2025年3月9日日曜日

策略家のドゥグマンタと壮麗な式典からの緊迫した崩壊  日本バレエ協会『ラ・バヤデール』 3月1日(日)





3月1日(日)、日本バレエ協会『ラ・バヤデール』を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2025tominfestival/


ニキヤ:水谷実喜(英国バーミンガム・ロイヤルバレエ団) 
ソロル:アクリ瑠嘉(英国ロイヤル・バレエ団)
ガムザッティ:柴田実樹(バレエ シャンブルウエスト)
大僧正:マシモ アクリ
金の仏像:二山治雄
マクダビア:牧村直紀
ドゥグマンタ(ラジャ:藩王):遠藤康行




初日キャストのゲネプロ
 


 
3/2夜キャストの3幕3場からフィナーレ
 



水谷さんのニキヤは登場の瞬間は慎ましさが滲み、されど見据える目線からは迷いのない強い意思が感じられる舞姫。
小柄であってもそう感じさせぬ空間を大きく使う身体のコントロール力や揺るぎないテクニックも美しく、感情の起伏も滑らかに表現していて
ソロルと会えると分かったときの雫がきらりと光るような笑みといい、ガムザッティに対して怒りよりもソロルヘの確固たる愛を訴える姿がいたく健気。
だからこそ、終盤3幕3場での恨めしい空気感を漂わせながらの立ち姿が恐ろしく映りました。
3幕では幻にしては生身の体温があり過ぎる気もいたしましたが、音楽とすっと溶け合いながら舞う力みのない踊りで満たしてくださいました。
ベール持ちながらの回転やバランスは流石の水谷さんも少々苦戦していて、いかに高難度な振付であるか再確認です。

瑠嘉さんのソロルは豪胆そうな垂直跳びで場を湧かせてご登場。ソロルの有能そうな戦士っぷりは
この場面限定であとはひたすら転落人生まっしぐらですから笑、最初のインパクト、まずは好印象。
戦士達に向けた視線の運び方も統率者らしい力強さがある一方、ニキヤとの逢瀬はそれまでお互いに禁欲の世界で抑えてきた感情を吐き出すように身体が絡み
バヤデール経験はさほど多くはないであろうお2人とは思えぬ、音楽にもよくのった清々しいパ・ド・ドゥを構築していました。
ガムザッティと出会いお見合いしながらジャンベを観たあとにニキヤによる神に捧げる踊りが悠然と披露される場も盛り込まれており、
ソロルにとっては婚約式以前から既に後ろ髪引かれる思いで苦悩がより曇りがちになる展開で
さっきまでガムザッティの美貌に惹かれていたのが嘘のように気まずそうに壁にもたれて悩ましい姿もごく自然。
されど婚約式登場時はゾウさんに乗っての豪奢なお出ましで、心境のジェットコースターはいかほどか。

柴田さんのガムザッティはテクニックはもう少しクリアな滑らかさがあれば尚良かったかと思ったものの
サリー風の赤い衣装も、オレンジが鮮やかなチュチュ共にゴージャス衣装が実にお似合いな美貌で麗しいばかり。ソロルがコロっと気持ちが移るのも頷けます。

マシモさんの大僧正は怖さよりや欲深さよりも風格が引き立ち、ニキヤに対しては恐怖感で締め上げるのではなく優しく訴えかけるように迫っていた印象。
手を差し出したり歩いたりする仕草や立ち居振る舞いも品良く、ニキヤに解毒剤を受け取ってもらえなかったときは悲嘆に暮れる表情が後を引きました。

悪事の鍵を握る部分に焦点が大きく当てられていたのが遠藤さんによるドゥグマンタ(ラジャ)。
娘への溺愛が強すぎて、ガードマンの如く制したり、ソロルにも有無を言わせぬと強面で圧力をかけたり、
ニキヤも花籠の蛇混入の犯人として名指しするほど、この版の最大の悪人かもしれません。
そうはいっても代々受け継いできた藩の伝統を絶やすわけにはいかぬ重圧もあったわけで、ドゥグマンタも欲深いだけではないのでしょう。
今や振付家としての印象が先行していて古典作品にて悪事を働くキャラクターを演じる遠藤さんは初見でしたが
おっとり朗らかそうな顔つきの裏側に潜む黒い部分を徐々に出していく策略家な人物として存在していました。

出色であったのは3幕影の王国のあとに描かれる3場からのエピローグ演出。重厚で壮麗な結婚式からの寺院崩壊が締まり良くドラマティックに描かれ、よく練られた演出でした。
婚礼の行進や花びらを撒く女性達の光景、ドゥグマンタも臨席して絢爛な場が出現。
そして結婚に胸躍らせつつ毅然と臨むガムザッティと、舞台中央に執念で現れたニキヤの亡霊の板挟みになりながら
2人の手を取ってソロルが踊る、しっとりしたパ・ド・トロワが鮮烈でした。
ラコット版の『ラ・シルフィード』にもシルフィード、ジェームズ、エフィが踊る似た場面はありますが
バヤデールのほうが静けさの中に修羅場な強さ、欲や憎悪が入り乱れて濃縮しており、おどろおどろしい。
混乱するも、意を決してソロルが超絶技巧を繰り出しながら舞台上を旋回していくと雷光が轟き、
踊り、照明、音楽がグッと一体化してこそ生み出される緊迫感から瞬く間に寺院は崩壊していく流れが
短時間の中でテンポ良く且つ人物達の心理状況も丹念に描写されていました。
最後、再び坂が現れる中で飛翔するベールを追いかけるのは大僧正。ニキヤヘの叶わぬ恋を火を前に訴える中で幕が下りました。
解説によれば1人残ったと記されていますが、つまり生き残っていたのかそれとも来世まで追いかけて行ったのか。想像を巡らせる幕切れでございます。

衣装や装置は法村友井バレエ団、谷桃子バレエ団からの貸出だったようで、(前回2017年も?)、重厚で抑えた色調で整えた壮麗なデザイン。柱のレリーフの緻密さにも見入りました。
パ・ダクションのチュチュもカラフルながら派手過ぎずされど模様の花々がアクセントになっていて上から楽しく観察。
ロシアのバージョンを踏襲していて、手にオウムを持つオウム隊のワルツがあるのも華やぎと可愛らしさを後押ししていました。

ソロルの肖像画は中村獅童さん似で、小さめサイズで上に掲示されているため校長室状態でしたが笑、しゅっとした佇まいな風貌でなかなかセンスは宜しい。
肖像画問題、新国立ライモンダにおけるお饅頭の騎士ですと主張したいとしか思えぬふっくらに描かれたジャンの絵が最大の難点と思いますので
(よりによってジャンの肖像画がパッカーンと観音開きして本人が登場する演出まである汗)全幕再演時期である来年のゴールデンウィークまでに改善を望みます。

ニキヤとガムザッテイの争いで果物置き場が下手側であったためか、ニキヤが手に取るナイフが
上手側のチェス台に置いてあったように見えて状況描写として少々疑問が残り、
ソロルが捕らえた獲物のトラがふかふかのぬいぐるみでプーさんのティガーにしか見えず笑、
夢の国のお土産店で購入してきたとしか思えなかったマリインスキー来日公演を彷彿させ、懐かしい気分でございました。

影は24人で、幻影にしては生き生きとしていた印象がありましたが統制はよく取れていて、二段構成の長い坂下りも見事。
様々な団体から集う協会公演での大掛かり古典作品、しかも静謐な見せ場の群舞付き作品は一層ハードル高い上演と察しますが久々8年ぶりの喜ばしい再演でした。
尚、プログラムは今回無料配布で装丁も立派で主役から群舞、子役達までカラー掲載。しかもオーケストラ演奏付きで、チケット代は一番お安い席は2200円!
この物価高騰のご時世を考えると一段と感謝が募る企画でございました。
ロビーには顔ハメ仏像や坂下り撮影スポット、協会公演歴史振り返るスペースもあり、開演前や幕間も楽しめる要素を増加。
嘗ては何処を振り向いても「○○先生おはようございます」といった関係者の挨拶しか聞こえてこなかった協会公演も
より一般客へ向けて開かれた公演へ変えて行こうと努める様子が窺えました。




ロビーに短縮版影の王国の坂が登場。夜空に近づく背景の空模様がまた雰囲気を押し上げる彩りです。ポーズ取って撮影している方もいました。
私はとても人様の前ではできぬ容姿ですので、住まいの集合住宅玄関スロープで夜にこっそり練習してみます笑。
それにしても坂道でのアラベスクパンシェ、よほど体幹が強くなければ不可能。しかも大人数で揃えなければならない。影のお1人お1人全員に拍手を送りたい。



顔ハメブロンズアイドルも登場。



協会公演振り返るスペースも。ダンスマガジンでの記事では何度読んだか分からぬ、1990年3月公演パリオペラ座からポントワとイレール客演『眠れる森の美女』。
ポントワのエレガンス、観たかった。下村さんのフロリナは書籍や芦原英了コレクションで閲覧した
川副バレエ学苑に掲載の小学生の頃のお写真でしか目にしておらず、協会ではどんな王女様だったか気になります。



早めに到着していたため、上野の森美術館で開催されていた入場無料の展覧会へ。とても見応えある企画で、絵心のある方々には憧れます。(妹は画伯なのだが)
風景画やお菓子の絵、白鳥や黒鳥、ガザとイスラエルとロミオとジュリエットに例えて抱擁を交わす平和を祈るカップル絵もあり。
一刻も早く穏和な解決が実現すると良いのだが。



この日の昼間の気温は21度と表示。3日後には東京都心部でも積雪。気温差が激しい時期でございます。



鑑賞前に久々の再会ムンタ先輩と。(ワディム・ムンタギロフさんがお好きな人生の素敵な先輩です)
アジアンダイニングで乾杯!季節外れの暑さに身体は参っておりましたがビールは美味しうございます。
チリソースの味が心地良い刺激なサラダからいただきます。



タンドリーミックス。パニールティッカ(さっぱりとした弾力のチーズ。厚揚げに似た食感)や海老、タンドリーチキン、シークカバブ。
鉄板提供のためずっと熱々で、下のお野菜にも味がぎゅっと染み渡るのが嬉しい。



チキンビリヤニ。スパイスが何重にもふわりと香って品あるお味。豆たっぷりカレーのほくほく感も良し。



ビリヤニ拡大。そのままでも、カレーと混ぜてもどちらもワインが進みました。


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