バレエについての鑑賞記、発見、情報、考えたことなど更新中
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2023年2月19日日曜日
節度を重んじるプリセツキー版 牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』2月18日(土)
2月18日(土)、牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』を観て参りました。牧バレヱのドンキ全幕は
映画『Shall we ダンス?』が公開された1996年、草刈民代さん張衛強さん主演公演以来27年ぶりの鑑賞です。
※当時のキャスト表によれば、日髙有梨さんがキューピッド子役で出演していたようです。
https://www.ambt.jp/pf-don-quijote2023/
前回公演のハイライト映像。
リハーサル映像。光永さんと水井さんペア。
スパイスイープラス、光永さんと水井さん登場。
https://spice.eplus.jp/articles/314407
キトリ:阿部 裕恵
バジル:大川 航矢
森の女王:高橋 万由梨
キューピッド:山本 翔子
街の踊り子:中川 郁
エスパーダ:石田 亮一
キトリの友人:上中 穂香 阿部 千尋
阿部さんのキトリは3幕のみはNHKバレエの饗宴2019にて観ておりましたが、全幕鑑賞は初。
澄ました愛らしさが全身から匂い立つ品のあるキトリで、抑制を効かせつつも決めるべき箇所では
はっと思わせる颯爽としたポーズで魅せるチャーミングなヒロインでした。
大川さんは豪快さに節度が増し、周囲との調和も万全なバジル。実のところこれまで観たガラ等における超絶技巧満載な大胆志向な踊り方の印象が強烈でしたので
最初の登場時から飛ばしてくるかと想像しておりましたが意外にも落ち着いた舞台運びでびっくり。
しかし、考えてみると牧で踊られるプリセツキー版は全体通して派手にパワフルな趣きが極力抑え目な演出で、勢い良くこなす箇所が殆ど見当たらず。
つまりプリセツキー版の全幕舞台にも調和するよう、よくよく考察しての役作りであったかと思わせました。
大川さんならば、もっと高く跳ぶことも多く回転することも可能な身体能力と技術者の持ち主なのでしょうが
1人ぶっ飛びお祭り番長な舞台姿では特にプリセツキー版では浮くどころか雰囲気を壊しかねない事態になることでしょう。
その代わり、キトリ友人との踊りや3幕ソロ、コーダは一気にテクニック炸裂。但し乱雑さは無く、あくまで四肢をコントロールしながらでしたから、観ていて爽快な後味がありました。
ところで阿部さんも大川さんも決して背が高いほうではなく手脚がとても長いタイプではないながら、舞台上では主役らしいオーラや存在感も抜群。
阿部さんは見せ方をよく心得ていて、ポーズの切り替え方がとにかくカチッと嵌り立体感もあって美しく
大川さんは例えば跳躍から着地したあとの移動が俊敏且つ一歩一歩の釈が長く、細部に至るまでスケールも十二分。
当初はおとなしい宿屋の娘と暴れん坊床屋(失礼)になるかとやや不安視もしていたパートナーシップもいたく宜しく
演奏もテンポが速くはない、時間の流れがゆったりな演出に沿いながらも
いかにして踊りも存在感も大きく示していくかの追求の積み重ねが合致した、良きペアでございました。
友人2人組の上中さんの軽やかさと愛嬌溢れる踊りや阿部さんのぱっと輝く朗らかな姿も目に残り
脚の出し方1つにしても呼吸がぴたりと合っていて、真っ黄色な古風な衣装を気にさせぬ魅力が満開。
山本さんのキューピッドふわふわっと跳びはねつつ儚い可愛らしさに溢れる妖精ぶりや、恋の手助けをきびきび行う場面の仕切り力も好印象でした。
結婚式にキューピッド達が再び登場する演出は話に筋が通らずそんなに好みではないものの
山本さんが再び登場するならと勇んで観察。チリチリカール鬘も違和感なく付けこなす容貌にもニンマリが止まらずであった私です。
石田さんのエスパーダはすらりと粋に捌いていらしたのが印象深く、空気がガラッと一変。
中川さんの全身から放つ色気が更に強まったと思わす街の踊り子も目にでき嬉しうございました。
今夏の『三銃士』では再び中川さんミレディを鑑賞できたらと願っております。牧バレヱのレパートリーの中で一番好きな作品です。
踊り子のジグザグ教習所ダンスなる場面にて、闘牛士達はナイフは刺さず持ち手部分を床に置くスタイル。
バタバタ倒れるよりはずっと好ましい演出と捉えております。(確かバレエ協会も同じ演出であったかと記憶)
メルセデスの三宅さんの芳醇な熟女っぷり(褒め言葉です)も驚かされ、昨秋の『誕生日の贈り物』でのソロにて
背中から優しく語り掛けるような踊りが2階の隅席にいた私にまでも目に響いてきたのが記憶に新しいだけに
今回はエスパーダへの色濃いアピール力やツンとした表情から流れるように移りゆく酒場のソロに釘付けとなりました。
最初に述べた通り牧バレヱドンキ全幕鑑賞は27年ぶりで、記憶を掘り起こすも草刈さんの艶やかさと張さんの切れ味、プロローグが長かったといった回顧しかできず。
久々に観てみると演出でなかなか面白いと感じたのは、酒場への道中がきちんと描写され舞台上にも現れている点。
緞帳が下りた状態で酒場の冒頭部分の賑やかな音楽が流れる中で上手側から下手側へと横切りせっせと目的地へ向かう街の人々や闘牛士達、
そしてキトリとバジルが横切りそうになると中央で両手を下から上へと大きく掲げ、再び幕が開いて酒場が出現しました。
また狂言自殺後もほっこり安堵な展開で、騙されたあげくにキトリとバジルの結婚を認めてしまった現実を容易には受け入れられないロレンツォを
居酒屋店主が懸命に慰めていると、ようやく許しを決意したロレンツォがバジルを呼び、怒りをぶつけるように見せかけ驚かせるもお酒を酌み交わして和解。
そんな光景を後方にて、ドン・キホーテにそっと寄りかかったキトリが2人で見守る、ほっと和ませる演出でした。
この場面は実に様々な描き方がありますが、思えば最大の壁はバジルに対するロレンツォの不満でしたから
その問題解決を身を寄せて静かに喜び合うキトリとドン・キホーテの描写はとても説得力があると思わせます。
プリセツキー版『ドン・キホーテ』初演の年の1989年に私が初めて手にしたバレエ書籍に当時の舞台写真が多数掲載され
主演は川口ゆり子さん三谷恭三さん組と、平成元年当時は若手として紹介されていた草刈さん張さん組。
その中に、草刈さんキトリがドン・キホーテに優しく抱き寄る写真があり、いったい何の場面であるかずっと疑問を持ったたままであったのです。
27年前の1996年には意識せずに観てしまったのか解決せず。ようやく今回2023年になって把握に到達。
初めて写真を目にしてから早34年、随分と長い年月を要してしまいました。気づけば趣味が不変である点に関しては
牧バレヱ全幕ドンキ前回鑑賞時の3ヶ月前の夏、アトランタ五輪のマラソン銅メダリスト有森裕子さんの名言を拝借し、自分で自分を褒めてあげたいと思います。
装置や美術は思った以上に凝っていて、柱や壁の質感がとてもリアル。代々長年に渡って人が住み続けてきた温もりも感じられる作りです。
またロレンツォの宿食堂が2階建てで、ガマーシュは途中から2階席の窓側へ移動。闘牛士達の場面は2階の窓からハンカチ振って眺めていたりと
店内での過ごし方も思いのほか丁寧に描かれていました。その後再び1階テラス席に移動して
今度は食事(ワンプレートに料理が定食並みに多種のっていた気がいたします)も出てきて味わっていたかと思います。
酒場がまた凝った構造で、入口を抜けると地下に続く洞窟のような2階建て。
上の階の席にも呑み客が酒を楽しんでいたり、階下にはテーブルがぎっしりと並び、客も多く繁盛店でした。
幕が終わるごとに闘牛士達が緞帳前に並んで一斉に歓迎ポーズを取り、そして主要役を迎え入れては
レヴェランスが行われる儀式もどこか懐かしく、されど時間を割いて行うのもかえって今は新鮮に見て取れます。
全体に節度が行き渡った伝統のプリセツキー版ドンキ全幕、27年ぶりに満喫いたしました。
リニューアルオープしたシビック
牧バレヱドンキを前回鑑賞した1996年の世相を考えながら水道橋駅方向へ歩く、東京ドームシティの乗り物を眺める帰り道。
ドラマ『ロング・バケーション』が流行り、久保田利伸さんが歌う主題歌でメリーゴーランドの描写で始まる曲もあちこちで流れていた年でございました。
現在も通信機器関連音痴な管理人は使用経験無しですが、ポケベルが流通していた頃かと思います。
(お若い世代の皆様、ご自身でお調べください。CDがよく売れていた時代でございます。尚、およげたいやきくんよりは現代寄りです)
水道橋駅のスペイン料理店へ行ってみた。
お皿に広がる生ハム、厚めで食べ応えあり。赤ワインも進みます。
珍しいメニューで、バスクのカニグラタンを注文。とろっとしたソースの中に蟹さんが溶け込んでいます。お出汁たっぷり、ワインが止まりません。
バレエ団創立40周年記念公演として1996年秋に『ドン・キホーテ』が開催されたときのチラシ表側。
部屋の整理整頓が苦手な性分ですが、この手のバレエ関連チラシに限っては年代別に保管しており、すぐさま取り出せる状態にあります。
裏側。酒井はなさんが期待の新星、新人賞を受賞されていた時期でございます。
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