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2022年11月18日金曜日
舞踊と音楽の宝箱 牧阿佐美バレヱ団『ダンス ヴァンドゥ』 11月12日(土)
11月11日(土)、牧阿佐美バレヱ団 ダンス ヴァンドゥ ー牧阿佐美の世界ーを観て参りました。
https://www.ambt.jp/pf-danse-vingt-deux/
作品紹介映像
リハーサル映像
『誕生日の贈り物』
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
振付:サー・フレデリック・アシュトン
衣裳デザイン:アンドレ・ルヴァスール
振付指導:クリストファー・カー
青山 季可 阿部 裕恵 佐藤 かんな 三宅 里奈 光永 百花 高橋 万由梨 今村 のぞみ
清瀧 千晴 水井 駿介 石田 亮一 大川 航矢 近藤 悠歩 正木 龍之介 小池 京介
色とりどりの衣装に身を包んだ男女のペアが組んでSの字を描きながら登場するワルツからわくわくと胸躍り、勢揃いすると宮殿に現れた七色の星々を眺める気分。
女性陣の、星が連なる首飾りに照明が反射してきらりと光る様子がまた心を一層ロマンティックに昂らせました。
NHKでも放送された吉田都さんの引退公演の印象も濃く残っておりますが、各団の主役級を集め個々のオーラに圧倒されたその公演とは異なり、
団内からの精鋭集団且つ全体が丁寧に優美に調和する絵と見て取れ、ペアになって移動する姿だけでも優しい息遣いが醸されて予想以上に見応えと幸福が上昇。
ソロでは阿部さんの静止ポーズでの愛らしいフォルムや、三宅さんの柔らかな背中の使い方、
青山さんの穏やかに語りかけるようでいてされど腰の捻り方や細やかな跳躍万全な踊りも目に刻まれております。
女性ソロの最中に男性陣が後方に並んで立つ姿もなかなか宜しく、動いてはいけないものの貼り紙ではありませんからただ突っ立っているだけでもいただけない
難易度高い演出でしょう。しかし7人で見守る姿が至ってノーブルでおおらかさもあり、こちらまでもが背筋を伸ばしたくなる宮廷なる雰囲気が広がっていました。
中盤での男性全員による勇壮なワルツにおいても、全身で下から上へと音楽と一体化しながらの披露が目覚ましく
冒頭から終曲までグラズノフが描く、星空から潤いが舞い落ちるような旋律にも何度聴き惚れたことか。定期的に上演を重ねて欲しい作品です。
『トリプティーク(青春三章)』
音楽:芥川也寸志 1953年作曲『弦楽のための3楽章(トリプティーク)』
振付:牧阿佐美
ソリスト:米澤真弓 坂爪智来
芥川也寸志によるこの曲の、重々しく引っ張り翳りを帯びつつも潔い曲調に惹かれ、初めて聴いて以来頗る好んでいる作品です。
新国立劇場バレエ研修所のレパートリーとしてしばしば目にしておりましたが、あとの『シンフォニエッタ』と同様プロのダンサー達の手にかかると
味わいの色がはっきりと見え、主軸の米澤さんと坂爪さんが清新で鮮やかな趣きで
一見曲調とは正反対な爽やかさに思えるも、次々とステップを機敏に刻んで群舞を率いて魅了。
そして牧さんは創作当時の1960年代後半のこの頃から、複数人数によるフェッテがお好きであったのであろうと推察です。
『カルメン』
音楽:ジョルジュ・ビゼー/ロディオン・シチェドリン『カルメン組曲』
振付:牧阿佐美
カルメン:日髙 有梨
ホ セ:逸見 智彦
エスカミリオ:菊地研
1幕仕立てにまとめられ、カルメンとホセの逢瀬やカルメンと女工との喧嘩、エスカミリオとの駆け引きから、やがて絶命するまでを一気に描写しています。
音楽はどこかで聴いたクラシック名曲集とも感じさせる選曲。日髙さんはじわりと情熱を撒いていく登場のソロから周囲を虜にさせ、
もう少し身体がよりシャープに動くと尚良かったかとも思いましたがホセを思いのままに操る目付きや、
最期手を掲げて訴えかけて命を落とす幕切れも妖艶な色を広げ引き寄せるヒロインでした。
カルメンの運命の狂いの象徴であろう死神の佐藤さんの、不穏な空気をもたらす存在感や艶かしさもある脚運びも印象に残り
年齢を重ねても尚、ゆで卵の如くつるっとした美しい容姿に驚かされた逸見さんは運命にカルメンにみるみると人生狂わされるホセを悲哀を漂わせながら体現され
エスカミリオ菊地さんのカーテンコールでの髪撫でサービスも忘れられません。
『シンフォニエッタ』
音楽:シャルル・グノー
振付:牧阿佐美
ソリスト:織山 万梨子 水井 駿介
こちらも新国立劇場バレエ研修生で馴染み深く、キャリアを重ねたプロ達が踊るとまた新鮮。
織山さんのカチッとしたスタイルな踊り方と、晴れやかしなやかな身体で音楽を表す水井さんのペアもすっきりと作品に嵌り
シンプル純白な衣装で整えられ、歯切れ良く踊る群舞を楽しげに語るように率いる姿が爽快でした。
『ライモンダ』より夢の場のパ・ド・ドゥ
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
振付:牧阿佐美
ライモンダ:中川 郁
ジャン・ド・ブリエンヌ:石田 亮一
牧さん版『ライモンダ』ならば本番は姫は白地百合紋章に事務員風白色腕カバー、ジャンは青グレーの甲冑型衣装かと思いきや
チラシと同様ウエストモーランド版での衣装で登場。ジャンはゴテゴテ、姫の冠はサイドパーツ含め立派なのだがチュチュが無地に近くやや物寂しいところ。
それでも夢見心地と物憂げな風情を織り交ぜた中川さんと、決闘の場面は今一つ想像がつかないが(失礼)ノーブルで身体の線も綺麗で全身から優しさを醸す石田さんが
踊り手泣かせであろうグラズノフの歌えぬふにゃふにゃ曲調に合わせて優雅なパ・ド・ドゥを見せてくださいました。
数あるバレエのアダージョの中でも最もカウントが取りづらい難曲と思っております。
『時の彼方に ア・ビアント』よりパ・ド・ドゥ
音楽:三枝成彰
振付:牧阿佐美、ドミニク・ウォルシュ、三谷恭三
カナヤ:青山季可
リヤム:ラグワスレン・ オトゴンニャム
2006年の初演以来16年ぶりの鑑賞。初演当時は吉田都さんロバート・テューズリーさん草刈民代さん組と
田中祐子さん逸見智彦さん吉岡まな美さん組の2キャストを鑑賞しております。
ところがどっこい、どんな作品でも、特に全幕物ならば年月が経過しても尚更何かしら場面を思い起こす私にもかかわらず
音楽も振付もこれといった場面も思い出せず。強いて言うならばサッカーぐらいか。久々に当時のプログラムも目に通し、(購入しておいてよかった)、 実に親切な編集で時系列に登場人物、脚本を手掛けた島田雅彦さんによる場面解説、曲名が全編通して掲載されていながらどうにもこうにも思い出せず。
しかも吉田さんやテューズリーさん、草刈さんの全幕共演実現に居合わせながら、決して記憶力が良いとは言い難い私とはいえ
ここまで記憶が遠ざかっているのは最早演出が(以下略)。サッカーW杯カタール大会を目前にしてぶった斬るにはこの辺りにして、
珍全幕豊作年であった2006年の中でも古代エジプト浪漫絵巻でなかなか気に入った『ファラオの娘』、
日本語横断幕の大コケしか脳裏を過ぎらぬ『ドナウの娘』を追い越し首位を走る作品でございました。
さて本題。そんな初演時の経験から改訂されたであろう再演にも足を運ばず早16年。内心不安を覚えながらパ・ド・ドゥ抜粋で観てみると、誠に引き寄せられる舞台でびっくり。
青山さんの儚さ、仕草や脚の差し出し方の繊細さがしっとりと潤いをもたらすような魅力に満ち、エメラルドブルーの靡く衣装もたいそうお似合い。
オトゴンニャムさんと情感を交わしながらの美しいパ・ド・ドゥでした。全幕よりも、抜粋のほうが響いたと申すなんぞ
制作陣営に失礼極まりないとは百も承知ですが、やっとこさこの作品の良さが断片的ではあれ理解できた気がいたします。
所謂パ・ド・ドゥ羅列のみのガラではなく作品まるごとの上演や、全幕よりも寧ろ抜粋の方が魅力に気づける(ア ビアント制作関係者の皆様申し訳ございません)
作品も揃え、舞踊だけでなくグラズノフに芥川也寸志、グノーにビゼー、そしてフィナーレはチャイコフスキーのエフゲニー・オネーギンのポロネーズ、と
音楽の宝箱をも開けたかのような構成も好印象。牧さんが手掛けた、関わってこられた数々の作品を一挙に目に耳にできた一夜でした、
ア ビアントのパ・ド・ドゥにて青山さんが着用されていた衣装に似た涼やかなエメラルドブルーを思い出し乾杯。
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