
卓越したテクニックや高い表現力を思う存分お楽しみいただける舞台をお届けいたします。
バレエテクニックをベースに、グルーブ感などを随所に織り交ぜた新たなエンターテイメント、 「ROCK BALLET with QUEEN」が誕生します。
新作ロックバレエ『Rock Ballet with QUEEN』
2021年7月8日(木)新宿文化センター大ホール
【チケット情報】
1F席 6,500円 2F席 5,500円
・発売はイープラスより、ネット販売のみになります。
・イープラスの掲載:2月11日(木・祝)~
・一般発売予定:2月14日(日)10時~
・検索ワードは「新作ロックバレエ」でお願い致します。
※ロックとバレエの間に「・」は入りません
【公式URL】https://www.dancersweb.net
【お問い合わせ】
rockballet2021@gmail.com
主催:ダンサーズサポート/DancersWeb
制作:ロックバレエ制作委員会
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まず演出と振付を福田圭吾さんが手掛けることに期待が膨らみます。毎回好評でシリーズ化している大和雅美さんと組んで監修にあたるDAIFUKUや
新国立劇場でのDance to the Futureにとどまらず近年では発表会用の作品も創作され、
昨秋愛媛で鑑賞したKazeは生徒さん達の伸び伸びとした魅力を引き出し、そして主軸として迎えた大先輩の山本さんをひたすら崇高に見せて敬意が込めれた
爽やかさが舞う大人数作品であったのは記憶に新しいところです。小宇宙を思わせるシャープでシリアスな作品から
日本のお茶の間風景の舞踊化まで創作アイディアの幅が実に広く、福田さん含め全員世代ではないはずのクイーンの楽曲を
バレエとどう融合させ所属団体の垣根を越えて集結したダンサー達が光るのか、大変待ち遠しい公演です。
クイーンとバレエと言えばモーリス・ベジャール振付の『バレエ・フォーライフ』は観ておりますが、福田さんによる演出振付も今から楽しみでなりません。
バレエ愛好家でロイヤル・バレエと共演し、レッスン場でダンサーと汗を流して練習に励んでいたフレディ・マーキュリーも微笑みながら鑑賞してくれそうな気がいたします。
2021年2月4日木曜日
20世期の日中バレエ芸術交流創成期に大貢献しかし行く末が気がかり 松山バレエ団2021新春公演 新『白鳥の湖』1月30日(土)
1月30日(土)、松山バレエ団2021新春公演 新『白鳥の湖』を観て参りました。松山バレエの鑑賞は15年ぶりです。
http://www.matsuyama-ballet.com/newprogram/new_swanlake.html
新『白鳥の湖』紹介動画
オデット/オディール:森下洋子
ジークフリート王子:堀内充
実を申しますと森下さんのオデット/オディールは初鑑賞。脚を上げるのは約30度まで、引き上げも危うく、ポワントで立ち切れていない箇所も多々あり
30年、40年前に観てみたかったとの思いは残りますが、それでもポスターやチラシで目にする写真のようなはっとさせる瞬間も。
白鳥の湖を観に来たのか、森下さん個人を観に来たのか終盤はよく分からぬ状態と化し、周囲からひたすら崇拝されるかの如き別格の存在感は健在でございました。
舞台上では一番シンプルに見えるオディールの黒い衣装姿でありながら、松山バレエ特有の
ボリューム感のある豪奢な衣装の数々に囲まれても埋もれぬオーラには今更ながら驚かされます。
15年前の春に観た『シンデレラ』『ジゼル』では軽やかに踊っていらした印象があり、また昨年春放送の阿川佐和子さん司会の番組『サワコの朝』や
一昨年の中国国立バレエ団来日公演『紅いランタン』(当時の記事はこちら)のロビーにて見かけたパンツスーツをお召しになってのピンと背筋を伸ばした立ち姿、
颯爽と歩く姿も脳裏に残っていただけに、古典全幕での主役を長年しかもオデット/オディール役に関してはアベベが青梅街道を走り、
大松監督率いる東洋の魔女が席巻した1964年の東京五輪がデビューとのことですから
他のダンサーと比較すれば桁が違い過ぎる年月をかけて体力技術を維持し踊り続ける難しさを示されてしまった感は否めません。
ただ、私がバレエ鑑賞を始めた32年前に入手した、『白鳥の湖』に焦点を当てた雑誌のカラーインタビュー記事は今も大事にしており
祈りを捧げるポーズのオデットに、清水哲太郎さんとのパ・ド・ドゥで魅せる蠱惑的なオディールの舞台写真や
稽古場での飾り気のないショットも美しく何度も読み返し見返した記事。念願叶っての鑑賞と言えば聞こえは良いでしょう。
英国の劇場の楽屋の古さや小ささに触れ、まもなくサドラーズウェルズがバーミンガムに移る話題を語っていらして時代の経過を思わずにいられません。
ところで今年舞踊生活70周年を迎えられた森下さんは生涯現役を貫かれるご予定なのか。32年前の記事ではもっと深めたい役であり
オデットは50歳、60歳になっても踊りたいと語っていらっしゃいましたが、70歳を過ぎても踊ることになろうとは当時は想像もできなかったことでしょう。
管理人が決して遠くはない年金受給者(今の財政からすると貰えそうにないが)となっても現役続行をなさっている気すらいたします。
堀内さんは1983年のローザンヌ入賞者で、同年の入賞者で現在新国立劇場舞踊部門の芸術監督を務める吉田都さんと同世代。
正直全盛期をだいぶ経過しているのは認めざるを得ませんが全幕古典にゲスト主演しかも森下さんの相手役を引き受けた寛大さを思えば不満は申せません。
一応湖畔のアダージオや黒鳥グラン・パ・ド・ドゥも披露され、とにもかくにも献身的な王子でした。
音楽はスタンダードな版に比較するとだいぶ異なり、プロローグは白鳥の湖ではないチャイコフスキーの曲が使用されていたり(悲愴かもしれぬ)
舞踏会は民族舞踊無しで、近年は殆ど披露されない花嫁候補達のソロ曲や聴き間違いでなければ女性ヴァリエーションの1本にグラズノフの曲も使用と記憶。
冒頭は黒がかった世界にロットバルトと手下達が毒々しく蠢き、暫くすると明るい庭園へと場面が移行する展開は目を覚ませる効果もあった印象で
分野は異なりますが、ワーグナーのオペラを彷彿とさせる過度に壮大な幕開けでした。
想像はしておりましたが衣装はボリュームがたいそうなもので、模様も色とりどり。団全体の一斉にニカッとする独特の表情作りや
ブルーのアイシャドウ祭りも目にし、ある意味どっぷり堪能できました。
一部辛辣な表現も並べてしまい、松山バレエ団のファンの皆様、関係者の皆様、気を悪くされましたら申し訳ございません。
東京バレエ団も1960年代の設立早々からソビエトを始め海外公演を実現させてはいますが
日中国交正常化以前の1950年代から文化大革命の時期も変わらず中国との交流を続ける松山バレエ団の姿勢と言い、
政情不安に屈さぬ一貫した芸術精神には天晴れです。決して設備の整った劇場のみならず、岩盤をくりぬいて
オーケストラピットを急遽の大工事で設計した延安大礼堂や重慶の農業生産合作社や武漢の工場公演、と
オペラや洋舞の劇場ではない場所でも公演を実現させて賞賛を浴びた功績、行動力には今読み返しても仰け反るばかりです。
話はだいぶ逸れますが、訪中公演での仰天話は昭和の時代に限ったものではなく、のちにハンブルグ・バレエ団や東京バレエ団も経験済みで
現在新国立劇場バレエ団にてプリンシパルを務める米沢唯さんが子供の頃に所属していた塚本洋子バレエスタジオも
中国公演(米沢さんも出演、当時の写真がのちの雑誌クララに掲載。雑誌バレリーナへの道に掲載の集合写真にもご本人らしきお姿あり)を行った際、
床のあちこちに点在する穴に新聞紙を詰めてリノリウムを敷いたり 本番中はこうもりが飛び交っていたりと、
出演者もスタッフもてんてこ舞いな公演であったと記されていました。
※但し、中国で全時代全土でおっかなびっくりな公演であったのでは全く無く、時代の流れと共に変化を見せ、観客のマナーや態度も宜しく、情熱に乗せられて大盛況だった
舞台の記録(Kバレエの上海公演やフランスのキャピトル・バレエの上海や天津公演も会場が大いに沸いたようです)も残っていますので誤解無きように。
話がみるみると明後日の方向へ行きがちですのでこの辺りに。松山バレエ団の中国との交流史にご興味のある方は、
1983年発行の松山バレエ団創設者清水正夫さん著 講談社バレエ『白毛女』はるかな旅をゆく、どうぞお読みください。
どこかの図書館には所蔵されているかもしれませんが、1958年の第1回中国公演から時系列に辿って綴られ、
ひょっとしたら松山バレエ団とは田中角栄さんよりも遥かに打ち解けていたかもしれない周恩来の逸話、
毛沢東による厚遇、文革でクラシック・バレエを中断していた中国の手本にもなっていた時期もあったなど各地での仰天話が事細かに記述されています。
話を戻します。バレエ団について一番の疑問が幹部クラスの多さで、次席副校長が13人、副芸術監督と副芸術総監督の両方のポスト用意とはいかに。
しかも20年30年不変ではと思う方々が勢揃い。バレエその他問わず経営経験の無い者があれやこれや申す資格も無いのは重々承知しておりますが、
昨年クラウドファンディングも行っていたバレエ団の事情を踏まえれば決して資金も潤沢には無いでしょう。独自の伝統、方針があるのかもしれません。
松山バレエ団の行く末が気になるところです。
さて、今年はこのあと春夏に3本『白鳥の湖』鑑賞予定があり、うち2本は東京都外。心待ちにしておりますが、
気になるのは昨年から延期が発表された新国立劇場の新制作ピーター・ライト版『白鳥の湖』。
しかし英国の状況は実に不安が募っており、つい先日には初夏頃に予定されていたイングリッシュ・ナショナル・バレエ団の来日中止も発表。
先にも挙げた、32年前に発売され入手した森下さんへのインタビュー記事にて、ちょうどライト版の『白鳥の湖』『眠れる森の美女』2本を持っての
サドラーズウェルズ(現バーミンガム・ロイヤル)来日中で両公演に主演する大活躍を見せ、そして森下さん清水哲太郎さん選考のグローバル賞を受賞し
松山バレエ学校時代の恩師でもあるお2人に挟まれてにこやかに微笑んで花束を手にした吉田都さんの姿に、心境を察するほかありません。
ドイツ風ジョッキでしみじみ乾杯。
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