
順番前後いたしますが、2月16日(日)スターダンサーズ・バレエ団 リラックスパフォーマンス『シンデレラ』を観て参りました。
スタダンのシンデレラは2009年以来16年ぶりの鑑賞。この日のシンデレラ役をもって退団される渡辺さんがコール・ド・バレエをなさっていた頃です。
https://www.sdballet.com/performances/2502_rp_tokyo/
シンデレラ:渡辺恭子
王子:池田武志
父:大野大輔
継母:中川郁
義姉妹:石山沙央理 前田望友紀
王子の友人:久野直哉 渡辺大地
臣下:鴻巣明史
家来:石川聖人
仙女:角屋みづき
シンデレラの小さな友達:
髙橋麗 愛澤佑樹
早乙女愛毬 加地暢文
渡辺さんのシンデレラは儚い透明感があり、脚先指先から優美な光をそと零すような踊りが繊細で美しや。
しかし芯は確固たるものがあり、回転やポーズへの流れも丁寧なおさまりです。
いじめられている薄幸な姿がいたく似合い、16年前に比較すればいじめの場面でのぶつかりや押しやる行為が抑え目にはなった感はあれど
心折れそうに逃げ場のない様子がそれはそれは可哀想に映りました。
抑え目になったとはいえ、シンデレラが試着した真新しいドレス破いての暖炉への破棄はやはり胸が痛くなりますが
同時に家の中でも舞踏会でも素早く踊る場面がふんだんにある義理の姉妹で、技量が盤石でないと務まらない役柄。
石山さん、前田さん共に寸分の狂いもない身体捌きで場面を切り盛りしていて目を見張る活躍でした。
Kバレエもですが女性が義理の姉妹を務めるとどうにもきつさが増してしまう印象がありますが、スタダンの鈴木稔さん版では融和剤な役どころがあり。小さなお友達です。
最初は1幕にて、もふもふの小さなぬいぐるみな姿で床を這いながら登場し(恐らくは差し金で動かしている?)
シンデレラとお話したり、チーズのご飯を貰いにいったりと仲良しな関係性が出来上がっています。用が済むと退散していきますが
継母や義理の姉妹にいじめられているシンデレラの姿もしっかり目撃していて、倍返しな行動の機会を2匹はひっそり窺っていたのかもしれません。
そう考えると仙女の魔法によってネズミ達がまずは大きくなり、やがて人間へと変身して
舞踏会に行くシンデレラの手助けをお城に着いてからも全て担っていく展開に納得です。
大きなネズミ型マスクを被った姿が可愛くそして被り物しているとは思い難いほどに軽快にシンデレラと踊る光景が
ちゃんと雌のネズミを雄のネズミがエスコートしている点もふくめて微笑ましくお洒落。お耳や目がヒクヒク動くのも可愛らしさ後押しです。
従来四季の精達のコーダで踊られる演出が多い曲にて、マスク被ったネズミ達が妖精達と一挙に上手側そして下手側へと捌けていくと
交互に人間(加地さん早乙女さん)となって登場する変身もスムーズ且つあっと驚く仕掛けです。
到着後もマズルカやワルツの大団円の中に溶け込んで踊りつつ目線は360度方向へ向いているのか
シンデレラと王子を継母や義理の姉妹達から守ろうと追い出したり別方向へと案内したりと賢い奮闘が頼もしいお友達です。偶に失敗してもめげずに再チャレンジ。
加地さんは穏やかでエレガントに、早乙女さんはチャキチャキと勝気な愛らしさでシンデレラを手助け。
目の前にいる王子から逃げ出そうとする内気なシンデレラの背中を押してあげる様子は、シンデレラにとってどれだけ心強かったことか。
12時が近づくとお友達もネズミ姿に戻り、シンデレラを急がせて帰宅まっしぐら。運命共同体な3人です。
また中川さんによる継母がヨーロッパの宮殿か由緒ある邸宅の肖像画として飾られていそうな威厳ある女帝ぶり。
2人の娘達とトリオで踊る箇所は息ぴったりで、舞踏会中は娘達の唯一の応援係として
あちこち歩き回りながらアピールする様子も、玉の輿も夢じゃない状況となればお母さん頑張るわけです笑。
牧時代の中川さんの『三銃士』ミレディは観ておりましたが、他の作品では姫や村娘のイメージがあり、
今年に入ってからNHKバレエの饗宴での『コンサート』といい今回の継母といい初挑戦作品にて大人の役柄での新境地開拓が目覚ましい限りです。
鈴木さん版は独自な演出がいくつかあり、1つは先にも挙げたネズミのお友達の存在で、それからプロローグ。
市場で買い物中に老婆を助けているシンデレラをお忍びで遊びにきていた王子と友人達が目撃し、既にこの時点で出会いの構図が出来上がっていること。
だからこそ、靴の持ち主がシンデレラと判明していざ王子との結婚が決まったときにボロ服だからと自己否定するシンデレラに対して
着飾った姿ではなくそのままの姿で来て欲しいと語りかけながら一緒にお城へと向かう光景は心温まる幕切れです。
お友達もマスクネズミ姿のままで端で見守り、目をぱちぱちさせながらネズミ達同士も愛を育んでいる仕草がほんわかと深まる余韻でした。
それから家庭内問題の描写。継母の意地悪な態度はそもそも仕事ばかりに熱中して家庭を放置している父親にも原因があった背景が描かれ、
継母が話しかけにいっても知らん顔なそぶりで対処。相手に全くしてもらえない寂しさが蓄積して、
もしかしたら娘達とのシンデレラいじめにも拍車をかけていたのかもしれません。
シンデレラがガラスの靴の持ち主と判明したとき、納得いかずに騒ぎ立てる継母達に対して父親がとうとう一喝すると
優しさでも怒りでも何でもいいからもっと心に接触して欲しいと望んでいたのであろう継母の内側から寂しさが抜け落ち、
父親は家庭を放置状態にしていた自身にようやく気づいて継母と姉妹、そしてシンデレラの4人で肩を寄せ合い抱き合っての解決に安堵すると同時に
現代の社会でも何処においても発生あり得る問題でしょう。父親の状況をも事細かに演出に含ませた解釈に
再度驚きを覚えますし、シンデレラの結婚だけでない喜びが二重に増す演出です。
それから名物と申し上げて良いのか、王子達によるガラスの靴の持ち主捜索時におけるJRAもびっくり、お馬でGO!な演出は久々に観ても腹筋の波動が止まらず笑。
3体だったか4体だったか、実際には走らぬ、リアルに作られた馬に王子達が跨って音楽に合わせて手綱捌きつつ疾走感を出しながら身体を揺らしていくのですが
16年経っても不変であるのは嬉しいやら、しかし笑いがこみ上げてしまいました。しかも2回あり。
前後に揺れるときもう少し腰を深く入れた方がより疾走感が出たように思いますが、降りるときにお馬さんのお顔を撫で撫でしていたのは好印象。大事な相棒です。
池田さんがお好きな方は白馬の王子様な姿がご覧になれて歓喜の声を上げていらしたことでしょう。
新宿駅や池袋駅辺りの改札出たスペースにて時々競馬のイベントで実寸大のリアルに作られた馬に乗って
記念写真撮影する企画を見かけますが、スタダンのお馬さん達を観たら担当者も驚倒すること間違いありません。
池田さんは最初から最後まで熱い王子で、プロローグにて友人らと市場へやってくる姿も、
この王子ならお城に閉じこもっているより外の空気浴びているほうが似合いそうと説得力あり。
カーテンコールでは渡辺さんに対する溢れんばかりの敬意と感謝から大号泣されていて、
そうはいってもひたすら引き立てて渡辺さんのラストステージをしっかり支える王子でした。
鈴木さん版、ガラスの靴の持ち主捜索も王子が友人を引き連れて行くのも魅力的で、熱い友情で結ばれた王子の真の友人であろうと観察。
(アシュトン版は王子と友人の間には形式ばった壁がありそうで、そこまで密接な友情ではなさそうと毎度思います笑。英国ロイヤルシネマでの上映真っ最中に失礼。)
仙女角屋さんの白いユニタードな衣装もきりっと決まってシャープな統率力、四季の精がいない代わりに
シンデレラが大事にしている小さな2匹のネズミさんを大切に預かってまずはマスク付きのおめかししたネズミさんに変身させ、やがては人間の姿に変身させて
シンデレラのお供をしてもらうように整えて行く工程もきっちり丁寧に捌いていました。
それからリラックスパフォーマンスは初めて鑑賞する企画で、舞台芸術には興味があっても事情があって通常公演鑑賞が難しい方々にとって、とても嬉しい企画です。
途中の出入り制限緩和やホワイエでの舞台映像鑑賞も可能にしたり優先席配置など、心を寄せた企画力と感じさせました。
プレトークにて暗転を試しに行って心の準備を皆で共有したり、鑑賞時の注意点も小山さんの分かりやすい口調や、隣で洋服屋さん役の関口さんが身体を思い切り使って体現して手助け。
何より、リラックスパフォーマンスの名の通り、まずは安心して楽しんで欲しいとの語りかけがとても優しく響きました。
渡辺さんの次のステージも幸溢れる道のりとなりますように。そしてリラックスパフォーマンス開催の意義をバレエ団から教わった公演となりました。

撮影スポットに可愛らしいお友達ネズミさん

美しい渡辺さんのポーズ。

ポストカードも可愛らしく素敵なデザイン。渡辺さん、塩谷さん両方入っています。ネズミのお友達もバッチリポーズです!
客席には前日に鑑賞した矢上恵子さんメモリアルの出演者や関係者の方々も多数ご来場。一段と華やぐオペラパレスのホワイエの光景を思い出しつつ綴っている今年の本日2.23。
ちょうど2年前の同会場で起きた事情によりこの時期は何かとヒヤヒヤしてしまいがちですが今年は昨年に引き続き平和に迎えられて安心しております。
心穏やかに訪れた2025年2.23でございます。