2022年1月30日日曜日

思いがけず巡り合わせたトリプル・ビル Kバレエカンパニー『クラリモンド~死霊の恋~』全編 『FLOW ROUTE』 『シンプル・シンフォニー』1月29日(土)




1月29日(土)、Kバレエカンパニーのトリプル・ビル昼公演『クラリモンド〜死霊の恋』、『FLOW ROUTE』、『シンプル・シンフォニー』を観て参りました。
https://www.k-ballet.co.jp/contents/2022lamorteamoureuse

『シンプル・シンフォニー』
振付:熊川哲也
音楽:ベンジャミン・ブリテン
舞台美術デザイン:鈴木俊朗
舞台美術デザインアシスタント:佐藤みどり
衣裳デザイン:前田文子

成田紗弥  高橋裕哉   小林美奈  山田夏生  杉野慧  吉田周平

記憶違いでなければ2013年の初演以来9年ぶりの鑑賞。当時の出演者は荒井祐子さん、西野隼人さん、日向智子さん、橋本直樹さん、佐々部佳代さん、伊坂文月さんでした。
全員黒で統一した衣装で女性はタイツもポワントに至るまで黒色であっても光沢のある小さな宝石のような装飾がアクセントになり
また何より、音の1つ1つを刻むような細かな技巧てんこ盛りな振付を踊りこなす達者な布陣なだけあって踊りを繰り出す身体がくっきりと見えたほどです。
女性陣のチュチュの内側がキラリとした緑色で、動いて翻るたび、またリフトされたときにはシックな空間によく映えて実にお洒落。
色味の広がりに至るまで計算し尽くされた振付、衣装と見て取れました。ペア毎に三角形を描画するようなフォーメーションや
男性が跳躍を繰り返している間、女性が顎の下に両手を添えてユーモアな魅力を全開していたりと飽きのこない工夫がされた振付であった印象です。
男性陣のぺったり撫で型な髪の纏め方は指定であるのか分かりかねますが、女性陣の夜会巻はきりっと決まっていて美しや。
成田さんの淀み無きポーズの連鎖や小林さんの強い軸から放つパワフルな造形がひときわ目を惹きました。

お好きな方には申し訳ないが奇妙で且つ掴みどころがないと耳が覚えてしまったのかブリテンの曲は大の苦手で
初台にて『パゴダの王子』全幕を計9回鑑賞しても、そして9年前のこの作品初演を鑑賞しても苦手意識は拭えず。
しかし今回は特に女性陣の踊りが好みに合った点や、舞台とオーケストラ双方が近くから俯瞰して見渡せる席で
中盤のピチカートな場面では演奏者達の手が一斉に爪研ぎをする猫の手にも見えたりと舞台と演奏者同時進行で楽しく観察。
黒に近い赤い背景も締まりをもたらし、以前よりはずっと好みに近づいた作品です。


『FLOW ROUTE』

振付:渡辺レイ  
音楽:L.v.ベートーヴェン
コリオラン序曲 作品62  
弦楽四重奏曲  第14番  嬰ハ短調 作品131より
交響曲  第7番  イ長調 作品92より  第4楽章

飯島望未  山本雅也
萱野望美  高橋怜衣  辻久美子  吉田早織
辻梨花  新居田ゆり  栗山結衣  吉岡眞友子  
酒匂麗  杉野慧  栗山廉  関野海斗  
本田祥平  三浦響基  金瑛揮  髙橋芳鳳

殆ど予備知識無しで鑑賞し、ベートーヴェンの曲構成ならば睡魔には襲われずに済むコンテンポラリーなのであろう程度に観始めたら寸分のダレも無く驚愕の連続。
やや暗い空間にて卓球台ぐらいの大きさの黒いテーブルを黒のスーツ風衣装の男性達が囲んで怪しく踊る箇所から目が離せず。
そして最たる衝撃は飯島さんで、ファッション界でも有名人としか印象を持っておりませんでしたが大変失礼極まりなく、
身のこなしが誠に軽やかで急ピッチな曲調の中で僅かな狂いも皆無。飯島さん自身が音楽を突き動かして支配しているようにも見え、恐れ入った次第で
彼女が主軸を務めるコンテンポラリー作品をもっと観たいと欲が募らずにいられずでございます。
考えてみればKバレエカンパニーの公演でのコンテンポラリーも初見かもしれず、皆揃って高い身体能力、何より心から喜びを発して踊る姿にも驚かされるばかりで
最後、全員で対角線上に突っ切るかと思ったところで昇華して暗転する幕切れにも痺れました。
大掛かりな照明効果も忘れられず、暗闇に照らした太い光の道が開いてやがて情熱が覆う大地へと移り変わるような変貌演出にも見入りまた観たい作品の1本に追加決定でございます。


『クラリモンド〜死霊の恋』

演出振付:熊川哲也
音楽:ショパン
ピアノ協奏曲  第2番  ヘ短調 作品21 、ほか
ピアノ協奏曲  第1番  ホ短調  作品11 第1楽章
音楽監修:井田勝大
ピアノ独奏:塚越恭平
編曲:横山和也
原作:ピエール・ジュール・テオフィル・ゴーティエ
舞台美術デザイン:ダニエル・オストリング
衣裳デザイン:セリーヌ・ブアジズ

クラリモンド:日髙世菜
ロミュオー:堀内將平
セラピオン:石橋奨也
バーバラ:浅川紫織
ロートレック:関野海斗
修道院長:グレゴワール・ランシエ
神父たち:三浦響基  金瑛揮  武井隼人  髙橋芳鳳
娼婦たち:岩井優花  戸田梨紗子  高橋怜衣  辻久美子  吉岡眞友子
客人:杉野慧  栗山廉  奥田祥智  田中大智

2018年に初演した短編作品を60分の全幕版にして上演。ショパンの音楽に振り付けられている点やあらすじからして『椿姫』に似た作品になるかと思いきや
舞台転換や振付もよく練られ、終盤のクラリモンドとロミュオーのパ・ド・ドゥのみ終わりが見え辛くやや冗長に感じてしまったものの
シック且つ艶やかな衣装や調度品の色も品の良い質感で工夫が行き渡り、斜めに吊るされた曇がかったアンティークな鏡が不穏な展開をも彷彿です。
堀内さんのロミュオーは品行方正な修道士が、聖職に就く直前に若さゆえか俗世での戯れの欲に負け逃走を決意する苦悩や娼館のマダムであるバーバラからの誘い、
そしてクラリモンドに出会い呑まれてしまうさまを力強くも丁寧な踊りで描出。
全編通してほぼ踊り通しの役柄でありながら常時安定した舞台姿で作品を牽引され、終盤死んだはずのクラリモンドが吸血鬼と化して現れての再会にて
驚くも幸福が沸き上がっていく感情をのせた場面もずしっと余韻を残していくものがありました。

日髙さんのクラリモンドは長くしなるような手脚をさっと動かしただけでも妖しい香りを漂わせ
急速テンポな両脚が絡みそうな登場ソロでも身体を巧みに使って舞台を駆け、艶かしさを体現。同性でも魔力に嵌められてしまいそうになったほどです。
真面目一徹に生きてきたであろうロミュオーがすぐさま目も心も奪われ恋の沼に落ちていく展開に説得力があります。
一方で病を患い、主人であるバーバラの前だけで見せる弱い部分も細かに表し、客前の顔と素顔の切り替えを明示。
終盤での吸血鬼となってロミュオーに迫る姿は恐怖感を与えつつも悲しげな眼差しも焼き付き、現実世界で恋愛を謳歌する人生を歩みたかった無念さが胸に沁み入りました。

物語の鍵を握る人物として橋渡しな役目も果たしていたのは浅川さんのバーバラ。ロミュオーを招き入れ、クラリモンドとの恋を見守り客人や娼婦達を取り纏める
知性が滲み出た落ち着きある女性で、周囲からも慕われている人物と推察。ポワントで踊る箇所もふんだんに用意され、
現在は指導者やユースの監督としても活動なさっていながら舞台姿の美しさは健在で、要所を引き締めてくださいました。
ロミュオーを心配して娼館を訪問したはずがクラリモンドの魅力に圧倒されてしまう様子を喜劇要素が一切無い作品であっても
思わず笑ってしまうほど分かりやすく伝えてくださったランシエさんの修道院長や
ロミュオーの部屋にてクラリモンドの死霊を感じて十字を切るとクラリモンドが苦しみ、対して倒れ込みから復活するロミュオーからは突き放される怒涛の展開の中心を担っていた
セラピオンの石橋さん、デッサン欲がおさまらぬ興奮した心持ちを素早いテクニックで見せた関野さんのロートレック等
適材適所な配置で詳細なあらすじは頭に入れずに鑑賞に臨んでも(プログラムは終演後に購入)悲恋の世界をじっくり味わうことができました。

ロートレックは好きな画家の1人で、昨夏に平日の夕方八王子市での鑑賞前に立ち寄った会場近くの珈琲店にて絵が何点も飾られ
職場を早退できた安堵感からのんびり眺めているうちに時間がぎりぎりになってしまった真夏の昼の現実でございましたので
バレエでの描かれ方にも注目しておりました。そういえばフランスのトゥールーズのバレエ団ではロートレックが主人公!?のバレエが制作されたとか。興味をそそられます。
話を戻しまして、ショパンの音楽からの選曲も良く、ロマンティックな感情の浮き沈みが波打つように描写された曲で構成。聴き入ってしまう曲ばかりでした。
大人数作品ではなくても娼婦達と客人達の賑わいある見せ場も用意され、全員異なる隅々まで凝ったデザインの衣装も充実。1時間に凝縮された物語バレエでした。

この日は当初別公演を鑑賞予定が中止となったため予定を変えて足を運び、白昼に本来ならば京阪電車に乗車しているはずが
京王井の頭線利用している現実の受け止めが難しい気分も微かにあったものの、いざ鑑賞すると3本全て満足度が非常に高いトリプル・ビル。
『クラリモンド』裏側レポート映像も豊富でリハーサルや衣装製作映像も当日朝から全て視聴し
時折時刻が目に留まると今頃は車窓から富士山眺めて間もなく静岡通過、と本来の計画が脳裏を過ぎりつつも
振付や衣装、音楽まであらゆる観点から捉える『クラリモンド』に興味を示すきっかけとなり午後の鑑賞がより楽しみに。制作過程映像発信、大変助かりました。
全国各地舞台開催が再び困難となってしまった状況下、仮に中止となってしまっても誰のせいでもありませんが
危ぶまれる中でも無事予定通り開催され、生の鑑賞を満喫できたのは思いがけずの巡り合わせで幸運でした。
3月の『ロミオとジュリエット』も今から心待ちにしております。




今回はプログラムが1000円でしたので、また3作品とも非常に満足度が高かったため購入。額縁を描いた装丁が古書物のような趣あり。
『クラリモンド』のページには衣装デザインを手掛けたセリーヌ・ブアジズによるデッサン画が1役に1ページずつ割いてカラー掲載。
画集のようで、1着1着見惚れてしまいます。



渋谷駅とBunkamura間は以前から人混みを避け道玄坂側出口からの裏道を使っており、改札までの通り道にある
マークシティ内のお店にてフランス産ワインを飲みつつチーズの盛り合わせで1人乾杯。
蜂蜜をかけるとふくよかな味わいとなり味変化も美味しい。
お店から井の頭線アベニュー口改札までは我が足で約50歩でございます。

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