2020年10月22日木曜日

それぞれの船出 ベテラン陣が締めた千秋楽 Kバレエカンパニー『海賊』10月18日(日)




10月18日(日)、Kバレエカンパニー『海賊』千秋楽を観て参りました。Kバレエの『海賊』は約10年半ぶりの鑑賞。
3月のトリプル・ビル中止、5月上演予定であった『海賊』延期公演に漕ぎ着け、8ヶ月ぶりの公演再開です。
https://www.k-ballet.co.jp/contents/2020corsaire


カーテンコールにて、熊川さんから大きな花束を贈られる中村さん。



『海賊』ダイジェスト集。殆んど熊川さんアリの出番セレクション映像ですが、出番や見せ場の多い役として描かれています。



山本さんがアリを踊られた2017年公演のダイジェスト映像。当時と比較すると見違えるほど進化していました。


メドーラ:中村祥子
コンラッド:遅沢佑介
アリ:山本雅也
グルナーラ:小林美奈
ランケデム:石橋奨也
ビルバント:宮尾俊太郎
サイード・パシャ:ビャンバ・バットボルト


中村さんのメドーラは登場時から誠に艶やかで、重厚な音楽と溶け合いながら張りのある美しい跳躍で魅了。 瞬時に吸い寄せられ、中村さん一色なオーラに包まれました。
しかし人をすぐさま信じ易いお人好し過ぎる性格なのか困っている人を放っておけないのでしょう。
浜辺に現れた海賊達を怪しがらず、手を差し伸べようと懸命で周囲を心配させる姿は堂々たる登場場面とはまるで別人。
人間味のあるヒロインであると序盤から伝わる描写でした。2幕以降は決然としてコンラッドをビルバントから守り
いざとなれば斬りつける手段に出るなど展開と共に強さを増していったのは目にも明らかで、コンラッドと出会いや
危うく売り飛ばされそうになる市場での試練を経てみるみると変化を遂げていくさまをはっきりと示していました。
今回ほど、場面が進むにつれての変化が目に見えてはっきりとしていたメドーラは初めてお目にかかったかもしれません。

遅沢さんのコンラッドは目線は鋭く立ち姿からして隙の無さそうな威厳があり、乗組員で反抗できる者はいないでしょう笑。
裏切りとはいえビルバントの下克上は相当な度胸がなければ不可能であろう行動でそれだけ常日頃から思うところは諸々あったと推察。
常時目を光らせ作戦はことごとく連戦連勝であったと思われるコンラッドも恋だけは盲目気味だったのか、
呆気なくビルバントによって弱味を掴まれ、罠に掛かってしまったのは哀れとしか言えません。

他の版よりも遥かに見せ場が多い主役級として描かれたアリで嵐を巻き起こす活躍を見せていたのは山本さん。
市場でランケデムをおちょくっては怒りを買うも余裕の笑みで交わし、ランケデムの腸が
一段と煮え繰り返る様子との呼応もテクニック合戦効果もあってか含め怖いを超えて笑いが込み上げてきたほど。
終盤は猛スピードで駆け抜け、中でも両肩に手を置いたままでのつむじ風の如き回転移動には口をあんぐりしてしまい
しかもただ超絶技巧お披露目会ではなく周囲とのやりとりや物語の流れの中で、
音楽の中で遊んでいるような自然なこなしぶりも見事な野性味あるアリでした。
ちなみにヴァリエーションは、序盤の跳躍してからのバランスの2セット後は片脚立膝で屈むポーズ。上下の躍動がくっきりと見映えしましたが
ここは個人の趣味だが南仏地域のバレエ団による片脚伸ばし座り姿勢で射抜くような視線を送る振付が好みでございます。(務めるダンサーにもよるが)

2幕のハイライトとも言えるパ・ド・トロワは、遅沢さん山本さんともに中村さんメドーラに礼を尽くす献身ぶりが熱く
中村さんはどこまでも伸びやかで格調高く、 舞台上のダンサー達も観客も祈るような心持ちで見届け観客半数の会場である状況を忘れてしまうトロワでした。

どうにかアリのからかいを制圧しようと奮起していた石橋さんのランケデムは明快な悪党で
グルナーラとのパ・ド・ドゥでの周囲に手にした美女を自慢をしてはすぐさまサポートに戻りつつも途切れ感は皆無で市場の熱を上げて盛り上げに大きく貢献。
宮尾さんの、忠実な部下には最初から見えぬ(褒め言葉)ビルバントと手を組む場面でも企みを見据えた笑みで交わし
怪しいアジトにいそうな2人で、敵対関係にあったはずがコンラッドへの恨み節を語り合うような様子から気が合うのは時間もかからずであったのは頷けます。

メドーラの妹として描かれたグルナーラの小林さんは舞台にピリッとスパイスを与える存在感で 疑うことを知らなそうな笑、
優し過ぎる姉を毎度身近で見守っては保護者のように安全確保に務めていたであろうしっかり者。
浜辺で海賊達をすぐさま救助を試みる姉をまずは止めに入り、怪しい人物かもしれぬと頬に触れつつ目を覚めさせていた
堅実な性格にメドーラはこれまでに何度も助けられていたと想像できます。
ランケデムとのパ・ド・ドゥでの通常とは異なるヴァリエーション音楽も小林さんに似合い、
可愛らしい哀れみのある曲ではなくガラやコンクールでお馴染みのタンバリンを持ったエスメラルダの曲を使用。
踊りはスパスパっと鋭くも、嘆き悲しみは指先に至るまで迸り増幅し
確固たる技術を備えているだけあり演歌調な表現も独り歩きせず、グルナーラの感情が凝縮したヴァリエーションとなっていた印象です。

大掛かりな花園の群舞場面は無しであっても海賊の男性達がわんさかと踊る演出はKバレエらしく、殊に初演では熊川さんが踊られたアリの描き方は
当然なのでしょうが随所で登場しては場を沸かせる主役級キャラクター。
ただ先にも述べましたが物語を繋ぐキーパーソンとして確立していて周囲とのコミュニケーション力も抜きん出ている人物でもあるのは大きな魅力です。
冒頭には現れる海図の紗幕越しに海賊達が姿を徐々に見せ、冒険にいざなわれる演出も宜しく
船の造りが精巧で隅々まで凝った設計にも見入ってしまいます。
マリインスキーが30年以上前から上演を重ねている極楽アドベンチャーな演出も楽しいのですが
(2006年の来日上演時、ロパートキナの芝居が上手いとは言い難く、かえってとんでも冒険潭に拍車をかけていたと記憶)
アリの悲劇な結末までが事細かに描写された熊川さん版も非常に面白いと思えた次第です。
中村さん、遅沢さん、宮尾さん(9月よりゲストアーティストに就任)の区切りとなる公演に相応しいベテラン陣が締めた千秋楽でした。

カーテンコールでは熊川さんが豪華な花束を持って登場し、中村さんに贈呈。中村さんは目元に涙溜め、終演案内のアナウンスが流れ始めても音声を掻き消すように拍手は鳴り止まず。
スタッフや非番のダンサーも舞台に登場し、中村さんを讃え続ける光景を目に焼き付けて劇場をあとにしました。
松岡梨絵さん、浅川紫織さん、そして中村さんとKバレエで好きな女性ダンサーが去っていく状況は寂しいものの
他日メドーラを踊りこの日はオダリスクで淑やかな美しさを見せていた成田紗弥さんを始め、台頭してきているダンサーにも注目していきたいと思っております。



あちこちで呼び掛けが行われていました。入場時も間隔の取り方を細かく指示され、対策が窺えます。


マスクも通信販売中。着物姿の監督は2019年初演『マダム・バタフライ』カーテンコールのはず。カレンダーも発売のようです(もうそんな時期か)。



換気のためドア開放



Bunkamuraに何度も来ていながら初訪問、ホール向かいの松涛カフェ。店員さん達が笑顔一杯な接し方で
これからバレエ鑑賞である旨を告げるともうすぐ開演ですね、楽しんで来て!と あたたかく送り出してくださいました。



食してみたかったシフォンケーキ。バターを薄く塗って軽く焼き、表面はカリッと香ばしい味。
トッピングで更に生クリーム追加していただきます。もっと多めの量追加でも良かったかもしれぬ。
管理人、生クリームは好物の1つでエベレスト並みに盛られた一時は行列もできていた
ハワイ系の甘味も1人でペロッと食べてしまうほどです笑。(似合わぬと周囲から言われますが笑)
それはさておき、お皿の青色が2幕のメドーラの衣装を思わせ、
粉砂糖のまぶし具合もビーズ刺繍と重なるものがあり開演前から浮き立ちます。



帰りはギリシャブランデーで乾杯。内装が古い書斎のようで、立派な船舶の内部にも思える空間。





タコのカルパッチョとも合います。熊川さん監修来年1月開始のNHKBSドラマ『カンパニー』も楽しみです。
原作途中まで読みましたが、2006年のパリ・オペラ座来日公演での驚きの出来事に似た光景など
親しみ深い場面展開が綴られており、感想は明日からのバルセロナ7回訪問の合間か後にでも
綴って参りたいと思っております。


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