2020年10月16日金曜日

映画『ミッドナイトスワン』



新宿TOHOシネマにて、映画『ミッドナイトスワン』を観て参りました。
https://midnightswan-movie.com/

まだ公開中ですので詳しい感想は控えますが、ショーパブに勤務するトランスジェンダーの主人公と
家庭の事情で上京してきた親族の少女が同居し当初は反発し合いながらも距離を縮め
物語の基盤としてバレエが題材となっている点も話題になっています。

展開にやや無理感はありましたが、まず一果役の新人服部樹咲さんの心閉ざした少女の演技力に感嘆。
言葉数が少ない役ながら視線や間の取り方も見事で、バレエと出会い少しずつ心を開き
性格も外向きになっていく過程もリアリティがありました。
複雑な家庭環境で育った一果に寄り添いそして草彅剛さんの凪沙を壁を作らず一果の母として受け止める
真飛聖さん演じるバレエ教師の存在が安心感を与える素敵な人物。
体験レッスンに来た一果がなかなか言葉を発せずにいたり、動きやすい服装として綺麗とは言い難い体操着を持ってきても
背景を察してか急かさず苛立ちもせずありのままの一果を受け入れ
この教師ではなかったら一果のバレエも、一果のバレエを凪沙が応援していくことも継続は困難であったかもしれません。
レッスンでは声を張り上げて厳しくも、愛情溢れる教師です。

それからバレエの描き方について。ヨーロッパでのキャリアを経て新国立劇場バレエ団にて長年活躍されていた
千歳美香子さんが監修にあたり、スタジオやレッスン場面での振付や音楽選曲も違和感の無い描写でした。
その昔1995年、TBSドラマ『未成年』で後に歌手として大成する浜崎あゆみさん演じるバレエを習う高校生の役どころを観たり
榎本加奈子さん主演のP.A.(プライベート・アクトレス)にてバレエがテーマの回も視聴いたしましたが
演出に難があったのか、記憶が曖昧で具体例が申せずであるのはお許し願いたいのだが
Kバレエカンパニー全面協力の『眠りの森』を除けば、長らくドラマや映画で描かれるバレエ場面が苦手になりかけておりました。
牧阿佐美バレエ団のゆうきみほさん主演『赤い靴』や宇津井健さんがバレエ教師役を務めた
大映テレビ制作の『赤い激突』を視聴できずであったのは悔やまれますが
話を戻しまして、『ミッドナイトスワン』においては妙な違和感は殆んど見当たらず
バレエ好きには馴染みあるCDやスタジオ名もありますのでエンドロールにも是非ご注目ください。
私個人としては、スタジオを対角線上にひたすら跳躍を繰り返すレッスンと
故郷の広島にて一果が特別個人レッスンを受けているときに流れている音楽に興奮を覚えました。

また、ややネタばれにはなりますが、ショーパブにて泥酔し暴れる男性客の視界に
私服のままでバレエを踊る一果の姿が飛び込んだ瞬間心を掴まれうっとりと見入り
更には従業員や他の客にも観るよう促す場面もあり。バレエの美しさは状況を問わず人の胸を響かせる魅力があると再確認です。
ただ一果の急激過ぎる成長、バレエ習得の異常な早さには疑問を投げかけたくなり
女子が中学生の年齢でバレエを習い始めてすぐさま規模の大きなコンクールで入賞できるものか
加えていくら思い入れはあっても習い始めて間も無い状態でオデットのヴァリエーションをコンクールで踊る点も不自然さが残りました。
オデットのヴァリエーションについては、コンクールで踊る若い人もいるが
あれほど難しいヴァリエーションはないと思う、と森下洋子さんが音楽之友社刊『バレエの本』1989年夏号での
巻頭カラーインタビューでも断言なさっています。
一方で一果に関しては他の生徒とは明らかに異なる複雑な背景があり、オデットの悲しい運命を状況に重ねることができたのかもしれません。
女性ダンサーの中では、カナダ出身で日本でも「マラーホフの贈り物」初回での『ジゼル』を始め
世界各地で活躍したイヴリン・ハートのように14歳からバレエを習い始めてスターとなった稀な例もあるものの
映画の展開はあくまで「物語」として捉え鑑賞した次第です。

時が経ったので追加、一果がコンクールで踊るもう1本のヴァリエーション『アルレキナーダ』コロンビーヌは
ただ可愛らしく踊れば良い作品ではないこと、また友人の運命も背負った背景も描かれているため、この映画を観た後には子印象が大きく変わるかと存じます。(2023.1更新)

鑑賞後は意見が様々に分かれる作品かと思いますが、息苦しい状況下にいる人々が
懸命に生きようとする姿をスクリーンで是非ご覧いただきたいと思っております。

最後になりましたが、草彅さんによる凪沙の存在は社会に強く訴えかけてくる人物。
現在多くの職場においてLGBTについて学ぶ機会は増え、知識が無いよりは良いものの
いざ本人を目の前にすると悪気は無くても接し方に戸惑ったり傷つける発言をしてしまう光景が
凪沙の転職活動の過程でも描かれ、生き辛さが浮き彫りになる場面の1つでした。

草彅さんの主演映画を観るのはテレビ放映分も含め初めてでしたが、今でこそ多数のドラマ、映画、番組にて主演を務めていらっしゃり
タモリさんが全国津々浦々を行くフィールドワーク番組NHK『ブラタモリ』では
淡々と落ち着いたナレーションが聞き取り易く私もしばしば視聴しておりますが
テレビの流行事情に疎い私が一時期SMAP(当時)の方々が出演のテレビドラマを全部網羅まではいかずとも
視聴やテレビガイドでの情報収集を行っていた四半世紀前の頃のこと。
木村さんは『人生は上々だ』『ロング・バケーション』またそれら以前以降も『あすなろ白書』『若者のすべて』『ラブジェネレーション』など
既に飛ぶ鳥を落とす勢いで主演、主要役をこなしていたり中居さんは『輝く季節の中で』『味いちもんめ』『勝利の女神』、
稲垣さんは『東京大学物語』『最高の恋人』、香取さんは先にも述べた『未成年』『透明人間』『ドク』など
主演ドラマも多くありましたが草彅さんは出番ほんの少しな役続きであったのはよく覚えております。
(1996年に離脱しオートレーサーに転身した森さんは別枠で)
『家なき子2』は現在は再放送不可能と容易に思えるほど内容が重過ぎてちらりと観た程度ですが
同年の小泉今日子さん中井貴一さん主演のほっこりコメディ『まだ恋は始まらない』花屋の青年役では
各回1時間のうち出番は3から5分のときもありとにかく短く、翌年の中山美穂さん主演『おいしい関係』も同様。
SMAPを追ったドキュメンタリー番組でも1人だけ極端に出番が短時間で
そんな最中、単発ではあっても1995年の木曜の怪談『秘密の仲間』にてようやく初主演ドラマが登場し新聞のテレビ番組表にお名前も掲載。
賭博の誘惑に陥る重たい話で、滝沢秀明さんの怪奇倶楽部シリーズの圧倒的人気に押されていた感はあったものの安堵したものです。
恐らく初主演連続ドラマは1997年『いいひと』であったと思いますが、その頃には他のグループに目移りしてしまっていた管理人。
その辺りの話は、来年1月NHKBSでの放送が発表された監修は現在8ヶ月ぶりの公演『海賊』公演真っ只中である
Kバレエカンパニー芸術監督熊川哲也さんが手掛け、ドラマ『未成年』から派生した未成年の主張が人気を呼び
マラーホフや吉田都さん、中村祥子さんも出演された番組『学校へ行こう』グループとして司会進行出演なさっていた
井ノ原快彦さんが老舗バレエ団再生に奮起するサラリーマン役で主演するドラマ『カンパニー』原作本の感想で触れるかもしれません。


※5年前に紹介いたしましたが、LGBTの苦悩とバレエ『眠れる森の美女』花のワルツの音楽を軸に展開する物語が
2011年には出版されています。外は表れぬ奥底に秘めた苦しさに花のワルツを重ね
バレエでは祝祭感溢れる音楽の響き方も変わってくるかもしれません。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/httpwwwnhkorjpo.html




バレエ監修にあたった千歳美香子さん(これまでの映画におけるバレエ監修も何本かなさっています)、
新国立劇場にてバレエピアニストを務め音楽提供もされた蛭崎あゆみさんによる
制作裏話が次々と繰り出される楽しいお話です。メガホンを取った内田監督の初バレエ鑑賞は
新国立劇場バレエ団の『ロメオとジュリエット』急遽のマキューシオ回であったことや
撮影地訪問にて蛭崎さんがピアノ伴奏を嘗て行ったスタジオであったなど意外な接点話も。
司会進行はバレエ講師にとどまらずバレエイベントでも活躍中の新居彩子(にい あやこ)さん。気になるバレエ場面についての秘話を
気持ち良いほどにキビキビと質問を投げては千歳さん、蛭崎さんから興味深い回答を引き出してくださっていました。



TOHOシネマ新宿からの帰り道、行ってみたいと思っていたカレー店FISHにて3種コンボカレーとカクテル南インドの風で乾杯。
ココナッツのまろやかさとピリ辛度の比率が絶妙であった白身魚カレーの味が特に気に入りました。



千歳さん蛭崎さんのウェブトークで司会進行をされた新居さんは小林紀子バレエアカデミー、シアターのご出身。
アカデミー時代クララに抜擢された『くるみ割り人形』を鑑賞しておりました。くるみと言えばボリショイやキエフバレエを繰り返し映像で観ていた私にとって
クララと金平糖を別のダンサーが務めたり子役が大勢登場する演出に仰天した、バレエ鑑賞入門者丸出しで鑑賞した舞台でもありました。



ダブルキャストでクララ役を務めた鹿野沙絵子さんは後に新国立劇場バレエ団に入団。
雑誌『バレリーナへの道』にて、『テーマとヴァリエーション』新国立初演か2度目の再演の頃の舞台写真で
フィナーレへと突入する寸前のパンパカパッパッパッパッパーンと(分かり辛い表現で失敬)管楽器が鳴り響く場面にての
パンシェポーズで華やかに大きく載っていらしたと記憶しております。



ダンスマガジン1993年6月号にて表紙を飾ったイヴリン・ハート。細身で物憂げ、叙情性が滲むオデットです。
そういえば1996年のマラーホフの贈り物初回では日本でまだ珍しかった『スターズアンドストライプス』を
ニューヨーク・シティ・バレエ団のマーガレット・トレイシーとダミアン・ウーツェルが披露。
と思っていたら、ほぼ同時期開催のルグリと輝ける仲間たちガラでも
座長ルグリと当時は新鋭で現在はパリ・オペラ座芸術監督オレリ・デュポンも同作品を披露。
本家本元の誇りか、洗練優雅と化したアメリカンマーチか、両方ご覧になった方が羨ましうございます。

エスメラルダのヴァリエーションを踊る写真がジャケットに載った
既に廃盤と噂のドキュメンタリービデオ『イヴリン・ハート 輝ける瞬間』は未だ観ておらず
若かりし頃のカデル・べラルビさんの色っぽい大人なロミオも登場するなど、見所満載らしい。
瀬戸秀美さんによる舞台写真やダンスマガジン表紙写真をまとめた写真集Dancersの表紙も
ハートのオデットだったはずで、図書館にて取り寄せ中でおりますため確認いたします。

2 件のコメント:

ひふみ さんのコメント...

こんにちは。
バレエ鑑賞に全国を飛び回るお忙しい管理人様ですが、
矢張りこの映画もご覧になられたのですね。
実は私も5日前に観ました。
バレエに関しては管理人様と同じ疑問を私も抱きましたが、
それ以前に、これをバレエの映画と勘違いして観た自分を、恥じると言いますか悔やみました。
以前『ブラック スワン』と言う映画を観た時は、これはホラー映画か!?と笑い飛ばせたのですが、
今度の映画はそれとはまるで違う、ある意味で衝撃的でした。
色々考えすぎて、観終わった後は吐き気を催し、食事も出来ませんでした。
今は来週末から始まる『ドン・キホーテ』で、この気持ちを払拭したいと思っております。
変な感想で申し訳ございませんでした。
不適切な内容でしたら削除して下さいね。

管理人 さんのコメント...

ひふみ様



こんばんは。映画をご覧になってのご感想お寄せいただきありがとうございました。
不適切な内容だなんて、全くありませんよ!
非常に重たくのしかかってくる要素が強い映画で『ブラックスワン』や『マチルダ』以上に

心の整理がつかない気持ちにもなるのは頷けますし、意見も大きく分かれる作品であると捉えております。
どう感じるかは自由であり、色々な考えが生じるのはごく自然なことで
監督も出演者もそう思っていらっしゃるはずです。
実は終盤のある場面からはしばらく直視できない箇所があり、表現がなかなか過激なところもありましたよね。

『ドン・キホーテ』はすっきり爽快は間違いありませんから、お互い存分に楽しみましょう!