
新国立ジゼルに先立って、森に住む精霊を題材にしているのは共通項である『となりのトトロ』を7月23日(水)夜にロンドンにて観て参りました。
ロイヤルシェイクスピアカンパニーの上演で、会場はロイヤルオペラハウスに近い場所にある、Gillian Lynne Theatreでございます。
https://totoroshow.com/
日本で報じられたニュース
https://www.moe-web.jp/news/?id=171
https://natalie.mu/stage/news/617018
昭和30年頃の日本の所沢や狭山市付近を舞台に森のお化けのトトロ達と、引っ越してきたばかりの姉妹サツキとメイの交流を温かくユーモアに描いた
1988年に映画公開の宮崎駿さん原作のスタジオジブリ代表作品の1本ですが、当初は昭和のお化けの話なんて誰も観やしないと却下案件だったとか。
そのため劇場での映画公開は「火垂るの墓』と同時上映となったようです。(詳細は各自お調べ願います)
ところがトトロの人気は高まるばかりで公開から30年以上が経った今も尚、どんぐり共和国やジブリパーク、ジブリ美術館といった
ジブリのグッズショップでは圧倒的種類豊富なキャラクターとして人気を誇っています。金曜ロードショーで放送すれば間違いなく高視聴率になるようです。
せっかくロンドンに行くのだから、またワシントンD.C.やモスクワのときと違ってゆったり滞在できる今回。
何かミュージカルか舞台か観てみようと思い立ったとき、まず浮かんだのは日本でも話題沸騰であった「千と千尋の神隠し』でしたがどうやら今は上演していないもよう。
王道で『オペラ座の怪人』か、『レ・ミゼラブル』あたりにしようかと考えていたところヘトトロのことを知り、しかも会場はオペラハウスと宿泊先の間あたり。
更には、ジブリパーク、美術館双方へ出かけたこともあるほどに元々ジブリ作品が好きであるのは勿論のこと、
日本で生まれた戦後からそう年月が経っていない日本を舞台にした作品、且つ私自身が台詞も歌も劇中音楽も全部把握しているほどに何度も繰り返し観ている作品が
英国の制作陣の手にかかるとどんな舞台になるのか、興味が非常に沸いてきためです。「田植え休み」の英語表現も含めて。
そんなわけで、トトロに決定。チケットは戻りもあったりするのか前々日7月21日になってお値段抑えめで2階通路側の観やすい席が出てきたため、購入。
海外で初めて観るバレエ以外の舞台芸術がトトロになるなんて、そして英国で観る初めての舞台芸術がバレエではないジャンルになるなんて、
夢だけど夢じゃなかったと、映画公開の頃を知る当時の自分が知ったら大仰天でしよう。
さて当日。わくわくしながら Gillian Lynne Theatreへ。入口でQRコード(スクショでもOKでした)をスキャンしてもらい入場。16年ぶりの海外での観劇です。
サツキちゃんメイちゃんの大パネルや吊るしのまっくろくろすけもあり、トトロの世界が出迎えてくれました。客層は平日夜のせいか、子供だけでなく大人も多し。
子供の中にはトトロシャツ着ている子やトトロポシェット、ぬいぐるみを大事そうに持っている子もいて可愛らしい。
グッズ売り場でプログラムも購入。7ポンドでした。劇場スタッフの方々のきびきびとした動き、シャキッとした笑顔も素敵です。
席は2階で、ドアをいくつか通り抜けると座席に近い入口に到着。なかなか迷路ですが、ロイヤルオペラハウスほどではなかったと翌日知ることに笑。
そしていよいよ開演。楽団員数名分の席があり、生演奏も入るらしい。さあ、映画と一緒で主題歌さんぽの始まり。歌は日本語か英語版かどっちだ?と思っていたら
「Hey Let's Go Hey Let's Go~」英語でした。歩こう歩こうは訳せばその通りですが、当たり前のことではあっても最初は笑ってしまいました。
音楽は映画と同じく久石譲さんで、ストーリーは映画とほぼ同じですが、所々変更点もあり。
入院先でのお母さんとのやりとりにお医者さんも出てきたりサツキ、メイとお父さんの親子3人のお風呂シーンは無し。
迷子のメイを探しにいくサツキが、映画では松郷から来たことに驚く青年達に呆気なく去られてしまうも舞台では道端で会った男性にバイクで送ってもらう場面が入ったり、
いくつか相違点は見かけました。英語では「お姉ちゃん」、の表現がないのかメイちゃんが「サツキー」と呼んでいるのは違和感があり、
メイ~、お姉ちゃん~のやり取りが耳に刷り込まれている身としては不自然さはありましたが仕方ない。
また服装は前半も後半もメイちゃんサツキちゃんはあまり変わりばえしていなかったかもしれません。
真夏のトウモロコシ畑を掻き分けてやってくるサマーワンピースなサツキちゃんメイちゃんの服装も好きなだけに、ちょこっと残念。
英国の方々が昭和の日本を題材にした作品を上演することについて失礼ながら色々懸念はありましたがそのあたりは見事にクリア。
また既に文字数過多な状態ですがここからが大事!新国立劇場バレエ団が上演している英国系の何本かの作品と手法や仕掛けがそっくりで、
是非新国立好きな方、関係者の皆様にはいつかご覧いただきたいと心底感じた次第です。
以下更にネタバレ増加いたしますのでご鑑賞予定のある方はご注意ください。
まず全体通して好印象であったのが、極力ハイテクノロジーなものを使わずアナログ手法で演出していた点。 映画トトロの何が魅力かって、まだCGもない時代に制作され、
大量の手描きのセル画を繋いで作られたからこそのあたたかみある美しさ、繊細な柔らかさにあると思っており
プロジェクションマッピングなどの大型映像演出やデジタルなものは避けて欲しいと願っておりました。
そこで活躍していたのが黒衣。トトロを動かすときや装置転換にてささっと仕事をこなしては去っていく仕事ぶりです。
ただ歌舞伎や文楽といった日本の伝統芸能がお好きな方は違和感あるかもしれませんがときには端役や大勢の子供たちの役ではちゃっかり頭巾を外し、
顔を堂々と出て役を演じていた場面もあり。お医者さん、みっちゃん、サツキのクラスの児童達は黒衣の方々が兼任していました。
それからトトロ達の登場。最初に登場するのはメイちゃんに追いかけられる小トト口ですが、舞台穴の中から登場して
黒衣の方が小トトロに付けられた差し金のようなものでちょこちょこと動かしてメイちゃんとの追いかけっこを巧みに表現。
ときには穴の中にすっと入ってメイちゃんも惑わせます。そうです、ウィールドン版不思議の国のアリスの白ウサギ登場やアリスと共に冒険へ繰り出すときの穴の仕掛けにそっくりでした。思えばアリスにも黒衣、出てきます。
そして大トトロの登場。穴に落ちて行く(そもそも物語の転換もアリスと似ているか)メイちゃんの前に現れるわけですが
最初幕がかかった状態でトトロの小さなシルエットが投影。すると徐々に巨大化していってついに幕が開いてふかふかのトトロが寝そべっていたのでした。万雷の拍手です。
何かに似ていると思ったらそうです。「アラジン』ランプの精ジーンの登場とインパクトの与え方がそっくりです!
私の脳内は間違いなくジーン登場の音楽が流れ、昨年のファーストジーンを思い浮かべては
ジブリ好きとインタビューで仰っていたご本人にも舞台版トトロをご覧いただきたいと願ってやまず笑。
大トトロはとにかく大きいため、両脇から黒衣の方々が支えながら動きをコントロール。目も瞬きするため(ビントレー版アラジン獅子舞もびっくりです笑)、
表情も身体の動きもとても豊かに楽しませてくれます。 ふかふかではあっても丈夫なため、メイちゃんが乗っかって名前を尋ねたりお昼寝しても受け止めてくれる優しいお化けさんです。
蒔いたどんぐりの芽が出るように深夜にサツキとメイ、大中小トトロ達がどんどこ踊る場面のあとにトトロに飛び乗って皆で飛翔する場面。
これはぬいぐるみ置き換え戦法で、サツキとメイがくっついたトトロの縮小版サイスのぬいぐるみが吊るされた状態で客席の上を広々と大旋回。これまた万雷の拍手です。
ぬいぐるみ置き換え戦法での飛翔はバレエ『アラジン』の3幕マグリブ人の策略でジーンがプリンセスを攫い3人で飛んで行く場面や
飛ばし方法は「オペラ座の怪人』冒頭のシャンデリアの移動、私は観ておりませんがSHOCKでの堂本光一さんのフライングシーンに似ているかもしれません。
そしてここも注目、後半の森の場面。メイの散歩中や、サツキが迷子のメイを探しにいくシーンで深い森が出てきますが、
どう見ても所沢や狭山の森ではなく、翌日以降に5回は目にする新国立劇場バレエ団 吉田都版『ジゼル』の霧深い森にそっくり。
英国の美術家が手がけると森は何でもゴシック風味になるのかは定かではありませんが茶色を帯びた灯りの灯り方といい
木々の不気味さといい、これ新国立のジゼルそのままやんと1人突っ込みしていた私です笑。
そうかといって変な違和感はなく、日本と英国双方の美的感覚が合わさったからこその不思議な森に思えてきて、前向きに目に刻まれる美術でした。
田植え休みの台詞はなかったかもしれませんが、田植えの場面は足先に稲が植えられた長い板をくっつけて移動しながら田植えの仕草を表現。
トウモロコシ畑も人が自在に動かしたりしながら進行させていたかと思います。
考古学者であるお父さんの書斎も緻密な作りで、装置が回転すると病院になったりと工夫行き届いた面白い構造に目を奪われた次第。
主要な役はアジア系の俳優さんが務めていました。
そうでした。なぜか映画の何十倍もカンタの出演比率が増え、伴ってか世話するニワトリ達の出番も増えてわざわざ差し金付きのニワトリ達を
黒子の方々がフォーメーション変えながら移動させて行く展開もびっくり。
サツキへの淡いほのかな恋心もよく描かれていたり、そうかと思えば決め台詞の「ユアハウス イズホーンテッド」(やーいおまえんちおっぱけやーしき)もございました笑。
カンタ好きな方は尚のこと、ロンドンへお越しのときにはどうぞご覧ください。
フィナーレはトトロのエンディングテーマにのせて、キャラクター達が総登場。真ん中にトトロ、両脇には小中トトロ、黒衣の方々も勢揃い。賑やかに終演となりました。
帰り道はトットロトットーロ、と歌いながら帰途につく方が多数。尚、帰りはスタッフの案内に従って 入場とは違う出口に案内されるため
プログラムやグッズは買えずかもしれず。お買い求めは休憩時間にはお済ませになることをおすすめいたします。
バラバラと綴ってしまいましたが、新国立レパートリーに通ずる重なる演出や手法に親しみを覚えたり、宮崎さんが構想を練られた、セル画を1枚1枚手描きしての作品制作時期や
戦後そう年月が経過していない昭和の時代設定も踏まえての極力ハイテクノロジーは使わずアナログ手法で進行して行く演出も好印象。
映画公開の頃から早35年以上は愛着ある日本発祥の日本を舞台にしたトトロが英国で敬意を払われながらきちんとした舞台として上演を継続していることが分かり、
大本命用事である新国立劇場バレエ団「ジゼル」ロイヤルオペラハウス公演前夜祭にしては随分と盛り上がってしまったロンドントトロでございました。
1人で行きましたが幕間は撮影スポットで交代に撮影していた2人組と会話を交わしたりと賑やかに過ごしたのも記念。ただ、ロンドンのジブリ愛好者ともっと話してみたい欲は募るばかり。
そこで翌日決行。叶いました!その話はまたいずれ。

メイちゃん!

何かの広告か、オーロラ姫。

ジリアン・リンさん。

キャスト表。

撮影スポット。しらかわんに協力してもらいました!

この木々の感じ、新国立ジゼル思い出します。それより、この劇場のすぐそばの口イヤルオペラハウスにも設置されていたはず。

まっくるくるすけも、黒衣の皆さんが表現。

お父さん、アニメとそっくり。

おばあちゃん〜

宿泊先までの帰り道に、出演者関係者の皆様に敬意を表してホルボーン駅近くのパブ、シェイクスピアヘッドへ。

店内はシェイクスピアの絵や関連作品の絵に溢れています。クラシカルな内装で長い奥行きがあり、ゆったり寛げる空間が広がるお店です。
今回1人で入ったパブの中では最も好きになり、もう1回帰国日の朝食に立ち寄ったほど。
グループ連れの方もいればお1人で本を読みながらゆっくりお過ごしの方もいて、それぞれの時間を楽しんでいます。
それにしてもロンドンで初の劇場帰りの一杯はバレエ鑑賞帰りではなかった。
しかし観劇帰りにやっていることは初台と何ら変わらずです笑。

夜のホルボーン駅。さあ、翌日からはいよいよ新国ジゼル、バックステージツアーも参加です。午後からは久々に日本語喋るぞー笑。

公開からだいぶ年月過ぎてから購入した、トトロ映画公開直前のアニメージュ。
カンタのおばあちゃん役を演じられた俳優北林谷栄さんのインタビューにて
ネコバスが、不思議の国のアリスの好きなキャラクターであるチェシャ猫に似ているとお感じになっていたとのこと。
宮崎さんがチェシャ猫から構想を得たかどうかは分からずですが、もし影響受けているならば英国文学の世界がスッと溶け込んでいる作品で、
英国での舞台化においても縁があるように思えます。 新国アリス初演時にネコバスのポストカードを見た私も、そういえば形も木への腰掛け方も似ていると思いました。
巨大なネコ、子供にしか見えないお化け、森の中に昔から住んでいる精霊、と辿ると新国レパートリー特にジゼルと通ずる点は多々あると再確認です。
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