2023年2月15日水曜日

区切りと再出発  東京バレエ団 上野水香オン・ステージ  2月12日(日)






2月12日(日)、東京バレエ団上野水香オン・ステージAプログラムを観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/mizuka-ueno/


12日千秋楽のカーテンコールの様子。お花の贈呈が行われました。斎藤監督、そしてゴメスも登場!







『白鳥の湖』第2幕より

オデット:上野水香
ジークフリート王子:柄本 弾
四羽の白鳥:中川美雪、足立真里亜、工 桃子、安西くるみ
三羽の白鳥:加藤くるみ、長谷川琴音、中島映理子

上野さんのオデットを観るのはひょっとしたら2006年の世界バレエフェスティバル全幕プログラムにおけるジョゼ・マルティネスと組んだ公演以来、17年ぶり。
実はそのときが東京バレエ団の『白鳥の湖』自体初鑑賞で噂には耳にしていた、結成時期から海外公演ツアー多数の東京の有名大バレエ団とは到底思えぬ
スタジオによっては昭和のバレエ教室のほうがセンス良かろうレトロな衣装デザイン、中でもロットバルトのアップリケに肩を落とし(失礼)
以来ブルメイステル版導入初演の2016年(鑑賞日は川島麻実子さん岸本秀雄さん)まで観ずに過ごしておりました。
今回は前版と思わしき2幕で、湖畔の場面のみならば白鳥衣装に湖背景のシンプル場面ですから一安心且つ懐かしや。
当然ながら17年前に比較すると踊りやポーズの張り、音楽への乗り方や滑らかさも衰えてしまった印象は否めなかったものの
ご年齢からは想像できぬ、白いチュチュを着こなす体型の維持や踊り切るスタミナ、同色衣装の群舞に囲まれても埋もれぬスター性の健在には天晴れでした。
四羽では足立さんの凛然とした足運びや身体の使い方、三羽は中島さんのすらりとした伸びやかな舞台姿に目が留まり
5月公演『ジゼル』、通い詰めたくなる展開でございます。


『小さな死』
振付:イリ・キリアン  音楽:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト

榊優美枝 - 鳥海 創     金子仁美 - 岡崎隼也
二瓶加奈子 - 樋口祐輝 三雲友里加 - 柄本 弾
政本絵美 - ブラウリオ・アルバレス 伝田陽美 - 秋元康臣

静寂に包まれた状態で始まる、私が大の苦手とする無音展開なのだが(失礼)風を切りびゅんびゅんと響く剣の音に耳が集中するうちに音楽開始。
東京バレエ団上演にて何度か観ており、ドレスを着せたトルソーの真後ろにくっつきながら前進しすぐさま離れてレオタード姿に戻る手法には今もはっと驚かされます。
モーツァルトの物哀しい音楽を、男女ペアによる構成で身体でしっとりと描き表す構図も面白く、
向かい合って菱形だったか、脚線で図形を作り出す振付が視界に入ってくると、静けさに相反して目を覚ませる展開です。
今回は特に伝田さんの身体を傾けたときの肩のライン、そこから雫が滴り落ちるような哀愁を含んだ静かな踊りが印象に刻まれております。
そして柄本さんは白鳥の湖にて代役でジークフリート王子を踊ったあと、カーテンコールに登場せず
舞台転換時間に大急ぎで着替えて登場。切り替え力に拍手でございます。


『シンデレラ』よりパ・ド・ドゥ
振付:ルドルフ・ヌレエフ 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
上野水香、マルセロ・ゴメス

記憶が正しければ2015年の世界バレエフェスティバルでドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオが踊った舞台を観て以来。
森英恵さんデザインの衣装も世界初演時話題を呼び、未だに主演のシルヴィ・ギエムやシャルル・ジュド、
姉妹役のモニク・ルディエールやエリザベット・プラテルら黄金世代の姿がぱっと浮かびます。我が時計の針の動きが鈍い点、悪しからず。
さて話を2023年2月の東京に戻します。額を囲うピンク色の頭飾りやピンク色のスタイリッシュなドレスの靡きも眩しく
リフトされたときのポーズが流れるような姿が目に残りました。初日はアルバレスさんが代役を務めた王子(映画スター)を予定通りゴメスが務めたとはいえ
だいぶ慎重にこなしていた様子。愛と情熱溢れる踊りであったらどんなパ・ド・ドゥになったか、想像するしかありません。


『パキータ』
振付:マリウス・プティパ  音楽:レオン・ミンクス

プリンシパル: 秋山 瑛 - 宮川新大
第1ヴァリエーション:工 桃子
第2ヴァリエーション:加藤くるみ
第3ヴァリエーション:榊優美枝
ソリスト:
中沢恵理子   鈴木理央   上田実歩   中島理子   髙浦由美子   中島映理子

秋山さんが小柄な身体を思わせぬ、踊りと貫禄は巨人級のスケール感に圧倒され、最上階席で鑑賞している状況を忘れさせたほど。
ポーズをただスパスパ決めず音楽をぎりぎりまで引っ張りながらより大らかに、ダイナミックな舞台姿に繋げていた印象です。
宮川さんの淀みないテクニックが繰り出す跳躍と着地の連鎖も見事。衣装がせっかく金色軍服ながら
白地の胸元に紐の絵を描いたデザインであった点が惜しまれます。(ぬり絵に見えた汗)
シャンデリアの半立体感な作りに費やした予算をリュシアン衣装に回してあげてください。
女性陣のチュチュは色味や細かな模様もセンス良く、しかし頭飾りの金色の平たい冠がおでこに近い部分に装着されていたためか
一歩間違えると孫悟空に見えなくもない。薔薇の花と簪を除く少しの装飾でまとめた方が宜しかったと思えます。
ソリスト、コール・ドとも技術万全で統制の整った踊り方も好印象。そういえば、東京バレエ団のパキータは初見かもしれません。


チークトゥチーク
振付:ローラン・プティ 音楽:アーヴィング・バーリン

上野水香、マルセロ・ゴメス

急遽予告なしに(恐らく)追加上演。『パキータ』が終演してさあ休憩と思っていたところ客電がつかず、そうこうするうちに再び幕が開いてテーブル登場。観客歓喜です。
作品自体の鑑賞は2006年11月の草刈民代さんを中心としたアジアのダンサー多数出演のローラン・プティ作品結集ガラ公演『ソワレ』以来かと思います。
(このときは草刈さん、ルイジ・ボニーノさんが披露)
黒いタキシードに身を包んだゴメスが粋に踊り始めると舞台袖へと歩み、黒いスカート姿の上野さんを連れてエスコート。
向かい合って座ったり、テーブルに上って愛を語らったかと思えば手を繋いだまま飛び降りるようにしてサポートしたりと移動多き振付。
しかし忙しない様子は全くなく、密着と離脱を繰り返しつつノリにノッて軽快にお洒落に戯れる2人に気分が浮き立ち、昂ぶる幸で満たされました。
『シンデレラ』は正直まだ無理を押している感が残ってしまったゴメスでしたから、急遽の予告無しであっても
晴れ晴れとした余韻が広がる作品を上演が叶い、カーテンコールでの抱擁がお2人の安堵を物語っていたと感じさせます。


ボレロ
振付:モーリス・ベジャール  音楽:モーリス・ラヴェル

上野水香
池本祥真、大塚 卓、和田康佑、岡﨑 司

上野さんボレロの初見は2006年の春で、以降何度も目にしておりますから、最も頻度高く観ている出演作品です。
17年前に観たときはまだあどけない少女っぽさがあり、黒いヘアバンドをしていたかと記憶。
一番舞台近くで鑑賞できた2018年の20世紀の傑作バレエ2公演は会場が新国立劇場中劇場。(つまり最安値席でも2階)
せっかくの機会と言わんばかりに振付をじっと観察し、終盤であってもブリッジからの立ち上がりのスムーズな動きに驚きを覚えたものです。
長い年月の中で何度も観てきた作品ですから、同じ上野さんが踊るにしてもそのときによって受け取る印象も様々。
初見時はシンプルながら何処かもがき苦しむような切迫感もあった気がいたしましたが
今回は晴れ間が差し込むような希望に満ちた展開でリズムを鼓舞し率いるときも笑みが度々零れ、最後絞り上げるように天を仰いでいた様子も忘れられず。
カーテンコールではボレロのリズム隊全員から薔薇の花が1輪ずつ、そして斎藤友佳理監督、私服に着替えたゴメスからも贈呈。団員としての舞台に区切りを打ちました。
喝采はずっと鳴り止まず、赤円卓の上で挨拶をしたかと思えば中央に集められた花々を時に両脇でサポートされ空中を飛び越えながら拍手に応えたり
(下りてくる緞帳に当たらないよう途中でささっと回収と移動させたのは多分アルバレスさん!?)
上野さんを讃える拍手が会場を包み続けました。リズム隊の面々の変遷も長年見守ってこられたと思うと、
約20年も大規模なバレエ団の主役級第一線を駆け抜けてきた功績は実に大きく、特異な存在であったと思っております。
今後は新設置されたゲストプリンシパルとして、早速4月公演『イン・ザ・ナイト』への出演も決定。楽しみにしております。





グッズ売り場、ボレロパネルも登場。バレリーナ 上野水香ものがたりは雑誌クララでの連載にて時々目を通し、最初から非常に柔軟であった身体は周囲に驚かれ
コンクールに挑戦するも張り詰めた空気に苦しんでしまったことやコール・ドの難しさの体感、
東京バレエ団移籍後に佐々木忠次さんからボレロのビデオを渡された瞬間など、心の部分にもしっかりと焦点が当てられて漫画化されていました。



チークトゥチーク追加!!後出しキャスト表近くに、江戸時代の高札場の如く観客が確認に訪れていました。



鑑賞前は会場すぐ近くの上野さくらテラスの鳥光圀へ。つくねと焼き鳥とろろ丼、鶏スープそして鎌倉野菜のサラダ付き。
つくねの香ばしさ、たれも甘過ぎず好みな丼でした。会場に近く、家族からも前から勧められてはいたのだが、そうだ上野さんは鎌倉ご出身。
時々投稿されている、神奈川県の浜辺から撮影なさった浮世絵と似た構図の富士山の写真、とても好きです。郷土愛の強さも伝わります。



デザート追加。ご一緒した方はカッサータ、私は杏仁豆腐。前者はつやっと爽やか、後者はまろやかさっぱりで美味しうございました。



終演後、同じ建物内のお蕎麦屋さんへ。枡ワインが面白い。今回は珍しくプログラムも購入。
入団後すぐフィレンツェ公演がデビューでいらしたキャリアからして大型移籍だったと回顧いたします。



分厚く葱たっぷりかき揚げとお蕎麦。イメージよりも巨大でしたが、サクッとした揚げ方で塩加減も丁度良く、ワインとも合いました。



ドン・キホーテのファンダンゴあたりは牧バレヱ1996年公演でも観ていたかもしれないが(そういえば、牧のドンキももうすぐでございます)
初めて上野さんを認識して観たのは牧時代のデューク・エリントンバレエ初演時の2001年夏。
ローラン・プティ作品を踊る上野さんを観て、空間を支配するしなる脚に衝撃でございました。
実は私が人生で初めて新国立劇場に足を踏み入れたのは、このとき2001年7月26日公演だったのです。
一足遅れて我が節目の贈り物として初めてプティ作品を鑑賞しようと自身で購入したチケットも大事に保管。
まさか後年以降年間何十回も足繁く通う劇場になろうとはこのとき22年前の夏は知る由もありませんでした。
今思い返せば、偶々とはいえ鑑賞月日にも震え止まらず。
新国立劇場バレエ団公演の初鑑賞はこの3年後2004年秋の『ライモンダ』でございます。

2本のインタビュー記事はカラーが2001年、新聞記事が2000年、牧時代のもの。まだまだあどけなく折れそうなほどに華奢でいらっしゃいました。
異次元の体型に目を奪われつい保管に走りましたが、しなやかな筋肉がしっかりと付いた今の体型のほうがわたしは好みでございます。


0 件のコメント: