2021年4月4日日曜日

コンテンポラリー界の重鎮とDTFの結合 舞姫と牧神たちの午後2021 3月26日(金)〜3月28日(日)




3月26日(金)〜3月28日(日)、新国立劇場小劇場にて舞姫と牧神たちの午後2021を4回鑑賞して参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/fauns-and-nymphs/

舞台写真も一部掲載されています。フェイスブック等SNSにこの他何枚かの写真もございます。
https://www.facebook.com/150537605092987/posts/2406232659523459/?d=n


※所謂コンテンポラリーダンス大集結な公演に殆んど足を運んでいない且つ教養に乏しい者が書いており、
作品によって長短まちまちな上に随所に頓珍漢感想があるかと思いますが悪しからず。


Danae
【出演】木村優里&渡邊峻郁
【振付】貝川鐵夫
【音楽】ヨハン・セバスティアン・バッハ

2019年のDTF初演時より更に官能性が濃く身体の交わる場の滑らかさや情感の深みが電流走る感覚を呼び起こし、舞台近くの席での鑑賞時は序盤から卒倒寸前。
音楽が舞台用に演奏録音された点も喜ばしく、全体の展開がスムーズになり、ダナエとゼウスの情事に恍惚と魅せられ沼に浸かった4回でございました。

木村さんが色気を醸す女性が似合うダンサーとなり、身体の使い方も奥底へ潜るようにより雄弁となってゼウスに愛されてしまったが惑いつつも
幽閉された孤独感から救ってくれるかもしれぬ淡い期待をもそっと募らせ、やがて身を委ねていく流れを艶かしく体現。同性でも胸の高鳴りが止まらずでした。

渡邊さんは音楽無しの空間を歩いての登場から神ではあっても魔物のようなおどろおどろしさを纏い、静けさの中から危うさを放出。
引田天功のイリュージョン(でも出来ないか)ではありませんからどうしたってご自身が本物の黄金の雨滴と化して舞台に出現は不可能ながら
冒頭の片手を翳して掌から黄金の雨を降らせていく仕草が、禁じ手と分かっていながら欲に背けぬゼウスの覚悟を彷彿させました。
ダナエに絡んでいくさまがいたく生々しく、理性の螺子がすっかり外れダナエにのめり込んでいきながらも
単に柔軟云々ではなく身体の表現の可動域が実に広く、ほんの一瞬に生じる間の取り方や音楽との溶け合いながらダナエと一体化していくよう
いかにして美の結晶にして観客の目に刻むか熟考されているのでしょう。見せ方にも長けていて、単調な激しい抱擁に止まらぬ
美しい官能画を描写していたと捉えております。空間や音楽とのバランスの掴み方も目を奪われました。
前回は作品を観るだけで手一杯だったが(4回公演全て観たはずが)最後、ダナエのスカートを脱がせて鷲掴みにして胸に抱いたまま床で蹲っているのは
身篭らせた後悔の念も何処かに残ってるのか、他者を寄せ付けぬ威厳ある登場から最後は悶絶哀れな状態に一変。ゼウスの心理に迫りたくなるも胸を突く幕切れです。

それにしても、黒タイツのみで上半身裸体なる至極シンプルな衣装でも1ミリも余分な脂肪が無い且つ肩や腕が逞しく肉体美に口あんぐり笑。
ミケランジェロが生きていたら肉体は勿論、斬られそうに鋭く狂おしい視線にも惚れ込み
間違いなくすぐさま彫刻刀を手にして作品のモデルにしたい欲求に駆られたでしょう。

さてダンス公演でもやります髪型観察、この度も二重丸。先月のバレエ協会『いばら姫』銀髪以降、今後の客演予定先のリハーサルにて
青に近い不可思議に変色してしまった?写真を拝見し、ゼウスこのまま決行かそれとも黒戻しか先行きが気がかりでしたが
元の黒髪に戻り、自然な纏め方で一安心。やや切れ長で瞳が深く眼力の鋭い古風な容貌が一段と整って見えうっとりです。

※貝川さんの作品は禁じられた情事から子供達大勢出演作品まで実に幅広く、2019年にBALLET NOW (バレエナウ)さん発表会で上演された、
オリジナル作『長靴を履いたネコ』は会場一体となって幸せ溢れた秀逸作でした。保育士にも見えた、 悪役ながら子猫やぬいぐるみにも興味津々な魔王も忘れられません。


かそけし
出演酒井はな&森山未來
演出・振付:島地保武
音楽・演奏:藤元高輝(gt.)

大伴家持の歌から構想を練った作品とのことで、擦り付けるような音を手と声でも響かせていくユニークで仕掛け多々な振付や
膨らみのある群青色衣装も印象深く残ります。酒井さんの細身な肢体から繰り出す角度の素早い切り返しや小刻みな躍動は年齢を考えると驚異的。
中盤にて回転しながら舞台袖に入っていった後に壁に激突して声出ししながら再登場する箇所があり、バレエでもコンテンポラリーでも
基本舞踊公演にて声による表現は決して好みではありませんが(中村恩恵さん振付シェイクスピア・ソネットを除く)
再登場すると、打って変わって折り目正しくクラシック・バレエの歩き方で進み出て『テーマとヴァリエーション』のパロディのような振付を踊られ
舞踊年譜を遡る流れにも見せる効果あり。森山さんの手を取りながら横並びで踊るもわざとサポートを崩され
ずっこける展開もさまになっていたのはクラシックの基盤があるからこそでしょう。

劇場で鑑賞した『世界の中心で、愛をさけぶ』やドラマ『ウォーターボーイズ』など映像作品の印象が強い森山さんが踊る姿を初めて観られたのも嬉しく
想像以上にしなやかで自由自在な踊りこなしに驚きを覚えた次第です。(挙げた映像作品も目新しくはなく、遅いタイミングでの舞台鑑賞で失礼)
2日目夜、酒井さんが捌けるときに後方に設置された藤元さんの譜面台に衣装を引っ掛けてしまうハプニングがありましたが、すかさず森山さんがフォロー。
再度登場して挨拶した後の捌けるときは森山さんが率先して両腕でガードレールを作って引っ掛け防止を演出。最後まで予期せぬ出来事と笑いに包まれました。


Butterfly
【出演】
池田理沙子&奥村康祐(3月26日(金)・27日(土)18:00)
/五月女遥&渡邊拓朗 (3月27日(土)13:00・28日(日))
【構成・演出】平山素子
【振付】平山素子&中川 賢
【音楽】マイケル・ナイマン、落合敏行

池田さんは初日こそ硬さや段取り通りな様子が目立ちましたが2日目は正面からのぶつかりや藻掻きっぷりが全身から響いて変化が表れ
奥村さんは本島美和さんと組まれた2012年上演時も観ており、とにかく若く初々しかった頃に比較すると年齢を重ねて達観すら感じさせ
飛び込んでくる池田さんを危な気なく包み込むように導いていらした印象です。

初組み合わせの五月女さん渡邊拓朗さんは強弱や静動の付け方も巧く、ギリギリの所から繰り出す緊張感あるポーズ一瞬一瞬の間から閃光が差し込み
古典で組むならば狼と赤頭巾ぐらいかと思われる身長差をむしろ生かしたフォルムで語る鮮烈ペア誕生に居合わせた思いです。
Facebookでも紹介されていた写真での、2人の脚のラインが平行四辺形を描いた瞬間の切り取りも見事。
五月女さんはコンテンポラリー経験も豊富で初挑戦とは言え披露前から安心感すら持っておりましたが、
拓朗さんの高身長を持て余さずに操る身体能力にもびっくり。体格もがっちりとして貫禄も十二分ですが、
ちらりと覗く初心な青年感もまた作品によく合っていたと説得力がありました。
先述の通り2012年に初見した作品ですが、蝶の生命力をこうも儚く激しく描くのかと今回も驚嘆です。2組それぞれ全然違った魅力が開花していました。


極地の空
出演・振付:加賀谷 香&吉﨑裕哉
音楽・演奏:坂出雅海

天守物語を題材にした振付で、とうりゃんせの童謡も挿入の不思議な和の趣。舞台後方の台座に腰掛けた演奏者坂出さんが、世を司る仙人にも見えました。
道しるべが出来上がったりぽっかりと浮かび上がったりと1階後ろの席から鑑賞すると光の当て方が実に効果的。


Let's Do It!
出演・振付山田うん&川合ロン
音楽:ルイ・アームストロング ほか

長い髪のプロフィール写真とは印象ががらりと異なるおかっぱ髪型が可愛らしい山田さんと川合さんがお洒落な曲で戯れるように踊り、肩肘張らずに楽しめた作品。
肩車から急降下しての股の潜り抜けなどあっと驚かせる無邪気な要素も散りばめられ、夏に上演の山田さん振付『オバケッタ』も気になっております。


「A Picture of You Falling」より
【出演】湯浅永麻&小㞍健太
【振付】クリスタル・パイト
【音楽】オーウェン・ベルトン

世界各地のカンパニーに作品を提供している振付家と耳にしながらも遅ればせながら本公演にて初鑑賞。
流れる中に自然な所作が混ざった振付に目が行き、タンクトップやゆったりしたシャツといった一見家での寛ぎ時間に着用していそうな衣装が
座ったり隣に並ぶなど生活の一端であろう行為から徐々にダンスの動きとなっていく過程には実に好ましいものであったと観終わってから気づいたのでした。
小尻さんは22年前のローザンヌ映像は今も覚えており、ラ・シルフィードのジェームズを軽快に踊っていらして、当時新設されたプロフェッショナル賞を受賞と記憶。

初日(ダブルキャストの翌日バタフライも)出演者と振付家が異なる場合は振付家は舞台には登壇せず
各演目後に出演者からの合図にて客席で起立し拍手に応える形でしたが、NHKのど自慢での司会者が歌い終えた出場者の親族友人を探す光景にちょいと似ていて
面白く観察笑。初日は2階席でしたので出演者と振付家の客席を挟んだやりとりキャッチボールがよく見え、貝川さんはきちっとお辞儀。
島地さんは両手を掲げてアピール、平山さんも手を突き上げて出演者を大いに讃え、平山さんが最も親族応援団な雰囲気があり意外な一面を目にした気分です。

難解な作品もありましたが、知人曰く紅白並みに豪華なコンテンポラリー界の重鎮が揃った公演を4回も鑑賞できたのは幸運。
そうは言っても結局はトップバッターの裸体ゼウスを崇めての集中に終わった感のある年度末の金土日でした。
いつかビントレー版『カルミナ・ブラーナ』における性欲に負け遂には服を脱ぎ捨て、道を踏み外し罠ヘと陥っていく生真面目な神学生3役にて鑑賞できる日を待ち侘びております。





余韻に浸ってゼウス降臨ハイボール。黄金色の超炭酸製造サーバーゼウスタワーで作る、強炭酸の刺激です。
名称もサーバーの色も嬉しいこった。レモンも入って爽やかさもあり。

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