バレエについての鑑賞記、発見、情報、考えたことなど更新中
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2021年3月23日火曜日
異国交差の歴史物で揃えた春祭り 牧阿佐美バレヱ団 プリンシパル・ガラ2021 3月13日(土)
3月13日(土)、牧阿佐美バレヱ団プリンシパル・ガラ2021を観て参りました。
https://www.ambt.jp/pf-principal-gala2021/
スパイス・イープラスに写真や出演者への。インタビューが掲載されています。大変読み応えある内容です。
https://spice.eplus.jp/articles/283466
ゲネプロ動画
「パキータ」第3幕より
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオン・ミンクス
出演:阿部 裕恵
水井 駿介
阿部さんは可愛らしさにきりっとした強さが加わり、試練を乗り越えて結ばれた経緯が見えてくるヒロイン。
ちょっとした角度の変化も絶妙な位置取りで、客席からの見え方を非常に細かく計算して舞台に臨まれていると思わせます。
水井さんは登場から大変堂々たる姿でいかにも将校らしい勇ましさ、軍服負けしない存在感も頼もしく映りました。
結婚式からの抜粋であっても阿部さんとの語り合いやようやく行き着いた儀式への喜びが聞こえてくるような踊りやサポートも好印象で
滅多に上演されぬ内容が無いに等しい(失礼)結婚式に至るまでの場面もこのお2人ならば成立しそうな気さえいたします。
一新された衣装は主役は白、ソリストとコール・ドは淡い青やピンクで整えられ爽やかな色彩。
それから振付も一部改訂され、2015年のNHKバレエの饗宴にて上演されたアレクサンドロワ・ダニロワと牧阿佐美さん改訂版とは異なって、
観ていて恐怖且つ振付に意味が見出せぬコール・ド一斉フェッテが無くなったのは大変宜しい。
当時に比較すると、おっとり気味ではあったものの呼吸も合って随分と優雅に伸びやかになっていた印象です。
「フォー・ボーイズ・ヴァリエーション」
振付:牧阿佐美
音楽:エドヴァルド・ヘルステッド
出演:坂爪智来、元吉優哉、中島哲也、細野 生
意外と言ったら失礼だが、華やぐ見せ場満載で楽しい作品で何かと勘違いしたのかレッスンウェアのような衣装で踊るかと思いきや
お洒落でクラシカルなデザインの衣装で一安心。 音楽は恐らくは『ナポリ』より抜粋で、跳躍しながらの脚捌きや素早く組むポジションといった、
音楽は豪快繰り出すテクニックは細かい技が多めで 歯切れ良い展開がなかなか爽快でした。
4人集合したポーズから個々のヴァリエーション、コーダののち再び集合で男性版パ・ド・カトルといった趣きです。
「ル・コンバ」
振付:ウィリアム・ダラー
音楽:ラファエロ・デ・バンフィールド
出演:クロリンダ 佐藤 かんな
タンクレッド 石田 亮一
牧バレエでの初演は1977年、暫く上演から遠ざかっていたそうで2005年以来とのこと。
2007年に新国立のバレエ研修所修了公演では修了生の1人大湊由美さんが踊っていらしたとは
耳にしており、イタリアの詩人タッソによる叙事詩『イェルサレムの解放』を元にした中世の歴史物バレエと知っていつか観てみたい作品の1本でした。
脳内に「脚本 ジェームズ三木」の文字が表示するかのような大河ドラマのテーマ曲を彷彿させる音楽が壮大に流れ、
騎乗姿と馬の脚を同時表現するため背筋は伸ばしつつ脚の痙攣が心配になるほどに軽快な動きを見せて行く振付から目が離せず。
佐藤さん、石田さんも背がすらりと高い上に脚も真っ直ぐで美しく、 顔は見えずとも思わずじっと見入ってしまいました。
クロリンダ、タンクレッド共に全編の殆どを兜を被っているため顔の表情では誤魔化せない難しさがある中であっても全身を隈なく使い
勇猛さや思いがけずの恋、決然と迎え討つ姿勢など物語の起伏を表していて、実にドラマに富んだ展開であるため
あらすじの知識を再度頭にしっかり入れた状態でもう1回観てみたい作品です。
そういえば、ヨーロッパにも大河ドラマがあるかは分からぬが、あるとするならばこの辺りの中世十字軍時代(だいぶ長く続いたが)が人気であろうと思った次第。
牧バレヱにはダラー振付『フランチェスカ・ダ・リミニ』もあるそうで、(ヒロインを大原永子さんが踊っていらしたようです)
チャイコフスキーによる、精神が歪んで破裂していきそうな重々しい曲調が好きであるため再演を待ちたいところです。
「ライモンダ」第3幕
演出・振付:テリー・ウェストモーランド(マリウス・プティパによる)
改定演出振付:三谷恭三
音楽:アレクサンドル・グラズノフ
美術:ボブ・リングウッド
出演:
ライモンダ 青山 季可
ジャン・ド・ブリエンヌ 清瀧 千晴
牧バレエでの鑑賞は2008年に全幕、2012年の第1回NHKバレエの饗宴にて第3幕のグラン・パ・クラシック部分のみ鑑賞。
饗宴は上演作品のスケールや質が恐ろしいほどに高かった他の団体に比較すると不発失速に終わった感があり、ノーカウント状態にありますが(失礼)
全幕をゆうぽうとで鑑賞した際には全幕日本初演を遂げたバレエ団としての誇り感じさせ、まずまず良かった印象です。
青山さんは細身な身体であっても決めるべきところでしっかり決めるメリハリがあり、踊り込んでいる分、余裕すら感じさせる気高い姫君。
後にも述べますが、ライモンダの衣装とグラン・パ・クラシック女性陣の衣装の色味やデザインがほぼ同じで頭飾りも簡素なため
主役らしい存在感を示すのが困難なはずが、登場しただけで他を圧する輝きや貫禄をこれでもかと見せ、背中で引っ張る力が実に頼もしい姫でもありました。
清瀧さんはジャンにしては幼いイメージが先行しておりましたが心配無用で、跳躍も1つ1つに張りがあり青山さんと目を合わせながらの表情の付け方も宜しく
失礼をお許しください。1幕からの流れが無くいきなり結婚式であっても身体全体で晴れがましさを表していて心から拍手。
聴いているだけでも心が高揚せずにいられぬ潔い前奏曲に始まり、チャルダッシュやマズルカの人々がそぞろ歩きながら登場して整列する幕開けから壮観。
グラン・パのみならず3幕丸ごとの上演は大きな喜びです。コーダもバレエ団や版によって振付はまちまちですが、チャルダッシュからマズルカ、
そして主役もグラン・パも総登場で舞台を埋め尽くす振付を取り入れているため、何度観ても胸熱くなる光景でございます。
そういえば、アンドリュー2世とドリ伯爵夫人が『ル・コンバ』でヨーロッパとサラセンの戦乱の中での悲恋に身を投じる男女を踊られた石田さんと佐藤さん。
にこやかな笑みを湛えておしどり夫婦なご様子で登場され、似た系統の作品からの不思議な、しかし嬉しい流れに頬が綻びました。
先述の通り衣装はやや渋めの色を帯びたデザイン。装置は重厚でベルベットの質感が伝わる大掛かりなもので、幕開きは仰け反りそうになりました。
ただ1点気になったのは背景の騎士たちの集団戦画で、ジャンが1216年に始まった第五回十字軍に遠征した実在する人物である背景を考えると
絵に描かれている精巧なプレート系の甲冑がどうも目新し過ぎる気がしており、もっと後の時代の開発であろうと想像。
当時の時代にはより忠実であろうバケツ型兜に鎖帷子よりは立派な印象を与えると同時に
「十字軍」「中世騎士の時代」と大枠で捉えればまあ良いか。大河ドラマでもあるまいし、あれやこれやの中途半端な時代考証はさておき
今や過労が不安視される首都圏のバレエ界一多忙な冨田実里さんによる指揮も今回はとても気持ち良く感じられ
特に前奏曲が勇壮さと品のある響きが上手い具合に溶け合い、序盤から歴史絵巻の世界へと一気に引き寄せてくださいました。
公演名はガラでもパ・ド・ドゥ一挙上演ではなく民族舞踊も含めた丸ごと3幕や叙事詩を元にした作品まで、バレエ団が初演した作品や
国内では牧バレヱにしかないレパートリーもあり、自信を持って届けた
そして偶然なのか異国間の人や文化が交差する歴史物作品が揃った質の高い公演でした。
帰り、南仏の白ワインで乾杯。食文化もまた、十字軍時代にイスラムからヨーロッパに持ち込まれたものが多くあった歴史を思い出しつつの1杯でございます。
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