2020年9月30日水曜日

久々の生演奏付き全幕 東京バレエ団『ドン・キホーテ』9月26日(土)昼公演



9月26日(土)、東京バレエ団『ドン・キホーテ』昼公演を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2020/donquixote/



振付:ウラジーミル・ワシーリエフ(マリウス・プティパ/アレクサンドル・ゴールスキーによる)
音楽:レオン・ミンクス
美術:ヴィクトル・ヴォリスキー
衣裳:ラファイル・ヴォリスキー

キトリ/ドゥルシネア姫:秋山瑛
バジル:秋元康臣
ドン・キホーテ:中嶋智哉
サンチョ・パンサ:海田一成
ガマーシュ:岡崎隼也
メルセデス:二瓶加奈子
エスパーダ:宮川新大
ロレンツォ:永田雄大

2人のキトリの友人:加藤くるみ-中川美雪
若いジプシーの娘:政本絵美
ドリアードの女王:三雲友里加
キューピッド:工桃子



秋山さんは力み無くナチュラルでチャーミングなキトリ。技術も申し分無く鮮やか、跳躍にしても回転にしても踏切やつなぎ目が誠に滑らかで
秋元さんとの1幕街の広場や居酒屋冒頭を始め、涼やか且つダイナミックなテクニック競演で見せ場は大いに盛り上がりました。
小柄で愛くるしい印象がありましたがツンと澄ました表情から時折覗く色っぽさもあり
浮気性なバジルも、そして妄想騎士なドン・キホーテも放っておくわけにはいかぬ魅力が花開いていた印象です。

秋元さんは爽快感十二分なバジルで、登場時からにこやかさも最高潮。
素早い箇所での脚捌きも見事で跳躍時の体勢もぶれず、フィナーレでのガマーシュとの回転対決でも減速しながら最後の最後まで
隅々まで美しく見せてしまう姿も見事なものでした。キトリとは濃密過ぎず湿度低め、されどしっかり愛し合うカップルといった趣き。

絶妙な加減で楽しませてくださったのは岡崎さんのガマーシュと永田さんのロレンツォ。
岡崎さんは大袈裟に主張せず、しかし仕草の1つ1つに可笑しみを感じさせ気づけば目を留めてしまう存在感あるガマーシュで
そうかと思えばキトリの1幕ソロでは後方で闘牛士達と並んでマントの代わりにギターを手に礼儀正しく大応援。メリハリの富んだ表現が光っていました。
永田さんのロレンツォは頑固雷親父ではなく怒りん坊であってもユーモアに満ちた愛情深いお父さんで
キトリの対して、ガマーシュとの結婚を一生懸命に説得する姿はどこか健気。
結婚式臨席時は娘の結婚を心から祝福するだけでなく、同席者ガマーシュが新婦キトリの晴れ姿に心臓の鼓動が止まらぬ様子を互いに手を取りながらじっくり確認。
まるでロミオとジュリエットのようなやりとりで、これからも仲良い関係は不変であろうと想像いたします。

今回5階席での鑑賞でしたが随分と舞台が近く見えた点も鮮烈。視力が上がったわけでもなくそれどころか年々低下している管理人ですから
舞台から発するエネルギーがこれまで以上に強かったためでしょう。1幕のセギディリアや
二瓶さんの押し出しの強いメルセデス(スカートが一瞬剣に引っかかりましたが倒れず、何かが降臨か!?)しかり
野営地のジプシー達の押し迫る勢いたるやびっくり箱を開け続けているかのようで、2階か3階あたりからの鑑賞と錯覚させたほどです。

東京バレエ団が採用しているワシーリエフ版は元々好きな演出でボリショイの振付が基盤と思いますが
より楽しくお祭り気分が高まるよう工夫され、特筆すべきは2幕フィナーレの盛り上がり。
本来ならば貴族の館で市民もファンダンゴ隊も一緒にセギディリアを踊る光景なんぞ考えられないのでしょうが
そんなことも忘れさせキトリとバジルのグラン・パ・ド・ドゥを終えた後、舞台全体が一気にうねる流れとなり更に高揚感を与えるフィナーレでとにかく楽しいのです。
そして先にも述べた通りロレンツォや恋に破れたガマーシュも出席し、終盤にはキトリも見守る中でバジルとガマーシュの回転対決も用意。
ただ執拗に回るのではなくあくまで音楽の中できちんと回るよう推奨されているのか規範をはみ出た感がなく、好印象な対決です。
明るく写実的な街の光景や水色を基調とした爽やかな貴族の館までじっくり眺めたくなる色彩の舞台美術も、品と情熱を上手く調和する効果をもたらしています。

ワシーリエフ版を観て思い出すのは2006年世界バレエフェスティバル全幕プログラムでの上演時にゲスト出演したタマラ・ロホのダンスマガジンでのインタビュー。
スペイン人のロホからすると時々首を傾げたくなるプロダクションもある中、東京バレエ団のワシーリエフ版はエレガントだからとても気に入っていると語り
賑やかなお祭り気分を高めつつも演出から美術装置まで、節度を保持した仕上がりはスペイン人をも頷かせるのであろうと納得いたしました。

恐らくは関東近郊での全幕バレエ公演としては久々のオーケストラ演奏付き上演であった点も喜ばしく
至る所にアクリル板を設置し、管楽器以外の演奏者はマスク着用の様子でピット内も対策が窺えました。
制約は多々あっても上階で聴く限り決してそうは感じさせず、ミンクス特有のズンチャッチャ音楽を生で堪能。
当初は7月上演予定が9月末に延期となり、今回は天候も危ぶまれましたが無事3回とも上演でき
秋山さんの本公演キトリデビューにも居合わせ、バレエと演奏共に生の醍醐味を以前にも増して味わえた日となりました。




この日も公演前にパンダの姫シャンシャンを観て参りました。客同士妙な一体感があり、少しでも長く見ようとゆっくり約5cmずつ移動しながら観察。



終演後は国立科学博物館地球館3階にて展示中の新国立劇場バレエ団『ペンギン・カフェ』共同企画を鑑賞。
昭和30年代頃の街頭テレビに群がる人々のような光景ではなかったが(密よりは良かろう)、
バレエに登場する動物を隣の展示室にある哺乳類剥製と比べながら見学すると理科とバレエ講座同時受講の如し。一層面白く感じました。
ユタのオオツノ羊のツノの立派さに驚き。
そういえば、新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』リハーサル風景と吉田都監督のインタビューがBS朝日の報道番組で取り上げられていたが
録画を見たところ表示されていた公演開催期間が違っていたもよう。(〜11/11と表示。もしや追加公演決定かと一瞬喜んだがそうではなかろう)
舞踏監督の表示されていた旨は番組内で訂正があったとのこと。舞踏の文字からは、麿赤兒さんが浮かんでしまった。
今春他の民放番組で巣ごもりシアターが紹介された際も『マノン』と『ドン・キホーテ』写真が入れ替わっていたらしい。
ただ、テレビで取り上げてくださるのは嬉しいこと。



帰りは上野駅前のスペインバルで乾杯。以前に比較するとかなり空いていたが
1人でもふらりと入店できワイン1杯からでも歓迎と明記されているため利用しやすい。
やはりドンキの気分爽快な展開及びズンチャッチャ音楽、良いものです。このご時世一層愛おしく感じます。
本当はサンチョもびっくりな食いしん坊の管理人ですが(体型ではなく耳と目が肥える日は到来するのだろうか)、今回はワイン1杯とおつまみ2品でお開き。

2 件のコメント:

Aki Ogawa さんのコメント...

久しぶりの東バの本公演、盛り上がりましたね!
秋山瑛さんのキトリは、キトリ本公演デビューと同時に、ファーストソリストとしての本公演デビューでもありました。
素敵なキトリでしたね。
ワシーリエフ版のドンキ、確かに楽しくてお祭り気分が舞台を盛り上げて、素晴らしかった~
新国のドンキも楽しみです!
素敵な舞台が続きます様に~

管理人 さんのコメント...

Akiさま

こんばんは。お待たせして申し訳ございません。
東バドンキ、大満喫いたしました!
そうでした、秋山さんは昇格後最初の本公演デビューでしたね。
堂々たるキトリで、文化会館の真ん中にいても小柄であると感じさせぬヒロインでした!
最後の最後まで高揚感と祝祭感が一杯で、父親やガマーシュも皆で大団円なワシーリエフ版ドンキ、やはり何度観ても楽しさで満たされます。
ボリショイベースであっても、古き良き伝統路線な新国立ドンキもまた楽しみになってきますね。
はい、まずは予定通り開催を。そして素敵な公演になりますように。