2023年5月18日木曜日

夢だけど夢じゃなかった 新国立劇場バレエ団シェイクスピア・ダブルビル『マクベス』『夏の夜の夢』4月29日(土祝)〜5月6日(土)





4月29日(土祝)〜5月6日(土)、新国立劇場バレエ団シェイクスピア・ダブルビル『マクベス』『夏の夜の夢』を計7回観て参りました。
今度は『夏の夜の夢』編です。(速報とかぶっている箇所もございます)
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/shakespeare-double-bill/



霧から現れたオーベロン。凛とした美しい妖精王です。








【振付】フレデリック・アシュトン
【音楽】フェリックス・メンデルスゾーン
【編曲】ジョン・ランチベリー
【美術・衣裳】デヴィッド・ウォーカー
【照明】ジョン・B・リード

【ティターニア】柴山紗帆(29, 2, 4, 6)、池田理沙子(30, 3, 5)
【オーベロン】渡邊峻郁(29, 2, 4, 6)、速水渉悟(30, 3, 5)
【パック】山田悠貴(29, 2, 4, 6)、石山 蓮(30, 3)、佐野和輝(5)
【ボトム】木下嘉人(29, 2, 4, 6)、福田圭吾(30, 3, 5)

豆の花の精:広瀬碧
蜘蛛の巣の精:朝枝尚子
芥子の種の精:直塚美穂
蛾の精:赤井綾乃 (29, 2, 4, 6)   廣川みくり(30, 3, 5)


柴山さんのティターニアは子供を連れて奥の階段からの登場から堂々たる女王な姿。やがてオーベロンと向かい合っての対峙でも
女王としてのプライドを滲ませて君臨し、こりゃ夫婦喧嘩でも負けそうにない気の強そう且つ高貴な立ち姿でした。
実は昨年12月のキャスト発表時、柴山さんのティターニアがどうも想像がつかず、
妖精達に埋もれてしまう心配や金髪の鬘不似合いの不安も持っていたものの大変失礼な予想を大反省。
前半のSongsにおいて、妖精達に囲まれても埋もれぬどころか率いる背筋や内側から放つ誇り高さの頼もしいこと。
ティターニアよりも4人のソリスト妖精達のほうが装飾や色も華やぐデザインであるにも関わらずです。
持ち前の美しい技術が一層磨かれた上に色気もたっぷりで、パキパキと角度の転換も素早いステップ後にソフトな香りが残り
ぎゅうぎゅう詰めな感じが全くせず身体で自然に、色めき立ちながら語っているように見えた点も驚きでした。そして金髪鬘も違和感なし。
ロバになったボトムとの掛け合いの弾ける喜びや互いに脚を差し出しながらの駆け引きも脚から色気たっぷりで
いよいよ恋心が頂点に達したときのロバ耳を胸にぎゅっと当てる仕草が何ともエロティック。しかし品もあり、女王様の気まぐれな性分も憎めずです。

渡邊さんのオーベロンは威厳を備え、深い森の木々に囲まれても王として君臨する存在感の大きなこと。
月夜を背景に客席に背を向けて両腕を掲げ広げていくさまのスケールに圧倒され、気高い凛然とした妖精王のお出ましでございます。
広大な森の主であるのは明らかで空気が瞬時に変わり、神秘的な光を舞台に、会場に照らしてくださいました。
ティターニアとの夫婦喧嘩では妖精達にも味方してもらえずに不機嫌になってしまう我儘な部分も、
都合よくパックを呼び出して妻への仕返し計画を発案するずる賢さも憎めぬチャーミングな王で
ティターニアがSongsを踊る様子を木陰からひっそり覗き見しつつ用意した花を持っていよいよ仕返し計画開始と言わんばかりにシメシメと企む表情といい
よからぬことを考える張り込み刑事或いは探偵に見え、妖精王な面の裏に潜むダメ夫の典型な一面と分かってはいても可笑しく笑いが込み上げて止まらずでした。
木陰からの覗き見は至るところに設定され、「オーベロンはミタ」なる佇まいを毎度楽しませてくださった夢のひとときでございます。

後半の見せ場スケルツォは王らしいパワーと妖精らしいふわふわ感兼備な妙技で魅了。2回目以降は更に規模が大きくなって
上階席から見るとコンパスの尺度が長くなるも強靭な軸を維持し、ギリギリまで拡張しつつ品位崩さぬ踊りで気高く舞台を支配なさっていた印象です。
そういえばスケルツォの中にて、ふわふわと木々を飛び交う妖精であるはずが重心を下にしながら深いプリエを繰り返す移動の振付があり
アシュトンの意図が知りたい箇所の1つ。映像を観てもダンサーによってプリエの深さも
さらりと或いはじっくりと行うか否かもまちまちでどれが正解かは分かりかねますが、
渡邊さんは深いプリエでじっくりポーズを取りつつ音に遅れずすぐさまふわりと立ち上がる踊り方を繰り返しなさっていて
上下の浮遊が一段とダイナミックに見え、ふわふわ感だけでないオーベロンの持つ自然現象をも操り突き動かす力強い面も覗けました。
私が直前に兵庫県赤穂市を訪れていた影響か、『ザ・カブキ』の由良之助にも見えたのは気のせいか笑。(鉢巻に和装、間違いなく似合うでしょう)

オーベロンのアプローチも日によって変わっていた点も一層惹きつけ、茶目っ気やいたずらな笑みでパックの呼び出しや絡みを展開させていた初日に比較し
2回目はお茶目度を薄めてどしっと構えて一段と神聖崇高な王となり、 背中の使い方も格段に大きく、後ろ姿の佇まいも支配者で
怒ると閻魔大王の如くおっかない。パックへのお仕置き蹴り上げや(体当たりや生々しい痛々しいものではないので念のため)
人差し指を立てて対角線上に進み出てパックに迫りながらの怒りっぷりはそのまま天候を変え雷を引き起こしそうな凄みで
火のついた矢を目から飛ばしていました。パックからしたら鬼上司以外何者でもないでしょう汗。それでも慕い続けているのは、
ダメ夫でもあり笑、都合の良い面や憎らしい面はあっても、そういう欠点も含めても、森を束ねる王としての魅力が上回るのでしょう。
騒動解決のため霧を起こした後の超絶技巧はパックのほうが賑やかな躍動があるかもしれませんが
霧起こしにおける、霧もびびって発生せざるを得ないほどの森全体が揺らぐような全身を低い位置から引き起こしながらの重厚感のあるマイムと言い
森を支配し締めているのはオーベロンであると一層納得できたひと幕です。

それから柴山さんの大化けと同様に驚かされたのは柴山さん渡邊さんペアの相性、パートナーシップ。
元々このお2人の並びは折り目正しい品があって好きな一方、初回2016年の『シンデレラ』や2021年『ライモンダ』、2022年『テーマとヴァリエーション』と
全幕や大作クラシックでの主演で組むと、何処かしら手に汗を握る場が面が出てきてしまっていたのです。
初回『シンデレラ』では柴山さんが終始大緊張してしまって渡邊さんがひたすら励まし祭りを行い(約6年半が経った今も忘れられず懐かしい)
『ライモンダ』は夢の場、『テーマとヴァリエーション』ではアダージオ部分で揃ってぎこちない様子となってしまい
淑やかな姫と凛然たる騎士、クラシカルな白が絵になる格式高さ、と両作品での並んだ立ち姿が
貴く品性ある眩さであっただけにリベンジの機会を待っているところでございます。
ですからキャスト発表時、嬉しい一方で夫婦喧嘩や騒動を経ての和解まで、2人の息の合い方がどう映るかだいぶ心配があったのは事実です。
ところがどっこい、最初の意地っ張りな夫婦喧嘩からは王族ではあっても現代社会で言うならば電気やガスの消し漏れを巡って言い争う夫婦にも当てはまりそうな
些細な事から鬱憤が蓄積した夫婦そのもので、思わず近所にこういう夫婦いそうと笑ってしまいそうな自然な2人にびっくり。
また踊りながらの喧嘩であり、2人が車のワイパーのように急斜に身体を交互に傾けたり、
背中合わせで回転しながらの子供の取り合いも4階席の隅から観ても迫力ある構図でお互いが一歩も引かない強気対決でした。誰も仲裁に入れないでしょう。
最後、和解するパ・ド・ドゥでは慈しみ合い互いに吸い付くような色気を出し今迄で一番息合う2人に大驚愕で
2人で音楽と溶け合い周りの妖精たちとの調和がまさに夢世界。魔法が解けて我に返りロバに恋した自身を恥じるティターニアに対して
優しく頷き受け止めるオーベロンの確固たる関係にときめきがまたもや急上昇。(仕掛けは夫の責任だがもう良いか笑)
オーベロンの力強くも優しい包容力でティターニアの身も心も解し、 するとティターニアは少し恥ずかしがりながらでも幸せそうに艶かしさまでもを漂わせ
突如入る繰り返される速いリフトでは無邪気な愛らしさも体現。
夫婦喧嘩や意見の食い違いはあれど、オーベロンはちょこっと意地悪な面もあれど笑
ティターニアは愛おしく守りたい妻であると伝わって2人して色気とほのかな官能美もあり、清らかに流れるような美しさで満たされました。

諸外国にはよりゴージャスで華々しいティターニアとオーベロンのペアはいるかもしれません。
されど柴山さん渡邊さんともに2人ともまずは王族らしい品格があり、そこから香り立つ色気があるのも共通。
だからこそ、騒動や喧嘩がめまぐるしく発生する森の中であっても格調高い世界の描画に成功し、
神秘的な絵で綴られた本を捲っていく心持ちにさせてくださったのでしょう。
取り合い喧嘩も、和解のパ・ド・ドゥも、姫と王子ではなく森を司る女王と王の風格十二分な気高い妖精夫婦でした。

渡邊さんについては2月の件もあり、当日キャスト表が出るまではヒヤヒヤで
客席に着いてふと舞台が目に留まると山本隆之さんとの並びを観たかったとは思い出してしまいましたが
180㎝の身体で王様な威厳に加えて俊敏なふわふわ妖精感もあり、妻に見放される間抜けな部分もあり、
オーベロンはミタなる木陰からの覗き見場面もさまになっていて妖精王の多面性を観察できた気分。そして初めてポスターメインモデルにもなりました涙。
渡邊オーベロンを4回観てこんな楽しい作品だったかと幸福に浸った春の大型連休2023でございます。

※まだ2人分しか綴っておらず、鈍行列車状態になってしまいました。新幹線とまではいかずとも、京王ライナーの速度を目指して以下急ぎます。

池田さんはティターニアにしては女王らしさが今一つ不足している印象が残ってしまい森の姫に見えてしまいましたが、きっと即位して間も無い女王と捉えております。
ただロバボトムとのじゃれ合いや奔放な魅力がいたく可愛らしく、ロバがトロトロとしてしまうのも納得。
Songsは初回は小さくまとまってしまった感もありましたが日毎に滑らかさや振り幅も効いていた印象です。
速水さんは初回は王族の長には見えず、こじんまりしてしまった感がありましたが3回目は身体の動きがより躍動してようやく王様に見えた次第。
月夜の晩に現れるところでの両腕の開き方も肩からしっかりと出していたと見て取れます。
またスケルツォにおける回転からの余裕ある止まり方、さらりと伸びるアラベスクも綺麗なポーズで決めていました。
パックに対しては怒り具合もそこまで怖くはなく、話はし易いであろうと森の日常生活を想像させます。
佇まいでの語りかけや森を支配する王族らしさは、きっと経験重ねていくうちに出てくることでしょう。
セカンド主役2人にはちょいと辛口になってしまいましたが、恐らく初日キャストの完成度の高さにたまげてしまった私が
勝手にハードルを高くしてしまい、鑑賞眼が鈍ってしまったのも一因です。

途中でキャスト追加になったパックは三者三様。山田さんは足腰が強靭でしかも背もかなりあるので
どの部分もガシッと力漲る残像を描いていた印象。怒ると閻魔大王並みにおっかないご主人様にも懲りない自信満々な愛嬌も印象に残っております。
ただ渡邊さんオーベロンと山田さんパックを観ていると、主と家来な関係と戦友同士な関係両面をはっきりと描いていて
先述の通りオーベロンの怒りはとことんおっかないが笑、いざ霧呼び起こしでは
オーベロンの呼びかけにリードされ、パックも懸命についていく強固な一体化でパワーは倍に。
時間軸戻って最初にパックを呼び出したときは2人してティターニア懲らしめにウハウハと浮かれている様子も見せ、
時と場合によって変化する関係性を存分に堪能できました。不変であるのはお互いの信頼感でしょう。
オペラパレス本公演では初の大役抜擢であろう石山さんは物怖じしないどころか輪郭くっきりとした踊りでみるみる楽しい方向へ導き物語描画。
石山さんの回は両日上階後方席で鑑賞していながら双眼鏡要らずな存在感で、音楽の盛り上がりの更に上を浮遊するように戯れ、
恋人達への仕掛けや客席への問いかけ、反応の受け取りも堂々なもの。踊るたびに太字の吹き出しが表れたように思えるほど、交通整理しつつも
騒動を大きくしてしまったり、失敗して落ち込んでしまったりと情景描写や牽引力も見事でした。
少々粗削りな部分はあれど、気にならないほどに楽しませてくださったパックです。
途中から追加キャストとして登場した佐野さんは最もワイルドな趣きで、着地でひやっとする場面は時折あれど
嬉々とした感情がそのままテクニックに乗っかって爆発する弾けっぷりが気持ち良く映りました。
スケルツォでの鋭い切り込みジャンプや竜巻な連続回転移動、恐れを知らぬ度胸の据わりっぷりも再度びっくりです。

ボトム2人も全く異なる造形で楽しませてくださり、木下さんは飄々と軽やか。ポワントで踊る冒頭、良い意味で履き慣れた女性ダンサーのエシャッペ?にしか見えず
ロバが愉快にギャロップしている様子が伝わってきました。ティターニアに対してはだいぶエロティックな迫りでお耳を胸元にスリスリ。
顔の傾げ方からして可愛らしく、されど危険な匂いもするロバさんでした。背中を樹木に摩らせる仕草も愛くるしい。
人間の姿に戻るもロバ時代の長い耳や樹木スリスリを振り返りながらまだロバが抜けきれないとぼけぶりも笑いを誘いました。
福田さんはエネルギッシュなボトムで、床からぐっと押し上げられるように爪先立ちして駆ける様子からそう見て取れたのかもしれません。
ティターニアを突如背中に乗せて走り出す箇所では掛け声が聞こえてきそうな力のこもった走り方でティターニアもさぞ満足であったことでしょう。
ちょこっとアダルトな柴山さんティターニアと木下さんボトム、パワー一杯な池田さんティターニアと福田さんボトム、組み合わせの相性も好ましかったと思えます。
それにしても、元はと言えばオーベロンの身勝手な仕業によってティターニアと愛を育んでしまい
魔法が解けフィナーレで再び1人で闊達に踊り出すといっときであれ妻と熱々な関係を結んでいたことにオーベロンから嫉妬され
つんと澄まされぶっきらぼうな表情でしか見つめてもらえないボトム、哀れです涙。
この後は元通り、個性豊か過ぎる職人仲間達と質素ながら睦まじい生活を送っていくことでしょう。
ちなみに私は西川慶さん扮する職人お爺さんが遠方席からは妖怪学者等肩書き多しの荒俣宏さんに見えたときもあり。
ロバに変身した職人仲間に仰天したときも愛用のメガネにくいっと触れながら案山子歩きで去っていく様子は毎度笑いの沼でした。
菊岡さんの出っ歯や西さんの旅人のような格好も忘れ難いお姿で、全員が恥を捨て切っていたであろう力演であったと思います。

騒動を彩る2組の恋人達両キャスト見応えがあり、下手すれば誰が誰に恋しているのか、どう誤解が生じているのか混乱しがちな状況も
騒動の展開が掴み易く、全員が達者であったからこそでしょう。加えて瀟洒な衣装や鬘もさまになっていて好印象でした。
度々起こる争いも踊りながらしかも大移動しながらの歯切れ良いテンポでの振付も豊富でつまりは芝居センスもテクニックも、
よく動く身体も揃っていなければ大崩れと化してしまう可能性もあり。それらの難所を両キャスト全員がクリアしていたと見受けております。
連日響き渡っていた子供の観客からの笑い声も、舞台進行の面白さの証でしょう。
中でも渡邊拓朗さんディミートリアス、中島さんライサンダーが寺田さんヘレナを巡って交互にリフトしては益々大騒ぎになっていく箇所の
スパスパっと整理されつつも顔の傾けや拒絶の僅かな間に至るまでピタリと音楽にも自然な騒がしさにも嵌っていた様子や
寺田さんと渡辺さんハーミアが爪先立ちでアチチュードを繰り返しながら対角線上を大胆に移動しビンタ大会を繰り広げるところも
2人の脚力や身のこなしの俊敏さに驚かされ、争っているはずが最後は足並み揃え
スタコラサッサと両腕をぶんぶん振りながら走り去っていく箇所も毎度ツボでございました。
ソロの役では恐らく初見の小川さんライサンダー登場時のいかにも良家の子息らしい優雅な振る舞い方や
ちょびっと勝気そうな中島さんハーミアとの駆け引きも甘酸っぱい香りが立つフレッシュな魅力が詰まり
舞台の上手側脇と下手側脇にてお互いに眠る寸前まで、糸で引っ張り合うような目線の通わせも宜しうございました。

それはそうと、日によっては峻郁さんオーベロンが、眠る拓朗さんディミートリアスに魔法をかけてあげたりと
舞台上にたった2人きりになる場面もあり。長身のお2人ですが何だかとても微笑ましい時間に思えた次第です。

アシュトン版を生では12年ぶりとなる久々の鑑賞で、音楽と振付の噛み合わせの妙にもこのたび驚嘆。音楽の末端までもがキャラクター達の踊りの機微に生かされ
オーベロン初演者アンソニー・ダウエルさんへのインタビュー記事で読んだ、アシュトンが音楽をよく理解して振付作業を進めていたかが窺えます。
一段と唸らせたのはスケルツォの部分で、当初はオーベロンとパックのみの踊りリレーな構成かと思いきや、4人の妖精達も絡む展開で息を呑む構成。
すると更に驚きに拍車をかけ、スケルツォの最中に2箇所あったか、低音でじわっとエコーのような響きを聴かせる箇所にて
穴の中でティターニアと過ごしているはずのロバボトムが穴のカーテンから顔を出して歌い叫ぶようにアピール。
踊っているオーベロン、パック、妖精達の6人のみならず穴の中のロバボトムまで心を配って参加させ、暫し歌声お披露目
そしてお次に繋げてオーベロンが颯爽と登場。音楽との呼応がいよいよ森全体に染み渡っていくような感覚を与え、ゾクゾクと息つく暇もない展開構成でした。
干支一回りして記憶が妖精の如く飛び去っていた点でもう1つ、『シンデレラ』と同様に4人の名前付き妖精がアシュトン版においても存在すると今回初めて知り
ピンク色の花びらで覆われたような豆の花、紫がかったチュチュに蜘蛛の巣の形が銀色で描かれ、頭にも蜘蛛の巣の形状な冠が乗っかる蜘蛛の巣の精、
小さな種がいっぱいに散りばめられた黄色い芥子の種の精、頭に触覚チュチュには羽根が付けられた蛾の精、と
美術と同様に衣装も1着1着が繊細且つ深みや奥行きのある色彩美で、思わず凝視。
ティターニアへのお仕えカトルなのか、子供を眠らせにいく係は芥子の種の精で(子供、劇中の大半寝ている!しかも苔に覆われたと見える森の枕あり)
ロバボトムにすっかり恋い焦がれたティターニアがまず呼び寄せ花冠をロバボトムに被せてあげるお役目もこの4人で、
妖精のテーマ曲にのせてまず出てきた蜘蛛の巣の精による、片手の手のひらを口に当てて驚きの「まっ」の振りも毎度笑いが客席から起こる場の1つでした。

メンデルスゾーンの月明かりや星々に包まれるような優美で煌めく音楽は聴けば聴くほど胸がキュッと吸い上げられる気持ちにならずにいられず。
冒頭、飛び交う妖精達の幻想美から、オーベロンが顔を覗かせる伸びのある音色、交際順調なときも仲違いしてしまったときも恋人達の会話がそのまま音楽としてやり取りが雄弁で
最後仲直りするティターニアとオーベロンを包み込む叙情性豊かな曲調も、何処を切り取っても耳を澄ませて聴き入ってしまいます。
そして東京少年少女合唱団の歌声が不浄物全て洗い流すような清らかさを与え、よく見ると皆マスクをした状態での合唱で決して歌いやすくはなかったはず。
それでも歌声が優しく響き、包まれると温もりがふわっと広がっていったのは明らかで物語全体がより幻想的な光やあたたかさを帯びていった気がいたします。

アシュトン版夏の夜の夢はバーミンガムロイヤルの来日では全編を、抜粋では何度か観ている作品ですがこうにも楽しめる作品であるとは鮮烈な驚きで
心がたっぷりと満たされました。既に日本の他の団も取り入れており目新しさはさほどないかと思いきや、振付、音楽、衣装、どの要素も隙なく溶け合った作品と再確認。
何より先にも述べましたが、渡邊さんオーベロンを4回鑑賞でき、加えて柴山さんティターニアや他のキャスト全てが美しく楽しく噛み合った
ファーストキャスト陣による森の世界を描画した絵本は静かに閉じ、宝箱に入れて施錠し、
いつまでも大切に心にしまっておきたい今も思い出しては胸が夢見心地にときめく舞台でした。
時節柄旬だからではないが、5月の名を冠する日本を代表する姉妹の言葉を拝借。夢だけど夢じゃなかった!であった『夏の夜の夢』鑑賞2023でございました。



※2016年12月、柴山さん渡邊さんが主演にて初めて組まれたときのアシュトン版『シンデレラ』。
とても初々しい柴山さんと、当時は入団からまだ半年未満ながらリハーサルでもインタビューでも頼もしいリード力のある渡邊さんによる、微笑ましい練習風景記事です。
この頃の約2年間4階末端席の常連で毎公演通ってはいなかった管理人、(一時新国から離れがちな時期が2年ほどあったのです)
偶々この記事を目にして、こんな素敵な男性ダンサー今の新国にいただろうかと
シンデレラとのポーズやら、マントが似合うぞこの人!!、あのラーメン屋さんでの入団自己紹介記事を書いていた純朴な青年と同一人物か??と
目が暫し心臓印になりかけた、最初のきっかけの記事でもございました。
実際の本番舞台は柴山さんが大緊張してしまい、渡邊さんがひたすら励まし祭りを行った2016年のクリスマスイブだったわけですが、
終演後の握手会を初めて見物し、観終わってから何だか気になって更に経歴調べて移籍前の映像や仏語記事も探し続けては目を通して、現在に至ります汗。
https://okepi.net/kangeki/1018




※5月2日(火)にはクラスレッスン見学会があり行って参りました。オペラパレスでの開催は2019年の『ラ・バヤデール』以来かと思います。
2020年11月の『眠れる森の美女』札幌公演では予約有料指定席制で開催され、2階での着席見学でした。時間限定で札幌青い鳥の会の会員と化した管理人でございます。
今回は予約不要で開場の随分前から長蛇の列。モナリザの絵やパンダのランランとカンカンの来日、ウィンドウズ95の発売日を思い出しました。
(せめて新作のiPhone発売と言わんかいとのご指摘は流します)
プリンシパル、ファーストソリスト以外はほぼ全員参加と思われ、1階席の通路から後方席にて見学。入り切れなかった方は2階席へ入り着席されたようです。
指導はミストレスの遠藤睦子さん。ピアノの蛭崎あゆみさんです。バーからセンターまで一通り目一杯行われ、本番直前であっても運動量の多さに驚かされます。
ぱっと目を惹いたのは樋口響さんでより大きく踊ろうと意識なさっているのでしょう。バーのときから伸びやかさに注目しておりました。
あっ樋口さん、多分スラムダンクTシャツ(宮城リョータが描かれ、恐らく今も公開中の新作かと思われる)をお召しになっていた点も1つ挙げておきますが、
我が家族が皆この作品が好きで、新作の映画も鑑賞済み。時期によって来場者が貰えるグッズが異なるらしく
安西先生(湘北高校バスケットボール部の監督)のシールもらってきて欲しいからと鑑賞を勧められましたが行かず終い。家族よ、すまぬ。
ただ作品自体は痛快で面白みがあると思っており、私がこれまでの人生で全巻読んだ漫画のたった2作品のうちの1本です。
1994年に公開された津久武高校戦を描いた映画は劇場で鑑賞しておりますが
ボリショイのマクベス映像を見た年より現代寄りのはずが内容はよく覚えておらず
スピードが武器なチームとの対戦であったことぐらいしか思い出せず失礼。ちなみに妹は湘北の三井寿が好きだそうです。
私からすると、ぐれていた頃の髪型がフランツ・リストに似ている印象もございます。話が逸れました。

つい観察してしまうのは女性ダンサーのウェアで、いかんせん管理人、年数回の趣味の大人バレエレッスンながら着用物が極端に少ないと周囲に言われたことが度々あり
ただでさえ重たい我が重量をこれ以上増やしたくないため極力物は身に付けずにいる切実な事情があるとは言え
プロでもリハーサルはともかくレッスン特にバーではもう少しTシャツなりレッグウォーマーなり着用しているはずとの話を聞いておりました。
そんなわけで、自身と似た格好をなさっている方がいらっしゃるか暫し観察。そしてセンターレッスン時に発見、岸谷沙七優さんでした。
バーのときの格好は未確認ですがセンターでは短い半袖レオタードにピンクタイツ、タイトなショートパンツをお召しになりいたくシンプル。
何だか嬉しい気分であるのも束の間、岸谷さんは研修所出身で2020年入団の若手。
素人である我がぼってりな自身を考えたら、この日も昭和な趣の写真が話題になったときすぐさま青春ドラマと言えば『青い山脈』と口走った世代の私が
似た格好をしているのは如何なものかと疑問が過る大型連休合間の平日でございました。




クラスレッスン見学後、初台駅のオアシスで落ち合った3人。
大阪からいらしたKバレエスタジオ関係者の方と当ブログレギュラーの後輩が初対面でございました。
2月にも劇場でお目にかかって会話を交わし、例の件については急遽同郷同門コンビ復活を最も喜んでおかしくない立場でいらっしゃるKスタのその方は
私を見つけるなりずっと慰め励ましてくださったお優しいお人柄な大阪人です。この後ご覧になる渡邊さんオーベロンも楽しみにしてくださっていました。
ブログを通して後輩のことは把握してくださっていてすぐ打ち解け、2人とも仕事と週に2回なり3回なりレッスンを両立させている共通項もあり
『パキータ』のアンサンブルや音楽の胸躍る感覚など話が弾んでいる様子に管理人嬉しうございました。



キウイ入り飲むチーズケーキ。色彩感が夏の夜の夢。今宵は春の夜の夢!



ワイルドなモヒート。ミントの葉が豪快に入って野性味のある香り。ライムの果汁が爽やかさを加えています。森の茂みやオーベロンの衣装を彷彿させます。
さてファーストオーベロンが調合したと思っていただきます。あくまで想像ですが、もし調合に勤しむときには実に真剣な顔つきで行っていそうです笑。



月が出た、本物の月夜。袋入りのままで失礼。夢に現れ、続きが何度でも観たいオーベロンです。



劇場1階のショップにて、ポストカード写真も登場。大判と葉書サイズがあり勿論購入。
『白鳥の湖』はアラベスク写真、『ライモンダ』はジャンの大ジャンプです。
(ダイの大冒険か笑。ちなみに私はこのゲームもアニメの視聴経験もございません。
自宅にゲーム機があったこともなく、しかしなぜか題名及びアニメ版の主題歌の勇者よ急げ!!は頭に入っております)
大判は眠りアポテオーズ場面でございます。



劇場レストランマエストロ、後半日にも訪れ違うコースを注文。前菜3種の盛り合わせ。



大山鶏のソテー山葵のバニェット。表面がカリカリな焼き上がりでナイフもスッと入り、山葵のバニェットのピリッとした味と相性良く、ワインが進みます。



デザートはファーブルトン。フランスのブルターニュ地方で親しまれてきた郷土菓子らしい。ファーブル昆虫記しか想像できずにいた私をお許しください。
ほっくりとした食感で、アイスとクリームも溶かしながらいただきました。



ダンスマガジン2005年6月号に、東京バレエ団のアシュトン版『夏の夜の夢』 初演における指導者の1人で世界初演時のオーベロンである
アンソニー・ダウエルへのインタビュー掲載を思い出し熟読。アシュトンはダウエルの踊り方を見つつ行う共同作業のような振付であったことや、
趣味で絵を描いていたダウエルの一面にも理解を示し衣装画を描いてみるよう勧められたことなど、情景が浮かび上がるような詳しさで綴られています。



千秋楽、再びモヒート!



この日の夜、英国では戴冠式。英国王室、穏やかな幕開けとなりますように。

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