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2021年3月11日木曜日
白河が生んだ偉大な芸術家 井上バレエ団2月特別公演 関直人を偲ぶ 2月28日(日)
2月28日(日)、井上バレエ団2月特別公演 関直人を偲ぶ を観て参りました。
http://inoueballet.net/information/index.php
ダンススクエアに、多数の舞台写真と解説が掲載されています。当ブログより遥かに分かりやすい説明ですので(当たり前だが)どうぞご覧ください。
https://www.dance-square.jp/isy1.html
ゆきひめ
曲:ワーグナー
原案・振付:杉昌郎
振付:関直人
指導:吾妻徳穂
バレエミストレス:鶴見未穂子
ゆきひめ:花柳和あやき
若者:荒井成也
雪の精:大長紗希子 野澤夏奈
小泉八雲『雪女』を下敷きにした作品。雪の夜に路頭に迷った若者を哀れみ、掟を破って殺すことをやめるだけでなく若者に対して恋心を募らせ、
出会いを内密にする約束を破った若者の命を再び奪おうとも躊躇するゆきひめの苦悩を切々と描いています。
ゆきひめを日本舞踊家が務める版とバレエダンサーが務める版両方が作られ、今回は前者。
ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』音楽を用いた和製ジゼル、日本を舞台にしたロマンティック・バレエといった趣です。
花柳和さんは滲む厳しさが次第に溶け始め若者に近付いていくゆきひめの心が所作の隅々から表していました。
白く透き通った打掛らしき衣(多分、名称違っていたら失礼)を両手に持ちひらひらとたなびかせていく雪の精達の連なりが
ぞくぞくと背筋を摩るようなワーグナーの音楽と響き合い、冷たさを誘いました。
上階席から眺めているとあると海月の揺らめきに見えたり、そうかと思えば早い切り替えで張りのある丸みのある形の一斉移動に驚きを覚えたり
ときには両手で広げた姿が『魅せられて』のジュディ・オングさんと重なったり、静けさの中にも恐怖感、美しさ、愛おしさと
様々な要素が融合した振付で飽きさせず。昨年上野バレエホリデイによる田中りなさん主演映像の配信も視聴いたしましたが
冷気が会場を満たす感覚を与えていくような生ならではの体感に感激いたしました。
2018年の大和シティバレエ公演では小野絢子さんと福岡雄大さんを主演に迎えて上演され、好評を博していたとのこと。
バレエダンサーであり日舞経験者でもある小野さんのゆきひめもいつか観たいと興味を惹かれます。
井上バレエ団理事長の岡本佳津子さんも嘗て踊っていらっしゃり、一昔前まで放送されていた『NHKバレエの夕べ』最終回(1989年)を飾ったのが
岡本さんそしてバレエ団創立者である井上博文さんによる『ゆきひめ』であったそうです。
ダンスマガジン2005年12月号の三浦雅士さんとの対談に登場された岡本さんが当時や井上バレエ団結成に至るまで事細かに語ってくださっていて、
ゆきひめの他ゼンツァーノの花祭り(1968年の写真ですから日本初演時かもしれません)の写真もあり。ご興味を持たれた方は図書館などでお探しください。
東京文化会館杮落し公演主演でのヒヤリとした逸話からご両親と井上博文さんとの関わりなど、ドラマに富んだお話満載です。
それにしても、オペラに詳しい方から先日ワーグナー音楽の特徴について窺ったが、『ゆきひめ』で観るにはちょうど良いものの仰ていた通り曲に終わりが見えず。
初のワーグナーオペラ鑑賞として『ワルキューレ』を今週末観に行く身内が休憩有りとはいえ果たして約5時間半耐えられるのか、少々心配でございます。
Chacona Dedicada
曲:民族音楽
振付:石井竜一
日本バレエ協会でのバレエフェスティバル(現バレエクレアシオン)にて2007年に初演、2014年3月に再演された発表した作品に改訂を加えて上演。
2014年再演の舞台も観てはいるものの最後を締め括った、先月の記録上映会でも鑑賞した
キミホ・ハルバートさん振付の秀逸作『真夏の夜の夢』に上書きされてしまい、今回ほぼ初見状態であったのは失礼。
入れ替わり立ち替わり生き生きと胸躍る展開で喜びも悲しみも全身で歌うように感情を発出する
目にも楽しい作品で、女性の髪型が各々自由度が高いようで面白く観察いたしました。
曲調からしてスペインの民族音楽かと思われ、分野は違えどもスペイン語詞のルネサンス歌曲が散りばめらた
ナチョ・ドゥアトの『ポル・ヴォス・ムエロ』好きな者として大変嬉しい選曲です。
クラシカル・シンフォニー
曲:プロコフィエフ
振付:関直人
バレエミストレス:鈴木麻子 萩原美佳
宮嵜 万央里 源小織 齊藤 絵里香
浅田良和 吉瀬智弘
プロコフィエフの古典交響曲をシンフォニック・バレエ化と知って居ても立っても居られず笑、今回一番の鑑賞の契機となった作品。
ソリストは爽やかな青、コール・ドは赤系で整えられ、清らかさと情熱が合わさった色彩美にまず感嘆。
細やかなステップや、うねりが出現したかのようなコール・ドによる座り姿勢から一斉に上体を上げてのポーズ、
予想もつかぬところから回転して舞台を駆け抜けて行くなどクラシック・バレエの技巧が詰め込まれています。
チラシによれば<1977年初演。日本で最初の本格的シンフォニック・バレエ>と紹介されていますが
今観ても古さを感じさせず。プロコフィエフの音楽にしては、『ロミオとジュリエット』舞踏会の客人達が帰り
バルコニーの場面に入る前の箇所でも使用されている3楽章ガヴォット以外は風変わりな曲調が抑え目で、独特の癖は薄め。
整理整頓された、道から一切外れず折り目正しい進行を思わせるプロコフィエフも珍しい味わいとクラシック音楽ド素人な管理人には鮮烈に響きました。
それからもう1つ作品に関心を持ったきっかけがあり、26年前に世田谷区民会館にて鑑賞した合同発表会にて、先にも触れたハルバートさんも所属なさっていた
岸辺バレエスタジオが同じ題名の作品を披露。岸辺先生による振付ですから関さんの作品とは勿論全く異なり、岸辺バレエでは生徒さんが大勢出演し
グループごと色違いのレオタードに巻きスカート衣装。音楽が古典交響曲であったか否かは記憶の彼方ですが
音楽はプロコフィエフと明記されており、同じ題名で気になっておりました。
菊池あやこさん、相澤麻愉子さんらのちに都内の大型カンパニーに入団する方々の名もあり、レベルの高い舞台であったのは確かです。
ところで関さんは若き頃から振付にも挑戦なさり、うらわまことさんによる今回のプログラム解説によれば
契機は1956年、小牧正英さんが設けた若手ダンサーに振付作品発表の場だったそうです。
先月に1957年か56年上演の横井茂さん振付『美女と野獣』について取り上げましたがまだ来日公演も殆ど無く、
日本で活動している状態で海外からのバレエ作品の振付や譜面の情報入手は
貝谷八百子さんのようにソ連へ出向いてブルメイステル版を自身のバレエ団に持ち込んだ(確か)など余程裕福な方でない限り困難な時代でしたでしょうから
国内でオリジナル創作が生まれやすかった事情はあると思うものの 今で言えば、新国立劇場のDance to the Futureや
東京バレエ団のコレオグラフィックプロジェクトといった各地のバレエ団が推進している企画を小牧さんがその頃から発案なさっていたとは驚きでした。
関さんの振付初挑戦作品『海底』は高い評価を受け再演を重ねるまでの代表作となったそうです。
実のところ、関さんのオリジナル振付作品をじっくり鑑賞したのは今回が初めてで、米国留学中にチューダーにも学んだ関さんと縁が深かった
スターダンサーズ・バレエ団2007年12月太刀川瑠璃子さんのお誕生日を記念した公演での小ピース中心の構成にて『陽炎』を上演。
しかしたった14年前の舞台にも拘らず管理人、シベリウスの『トゥオネラの白鳥』使用の重々しい作風の男女ペアの作品である点しか恥ずかしいながら記憶になく
当日にであったか直前に降板発表された『ロミオとジュリエット』バルコニーを踊る予定であった吉田都さん急遽のサイン会の盛況ぶりばかりが思い起こされ
只今記憶を掘り起こしている真っ最中でございます。ただ思えば、関さんのみならず長年スターダンサーズの監督を務めた遠藤善久さん版『火の鳥』
(フォーキン版が基盤ですが最後に火の鳥が勝利の象徴として舞台中央にいる点は好ましく、
フォーキン版も好きですが主役がフィナーレ不在であるのはいただけないと思っている)に
その頃マルセイユ中心に活躍されていたご子息の遠藤康行さんが改訂上演したりと振付家も錚々たる顔ぶれでした。
時間軸は戻りますが、関さんのインタビュー内容や紹介を拝読すると、郷土愛がお強いのでしょう。ご出身地の福島県白河の文字が繰り返し登場しています。
ご実家が映画館で子供の頃からバレエ映画やフレッド・アステアの作品をご覧になったり、スクリーンの前が舞台状になっていたため
終映後に踊って遊んでいたりと(アフタートークならぬ館主の子息によるアフターダンス!?)舞踊芸術とは接点があったようです。
戦時中は学徒動員で横須賀へ爆弾作りに出向き、終戦後は貨物列車で逗子から15時間かけて白河へ戻るときの心境や
新聞記事で見つけた『白鳥の湖』全幕日本初演を観たいと白河から5時間かけて東京へ行ったお話など、
戦後間もない当時の白河と関東間の交通事情も踏まえて語ってくださっている記事もありました。東北の玄関口と称され
栃木県と接する福島県南部の街ですが新幹線も高速バスもなかった時代、移動の大変さを思い知らされる内容です。
そして松尾明美さん東勇作さん、小牧さんが主要役を務める『白鳥の湖』全幕日本初演鑑賞後すぐバレエを始める決意をなさり、
小牧バレエ団入団後は瞬く間に頭角を表し1948年に貝谷バレエ、小牧バレエ、
服部島田バレエ、東京バレエ研究会が合同出演した『白鳥の湖』全幕では早速王子に抜擢される快挙。
7年前に日大芸術学部で開催された貝谷八百子さんの衣装展にて資料として展示されていた記事だったか
紹介記事には学歴も記され、目がくりっとした顔写真や踊りの特徴も合わせて白河中學出身と紹介されていました。
(昔は学歴明記が当たり前であった?太刀川瑠璃子さんは東京女學館、笹本公江さんは中野高女、と主演ではない方々にも明記あり。
そういえばだいぶ現代寄りで学歴とはまた異なるが、下村由理恵さんが福岡の川副バレエ学苑に通っていらした頃
将来有望な生徒として、フロリナ王女の衣装を着けてポーズを取った写真と通っている小学校名が発表会のプログラムに掲載されていました)
また手元の書籍には『眠れる森の美女』日本初演時の青い鳥、『グラン・パ・クラシック』日本初演にて踊る関さんの写真があり、
青い鳥は空中体勢、特にふわりと起こした上体の姿勢や掲げた腕、指先まで美しさを保っていて
話によればブリゼ・ボレを26回行ったとのことですから身体能力も抜きんでいたのでしょう。
しかも客席に視線をしっかりと送りにこやかな表情で観客と会話している印象すら抱かせ、残っていれば映像で観てみたいと殊更欲が募ります。
『グラン・パ・クラシック』はご本人曰く脚が曲がっていると仰っていますが、手の指先が柔らかで目を惹く写真です。
白河と言えば先述の通り東北の玄関口と呼ばれ、松平定信に所縁ある全国有数の名関所ですが、
学業不振に加え歴史勉強不足でそう意識せずに我が脳内では通過してしまい、
思えば日本のバレエ黎明期に関する記事や書籍をあちこちで読み始め、関さんの生い立ちを知った、20年少々前に実質初めて頭に入ってきた地名かもしれません。
次に白河に着目したのは2004年夏の甲子園にて、今季より大リーグヤンキースから東北楽天ゴールデンイーグルスに復帰した田中将大さんが当時在籍していた
北海道の駒大苫小牧高校が優勝し、優勝旗が初めて白河の関そして津軽海峡をも越えた「白河越え」報道が連日なされ
テレビでも新聞でも見聞きする機会が多々ありました。天城越えしか知らずにいた私は(歌えませんが)興味津々に新聞を眺めたものです。
そしてインターネットも発達し、歌と同様機械も音痴な私もどうにか駆使できるようになり、4年ほど前からは調べ物作業で
しばしば関さん及び白河の情報に到達する回数が増加。そうです、関さん以来の白河に所縁あるバレエダンサーでいらっしゃり
この公演の1週間後の週末に日本バレエ協会公演にて主要な役で大活躍された新国立劇場の渡邊峻郁さん。
モナコ留学から一時帰国中に行われた地元メディア取材にて「プロで活躍することとなれば日本バレエ界の牽引者である関直人さんに次ぐ」と
紹介されていたほど。白河の方々も心待ちになさっていたと窺え、現在の目覚ましく華々しいご活躍に、
そして弟拓朗さんも同じバレエ団でプロとして歩んでいることも含め皆様目を細めていらっしゃることでしょう。
福島は大変面積が広く、浜通り、中通り、会津地方と3つの呼び名が付いていながらも習慣や文化は更に地域ごとに異なっていると思われますが、
渡邊さんが一昨年の『ロメオとジュリエット』終演後シーズン期間中の異例なプリンシパル昇格は福島民報にも実に大きく舞台写真入りで掲載。
県全体に注目と喜びが広がっていると想像するとこちらまで益々幸福に浸ったものです。
この記事を読みたいがために販売局に連絡し、取り寄せ購入いたしましたが、突然の東京からの連絡にも拘らず
ご担当の方がそれはそれは丁寧に優しい対応をしてくださり、 まだ県内を数回しか訪れてはおりませんが都内での仕事でお目にかかった
白河、会津若松の親切な地域産業関係の方やいわき訪問時の郷土料理店にて和ませてくださった地元の方々を始め飲食観光にしても
以前から好印象しか持っていない福島が関さんの功績や渡邊さんのご活躍を拝見する度、更に良いイメージへと日毎に上塗りされていっております。
あちこちに話が飛びましたが、戦争が終わり混乱する中で日本のバレエ黎明期を支えてこられた関さんに心から敬意を表したいと思います。
白河が生んだ、偉大な芸術家です。
帰り道、会場から浜松町駅へ向かっていると右側の通りの奥に見えた日本酒立ち呑みバル。
劇場ロビーに似た、景色が見えるカウンターでの一杯は久々でございます。
フェアだったかハウス入荷だったか、お値段お手頃な旬のお酒をいただき、せっかくですから福島県の日本酒で乾杯。
グラスで出してくださり、劇場の気分をそのまま延長です。1杯300円少々とは思えぬ、上品で口当たりの良いお味でございました。
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