2023年2月22日水曜日

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2022/2023

英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2022/2023 ロイヤル・バレエ『ダイヤモンド・セレブレーション』を観て参りました。
http://tohotowa.co.jp/roh/movie/?n=a_diamond_celebration2022






まだ上映中ですのでさらりとした程度にとどめておきますが、ロイヤルの伝統から先鋭系まで歴史を辿る作品が並び、振付家へのインタビューや作品によっては初演ダンサーの写真も紹介されたりと舞台上の映像以外も充実。
また昨夏の来日公演ガラでは、今年6月の来日公演の東京会場のすぐそばに住んでいた2017年生まれのスターが
本日東京を旅立ち引越し先として話題となっている地域の麻婆豆腐級辛口感想ばかりを連ねてしまった、決して筋金入りロイヤル愛好者ではない
プリンシパル始め主役経験者の名前にも詳しくはない私も心から満喫いたしました。23日までの上映ですので迷っていらっしゃる方はどうぞ足をお運びください。
解説によればロイヤル・オペラ・ハウスのファン組織60周年を祝福する公演であったそうです。(プロ野球でいうファン感謝デーでしょうか)

幕開けはラフィーユ・マル・ガルデ序曲。曲を聴いているだけで、例え無背景であってものどかな田園風景やニワトリの鳴き声が聞こえてきそうでほっこり。
パ・ド・ドゥはアナ=ローズ・オサリヴァンのつま先の細かな刻みや腰の捻り1つにしても音楽を放っているようで気持ち良く鑑賞いたしました。
『マノン』第1幕寝室のパ・ド・ドゥは高田茜さんが燻った退廃感を匂わせる魔性の少女っぷりに驚かされ
カルヴィン・リチャードソンは失礼ながらお名前も存じていなかったものの(無知で申し訳ございません)、
純朴な苦学生なひたむきさとマノンの恋い焦がれ甘美や快楽の世界へと身を置き始める危うさが合わさって、抜粋であっても物語の中へ没入できた気がいたします。
ウェイン・マクレガー振付の『クオリア』はシンプルなレオタード(確か)であっても
均整のとれた身体が繰り出すシャープな柔軟性が光るメリッサ・ハミルトンに衝動を覚えました。

FOR FOURは男性4人が踊るクリストファー・ウィールドン振付作品 で、世界初演時と同様に今回のバレエ団初演も
マシュー・ボール、ジェームズ・ヘイ、ワディム・ムンタギロフ、マルセリーノ・サンベ、と全員主役級クラスを投入。
男性のみの作品と聞くと力強さ強調系かと思いきや良い意味で逆行していて、しっとり物憂げなシューベルトの音楽にのせて滑らかに動きを紡いでいく展開でした。

最も先鋭的と思わせたのはジョセフ・トゥーンガ振付SEE US!!。ヒップホップを取り入れたそうで、重心低く弾む振付が多々あったかと思います。
正直ヒップホップとバレエが結びついてこその化学反応と唸らす印象は薄めでしたが(失礼)、バレエの寛容性に再度気づかされた次第です。
近未来風のレオタード衣装で踊る『ディスパッチ・デュエット』ではウィリアム・ブレイスウェルがモダンなものを踊る姿が新鮮で
(私が単に観ていないだけかもしれぬ)オサリヴァンのパワーやオーラに負けぬ身体能力の駆使に着目。
また上演前のインタビューにて振付者パム・タノヴィッツの口から出た「新しい環境に飛び込んで自分を追い込むことで成長する」といった内容の言葉は心にずしり。
今も時折脳内再生が止まらずであったのはブノワ・スワン・プフェール振付『コンチェルト・プール・ドゥーふたりの天使』。
映画『シェルブールの雨傘』を好む者として歓喜する選曲で、この音源もダニエル・リカーリが歌っているものかと思います。
踊りのスケールも近年更に拡張化したナタリア・オシポワと、ルドルフ皇太子役も踊っているとはいえ私の中では晴天系作品の印象が強いスティーヴン・マックレーが
郷愁感を覆いながら疾走したり2人の身体同士吸い付き合ったりとめまぐるしい展開も飽きさせず。

そしてFOR FOURと対をなす作品として振り付けられたとの話から興味津々であった『プリマ』は世界初演。振付は現団員のヴァレンティノ・ズケッティ。
どうやら私が観に行った2013年のロイヤル来日公演『不思議の国のアリス』3幕で3人の庭師だったようだが記憶欠乏で失礼。
フランチェスカ・ヘイワード、金子扶生さん、マヤラ・マグリ、ヤスミン・ナグディが時に流麗に、時にきびきびとクールに舞い、同時に舞台に整列しかも背景も無し。
ヴィヴィッドカラーを組み合わせ、スカートの一部分が捲れて裏地を生かしたデザインも大胆で
FOR FOURと同様来日公演での鑑賞がより楽しみ。Bキャストも観てみたいと欲が増している段階です。特に佐々木須弥奈さんがどのパートに入りどう踊るか気になります。

締め括りのバランシン振付『ダイヤモンド』全編は使用曲でチャイコフスキー作曲の『交響曲第3番ポーランド』及び
2006年のマリインスキー来日公演でお目にかかったロパートキナ率いる布陣での全編披露における高貴で崇高、繊細な空気感や
近寄り難い威厳とほのかに見せる温もり、アンティークジュエリーを思わす頭飾りや衣装の装飾といい生涯忘れぬであろう名舞台がどうしても横切ってしまい
比較はしないと決意しても難しうございました。ただロイヤルのパワー溢れるゴージャスなダイヤモンドを確認できたのは誠に収穫で
マリアネラ・ヌニェスの圧倒的女王オーラに僅かな親しみやすさも含まれた魅力、脚線が真っ直ぐで立ち姿は綺麗なリース・クラークのペアもなかなか宜しうございました。

だいぶ大雑把な感想で失礼。されど大充実内容で、どれもこれも好みではないからこそ観る大切さを再確認した鑑賞でした。




帰り、映画館が異様な混雑で何事かと思いきや『耳をすませば』上映期間中であったもよう。
1995年公開であっても完売日続出であったようで、公開当時は誕生前と思わしき若い世代の方々も続々入場されパンフレットも購入されていて
公開当時2回劇場に足を運び鑑賞した私も嬉しくなったものです。プレトークなら喜んで引き受けますが、依頼は当然ながらございませんわら。
それはさておき、同時上映された小作ON YOUR MARKも上映されたようです。
ところで耳を、、、に描かれた、主人公の中学3年生月島雫と天沢聖司の色めく展開に黄色い歓声をあげていた方は多数いらしたようですが
私の中では雫の親友原田夕子の父親が視聴している野球中継解説者役にに江川卓さんが配され、
そして雫が食するお菓子のパッケージが「ラッコのマーチ」であった2点にこそ宮崎駿監督のこだわりと美意識を感じた1995年当時の管理人です。



タイタニックも上映しているらしい。セリーヌ・ディオンが歌う主題歌も、大海原を旅するおおらかさを思わせる良き曲でございました。



帰りは映画館と調布駅近くのこちらへ。



イングランドのビールで乾杯!



フィッシュアンドチップス。衣が薄く変な脂っこさもなく、サクッといただけました。



グラスにも模様あり。アクリル板には京王線や深大寺、味の素スタジアム、映画撮影所等調布の名所が描かれている、地元密着なお店です。

2023年2月19日日曜日

節度を重んじるプリセツキー版 牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』2月18日(土)





2月18日(土)、牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』を観て参りました。牧バレヱのドンキ全幕は
映画『Shall we ダンス?』が公開された1996年、草刈民代さん張衛強さん主演公演以来27年ぶりの鑑賞です。
※当時のキャスト表によれば、日髙有梨さんがキューピッド子役で出演していたようです。
https://www.ambt.jp/pf-don-quijote2023/





前回公演のハイライト映像。



リハーサル映像。光永さんと水井さんペア。


スパイスイープラス、光永さんと水井さん登場。
https://spice.eplus.jp/articles/314407




キトリ:阿部 裕恵
バジル:大川 航矢
森の女王:高橋 万由梨
キューピッド:山本 翔子
街の踊り子:中川 郁
エスパーダ:石田 亮一
キトリの友人:上中 穂香   阿部 千尋



阿部さんのキトリは3幕のみはNHKバレエの饗宴2019にて観ておりましたが、全幕鑑賞は初。
澄ました愛らしさが全身から匂い立つ品のあるキトリで、抑制を効かせつつも決めるべき箇所では
はっと思わせる颯爽としたポーズで魅せるチャーミングなヒロインでした。

大川さんは豪快さに節度が増し、周囲との調和も万全なバジル。実のところこれまで観たガラ等における超絶技巧満載な大胆志向な踊り方の印象が強烈でしたので
最初の登場時から飛ばしてくるかと想像しておりましたが意外にも落ち着いた舞台運びでびっくり。
しかし、考えてみると牧で踊られるプリセツキー版は全体通して派手にパワフルな趣きが極力抑え目な演出で、勢い良くこなす箇所が殆ど見当たらず。
つまりプリセツキー版の全幕舞台にも調和するよう、よくよく考察しての役作りであったかと思わせました。
大川さんならば、もっと高く跳ぶことも多く回転することも可能な身体能力と技術者の持ち主なのでしょうが
1人ぶっ飛びお祭り番長な舞台姿では特にプリセツキー版では浮くどころか雰囲気を壊しかねない事態になることでしょう。
その代わり、キトリ友人との踊りや3幕ソロ、コーダは一気にテクニック炸裂。但し乱雑さは無く、あくまで四肢をコントロールしながらでしたから、観ていて爽快な後味がありました。

ところで阿部さんも大川さんも決して背が高いほうではなく手脚がとても長いタイプではないながら、舞台上では主役らしいオーラや存在感も抜群。
阿部さんは見せ方をよく心得ていて、ポーズの切り替え方がとにかくカチッと嵌り立体感もあって美しく
大川さんは例えば跳躍から着地したあとの移動が俊敏且つ一歩一歩の釈が長く、細部に至るまでスケールも十二分。
当初はおとなしい宿屋の娘と暴れん坊床屋(失礼)になるかとやや不安視もしていたパートナーシップもいたく宜しく
演奏もテンポが速くはない、時間の流れがゆったりな演出に沿いながらも
いかにして踊りも存在感も大きく示していくかの追求の積み重ねが合致した、良きペアでございました。

友人2人組の上中さんの軽やかさと愛嬌溢れる踊りや阿部さんのぱっと輝く朗らかな姿も目に残り
脚の出し方1つにしても呼吸がぴたりと合っていて、真っ黄色な古風な衣装を気にさせぬ魅力が満開。
山本さんのキューピッドふわふわっと跳びはねつつ儚い可愛らしさに溢れる妖精ぶりや、恋の手助けをきびきび行う場面の仕切り力も好印象でした。
結婚式にキューピッド達が再び登場する演出は話に筋が通らずそんなに好みではないものの
山本さんが再び登場するならと勇んで観察。チリチリカール鬘も違和感なく付けこなす容貌にもニンマリが止まらずであった私です。

石田さんのエスパーダはすらりと粋に捌いていらしたのが印象深く、空気がガラッと一変。
中川さんの全身から放つ色気が更に強まったと思わす街の踊り子も目にでき嬉しうございました。
今夏の『三銃士』では再び中川さんミレディを鑑賞できたらと願っております。牧バレヱのレパートリーの中で一番好きな作品です。
踊り子のジグザグ教習所ダンスなる場面にて、闘牛士達はナイフは刺さず持ち手部分を床に置くスタイル。
バタバタ倒れるよりはずっと好ましい演出と捉えております。(確かバレエ協会も同じ演出であったかと記憶)
メルセデスの三宅さんの芳醇な熟女っぷり(褒め言葉です)も驚かされ、昨秋の『誕生日の贈り物』でのソロにて
背中から優しく語り掛けるような踊りが2階の隅席にいた私にまでも目に響いてきたのが記憶に新しいだけに
今回はエスパーダへの色濃いアピール力やツンとした表情から流れるように移りゆく酒場のソロに釘付けとなりました。

最初に述べた通り牧バレヱドンキ全幕鑑賞は27年ぶりで、記憶を掘り起こすも草刈さんの艶やかさと張さんの切れ味、プロローグが長かったといった回顧しかできず。
久々に観てみると演出でなかなか面白いと感じたのは、酒場への道中がきちんと描写され舞台上にも現れている点。
緞帳が下りた状態で酒場の冒頭部分の賑やかな音楽が流れる中で上手側から下手側へと横切りせっせと目的地へ向かう街の人々や闘牛士達、
そしてキトリとバジルが横切りそうになると中央で両手を下から上へと大きく掲げ、再び幕が開いて酒場が出現しました。

また狂言自殺後もほっこり安堵な展開で、騙されたあげくにキトリとバジルの結婚を認めてしまった現実を容易には受け入れられないロレンツォを
居酒屋店主が懸命に慰めていると、ようやく許しを決意したロレンツォがバジルを呼び、怒りをぶつけるように見せかけ驚かせるもお酒を酌み交わして和解。
そんな光景を後方にて、ドン・キホーテにそっと寄りかかったキトリが2人で見守る、ほっと和ませる演出でした。
この場面は実に様々な描き方がありますが、思えば最大の壁はバジルに対するロレンツォの不満でしたから
その問題解決を身を寄せて静かに喜び合うキトリとドン・キホーテの描写はとても説得力があると思わせます。
プリセツキー版『ドン・キホーテ』初演の年の1989年に私が初めて手にしたバレエ書籍に当時の舞台写真が多数掲載され
主演は川口ゆり子さん三谷恭三さん組と、平成元年当時は若手として紹介されていた草刈さん張さん組。
その中に、草刈さんキトリがドン・キホーテに優しく抱き寄る写真があり、いったい何の場面であるかずっと疑問を持ったたままであったのです。
27年前の1996年には意識せずに観てしまったのか解決せず。ようやく今回2023年になって把握に到達。
初めて写真を目にしてから早34年、随分と長い年月を要してしまいました。気づけば趣味が不変である点に関しては
牧バレヱ全幕ドンキ前回鑑賞時の3ヶ月前の夏、アトランタ五輪のマラソン銅メダリスト有森裕子さんの名言を拝借し、自分で自分を褒めてあげたいと思います。

装置や美術は思った以上に凝っていて、柱や壁の質感がとてもリアル。代々長年に渡って人が住み続けてきた温もりも感じられる作りです。
またロレンツォの宿食堂が2階建てで、ガマーシュは途中から2階席の窓側へ移動。闘牛士達の場面は2階の窓からハンカチ振って眺めていたりと
店内での過ごし方も思いのほか丁寧に描かれていました。その後再び1階テラス席に移動して
今度は食事(ワンプレートに料理が定食並みに多種のっていた気がいたします)も出てきて味わっていたかと思います。
酒場がまた凝った構造で、入口を抜けると地下に続く洞窟のような2階建て。
上の階の席にも呑み客が酒を楽しんでいたり、階下にはテーブルがぎっしりと並び、客も多く繁盛店でした。

幕が終わるごとに闘牛士達が緞帳前に並んで一斉に歓迎ポーズを取り、そして主要役を迎え入れては
レヴェランスが行われる儀式もどこか懐かしく、されど時間を割いて行うのもかえって今は新鮮に見て取れます。
全体に節度が行き渡った伝統のプリセツキー版ドンキ全幕、27年ぶりに満喫いたしました。




リニューアルオープしたシビック



牧バレヱドンキを前回鑑賞した1996年の世相を考えながら水道橋駅方向へ歩く、東京ドームシティの乗り物を眺める帰り道。
ドラマ『ロング・バケーション』が流行り、久保田利伸さんが歌う主題歌でメリーゴーランドの描写で始まる曲もあちこちで流れていた年でございました。
現在も通信機器関連音痴な管理人は使用経験無しですが、ポケベルが流通していた頃かと思います。
(お若い世代の皆様、ご自身でお調べください。CDがよく売れていた時代でございます。尚、およげたいやきくんよりは現代寄りです)



水道橋駅のスペイン料理店へ行ってみた。



お皿に広がる生ハム、厚めで食べ応えあり。赤ワインも進みます。



珍しいメニューで、バスクのカニグラタンを注文。とろっとしたソースの中に蟹さんが溶け込んでいます。お出汁たっぷり、ワインが止まりません。



バレエ団創立40周年記念公演として1996年秋に『ドン・キホーテ』が開催されたときのチラシ表側。
部屋の整理整頓が苦手な性分ですが、この手のバレエ関連チラシに限っては年代別に保管しており、すぐさま取り出せる状態にあります。



裏側。酒井はなさんが期待の新星、新人賞を受賞されていた時期でございます。


2023年2月15日水曜日

区切りと再出発  東京バレエ団 上野水香オン・ステージ  2月12日(日)






2月12日(日)、東京バレエ団上野水香オン・ステージAプログラムを観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/mizuka-ueno/


12日千秋楽のカーテンコールの様子。お花の贈呈が行われました。斎藤監督、そしてゴメスも登場!







『白鳥の湖』第2幕より

オデット:上野水香
ジークフリート王子:柄本 弾
四羽の白鳥:中川美雪、足立真里亜、工 桃子、安西くるみ
三羽の白鳥:加藤くるみ、長谷川琴音、中島映理子

上野さんのオデットを観るのはひょっとしたら2006年の世界バレエフェスティバル全幕プログラムにおけるジョゼ・マルティネスと組んだ公演以来、17年ぶり。
実はそのときが東京バレエ団の『白鳥の湖』自体初鑑賞で噂には耳にしていた、結成時期から海外公演ツアー多数の東京の有名大バレエ団とは到底思えぬ
スタジオによっては昭和のバレエ教室のほうがセンス良かろうレトロな衣装デザイン、中でもロットバルトのアップリケに肩を落とし(失礼)
以来ブルメイステル版導入初演の2016年(鑑賞日は川島麻実子さん岸本秀雄さん)まで観ずに過ごしておりました。
今回は前版と思わしき2幕で、湖畔の場面のみならば白鳥衣装に湖背景のシンプル場面ですから一安心且つ懐かしや。
当然ながら17年前に比較すると踊りやポーズの張り、音楽への乗り方や滑らかさも衰えてしまった印象は否めなかったものの
ご年齢からは想像できぬ、白いチュチュを着こなす体型の維持や踊り切るスタミナ、同色衣装の群舞に囲まれても埋もれぬスター性の健在には天晴れでした。
四羽では足立さんの凛然とした足運びや身体の使い方、三羽は中島さんのすらりとした伸びやかな舞台姿に目が留まり
5月公演『ジゼル』、通い詰めたくなる展開でございます。


『小さな死』
振付:イリ・キリアン  音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト

榊優美枝 - 鳥海 創     金子仁美 - 岡崎隼也
二瓶加奈子 - 樋口祐輝 三雲友里加 - 柄本 弾
政本絵美 - ブラウリオ・アルバレス 伝田陽美 - 秋元康臣

静寂に包まれた状態で始まる、私が大の苦手とする無音展開なのだが(失礼)風を切りびゅんびゅんと響く剣の音に耳が集中するうちに音楽開始。
東京バレエ団上演にて何度か観ており、ドレスを着せたトルソーの真後ろにくっつきながら前進しすぐさま離れてレオタード姿に戻る手法には今もはっと驚かされます。
モーツァルトの物哀しい音楽を、男女ペアによる構成で身体でしっとりと描き表す構図も面白く、
向かい合って菱形だったか、脚線で図形を作り出す振付が視界に入ってくると、静けさに相反して目を覚ませる展開です。
今回は特に伝田さんの身体を傾けたときの肩のライン、そこから雫が滴り落ちるような哀愁を含んだ静かな踊りが印象に刻まれております。
そして柄本さんは白鳥の湖にて代役でジークフリート王子を踊ったあと、カーテンコールに登場せず
舞台転換時間に大急ぎで着替えて登場。切り替え力に拍手でございます。


『シンデレラ』よりパ・ド・ドゥ
振付:ルドルフ・ヌレエフ 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
上野水香、マルセロ・ゴメス

記憶が正しければ2015年の世界バレエフェスティバルでドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオが踊った舞台を観て以来。
森英恵さんデザインの衣装も世界初演時話題を呼び、未だに主演のシルヴィ・ギエムやシャルル・ジュド、
姉妹役のモニク・ルディエールやエリザベット・プラテルら黄金世代の姿がぱっと浮かびます。我が時計の針の動きが鈍い点、悪しからず。
さて話を2023年2月の東京に戻します。額を囲うピンク色の頭飾りやピンク色のスタイリッシュなドレスの靡きも眩しく
リフトされたときのポーズが流れるような姿が目に残りました。初日はアルバレスさんが代役を務めた王子(映画スター)を予定通りゴメスが務めたとはいえ
だいぶ慎重にこなしていた様子。愛と情熱溢れる踊りであったらどんなパ・ド・ドゥになったか、想像するしかありません。


『パキータ』
振付:マリウス・プティパ  音楽:レオン・ミンクス

プリンシパル: 秋山 瑛 - 宮川新大
第1ヴァリエーション:工 桃子
第2ヴァリエーション:加藤くるみ
第3ヴァリエーション:榊優美枝
ソリスト:
中沢恵理子   鈴木理央   上田実歩   中島理子   髙浦由美子   中島映理子

秋山さんが小柄な身体を思わせぬ、踊りと貫禄は巨人級のスケール感に圧倒され、最上階席で鑑賞している状況を忘れさせたほど。
ポーズをただスパスパ決めず音楽をぎりぎりまで引っ張りながらより大らかに、ダイナミックな舞台姿に繋げていた印象です。
宮川さんの淀みないテクニックが繰り出す跳躍と着地の連鎖も見事。衣装がせっかく金色軍服ながら
白地の胸元に紐の絵を描いたデザインであった点が惜しまれます。(ぬり絵に見えた汗)
シャンデリアの半立体感な作りに費やした予算をリュシアン衣装に回してあげてください。
女性陣のチュチュは色味や細かな模様もセンス良く、しかし頭飾りの金色の平たい冠がおでこに近い部分に装着されていたためか
一歩間違えると孫悟空に見えなくもない。薔薇の花と簪を除く少しの装飾でまとめた方が宜しかったと思えます。
ソリスト、コール・ドとも技術万全で統制の整った踊り方も好印象。そういえば、東京バレエ団のパキータは初見かもしれません。


チークトゥチーク
振付:ローラン・プティ 音楽:アーヴィング・バーリン

上野水香、マルセロ・ゴメス

急遽予告なしに(恐らく)追加上演。『パキータ』が終演してさあ休憩と思っていたところ客電がつかず、そうこうするうちに再び幕が開いてテーブル登場。観客歓喜です。
作品自体の鑑賞は2006年11月の草刈民代さんを中心としたアジアのダンサー多数出演のローラン・プティ作品結集ガラ公演『ソワレ』以来かと思います。
(このときは草刈さん、ルイジ・ボニーノさんが披露)
黒いタキシードに身を包んだゴメスが粋に踊り始めると舞台袖へと歩み、黒いスカート姿の上野さんを連れてエスコート。
向かい合って座ったり、テーブルに上って愛を語らったかと思えば手を繋いだまま飛び降りるようにしてサポートしたりと移動多き振付。
しかし忙しない様子は全くなく、密着と離脱を繰り返しつつノリにノッて軽快にお洒落に戯れる2人に気分が浮き立ち、昂ぶる幸で満たされました。
『シンデレラ』は正直まだ無理を押している感が残ってしまったゴメスでしたから、急遽の予告無しであっても
晴れ晴れとした余韻が広がる作品を上演が叶い、カーテンコールでの抱擁がお2人の安堵を物語っていたと感じさせます。


ボレロ
振付:モーリス・ベジャール  音楽:モーリス・ラヴェル

上野水香
池本祥真、大塚 卓、和田康佑、岡﨑 司

上野さんボレロの初見は2006年の春で、以降何度も目にしておりますから、最も頻度高く観ている出演作品です。
17年前に観たときはまだあどけない少女っぽさがあり、黒いヘアバンドをしていたかと記憶。
一番舞台近くで鑑賞できた2018年の20世紀の傑作バレエ2公演は会場が新国立劇場中劇場。(つまり最安値席でも2階)
せっかくの機会と言わんばかりに振付をじっと観察し、終盤であってもブリッジからの立ち上がりのスムーズな動きに驚きを覚えたものです。
長い年月の中で何度も観てきた作品ですから、同じ上野さんが踊るにしてもそのときによって受け取る印象も様々。
初見時はシンプルながら何処かもがき苦しむような切迫感もあった気がいたしましたが
今回は晴れ間が差し込むような希望に満ちた展開でリズムを鼓舞し率いるときも笑みが度々零れ、最後絞り上げるように天を仰いでいた様子も忘れられず。
カーテンコールではボレロのリズム隊全員から薔薇の花が1輪ずつ、そして斎藤友佳理監督、私服に着替えたゴメスからも贈呈。団員としての舞台に区切りを打ちました。
喝采はずっと鳴り止まず、赤円卓の上で挨拶をしたかと思えば中央に集められた花々を時に両脇でサポートされ空中を飛び越えながら拍手に応えたり
(下りてくる緞帳に当たらないよう途中でささっと回収と移動させたのは多分アルバレスさん!?)
上野さんを讃える拍手が会場を包み続けました。リズム隊の面々の変遷も長年見守ってこられたと思うと、
約20年も大規模なバレエ団の主役級第一線を駆け抜けてきた功績は実に大きく、特異な存在であったと思っております。
今後は新設置されたゲストプリンシパルとして、早速4月公演『イン・ザ・ナイト』への出演も決定。楽しみにしております。





グッズ売り場、ボレロパネルも登場。バレリーナ 上野水香ものがたりは雑誌クララでの連載にて時々目を通し、最初から非常に柔軟であった身体は周囲に驚かれ
コンクールに挑戦するも張り詰めた空気に苦しんでしまったことやコール・ドの難しさの体感、
東京バレエ団移籍後に佐々木忠次さんからボレロのビデオを渡された瞬間など、心の部分にもしっかりと焦点が当てられて漫画化されていました。



チークトゥチーク追加!!後出しキャスト表近くに、江戸時代の高札場の如く観客が確認に訪れていました。



鑑賞前は会場すぐ近くの上野さくらテラスの鳥光圀へ。つくねと焼き鳥とろろ丼、鶏スープそして鎌倉野菜のサラダ付き。
つくねの香ばしさ、たれも甘過ぎず好みな丼でした。会場に近く、家族からも前から勧められてはいたのだが、そうだ上野さんは鎌倉ご出身。
時々投稿されている、神奈川県の浜辺から撮影なさった浮世絵と似た構図の富士山の写真、とても好きです。郷土愛の強さも伝わります。



デザート追加。ご一緒した方はカッサータ、私は杏仁豆腐。前者はつやっと爽やか、後者はまろやかさっぱりで美味しうございました。



終演後、同じ建物内のお蕎麦屋さんへ。枡ワインが面白い。今回は珍しくプログラムも購入。
入団後すぐフィレンツェ公演がデビューでいらしたキャリアからして大型移籍だったと回顧いたします。



分厚く葱たっぷりかき揚げとお蕎麦。イメージよりも巨大でしたが、サクッとした揚げ方で塩加減も丁度良く、ワインとも合いました。



ドン・キホーテのファンダンゴあたりは牧バレヱ1996年公演でも観ていたかもしれないが(そういえば、牧のドンキももうすぐでございます)
初めて上野さんを認識して観たのは牧時代のデューク・エリントンバレエ初演時の2001年夏。
ローラン・プティ作品を踊る上野さんを観て、空間を支配するしなる脚に衝撃でございました。
実は私が人生で初めて新国立劇場に足を踏み入れたのは、このとき2001年7月26日公演だったのです。
一足遅れて我が節目の贈り物として初めてプティ作品を鑑賞しようと自身で購入したチケットも大事に保管。
まさか後年以降年間何十回も足繁く通う劇場になろうとはこのとき22年前の夏は知る由もありませんでした。
今思い返せば、偶々とはいえ鑑賞月日にも震え止まらず。
新国立劇場バレエ団公演の初鑑賞はこの3年後2004年秋の『ライモンダ』でございます。

2本のインタビュー記事はカラーが2001年、新聞記事が2000年、牧時代のもの。まだまだあどけなく折れそうなほどに華奢でいらっしゃいました。
異次元の体型に目を奪われつい保管に走りましたが、しなやかな筋肉がしっかりと付いた今の体型のほうがわたしは好みでございます。


2023年2月10日金曜日

初共演のエレガントペア  日本バレエ協会『ドン・キホーテ』 2月5日(日)昼





2月5日(日)、日本バレエ協会マシモ・アクリ版『ドン・キホーテ』昼公演を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2023tominfestival/


キトリ:川島麻実子
バジル:厚地康雄
エスパーダ:キム・セジョン
ドン・キホーテ:遅沢佑介
サンチョ・パンサ:奥田慎也
メルセデス:大久保沙耶
ジャネッタ:小野麗花
ビッキリア 並木まりか
ガマーシュ 清水健太
ロレンツォ 柴田英悟
森の女王 田山修子
アムール 石橋沙也果



ゲネプロ映像。水谷さんアクリさん組と川島さん厚地さん組です。




川島さんは品が香り立つ優美なキトリで、頭一つ抜けた洗練された雰囲気を纏って登場。
ドン・キホーテがドルシネア姫と思い込んで求愛するのも納得なヒロインです。
腕にしても脚先にしても、勢いやパワーで押し出さず僅かな余韻を残しながらの踊りで、そこかしこに花がぱっと咲き出しているように見て取れました。
キトリのカスタネットのソロはただ一直線に突き進むのではなく一呼吸置いてポーズを余裕を持って決めてから次のステップに移る過程までもが目を惹き、
勢い任せにしがちな振付であっても一段と優雅な魅力が花開いた印象です。
友人のみならず周囲の街の人々との掛け合いも十二分で隅にいる人にも話しかけては中央へと引き寄せていたりと広場の活気は益々上々。
ドルシネア姫の少し渋みを帯びたピンクのチュチュもお似合いで、ドン・キホーテの恋心がいよいよ極致へと達するのも頷ける、しっとり端麗な姫でございました。

厚地さんは床屋ではなく都会の一等地に店を持つ美容師さんに見えてしまいましたが笑、ぱっと華やぐ格で吸引力が十二分。
力みなく自然に周りをぐいっと引っ張り、明るさと朗らかさをもたらすバジルでした。
例えば芝居が続く場においても、ドン・キホーテやガマーシュのもとからキトリを連れ出し、嫉妬して説得を試みる箇所での
1回の移動距離や表現、隅々まで行き渡るコミュニケーションの範囲がダイナミックで、出演者人数多き作品の文化会館大ホールの舞台であっても
厚地さんの立ち位置は常に灯りがたっぷり照らさられてそれが積み重なって舞台に厚みが増していたように思います。

特筆すべきは初共演が信じ難いほどに抜群な息の合い方であった川島さんと厚地さんのパートナーシップ。
力強さで押さぬ、エレガントで上品な持ち味の方向性通じ合う大人な美しいペアでございました。
お互い相思相愛な関係であっても細かい駆け引きが楽しく、通りかかり姿を見せつけるエスパーダの髪撫でを真似するキトリに大嫉妬し
エスパーダに向かって競争心を露わにするバジルの可笑しいことよ笑。
しかも繰り返しになりますが2人して品を崩さずやり過ぎぬよう、面白さもお茶目な部分もちょこっと引き立つ程度にとどめていた点も一貫して通じ合っていました。
1幕片手リフトも長い時間ぴたりと決めながらもドヤっとした顔はせず 2人ともあくまでさらり。
グラン・パ・ド・ドゥは格式たっぷりで、結婚式での揃って白い衣装の装飾がキラリと豪華。
時間の尺も人数もボリューム感のあった式の演出であっても埋没せぬ麗しい新郎新婦な並びでした。

全編でじわりと沸かせてくださったのは清水さんのガマーシュ。多々橋渡し役こなす働き者で懐深い上に踊り盛りだくさんな場もしっかり魅せるキャラクターでした。
高貴で折り目正しい役柄のイメージがあり、清水さんのガマーシュがどう造形されるか興味を持ってはおりましたが
仕草や踊り方がコミカルな趣の中にも上品な姿が広がり、細部に至るまでメリハリも万全。
ロレンツォの宿食堂では他のバレエ団公演で見かける見習い従業員もおらず、ロレンツォの今風に申せばワンオペ状態で
暫くは話し相手もおらず、飲食物の登場がやや遅いながら1人時間も満喫真っ盛りで、闘牛士達の踊りやハンカチ持って音頭取ったり真似ながら応援鑑賞。
途中から出された葡萄を摘まむ所作も丁寧でお育ちの良さを思わせ、気づけば人手不足の食堂の助っ人となったのか
ドン・キホーテやサンチョの歓迎や世話役も担う働き者。意外と勤勉で気が利くガマーシュに対して
キトリも決して嫌がってはおらず、街の人々とも仲良く過ごし溶け込む好ましい貴族でございました。
サンチョがロレンツォを呼ぶときにテーブルを叩いた際に倒れてしまったワイン瓶もそっと直したり、
ドン・キホーテのもとへ行こうとするキトリのことをバジルにきちんと伝達したり
そしてキトリとバジルの結婚が決まった酒場にて現実を受け止められぬロレンツォを励まし慰める、
ライバル相手にも優しく、自身は婚約に辿り着けずであっても優しさを惜しまぬ、それはそれはチャーミングな人物でした。
酒場にてバジルによる狂言自殺計画直前にはウェイター達と急速なテンポ曲で踊る見せ場があり
(ずっと気になっていたこの曲、アントン・シモーヌ作曲の水兵の踊りとのこと)
剣を掲げながら軽妙洒脱に行進しつつサクサクと踊っていく展開にキトリもつい見惚れている様子で、
バジルの再登場及び準備までの場繋ぎでは全くない、ひょっとしたら酒場のハイライトかと思わせる見どころでした。
思えば清水さんの舞台も北は北海道のニトリホール閉館公演、南は福岡県の田中千賀子バレエ団まで全国各地で鑑賞していながら
(追っているわけではないのだが何時の間にか各地で鑑賞機会に恵まれた)こういった個性の強い役は初めてお目にかかりましたが
端正な面からちらりと覗く面白さの加減が好印象。あらゆるキャラクターを踊ってこられたアクリさんが力を注がれたであろう
物語の中枢を任せられた役柄を生き生きと品良く造形されていました。

脇を固める主要役も充実し、キムさんのエスパーダは涼しげでキザな味もあり、貴公子系の役柄よりも印象に刻まれたかもしれません。
大袈裟な髪撫ではキトリの心を惹き、そしてバジルを煽る効果大で思わず笑いがこぼれてしまいました。
東京に拠点を移され、東京シティ・バレエ団に入団された大久保さんのメルセデスがクール且つ艶っぽい香りを放ちうっとり。
昨夏に田北志のぶさんオープンクラス発表会にてメドーラ役で鑑賞した、すらりとした手脚の田山さんによる嫋やかなラインを描き空気を包み込む森の女王にも目を奪われました。
ドン・キホーテの遅沢さんは皺を書き過ぎていた感もあったものの、悠然とした佇まいで魅せ、
何処か可愛らしく健気な奥田さんサンチョとの旅路は浪漫に溢れていたであろうと想像いたします。

アクリさんの演出は王道路線を崩さず、されど所々に工夫光る3時間みっちり上演。カエル跳びな脚技を含ませた難解振付をセギディリアの皆さん易々とこなし、
酒場にはバジルの杯の踊りを挿入。(ただどうしてもバリシニコフが過ってしまいましたが)
イエーイのような謎めいた掛け声は少々首を傾げたものの、先述の通りガマーシュとウェイター達によるショータイムはあっと沸かせる工夫であったと捉えております。
結婚式は大所帯で舞台を埋め尽くす色とりどりの衣装の雲海と化していたほど。
ドン・キホーテもサンチョも、ロレンツォにガマーシュも街の人々も全員集合で、
ヴァリエーションの部分を人数多めで踊る場に変更もあり賑やか大団円婚礼でした。短めベールを被ったキトリも美しいこと!

背景や衣装はセギディリア女性の簪風ティアラ付き頭飾り始めやや古色蒼然とした気もいたしましたが
(背景はもしやABTからイエーガーとボッカが客演した35年前頃と変わりない!?)
様々な団体所属者同士の混合構成であっても、主演の川島さんと厚地さんの引き寄せ力や
脇主要役の充実ぶりが好影響をもたらし一体感ある舞台に仕上がっていました。
会場ロビーの四方八方から耳に飛び込んでくる、協会特有「◯◯先生おはようございます」な会話にもすっかり慣れた部外者な管理人笑。
午後の時間帯にも拘らず朝の挨拶が聞こえてくるたびに違和感を覚えていた昔が懐かしうございます。
(しかし、恩師に対してはレッスンやリハーサル以外の場所でもおはようございますしか言ってはならないのか今も不思議ではある)




※千葉県南柏市に本部を置くステージバレエアカデミー通信2023年1月号にて
江藤勝己さんが楽譜の準備裏話を明かしてくださっています。多彩そうな音楽構成の陰にはこんな奔走があったとは。
バレエ音楽セミナー、2月は12日と26日に開催。旬の話題ドン・キホーテがテーマとのことです!そういえば、今月半ばには牧阿佐美バレヱ団もドンキを上演。
https://www.stageballet.net/pdf/ballet_communication.pdf#zoom=100




※今回この日の昼公演を選んだのは、川島さん厚地さんの初共演に興味を持ったのが1つ、そして実は川島さんに大変お世話になった経緯からでございます。
お世話になった、と申すと川島さんにバレエを習ったと思われるかと存じますがそうではなく、一緒にレッスンを受講する機会があったのです。
昨春初めて伺った、篠原聖一さん下村由理恵さんが新宿村スタジオで主宰されているオープンクラスでございます。
下村さんアンサンブルのダンサーなど客席から目にしたことがある方々がお越しになるのは想定内でしたがまさか川島さんがいらっしゃるとは目に留まった瞬間驚愕。
思えば近年篠原さん下村さんとの関わりが深く、『アナンケ』やバレエ協会公演『ラ・エスメラルダ』にも主演されたりと冷静に考えたらいらしても驚きはしないはずが
ご本人を間近で、しかも同じレッスン受講者として目にするとは思いもいたしませんでした。
更には、この日は偶々人数が少ない日でセンターの大半は2人ずつで行う流れとなり、
タイミングが重なって私はまさかの川島さんと組んで臨むことになったのです。
私の姿形やバレエのレベルを知る方々は信じ難い光景とお感じになることでしょう。それもそのはず、
細長いしなやかな深紅の薔薇の如き川島さんと、錆びれたドラム缶なズンドコ管理人が2人きりで新宿村の広大なスタジオで踊るなんぞ
スタジオ開館以来の大珍百景であったのは間違いありません。以前から申し上げている通り
レッスン回数は訳あって年に2回程度で2020年と2021年は0回、昨年は事情があって5回に倍増した鑑賞中心の初級レベル者な素人が
近年まで東京バレエ団プリンシパルとして活躍され都内の大きな劇場や全国ツアー、
海外公演でも主役を張られていた川島さんとセンターで組む機会が訪れるとは夢にも思いませんでした。
一般の初級クラスではあり得ぬ、オープンクラスだからこそ巡ってきた幸運でしょう。
しかし変な恐怖感はなく、寧ろ嬉しさや喜びのほうがまさってしまったのは、まず主宰の篠原さん下村さんの全体を楽しい方向へと引き上げる術に助けられたこと。
伴奏が始まりいざ一緒に出発となると嬉々としてしまい、相変わらず飛距離計算できぬ管理人は
気づけば隅に立つ篠原さんの立ち位置すぐそばまで跳んでいってしまいましたが汗
(新宿村でもギリギリライン、都内屈指の広いスタジオのはずだが) 気持ち良く終えられたのでした。

ただ、こんな初級素人と組むことになってしまった川島さんからしたら迷惑だったかもしれぬと終了後、挨拶も兼ねてお礼とお詫びに伺ったところ
それはそれは優しく励ましてくださり、向けてくださった柔和な表情、そして通りかかった篠原さんが和ませる一言を発してくださり、
そのときの川島さんの無邪気な可愛らしさも忘れられない出来事です。
受講前は不安で一杯であった私を篠原さん下村さんと共に心底救ってくださったことに感謝が尽きず。川島さん、その節は本当にありがとうございました。
ご参考までに下村さんのSNSより、オープンクラスの様子です。2つめのくるくるフェッテは私の受講日は無く(仮にあったとしたらどうしていただろうか、未経験です汗)
1つめのグランジャンプは昨春の当時も同様の振りであったかと思います。これに似たアンシェヌマンを川島さんと2人でやっていたのか私は汗汗。
篠原さんの掛け声も動画と同様によく響き渡っていました!







帰り、上野駅近くにて赤ワインで乾杯。お通しのパンはおかわり自由です。勿論いたしました。1人であっても1籠セットで持ってきてくださいます。
サンチョ・パンサと同じ胃袋の大きさであろう管理人と違って少食なお方はご注意ください。(つまり私は1人で2籠分いただきました。食べ盛りの中高生か笑)
オリーブが練りこまれたパンと、香ばしいフォカッチャの2種。そのままでも手が止まらず、ワインともぴったり。
そして秋刀魚のアヒージョ。身がほろりとほぐれて旨味たっぷり。



ワインに合う炭酸水(無料)。ピチピチと跳ね上がる泡観察が楽しい。大阪に行ったときしばしば利用した、心斎橋の銭湯の電気風呂を思い出します。



スパークリングワインと洋梨のシャーベット。いたく爽やかで口の中がすっきり!締めにおすすめでございます。


2023年2月5日日曜日

新国立劇場 舞台美術展で巡るオペラ・バレエの世界2023




東京スカイツリータウン東京ソラマチで開催されている舞台美術展で巡るオペラ・バレエの世界2023へ行って参りました。本日2月5日(日)までの開催です。
https://www.nntt.jac.go.jp/release/detail/23_024731.html

ここ何年か開催されている定例化企画と思われ、3年連続で鑑賞。バレエにおいては一昨年は『竜宮』、昨年はピーター・ライト版『白鳥の湖』の衣装や舞台美術を紹介。
今回は昨年10月に新制作上演したアラスター・マリオット版『ジゼル』で、個人使用の目的ならば写真撮影も可(フラッシュは禁止)。
ジゼルの1、2幕の衣装、アルブレヒトの2幕の衣装、1幕の舞台美術装置の模型も展示されていました。
入口から古代エジプト浪漫の世界へようこそと言わんばかりのスケール大な『アイーダ』衣装装置の行列や
『ラ・ボエーム』も展示されたオペラに比較するとバレエの規模が随分と小さく思えたものの
バレエは2021年に竜宮が大々的に展示されましたし、何より今回は写真撮影可になっただけでも良きことと思いましょう。
(1幕のアルブレヒト衣装も間近で見たかったとの思いは募るが)
『ジゼル』舞台装置模型は見事なほどに緻密な作りで、葉っぱや木材の質感や実にリアル。
これまでに見たどのドールハウスよりも細部まで凝りに凝った作りにじっと目を留めてしまったほどです。
カメラに収めこちらでも紹介したいところでしたがどうしてもガラスに椅子達が写ってしまい、不可思議な写真しか撮れず未掲載にいたします。ご了承ください。
綺麗に撮影なさった方がいらっしゃるでしょうから、気になる方は各自でお探しください。

展示は本日5日(日)まで。昨日に続き晴天に恵まれ、スカイツリーも青空に聳えくっきり見えることでしょう。お時間のある方は是非足をお運びください。
オペラミニコンサートも大盛況で、立ち寄った時間帯は満席。オペラからアニメ、日本の曲まで、多ジャンルの曲目で楽しませてくださいました。

※以下写真載せて参ります。見学客よりスタッフ人数の方が多い、人が疎らな早い時間帯でしたのでゆったり撮影。
ついアルブレヒトの衣装の写真ばかり撮ってしまいました。勿論、昨年10月23日公演と29日夜公演を思い出しながら。





入口から真っ直ぐ進む道中はアイーダ行列。古代エジプト史に興味ある方も血が騒ぐかもしれません。



ミニコンサート客席とジゼル、ラ・ボエームを見渡す図



ジゼル衣装。水色のくすみ具合や素朴で細かなレース刺繍も愛らしい。ベルタの手作り感も表すデザインです。



2幕アルブレヒト、正面から。



斜めから。1幕の茶色村人扮装衣装も見とうございました。ジゼルが腕を絡ませたお袖や背後にジゼルが隠れたときの背中部分を
昨年10月23日公演と29日夜公演、特に1幕に関しては23日の傲慢狡猾されど惹かれてしまうアルブレヒトを思い出しながら観察したかった欲が募ります。



肩部分拡大。高貴な宝石の如き金色装飾模様に目を奪われます。ここから靡いていたマント姿の美しかったことよ。(昨年10月23日公演と29日夜公演を思い出しながら)




袖部分拡大。こちらにも百合の紋章。額に手を当て大懺悔していた姿も哀感も美しかったことよ。(昨年10月23日公演と29日夜公演を思い出しながら)


昼はソラマチ1階、ニダイメ野口鮮魚店へ。野口スカイスパークリングで乾杯。綿菓子な雲を溶かしていただきます。



4種漬け丼、豊洲から直送。



晴天に聳え立つスカイツリー。



東京ミズマチ、お店が並びます。



更に歩けば隅田川。そして浅草に到着。しかし都内の観光地に疎い、寧ろ大阪の観光地の方が詳しい管理人、
雷門の場所すら分からず。(生まれも育ちも東京でこれまで都外在住経験無しなのだが)
人波の方角でようやく把握。懐かしい浅草公会堂も見かけました。
下村由理恵さん、永橋あゆみさん、島添亮子さん、堀口純さんが踊られたパ・ド・カトルを鑑賞したホールです。



展示会会場に置かれていた中国語案内。作品の中国語表記に興味津々です。
音への当て字と思わしき漢字表記もあれば、くるみ割り人形はネズミ王も題名に含ませていたりと一字一句読みたくなります。
そういえば3年前に偶々見つけた、中国でのバレエコンクールだったか、審査員達の名前も全て漢字表記がなされ
委員長?がフリオ・ボッカ、審査員に名前を連ねていたのがシルヴィア・アツォーニ、カデル・ベラルビ、
ウリヤーナ・ロパートキナ、ヴィヴィアナ・デュランテら、もう少し前ならガラコンサート開催可能な面々が勢揃い。
当てた漢字を見ると響きやイメージにも合っていて、いかにして付けられていくのか、関心を持たずにいられずでした。

2023年2月3日金曜日

村山久美子さん著『バレエ王国ロシアへの道』





村山久美子さんが書かれた書籍『バレエ王国ロシアへの道』を読んでおります。
https://toyoshoten.com/books/732

ロシアバレエもとよりソビエトバレエが好きと言いながらも、そもそもロシアにはいかにしてバレエが上陸し花開いたか、
プティパが次々と古典全幕を発表した以前の事情についてはよく知らずにおりましたので
ロシアバレエの発展経緯が綴られている内容に一層興味を持ち、現在読み進めております。
ロシアでのバレエ黎明期から農奴と劇場の関係、政治背景の絡み、そしてボリス・エイフマン作品まで
分かりやすく言葉は簡潔に、時系列に纏められていて厚みある書籍であってもすぐさま読み終えてしまいそうです。
2019年に村山さんが講師を務めるボリショイシネマ案内講座を受講したときの、
作品ごとにテンポ良くポイント押さえながらの説明を思い出しながらページを捲っております。
つい先取りしてエイフマン作品の解説を読んでしまいましたが、何度か目にしている
『アンナ・カレーニナ』の音楽、舞踊で感情を語り尽くす振付の妙の細かさについての解説に大きく頷き納得です。

発売前からこの書籍の話は耳に入っており心待ちにしておりましたが、発売時期がロシアによるウクライナ侵攻の時期と重なってしまい、
村山さんも追加のあとがきにて綴られた文章から、胸を痛めていらっしゃる心情が伝わります。
実のところ、いくらロシア、ソビエトのバレエに魅せられてきた身である私も、芸術に罪は無いと分かってはいても発売後すぐには手に取れずにおりました。
借りてきた当日も自宅にてニュース番組国際報道2023をつけたままにしていると
嘗ては同じ国であった隣国同士の間柄であったがゆえに現在ロシア語がウクライナに与える働きと弊害といった現地取材の内容が報じられ、
複雑な心境のまま読み始めた次第です。ただバレエが好きであり、繰り返しにはなりますが
ソビエト、ロシアバレエの虜歴も長いだけに発展の歴史は知っておきたいと思い、紐解きながら読み進めている段階におります。
全編どっしりとした内容かと思いきや、プティパが棒人間を用いて描いた『バヤデルカ』群舞のフォーメーション構想図の挿絵もあったりと(しかも坂の絵付き!)
ユーモアも随所に盛り込まれ、思わず前のめりになるお楽しみなページもいくつか登場しそうです。