バレエについての鑑賞記、発見、情報、考えたことなど更新中
2020年よりこちらに引越し、2019年12月末までの分はhttp://endehors.cocolog-nifty.com/blog/に掲載
2024年3月31日日曜日
マリインスキー版踏襲の磨き上げ 東京シティ・バレエ団『眠れる森の美女』3月23日(土)
3月23日(土)、東京シティ・バレエ団『眠れる森の美女』を観て参りました。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000965.html
オーロラ姫:清田カレン
デジレ王子:キム・セジョン
リラの精:植田穂乃香
カラボス:濱本泰然
清田さんはカラッと晴れやかなパワーに満ちたオーロラ姫。バレエ団にもよりますがシティでは登場曲が響くと同時にすぐさま姿を見せる振付のため
私個人としてはもう少し溜めて引っ張って待たせてからの出現の方が好みではあるものの
現れた瞬間からぱっと華やぐ香りを全身から放ち、全幕オーロラ初役が信じ難いほどに伸びやかでエネルギッシュなステップで喜びを弾けさせての登場でした。
部屋でおとなしく刺繍や読書よりもお城の庭を駆け回っては侍女達を困らせていたであろう活発な幼年期を過ごしていたお姫様を想像いたします。
4人の王子達とのローズアダージオも堂々たるもので、手を取ってのバランスも危うさ無く、初々しくも既に座長な風格すら備えていた印象。
薔薇の花を両親に渡したり、床へ一旦投げる仕草も丁寧で、王妃が芳しそうに持っていたこともあって
薔薇の匂いが客席まで香ってきそうな幸福に満ち足りたアダージオでした。
2幕は表情は抑えつつも身体が音楽と一緒に豊かに語って、場合によっては姫ではなく観客側がリラの睡眠魔法にかかりがちな(失礼)場面であっても
オーロラと、彼女をゆったりと受け止め恋焦がれながらリラの指示を仰ぐキムさん王子の行く末を見守りたい心持ちにさせられ
3幕はとことん絢爛な踊りが続いた最後の最後の登場で祝宴のバロメーターを頂点に引き上げる貫禄の姫君として
グラン・パ・ド・ドゥを厳粛且つ祝福感を溢れさせながら披露。ヴァリエーション冒頭のアチチュードのポーズも空間を大きく捉えるような大らかさと安定感にうっとり。
リラの植田さんは確固たる守り神な佇まいでプロローグの登場から安心感を持たせる妖精。
背中がとても強く、ソロにおける盤石な軸から繰り出す上体の柔らかな動きや腕のキープ力にも目を見張り
カラボスと対峙しても迫力負けしない威風堂々とした振る舞いにも感嘆。まさに妖精のリーダーらしい城内を取り仕切る存在感でした。
エレガントなゴージャス感で楽しませてくださったのは濱本さんのカラボス。力で押し出すタイプとは異なる、
すっと美しく静かな身のこなしから急に目をギラリとさせながらの表情一変が恐ろしく、指先も綺麗な動かし方で城の人々を脅かしていらっしゃいました。
前回観た力強く豪快なゴージャス感で物語を動かしてくださっていた石黒善大さんとは全く違ったアプローチで、お2人ともそれぞれに魅力的です。
小栗菜代子さんデザインの衣装のセンスの良さも挙げずにはいられず。オーロラ姫の1幕の小花で彩られた淡いピンク色、2幕の白、3幕の白とシルバーを合わせた婚礼衣装どれも目に響き
またプロローグの6人の妖精とリラの妖精達のきらりとしたパステルカラーとやや渋みある色を組み合わせた落ち着いた品のある色彩美の並びには何度心が雫で潤ったことか。
勿論妖精ソリストは皆さん色違い(これ大事!!)
ただでさえ音楽や振付共に眠りで最も好きな場面であるパ・ド・シスの冒頭部分で、興奮と歓喜が噴水の如き沸き上がっていた管理人でございます。
ダイヤ、金、銀、サファイアの宝石達のぱっと目を惹く、しかしゴテゴテし過ぎないカチッとした豪華さも輝きを放ち、しかも全員が美しい技術の持ち主。
特にダイヤの石井日奈子さんがコントロール力が抜群で素早い振付であっても長い手脚を持て余すことなく、
ダイヤのカラットの煌めきを音楽と共鳴しながら体現なさっていた印象です。
上演時間は約3時間15分に及ぶ長大作品ながらダレる部分が見当たらず、時間の経過が随分と速いと思えたほど。
近年は省略されがちな鬼と親指小僧は子役も登場するも、あくまで鬼の超絶技巧を前面に出して見せるよう意識がなされていたのか、
また衣装もなかなかお洒落で突如世界観が台無しな事態にもならず、王宮の美意識が途切れず流れていた気がいたします。
鬼役土橋冬夢さんがキレキレテクニックで空中を切っていらっしゃいました。
猫の松本佳織さん林高弘さんの軽妙な踊りのやり取りも可愛らしく、時間戻りまして狩猟の場面にて伯爵夫人に岡博美さんが出演され
洗練された優雅な身体の使い方が頭1つ抜けた感もあり、ぐっと引き締める効果大でした。
今回もラリッサ・レジュニナさんが来日されて直接指導。2020年時以上に全体が磨き込まれ、優雅さや精度の統一感も格段に上昇。
マリインスキーで長年上演されているセルゲイエフ版を踏襲しつつシティらしい爽やかな味付けがなされた、総力結集な大掛かり公演でした。
カーテンコールにはレジュニナさんも登場。映像化もされた、キーロフ(当時)の新星として18歳にして眠り全幕でオーロラ姫を踊られた
きらきら愛らしく初々しいお姿な写真はソ連時代の当時からよく見ておりました。
可愛らしい品が香るお顔立ちやすらりと綺麗な立ち姿は今もお変わりなく、脳裏に刻まれております。
前回公演も頗る評判が良く、今回新国立中劇場で2回のみの公演回数であったため完売も早く、可能であればもう1公演打っていただけたらと思えてならず。
次回上演時はご検討願えたら幸いです。
帰りは瑞々しいピンク色の春限定カクテルで乾杯。私には不似合いですが笑。
1幕オーロラ姫の衣装は、シティで採用しているような淡いピンク色が好みです。
2024年3月29日金曜日
生死を考えるトリプル・ビル スターダンサーズ・バレエ団 オール・ビントレー 3月16日(土)
3月16日(土)、スターダンサーズ・バレエ団オール・ビントレーを観て参りました。
https://www.sdballet.com/blog/20240130/
雪女
The Dance House
Flowers of the Forest
Flowers of the Forest
音楽 マルコム・アーノルド、ベンジャミン・ブリテン
美術 ジャン・ブレイク
スコットランドの明るく朗らかな面と悲しみが入り乱れてきた面の双方を描いた作品で、
バレエ団初演時やNHKバレエの饗宴、吉田都さんの引退公演など何度か観ております。
序盤から早乙女愛毱さんが闊達な脚技を魅せ、キルトや帽子姿も可愛らしい。徐々に人数が増えてお祭りな喜び溢れる光景と化していく、
そしてウイスキーを飲み過ぎて泥酔しながら千鳥足で歩行するほろ苦くも笑ってしまう流れも毎回心を浮き立たせてくださいます。
何組もが一斉にリフトされたり、ポーズを作り出して行く様子もきりっとシャープで輪郭くっきり。
忙しいステップてんこ盛りながら、慌ただしさを感じさせず寧ろ脚先からもみるみると歓喜が紡がれていく踊りの連続で、スタダンの鍛錬が窺えました。
中間部のスコットランドのバラードの主軸は塩谷綾菜さん林田翔平さん。お2人とも明朗系な場面の印象があり、悲哀を帯びた陰鬱な場への登場はなかなか新鮮で
戦争の影が忍び寄る中で重々しくも必死に光を見出そうと丹念に情感を寄せ合いながら踊る姿が目に残っております。
昨今の情勢を思うと、これまで以上に心身に重たく覆い被さる場面でした。
フィナーレは再び颯爽と明るい場面へ。明暗明の対比がはっきりと色付いていた今回のフラワーでした。
The Dance House
音楽 ドミトリー・ショスタコーヴィチ ピアノ協奏曲第1番
美術 ロバート・ハインデル
ピアノ 小池ちとせ
トランペット 島田俊雄
スタダンのブログによれば、<中世ドイツの “死の舞踏”からインスピレーションを受け、
エイズにより若くして亡くなった友人への哀歌としてビントレーが振り付けたバレエ>とのこと。
初演は1995年サンフランシスコ・バレエ団で、ビントレー版『カルミナ・ブラーナ』英国初演と同年でございます。
スタイリッシュで奇抜な色味の組み合わせがありつつも、ソリストも群舞も音楽もトリッキーなテクニック炸裂の連続で
少数の出演者だけでなく大人数群舞で立ち位置を変形させながら難解なステップでひたすら踊り続ける光景に感嘆。
序盤はバーから始まるため基礎力を誤魔化せず、中間部からは東真帆さんの目が眩むような身体の艶かしい使い方や真っ直ぐ伸びた脚線の美しさ、
冨岡玲美さんの精密機械のように刻んでいく踊り方もヒリヒリとした刺激に満ちた展開でした。
ロビンズ振付『コンサート』では演者の1人して舞台上に設置されたピアノで活躍された小池ちとせさん、
トランペット島田俊雄さんの演奏と踊りが競い合うように畳み掛けるめまぐるしさも興奮を強め
死の恐怖や哀感、そしてスパイスの効いた要素が混ざり合った追悼作品と受け止めております。
※作品解説、詳しく掲載されています。
https://www.sdballet.com/blog/20240216/
雪女
音楽 イーゴリ・ストラヴィンスキー 妖精の接吻 美術 ディック・バード
雪女/お雪 渡辺恭子
巳之吉 池田武志
太郎(2人の子供) 山田成輝
巳之吉の母 井後麻友美
茂作 大野大輔
シャーマン(祈祷師) 鴻巣明史
池上直子さん振付では2年前に大和シティー・バレエで観ており、ビントレーさんの手にかかるとどう調理されるか、また日本を題材にしているため
日本で生まれ育った者からすると違和感を覚える箇所発生の心配もしつつ鑑賞に臨みました。
渡辺さんが触れると凍りつきそうな幽玄な雪女で、顔から首にかけての細い筋もただならぬ存在感を後押し。
儚くも冷たい風情を漂わせ、白い布をさらりと纏っての振る舞いや恐々とした目元、僅かに口角を変化させるだけで喜怒の変わりようがはっきりと伝わる表現も見事でした。
お雪のときは親しみやすいチャーミングな女性で、村の人々に愛される人懐っこさも備えていてとても正体が雪女とは思えず。
池田さんの巳之吉は素直そうな若者で、暴風雪の中を凍えながら歩く様子や雪女とのやりとりにおける心の震えや静かな衝撃を丁寧に体現。
祭りの中で繰り広げるお雪とのパ・ド・ドゥやソロは物語のイメージを覆す高度なテクニックなステップ満載で
縦に横に移動も多いながら渡辺さん池田さんともに揺るぎない技術を次々に披露して沸かせてくださいました。ただやや長く感じて冗長に思えてしまったのは否めず。
雪達がおどろおどろしく駆け抜けながら冷たく吹き荒ぶ場面と、朗らかな村の対比をしっかりと出し、
お雪と巳之吉の間に生まれた子供達との戯れはほのぼのと快活。また巳之吉の母親役の井後さんが渋い味を出し、
突然愛息子に舞い降りた幸福を手放しに喜べず何処か不安げに見つめる姿も目に残っております。
舞台後方に設置された、上手側に向かって登り道である大きな坂は、最後効果的に作用。
巳之吉が約束を破ってしまったためにお雪が雪女に姿を変え、巳之吉を許すまいと登っていく拒絶の儀式にも見え、
バヤデールとよく似た構図と見て取れた演出です。静かに沁み入る結末でした。
お雪の服が梅柄のワンピースで、しかし子供がこいのぼりを持ってはしゃぐ姿も描かれ、
『パゴダの王子』と同様にビントレーさんが抱く日本文化のイメージに疑問を持つ箇所もあったものの
ストラヴィンスキーの曲が雄弁に語り、雪女と巳之吉の出会いから命懸けな別れまで
場面ごとに踊りの見せ場も用意して色付けして繊細さと賑わいを交互に描いて飽きさせない演出に纏めたビントレーさんの手腕を讃えたい思いでおります。
借りてきた雪女の本。訳文の執筆者が異なると趣も大きく変わり、骨太にはっきりと綴っていらっしゃる高村忠範さんに対して
平井呈一さんは静謐に線が細い印象。読み比べが面白く感じた次第です。
終演後はスコッチウイスキー。瓶が重厚。
ロックです。
2024年3月25日月曜日
2時間弱にまとめて復刻 日本バレエ協会『パキータ』 3月10日(日)夜
3月10日(日)日本バレエ協会アンナ=マリー・ホームズ版『パキータ』夜公演を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2024tominfestival/
パキータ:米沢唯
リュシアン:中家正博
イニゴ:高橋真之
米沢さんはロマ姿であっても頭1つ抜けたキラリとした品を宿すパキータで、デコルテや腕にかけてのラインもいたく綺麗で色香もあり
身につけた立派なペンダントも含め周囲は何とも思わなかったのか不思議なほど。
音楽と空間をたっぷり使ってのソロも花が開くように艶っぽく、人々に愛されている様子が窺えます。
中家さんのリュシアンは見るからにまもなく昇進しそうな逞しい軍人で、軍服が違和感なく似合うお姿。歩き方や腰掛け方は威風堂々。
パキータとの一目惚れな出会いではハッとする衝動をお互い周りに気づかれないよう恋心を静かに抑えて秘めていたのは健気に映りました。
鮮やかなテクニックを駆使して集団を率いていたのは高橋さんのイニゴで、とにかく見せ場が多く
グラン・パでお馴染みなパ・ド・トロワをイニゴとパキータ友人との構成にして1幕で披露したり、一方で悪事を企てたりと大忙し。
しかし技術も芝居力も確固たるものをお持ちで、中身があるようで無いあらすじ(失礼)を浮き立たせて伝えてくださいました。
2幕は結婚式まではだいぶ芝居中心でしたが、リュシアンから命を奪おうとするイニゴの悪事計画を消滅させようとパキータがあの手この手で大奮闘。
卓球台のようなテーブルに向かい合って座る2人を前にして、わざとパンを落とした隙にコップをすり替えたり寝たふりをするようリュシアンに命じたりと
機転を効かせた作戦で挑んでいました。大舞台で長らく活躍しているこの3人だからこそ、場も持たせて楽しい掛け合いに展開したと思われます。
忍者屋敷のような回転扉な仕掛け、及びイニゴに苛立つ(確か)リュシアンが誰もいない間に格闘技の技を1人ひっそり繰り出していたのはびっくりしたが笑。
そういえば大山倍達さんは、バレエダンサーの身体能力で格闘技をされたら敵わないと、インタビューで語っていた記憶が過ぎりました。
加えて中家リュシアンとの対戦ならば試合前から勝ち目なさそうです。
パキータとリュシアンの結婚式グラン・パは大人数編成のコール・ドはよく揃っていて、隊列変化も見事。
米沢さんはクリアな踊りで涼やかなフェッテも爽快。1幕序盤の友人達との戯れや恋に落ちた場面から、打倒イニゴ作戦、
そしてテクニックフル回転な結婚式まで卓越した描写力で舞台を引っ張っていらっしゃいました。
衣装が白地に銀だったか、頭飾り含めてガムザッティのようなデザインであったのは惜しく思え、誰が見てもパキータと思わせる何かがあれば尚望ましかったかとも感じます。
『パキータ』全幕は18年前にパリ・オペラ座バレエ団来日公演でラコット版を観ておりますが記憶が彼方で、
パキータがスワニルダのように機転を効かせていた点とグラン・パしか覚えておらず。
ちなみにこの年はNBSにおけるラコット年だったようで、4月にパリ・オペラ座『パキータ』、
5月にボリショイ・バレエ『ファラオの娘』、11月に東京バレエ団『ドナウの娘』と続きました。
3作品とも観ている者としてはファラオは古代エジプト歴史浪漫をボリショイのハイレベル技術に裏打ちされた人海戦術でこれでもかと見せつけられ
バレエ団好きとしては喜ばしく3回も足を運んでしまったが、オペラ座パキータは記憶がうっすら、東バドナウに関しては横断幕のセンスに言葉を失い汗、以下は略。
それは横に置き、ホームズ版パキータは中身があって無いような話を削ぎ落として休憩1回の2時間弱にまとめ、
ケープダンス(ロマの女性、それから女性達が闘牛士に扮して踊っていた)キャラクター舞踊も充実させて活気ある場面を設けてなかなか面白く、見飽きぬ仕上がり。
リュシアンがグラン・パ以外は腰掛ける、歩く、加えて芝居中心で踊りの見せ場もう少し有れば尚望ましく思えましたが
全幕上演で目にする機会が滅多にない演目を新制作しての披露には拍手を送りたい思いでおります。
帰りは頼まれていたパンダグッズを購入後に上野駅アトレで赤ワインで乾杯。
食べてみたかったかつサンド、メニューの見本写真の倍はボリュームがある印象でしたが
食べ始めたら1人でもスルリといただけました。肉汁ジュワリ。チョコ柿ピーやナッツ類はチャージに含まれ、これまた止まりません。
2024年3月22日金曜日
全員の進路に幸がありますように エトワールへの道程 2024-新国立劇場バレエ研修所の成果- 3月9日(土)
3月9日(土)、エトワールへの道程 2024-新国立劇場バレエ研修所の成果を観て参りました。研修所の卒業公演は2018年以来2度目の鑑賞です。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/24etoile/
※プログラム等は新国立劇場ホームページより
『トリプティーク~青春三章~』
振付:牧 阿佐美
音楽:芥川也寸志
出演:研修生、予科生、上中佑樹(ゲスト)
菅沼咲希、根本真菜美、山本菜月、下川佳鈴(ゲスト)
重厚で哀愁や危うさを宿した曲調がいたく好きでアステラス等研修所が関わる公演では毎回楽しみにしている作品です。
ただ上演回数が多過ぎているせいか、単に私の中で新鮮味が失われ始めたのかこれまでのような感激は減少。研修生達の持ち味を生かしてはいるのでしょうが。
ただ研修生達の瑞々しさや真っ直ぐでピュアな姿勢をシンプルで飾り気のない衣装姿がかえって引き立たせ、
ノンストップの清流のように踊り続ける振付をきっちり端正にこなしていた清々しさは丸でございました。
研修所OGで現在はブルガリアの劇場で活躍中の根本さんがすっかり艶っぽくなっていて、
このあとの眠り3幕貴族でも目を惹く存在感。
『海賊』よりパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ
音楽:リッカルド・ドリゴ
出演:榎本志結、趙 載範(ゲスト)
抜擢の榎本さんは少し緊張も見えましたが、丁寧にしっかりと踊っていて伸びやかさもあり。
まだ額縁の中で一生懸命な印象はあれど、趙さんの安定サポートで更に花開きそうな部分も予感させました。
『Conrazoncorazon』より
振付:カィェターノ・ソト
振付指導:新井美紀子
出演:研修生、予科生、上中佑樹(ゲスト)
アステラス2021では非常に短時間抜粋だったため、全編ではなくてもたっぷり目にでき満足。
全員騎手のような格好で、可愛らしいユーモアと捻りが効いた振付の連鎖に笑みがこぼれ続けました。
カルディコーヒーファームの店内で流れていそうなラテン系のノリと気怠さが混在した歌曲もあったり、音楽の面でも満喫。
『眠れる森の美女』第3幕より
振付:マリウス・プティパ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー
出演:
オーロラ姫:堀之内咲希
デジレ王子:浅井敬行
ほか
堀之内さんは福岡の須貝りさクラシックバレエスクール出身で、昨年末に博多座にて開催された地元オーケストラ演奏との共演舞台『くるみ割り人形』を鑑賞しており
そのときは出演されていなかったためどんな方か楽しみにして参りました。
大変堂々としたオーロラ姫で技術もカチッと綺麗、ポーズも角度をよく捉えた決め方で好印象。ゲストの王子より堂々と引っ張っていた印象すら持たせたほどです。
そして宝石とフロリナ、青い鳥はイーグリング版の本公演衣装よりセンスが宜しい汗。
バクランさんの、後方席までも伝わる愛情深い指揮にも心洗われた爽やかな3幕上演でした。
最後は卒業生達の挨拶。滑らかに話す人もいれば少しつっかえたり、涙したり、されど素直な内面が表れていて心から拍手。
中間部にて上映された研修所の生活を見ると、実技のみならず美術(好きな絵を説明するプレゼンテーションもあったもよう)や
バレエ史、音楽史、栄養学等々密度の恋人カリキュラムに再度驚き、めまぐるしい日々であったのは容易に想像できます。
前所長の牧阿佐美さん系列の教師が多く、指導に偏りがないか勝手ながら心配もありつつも、体制が今後大きく変わるようで、その辺りも注目か。
ともあれ、卒業生全員の進路に幸がありますように!
終演後、若人達の幸を願って乾杯するビールカルテットな大人達。 バレエや音楽を習うことの面白さから、
先月末の『ホフマン物語』回顧まで、短時間滞在ながら話題目白押しでございました。
この時期限定セントパトリックデーにちなんだグリーンビール、色がキラリと鮮やかな緑色です。
2024年3月20日水曜日
【7月開催】M.ムソルグスキー生誕185周年記念コンサート
少し先の話になりますが、7月1日(月)銀座の王子ホールにてM.ムソルグスキー生誕185周年記念コンサートが開催されます。
※ムソルグスキー、3月21日がお誕生日らしい。
まだホームページ等に掲載されていませんが、チケットや問い合わせは電話かメールにて株式会社ロシアン・アーツ宛へとのこと。
これまでに『信長』やバレエの美神等の舞踊公演の他、映画や演劇、美術展といった多岐に渡るロシア芸術のイベント開催に携わっています。
http://russian-arts.net/
何と言っても山本隆之さんが出演され『展覧会の絵』の曲で日本舞踊の藤間蘭黄さんと踊られるとの文字に大変心躍り、楽しみでございます。
2016年に山本さんが日本舞踊家の西川祐子さんと共演され『井筒』にて美しい在原業平を披露された舞台が今も記憶に刻まれており、
今年は藤間さんとの共演。藤間さんはバレエ公演にも足繁く通っていらっしゃり私も何度も見かけております。
しかし藤間さん山本さんがお2人が並んだ舞台での光景はまだ目にしておらず、7月が待ち遠しいばかりです。
舞踊の『展覧会の絵』としては2008年夏の大阪にてK★CHAMBER COMPANY Kバレエスタジオの舞台にて矢上恵子さんの振付で鑑賞しており
音楽と群舞を最大限に生かし、ブルーを基調とした(記憶が正しければ)めくるめく展開や、
卵からかえった雛の部分を子供達がランドセルを用いたユニークな格好で踊り進めて行く
非常にエネルギッシュな作品で、見終えた後は放心状態になったほど。元々好きな曲であり
思い出深い曲でもあるため、今年7月の演奏と舞踊の化学反応も心待ちにしております。
2024年3月17日日曜日
二・二三リンドルフ事件 新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』2月23日(金祝)~25日(日)
更新と感想がだいぶ遅くなりましたが2月23日(金祝)〜25日(日)、新国立劇場バレエ団『ホフマン物語』を計4回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/hoffmann/
速報と重複する箇所もございますが悪しからず。いつのまにかバレエ団の来シーズン演目発表も大阪府の枚方公演も(当方は出向かず)、エトワールへの道程も、
日本バレエ協会『パキータ』もスタダンのオール・ビントレーも終演してしまい、東京は桜の開花日も近づいている頃でございますが
当方1週間後の今頃は本州におらず、(間に合えばバレエの饗宴は宿泊先で観るか、しかしすぐ近くは飲食店街。饗宴2022放送時に大阪滞在であったときと同様に夜遊びに勤しむか笑)
急ぎ目で更新していく予定でおります。
ホフマン:福岡雄大(23日、24日夜) 井澤駿(24日昼) 奥村康祐(25日)
リンドルフ/スパランザーニ/ドクターミラクル/ダーパテュート:
渡邊峻郁(23日、24日夜) 中家正博(24日昼、25日)
オリンピア:池田理沙子(23日、24日夜) 奥田花純(24日昼、25日)
アントニア:小野絢子(23日、24日夜、25日) 米沢唯(24日昼)
ジュリエッタ:柴山紗帆(23日、24日夜) 木村優里(24日昼) 米沢唯(25日)
渡邊リンドルフさんが通る。(はいからさんかい笑)天国と地獄の曲にのせて、4変化を遂げながらご通行中です。
特に2役目、白鬘スパランザーニでの両手をヒタヒタ動かしながらの歩き方にご注目を。見るからに怪しい笑。
福岡さんのホフマンは幕開けは自信たっぷりなモテる男性ぶりで、客やメイド達ともにこやかにテーブルで語らう様子もこなれている人気者。
初演時は特に気になっていた、ウッチャンナンチャンのコントかと見紛う老けメイクはすっかりなくなって今回はナチュラルな中年男であったのも安堵です。
※初演、再演はやや抑え目になったものの全ホフマンのあの老けメイクは疑問でしかなかった。
1幕の黄色メガネ姿はのんびりとしたお坊ちゃんで、あとにも述べるがホフマンの行動に対してあれこれ口煩い
世話焼きママ(オカン!?)なスパランザーニを避けようともがく様子もいじらしい。
オリンピアへの恋が止まらない衝動を、メガネ越しでも分かる弾ける表情や踊りで体現なさっていました。
2幕、アントニアとの恋は混じり気のないピュアな愛情を交わして ピアノを弾いているときに現れたアントニアとの視線の通わせが微笑ましく、まさかこの後、医師免許所有すら怪しい医者によって(無免許診察!?)
何もかもを破壊される修羅場の到来なんて知る由も無い場面でございます。
後ほどまた述べますが、ドクターミラクルに力技でも抗えず、魔力で封じ込まれる攻防の激化からのアントニアの死はこの公演期間中のハイライトであったかと思います。
3幕はダーパテュートからの膝お触りに耐えながら(こんなシーンがあったとは)
ジュリエッタを目にしたときの衝撃に混乱し、快楽と理性の間で苦しそうにしながらも次々とアクロバティックなパ・ド・ドゥを展開。
リンドルフにステラを掻っ攫われた上に指差されながらの悲しい結末にて、
魔力からは離脱できぬ恐ろしさを思い知らされて悔しそうに悲嘆に暮れる最後も焼き付いております。
井澤さんは初演時は本当に若く、プロとしてのキャリアも非常に浅い段階での抜擢であった2015年から早9年。2018年の再演でも主演されていますが
今回は格段に3世代分を雄弁に語るホフマンであった印象です。幕開け、カフェの常連客として楽しそうにワインを飲みながら寛いでいる様子や
店主とのやりとりもごく自然に映り、ピンクジャケットの世間知らずそうな青年ぶりも宜しく
オリンピアとのダンスで不意打ちのビンタをくらいながらも笑、輪郭美しい踊りで喜びを明示。
2幕は殊に冴えるテクニックと芝居で世代を跨ってのホフマン披露されました。
米沢さんアントニアとの舞い上がるような幸せを一緒に歌うかの如く踊るパ・ド・ドゥも息がぴたりと合って見応え十分。
初役の奥村さんは実に綺麗に年齢を重ねている感のあるホフマンで、冒頭終盤は朗らかな交流の中心で
晴れやかに会話している姿から若者達に人気なのも大いに頷ける中年男性。見かけは哀愁感よりも若々しさがまさっていましたが、
飲み方はちょいと猫背でリラックスしたりとやさぐれた感じで中年風。
ただリンドルフからの突如のおびき寄せには即座に不安そうに反応し話の展開は分かっていてもただならぬことを予期させました。
1幕ピンクの上着に黄色メガネは想像を更に上を行くアイドル超越な似合いっぷり。
2幕にて小野さんアントニアと組む幻影は2021年の『ライモンダ』全幕を思い出し、騎士に見えたか否かはさておき(失礼)
あのときの夢の場における小野さん奥村さん組のいたく幻想的な浮遊感は未だ頭に刻まれており
再びコール・ドを従えての純クラシックな場面での2人を目にできたのは幸運に思えました。
池田さんのオリンピアはカクカクとした動きがより人形らしさを後押しして、しかもオリンピア自身は意図していなくても
無意識のうちにホフマンを不幸へと落としてしまう可愛らしくも残酷な無機質感もあって強靭な軸から繰り出すステップも思わず凝視。
奥田さんは軽やかで仕草や脚先も上品で、音楽が聴こえてきそうな踊りにも着目。
小野さんのアントニアはピアノに打ち込むホフマンの姿を見ようとカーテンから覗く姿からして生き生きと恋する可憐な少女。
ピアノ弾くホフマンが後ろを向いたときの目との見つめ合いを始め、無邪気で愛らしく喜ぶ様子に蕩けてしまうほどでした。
父親に叱られるときの悲しみには少々反抗心も見えかける強さもあり、病弱に負けまいと闊達に生きようと日々懸命に過ごしていたと推察。
対してドクターミラクルからの魔術には一旦ぐっと堪えるも抗えぬ誘惑にからどうにか脱出しようと試みる姿ですら気高くしたたかで美しや。
幻影の場では誰も寄せ付けない崇高な出で立ちで、悲哀が込められた静かなソロは2021年のライモンダ3幕思い起こさせる物音一切許されぬような神々しさで場を支配なさっていました。
米沢さんは儚い透明感を覆いながらの登場で井澤さんホフマンとの抱擁や顔の寄せ合いもいたく優しげに映り、澄み切った美がすっと通る抜ける踊り方にも惚れ惚れ。
ドクターミラクルからの催眠術迫りでは今にも全身から涙がこぼれそうな不安感が漂い、弱っていくさまがまた哀れこの上ない様子でした。
バレリーナに変貌するとまずアームスの大らかさ、優雅さに包み込まれこの日は上階末端席におりましたが舞台に摩訶不思議な力で吸い寄せられそうな心持ちに。
この場面のパ・ド・ドゥは3組とも大変な息の合い方で、音楽とゆったりと呼応しながら高々と持ち上げるトーチリフトや
平行四辺形のように重なり合う最後のポーズ含め、互いの手脚の伸びやかさも十二分。
コール・ドとの調和も実に綺麗に取れていて、上出来な場であったと思います。
初挑戦柴山さんのジュリエッタは、初日は少し抑え目な気もいたしましたが2日目はこれ見よがしでない
内側からの色気も香って気づくと誘いに乗ってしまいそうな高嶺の花なヒロイン。
これまで柴山さん渡邊さんによる幕物作品ペアと言えば、シンデレラと王子、淑女と騎士、妖精の女王と王、といった不健全とは無縁な配役同士でしたから
ダーパテュートと行うホフマンに対する共謀誘惑作戦における迫りでの弄るようにホフマンを追い詰めていく危うい2人に仰天。
前回残念ながら鑑賞叶わずであった(前回の千秋楽日は管理人、京都で観劇)木村さんは
光も美術もカラフルな魔窟の中であっても出の瞬間から艶かしい華やぎを与えるインパクトで支配。
思えばジュリエッタは女性客人達とさほど変わらぬデザインの衣装であるはずが、
スモークに同化しないどころか益々自身の色で染め上げて行くオーラで満たす誘惑も濃密でございました。
男性客人達にリフトされたときにスカートの裾から覗く脚の線も高らかな美を空中にて描画。
中家さんとの悪どい共謀作戦も余りに楽しそうでホフマンには申し訳ないと思いつつ笑、2人してうねっての誘惑にホフマンも目を覆いたじろぐしかないのも納得。
米沢さんはかけ持ちのアントニアの影はすっかり消え去り、鋭い怖さと色っぽさを放つジュリエッタ。
ホフマンを誘い込む序盤のソロからして手脚が描く大きなフォルムやダイナミックされど乱れぬポーズの連続にも感嘆でございました。
早速ですが長くなります。小休止をどうぞ。
渡邊さんのリンドルフ(他計4役)は恐怖の圧、剽軽、怪奇、妖しさ、と色が異なる4役を踊り分けてホフマンを追い詰め、敵役の食品成分表を隈なく網羅。
天井を貫通するような狂気で全幕を支配なさっていて、何度背筋に戦慄が走ったことか。
国際バレエアカデミア『シェヘラザード』に続き変わり者を承知で申すと、『ホフマン物語』再演があるならば
渡邊さんはホフマンではなく、敵役として4役変化するリンドルフを務めて欲しいと懇願しておりましたので、
発表時にホフマン役欄にお名前明記が無いと確認したとき、もしやと期待。そして万歳した私でございます。
あの腰掛けて視線を真剣に送り続ける箇所も、素っ頓狂な人形師も、後半での大胆な誘い込みも、いかにして静動のメリハリを効かせていかれるか楽しみでなりませんでした。
そして初日。まず、2月23日のキャストにお名前があった、これだけでもう我が寿命が伸びた汗。
そして幕が開いた、舞台上にいらっしゃる。これでまた我が寿命が伸びた。大袈裟な言い方をしていると思われるでしょうが1年前がそれだけ悲しみに包まれていたのです。
カフェの客として下手側の椅子に腰掛けた姿が、頭が少し動く程度で極力身動きせずあとはぴたりと静止そして冷徹な空気をぴりりと放ち、
プログラム解説文に書かれているとおり邪悪な議員である設定にも納得。上手側の椅子に腰掛け、客やメイド達との睦まじく語らうホフマンを
穴でも空ける気でいるかのように目を凝らしながら見つめ、額に死守、瞳に奪還、後頭部に独占、頭上に執念と、
太い筆字による熟語が見えてくるほどにホフマンに対する屈折した愛が感じ取れる腰掛け姿でした。
カフェの主人とは顔馴染みなようでワインもおかわりなさっていたが険しい表情は変わらず、
客として身を置いているだけでゆったり味わうよりもホフマンの独占作戦をひたすら練っていると思われます。
ところで昨今の国内の報道を見聞しているとリンドルフの設定「邪悪な議員」の定義が気になるところ。
ラ・ステラのお付きを財力で揺さぶろうと企み背後からそっと手渡す金銭は自腹なのかそれとも今話題の(話題でも困るんだが汗)裏◯なのか。
邪悪とは言ってもこれまで手を染めてきた悪事の内容を探ってみたい深掘りしたいと欲を突かれるのは、会計文書の虚偽記載どころではなさそうな闇が覗けてくる
或いは所属派閥もなく懇親会にも行かず、孤独に議員職に従事していそう等と想像が膨らむのは、幕開けから数分経過しただけでも
リンドルフが放つ異様で不気味なオーラに鷲掴みされる心持ちになったからこそでしょう。
全身黒っぽい格好で顔の表情はほぼ変わらぬ強面のままであっても立ち居振る舞いが雄弁で、
ステラお付きへの唆しからの身を翻してカフェの奥へ入って行く立ち去り姿がカフェのほんわかした雰囲気を一気に切り裂くような変化をもたらす存在感でした。
そこから数分後にはおてもやんメイクな顔立ち、実験に失敗した感のある爆発白頭での人形師スパランザーニとして登場され、
オリンピア人形製作真っ只中。腕部分を差し込む工程からして目が何処かへ行ってしまいそうな狂おしい視線で取り組み、召し使い達の取り仕切りも楽しく忙しそう。
しかしただのヘンテコキャラクターにはならず、踊り出すと爪先から手先まで神経行き届いてコントロール力も抜群で
特に針のように先端がシュッと伸びた爪先を突き出しての音楽を隅々まで掴むようにして披露する美しいアレグロに驚嘆。
やがてホフマンが登場すると、愛情が過剰に出てしまって行く手をいちいち阻んではあれこれ口煩く指示するオカン状態となり
福岡ホフマンの初心な造形も見事だった点も合わさって2人が一時親子関係にも見えたほどです。
ホフマンがオリンピアの沼に嵌っていくところを見る度に見せるガッツポーズも、
遂にはオリンピアが人形と知って落胆するホフマンを見下ろしながら高笑いする顔も憎めず笑。
ハイライトと思えたのは2幕で、医者として歩いての登場から近寄り難いおっかないオーラを醸し出し、鞄を置く所作も恐ろしや。
そして何と言っても昨年2月に叶わずであった全幕において主役級の役同士として
小野さん渡邊さんが組む共演を「客席から」目にでき、うう感激。『コッペリア』と違ってカップルではなく敵同士な関係性ではあったものの
怯えるも我を通そうと藻掻くアントニアと、黒く冷たく呑まれそうな色気を宿す魔力で静かにされど強引にアントニアを封じ込め
やがて水晶玉を近づけながら迫って催眠術の罠に嵌めらせるドクターミラクルとの間に生じる、美と緊迫感が凝縮する危うい化学反応に凍傷しかけたほど。
替え玉アントニア(本物のアントニアは早替え中のため)と後方に立ち、アントニアの夢世界が始まるまでを待つ翳りある佇まいもまた危険な香りを残し
のちに待ち受ける悲劇を予感させる恐ろしさを匂わせたまま幻影の場へと繋げて行くお姿でした。
※ちなみに3年前の今日この発表があり、大勢の方から祝福をいただきました。
いつまでも引き摺るなと指摘を受けるかもしれませんがこのとき有観客上演していたら、と今でも思ってしまいます。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_019814.html
2幕の中でも舞台熱量が最高潮へと達したのは福岡ホフマンとの攻防戦。抗うホフマンを魔力で押さえ込んで
鋭く高く跳び上がりながら後方へ押し切ったかと思えばピアノに投げ飛ばして座らせ、
アントニアを踊り狂いの果てに死へ至らせるためにホフマンの肩掴んで力づくで演奏をさせる誘惑展開で、
勢いで落ちかけた楽譜を手で押さえながらホフマンに顔に一層寄せて執念深く極限まで追い詰める行為がそれはそれは悍ましや。
その横では恋人と医者が繰り広げる修羅場の事情も知らずに幸せを噛み締めながら激しく踊るアントニアの姿がありますから、幸福と争いが同時進行で展開。
音楽もいよいよ重厚さを帯びて恐怖の極致に到達し、ドクターミラクルが発光する
相手の身体をも貫通するようなダークな狂気に射抜かれて魂を根刮ぎ奪われそうな残酷さがございました。
この場面における福岡さんと渡邊さんの真っ向勝負、私の中では今回の『ホフマン物語』公演の中で、ハイライトの中でも最頂点の場面であったと捉えております。
3幕は幕開け、ダーパテュートとして下手側の寝台で仰向けに寝そべりながらのお寛ぎ姿に、(顔にマントの布をふわりとかけていたかも)
そして花籠頭に乗せた奇怪な少年ぽいお小姓を侍らせながら戯れる光景に仰天。このシーンの記憶は初演再演ともに残っておらずでした。
マリインスキーのシェヘラザードの金の奴隷をスキンヘッドにして半魚人化したような摩訶不思議な頭飾りや衣装であってもコスプレ大魔王にならず
露出した筋骨隆々とした肉体美の刺激の強さに骨抜きにされた私でございます。
妖艶でカラフルな衣装や万華鏡のような照明に溢れる魔窟の空間であっても身体の使い方や手を差し出す振り上げる仕草1つで
場を瞬時に取り仕切り、空気を潔く一変させる支配力にまたもや呑まれそうになりました。
ホフマンの信仰を捨てさせようと隣に座らせてホフマンのお膝をすりすり撫でている行動も恐ろしくもありながら
1幕のオカンなスパランザーニ、2幕の悍ましいドクター、と通して観るとそう容易には諦めがつかない、物流梱包用強力ガムテープを超える粘着質な性格と窺え納得。
柴山さんジュリエッタとはホフマンの身を滅ぼしそうな勢いでの共謀誘惑のパ・ド・ドゥもリフト多彩な振付を遠心力を繰り出してぎりぎりの淵まで大胆に魅せていて
ジュリエッタは長いスカート、ダーパテュートは魚風の頭飾りやマントで衣装の都合上リフトしづらい、動きづらい作りであっても
舟歌の盛り上がりと呼応しながら駆け抜け、腰の入れ方も深々としていて益々ホフマンから理性を失わせようと企む2人に心臓がぞわぞわと衝撃を受けた思いがいたします。
エピローグではプロローグの終わり頃に向かった店内の奥から戻ってすぐさま再びリンドルフ議員に。元のお席に腰掛けて気難しい表情でホフマンを眺めるも、
何食わぬ顔でラ・ステラを攫って最後の最後までホフマンから幸運を奪っては取り憑く悪魔な姿に、
また絶望して1人取り残されたホフマンに対して指差しで冷徹に追い詰め、地獄まで追っかけていきそうな闇に落とすほどの怨念に震え上がるしかございませんでした。
黒い衣装や黒手袋、シルクハットも絵になっていて、ドイツの歴史ホラー映画に登場しそうな自然味であったのも忘れられません。
このあとにも述べますが、前回の再演時に中家さんが踊られた舞台を観て踊りも芝居も見応えある役と印象が変わったわけですが
渡邊さんの場合更に凄みや内側から放つダークな色気に圧倒され、また悪役とは言っても品を損なわず
品格と悪のせめぎ合いをすれすれの箇所まで引き伸ばした状態で描写。
可愛らしいお茶目な要素で楽しませるときもあれば、怖いときは徹底して猛毒のような棘を眼光に宿し身に纏いながらの攻撃もあり、
踊りはそこまで無いながら場を持たせる難易度が高そうな2幕での鋭く冷徹な色気といい、全編通して振り幅の広さにも期待を遥か上をいく造形でした。
急速にキャンバスに色付けして仕上げるように1本の作品の中で全く異なる役への4変化を魂を丸々変えて生き、
幕ごとに様々な人物の橋渡しをする司令塔な存在に今回は一段と思えました。配役されて欲しいとはずっと願っていたものの正直ここまで魅せられるとは思わず。
絶えず人々に囲まれてる人気者なホフマンに嫉妬を募らせ、何十年にも渡って人生を賭けてあらゆる人物に変身しながら
ホフマンを脅かし続ける運命共同体な存在に身を焦がされるような多幸なる衝撃が止まらぬ、2024年の二・二三リンドルフ事件でした。
2018年の再演時に初役で登板され、俊敏に畳みかけるテクニックや様々な主役級女性と組むパートナーリングもスムーズで作品全体を掻っ攫っていた印象すら持たせ
リンドルフ(他)のイメージを一新された記憶が今も残る中家さんは、パワーの押し出しが強く、
また今回は強面な場面であっても仄かに愛嬌宿り、ホフマンの横取りが一段と楽しそうで、プロローグで腰掛けているときはじっと見据えて真剣に作戦を練っている様子。
召し使い達と踊るスパランザーニの踊りは豪快に刻んで素早く、太い線で急速に軌跡を描いてはふと茶目っ気たっぷりに召し使い達にあれこれ指示。
オリンピア人形に差し込む腕部分の扱いも滑らかで、そして案外几帳面なのか人々が大勢入ってくる間は横に
置いたオリンピア人形のスカートの裾を入念に整えていて細かい箇所まで目が離せず。
2幕では対抗してくるホフマンをガシッとねじ込み、ただピアノ椅子に座らせたホフマンに嫌々ピアノを弾かせる下りは立ち姿勢を保ちながら押さえ込む作戦で、
ホフマンの肩を掴む手先から伝っていく握力の強さでみるみるとホフマンは追い詰められていった印象です。
後にも述べますが、お小姓2人と怪しく戯れる冒頭から未成年禁制な世界まっしぐらであった3幕は
ジュリエッタと組むと先程のお小姓達とのおふざけな様相は消え去り、複雑なリフトも易々と披露して華麗にジュリエッタを見せ、
理性を失うまいと奮闘するホフマンを叩きつけるように誘惑。井澤ホフマン、奥村ホフマンともに
泣き出しそうになるのは無理もなく、可哀想な姿が更に助長された場面でした。
何度か申し上げているように私はこの作品、2015年のバレエ団初演時から好きで
当時は新国立劇場観劇歴史上最も初台に情熱を注いでいない時代であったにもかかわらず(失礼。元祖王子は西側に拠点を移され、新鋭王子は出現前)
つまり作品自体がすぐさま気に入ったのです。新国立での一新上演における作品印象底上げに貢献したのが2002年に鑑賞した、
既にレパートリー入りして旧ソ連公演でも上演していた牧阿佐美バレヱ団公演での鑑賞でしたが、
とにかく全体が暗鬱としていて記憶にあるのは舟歌の曲が流麗だったくらい。衣装はもっとゴテゴテしていたかと思いますが(記憶が彼方)
当初新国立バレエがレパートリー入りすると聞いたときはぞっとしまして、
2002年サッカー日韓W杯の年に観たあの暗いバレエの新国立での上演決定に口あんぐりしたものです。
しかしいざ初演舞台を観てみると印象一変、衣装はお洒落で明るい色使いな場面も増えて
幻影や魔窟も通して観ると全体が洗練された統一感で纏まったと安堵したのでした。
3幕の魔窟男性衣装はちょいと横に置くとして笑、前田文子さんデザインの衣装効果や照明、美術の影響は印象を大きく左右。
それでも、新国立初演時の不人気は否めず。周囲からも、バレエ名場面貼り合わせ作品やら、好意的な意見が聞こえづらかったのは事実です。
再演も客入りは非常に伸び悩んでいたかと思いますし、売れ行き伸び悩みを見越して回数も少なめの3回にとどめておいたのではと思うくらいです。
ただ今回大幅に印象を良い方向に変えた要素もあり、最大の1点はプロローグとエピローグにおけるホフマンの描き方。
これまでだいぶ老けメイク老け髪型(加えて初演時は浮浪者な雰囲気が汗)であったのがとてもナチュラルな風貌に変更。
思えば若い友人がいて、客達やメイドさん達からも人気者なモテ男ホフマンで常に誰かに囲まれているのですから清潔感は必須で
幕開けのカフェシーンからしてこれまでと全く異なる張りの良さでございました。青年期から年齢を綺麗に重ねた延長にあることがよく窺える造形です。
コール・ド・バレエや群衆の描き方も幕ごとに味付けがらりと変わって面白く、1幕若きホフマンとオリンピアの場面は
女性男性共に1人1人デザインが異なる明るく色鮮やかで瀟洒な衣装に身を包んでパレード或いはショーダンスな賑やかさで登場。
上から見ると斜め対角線上にシャキシャキ歩いていたかと思えば縦2列になって交差しながら隊列を変化させたり、
椅子にお行儀良く腰掛けて見物真っ只中のちゃっかりスパランザーニと挨拶交わす人もいたり笑
これといって創意工夫な振付ではなくてもワクワクと胸躍らせてくれる場面です。
新国立初演時この場面を初めて観たとき、暗鬱なだけの作風ではないとどれだけ胸を撫で下ろしたことか笑。
1人1人異なる衣装を眺めてはお気に入りの1点を見つける楽しさもございました。
2幕アントニアの夢の場面はトリプル・ビル等で抜粋にて上演して欲しいほどにコール・ドと照明美術の完成度が高し。
シックでクラシカル且つ男女ペアがしっとりと紡ぎ、ただ揃っているだけでなく
全員の優しい息遣いが徐々に射し込んでくる光と調和して、溜息がこぼれる幻想美な空間が出現。アントニアやホフマンを迎え入れる導きも息を呑む美しさです。
女性チュチュの膨らみにボリュームある丈や繊細な黒に流線形の模様で彩ったデザインも、
光に当たるたびに色彩が変わるように見え、よく練られた色味であると唸らせます。
今回気づいたのはコーダの途中、曲変化とともに照明が変わり、カタカナのコの字から鳥居型へ拡張する床照明の凝りようで、演出の細かさに再度驚かされました。
アントニアがバレリーナ姿になって現れる夢の場面への遷移がぶつ切りにならぬよう
ドクターミラクルによる呪いの催眠術でドクターとアントニアが一瞬袖へ引っ込むもすぐさま舞台にアントニアが現れ(実は別人が扮していて本物のアントニアは早替え中)
俯き或いは後ろ姿で立つのみならず、極力顔を上げないようにしつつドクターと踊りながら暫し場面の移り変わりを待つなかなかスリルある演出で
最初観たときは仕掛けが把握できず。いつ何処でアントニア着替えたのか理解するまで時間を要したほどで、
単なるアントニア着替えの時間稼ぎのための止むを得ない演出ではありません。それだけ夢の場面への移り変わりがスムーズなのです。
3幕は有名な舟歌で始まり、音楽も振付も小舟に乗ってゆったり揺らぐような情緒深さがあり、全体を覆うスモークも神秘的。
青や紫、オレンジ色もあったか、ステンドグラスや万華鏡を彷彿させる照明がひときわ綺麗で、そのまま迷い込みそうな不思議な色彩美でございました。
町中華風なランタンも吊るされていてダーパテュートは東洋趣味があるのだろうと脳内を巡らせつつ
照明やぼんやり眺める全体の光景にほろ酔いになったのも束の間、男性客人衣装にはこの度も度肝を抜かれ、勝手気ままに付けた名称をそのまま書き綴ると
当ブログはお若い層の読者様もいらっしゃいますため青少年の健全な人格形成に支障が出そうですので控えるものの笑
誰一人として恥じらい出している人がおらず、堂々とアピールしていましたからこちらもどんと構えて観るしかございません。
中家さんダーパテュートとお尻を突き出しての小姓2人の戯れ方にぎくりとするも、
令和のコンプライアンスが通じぬサロンと想像笑。決して不適切な描写ではないのでしょう。
まあ、令和のつい4、5日前だったか、どこかの議員さん達が踊り手達を宴に呼んで文字化も躊躇するサービスやら行為やらを多様性云々口実にして行っていた件とは違って
ダーパさんの魔窟はあくまで物語の世界での出来事でございます。
オペラのホフマン物語は一部分しか観ておらず勉強不足であるのはお許し願いたいところですが
歌無しであってもキャラクター達の声が明瞭に聴こえてきそうな編曲で、オリンピア登場のワルツでの星屑が舞い落ちるように節々でキラリと輝く軽やかな旋律もあれば
3幕では快楽まっしぐらにホフマンの理性をかき乱す熱量充満な曲もあり、
2幕でのホフマンがアントニアとの時間を互いに愛おしみながら歌うように展開する曲調も毎度聴き惚れておりました。
ピアノの音色が前半は幸せに満たされた潤いの粒が流れ落ちるように聴こえるも、
幻影の後はドクターミラクルが踏み切った暴挙からのホフマンへの追い詰め、アントニアの死の押し迫りに恐怖を思わすものへと変わり
アントニアの静かな最期が重たく引き摺られたまま3幕へと繋がっていた気がいたします。
ホフマンにとっては、アントニアと交わす愛情の象徴でもあったピアノが結果彼女を死へ至らせる残酷な楽器となってしまったのは悲運としか言いようがありません。
どうも劇場の広報不足なのかSNS等も発信はしていたものの、作品の取っ付きにくいイメージを払拭する勢いは感じられず。
1点1点見つめたくなるお洒落な衣装や『白鳥の湖』ロットバルトとは大違いの、見た目も魂も丸ごと4変化しながらホフマンを追い詰めるリンドルフの存在、
幻影の場面とはいっても女性のみの『ラ・バヤデール』や『眠れる森の美女』と異なって女性男女ペアで紡ぎ、装置照明との溶け合いに息を呑む幻影コール・ド・バレエ等
過去の映像や写真と説明付きで詳細に告知する等もう少しアピールできることはあったろうにと思います。
千秋楽は恐らくはこれまでのホフマン史上最も客入りが良かった印象で、残席の少なさに一安心いたしましたが
次回の再演時は公演回数も増やせるよう(くるみがドル箱であるのは分かるが)、望みが繋がりますことを切に願います。
キャスト表。お名前あります!!!
マエストロにて。今回のメニューはホフマンとリンドルフのサイン入り。この2役、運命共同体だからでしょう。
ベルリン風田舎オムレツホッペルホッペル。
鰯と新玉ねぎのアーリオオーリオ。しっかり渋めの赤ワインが進みます。リンドルフさんはカフェで何杯お飲みになっていたのでしょうか。
バイエリッシュクレーム フルーツ添え。1幕のイメージでしょうか、可愛らしいパフェです。
2幕、幻想的な光景写真。とても好きです。
夜公演前のマエストロ。前菜の盛り合わせ、いつも明るい色合いです。
ペンネ。唐辛子が効いています。しかしこのあとはこの唐辛子以上に猛烈な刺激で襲いかかる悪魔にお目にかかるのでございます。
赤ワインも味わいました。
いつまでも胸に刻まれる舞台にダンケー!!バレエ版ホフマン物語の評価が前回より上がっていて(気のせいではないはず)、
新国バレエ初演時から作品好きな者としては喜ばしい限り。
そしてオアシスへ。また赤ワイン。
友人が選んでくれたケイジャン枝豆がスパイス効いていて益々ワインが進んでしまった。友人は何かのソフトドリンク。
今年は昨年とは大違いで、このお店で笑みが咲き誇る2月になって宜しうございました。
この作品中で最も観たいと思っていた役に配されて、出演もされて、
従来の役のイメージ打ち破る衝撃を心の奥底まで走らせてくださって。
2024年は私の2月、無事且つ幸せに終わりました。
ちなみに2月24日からちょうど1ケ月後は今度は異なる悪魔さんの魔術にかかる予定でおります。(もう来週やないか)
2ヶ月連続、悪魔な月になりそうです。
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