2月5日(日)、日本バレエ協会マシモ・アクリ版『ドン・キホーテ』昼公演を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2023tominfestival/
キトリ:川島麻実子
バジル:厚地康雄
エスパーダ:キム・セジョン
ドン・キホーテ:遅沢佑介
サンチョ・パンサ:奥田慎也
メルセデス:大久保沙耶
ジャネッタ:小野麗花
ビッキリア 並木まりか
ガマーシュ 清水健太
ロレンツォ 柴田英悟
森の女王 田山修子
アムール 石橋沙也果
ゲネプロ映像。水谷さんアクリさん組と川島さん厚地さん組です。
川島さんは品が香り立つ優美なキトリで、頭一つ抜けた洗練された雰囲気を纏って登場。
ドン・キホーテがドルシネア姫と思い込んで求愛するのも納得なヒロインです。
腕にしても脚先にしても、勢いやパワーで押し出さず僅かな余韻を残しながらの踊りで、そこかしこに花がぱっと咲き出しているように見て取れました。
キトリのカスタネットのソロはただ一直線に突き進むのではなく一呼吸置いてポーズを余裕を持って決めてから次のステップに移る過程までもが目を惹き、
勢い任せにしがちな振付であっても一段と優雅な魅力が花開いた印象です。
友人のみならず周囲の街の人々との掛け合いも十二分で隅にいる人にも話しかけては中央へと引き寄せていたりと広場の活気は益々上々。
ドルシネア姫の少し渋みを帯びたピンクのチュチュもお似合いで、ドン・キホーテの恋心がいよいよ極致へと達するのも頷ける、しっとり端麗な姫でございました。
厚地さんは床屋ではなく都会の一等地に店を持つ美容師さんに見えてしまいましたが笑、ぱっと華やぐ格で吸引力が十二分。
力みなく自然に周りをぐいっと引っ張り、明るさと朗らかさをもたらすバジルでした。
例えば芝居が続く場においても、ドン・キホーテやガマーシュのもとからキトリを連れ出し、嫉妬して説得を試みる箇所での
1回の移動距離や表現、隅々まで行き渡るコミュニケーションの範囲がダイナミックで、出演者人数多き作品の文化会館大ホールの舞台であっても
厚地さんの立ち位置は常に灯りがたっぷり照らさられてそれが積み重なって舞台に厚みが増していたように思います。
特筆すべきは初共演が信じ難いほどに抜群な息の合い方であった川島さんと厚地さんのパートナーシップ。
力強さで押さぬ、エレガントで上品な持ち味の方向性通じ合う大人な美しいペアでございました。
お互い相思相愛な関係であっても細かい駆け引きが楽しく、通りかかり姿を見せつけるエスパーダの髪撫でを真似するキトリに大嫉妬し
エスパーダに向かって競争心を露わにするバジルの可笑しいことよ笑。
しかも繰り返しになりますが2人して品を崩さずやり過ぎぬよう、面白さもお茶目な部分もちょこっと引き立つ程度にとどめていた点も一貫して通じ合っていました。
1幕片手リフトも長い時間ぴたりと決めながらもドヤっとした顔はせず 2人ともあくまでさらり。
グラン・パ・ド・ドゥは格式たっぷりで、結婚式での揃って白い衣装の装飾がキラリと豪華。
時間の尺も人数もボリューム感のあった式の演出であっても埋没せぬ麗しい新郎新婦な並びでした。
全編でじわりと沸かせてくださったのは清水さんのガマーシュ。多々橋渡し役こなす働き者で懐深い上に踊り盛りだくさんな場もしっかり魅せるキャラクターでした。
高貴で折り目正しい役柄のイメージがあり、清水さんのガマーシュがどう造形されるか興味を持ってはおりましたが
仕草や踊り方がコミカルな趣の中にも上品な姿が広がり、細部に至るまでメリハリも万全。
ロレンツォの宿食堂では他のバレエ団公演で見かける見習い従業員もおらず、ロレンツォの今風に申せばワンオペ状態で
暫くは話し相手もおらず、飲食物の登場がやや遅いながら1人時間も満喫真っ盛りで、闘牛士達の踊りやハンカチ持って音頭取ったり真似ながら応援鑑賞。
途中から出された葡萄を摘まむ所作も丁寧でお育ちの良さを思わせ、気づけば人手不足の食堂の助っ人となったのか
ドン・キホーテやサンチョの歓迎や世話役も担う働き者。意外と勤勉で気が利くガマーシュに対して
キトリも決して嫌がってはおらず、街の人々とも仲良く過ごし溶け込む好ましい貴族でございました。
サンチョがロレンツォを呼ぶときにテーブルを叩いた際に倒れてしまったワイン瓶もそっと直したり、
ドン・キホーテのもとへ行こうとするキトリのことをバジルにきちんと伝達したり
そしてキトリとバジルの結婚が決まった酒場にて現実を受け止められぬロレンツォを励まし慰める、
ライバル相手にも優しく、自身は婚約に辿り着けずであっても優しさを惜しまぬ、それはそれはチャーミングな人物でした。
酒場にてバジルによる狂言自殺計画直前にはウェイター達と急速なテンポ曲で踊る見せ場があり
(ずっと気になっていたこの曲、アントン・シモーヌ作曲の水兵の踊りとのこと)
剣を掲げながら軽妙洒脱に行進しつつサクサクと踊っていく展開にキトリもつい見惚れている様子で、
バジルの再登場及び準備までの場繋ぎでは全くない、ひょっとしたら酒場のハイライトかと思わせる見どころでした。
思えば清水さんの舞台も北は北海道のニトリホール閉館公演、南は福岡県の田中千賀子バレエ団まで全国各地で鑑賞していながら
(追っているわけではないのだが何時の間にか各地で鑑賞機会に恵まれた)こういった個性の強い役は初めてお目にかかりましたが
端正な面からちらりと覗く面白さの加減が好印象。あらゆるキャラクターを踊ってこられたアクリさんが力を注がれたであろう
物語の中枢を任せられた役柄を生き生きと品良く造形されていました。
脇を固める主要役も充実し、キムさんのエスパーダは涼しげでキザな味もあり、貴公子系の役柄よりも印象に刻まれたかもしれません。
大袈裟な髪撫ではキトリの心を惹き、そしてバジルを煽る効果大で思わず笑いがこぼれてしまいました。
東京に拠点を移され、東京シティ・バレエ団に入団された大久保さんのメルセデスがクール且つ艶っぽい香りを放ちうっとり。
昨夏に田北志のぶさんオープンクラス発表会にてメドーラ役で鑑賞した、すらりとした手脚の田山さんによる嫋やかなラインを描き空気を包み込む森の女王にも目を奪われました。
ドン・キホーテの遅沢さんは皺を書き過ぎていた感もあったものの、悠然とした佇まいで魅せ、
何処か可愛らしく健気な奥田さんサンチョとの旅路は浪漫に溢れていたであろうと想像いたします。
アクリさんの演出は王道路線を崩さず、されど所々に工夫光る3時間みっちり上演。カエル跳びな脚技を含ませた難解振付をセギディリアの皆さん易々とこなし、
酒場にはバジルの杯の踊りを挿入。(ただどうしてもバリシニコフが過ってしまいましたが)
イエーイのような謎めいた掛け声は少々首を傾げたものの、先述の通りガマーシュとウェイター達によるショータイムはあっと沸かせる工夫であったと捉えております。
結婚式は大所帯で舞台を埋め尽くす色とりどりの衣装の雲海と化していたほど。
ドン・キホーテもサンチョも、ロレンツォにガマーシュも街の人々も全員集合で、
ヴァリエーションの部分を人数多めで踊る場に変更もあり賑やか大団円婚礼でした。短めベールを被ったキトリも美しいこと!
背景や衣装はセギディリア女性の簪風ティアラ付き頭飾り始めやや古色蒼然とした気もいたしましたが
(背景はもしやABTからイエーガーとボッカが客演した35年前頃と変わりない!?)
様々な団体所属者同士の混合構成であっても、主演の川島さんと厚地さんの引き寄せ力や
脇主要役の充実ぶりが好影響をもたらし一体感ある舞台に仕上がっていました。
会場ロビーの四方八方から耳に飛び込んでくる、協会特有「◯◯先生おはようございます」な会話にもすっかり慣れた部外者な管理人笑。
午後の時間帯にも拘らず朝の挨拶が聞こえてくるたびに違和感を覚えていた昔が懐かしうございます。
(しかし、恩師に対してはレッスンやリハーサル以外の場所でもおはようございますしか言ってはならないのか今も不思議ではある)
※千葉県南柏市に本部を置くステージバレエアカデミー通信2023年1月号にて
江藤勝己さんが楽譜の準備裏話を明かしてくださっています。多彩そうな音楽構成の陰にはこんな奔走があったとは。
バレエ音楽セミナー、2月は12日と26日に開催。旬の話題ドン・キホーテがテーマとのことです!そういえば、今月半ばには牧阿佐美バレヱ団もドンキを上演。
https://www.stageballet.net/pdf/ballet_communication.pdf#zoom=100
※今回この日の昼公演を選んだのは、川島さん厚地さんの初共演に興味を持ったのが1つ、そして実は川島さんに大変お世話になった経緯からでございます。
お世話になった、と申すと川島さんにバレエを習ったと思われるかと存じますがそうではなく、一緒にレッスンを受講する機会があったのです。
昨春初めて伺った、篠原聖一さん下村由理恵さんが新宿村スタジオで主宰されているオープンクラスでございます。
下村さんアンサンブルのダンサーなど客席から目にしたことがある方々がお越しになるのは想定内でしたがまさか川島さんがいらっしゃるとは目に留まった瞬間驚愕。
思えば近年篠原さん下村さんとの関わりが深く、『アナンケ』やバレエ協会公演『ラ・エスメラルダ』にも主演されたりと冷静に考えたらいらしても驚きはしないはずが
ご本人を間近で、しかも同じレッスン受講者として目にするとは思いもいたしませんでした。
更には、この日は偶々人数が少ない日でセンターの大半は2人ずつで行う流れとなり、
タイミングが重なって私はまさかの川島さんと組んで臨むことになったのです。
私の姿形やバレエのレベルを知る方々は信じ難い光景とお感じになることでしょう。それもそのはず、
細長いしなやかな深紅の薔薇の如き川島さんと、錆びれたドラム缶なズンドコ管理人が2人きりで新宿村の広大なスタジオで踊るなんぞ
スタジオ開館以来の大珍百景であったのは間違いありません。以前から申し上げている通り
レッスン回数は訳あって年に2回程度で2020年と2021年は0回、昨年は事情があって5回に倍増した鑑賞中心の初級レベル者な素人が
近年まで東京バレエ団プリンシパルとして活躍され都内の大きな劇場や全国ツアー、
海外公演でも主役を張られていた川島さんとセンターで組む機会が訪れるとは夢にも思いませんでした。
一般の初級クラスではあり得ぬ、オープンクラスだからこそ巡ってきた幸運でしょう。
しかし変な恐怖感はなく、寧ろ嬉しさや喜びのほうがまさってしまったのは、まず主宰の篠原さん下村さんの全体を楽しい方向へと引き上げる術に助けられたこと。
伴奏が始まりいざ一緒に出発となると嬉々としてしまい、相変わらず飛距離計算できぬ管理人は
気づけば隅に立つ篠原さんの立ち位置すぐそばまで跳んでいってしまいましたが汗
(新宿村でもギリギリライン、都内屈指の広いスタジオのはずだが) 気持ち良く終えられたのでした。
ただ、こんな初級素人と組むことになってしまった川島さんからしたら迷惑だったかもしれぬと終了後、挨拶も兼ねてお礼とお詫びに伺ったところ
それはそれは優しく励ましてくださり、向けてくださった柔和な表情、そして通りかかった篠原さんが和ませる一言を発してくださり、
そのときの川島さんの無邪気な可愛らしさも忘れられない出来事です。
受講前は不安で一杯であった私を篠原さん下村さんと共に心底救ってくださったことに感謝が尽きず。川島さん、その節は本当にありがとうございました。
ご参考までに下村さんのSNSより、オープンクラスの様子です。2つめのくるくるフェッテは私の受講日は無く(仮にあったとしたらどうしていただろうか、未経験です汗)
1つめのグランジャンプは昨春の当時も同様の振りであったかと思います。これに似たアンシェヌマンを川島さんと2人でやっていたのか私は汗汗。
篠原さんの掛け声も動画と同様によく響き渡っていました!
帰り、上野駅近くにて赤ワインで乾杯。お通しのパンはおかわり自由です。勿論いたしました。1人であっても1籠セットで持ってきてくださいます。
サンチョ・パンサと同じ胃袋の大きさであろう管理人と違って少食なお方はご注意ください。(つまり私は1人で2籠分いただきました。食べ盛りの中高生か笑)
オリーブが練りこまれたパンと、香ばしいフォカッチャの2種。そのままでも手が止まらず、ワインともぴったり。
そして秋刀魚のアヒージョ。身がほろりとほぐれて旨味たっぷり。
ワインに合う炭酸水(無料)。ピチピチと跳ね上がる泡観察が楽しい。大阪に行ったときしばしば利用した、心斎橋の銭湯の電気風呂を思い出します。
スパークリングワインと洋梨のシャーベット。いたく爽やかで口の中がすっきり!締めにおすすめでございます。
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