2020年12月10日木曜日

2人きりで1時間 光と闇の中へシェイクスピア文学の旅 新国立劇場ダンス公演『Shakespeare THE SONNETS』シェイクスピア「ソネット」11月28日(土)




11月28日(土)、新国立劇場ダンス公演『Shakespeare THE SONNETS』シェイクスピア「ソネット」を観て参りました。2011年の初演は観ておらず初鑑賞です。
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/shakepeare-sonnets/

11月28日公演の写真が掲載されています。どうぞご覧ください。
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/news/detail/30_019040.html


構成・演出・美術原案:中村恩恵、首藤康之
振付:中村恩恵
音楽:ディルク・P・ハウブリッヒ
照明:足立 恒
音響:内田 誠


一場:
詩人/ロメオ/美青年:渡邊峻郁
美青年/ジュリエット/ダークレディ:小野絢子

二場:
詩人/オテロ/パック/シャイロック:渡邊峻郁
美青年/デズデモーナ/タイターニア:小野絢子

三場:
詩人/美青年/男:渡邊峻郁
美青年/女:小野絢子


言い訳がましく恐縮でございますが、本で予習したものの理解に至れずいざ舞台が始まると大変面白く鑑賞しながらも
次々と変貌していくキャラクター把握について行けず、内容が非常に薄い感想ですがどうかお許しください。


開演すると、静まり返り隣席者の顔も一切見えぬほどの真っ暗闇となった空間に照明が描き導く道しるべに引き込まれ
時空の旅に立った心持ちとなって序盤からして期待が高まる演出でした。
1時間10分の休憩無し、2人だけで描く作品で静謐な空間にてシェイクスピア作品のキャラクターを1人で何役もこなさねばならず
テクニックは勿論、内面の描写力が相当なければ不可能な役柄。咳やくしゃみも厳禁な空間にどっぷり浸かり堪能です。

とにもかくにも、想像はしておりましたが渡邊さんの成熟した内面や陰翳に富んだ表現力に慄き 理知的で静かな表面を作りつつも
内側から色気や狂気、熱さを放出できる、30歳前後の年代では稀なタイプの男性ダンサーかと再度感じた次第です。
初心な青年から終盤は初老の年頃に差し掛かる変化も見事で、驚いたのは陰鬱な場面のみならず剽軽なパックへの変貌。
空間も衣装も黒く、加えて高身長ですからパックを演じるにはこれほどハードルの高い条件は無いでしょう。
しかし突如の素っ頓狂な表情や仕草、落ち着いた状態からの慌てん坊ぶりにデカパック、すっかり気に入ってしまいました笑。

中村さん作品とは路線こそ異なりますが、トゥールーズ時代のカデル・ベラルビ作品『美女と野獣』『海賊』や
ダヴィド・ボンバナ振付『危険な関係』映像で繰り返し観た、妖しく狂おしい姿の生鑑賞の願いが叶った点も嬉しく発狂寸前。
『チャイコフスキー〜光と影〜』や『ロダン』など人物の感情をより激しく抉り出し歪んだ心理を濃密に描いたボリス・エイフマン作品でもいつの日か観たいと夢が膨らみました。
(勿論アンナ・カレーニナの我が夢の共演構想カレーニン&ヴロンスキーもまだ諦めてはおりません管理人)

ピーター・ライト版『白鳥の湖』が流れてしまったため渡邊さんと小野さんが主演としてペアを組むのは今回が初。
2月公演『マノン』での例え舞台上では描かれていなくても両親に捨てられたか早くに死別したか幼い頃から手を取り合って兄の知恵や狡賢さ、金銭への執着心と
妹の美貌やしたたかさを武器に貧しさを乗り越えてきたのであろうレスコー兄さんと妹マノンの
恵まれぬ境遇が目に浮かぶ共演であったのは記憶に新しく、期待を高めておりましたが遥かに超える共演に大感激。
向かい合って立ち、手を翳し合っただけでも呼応する導火線が光りそうな緊迫感、そして小野さんが力を抜き切って身を委ね生々しさを露わにしてのぶつかりをも
がっちりと受け取め美しく見せるパートナーリングも宜しく、憂愁を帯びたお2人の並びの美に酔狂。たいそう眼福でございました。
小野さんがコンテンポラリーでたっぷり踊られた作品で印象に残っているのは2009年ナチョ・ドゥアトの『ポル・ヴォス・ムエロ』や
2013年金森穣さん振付solo for 2、 2015年平山素子さん振付Revelationと何本かありますが、今回は大化けした印象。
無垢そうな美青年、触れると魔力の罠に嵌ってしまいそうなダークレディと短時間での切替もお手の物で
硬めに作られていそうな腰部分が膨らんだ形状のドレス(呼び名分からず失礼)の着こなしも様になり
どちらかと言えば小柄な小野さんが1つの作品の中で10歳以上もの年齢差があるであろう役柄を
全く違う味付けで次々と魅せていく姿に何度息を呑んだことか。新境地開拓を観た思いでおります。

男性の役どころでは珍しく台詞もあり、少なくとも新国立劇場でのバレエのレパートリーで台詞を聞いたのは石井潤さん版『カルメン』
(台詞と呼べるか分からぬがハッ、との声出し)と子どもバレエ『しらゆき姫』七人の大人ことドワーフ達の「ただいま〜」ぐらいか。
その場に応じて瞬時に最適な言葉を選び組み立てて分かりやすく伝えてくださるなど着物イベントトークショーでの渡邊さんのお上手なお話は拝聴済みでしたが
ダンスの舞台においてもよく通るお声で一安心いたしました。
2日目は観ておらず、初演時からの経験者で演劇出演歴も豊富な首藤さんのほうが恐らくは手慣れた感はあったのでしょうが
日頃声を発しない表現を追求する職業柄大変難しい挑戦であった点を踏まえれば、渡邊さんの声による惹き付けも十二分であったと思います。
インタビューで仰っていた、お風呂での練習も効果大だったのかもしれません。のぼせるまで一心不乱に練習なさっていたことと想像笑。

2011年の初演は鑑賞しておりませんでしたが、ちょうど『パゴダの王子』初演約1ヶ月前で同日に開催された『アラジン』財宝の洞窟、パ・ド・ドゥ集、
シンフォニー・イン・Cによる構成の 当時の皇太子さまも臨席された新国立劇場バレエ団のシーズンオープニングガラ鑑賞後に四国から上京していた友人が梯子して観に行き、
その後に合流した際に興奮気味に語ってくれたのはよく覚えております。(本番を終えたばかりの小野さんも客席にいらしたようです)

中村さんの作品は好みなものとそうでないものに分かれまして、新国立バレエによる上演でない限り足を運んだ機会は
日本バレエ協会2017年バレエクレアシオン公演の1度ぐらいかもしれませんが
ソネットに関しては男女とも役柄が変わっていき、衣装替え、扱う小道具も多いため暗く冗長な作風とは一切思わせず。
空間も黒を基調としていながらも照明の当て方描き方が秀逸で、道程になったかと思えば人物、場合によっては身体の一部分のみをぽっかりと浮かび上がらせたりと
状況に応じた光と影のコントラスト演出が幾度も目を冴え渡らせ驚きを覚えました。
人生の軌跡を辿った『ベートーヴェン・ソナタ』、三部構成でそれぞれ作曲家が異なる「The Well-Tempered」、人間関係の交わり方について賛否両論で周囲の肯定者は少数ですが
音楽にとりわけ思い入れが強いせいか2019年のニューイヤー・バレエで初演の『火の鳥』も好きでございます。

首藤さんがずっと務めてきた舞台経験値をも問われるであろう、繰り返しにはなりますがテクニックは勿論
内面の描写力そして男性は相当なサポート力も備えていなければ不可能な役を他にできるのは山本隆之さん級な方でない限り無謀かとも思っておりましたので、
この役への抜擢が嬉しくて嬉しくてゴールデンボンバーの替え歌になりそうで失礼。
苦悩、葛藤、屈折、絶望といった陰鬱な心情を静謐で黒一色に近い空間にて僅かな差を出し色味を変えながら体現できる渡邊さんの力量にとにかく天晴れな舞台でした。
舞台との段差無しでの最前列での鑑賞でしたため官能美に呼吸困難になりかけました点、お詫び申し上げます。
ただ、眼前1m以内の位置にて胸筋を拝見してしまった伝説の2017年11月東京タワー事件よりは遠かったためこれでも管理人、落ち着いていたほうでございます笑。
いや、今回は1時間少々ずっとご出演ですから家に帰るまでが鑑賞と常日頃から言い聞かせ無事帰宅できた自身を褒めてやりたいとも思っております。

話を戻しますがトリプル・ビルも古典全幕作品への変更を余儀無くされたり海外から作品の持ち込みが困難な現在
国内産のコンテンポラリー作品上演の重要性を身に沁みて感じると同時に1回公演であった点が誠に惜しく、同じキャスト或いは望んで1組追加での再演を切望いたします。




最初に刷られたと思われるチラシ。黒を基調とした色彩、照明が美しうございます。風貌からして絵になるのは確実視。



急いで読んだ詩集。今一つ理解に至らずではあったが(読解力の無さは小学生まで遡る)公演前日に発売されたダンスマガジンにて紹介されていた台詞の箇所は熟読。



現在中劇場でもビュッフェは中止していますが、ペットボトル飲料のワゴン販売はあり。
その中に、漢字は違えども初日の出演者鑑賞に相応しいお茶がございました。
渡邊さん、小野さん共にお名前の漢字も古風でとても好きでございます。
そういえば渡邊さんは格式高い着物雑誌で、小野さんは日本舞踊経験者で子供時代のお稽古の写真が掲載され、授賞式だったか
お着物姿を披露されるなどお2人ともお着物とご縁が深く
綾鷹の宣伝広告での本木雅弘さん宮沢りえさんのようにお二方とも着物もお似合いと思いかけたところで、「伊右衛門」と勘違いしておりました。
日頃余りテレビを見ていないとこうなる笑。
(しかし後日、伊右衛門の宣伝映像を見て着物と言いしっとりと侘び寂び漂う風情にやはり似合いそうとお2人を重ねて妄想)



久々に自宅にて乾杯。度数の強いものを欲したくなります。

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