2021年4月18日日曜日

1年延期を経ての初の山形で牧版白鳥見納め 新国立劇場バレエ団 牧阿佐美版『白鳥の湖』山形公演  4月10日(土)《山形市》




新国立劇場バレエ団山形公演『白鳥の湖』を観て参りました。バレエ団にとっては1年延期の初の東北公演、
そして2006年秋に初演以来上演を重ねてきた牧阿佐美さん版『白鳥の湖』は最後の上演です。
https://yamagata-bunka.jp/event/2021/04/10038469.html


※今回最後の牧版白鳥ですので、役名や出演者名が明記されていない方の中で特に印象深かった役は勝手に解釈するなりして()して綴っておりますがお許しを。
その他、前回の速報でもない速報と重複する部分もございます。

オデット:米沢唯
ジークフリート王子:井澤駿
ロートバルト:小柴富久修
王妃:本島美和
道化:井澤諒
(熱血)家庭教師:中家正博
王子の友人パ・ド・トロワ:池田理沙子 柴山紗帆 渡邊峻郁
(ワルツ陣を移動させてまで湖の景色を堪能する)貴族:福田圭吾

小さい4羽の白鳥:池田理沙子 奥田花純 五月女遥 広瀬碧
大きい4羽の白鳥:寺田亜沙子 柴山紗帆 細田千晶 渡辺与布
儀典長:太田寛仁 (妙に目を惹く)ラッパ手:渡邊拓朗 花嫁候補:加藤朋子 徳永比奈子 中島春菜 原田舞子 土方萌花 山田歌子
スペインの踊り:川口藍 益田裕子 速水渉悟 中島駿野
ナポリの踊り:奥田花純 五月女遥 原健太
ルースカヤ:木村優里
(野心メラメラ)ルースカヤ付き人:中家正博
ハンガリーの踊り:
細田千晶 宇賀大将
赤井綾乃 菊地飛和 北村香菜恵 廣川みくり 守屋朋子 横山柊子
髙橋一輝 中島瑞生 西一義 西川慶 樋口響 渡部義紀
マズルカ:
今村美由起 木村優子 関晶帆 廣田奈々
趙 載範 浜崎恵二朗 福田紘也 佐野和輝

2羽の白鳥:寺田亜沙子 細田千晶
大きい4羽の白鳥:渡辺与布 川口藍 玉井るい 益田裕子



米沢さんは最後の牧版白鳥の主役を背負う身としてか序盤こそ少し肩に力が入っていたようにも見受けられましたが、残像に至るまでもが美しいオデット。
プロローグでの人間の姫としてただ一人佇む場面においても何かが起こる予感を募らせる孤独感が宿り、
以前は侍女がいたもののいつからか1人となったこの場面も最後と思うと寂しい限りです。
漣のような細かな腕さばきやくっきりと描き出すフォルムは勿論のこと、全身が訴える悲哀が深く、
前回公演以上に前へ前へと出る姿勢が強かった点も印象に刻まれました。
オディールでは品を持ちつつも邪悪な光線を送り、誘惑が楽しくて仕方ない様子につい呑まれそうなほど。いつのまにか乗せられ罠に嵌っていく王子に同情です。

井澤さんは見るからにおっとり優しそうな王子で、穏やかであったであろう人生がこのあと波乱な試練続きに一変するとは知る由も無かったことでしょう。
王妃から結婚を命じられても、あからさまに嫌そうな表情は抑えたり舞踏会でもきちんと礼を尽くして
花嫁候補達と踊るなど育ちや人当たりの良さ窺わせる造形です。

米沢さんと井澤さんは先月中旬の大阪に続いての白鳥全幕。版は異なれど踊り込みの成果が一層表れたのか
決してドラマ性が深いとは言い難い、再会し許しを得てからは愛を丹念に確かめ合うこともなく(いつの頃からか悲哀と重々しさが融和したワルツがカット)
王子が担いでの最終兵器オデットマン攻撃展開なる牧版名物急ピッチ終幕も、心がぐっと入っていたのでしょう。気力を振り絞ってのロートバルト追い詰めは
後にも述べますが気迫のあるコール・ドや演奏の厚みも総動員して劇的な幕切れを焼き付けました。

小柴さんのロートバルトは目線が一段と鋭くなり、善良な人物や生き物の役柄が脳に刷り込まれていながら魔力にはっとさせられる箇所が増えた次第。
先にも述べた、誠に呆気ない終盤もみるみると弱って倒れていくさまをじっくり演出しオデットと王子の愛の勝利に貢献です。

パ・ド・トロワは全員経験者ながらこの3名の組み合わせは初で妙に新鮮味あり。池田さんは柔らかで無駄なくすっきりとした腕使いも良く、
柴山さんはきっちり且つメリハリに富んだ踊りで魅せ、 渡邊さんはジークフリートと親交のある他国から祝福に駆け付けた貴公子と見紛う高貴な姿で薄いブルー衣装が鳴呼爽やか。
女性2人を優しく見守りつつもサポート盤石で会話が聞こえそうな様子にも癒され、
明暗が今一つはっきりしないヴァリエーションの音楽においても曲調のちょっとした変化を自在に体現。
滞空時間の長い跳躍からのぴたりとした着地も爽快でございます。のちに王子の横へ行きワインを注ぐ所作も丁寧で品が宿り、眼福です。
さて山形でもやります髪型観察、今回は丸印。珍しくやや長めでしたが纏め方は自然でふわっとなびく様子も宜しく、
フランツもこのままの路線か、待ち侘びているところでございます。

前回の速報でもない速報を含めて何度か申しておりますが私が初めて劇場で観たバレエがABTの来日公演『白鳥の湖』で、
帰りの電車内でも同行者にはっきりと伝えていたほど最も印象深かった役がトロワでした。以来当時から30年以上の年月が経過し
その間国内団体及び来日公演合わせてもこれぞと唸らせる方になかなかお目にかかれず、
ようやくのトロワこそ2018年に牧版白鳥初挑戦で王子と兼任で踊られた渡邊さんでした。
最後の牧版白鳥となる2021年山形公演にて嬉々たる配役であったこと、幸せでございます。格式高く納得の牧版トロワ締めができました。
トロワの衣装は牧版白鳥の中でも特に好きなデザインで、女性はグリーンのレース地のような布で彩られ、男性は薄いブルー。
気品香る上品な色彩で、記憶が正しければ2006年初演少し前にオペラパレスホワイエにて開催された2006/2007シーズン演目説明会でも展示されていた気がいたします。

全国公演名物の珍配役もあり、主役そっちのけで観察してしまったのは中家さんの家庭教師。のんびりとした坊ちゃんをどうにか勉学に目覚めさせようと
とにかく熱血指導。そのまま叫び声が文字化して響き渡っていてもおかしくない雄弁さについ引き込まれ、目が離せず。
勉学の大切さを熱く説いているかと思えば囲んできた美女にはデレデレ、そしてお酒にもめっぽう弱く堂々熟睡笑。
それゆけ家庭教師なる物語が成立しそうで見てみたいと思わせる家庭教師は初めてでした。
また気位高く美貌の本島さん王妃が登場した際に一緒に入ってきた福田圭吾さんの貴族も双眼鏡握って集中鑑賞してしまった役柄で、
近くにいたワルツの2人を(1人は五月女さんだったか)移動させて湖の景色に感心しながら満喫。舞台の額縁が充実し過ぎると主役を見逃す事態に至り困ったものです笑。

それから白鳥群舞のレベルの高さは言うまでもありませんが、揃っているのは大前提で更に毎回違った印象を与えてくださるのも魅力。
今回は特に4幕冒頭のワルツにて、しっとりと物哀しく美を繋げて行く流れから一転してオデットと王子と共にロートバルトへの立ち向かいが
気迫のある展開で切り替えが見事。全身から1人1人の覚悟が覗き見え、群舞も主役と同等と再確認させるひと幕でした。
改めて思います、急ピッチで呆気ない終盤も劇的幕切れになったのは倒し勝利する側のオデット陣営と倒れ敗北するロートバルトの結集力があってこそです。

民族舞踊の力量にもたまげ、スペインは鋭い斬り込みと濃厚さでびしっと空気を引き締め、身体の切れ味が幾分も増した印象。
ナポリの軽やかさとほのぼの感の比率も絶妙で息もよく合い、ハンガリーの前半のゆったりした箇所でも間延びせず
ポーズ1つ1つのくっきりとした繰り出しも目を見張りました。一番驚かされたのはマズルカでしっかりとした軸を保ちつつ上体が実に豊かに音楽と溶け合ってうねり、
止まるべき箇所では型がいたく美しく出来上がって惚れ惚れしながら鑑賞。
ルースカヤ木村さんの瞬時に舞台の空気を変えるオーラも眩しく、冗長になりがちな音楽であっても優雅に麗しく魅せる術や
付き人として野心燃え盛る視線が3階後方席にまで届き慄いた中家さん(多分)にも驚嘆です笑。

そして忘れてはなりません、山形交響楽団の演奏。非常に高いレベルを誇るオーケストラと噂には聞いておりましたが想像を遥かに超え
序盤からゴージャスで厚みと張りのある演奏を届けてくださいました。 初の山形、最後の牧版白鳥に相応しい音楽で彩る舞台に居合わせ、感激です。
地元で根強い人気があり山響ファンも大勢いらしていた様子で、バレエファンと山響ファン双方が互いに分かち合い喜び合うような喝采に包まれていました。
山形で咄嗟に思い浮かべるのはさくらんぼ、ドラマ『おしん』、1999年に『孫』が流行した歌手大泉逸郎さんでしたが今回より山響さんも仲間入りでございます。

1年延期を経ての無事上演で出演者、オーケストラ、スタッフ、観客の喜びがぎゅっと凝縮した、大盛況な公演でした。主役から群舞に至るまで実に気持ちが入った披露で、
公演頻度も高かった牧版最後の上演を悔いなく終えようと力を尽くした舞台であったと見受けます。
東京での見納めではないと知ったときには寂しい気もいたしましたが山響さんの演奏に彩られ、新しいやまぎんホールを祝福する舞台となったのは幸運でした。
観やすく綺麗で床や椅子の模様も山形の伝統工芸が覗くやまぎんホールの作りも気に入り、是非ともまた山響さんとの共演による山形公演を継続していただきたいと願っております。

さて、次回の白鳥(2021年秋)からは一新してピーター・ライト版。色鮮やかで清々しい祝福感に満ちた牧版とは正反対な演出です。
昨年1月半ばの清泉女子大学でのラファエラ・アカデミア講座にてスウェーデン王立バレエ映像を少し鑑賞したときの印象を以下重複箇所多き点は悪しからず。
一見純古典な衣装装置であっても国王の葬儀から描き、王室礼賛な雰囲気がほぼ無く、黒を基調とした衣装装置美術に彩られ何処か陰鬱。
吉田都監督も主演を務めた1989年のサドラーズウェルズ来日記事は繰り返し眺めておりましたが
2015年のバーミンガム来日公演でも鑑賞しておらず実は映像で目にしたのも初でした。
『白鳥の湖』といえばお祭りわっしょいな祝祭感や終盤には王子による羽根捥ぎ取りと必殺連続回転跳躍でロートバルトを追い詰めて倒す
勧善懲悪明確なセルゲイエフ版を好んでいるため、いくら王子の感情を事細かに描いているとはいえ葬儀から始まる版なんぞ好きになれそうにないと
新国立劇場バレエ団の来期2020/2021シーズン上演作品一覧を眺めながら思っておりましたが(但し2020年秋上演の予定がドン・キホーテに変更し、2021年秋へ延期) 映像で観てみると、王妃を避けたがったりベンノに駆け寄ったりと兎にも角にも王子の感情表現が想像以上にまあ細かい。
踊るテクニックのみならず心の機微の表現に相当卓越した人でないと場を持たせるのが非常に困難な役柄であると分かり
そう考えると当時2020年1月の時点で10月24日(土)夜公演のジークフリード王子に決定していた渡邊さんはぴったりであろうと捉え、
更に同年11月に鑑賞したシェイクスピア・ソネットでも暗鬱な感情を静かに紡ぎ出していく表現が抜群に上手く、
そう考えて行くと案外好きになるプロダクションかもしれないと1年4ヶ月前に観たスウェーデンバレエの映像を思い出して姿を重ねた次第です。


本来ならば牧版白鳥総括を今回行うべきでしたが、延期後の山形公演はピーター・ライト版を上演と一時告知が出ていたため
牧版白鳥初演から勝手気ままに振り返る記録をうっかり昨春に行ってしまいました。初演以来ほぼ全公演観ており長い記事ですが宜しければどうぞ。
ザハロワ直前降板で厚木三杏さん、川村真樹さんとウヴァーロフペアが誕生した2010年など懐かしく思い出します。
https://endehors2.blogspot.com/2020/04/blog-post.html

※ここまでお読みいただきありがとうございました。 日帰りながら以下写真が何枚もございます。昨秋の札幌公演ほどの量ではありませんが、
気力と忍耐力に自信のある方はどうぞ続けてご覧ください。大型連休前の慌ただしい最中にそんな暇はないと叫びたい方は恐れ入ります、次回をお待ちください。



東京駅にて初乗車、山形新幹線つばさ。朝6時過ぎのため、まだ半分眠っている状態の管理人。飛びはしませんが翼をはためかせて白鳥達のもとへと山形へいざ出発。



窓が大きく景色が観やすく、朝の晴れ間が気持ち良く視界に入ります。戸田ボート場あたりです。



那須牧場を過ぎて東北入り、新白河駅を通過。



ニトリ白河店が見えます。白河自動車学校も線路近くに位置しています。景色に向かって手を合わせた次第。



東北のほっこりなキャラクター達。福島物産館でもキビたんは目立ちます。山形のきてけろはさくらんぼの飾りがお洒落な旅人です。



チケットの公演日程表記は2020年4月4日。延期前の日程チケットでもそのまま入場可能と告知が昨年の段階であり、
購入した2019年12月中旬以降1年4ヶ月の期間を経てようやく出動。部屋の目に付き易いところに洗濯バサミで留め、
出演者やスタッフ、オーケストラの皆様と同様チケットも出番を待っておりました。
学校一斉休校、ソーシャルディスタンス、テレワーク推進、1世帯に2枚のマスク配布、PCR検査、緊急事態宣言、ワクチン接種開始、と
この1年数ヶ月を眺めてきたチケットと思うと重みがずしり。



山形駅到着。



駅から徒歩10分程度の霞城公園、桜が満開でした。朝早いためかまだ人もまばら、ゆったり散策です。



霞城公園内に建つ、桜に覆われた旧済生館本館。詳細はこちらをどうぞ。
https://www.pref.yamagata.jp/110001/sangyo/sangyoushinkou/him_top/him_maincat1/him_15.html



回廊のような作り、不思議な空間に思わず息を呑みます。



アルブレヒト、の名前にどきりとしますが、金沢医学校から招かれたオーストリア人医師。
各部屋は診察室、待合室が復元され、医療器具も展示。当時に時間旅行した心持ちになります。



一部階段から頭上までが低く、身長163㎝の私でも頭が衝突しそうな空間。歩く際にはお気をつけください。



お昼は駅すぐそばのビル2階、クラシック音楽が優雅に流れるお店米沢牛の案山子にて1人静かに焼いた、柔らかな肉質の米沢牛。
じゅわりと響く音と、クラシック音楽が調和します。朝日町の赤ワインで乾杯です。
野菜の焼き加減がなかなか難しく、気づけばピーマンが焦げかけた笑。
ただ、札幌での2年連続同じジンギスカン店訪問時の玉ねぎ焦がした事件の経験が生きたのか、丸焦げにはならず。



やまぎんホール外観。和の家屋を思わせる渋い作りです。ロビーには昔使われていた椅子も残され、
座ることも可能。かなり低い作りで、歴史を感じます。



無事終演、1年越しの上演に1人で乾杯。帰りは地酒米鶴で。鶴の目がつぶらで可愛らしい絵です。



キャスト表を眺めながら。脇が誰であれ初の山形最後の牧版白鳥を観ようと行く気満々ではあったが、トロワの名前が視界に入って思わずニンマリ。



豪勢なお刺身、これで1人分。心は浦島太郎です。今夏の竜宮再演も楽しみで、昨夏に続き髷の違和感が無さすぎるサムライ太郎にお目にかかれますように笑。
お通しの県産野菜のシャキッとした瑞々しさも美味しく、お店の方の素朴で優しい語り口も好印象なお店でした。
帰りの新幹線内でお土産の写真でも撮る予定でしたが、発車早々の18時過ぎから
コートを布団代わりに掛けてすっかり熟睡。朝も早かったため、仕方ないか。
1年越しの山形、短時間でしたが満喫いたしました。次回はレトロな洋風建築が並ぶ鶴岡や
おしんの舞台にもなった、木造旅館が立ち並ぶノスタルジックな銀山温泉にも足を運びたいと思っております。
そして芋煮、季節が合えばさくらんぼも味わいたい。
さらば山形、また会う日まで!!

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