2024年2月28日水曜日

純白な恋を紡ぐ2人  パリ・オペラ座バレエ団『マノン』 2月18日(日)








2月18日(日)、パリ・オペラ座バレエ団『マノン』 を観て参りました。前日の大阪フェスティバルホールでの鑑賞を終え、1泊して新幹線でそのまま上野へ直行。
奇しくも、6年前のハンブルグ・バレエ団『ニジンスキー』鑑賞と似た流れとなりました。
(そのときは京都で石井潤さん作品公演を鑑賞後に1泊してそのまま上野へ直行。
京都の前日と前々日は東京で新国立劇場バレエ団ホフマン物語鑑賞。振り返ると恐ろしいスケジュール笑)
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/parisopera/manon.html


※NBSホームページより
振付:ケネス・マクミラン
音楽:ジュール・マスネ
オーケストレーション・編曲:マーティン・イエーツ
原作:アヴェ・プレヴォ「騎士デ・グリューとマノン・レスコーの物語」
装置・衣裳:ニコラス・ジョージアディス
照明:ヤコポ・パンターニ

パリ・オペラ座バレエ団初演:1990年11月9日

指揮:ピエール・デュムソー 演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団

マノン  ミリアム・ウルド=ブラーム
デ・グリュー  マチュー・ガニオ
レスコー、マノンの兄  アンドレア・サリ
レスコーの愛人  エロイーズ・ブルドン
ムッシューG.M.  フロリモン・ロリュー
マダム  ロール=アデライド・ブコー

第1幕
第1場
パリ近郊の宿屋の中庭
レスコー、 レスコーの愛人、 デ・グリュー、
ムッシューG.M.、 マダム、 マノン

乞食の頭 フランチェスコ・ムーラ

乞食
ラム・シュンウィン、 ルーベンス・シモン、
サミュエル・ブレ、 ナタン・ビッソン、
ミカ・レヴィーヌ、 レミ・サンジェール=ガスネール
ディアーヌ・アデラック、 リサ・プティ、
リュシアナ・サジオロ、アナスタシア・ガロン

高級娼婦
カン・ホヒョン、 オーバーヌ・フィルベール、
ビアンカ・スクダモア、 ニーヌ・セロピアン

3人の若い紳士
アレクサンドル・ボッカラ、 ニコラ・ディ・ヴィコ、
イサック・ロペス・ゴメス

紳士
レオ・ド・ビュスロル、
アレクサンダー・マリアノフスキー、
エンゾ・ソガール、ケイタ・ベラリ、シリル・ショクルン、ポール・マイヤラス

娼婦
セリア・ドゥルイ、 アンブル・シアルコッソ、
桑原沙希、パティントン・エリザベス・正子、
  ルナ・ペニェ、イゼ・ブルティニエール、
イロナ・カブレ、 カミーユ・カラザン、
リサ・ガイヤール=ボルトロッティ、
オルタンス・パジョレール、グロリア・プボー、
ニノン・ロー、山本小春

老紳士 ジャン=バティスト・シャヴィニエ

第2場
パリ、デ・グリューの下宿
マノン、 デ・グリュー、 レスコー、 ムッシューG.M.


第2幕
第1場
高級娼家でのパーティー
マダム、 紳士、娼婦、 デ・グリュー、 レスコー、
レスコーの愛人、 ムッシューG.M.、 マノン

高級娼婦
カミーユ・ボン、 カン・ホヒョン、
オーバーヌ・フィルベール、 ビアンカ・スクダモア、
ニーヌ・セロピアン
男装した娼婦 ルナ・ペニェ

第2場
デ・グリューの下宿
マノン、 デ・グリュー、 ムッシューG.M.、 レスコー

近衛兵
ラム・シュンウィン、ルーベンス・シモン、
ナタン・ビッソン、サミュエル・ブレ、
マニュエル・ジョヴァーニ、
オジリス・オナンベレ・エヌゴノ、
レミ・サンジェール=ガスネール

第3幕
第1場
ニューオーリンズの港
高級娼婦、娼婦、 マノン、 デ・グリュー
看守 アルチュス・ラヴォー

兵士
ラム・シュンウィン、ルーベンス・シモン、
ケイタ・ベラリ、ナタン・ビッソン、
サミュエル・ブレ、マニュエル・ガルリド、
ミカ・レヴィーヌ、ポール・マイヤラス

市民
ディアーヌ・アデラック、リュシアナ・サジオロ、
ロドリーヌ・ショール、山本小春、
アナスタシア・ガロン

第3場
沼地
マノン、 デ・グリュー、これまでの登場人物

協力:東京バレエ団



ウルド=ブラームのマノンは無垢に輝く天使で、派手さ無くても手脚の隅々迄しっとりした動きに溜め息。
馬車から飛び出しての登場ではふわりと優雅な風が吹くような走り方で、自身の魅力には気づいていないと思われ
何の混じり気のない笑みを湛えてレスコーに駆け寄っていた印象です。
GMからネックレスを受け取ったときは不思議がりながらそっと手を添えて一呼吸してから価値を考えていた様子で
すぐさま欲を露わにする人もいる一方、自身がどこか渦巻く世界へと導かれて行く不安と期待を静かに抱いていたと見受けます。

表現が過剰はなくいたくシンプルでありながら品を保っていたのはウルド=ブラームならではと思われ、
娼館にやってきたときはすっと澄ました顔で登場し、殿方たちを虜にしている自身の魅力をよく分かっていないのか、チヤホヤされても気にしていない様子で
そっと歩く姿がまた美しい。貧困から抜け出そうとがむしゃらに挑むのではなく、あくまで欲はそこまで持たず
だからこそ持ち前の美しさに気づかぬうち、これ見よがしに誇示もしないままあれよあれよと騒動に巻き込まれていってしまったのでしょう。
ルイジアナでボロボロの姿になっていても天性の美は全く失われず、犯罪であるのは重々承知だが、看守が惚れてしまうのも頷ける美しさでした。

ガニオのデ・グリューは登場時から高貴な容貌で、奥の方にて見えかけた鼻筋からして庶民や苦学生には思えぬ美貌でしたが笑
結果としてウルド=ブラームのマノンとは好相性で、周囲から異質なほどに浮く純白な恋を紡ぐ2人として説得力あり。加えてデ・グリューは貧しくはあっても美しさはあって欲しいと勝手に理想づけております。
2人もベテランの域に達していて全盛期な踊りっぷりではなかったのは否めませんが
威勢よくアクセントを付けず荒っぽくならず、代わりにしっとりと丁寧に四肢を操り
沼地のパ・ド・ドゥも、多量の結び昆布な吊るし美術の中であっても(食料品売り場でおでんセットを見るたびに思い出す笑)
2人の姿は尚美しい光を放っていて、デ・グリューの腕の中で息絶えたマノンは苦しそうでは決してなく
愛する人の温もりの中で最期を迎えた安堵が顔に表れていた気がいたします。
『マノン』の濃密な作風を考えると幕間は赤ワインを飲むかと思いきや、
この2人の出会いと寝室のパ・ド・ドゥを観た後は心が白色に純化されたのか白ワインな気持ちになったものです。
サリのレスコーはあくまで好みの問題ですがもう少し色気があれば尚良かったかと思ったものの、
冒頭ソロの脚の蹴り上げ方のシャープで盤石に繰り出すバランス、愛人のブルトンも力強く歯切れ良い音楽に乗せたソロにおける刺すような強さのあるポーズも目に残ります。
ムッシューG.M. は若い描かれ方で、ロリューが端正な顔がみるみると厭らしさを帯びながら
脚触りをしている仕草が毒々しく笑、ベテランが演じるイメージが先行していただけあって鮮烈でした。

衣裳装置はこれまでオーストラリア・バレエ団製作のデザインしか生では観たことがなく
ニコラス・ジョージアディスが手掛けたデザインをようやくこの目で鑑賞できたのも大収穫。
細部まで凝った、特に2幕は緻密で重厚な、異なる色味の赤を組み合わせた美術が壮観で、馬車の細かな錆や朽ちた部分も実にリアル。
娼婦たちの赤茶な鬘と赤系で整えた衣裳も豪奢で、何度も双眼鏡で観察いたしました。

音楽構成の妙にも再度唸り、様々な作品からの寄せ集めとは到底思えず。幕開けのレスコーの佇み、
マノンのテーマや3つのパ・ド・ドゥ、レスコーや愛人の欲がぶつかるソロ曲も耳に残ります。
全編の中でも、娼館のワルツは集う人々の歓喜と苦悩、欲望が渦巻き昇華するような旋律にこの度も胸を揺さぶられ、
快楽と現実の狭間をうねるように彩り心を抉るマスネの曲に蕩けた夜でございました。

本家本元は英国ロイヤル・バレエですが、映像で一番脳裏に焼き付いているのはパリ・オペラ座で(公式販売はしていないが)
ベラルビのレスコーとピエトラガラの愛人の香り立つ翳ある色気にどれだけ酔いしれたことか。
今回初めて生でパリ・オペラ座マノンを鑑賞でき、英国ロイヤルとはまた違った、
退廃な箇所はぐっと押し出し、一方で美しさをとことん強調するされど仕草も踊りもあくまでエレガントにこなしていた魅力があったと捉えております。




幕間に白ワイン。『マノン』観て、赤ではなく白の気分になるとは思いもいたしませんでした。
そして会場では多くの方々から「(大阪から)お帰りー」と声をかけてくださりありがとうございました。
思えば昨年のオペラ座・ガラは鑑賞後に夜行バスで大阪に向かい、その旨を会場であった方々に話すと「いってらっしゃーい」。
2年連続、大阪とパリ・オペラ座来日公演は隣り合わせらしい。
さて管理人は現在、ベラルビさんのレスコー以上に!?鋭く冷たい色気放つフレンチメソッドの悪魔に未だ耳元で囁かれていそうな感覚が残り、
そうこうするうちに明日には2月も末日。今年は閏年でございます。

2024年2月23日金曜日

【速報】【大変おすすめ】新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』初日




2月23日(金祝)、新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』初日を観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/hoffmann/

初日の様子
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_027363.html


カーテンコール



リハーサル映像。やる気満々、目が勝負師なスパランザーニがいます!






3幕、娼館。



この作品、切り貼り型であるとの意見が大半なのか?人気今ひとつですが、私は2015年のバレエ団初演時からとても好きな作品です。
同じダレル版でも2002年に牧阿佐美バレヱ団で観ておりますが、(22年前か。サッカー日韓W杯の年です)
牧ではより陰鬱な色味が後押しされていて、色鮮やかな衣装の数々に彩られた新国立での上演とは印象がだいぶ違っておりました。
音楽はオッフェンバック。オペラとはほぼ同じ流れと思われ、星空を描画するような浪漫に満ちた旋律もあればおどろおどろしい快楽が走る曲もあり
聴き惚れてしまう音楽構成で、特にオリンピアのワルツと、アントニアの心情が高らかに奏でられる曲を私は好んでおります。
全幕バレエでは珍しく男性が主役で、しかも主役ホフマンを1人が3世代分踊り演じる面白さ、そして幕ごとにがらりと変わる世界観にも魅力を感じます。
衣装がとにかくお洒落で洗練されていて、3幕はご意見様々ですが笑、 明日は昼夜、明後日は昼に上演ありますのでお時間許す方は是非ご来場ください。
内容とは反してそこまで重たい作風ではなく、未だルイジアナの沼地から抜けられずにいる方も心配なさらずに初台へお越しください。

それはそうと今回は昨年の二・二三事件から1年、まず予定通り幕が開きました、監督からの詫び挨拶も無しで一安心でございます。
バレエ団初演時から務めていらっしゃる福岡雄大さんホフマンの幸福から急転直下する悲哀感、
彼の恋模様を色付けてきた1幕オリンピア(池田理沙子さん)、2幕アントニア(小野絢子さん)、3幕ジュリエッタ(柴山紗帆さん)、
プロローグエピローグのラ・ステラ(木村優里さん)の競演も見所です。

そして、もしかしたら実質の主役は悪魔の化身リンドルフ/スパランザーニ/ドクターミラクル/ダーパテュート(本日は渡邊峻郁さん)で、
幕ごとに色味が全く異なる4役に変化しながらホフマンにつきまとい追い詰める重要難役。
今月上旬の『シェヘラザード』に続き変わり者を承知で申すと、渡邊さんで観るならホフマン役よりも、
敵役4変化するリンドルフ(他)役の方が私はやって欲しいと願っていたため今日は感無量でした。
恐怖で冷徹な圧、剽軽、怪奇、妖しさ、と色が異なる4役を踊り分けてホフマンを追い詰め、
敵役の食品成分表を隈なく網羅。突き抜けた狂気で全幕を支配なさっていた印象です。
プロローグは着席姿のみであっても周囲とは距離を置いて悪巧みな威圧感を静かに醸し
1幕の急速テンポでの踊り狂い、2幕は佇まいから棘のある色気を内側から放出したかと思えば福岡ホフマンをいよいよ極限状況へと追い込む肩揺らしが悍ましい悪魔、
3幕娼館での半魚人風の衣装姿やジュリエッタとの共謀も妖気が凄まじい。
全編通して、幕ごとに魂から大化けする凄みに呼吸が止まりかけたほどでした。ダブルキャストの中家さんとの比較も大変楽しみでございます。

本日は福岡ホフマン目当てにいらしていた福岡さんの出身スタジオKバレエスタジオさんはじめ、
大阪からの観客の方々からも私の顔を見るなりひょっとしたら福岡さん以上に⁈褒め言葉多々いただき、嬉しうございました。
福岡さんを追い詰める役ですから嫌われないかと心配もありましたが吹き飛び、立ち姿で色気あんなん出せるんかー等、胸が一杯です。
明日明後日、是非『ホフマン物語』ご覧ください!

昨年の二・二三事件の悪夢から1年、時の流れは早い。



無事2月23日!



可愛らしいデザートも。シャンパン飲んでいらしたお二人組も話しかけてくださり、目に留まったようです。

2024年2月21日水曜日

オーケストラ演奏付きでオディールの存在と白鳥コール・ドもたっぷり  (公社)日本バレエ協会関西支部・関西バレエカンパニー公演  第50回バレエ芸術劇場 山本隆之さん版『白鳥の湖』再演   2月17日(土)《大阪市北区》





2月17日(土)、大阪フェスティバルホールにて山本隆之さん改訂振付『白鳥の湖』を観て参りました。
2021年の吹田市制施行80周年・メイシアター開館35周年記念公演に続く再演です。今回は井田勝大さんオーケストラ演奏付きで上演されました。
大阪フェスティバルホールは2008年のボリショイからスヴェトラーナ・ルンキナとアンドレイ・ウヴァーロフを迎えた新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』公演、
そして忘れもしない5年前9月の新国立劇場バレエ団こども『白鳥の湖』における直前の主役2人変更で急遽予定外に出向いて以来3回目でございます。
http://balletkansai.com/2023/02/06/ballet_kansai_50th/

オーディションの様子。山本さん、樫野隆幸さん、振付補佐の真忠久美子さん、石川真理子さんにお姿も。
http://balletkansai.com/2023/09/05/第50回バレエ芸術劇場「白鳥の湖」全幕の出演者選/

照明下見の様子。
http://balletkansai.com/2024/01/30/20240130/



オデット:北野優香
ジークフリード王子:水城卓哉
悪魔ロットバルト:青木崇
悪魔の娘オディール:椿原せいか

指揮:井田勝大
演奏:関西フィルハーモニー管弦楽団


オデットは京都バレエ団の北野さん。2017年のバレエ団公演『くるみ割り人形』全幕や2度の京都バレエ団ガラにおける『眠れる森の美女』、
『ゼンツァーノの花祭り』でも拝見しており、毎回優美な魅力に惹かれておりましたが
オデットでの腕使いの柔らかさ、弧を美しく描くラインにもうっとり。華奢なタイプながらも悲しい可哀想なばかりでなく確固たる軸から繰り出す強さも覗いて
上品且つ白鳥達を率いる凛然とした姿も目に刻まれております。王子との出会いはマイムでの経緯説明がなくても
踊りから感情を醸しながら王子へ切々と訴える悲しみが伝わり、キラリと雫が光るような表情にも見入ってしまいました。
オディールは悪女になり過ぎないようあくまで黒い衣装を付けたオデットに近かった印象。
その中でふと隙を突いて妖しい笑みを流したり、あとにも述べますが椿原さんのオディールと
さらりと入れ替わって王子を益々翻弄させる恐ろしさが伝っていたと捉えております。
髪をセミクラシックになさっていたこともあってか、また目がくりっと愛らしい点と着用衣装の流線形な模様が似通っていたのか
斜め後ろから見るとお若い頃の森下洋子さんに似ていると観察。ぱっと目を惹く華やチャーミングな品が想起させたかと思います。(褒め言葉として受け止め願います)

王子の水城さんは、一昨年の貞松浜田バレエ団とスターダンサーズバレエ団の共同制作作品Malasangre   マラサングレの東京公演にて、
古典の貴公子のイメージを一変させる次々と大胆に斬り込んでいく身体能力の高さにたまげた記憶は未だ残っておりますが今回は正統派な王子様。
牧阿佐美さん改訂版『白鳥の湖』に似たブルーのベルベット生地に金糸で彩られた衣装で登場され、朗らかな王子様で場を楽しませてくださいました。
音楽をゆったり吸って掴むような丁寧な身体の運び方や、オデットにみるみると心惹かれていく様子、
オディールの罠に嵌って遂には結婚を誓ってしまい嘆きっぷりも哀れな様子で、王子の混乱ぶりをくっきりと体現なさっていました。

王子の心理により迫ったリアルな描写も見どころで、ユリア・レペットさんによる王妃と一緒には登場せず1人遅刻して
ぎりぎり花嫁候補達のお披露目に間に合うも、王妃からは身分を弁えるよう警告の眼差しを食らってしまう箇所は
王家の取り決めとはいえ舞踏会に行く気分にならず、重い腰がなかなか上がらなかった本音が行動にそのまま出たと窺えるひと幕でした。
そして跳んで弾けてだけではなく王妃王子親子を気にかけ、玉座の台に体育座りのようにしてちょこんと腰掛ける道化の末原さんの健気なこと。

青木さんのロットバルトは高い背丈を生かしての悍ましい羽ばたきや眼もパワーがこもっていてオデットと王子2人揃って呑み込んでしまいそうな迫力。
3幕では黒い衣装に赤色で彩られた元祖・セルゲイエフ版を思い出させるデザインで
観客の間でも呼び名が色々上がり、デーモン小暮或いは私はシャ乱Qと思い浮かべましたが
(御堂筋線とお好み焼きが好きな東京人である管理人、大阪エレジー好きでございます。お若い方はご自身でお調べください)
仰天メイクや頭飾りを付けたオディールの父親であるのも納得なお姿でございました。

初演時に山本さんは、突如舞踏会でのオディール登場に違和感を覚えていたと仰っていて、疑問点をナチュラルな展開に仕立てたセンスにもこの度も唸りました。
1幕の幕開けからオディール登場させてオデットを脅かす力の存在を示し、また湖畔では拒絶する白鳥達との静かな対立も自然に映り、
オデットとオディール双方がソロ(オディールはオーボエの曲のソロ)を踊る流れもスムーズ。
オディールの登場やソロのときは照明の切替効果も鮮やかで、朝焼けのような朱色の光と水色が交じり合った光が摩訶不思議な空気を後押しし、
湖畔にオディールが出現したら静かな白い世界観が壊れてしまう心配を忘れさせるほど説得力があると唸らせました。
3幕2場も白鳥コールドの見せ場たっぷり。そういえば近年ご無沙汰していた悲しみを引き摺るワルツも取り入れ
白鳥達が悲嘆を体現しながらフォーメーションを作り上げていく光景の中でオデットが王子を許して愛を確認しあうパ・ド・ドゥを展開し、
最後までコール・ドも一緒に丹念に積み上げていく流れから、愛の勝利で締め括る終盤をより引き立ててスケールの大きな幕切れへと繋がっていた気がいたします。
前回以上にコール・ドの精度が高くなっていた印象で、各地からの選抜ですから背丈や体格もばらばらなはずが
踊りも呼吸も全員が丁寧に行う意識が自ずと広がって、身体のラインの見せ方も美しや。実によく整っていたと思わせました。

そして今回はオーケストラ演奏付き。所々乱れかけた箇所もあったような記憶が走りますが、
井田さんの指揮による演奏で山本さん版白鳥全幕を鑑賞できたのは喜びもひとしお。
東京の公演では度々目にする井田さんを大阪しかもフェスティバルホールで拝見する日が来るとは思いもしませんでしたが安心感を持つ指揮者でいらっしゃいます。
井田さんといえば公演の指揮のほか、一般向けのバレエ音楽関連講座での講師も頻繁に務めていらっしゃり私も受講経験は5回以上はありますが
語り口は明るく楽しいもののだいぶ早口で笑、入門者には難易度少々高い内容を一気にまくし立てていくなかなか強者でございます。
しかし深入りした内容も知ることができ、毎回楽しみな時間です。実技だったら全滅でしょうが笑、
バレエの「座学」なら多分私は上級クラスもいけるのかも笑。いや、調子に乗ったらあきまへん。
それはそうと思えば12年前に三重県四日市で開催されたトヨタ二大クラシックバレエハイライトにて
四日市のオーケストラや地元のバレエ教室そしてゲストダンサーとの共演公演にて指揮をなさっていたのがまだ駆け出し!?であった井田さん、
そしてほぼ全幕な演出であった白鳥の湖にて王子を踊られたのが山本さん。
ロットバルトが宮尾俊太郎さんで大変珍しい顔合わせであった公演でもあり、初の鳥羽水族館訪問も合わせて懐かしく思い起こされます。

衣装は前回はほぼ全て新国立劇場バレエ団の牧阿佐美さん版衣装を借りての上演で今回は叶わずであったものの
1幕の宴の衣装は落ち着いたトーン且つカラフルで品があり、線の細いお城や山道の描画はセルゲイエフ版を思い出させました。
湖畔は青みがかった繊細ですっきりとした背景美術、そこへロットバルトの脅威を表すときには燃えるように真っ赤な照明が入り、変化にはっと驚かされる演出です。
レペットさん王妃が舞踏会でお召しになっていた金色の獅子が描かれたドレスも煌びやかで豪華。

衣装については1点だけ、3幕舞踏会の民族舞踊にて、チャルダッシュが可愛らしいデザインながら『コッペリア』村人のように思えてしまい
マズルカは白地の高貴な雰囲気のあるデザインだっただけに心残りでございました。
そうはいっても関西にしては⁈ドヤっとならず全体に品良い纏まりで、山本さんの魅力がそのまま投映されている味わいに思いました。
客席やカーテンコールでの山本さんの変わらぬ爽やかな品あるお姿、やはり素敵です!

それから東京人の素朴な疑問で大阪のバレエ界の方々は何とも思わないかもしれませんが
プログラムに掲載された主要役の方々の紹介顔写真が舞台メイクで、だいぶ古風に思えた次第。
大阪の老舗である法村友井バレエ団が今もチラシ写真を見ると舞台メイク顔写真を使用していて、その伝統かもしれませんが
せっかく今回の白鳥のチラシの写真はナチュラルメイクなお顔で北野さんにしても水城さん、椿原さんにしても皆さん綺麗。
プログラム用とはいえ、プロフィール欄の顔写真に舞台メイク写真を載せる必要性について考えてしまうと同時に
関西と関東の文化の相違点について考察する面白さを更に見出すきっかけとなりました。
私が高校生の頃に書いた人生初の大阪上陸であった修学旅行の文集のような締めになりましたが
大阪の舞台芸術の殿堂であろうフェスティバルホールにて山本さん版『白鳥の湖』全幕をオーケストラ付きで鑑賞できたのはたいそう幸運。
視点や切り口の面白さに再演触れ、上演時間縮小の傾向がある近年の傾向から離れてあえてしっかりと終盤のコール・ドも見せる、音楽も聴かせる、
しかも舞台に引き寄せられるためか時間が長く感じず、寧ろグランド・バレエを心から堪能した心持ちになれる演出でした。またの上演お待ち申し上げます。





行ってみたいと思っていた太陽ノ塔洋菓子店へ。看板上部に、まいどおおきに、と記されています。府内に何店舗かあるようです。
そういえば、2021年の山本さん版白鳥初演は太陽の塔がある吹田市の市制記念としての公演でした。



お目当ては、スワンケーキ!ロールケーキにホワイトチョコレートで作られた頭と首、
羽はメレンゲ、胸元にはおリボンらしきクリームもあるお洒落な白鳥さんです。
とても丁寧に作られていて、スポンジの質感はしっかりされどふわふわ。ちなみにブラックスワンもございます。(但し茶色)
ピンク色のマグカップにお花や果物が描かれているのも可愛らしい。カトラリーはアンティークゴールド。優雅な所作を心掛けたくなる色彩、形です。
コーヒーの深みある挽き方も嬉しい味わい。そして内装にも注目。



額縁から白鳥さんが飛び出してきました



「ワテも山本さん版白鳥観たいさかい」と語りかけたかったのでしょう。
或いは「だいたいなあ、チャイコフスキーさんとサンサーンスさんが白鳥は優雅な生き物って勝手にイメージを作りはって
ほんまはワテらはガーガー鳴くわ、ガニ股でバタバタ歩くわ、賑やかな鳥やねん。
あの湖畔のアダージョなんて7分も持たへんわ。気性に合っている曲は2幕湖畔のコーダの4羽の白鳥さんらが
ジャガジャジャンガ、ジャガジャジャンガと勇壮にケンケンしていく曲くらいやで。白鳥を優雅に静かにできはるのは人間さんだけやから」とでも訴えたかったとか。
(管理人、今年で大阪での観劇は18年、訪問回数は70回を超えておりますが、未だきちんとした大阪弁を話せません)

着席すると真横に白鳥さんの圧。ふかふかのぬいぐるみな作りです。レジ近くにはオデットらしきバレリーナ人形もあり、是非足をお運びください。



昨年9月にも行きましたが、心斎橋パルコのどんぐり共和国。この場面、トトロ達のプリエが見どころ。深いところからの引き上げができているのです。
いわゆるジューシーなプリエ、でしょう。




猫背なカオナシ。私も気をつけます。



千と千尋な世界、迫力あります。この日の山本さん版白鳥出演者の中に、千と千尋の神隠しが大好きな知人が出演。
白鳥コール・ド登場にて、先頭を走りながら頼もしく仲間達を率いていました!
1年前の2月、初台で落ち込む私をオペラシティのオアシスにてずっと励ましてくれた優しいお方でございます。
せっかく大阪から東京まで観劇に来たにもかかわらず地元の人間の励まし慰め係を担うなんて思っていなかったでしょうが、優しさの塊な人柄なのです。



どんぐり共和国はしご、梅田のルクア店。あなたはだあれ、の場面を思い出します。気分はメイちゃん。



オーロラ姫を目覚めさせるデジレ王子のいる角度。どんぐりもいっぱい。



魔女の宅急便、グーチョキパンもありました。お届け物の依頼をしましょう。
天候とカラスには左右されますが、(身代わりジジ、手に汗を握りました)渋滞の心配はなさそうです。
パンも美味しそう。宅配の申し込みのついでにたくさん買ってしまいそうです。



お昼は会場近く、歴史ある建造物ダイビル本館1階にあるドイツ、オーストリアなカフェへ。カフェアマデウスだったか。レリーフな模様が美しい。



ビールグラスの模様が中世の写本に描かれていそうな絵でとても素敵。季節外れな温暖気候であったためぐびっと呑んじゃいました。
ハムやザワークラウトも塩っぱ過ぎない味で、お勧め。デザートも何種類かあるようです。



淀屋橋から眺めるフェスティバルホール。大阪府の中でも特に好きな景色の1つ。川と重厚な建築、ビル群が調和した穏やかな風景です。



フェスティバルホール、快晴です。



宿泊先は会場すぐそば。お1人様で2人部屋プランなるものがありました。お布団を敷いて就寝する部屋で、エアウィーヴだからかふかふかで気持ち良し。
お風呂とお手洗いが別々であるため(入浴時寛げるので嬉しいのです) チェックイン後に大きなバスタブでゆったり入浴し、
サスペンスドラマの再放送を見ながら柔らかなお布団でつい昼寝笑。



大階段



夜になると蝋燭が灯されるロビーのテーブル。



終演後は北新地の鉄板焼きお好み焼き屋さんで乾杯。西日本中心にあらゆるバレエ公演や発表会でお馴染みの女性カメラマンさんと語り合いました。
こちらのお店、終演後でも営業していそうなお好み焼き屋さんを事前に何店舗か調べていた中で候補にあげていたお店でしたが大当たり。
お値段はそこまで高くもなく、しかし牡蠣炒めや牛すじ炒めにしてもタコ玉のお好み焼きにしても
味付けが変なコッテリ感がない上にふわっとした焼き上がり。上品な味付けでした。ああ、山本さんなお好み焼き鉄板焼きだ、と感想一致。



とん平焼き。まず東京で食べる機会がないため注文。薄くのばした具をこれまた丁寧に包んでいて、注文して正解でした。
広々した店内で席の作りも間隔に余裕があり、お店のスタッフの方々もさっぱりと朗らかな方ばかり。寛げる雰囲気です。
今回の白鳥や、都内のバレエ団の大阪公演鑑賞感想から健康維持の秘訣もお聞かせいただき実りある時間となりました。
私の観劇生活についてもたくさん聞いてくださり、救われる言葉も多々いただき、励まされっぱなしでございました。
加えて、大阪のバレエにおけるメイクの濃さの疑問もぶつけてしまい、あのオデコや耳前にクルクルカールを描くのは何やねんと
失礼極まりない質問だったかと思いますが汗、でも長年の疑問なんです。うどんのお出汁とは逆で、バレエメイクは関西(大阪)は濃く関東は薄い。



夜の肥後橋。



おはようございます。題名のない音楽会を視聴したり(趣味においてはクラシック音楽三昧な環境に身を置いているせいか
この日の番組テーマであった、耳に馴染みはあっても曲名や作曲者が分からない特集にて、サンサーンスの白鳥やラヴェルのボレロが取り上げられていてびっくり)
チェックアウトぎりぎりまでエアウィーヴのお布団にくるまっておりました。自宅ではないねん笑。
しかも夜には東京の自宅に着く前にパリへ行くんやで。そんなこんな、晴天に恵まれ、梅田まで徒歩移動。



切りかけてしまいましたが梅田にて食べてみたかったピスタチオクリームトースト。
パンにさくっと染みていて美味しい。コリコリしたピスタチオの食感も散りばめられています。



梅田のヨドバシカメラで見つけた阪神タイガースポテトやチーズ包みおかきと、アサヒリッチビールで乾杯。
山本さん、この度は再演おめでとうございます!そして昨年は阪神優勝おめでとうございます。
王妃様のドレスに獅子が描かれていたことも思い出しつつ、この後は上野へ直行パリ・オペラ座『マノン』です。
さらば大阪、また会う日まで!!

2024年2月15日木曜日

オルガンとバレエが出会ったヨコハマフランス祭り オルガンavecバレエ 2月10日(土)《横浜市中区》




2月10日(土)、神奈川県民ホール小ホールにて、オルガンavecバレエを観て参りました。
中田恵子さんのパイプオルガン演奏と遠藤康行さん振付の舞踊が合体した、これまでにお目にかかったことがない形の企画で
オルガンの無限な可能性と舞踊との好相性に気づかされた大変面白い公演でした。
https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/avec_2023

https://ontomo-mag.com/article/interview/organ-avec-ballet/


※県民ホールホームページ参考

企画・演奏:中田恵子
振付:遠藤康行
舞踊:渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花
照明:櫛田晃代
照明チーフオペレーター:成久克也
舞台監督:藤田有紀彦
プログラム:
第1部
『ロバーツブリッジ写本』(14世紀)よりエスタンピー・レトローヴェ
渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

A.ヴァレンテ(ca.1520-1581):松明の踊り
三宮結、田中優歩

M. ヴェックマン(1616-1674):第1旋法による5声の前奏曲※

J. パッヘルベル(1653-1706):カノン
遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

J.S. バッハ(1685-1750):小フーガ  ト短調   BWV578 ※

G. ボヴェ(1942-):ピンクパンサーのフーガ
周藤百音、斉藤真結花

G. ガーシュイン(1898-1937):アイ・ガット・リズム
渡邊峻郁

J-L. フローレンツ(1947-2004):「賛歌」作品5より、第7曲 光の主
渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

第2部
P. チャイコフスキー(1840-1893):「眠れる森の美女」より、第1幕 ワルツ
渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

C. サン=サーンス(1835-1921):白鳥
遠藤ゆま

F. メンデルスゾーン=バルトルディ(1809-1847):ソナタ 第1番より、アダージョ ※

C.V. アルカン(1813-1888):《ペダルのための12の練習曲》より、第4番
三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

C.ドビュッシー(1862-1918):牧神の午後への前奏曲
渡邊峻郁、遠藤ゆま

C-M. ヴィドール(1844-1937):《オルガン交響曲 第5番》より、トッカータ
渡邊峻郁、遠藤ゆま、三宮結、田中優歩、周藤百音、斉藤真結花

※オルガン・ソロ



中田さんや、神奈川県民ホールで制作に携わっていらっしゃる中野さんの投稿にて、リハーサル写真や舞台写真も多数掲載されています。


遠藤康行のインタビューをお届け!『オルガン avec バレエ』

DancersWebさんの投稿 2024年1月23日火曜日



〈オルガンavecバレエ〉終演しました。 難曲になるとなぜか自分も一緒に緊張してしまい。 特に前半は、普通の演奏会でもバレエ公演でもない公演にお客さんと一緒にドキドキしました。後半はほぐれて拍手がたくさん。こういうものなんだと、やる側も観る...

中野敦之さんの投稿 2024年2月10日土曜日












まず私はオルガンの知識が皆無に近く、オルガンと聞いて思い浮かべるのは教会やコンサートホールにあるパイプオルガン、
或いは小学校の教室に置かれ音楽の授業で先生が弾く中型のもの、あとはバッハ、といった印象。
殊にパイプオルガンに関しては、教会の礼拝にしてもコンサートにしても荘厳に奏で、
奏者は後ろ向きであっても口を真一文字にした険しい表情が背中からも表れて大真面目に弾いている印象しかございませんでした。
(オルガン業界の皆様、偏重なイメージをお許しください)
そんなわけで、オルガン1台の演奏とバレエが共演と聞いても想像ができず、更には曲目を見るとガーシュインや映画音楽もあり
神聖で厳粛な空気を壊さぬよう奏でているお堅い印象しかないパイプオルガンでジャズ要素を盛り込んだ軽快な楽曲をいかにして披露されるのか
バレエでもお馴染みな『眠れる森の美女』花のワルツやサンサーンスの『白鳥』、
ドビュッシーの『牧神の午後』の編曲やバレエとの相性、構成も含め誠に失礼ながら不安すら過っていたのです。

ところがどっこい。様々な不安は幕開けから吹き飛び、まず中田さんの色彩感豊かな演奏に驚愕。
自在に色付けするかの如くキラリと光を放っていくような演奏で、最初の数秒間でこれまで抱いていたパイプオルガンの偏重な印象は消え去っていったのでした。
またバレエとの相性の良さにも驚かされ、決して一方通行にならず、演奏とバレエが瑞々しく溶け合って昇華していき
舞台真正面に聳え立つパイプオルガンは堅固な舞台装置も兼ねていた印象もあってか
堅苦しさは無いものの何処か神聖な香りと清らかな余韻が残っていく、そんな心地良い空間を味わえた思いでおります。

中でも印象深かった曲がいくつかあり、1本はガーシュインのアイ・ガット・リズム。
昔から好きな曲であり、まさかオルガンで聴く日が到来するなんて夢にも思いませんでしたが
お洒落な空気を軽快に表現なさる中田さんの演奏と、意外と申したら失礼ですが渡邊さんの品良くも飄々とした軽やかな乗り具合がぴたりと合わさって
演奏前に渡邊さんが手を差し出してのどうぞ~、の掛け合いも楽しく映った次第です。もう舞台からはみ出そうな心配も演出のうちなのか笑
所狭しと跳び回って魅せる術に音楽目当ての観客も沸いていた様子で、開始と同時に
突然客電もほぼ明るくなる仕掛けも含め、あっと驚く洒脱な味わいが詰まったプログラムでした。

もう1本は牧神の午後への前奏曲。下手すればぼんやりしがちな微睡むような旋律を音の1粒1粒から柔らかな輝きが弾けるような中田さんの演奏が
大きな優しいベールとなって包み込まれるような心持ちとなる中、遠藤ゆまさんの若い大胆さと
情熱を秘めながら包容する渡邊さんのワイルド且つ穏やかな力が絡まってのパ・ド・ドゥから目が離せず。
予測不可能な身体能力での造形美なる競演で、ゆったりした曲調の中で芽生える刺激の張り合いにも釘付けになりました。

バレエで馴染み深い『眠れる森の美女』花のワルツはオルガン1台であっても大編成のオーケストラとさほど違和感無く、躍動感たっぷり。  
2021年に東京文化会館で観た、渡邊さんも出演された日本バレエ協会公演における遠藤康行さん振付コンテンポラリー『いばら姫』幕開けを思い出しつつ
文化会館大ホールとは面積も見え方も全く異なる間近で聳え立つパイプオルガンの演奏と共にパワフルに弾け散る踊りを鑑賞するのは鮮烈な体験でした。

オルガンの構造からしてイメージを覆されたのが『ペダルのための12の練習曲』。
そもそもピアノと違ってペダルそのものから音が出ることすら知らずにおりましたので、ペダルのみで曲を奏でていく様子に仰天でございました。
しかも椅子の両脇を両手で掴みながら脚を腿上げ運動のようにしてペダルを押す姿は
バレエダンサーやスポーツ選手も驚きを隠せないであろう、強靭な腹筋や背筋が不可欠。オルガンとバレエの脚技競演で中田さんの身体能力にもたまげた1曲でした。

序盤から中田さんの色彩豊かな演奏に驚かされ、プログラムは古楽から映画音楽までも用意した変化に富む構成で、オルガンのド素人な私が
パイプオルガンと聞いて咄嗟に思い浮かべる、小フーガト短調もあれば(NHK名曲アルバムでのドイツの教会と険しい顔したバッハの像が映し出される映像も)
これでオルガン⁉と意表を突く選曲もあったりと飽きさせない曲構成に楽しませていただきました。
全曲解説掲載付きで、古楽から歴史を辿り舞踊は抽象的にまとめた第1部に対して
第2部はより具体性や物語性を強めた演出で、全編通して演奏舞台の世界へとスムーズに入り込む大きな助けとなりました。
遠藤ゆまさんら若手女性ダンサー達の踊りの巧さ、フレッシュな魅力にも背中を押されるようなパワーを感じさせ、1人1人少しずつ異なる編み込みヘアもお洒落。
何より、渡邊さんが洒脱系から魔物系まで切替巧みに万華鏡の如きコンテパワーを全開にして何曲も踊られるお姿を、
時には衝立或いは楽器の作りを生かしてオルガンの下の辺りからひょっこりと登場なさるなど
登場からして斬新な振付を間近で鑑賞できた喜びは、当日会場すぐ隣の昼下がりの時間帯におけるの横浜港を照らす晴天の青空を突き抜ける勢いでございました。

それから、遠藤康行さんの振付も実に入り込みやすく、我が脳内で疑問符が一切なく進行していったのは初かもしれません。
あくまで私の視点ですが大概1箇所は突っ込みどころがあり、無音や無に近い音響の中で延々と床でごろごろ寝転がる振付が今回は無く一安心した次第です。
いかんせん、2018年に新国立劇場で開催されたジャポンダンスプロジェクト夏ノ夜ノ夢にて
せっかく渡邊さんが踊るコンテンポラリーを念願叶って初鑑賞、しかも第2幕は下着一枚姿でいらしたにもかかわらず
音楽構成といい、特に2幕でのひたすら息継ぎオンパレードな振付といい受け入れ難さがまさってしまったのは今も脳裏に焼き付いております。
2021年のいばら姫でも、発砲スチロールだったか用いながら床でゴロゴロ、もあったはず。
しかし今回はまずは中田さんの演奏ありきで、また演奏目当てに来場の観客も多数いることが良い意味で制約になったのか!?
音楽を目一杯生かして斬新過ぎる調理はしない路線が吉と出たのか、最初から最後まで疑問符の出番は無し。
オルガン演奏とバレエの醍醐味を最大限に味わえるように、またそれぞれの初鑑賞者も
距離感を抱かないよう、工夫が行き届いた振付演出であったと捉えております。

終演後はアフタートークもあり、中田さんと遠藤康行さんによる歯切れ良くも穏やかな対談を拝聴。
第1部と第2部の構成での工夫や、お互いにフランスで長らく仕事をしていた共通点、
また大学生のときにバレエを始め数年間レッスンに通われた中田さんが語る、オルガン演奏に役立つバレエの体幹鍛錬の好影響話も出たりと
楽しさ満載なトークでした。今回ダンサー達に合わせて中田さんもバレエな衣装で演奏されたことについて
非常に動きやすいと感激なさっていた様子であったため、今後の演奏会の衣装が変わってきそうですねと遠藤さんも引き続きの着用を推奨。
この日も東京はパリ・オペラ座来日公演祭りで『白鳥の湖』昼夜両方完売な盛況でしたが
中田さんに遠藤さん、そしてプロとしてのキャリアをトゥールーズのカンパニーで開始され、
10代の頃より古典からコンテンポラリー作品まで幅広く務めてこられた渡邊さんトリオが主軸となって実現した今回の企画は
東京のパリ・オペラ座来日公演や会場近くの中華街を爆竹や獅子舞で賑わせていた春節にも負けぬ、横浜における盛大なフランス祭と位置付けております。再演を熱望です。
 


※急遽カーテンコールは撮影可能と中田さんが舞台上から告知してくださいました。真正面席に着席していながら我が写真撮影の腕の下手っぷりはお許しください。
写真も下手、バレエも下手、絵も歌も下手、工作も下手、楽器演奏も下手、学業運動芸術全般駄目人生どうしたものでしょうか。
そう自覚して何十年も経過しておりますが。



出演者と振付家全員横並び。



「礼」の姿も美しや。こちらまで自然と背筋が伸びます。



きゃ!



顔出しパネル撮影スポット



この日は晴天に恵まれ、開演前には会場隣の山下公園を散策。いかにも港のヨーコの横浜港らしい風景です。
この後はこの青空以上に爽やかなダンサーを間近席で鑑賞いたしました。目は終始心臓印。



横浜大世界。辰とパンダ。



帰りは中華街の飲茶へ。春節真っ只中で、爆竹の音と匂いが街中で賑やかな祝福感を強めていました。
友人が予約してくれたお店、今年で創業35周年らしい。私の観劇歴(劇場でのバレエ鑑賞が趣味であると自覚してから)と同じ年月です。



紹興酒で乾杯。ああ、幸せな時間です。横浜で大好きなダンサーを観た後に中華街で飲む紹興酒は格別の美味しさです。
(札幌ではサッポロクラシック生、山口県ではひれ酒と、全国各地で似た発言しております私でございます)



前菜3種。海月の歯応えが面白い。



小籠包、香菜入り牛肉焼売アスパラのせ、大根ぎょうざ。大根ぎょうざのしっかりとした食感とさっぱり感の合わせ技が新鮮。
立て掛けてあったメニュー裏側の絵も人間味が感じられて素敵です。



チャーシュー入りクレープ、海老のウエハース巻き揚げ。お茶はジャスミン茶です。



ふかひれ入りスープ



大海老と春雨のピリ辛サテー風味



小柱入りチャーハン香港えび味噌風味!



なめらか杏仁豆腐。



ビントレー版『アラジン』より一足お先に本物の獅子舞!商店街を練り歩いていて、店舗にも立ち寄るらしい。
あの音楽が脳内旋回!!色鮮やかで滑らかな足運びでした。
1月の山口県防府市に続いて今年2度目のかぶりつき鑑賞後にお獅子さんからのかぶりつき。良き年になりますように。

2024年2月14日水曜日

小澤征爾さん





世界の巨匠、小澤征爾さんの訃報に悲しみが広がり、小澤さんの活躍、貢献についての記事を一段と多く目にしております。
ご冥福をお祈り申し上げます。


残念ながら私は小澤さんの指揮を生では拝見したことがなく、映像やCDで触れるのみでしたが、
クラシック音楽にさほど親しみがない方であっても名前は何処かしらで見聞きしたことはあるかと思います。

つい先日2月10日(土)に神奈川県民ホールへ行ったとき、配布のチラシに小澤征爾さんの音楽塾コジ・ファン・トゥッテがありました。
挨拶文や音楽監督名に小澤さんのお名前、顔写真が掲載され、音楽塾のプロジェクトはしっかりと引き継がれて行くことでしょう。

先ほど私は小澤さんの指揮姿を目にしたことはないと申しましたが、随分前に妹が子供の頃に街中で見かけたことがあるそうで
つい手を振りながら話しかけてしまったらしい。世界の巨匠、気さくに言葉を返してくださったと心に今も刻まれているとのこと。
大リーグレッドソックスの上着を誇らしげにお召しになっていたこともよく覚えているそうです。

22年前、その頃は時々見ていた流行系音楽番組では週間CD販売数ランキングに小澤さん指揮のウィーンフィルニューイヤーコンサートCDがランクイン。
例えば坂本龍一さんのピアノ新作のソロ曲がランクインしたときはありましたが、所謂クラシック音楽コーナーにて販売されている類のCDとしては異例な出来事で
約20年は視聴をご無沙汰している音楽番組ですが、私の記憶の限りクラシックのCDがランクインしたのはこのときのみであったはず。
ラデツキー行進曲を指揮する小澤さんの映像が流れると、司会のタモリさんも驚き嬉しそうな反応をなさっていたのは記憶しています。

そのウィーンフィルニューイヤーコンサートCDを借り、じっくり聴いてみようと思う今晩でございます。
※NHKバレエの饗宴2024が放送予定であった2月18日は小澤さんの追悼番組に変更とのことです。




2002年のニューイヤーコンサートCD。



白鳥の湖全幕CDも在庫にあったので借りてきた。週末に鑑賞するため、気分を高めに、また演奏聴き比べも兼ねて聴いてみます。