2021年3月8日月曜日

秋山さんのジゼルデビュー 東京バレエ団『ジゼル』2月27日(土)




2月27日(土)、東京バレエ団『ジゼル』を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2021/giselle/

※NBSホームページより抜粋
ジゼル:秋山瑛
アルブレヒト:秋元康臣
ヒラリオン:岡崎隼也


- 第1幕 -
バチルド姫:榊優美枝
公爵:木村和夫
ウィルフリード:大塚卓
ジゼルの母:奈良春夏

ペザントの踊り(パ・ド・ユイット):
岸本夏未-岡﨑司、加藤くるみ-玉川貴博、上田実歩-昂師吏功、髙浦由美子-鳥海創

ジゼルの友人(パ・ド・シス):
二瓶加奈子、三雲友里加、菊池彩美、酒井伽純、長谷川琴音、花形悠月

- 第2幕 -
ミルタ:政本絵美
ドゥ・ウィリ:金子仁美、中川美雪


指揮:井田勝大
演奏:東京交響楽団



秋山さんのジゼルは内気で可憐な少女で愛らしさの塊。登場シーン、扉を開けて見せた姿からして病弱そうな儚さと
期待を少し込めながら扉の叩き主を探そうと一生懸命な表情がいたく健気に映りました。
驚かされたのは目立つ粗が無く既に完成されている印象すら与え、空間の使い方が巧く存在が随分と大きく見えた次第。
1幕ソロの最中はアルブレヒトが不在で(ラヴロフスキー版のみ?)、時折不安げに遠くを眺めつつ同時に爪先立ちで対角線上を進む箇所もお見事でした。
狂乱は静かに静かに壊れ、我を忘れて頭を掻き毟るわけでもなく幸福な日々の一瞬一瞬を微笑みながら愛おしむように回想。
精霊の透明感や浮遊感も実に上出来で、溶けて消え入りそうな姿に微かな人間味を残したバランスも絶妙でした。

秋元さんは農民の格好をしてウィルフリードに対して上機嫌に浮ついた顔を見せたときは遊び人貴族かと思いきや
ジゼルに対しては鼻で嘲笑う様子もなく、花占いは至って真剣。純情派であると推察です。
ジゼルの命が絶えそうな状況ではウィルフリードに縋り付き、絶望感に襲われ脚も動かせぬ状態を思わせました。
2幕ではミルタに許しを乞う連続跳躍では繰り返す中で苦しみが最高潮に達するさまを腕や上半身でも語り、震え上がる恐ろしさを訴えかけていた印象です。

秋山さん秋元さんの共演は昨年9月の『ドン・キホーテ』で鑑賞しており、爽やかなテクニック合戦な趣で
劇的な熱さはそこまで到達していなかったと見受けております。ただ今回はすぐさま全身全霊での愛情表現が控えめであったからこそ
一途さや純粋な感情が少しずつ合わさっていくゆかしさが結果として何処までも純愛な物語として構築。胸にじわりと迫ったのでした。

岡崎さんのヒラリオンも目を惹き、子ども眠りでの台詞回しや間の取り方が抜群に上手いカタラビュートも記憶に新しいのですが
ただ闇雲に突っ走る森番ではなく場面展開の案内人のような役目も果たす人物。ジゼル達の甘酸っぱい恋愛模様に夢中な客席を一旦落ち着かせて
急展開する筋運びを示唆。またジゼルに対しても決して野蛮な振る舞いはせず比較的スマートな接し方であったため、
ミルタへの命乞いからの沼落ちが一層哀れに感じさせました。悪意は無けれどジゼルの弱い心臓には衝撃の強過ぎる暴露方法は
考え直すべきであったのかもしれませんが、人生順調に事が運ばぬものです。

村人皆の母親であろう存在であったのは奈良さんベルタの穏やかで懐の深い朗らかさ、人数を多めにして躍動感たっぷりに見せる
男女4組によるパ・ド・ユイットも作品に彩りを添えていました。

これまでとの最大の変化はウィリ達のライン。東京バレエ団『ジゼル』名物とも捉えていた、凛然と鋭い冷たさから
立ち位置の角度や肩の見せ方にも変更加えて柔らかさを出すようになりました。原点回帰の一環だそうで、
優しくあどけない少女達が精霊となっていきなり鬼のような形相や所作で男性を奇襲するとは考えにくく、柔らかな方が理に適う演出かもしれません。

ただ私個人としては、先に述べた通り緊迫感ある冷たさが宿るウィリ達も好みであり、どちらも各々魅力を備えていると考察。
ラインの出し方や解釈についてはミストレス佐野志織さんのインタビューで詳しく明かされ、大変説得力のある内容です。
https://thetokyoballet.com/blog/blog/2021/02/post-99.html

原点回帰であろう演出でなかなか不思議であったのは、百合の花束を手に墓参りに訪れるアルブレヒトが帽子装着であった点。
ベレー帽に羽が付いたデザインで、秋元さんに似合っていたかと聞かれたら失礼ながら回答は難しく
仮に虜となっている男性ダンサーによる、或いは稀に髪型判定三角なアルブレヒトであったとしても笑
この場面の歩き姿は帽子無しで、まずは表情が見たい思いに駆られることでしょう。

タイトルロールをシルフィードと並ぶ当たり役としていた斎藤監督が就任後初の上演で、得意なだけでなく
1996年12月公演『くるみ割り人形』での大怪我からの復帰作品でもあり思い入れも強く、指導にはさぞ熱が入っていたであろうと想像。
監督の著書『ユカリューシャ』は地元の図書館に入荷後すぐに借りて読み、
怪我直前の状況から1幕後半で雪の紙吹雪に滑り転倒すると立ち上がれず、王子役の高岸直樹さんが声をかけながらすぐさま袖に運んだ様子や
後半急遽代役を務めた井脇幸江さんも終演後病院に直行して手を取り合って涙していたなど、
うろ覚えな箇所はありますが切迫した光景が赤裸々に綴られ、一気に読み進めた書籍です。
時代や設定を大胆に移行変更しない限りこれといった改訂がされにくく、初演の基盤が今尚残り続けているロマンティック・バレエの名作を
ゲスト無しの団員のみで、原点回帰と新しい風の吹き込み双方を成し得た誇り高い上演でした。




開演前に、白ワインで乾杯。『ジゼル』ですから。



帰り、貴族の紋章らしき模様の花瓶を眺めつつ赤ワインで乾杯。『ジゼル』ですから。



斎藤監督が主演したジゼルは2006年に観ており、ゆうぽうとでの上演日には皇后美智子さま(当時)が2幕よりご覧になっていました。
2階席にいた管理人はざわつく1階の様子に何事かと思っておりましたら 美智子皇后がいらしている旨を観客同士伝言リレーの如く知った次第。
そしてあとにも先にも、バレエ公演のプログラムで最小サイズであった絵本型プログラム。



見開きは飛び出す絵本、ジゼルがくるくると回転します。ちなみにこのときのアルブレヒトはボリショイのセルゲイ・フィーリン。
バレエはそう多く観ているとは言い難いがされど長年生きている管理人の中で歴代1位の遊び人貴族なアルブレヒト造形で
内面はともかく外面は幼少期から不変の廃れ具合である我が身からすれば例え結婚の約束が嘘でも、
連日花吹雪のように称賛のシャワーを延々浴びせてくれた 意中の男性が二股真っ最中であっても 人生有頂天な幸福を味わっていたジゼルの心境や背景を思えば
アルブレヒトがジゼルに守られウィリに殺されず生還する流れには 大概は納得がいくのですが
からかうわ嘲笑うわな遊び上等であった(恐らくはそういった表現が詰まっていたと記憶)フィーリンのアルブレヒトだけは
早う沼に落ちてしまえとウィリの魂が乗り移ったかの如く怨念を送っていた覚えがございます笑。
しかしそれだけフィーリンの表現、解釈が非常にはっきりとしていたわけで斎藤監督の純朴さが更に引き立つ効果もあり、フィーリン作り込みは好みでした。

2 件のコメント:

Aki Ogawa さんのコメント...

瑛さんのジゼル、素晴らしかったですね。なんと素敵なジゼルだったでしょう~
群舞も感動でした。
瑛さんの<かぐや姫>も期待したいと思います。

管理人 さんのコメント...

Akiさま

こんばんは。お待たせしてすみません。
秋山さん、見事なジゼルデビューでしたよね。
踊り方も役柄もよく研究して臨まれたと想像いたします。早くも再演を観たくなりました!

同じ思いでございます。金森さん版かぐや姫、秋山さんがヒロインを踊る姿を待ち望んでおります!