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2024年10月11日金曜日
深海も地上もじっくり描く人魚姫の旅路 K-BALLET TOKYO『マーメイド 』 9月21日(土)
9月21日(土)、K-BALLET TOKYO『マーメイド』を観て参りました。
https://www.k-ballet.co.jp/performance/2024mermaid.html
ハイライト映像も公開されています。マーメイド飯島さん、王子山本さん、プリンセス日髙さん組です。
マーメイド:岩井優花
プリンス:栗山廉
プリンセス:長尾美音
シャーク:田中大智
岩井さんのマーメイドはテクニックで饒舌に語り、深海も地上も恋するいじらしさ満開。
とりわけじっくり描かれる海底場面はマーメイド含めて運動量が非常に多く、多彩な技術も要求される場が暫く続き
またヒラヒラがふんだんについた装飾の衣装であっても頭1つ抜けた踊りの上手さで舞台をリードされ
色鮮やかで個性も豊かな海の仲間達に囲まれていてもオーラも強し。Kバレエの公演は大概3階席で鑑賞しておりますが
今回は双眼鏡の出番が殆んどなく、岩井さんが何もかもをくっきりとつたえてくださるので
『天空の城ラピュタ』のシータのような良き視力を持たぬ私でも裸眼で十分に鑑賞できたのでした。
中でも船上に佇むプリンスを海から初めて観たときの姿が蕩ける可愛らしさで、いても立ってもいられず少しでもプリンスを眺めたい欲望に駆られて
船に縋り付く様子が健気に恋する少女そのもの。止まらぬ胸の鼓動を必死に抑えたりと
もう脳内視界はプリンス一色な出会いをしてしまった衝撃がこれでもかと飛び込んでくる一幕でした。
シャークへ地上行きを強気に願い出たのも、これほどの出会いならば突き動かされて怖いものなしな行動に出るのも頷けます。
2幕にて、ようやくプリンスと睦まじくなりプリンスの仲間達とも打ち解けていく姿も愛おしく、洋服も食べ物も景色も全てが物珍しく興味津々に生き生きと馴染んで
だからこそプリンスから素っ気ない別れを突き付けられたときの悲しみといったら、胸が詰まる展開です。
栗山さんプリンスは酒場ではしゃいでいても高身分であるのはすぐさま分かる綺麗な出で立ちで
昨年秋の熊川さん版『眠れる森の美女』でのカラボスの罠に嵌りみるみると黒い影を重たく覆っていくデジレ王子が好印象でしたのでこの度も楽しみにしておりました。
男性陣にもたっぷりと踊る場が設けられ、とりわけ酒場はテクニシャンな面々が勢揃いする中にいると技術はもう一歩な部分はあれど
高貴な人間ですと言わんばかりの佇まいは強みある説得力。中でもマーメイドの前に初めて姿を現した船上での様子は唸るものがあり
思い出したのが今年1月に山口県防府市で鑑賞バレエ!バレエ!!バレエ!!!のガラ。
舞台が手に届く距離の1階最前列にて舞台を見上げるように観ておりましたが、
つまり海に浮かぶマーメイドが船の上にいるプリンスを目撃したときの位置と似ていたわけです。
このとき私は初めてKバレエのダンサーの方々を至近距離で目にしまして、好みは別として、決してときめいたのではないが、
栗山さんの整った顔立ちやすらりとした長身、美しいオーラの迫力には驚かされた次第。
その8ヶ月後に今回『マーメイド』を観てみると、岩井さんマーメイドがすっかり夢中に虜になるのも頷けるとは思えたのでした。
ちなみに防府市でのガラではその後の初台組の黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥに全部上書きされてしまいましたが
それはさておき、岩井さんとの並びはおとぎ話の姫と王子な雰囲気も抜群で、眠りに続きこのペアで鑑賞できて良かったと感じております。
長尾さんのプリンセスはしたたかな野心秘め、修道女の格好をしていても滲み出る勝気な性分は明らか(褒め言葉)。
海辺で倒れているプリンスの持ち物に王家の紋章を見るや否や勝ち誇った笑みを浮かべ
そうかと思えば私が助けましたと言わんばかりの健気な振る舞いがから野望が覗き見える姫でございました。
もしかしたら実は崩壊寸前の王家で立て直しの頼みの綱としてプリンセスは期待されている存在であるならば
同情の余地はあれど、どちらにしても愛情よりも家柄優先な純愛なき近づきはマーメイドとは正反対です。
そうかといってもプリンスは美男ではあり、愛も家も両方が手に入りそうな状況に妙な確信を持つ
プリンセスの入り乱れる心境を短時間であっても長尾さんが的確に描写なさっていました。
結婚式は古典バレエの様式に則った振付で、貴族達の男女ペアのコール・ドに囲まれながら『ラ・バヤデール』のソロルとガムザッティも彷彿。
あとにも述べますが『ライモンダ』夢の場コーダ曲にのせての高速フェッテでの盤石な技術から、プリンセスのプライドが滲み出ていた印象です。
これまで以上にインパクトを残したのがシャーク田中さんで、黒い衣装に身を包みながら舞台を縦横無尽と駆け回り鋭く斬り込み入れる存在感。
Kバレエにて私が観に行く日に出演されていることが多く、チャレンジキャストの主要役にしばしば抜擢されていたかと思いますが
全身から怒りを放ちながら大海原を荒れさせては場を狂わせるダイナミックな踊りといい
マーメイドからの申し出をついには受け入れて広い深海から地上へと飛翔させるように送り出す流れの仕切りも万全。
奇しくも今年は人魚姫を原作にしたバレエを日本のバレエ団にて立て続けにオリジナル新制作初演を鑑賞でき
しかし原作が同じである以外はだいぶアプローチも造形も異なりだからこそ面白く見比べができました。
熊川さん版の特徴としてはまず深海の世界をじっくり描き、仲間達の種類も様々で衣装もカラフル。
そして舞踊場面がこれでもかと続き、しかも素早い展開。やや奇抜な衣装姿でも卓越したテクニックは曇りなく、またイルカの群れもバレエで表現。
中国の舞踊劇に出てきそうなさらりとした素材でブルーの長い裾や長袖衣装を着けて大勢で踊り出し、泳ぎ回る様子を涼しげに表していました。
プリンスが海に向かって錨を投げるとシャークが怒り出し、布越しに鯨のヒレ?が巨大に出現する箇所は
紅白歌合戦の巨大化衣装の仕掛けが脳裏を走りましたが笑、大自然の叫びの迫力は伝わりました。
そして、プリンスの描き方。優しさはマーメイドの一時保護のとき限定で、ぶどうを食べさせたり、仲間に紹介したり、召使いを呼んでお洋服選ばせたりと
お世話はするものの恋心はなさそうで、プリンセスを見るや否や後ろ髪を一切引かれずにマーメイドは放置。
冷た過ぎるとは感じるも、マーメイドからしたら地上の世界の厳しさを痛いほどに思い知る試練となってしまったに違いありません。
張り切って洋服を選んで着用しても、既にプリンセスに首ったけなプリンスからは見向きもされないマーメイドが余りに可哀想でございました。
可哀想といえば、酒場でロブスターグリルを目にしたときの傷付きようや、海に戻して弔う行動にも胸が痛みました。彼女にとっては大切なお友達ですから。
最後は再び海に戻り、中央奥へと走り去る中を両脇から大量の泡が放たれて海を包んで幕。
あっさりな気もしましたが、叶わぬ恋とは知っても自身が助かるためにプリンスの命を奪うこともできず
プリンスへの想いを胸に秘めたままで後悔なく消え去って行くマーメイドなのであろうと想像いたします。
結婚式もプリンセス、プリンス、貴族達の踊りの見せ場が豊富で、プリンセスの友人の1人でヴァリエーションを踊られた木下乃泉さんの
綺麗なラインから繰り出される堅実さと大らかさが見える踊りに好感を持ち、今後が楽しみです。
実は木下さん、6年前に四日市での小原芳美バレエでの発表会『シンデレラ』で拝見しており、冬の精を踊られていました。
ちょうどジョン・クランコバレエスクール留学直前で、その後どうなさるかなと思っておりましたらKバレエに入団。東京でも目にする機会が増えて行きそうです。
音楽は全編グラズノフ。全体を通してきらりと麗しい旋律が光り、深海の色鮮やかな世界、地上の世界ともにまずまず合致していた印象です。
ただ口煩い性分で失礼。『ライモンダ』からも数曲使用されていたのは想定内でしたが
2幕の王子とプリンセスの結婚式での夢の場の音楽使用はそこまで違和感なかったものの
1幕幕開けの吟遊詩人達の曲が『マーメイド』1幕酒場での賑わい場面にて使用されていたのは
軽やかな喜びが溢れるのは共通であるもののだいぶ違和感があり。中世の宮廷音楽を参考にして作られた典雅な曲は、近代の庶民的な場面にはしっくりきませんでした。
また結婚式の場で、プリンセスのヴァリエーションがロマネスクであったのも孤高な哀感が前面に出過ぎてしまい
大試練を経ての結婚ならともかく特にそうでもない2人ですから笑、もう少し祝祭感の出る曲のほうが相応しかったかもしれません。
プリンセスがコーダでフェッテをブンブン回っていたのも8回程度ならともかく結局32回だったか、長尾さんの強靭な軸に恐れ入ったものの
ガムザッティでもオディールでもあるまいし、プリンセスの強気な部分が誇張された式になっていたとも捉えております。
そうは言ってもKバレエでは『ライモンダ』全幕のレパートリーはなく、随分前に3幕のみが上演されているにとどまっていますから
久々に1幕の曲を何曲も生演奏で聴けたのは幸運でございました。夢の場のコーダ音楽を懐かしく嬉々と感じたのはあらゆるバレエの中で一番好きな作品であり
初台での12年ぶり全幕再演から3年以上経った今も余韻を引き摺っているためかもしれません。
眠りに続きアンゲリーナ・アトラギッチが手掛けた衣装は1点1点目を凝らして観察してみたくなる凝った模様が眩しく、
殊に結婚式のチュチュの緻密なデザインはいつまでも見つめていたくなったほど。
海の生き物達も、一見かなりユニークなデザインや色味であっても踊り出すとキュートに映り、どう見えるか工夫がよくなされていると感じます。
めくるめく深海のファンタジーと地上での賑わいや叶わぬ恋、双方の描写がたっぷり織り込まれていた熊川さんの大作バレエでした。
行きにパン屋のアンデルセンにて見つけたハート型デニッシュとヒュッゲシリーズのミルクティー。気分が高まります。
『くるみ割り人形』マリー姫の衣装。
『くるみ割り人形』雪の女王の衣装。
帰り、渋谷のデンマークビールのお店ミッケラーへ。オーチャードからも近い場所です。但し裏通りの煌めく宿泊施設街を通ることとなりますが。
ちょうど大にぎわいの時間帯でしたが、初訪問で注文方法で困っていると店員さんがとても親切に教えてくださり、
好みの味や予算等伝えるとすぐさま候補を挙げてくださってスムーズに選ぶことができました。
お店オリジナルのミッケラービールで、爽やかほんのり甘さもある味わいです。立ち昇る泡を眺めながらマーメイド幕切れの余韻に浸りました。
この20年間で観劇がない旅は2回で、そのうちの1回、2022年秋に鳥羽水族館を訪れたときに宿泊した鳥羽のホテルにてイルカと仲良しな人魚姫像。
まさか2年後の同じ年の夏秋立て続けに、日本の2つのバレエ団によるオリジナル全幕の人魚姫の初演を目にできるとは。しかも熊川さん版はイルカ達も大活躍。
※鳥羽水族館で生まれたスナドリネコの赤ちゃんの名前に応募したら、私が考えた名前が最多数で採用になったらしい。
勝気で情熱的そうな赤ちゃんと知って、また親がパールならルビーしかなかろうと応募。閃きの源となったバランシンとビントレーにも感謝いたします。
https://aquarium.co.jp/topics/220926/
後日に当ブログレギュラーの後輩と、マーメイドを語る会。
後輩は世界初演日の東京文化会館における飯島さん組を鑑賞。
文化会館ではマーメイド関連の衣装も展示されていたそうで、叶うならば凝った細かな装飾や色彩をじっくり観察してみたかった。
マーメイドではぶどうも大事な要素として登場します。
そういえば昨秋の眠りでも、後輩は飯島さん、私は岩井さん鑑賞でした。
ただお互い違うキャストで観るからこそ異なる部分について知ることができ、楽しみも広がります。
魚介類が豪快に入っていたペスカトーレ。マーメイドの酒場でも提供されていそうな、具が盛りだくさんなパスタでした。
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