5月23日(木)、Dance Marchéの新作で池上直子さん振付Edenを観て参りました。
https://www.dance-marche.com/eden
脚本/演出/振付/美術:池上直子
タイキ:渡邊峻郁
ルイ:木村優里
マイ:鳥羽絢美
kimagure:湯淺愛美
モモ:大上のの
ノカ:南帆乃佳
リオ:須﨑汐理
ジュン:高橋慈生
カイ:八幡顕光
※ダンスマルシェさんのインスタグラムに終演後やカーテンコールの様子が掲載されています。
また他の投稿記事に脚本も公開され、エデン学園を舞台に繰り広げられる学校生活や、落石事故によるタイムリープ展開、登場人物の台詞も綴られています。是非ご覧ください!
タイキの渡邊さんは、冒頭は絵に描いたような堅物優等生で、経済学の本を読みながら登場する「歩き読書」姿も真剣そのもの。
一流企業に就職したのち学園に復帰した優等生との設定で、復帰前は証券取引所あたりに勤務していたのでしょう。
現代でいう、為替と株の値動きの報道にて3台ほどのパソコンを駆使する姿がチラッと映っていそうな気がいたします。
しかし颯爽としている上にさりげなく身体の捻りやダンスも組み込まれているためか、加えて妹のマイがすぐさま奪おうといたずらっぽく接していたためか
歩き読書であっても二宮金次郎にはならず笑。エリート街道まっしぐらな生徒としての印象を瞬時に与えてくださいました。
タイキとマイは子供の頃に両親を亡くしてEden養護施設で育った過去があり、
タイキが妹マイに優しく手を添えて目線の高さを合わせてはマイが無邪気に抱きついてくる睦まじいやりとりから
幼い頃から妹の手を引いて一緒に歩いていたであろう姿が目に浮かぶ兄妹です。マイにとってはタイキは兄であり父親でもあったことでしょう。
マイの身に何かあれば、例えば意地悪する人間がいればタイキが鬼の形相で駆け付けマイを助けて安心させていたに違いありません。
そんな目に入れても痛くないほどに可愛がる妹マイが塔からの落石によって事故死した後は
泣きじゃくりながらマイの遺体を抱える悲しみから大崩壊して闇に落ちていく様子が凄まじく、身の毛がよだつ凄みにどれだけ震え慄いたことか。
kimagureに操られて翻弄され、タイムリープの成功のためにマイの救助のために過去に戻って予言や訴えを起こすも
信じてもらえず誤解が生じてのクラスメイトとの溝の深まり、カイ先生からも叱られ一筋縄ではいかないkimagureとの駆け引きにも追い詰められ
やがて生気の失いながら苦悩から放つ狂気、と途轍もない舞台を目撃した思いでおります。
終盤では制服をゆっくりと脱ぎ捨てて苦悩を座り姿だけでも場を持たす力量にたまげ、
座り込みの佇まいで視線も空虚から鋭い眼光まで変化をつけつつ幻覚のような世界観を醸して場を持たせていけるのは只者ではない証でしょう。作品牽引力にも天晴れ。
重たい物語をガシッと背負いながらコンテンポラリーで鮮やかに伝えていくお力にも目を見張り、
コンテの振付でこうも多彩でオリジナルのストーリーを組み立てていく踊りは新鮮でした。
マイの鳥羽さんは小柄で純朴な可愛らしさがあり、タイキお兄ちゃんを心から慕っている様子が健気で微笑ましい妹。
渡邊さんとは顔立ちも全然違うはずが、劇中では本物の兄妹に見えたくらいで、
恋人同士ではなく兄妹としていかに自然に見えるか接し方の表現もよく考え抜いていらしたと想像いたします。
年齢が離れた兄妹の設定で、まことに勝手な想像ですが、タイキは娘に、マイは父親に接するようにしていたようにも見え
結果として恋人っぽく全くならず、手を取り合って生活を送る一生懸命な年の離れた兄妹に見えたのかもしれないとも思えた次第です。
タイキを最後まで信じて理解しようとする一途な恋人のルイは木村さん。ウィールドン版『不思議の国のアリス』風のおかっぱな髪型とカチューシャのヘアスタイルの
ぱっと目を惹く存在感で、タイキとの束の間の穏やかな幸福を歌い上げるような、机を用いたパ・ド・ドゥもあり。
学園ドラマでいうならば放課後の教室の夕日を浴びる窓辺、といった甘酸っぱい青春真っ只中な状況でしょう。
だからこそマイの死後、別人のように変貌してクラスの調和を乱しては友人達から除け者にされていくタイキを信じようと努めるも
徐々に心がついていけず離れていく複雑な胸中も細やかに踊りで表していらっしゃいました。
そして冒頭から最後まで、震撼を与え続けてくださったのが湯淺さんのkimagure。タイキにしか見えない、学園を陰で支配する存在で
魔物のように出現してはタイキを脅かして時には懇願を拒絶して更に追い込んでいく
恐るべき身体能力で踊り繋いでいく姿に呑み込まれそうになりました。タイキが憔悴するのも当然の流れと見て取れ、
何より熱量の半端ない上に身長もある渡邊さんと敵対する上に、互角に渡り合う力強さや大胆さ、
高い技量を女性で持ち合わせている方がいらっしゃることにたいそう驚くばかりで、衝撃のある役どころでした。
八幡さんは公開リハーサル時の積極的な声かけや心配りなさっていた行動がそのまま重なるカイ先生で、きちんと熱血な先生ぶり。
熱血とはいっても金八先生のような暑苦しさはなく(お好きな方すみません)、
堂々と潔く取り仕切る様子も踊りで自在に表され、お手本の見せ方も万全。生徒達から慕われている先生です。
公開リハーサルを観ていて最も気にかかったのがタイムリープの表現方法。実のところリハーサルを観ていた限りでは中盤場面抜粋でまた振り移し段階であったためか
突然のトレーニングポーズや徒競走など始まっても今ひとつ捉え切ることができず終い。
幸い後半のトークショーにて池上さん、そして渡邊さんによるタイムリープの分かりやすい説明もあって
脳薄き人間な私でも理解できそうな安心感を持ちつつあったものの、リハーサル見学記事で少し触れた通り
小説『タイムリープ』を読み進めていても過去と未来を行き来する女子高生の主人公が
タイキ並に頭脳明晰なクラスの男子生徒が分析してくれて事態をようやく把握できた立場と同じく、読んでいても主人公が何処の日付にいるのか到底理解できず。
文字化されたものでもカレンダー片手でないと混乱に陥っておりましたから、舞踊で表現し得るのか伝わってくるのか些か不安は残っておりました。
当日になってEdenの配布プログラムに目を通しても心配は募るばかりで、もしやレッスンと同様に
鑑賞においても我が脳味噌の欠乏は一段と思い知らされる日になろうかと予感すら募っていたほどです。
ところがどっこい。文字化よりも舞踊化のほうが明快な伝達手段として長けていて、私が抱いていた不安や心配の要素はあっさりと解決。
幕を用いて時間軸の区切りを表したりと繰り返すタイムリープが理解し易い演出で、池上さんが生徒や教師達の心情もはっきり描出していた点も効果的だったと思えます。
何度目のタイムリープか、また成功か失敗か、悔しさの違いを示しながら、加えて人間関係の展開も手に取るように伝わってきたのは
池上さんの振付手腕と豊富な語彙を身体で自在に表して踊り、伝えることができる精鋭部隊なダンサー達が集結していたからこそでしょう。
タイキの優等生ぶりが窺えるペーパーテストや徒競走場面もダンスでしっかり描写がなされていて
前者は一見何処の小中学校にもありそうな机を使いながら上体を這うように動かしながら筆記用具を走らせるようにしたり、時折身体を傾けながら考え込んだりと
身体の使い方が各々違っていて試験官になった気分で鑑賞。机を1列に並べて繋げた状態に位置転換して1位獲得者を歩かせる場も上下の移動含めて工夫がなされ、
文化祭の出し物としてのお化け屋敷設営中にも見えず笑。(仮に暗幕があったら完全にお化け屋敷ですが)
後者は周回と直線距離での競争もあり、順番が前進と後退を音楽の中で不自然さなく繰り返していて
ダンサー達の身のこなしの上手さに感嘆いたしました。音楽の中でかけっこ、徒競走を舞踊化して表現するのは非常に難しいものなんです。
スケールが塵のように小さな話で恐縮ですが私が子供の頃に運動会をテーマにした作品にて
教室では美女チームとそうでないチームに大まかに区分けされていた事情で勿論後者に属していた私はコント風な衣装装着作品もやっていたため
本物の体操着で徒競走を表現する作品をバレエの発表会の舞台の上で経験したのですが
音楽の中でわざと遅めに走ったり遅れをとる様子を見せるのはかなり難易度高いことでごさいます。
ですからあれから◯◯年、ビントレーさん振付『ファスター』よりもややこしいかけっこ競技舞踊を
いとも易々と踊って走りこなすエデン学園の生徒さん達にひたすら頭が下がる心持ちで鑑賞しておりました。それに、美しい方々がこなしているとやはり別物です。
幸か不幸かバレエを習ったことがきっかけで、習い始めてから何年か経った8歳の頃には醜き容姿と殊更自覚して生きて行こうと決めていた当時の自分に
エデン学園の皆様のリアリティと美が共存した徒競走をタイムリープして見せてあげたい一心でおります。
人間関係も、仮にプログラムの相関図を読まずでも、開始30分頃の2時間サスペンスに大概入っている
ホワイトボードに写真貼り付けながらの警察署での説明がなくても笑、舞台を観てすぐ分かるように展開され
誰が誰に恋しているか、嫉妬や親友な間柄まで、生き生きとした踊りで交友関係が紡がれていく流れが視覚にもすぐ伝わり、心配無用でした。
学園生活の描写の終盤は大衝撃でルイの死の至り方は賛否両論あるかもしれず、
殊に中高生の頃に全国各地で学校敷地内での凄惨な事件が度々発生して(同じ年頃の生徒が学校内で先生を刺殺した事件等)
先生方も授業で何度も事件について、少年法改正問題について取り上げざるを得なかった頃に中高生活を送っていた世代としては
あくまで舞踊のフィクションなのだから過去の事実とリンクさせる方がおかしいと思われるかもしれませんが
古典文学や作品ではない、新作オリジナルの学園物の中で起こる話としては、唐突に刃物が出てきてルイが命を落とす場面だけは私には受け止めが困難でした。
ただその後、前半にも少し述べたように、ゆっくりと制服を脱ぎ捨てたタイキが座り込みの佇まいで静かに語り、
背後にてやはり制服を脱ぎ捨てた出演者全員がしなるように研ぎ澄まされた身体の動きでタイキの幻覚のような世界を描出。
そしてタイキも一緒に交じり合っては不思議な光景を表していく時間や、最後に塔が前方に倒れて坂道となり、その上に聳え立つタイキが見据える姿が余白を与えて、
観ている側もどっしりとした重たい余韻を引き摺りつつも身を清めるような心持ちになる、考えさせられる結末でした。
諸々書き連ねてしまいましたが、ただ池上さんの作風である感情を大事に紡ぎあげて行くコンテンポラリー作品作りの指針はとても好きで
しかも何処へ飛んでいくか分からぬ、常時予想の斜め上をいくような饒舌な振付の連なりがとても面白く、しかも踊りで次々と心情を体現させていく手腕にも脱帽です。
またミステリーが絡む学園物と知ってすぐさま当方が浮かんでしまった日本の高校を舞台にした嘗ての大ヒットテレビドラマのような
そして実は私が子供の頃と現代の高校生の制服はさほどデザインの傾向が変わっていない事情もあり
渡邊さんが紺ブレザーに白シャツにグレーのスラックス、チェック柄ネクタイの男子高校生になるのだろうかと勝手な想像がよぎっておりましたが(金田一少年じゃあるまい笑)
しかし登場人物紹介大写真は向田邦子ドラマに登場しそうな古式ゆかしい青年な風貌で益々想像がつかず。
結果、近未来やSFを題材にしていた点も良かったのかレントゲン技師や介護士等医療や福祉系の制服によく似たブルーや白を基調にしたデザインで
胸元にエデンのEの字が全員異なる色バランスで彩られていたのもユニークでした。
satonokaのケーブルテレビでは放送が予定されているようで、再度観たい作品ですし年月が経過しないうちに同じキャストでの再演も心待ちにしております。
行き、日々変わる渋谷の風景。今年は渋谷方面へ出向く機会が多いものの、駅の出入口の新設や閉鎖といっためまぐるしい変化についていけません
帰り、新作誕生に乾杯です。
担々麺。鑑賞時はタイキに、帰りは山椒に痺れた5月の夜でございます。
渡邊さん木村さんのサイン入りTシャツ、購入いたしました。勿体無くて着用できず、
著名人来店の飲食店のような目立つところに掛ける場所がなく、部屋の棚の取っ手部分に掛けております。
お宝です。
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