2024年6月13日木曜日

救われるソロル K-BALLET TOKYO  『ラ・バヤデール』6月1日(土)





6月1日(土)、K BALLET TOKYO『ラ・バヤデール』を観て参りました。Kバレエのバヤデールは初演以来10年ぶりの鑑賞。(浅川さん遅沢さん井上さん組でした)
熊川さんの出演が途中から決まったり、TBSのはなまるマーケットでも宣伝がなされたりと当時が懐かしく思い起こされます。
https://www.k-ballet.co.jp/performance/2024Bayadere.html



ニキヤ:日髙世菜
ソロル:杉野慧
ガムザッティ:長尾美音
ハイ・ブラーミン:大僧正:ビャンバ・バットボルド
ラジャ:ニコライ・ヴイユウジャーニン
ブロンズ・アイドル:石橋奨也
マグダヴェヤ:栗原柊
ソロルの友人:グレゴワール・ランシエ



日髙さんは弧を描くように艶かしく踊る姿がこの世の人間に思えぬ舞姫で、極力表情は抑えながら静かで雄弁な身体の語りかけが響きました。
とりわけしなるように伸びる脚や腕のラインを過剰に使わず音楽をそっと細やかにに奏でるような踊り方も好印象。
実は失礼な話かもしれませんが日髙さんが一昨年1月に踊られたクラリモンドのイメージからもっとお色気芳醇で勝気なニキヤを想像しておりましたが
大僧正に対してもソロルとの逢瀬も、一歩引いての慎ましさを感じさせて意外や意外でしっとり優美なニキヤでした。
奉納は真っ赤なハーレムパンツや豪奢な頭飾りとは相反する悲しみを湛えた身体から繰り出す舞いがじんわりと胸に触れ
舞姫としての務めと愛するソロルを失いつつある複雑な胸中をそのまま歌い上げるような苦しさが手に取るように伝わりました。
3幕は狂いのない技術で誤魔化しの効かない白いクラシックな世界をきっちりと、加えてしなやかな美しさを示し出しながら踊るお姿が目に焼き付いております。
ベールでの回転も滑らかで、最後はソロルを許し受け入れる心を開いて両手をソロルに向かって坂の上から掲げる様子も光と共に慈悲深さが広がって、
悲劇ではあってもハッピーエンドにも見て取れる幕切れでした。

杉野さんは一見向かうところ敵なしに見える野性味のあるソロルながら(Kソロルは基本髭付きらしい。そういえば遅沢さんも付けていた記憶)
ニキヤにもガムザッティにも実に紳士的で優しく、マグダヴェヤとのやり取りも段取り通りにならず瞬発的で会話が聞こえてきそうな間の取り方等も上手いと思わせました。
またあとにも述べますが熊川さん版はジャンペの前半終了後にガムザッティが登場するためソロルとのお見合い時間が他の版より短く
効率性が求められるのですが笑、
ガムザッティの手を取って手早く話し続けていて、古代インドにおける業務のスリム化先駆けだったのかもしれません。
ファーストキャストなだけあって期待が大き過ぎたのか、ソロの部分は精彩を欠いていた印象が否めず
ヴァリエーションの終盤も脚が開き切っていなかったりと少々心配になってしまったものの
場面と場面の繋ぎ目が途切れない見せ方をよく心得た立ち振る舞いや物語の牽引力やサポートは見事でございました。
結婚式での象に乗っての登場も贅を尽くした式典らしい堂々たる腰掛け姿で、熊川さんがやりたがっただけなのか笑
演出意図は分からぬものの、ラジャ一族の財力の誇示効果や見映えは間違いない。

場をぐっと締めてくださっていたのがバットボルドさんの大僧正。寺院建立からの歴史を全て背負っていそうな重厚感で、
怪しく重々しいテーマ曲をそのままキャラクター化したお坊さんそのものでした。
仕草が1つ1つずっしりとねっとりと険しく、しかしニキヤにそっぽを向かれると
しょんぼりする様子がいたく悲しそうで、心の中では既に壁の崩壊が始動していたに違いありません。
寺院の頭として常時気を張っていた最中に現れたニキヤが愛おしくてたまらない胸の内が伝わりました。

そして直前の変更により抜擢された長尾さん。ファーストキャストの浅川さんの代役ですから重圧緊張はいかほどであったか想像に難くありません。
恐らくは浅川さんガムザ、また日髙さんニキヤと浅川さんガムザの対決が目当てでこの組を選ばれた方は多いでしょうし私もその1人。
前回10年前にニキヤで鑑賞した浅川さんのガムザッティも観たい欲が募り、日髙さんとの大人な対決も楽しみにしておりました。
ですから公演数日前に浅川さんの怪我による降板を知ったときはか肩を落としていたものの
結果、長尾さんの魅力に唸る夜となりました。大ぶりな装飾てんこ盛りな頭飾りや衣装負けしない立ち姿にまず驚かされ
ソロルの肖像画を見せられたときの純粋な喜び、そしてソロルと対面し、興味津々に顔を見つめる愛らしさも魅力的で
ニキヤとの対決も日髙さんに全く引けを取らず、マイムも迫力十二分。お顔立ちがエキゾチックな風貌であるのも衣装のしっくり感を後押ししていて
素直にすくすく育ったお嬢様ぶりと、突如振り乱される事態に困惑する弱さの双方バランス良く備わっていた印象です。
加えて美しいテクニックの持ち主で、宴コーダでのフェッテの強靭な回転軸や音楽にぴたりと合う力みのない回り方にも目を奪われました。

影の王国は影が24人。ソリストトリオは成田さん、小林さん、岩井さん。(豪華な面々だが過労にならぬか心配も尽きず)
影の坂下りは1段坂で、直前に観た新国立劇場での幻想的な雰囲気に包まれた3段坂の32人を観慣れてしまっていたためスケールが小さめに思えるかと不安視するもとんだ失礼で
星々が煌めく宇宙を思わす背景にパールの縁取りでふわりと丸みがあるチュチュを纏った影達の連なりがキラキラと綺麗なこと。
新国立やボリショイ、谷バレエの幽玄美や東京バレエ団の緊迫感貫く路線とはまた違った、
どんよりとしたソロルの心を照射するように現れた光り輝く美しい世界として説得力がありました。

男性の見せ場をたっぷり散りばめられた点もKバレエらしいと思え、1幕冒頭、ソロル登場前の戦士達のスキップ行進は
ボリショイでも似た振付があるはずがお茶目にも映って今回は思わず笑みが止まらず。
ジャンベの前に戦士達が勢揃いする箇所におけるチェス台を用いて屈伸して全身を上下に動かして行く健康体操な振付も
躍動感があってユーモアもあり、周囲からも笑い声が聞こえたほど。マグダヴェヤと苦行僧達の踊りも嵐のように疾走感が鋭く、
栗原さんマグダヴェヤに飛び弾ける身体能力に仰天すると同時に、見かけは迫力あれど苦行僧達が無理な身体の使い方をしていないか些かの心配も。
ソロルの水タバコを支える場も設けられて集まっては慰めの儀式を執り行う等、ソロルの支援隊として大活躍です。

1幕後半、舞姫代表なのか、ニキヤがガムザッティの結婚の貢ぎ物を運ぶ担当として慎ましく登場し、いったん去った後に
ガムザッティがニキヤ呼ぶようアイヤに命じるとすぐにニキヤがやってくる時間軸も違和感ない演出。
他の団の場合、ニキヤはいつから待機していたか、或いはガムザッティ医師の診察を待合室で待っている患者ニキヤなる設定と錯覚してしまうときもございました。
またガムザッティの登場がベールを外すところではなく顔を覗かせて登場し、ソロルの肖像画を眺めてからベール被って再度登場する演出は
観客としてはソロルと共に美貌に驚きたい気持ちになる一方、父親が用意してくれたソロル肖像画を見て一気に恋心が色めき立ち
ベール被って準備万端にしてソロルの前に婚約者として嬉々として現るガムザッティ側の視点で描かれている演出のどちらもそれぞれに良さがあると考察。
お互いに一目惚れしてテーブルでのお見合いも手を取り合って睦まじく、途中までは理想的な政略結婚だったでしょうに
まさかニキヤに掻き乱される末路になるとはガムザッティは知る由も無く、狂い始めた歯車は悲劇まっしぐら。運命の悪戯としか思えません。

さて熊川さんも嘗て世に名を知らしめた名演の1役でしょう、ブロンズアイドルは終盤に披露。
(1992年の英国ロイヤル来日公演で私も観ております。ニキヤがダーシー・バッセル、ソロルはゾルタン・ソリモジ、ガムザッティはフィオナ・チャドウィック)
そうはいっても2幕の冒頭に鎮座して後方に現れ、光が当てられて動き出したりと摩訶不思議な存在感をソロを踊る随分前から示していて
(後方席であったため見間違いあるかもしれぬが)
寺院崩壊後にやっとこさ登場。何もかもが壊れて無の境地になったところへビュンっと跳ね上がりながら踊り出していました。最後の救世主な役目なのかもしれません。

衣装はニキヤとガムザッティはゴージャスで、パ・ダクシオンは可愛らしいパステルカラーの水色とピンクでどれもじっと観察。戦士達やジャンペは原色なデザイン。
太鼓の踊りも含まれていて、果たしてインドに伝わる舞踊文化かはさておき盛り上がって楽しめる演出です。
ソロルの水タバコが巨大で、チューバを吹く吹奏楽ソロルに見えたのはご愛嬌ですが10年ぶりに観たKバレエのバヤデール、目一杯堪能いたしました。




来場者へのプレゼント。解毒剤ではありません。



マーメイドの宣伝。雑誌クララ最新号にて小林美奈さんがインタビューにて、グラズノフの聴き馴染みのある音楽も使用されていると仰っていて選曲堪能も楽しみです。



衣装イラスト。夏の初台の人魚姫との見比べもわくわくいたします。



帰りは行きつけになりつつある渋谷のインドカレーを中心としたアジアンダイニングの店へ。1人でも入店しやすい。



ルビーのような赤みがかった石も!



ビールと象さん。Kバレエバヤデールのソロル用の巨大象はよく作ったもんだ。ヌレエフ版にも同様の立派な象に乗ってソロルが出てきます。



デリーの南西に位置するジャイプル地方に伝わるジャイプルスパイシーチキンカレー。
約20種類のスパイスを贅沢に使用したとのことで、複雑に締まりながら絡み合っていて摩訶不思議な美味しさでした。
サラダがハートの器で、マンゴーや海老も入っています。カレーの金色の器やお盆がラジャー感を増幅です。



後日、飯島望未さん組を鑑賞した我が後輩とKバレエバヤデールを語る会。牧版、マカロワ版、熊川版、それぞれに光る演出があると意見一致。
私が注文したのは健康プレート?なセットで、一見量が少なめに見えかけたものの食べ始めると色々ギュッと詰まっているのかお腹も大満足。
セットのアイスチャイ、濃いめな茶量で最後まで味わい深くいただきました。

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