2020年4月28日火曜日

エカテリーナ・マクシモワの命日に心寄せたい『アニュータ』

本日は4月28日、ボリショイ・バレエの名花エカテリーナ・マクシモワの命日です。(1939年-2009年)
逝去された日、ちょうどザハーロワが座長を務めるガラ『ザハーロワのすべて』公演時期であったため
会場の東京文化会館でもマクシモワを悼む声があちこちから聞こえてきた光景が思い起こされます。
2年前に綴った記事とだいぶ重なる内容ではございますが、今一度是非ご覧いただきたい映像であるためご容赦ください。

プロフィールにも掲載しておりますが、マクシモワはとても好きなダンサーの1人です。
書籍を通しては『ロミオとジュリエット』舞踏会で接近するロミオにはっと目を向ける姿が印象深いジュリエットや
『スパルタクス』フリーギア、『くるみ割り人形』マーシャ、『ドン・キホーテ』キトリなど
様々な舞台写真を眺める機会は度々ありながら初めて映像で目にし、心を持っていかれたのが今から23年前。
モスクワの赤の広場に特設された野外舞台で行われたガラ公演を収録したエッセンシャル・バレエで見たウラジーミル・ワシリエフと踊る『アニュータ』でした。
当時は原作も全く知らず勿論設定も把握できずな状態だったにも拘らず、高鳴る鼓動が止まらず
これ見よがしな派手な振付も無い、豪華な衣装を纏っているわけでもないパ・ド・ドゥながら
内面から滲み出る情感、そして目線だけでも語り合うパートナーシップにすっかり惹かれ大きな衝撃を受けたのです。
全幕ではまだ鑑賞しておりませんが、チェーホフの原作で家族のために裕福な家へと嫁ぐヒロインの生き様を描いた
『頸にかけたアンナ』を基にワシリエフがマクシモワに振り付けた作品で
音楽はヴァレリー・ガヴリーリンが手がけ、数々の郷愁感漂う曲で構成されています。
(以前知人に話したところ宇宙飛行士のガガーリンと間違えられてしまった。地球の青さを表現した言葉は名言であるとは思うが)

マクシモワのインタビューによれば最初にバレエ映画として制作されましたが、映画版を観た
ナポリのサンカルロ劇場のバレエ団から上演希望の依頼があり、初演はボリショイ劇場ではなくサンカルロ・バレエだったとのこと。
ボリショイではバレエ団がツアーで出払っている状況下であっても上演可能な作品という理由から上演に繋がったそうです。
ボリショイのレパートリーとして近年も上演されていますが1992年には東京にて上演されマクシモワがご出演。
1998年には現在東京バレエ団芸術監督を務める斎藤友佳理さんがマクシモワの手ほどきを受け
チェラービンスク国立オペラ・バレエ劇場に客演しタイトルロールを踊られました。
2000年には世界バレエフェスティバルでセルゲイ・フィーリンとパ・ド・ドゥを披露。
1992年のマクシモワ本人主演の舞台、そして例え抜粋であっても日本でこの作品を直で観るまたとない機会でありながら
斎藤さんペアによる世界バレエフェスティバルの舞台を見逃してしまい後悔しております。

『グラン・パ・クラシック』や『タランテラ』といった独立した作品や『海賊』や『ダイアナとアクティオン』など抜粋上演がすっかり定着している作品を除いては
ガラではなく極力全幕の中で鑑賞したいと思うものの、『アニュータ』のパ・ド・ドゥに限っては
勿論全幕もそれはそれは心に突き刺さる舞台であると想像できますがエッセンシャル・バレエの映像が格別。
刻々と日が落ちて薄暗くなっていく赤の広場の情景と光が灯された聖ワシリー寺院が映し出され、
荘厳な鐘が鳴り響く余韻に溶け込むようにしてマクシモワが登場。旅愁に一層誘われるのです。
また1992年の収録当時はソ連崩壊から5年も経っていない頃でまだまだロシアのバレエ熱が今以上に凄まじかったのでしょう。
観客の熱狂ぶりも見所、加えてこれぞロシアと唸らせる爆音祭りで盛り立てるモスクワ放送交響楽団の演奏も聴きどころです。

当ブログ、公式配信ではない動画は基本載せない方針ではございますがこれ以上の文字での説明は難しく、この映像は是非ご覧いただきたいため紹介いたします。
2つのパ・ド・ドゥを繋げて踊られていますが、特に前半のワルツが何とも哀切且つ劇的な曲調で
マクシモワとワシリエフが互いに寄り添いながら醸す情感の豊かさに心を揺さぶられます。
このワルツが好きな余り、繰り返し聴きたいと会議録音用の機械を借りてテレビのスピーカー付近に置き
カセットテープに録音する荒業まで行っていた管理人のオタク精神はさておき
パ・ド・ドゥで大事であるのは基本的な技術があるのは大前提として2人が気持ちを通わせ感じ合うこと
身体全体で語りかけることであると話していた約20年前のインタビューがそのまま重なり
好きなパ・ド・ドゥを聞かれ、私と同様この作品を即答なさる方が都内に5人でもいらしたら幸いでございます。





マクシモワの話で思い出すのは、2000年頃に日本の週刊誌にて掲載された記事「過熱するおバレエ」。
(その頃子供の受験を巡る痛ましい事件があり、皮肉ったタイトルを記者か編集者が付けたと思われる)
日本における、一部の教室で行われている早過ぎるトゥ・シューズ許可や余りに難しいテクニックを押し込んでのコンクール出場など
危険な指導方針に警鐘を鳴らしていたこと。「子供に無理のない教育を」と必死に訴えていた内容は今も覚えております。
あれから約20年が経過し、医療も発達して格段に素早い情報収集も可能な時代に移りましたが
コンクール数は町興し状態と見紛うほどに増加傾向にある現在の日本のバレエ事情をご覧になったらどういった指摘をされるのか気になるところです。

※赤の広場野外コンサートでもう1本紹介したい映像があり、来月上旬に綴って参る予定でおります。

2020年4月24日金曜日

【お茶の間観劇】【飛ばし飛ばしで鑑賞】ボリショイ・バレエ団『スパルタクス』/『眠れる森の美女』

ボリショイ劇場が配信した『スパルタクス』、『眠れる森の美女』を飛ばし飛ばしで鑑賞いたしました。
※どうも私は自宅での鑑賞の場合、DVDならば大きめのテレビ画面でじっくり2時間3時間堪能できるようですが
誠に恥ずかしい限りで携帯電話画面での動画鑑賞では30分程度が限界のため
(現在故障中ですが仮にパソコンであっても同様と想像)全幕通しての堪能が困難であり
(劇場という非日常空間に身を置くからこそ集中力も研ぎ澄まされるといった内容を演劇関係の記事で読みましたが、思わず共感してしまった)
このご時世せっかく世界中の劇場が配信してくださっている映像をもっと観るべき満喫するべきであるのは重々承知しておりますが
旬の配信映像詳細鑑賞記には到底至らぬ、何時にも増して大雑把な内容である旨をどうかお許しください。


『スパルタクス』
スパルタクス:ミハイル・ロブーヒン
フリーギア:アンナ・ニクーリナ
クラッスス:ウラディスラフ・ラントラートフ
エギナ:スヴェトラーナ・ザハーロワ


まだ全編通しては生でも映像でも観たことがない作品ながら、ハチャトリアンの魂揺さぶるドッカンな音楽も含め好きでたまらぬこれぞボリショイな作品。
幕開けのローマ軍たちによる舞台を目一杯覆う一斉跳躍付き行進が視界を支配し、開演早々に興奮へ到達です。
ロブーヒンの雄々しく熱い叫びが聞こえてくるスパルタクスに、ニクーリナの美しいラインはそのままに
全身から涙が零れ落ちていそうな情感のこもった踊りが胸を打ち、ガラでも抜粋披露の機会が多いアダージオは
全幕の中で観ると抑圧された思いが画面越しにも広がりを感じさせて止まず、高いリフトもただ持ち上げているのはなく
溢れ出る感情がそのまま昇華したフォルムに思えるばかりでした。
配役で驚かされたのはラントラートフによるクラッスス。善良な役柄の印象が強く、
所謂敵役をどう造形するか興味をそそられましたが、序盤から舞台の支配力に驚嘆。
ギラリとした視線や他を圧するパワー、対角線上にひたすら跳躍を繰り返しながら移動していく身体泣かせな振付も余裕綽綽な姿でした。
ザハーロワのエギナは女王感は歴代随一であろう君臨ぶりで、会った者には有無を言わせぬ艶かしさ、
更に持ち前のプロポーションをこれでもかと生かし脚線美でも観る者を虜にさせるのも説得力あり。
ただこの役はマリーヤ・ブイローワの野心見え見えで渋き美しさも醸す姿のほうが好みでございます。
1984年収録映像にてご覧になれますので是非どうぞ。スパルタクスはムハメドフ、フリーギアはベスメルトノワです。

それから衣装にも着目。全編殆どが茶色系の衣装ばかりで下手すれば唐揚げ薩摩揚げ肉団子で埋まった彩りの宜しくないお弁当状態にもなりかねない条件ながら
そう思わせないのはボリショイで数々の作品の衣装や美術を手掛けたシモン・ヴィルサラーゼのデザインだからこそ。
ローマ軍側には渋めの銀を大胆に合わせて程よい光沢を出し、飽きのくる色彩とは感じさせないのです。

とにかく今年11月末の来日公演で予定通り鑑賞できますように。ボリショイ劇場のオーケストラも帯同ですから
長らく他国の支配に脅かされていた自身の祖国アルメニアに奴隷たちの心情を重ねながら書き上げたとされる
ハチャトリアンの音楽を汗だくな熱い演奏で聴かせてくださるに違いありません。


※守山実花先生による『スパルタクス』に特化した1日講座(主催・ダンサーズサポート)を2017年に受講。
概要や名演ダンサー、振付の特徴、音楽についても学んだ濃くそしてマニアックな講座でした。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/4-86ef.html



『眠れる森の美女』
オーロラ姫:スヴェトラーナ・ザハーロワ
デジレ王子:デヴィッド・ホールバーグ
カラボス:アレクセイ・ロパレヴィチ
リラの精:マリヤ・アラシュ
フロリナ王女:ニーナ・カプツォーワ
青い鳥:アルチョム・オフチャレンコ



2011年ボリショイ劇場新装こけら落とし時のリハーサルやホールバーグへのインタビュー。グリゴロさん、客席から何か指示を飛ばしています


NHKでテレビ放送され、DVD化もされていながら放送を見ず録画も購入もせずなまま気づけば2020年。
主役2人は割愛しますが(無責任にもほどがありますが)、今回観る気になったのは主役以外の配役の充実に惹かれたためであり
フロリナ王女のカプツォーワ、勇気の精のアンドリエンコ、銀の精のティホミロワ、カナリア/赤ずきんのスタシケーヴィチ、
そしてブライドメイドにはスミルノワまでが配役。男性陣も層が厚く、4人の王子にはラントラートフにあの人は今なるドミトリチェンコのお名前も並び
リラの精の小姓にベリャコフにロヂキン、と現在はプリンシパルとして主役を張る方々が
コール・ドや個人名無しの役柄で大活躍で、主役そっちのけで観察に勤しんでしまいました。
ただ携帯電話画面では限界があり、配信へ感謝を込めてDVD購入を検討しております。

1点気がかりであったのはボリショイにしては、またバレエの殿堂である劇場の新たな船出の初日にしては熱量が低く淡白であった点。
綺麗であったのは紛れもない事実ですが、上品にまとまり過ぎていた気がいたします。
あくまで憶測ですが、ボリショイの改装にあたり天井の高さ不足などツィスカリーゼが不満を訴えていた記事を何かで読み
新体制への疑念は上演にも何かしら影響が及んでいたのかもしれません。

美術や衣装も一新され、衣装はフランカ・スクァルチャピーノが担当。これまでのヴィルサラーゼによる
王道路線ながらも華美な装飾は控え、やや陰りのある色彩美で整えられたデザインとは様変わりして明るいトーンへと変更。
ヴィニチオ・シェリによる降り注ぐ陽光彷彿させる照明効果もあり、とにかく全体が煌びやかな装いであった印象です。

実はボリショイの眠りはヴィルサラーゼの衣装の時代も含めて映像でも生でも目にしたことが殆んどなく、好きなバレエ団ながら不思議なもの。
振り返ると、バレエを観始めた頃にボリショイのレーザーディスクが続々発売され、『ライモンダ』や『くるみ割り人形』と同様
眠りの映像も自宅にて目にする機会はありました。しかし主演のニーナ・セミゾロワが
鑑賞歴数ヶ月のド素人が観てもオーロラ姫が似合っていなかったのが明らかで16歳にしては妖艶過ぎる姫に1幕では目を疑ってしまったほど。
(セミゾロワの名誉のために申せば、石の花での銅山の女王は威厳や恐ろしさを秘めた役どころがぴったりで絶品)
結婚式は辛うじて鑑賞できましたが、今度はオーロラ姫のヴァリエーションがボリショイ特有の楽譜なのか
終盤で回転しながら舞台を大きく回りつつ脚を高く上げる箇所にてアウフタクト(音楽用語自信無いが恐らく)が無く、ぶつ切りに響いてしまったのです。
眠り全幕を上演しアナニアシヴィリ、グラチョーワ、ルンキナが日替わりで登場した2002年の来日公演には残念ながら一度も足を運べませんでしたので
(主役の鬘は各々に任せられていたのか当時の書籍での記憶ではアナニアシヴィリは無し、グラチョーワはグレー系、ルンキナは白)
その際の音楽も気になるところですが、そんなこんなでボリショイ眠りにはほぼ触れることなく現在に至っていたのでした。
ソ連時代の映像で1幕をナデジダ・パヴロワ、2幕をリュドミラ・セメニャカ(王子はアンドリス・リエパ)、3幕をセミゾロワ(王子はユーリー・ヴァシュチェンコ)が
分担で登場した映像でもアウフタクトやはり無し。図書館で借りた、ボリショイ劇場管弦楽団による眠りCDでも無し。
理由は未だ分からず約30年来の謎です。ご存じの方がいらっしゃいましたらお知らせいただけますと幸いでございます。


※詳細キャスト
https://www.fairynet.co.jp/SHOP/4560219322660.html

※美術のエツィオ・フリジェリオと衣装のフランカ・スクァルチャピーノはご夫婦だそう。
パリオペラ座のヌレエフ版『ラ・バヤデール』もお2人が組んで手がけているとのこと。
https://www.abc.es/cultura/abci-ezio-frigerio-y-franca-squarciapino-sesenta-anos-juntos-dentro-y-fuera-escena-201805050135_noticia.html


次回のボリショイ劇場配信は『現代の英雄』。ボリショイ・バレエinシネマさんのツイッターにて詳細な鑑賞手引きをご覧いただけます。
2017年にシネマで鑑賞。幕ごとに色合いががらりと変わる展開で青年ペチョーリンの人生を描いた、レールモントフ原作の重厚な作品で
ペチョーリンは幕ごとに異なるダンサーが務め、各々に絡む女性も合わせて主役級が総登場しますので
とっつきにくいとお思いになった方も一度はご鑑賞をお勧めいたします。
当時の感想はこちらでございます。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-0842.html

2020年4月17日金曜日

新国立劇場バレエ団 牧阿佐美さん版『白鳥の湖』を振り返る




※今秋2020/2021シーズン開幕演目はピーター・ライト版『白鳥の湖』から『ドン・キホーテ』へ変更。
それに伴い、来春に延期となった山形公演では牧さん版『白鳥の湖』の上演決定と発表がありました。
今回振り返りを行ってしまいましたが、再度牧さん版白鳥総仕上げ編として来春行う予定でおります。


今年4月4日(土)新国立劇場バレエ団初の東北公演を予定していた山形での牧阿佐美さん版『白鳥の湖』公演鑑賞後に綴ろうと思っておりましたが
公演は来年に延期。上演可能か否か先が見えぬ中で練習を重ねてきたダンサー
そして新国立劇場バレエ団との初共演にも注目が集まっていた山形交響楽団を始め
公演に向けて準備に携わってこられた方々の心境を察すると胸が詰まり、世界規模での緊急事態であるとは分かっていてもやるせなさばかりが込み上げてきます。
また延期となった公演においてはバレエ団が今秋より採用するピーター・ライト版上演予定と発表されましたため
初演から鑑賞している牧阿佐美さん版『白鳥の湖』振り返りを中途半端な機会ではございますが書いて参りたいと思います。

初演は2006年11月。この年のシーズン開幕や演目の並びは今思えば特異で、バレエ団の開幕が10月上旬。
しかもガラではなく『ライモンダ』全幕で開幕でしたので、10月11月12月と
全幕物を3ヶ月連続で本拠地にて上演した珍しいシーズンでした。単発ではなく各々の演目につき5回以上は公演があり
『ライモンダ』は大阪公演(梅田芸術劇場にて1回、バレエ団にとって初の大阪公演)も行われ
開幕から3ヶ月はいつにも増して大変多忙な日程であったと想像いたします。

牧さん版『白鳥の湖』は初演以降も多くの再演を重ね、ひょっとしたら『シンデレラ』に次ぐ再演回数多数の作品かもしれません。
プログラムや会報誌のジアトレなど牧阿佐美さんへのインタビュー読み進めると牧さんのこだわりや美意識が思い起こされ
悲劇ではなく幸せな結末にして観客に劇場をあとにして欲しいと確かアトレのインタビューで語っていらっしゃり
愛の力でロットバルト打倒とはいえ王子がオデットを担いでの前進姿を観る度「最終兵器オデットマン」に思えてしまった終幕も今は懐かしさが募ります。
振付の基盤はセルゲイエフ版とさほど変わりないものでしたが、一番の変更点はプロローグ挿入とルースカヤの追加でしょう。
プロローグは刺繍をするオデットと侍女の3人いたはずが、いつの頃からかオデット1人に(確か)。
ルースカヤは侍女を従えるわけでもなく本当にソロでしかも短いとは言い難い曲で踊るため魅せることが容易ではない役ながら
ベテラン重鎮から中堅、時には将来を期待される若手が務め、歴代のダンサーを並べるとまさに百花繚乱です。
それから現代の観客の時間感覚に合わせようと休憩は1回のみに変更。舞踏会と終幕の湖畔の場が休憩無しでの上演となりました。
女性陣の着替えの多忙さに更に拍車がかかり舞台袖にあるであろう着替え小屋の猛烈な慌ただしさは想像に難くありません。

そして湖畔前の不安や憂鬱さを募らせるソロと舞踏会のあとにオデットを追いかける王子の嘆きと懺悔なるソロが追加。
後者は閉まった幕の前で披露され、下手すれば場繋ぎ及び時間稼ぎ役或いはオデットたちの前座な役にもなりかねないわけですが
そこは新国立男性陣。ただの間抜け王子にはならず、内側から迸る心情を届けてくださっていました。

最終幕は、オデットが許し王子との愛を再確認するこれまたいつの頃からか悲しみを鬱々と引き摺るゆったりしたワルツがカットされ
すぐさま愛の攻撃作戦へ。スピーディーな展開を更に追求したが故でしょうが、心残りな1点です。

衣装は随分と大胆に一新。重厚ではっきりとした色彩、濃いめのベルベットを多用していたセルゲイエフ版に対して
牧さん版は全体が繊細ですっきり洗練路線を展開し、特に1幕ワルツのソリスト男女の淡い緑を配した色彩は
ドイツ周辺地域の初夏の低湿な陽気を思わせる清涼感が漂い、幕開けから爽やかな心持ちにさせるデザインでした。
王子の前半の衣装が光沢を含んだ青いベルベット地に金糸で彩った見事なまでに品良く華やぐ色味であった点も忘れられず、
ウヴァーロフやマトヴィエンコ、リー・チュン、ムンタさんらゲストで招聘されたダンサーの方々も
持ち込みではなく皆さん着用なさっていたと記憶しております。
そして花嫁候補は喜んだであろう、お揃いのソフトクリーム帽子からめでたく脱却し
白を基調にしつつも頭飾り衣装ともにお国柄が表れたデザインへと変更。
加えて王子は提灯袖から、ロットバルトはチリチリラーメンヘアーなビジュアル系ロックバンドから脱却。

一方セルゲイエフ版のほうが私個人としては好みだった衣装も何点かあり、例えばオデットとオディールの衣装。
牧さん版は良く言えば身体の線がくっきりと見える、ラインストーン以外は極力装飾を控えたすっきりしたデザインですがやや物寂しい気もしており
セルゲイエフ版における両役とも羽をこんもりと盛ったチュチュ、オディールに至っては頭飾りも含め赤いストーンを散りばめていたくゴージャス。
提灯袖、チリチリラーメンロットバルト、ソフトクリーム帽子も合わせて
セルゲイエフ版踏襲のこどもバレエ『白鳥の湖』でお目にかかれる機会がまたあれば幸いでございます。

美術がぼんやり淡めのタッチで描かれていた点も設定国を明確にせずお伽話の世界に入り込んで欲しいとの意向だったようで
中でも抑えた暗めの色で整えられた湖がシンプルに描かれた背景美術はダム湖にも錯覚させましたが、プログラムに目を通すと納得したものです。
美術とはまた違いますがハリボテ白鳥廃止になった点も寂しく笑、王冠被った白鳥を目にした王子が大袈裟に驚いて弓矢を持ったまま袖へと走る
往年の古き良きロシアバレエと日本昔ばなしが融合したあの不自然さこそおとぎ話な『白鳥の湖』を観に来た気分を高めてくれる効果大だっただけに
白鳥さん、子どもバレエでの遊泳を心待ちにしております。

さて前置きが長くなるのは毎度の定番であるのはさておき、公演年ごとに印象深く刻まれている内容を綴って参ります。
万一抜けがありましたらご容赦ください。


2006年11月公演
初日を飾ったのはゲストの常連であったザハロワとマトヴィエンコペア。
歓喜したのは酒井はなさん山本隆之さんペアの公演日がのちにDVD化されて新国立バレエ初の映像ソフトとして2009年に発売。
勿論大事に手元に持っております。(同時発売は2009年ザハロワ主演日のライモンダ)
当時研修生であった小野絢子さん、井倉真未さんがナポリでの出演も話題になりました。
この後何年も続いておりますが、何と言っても山本さんの青いベルベット衣装のお姿がまあ眼福。
花嫁候補トップバッター寺島まゆみさんが煌めくオーラ発散、初日は寺島さんが現れた瞬間
遂に遂にソフトクリーム帽子からの脱却と観客から祝砲が飛んでいた気がいたします笑。
花嫁候補が恐ろしく豪華で寺島さん始め本島美和さんに真忠久美子さん、寺田亜沙子さんの並びなんぞ
華麗なる火花を散らす対決でございました。


◆2008年大阪フェスティバルホール公演
ボリショイよりルンキナ、ウヴァーロフを迎えて上演。大阪公演ならばなぜ山本さん主演でなかったのか
干支一回りした今も疑問を投げかけたくなるわけですが、海外ゲスト希望など諸々事情があったのでしょう。
フェスティバルホールは初訪問。当時は改装前でしたので古めかしい雰囲気漂う内観だったはず。
客席での出来事も印象深く、隣にいらした50代位の女性2人組が話しかけてくださり
主演のルンキナさん良かったですね、といった内容でしたが言葉が徐々に熱を帯びていく展開に。
「大阪言うたら山本隆之君の出身やなあ。何で今日主演やなかったんやろう?(私も心底同感)
あんたはバレエ習ってへんの?習ったらええのに。私たち今やってるねん。楽しいでー。青春や、青春!あはははは!!ほなまたな!!」
劇場や待合室など人が集まるところで偶然席が近くになった方と会話することは時々ありますが
初対面であってもこんなにも賑やかに言葉を発してしまう関西のパワーにはまだ大阪通いを始めてから3年目の新米東京人な管理人はたいそう驚き
そして大阪の方のオープンな人柄に触れることができて幸せに感じたのでした。


2008年6月公演
川村真樹さんがオデット/オディール初挑戦。平日昼公演でしたが鑑賞に出向きました。
5月公演の『ラ・バヤデール』を脚の治療のため降板なさっていた山本さんが千秋楽に復帰。
今思えば、最後に観た酒井さん山本さんペアによる初台での白鳥全幕でした。
当時はまだ正団員ではなかった?古川和則さんが新国立初登場、1幕ワルツの場で目に留まった際には
東京バレエ団での活躍が記憶に新しかっただけに大変衝撃でしたが新国立に新風を吹かせ
その後は『シンデレラ』陽気な義理のお姉さんや『ペンギン・カフェ』でのシマウマさんなど
思い返せば独特の個性で大活躍。近年も『シンデレラ』や『ロミオとジュリエット』モンタギュー公で出演され舞台を引き締めてくださっています。


2009年5月公演
新型インフルエンザが流行して若年層の間でも広がり、中学生のためのバレエ鑑賞日(ほぼ全席中学校団体が貸切)には来場者全員にマスク配布。
この日も足を運びましたが、当時は異様な光景に映っていたと今も覚えております。
確か男子校の中学生たちで幕間はたいそう賑やか笑、王子の騙しに成功したオディールが
高笑いして花を投げ走り去って行く箇所で中学生たちは終幕と思ったのか、喝采に嵐となった事態も微笑ましかったのでした。
同時に中学生諸君、君たちが観た王子様は世界トップクラスであることをよく覚えておくようにと後方席から無言で言い聞かせていた管理人笑。


2010年1月公演
小野さんがオデット/オディールデビュー。水曜日夜の公演でしたが、注目度が非常に高まっていた日程であったかもしれません。
ゲストのザハロワが直前降板し、他日主演の厚木三杏さんが急遽初日登場。初日開演前には牧さんが幕前に立ち挨拶。
ザハロワが出演を予定していたもう2回は厚木さんと川村さんが分担し
来日してから組むことが決まったお2人に寄り添うウヴァーロフの心のこもった鉄壁サポートも忘れられず。
福田圭吾さんの新国立での道化初挑戦もこの年であったはず。
前年秋に入団の福岡雄大さんによるフレッシュなトロワとキレキレスペインも話題になりました。
この年のダンツァでの山本さん、福岡さん、福田圭吾さんの対談によれば、福岡さんはトロワの衣装を実に気に入っていらしたご様子。
伊東真央(まちか)さんのナポリが反則級の可愛らしさで、両手を上に掲げてのお日様きらきら振付に頬が蕩けっぱなし。
ちなみに管理人の妹、前年に初演されたばかりの牧さん版くるみでの現代東京の演出には肩透かしだったようでしたが笑
全然知らずに観たクララの伊東さんの弾ける可愛らしさ軽やかさのすっかり虜になり、伊東さんのナポリ目当てに白鳥の湖も鑑賞。
1幕の村人でも伊東さんはすぐ発見できた、ウヴァーロフの頭身バランスが良い意味で驚異過ぎる、など満足度は高かったようで安堵。


2012年6月公演
米沢唯さんがオデット/オディールデビュー。中国国立バレエから初ゲストとしてワン・チーミンとリー・チュンが登場。


クラシックバレエハイライト(湖畔の場面のみ) 厚木・姫路・和歌山
厚木公演のみ鑑賞。平日夜でやや遠方とは言っても新宿から1本で行ける距離に位置する厚木で来客見込めるのか不安であったが的中。
しかしプログラムの質は良く、堀口純さんのオデットがしっとり感情を奏でる美しさがあり全幕が一段と楽しみになったのでした。


2014年2月公演
大雪に見舞われた翌日あたりに開幕。ちょうど冬季五輪開催中であったロシアのソチよりも東京の方が遥かに寒く積雪量も多き天候でした。
厚木でのクラシックバレエハイライトで観た堀口さんの全幕オデットに感激。
英国バーミンガムロイヤルバレエ団での『パゴダの王子』客演を控えていた小野さん福岡さんペアは初日の1回のみ登場。
16日の米沢さん、菅野英男さんペア日は皇太子殿下(現天皇陛下)が来場なさっての上演でした。
長田佳世さん、奥村康祐さんが共に初役?だったと思うが奥村さんの勢いと爽快感が止まらぬ鮮烈なジークフリート王子デビュー。
お2人とも翌月の新潟県柏崎市公演でも主演。




手塚プロダクションとのコラボレーションでピノコ登場。
そういえば、一時期存在したホワイエのガチャガチャはいずこへ。お目当てのダンサーが出るまで粘っていた友人もいました。


2015年6月公演
ムンタさんがゲスト出演。ゲネプロも鑑賞し、ペッタリ斜め分けだったためか一昔前のサラリーマンを彷彿笑。
そして入団前の木村優里さんがファーストキャストのルースカヤで登場。期待のかかり方が窺え、その後も目を見張る活躍を見せています。
米沢さん、ムンタさん日はNHKで放送されました。(録画したが、放送時にちらっと見た1幕冒頭以降はまだ見ておらず)





賛助会会員の方よりお声かけいただきゲネプロ鑑賞。サービスドリンク、アルコールも対象でした。


2018年5月公演
2公演のみの鑑賞であった前回2015年とはまるで別人となった管理人、心境及び鑑賞体制大違いで全日程鑑賞。
渡邊峻郁さんが牧さん版全幕では初のジークフリート王子役。
2016年の子ども白鳥を見逃しておりましたが、新国立では2015年以降この先全公演Z席(4階末端の最安値席)鑑賞で十分と宣言していた私が
2017年のヴァレンタインバレエでの黒鳥パドドゥ目当てにC席を購入する行動に走り、その後については省きますが
感情が深くこもっていて全幕観ているかのような出来に感激。(髪型はもう一歩だったが笑)
外部でも特殊なスタジオ空間にて1m程度の至近距離で鑑賞した湖畔のパドドゥのみや
全幕の中の1幕から湖畔までといった抜粋では何度か鑑賞していただけに待ちに待ったご登場でした。
ただ渡邊さんの白鳥の湖においては牧さん版よりも2019年の子どもバレエのほうが心に刻まれおり、
東京以外でも急遽の大阪公演含めて2回観たりと回数が多かった、だけではないと思うのだが。
演出が好みだった点も一因か、そうだ牧さん版のときより髪型が自然だったのだ。(そこかい)

主役日だけでなくソリストな役以外でも連日何処かしらにご登場、トロワは分かるが
プログラムにもキャスト表にも未掲載ルースカヤの付き人には大仰天。踊る箇所は一切無く、冒頭で登場するルースカヤ嬢に付き添い
背後を歩いてエスコート。王子がオディールに愛を誓い雷鳴が轟くと再び一緒に退散する、これだけの役で注目なんぞしたことはありませんでしたが
毛皮の帽子始め衣装、ブーツも渋めの茶色ですっきり整えたロシアな格好がまあ似合い
役の存在すら忘れかけていた身としては白鳥の楽しみ方がまた1つ増えたのでございます。
付き人も演者によって様々で渡邊さんは厳格な護衛官、中島駿野さんはおっとり優しい執事、小野寺雄さんはおとなしいお小姓、
木下嘉人さんは神経質そうなマネージャー、と個性も多様。2006年の初演から観ている牧版白鳥にて
まさか付き人観察する日が到来するとは人生分からぬものです。プリンシパル昇格前のダンサーに注目するとこうも連日面白いのかと
『シンデレラ』御者事件に続き『白鳥の湖』においても感じた公演でした。

付き人で締め括りそうになりましたが日によってはトロワが最も印象に刻まれた日もあり、
そう口にするのは人生初のバレエ鑑賞であった1989年ABT来日公演バリシニコフ版『白鳥の湖』以来。
柴山紗帆さんの美しい型を崩さぬオデット/オディールも予想以上に心に響き、他日も我が心はゴールデンウィークお祭りわっしょい。
今思えばこの年の公演が牧さん版白鳥最後の鑑賞となりました。



限定デザートカリッと香ばしいスワンシュー。子ども白鳥では湖を模したゼリーが敷かれ、小ぶりの三羽。
更なる進化型で販売していました。マエストロ自信作!?



柴山さん奥村さん主演日鑑賞後はお世話になっている友人とスワンレイクカフェへ。レジ前に描かれた白鳥さんたち、おめかしして乾杯。



スワンレイクビール。グラスも白鳥です。



たっぷり注いでくださったワイン。コースターがまた細やかで美しい柄。1997ですから新国立劇場と同い年のようです。


2018年11月札幌公演
札幌文化芸術劇場こけら落としシリーズの一環でチケット入手できず残念ながら鑑賞は叶いませんでしたが、小野さん福岡さんが2日連続で主演。
貴族が全国公演ならではの配役だったようで、興味津々。


長くなりましたが、初演からほぼ全公演鑑賞しており振り返れば様々な出来事が脳内を駆け抜けていきます。
多少は突っ込みどころもあったにせよ、綺麗なバレエを魅せる古典作品としては衣装や美術も合わせて良作であったと思いますし
奇を衒っていないためバレエ初心者にも案内しやすかった点も強みだったかもしれません。
最後の上演と強調されていた山形公演を見届けることができずに終わってしまったのは悔やまれます。

今秋からはピーター・ライト版『白鳥の湖』。国王の葬儀から始まり、幕開けから黒を基調とした舞台美術や衣装に彩られ
爽やかな祝宴であった牧さん版とは全く異なる趣きです。
スウェーデン王立バレエの映像を講座で少し鑑賞し、1幕は特に王子の細かい芝居が至るところにあり
技術は勿論、相当な演技力がなければ場を持たすことが不可能な演出と見受けました。
新鮮なペアも組まれていますので、開幕を楽しみに待ちたいと思っております。

2020年4月8日水曜日

【今更ですが】【バレエオタクが突然歌舞伎を観に行ったら】歌舞伎版『風の谷のナウシカ』12月6日(金)




珍しくバレエではない投稿且つ昨年の出来事で恐縮ございますが、
昨年の師走はくるみ三昧であったため翌年に綴ろうと考えておりましたため、
またお子さん方の春休みに合わせて(ただ今年ばかりは新学期も開始できぬ学校が多いと思われますが)
金曜ロードショー・スタジオジブリ映画2週連続放送もありましたのでこの機会に失礼。
昨年12月6日(金)、新橋演舞場にて歌舞伎版『風の谷のナウシカ』初日夜の部を観て参りました。
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/604/

歌舞伎鑑賞は12年ぶり2回目。前回は言い訳を並べますと新国立劇場バレエ団『シンデレラ』新潟公演翌日だったため、
かの坂東玉三郎さんの舞が披露されながらあろうことかリラの精の魔法にかかってしまった管理人。
以来歌舞伎からは遠ざかっておりました。歌舞伎俳優さんの知識ほぼ皆無ながら
(バレエで例えるなら草刈民代さんと熊川哲也さんしか知らぬレベル)
『風の谷のナウシカ』の映画は上位五本に入るほど魅せられているため
また三鷹の森ジブリ美術館にも度々出向いており、歌舞伎化にも自ずと興味を持ち足を運ぶ決意に至りました。

さて以下は昨年1月上野での藤原歌劇団『椿姫』鑑賞時と同様、ここ数年は年間約80回舞台鑑賞のうち9割以上をバレエが占めている
バレエオタクが突如別分野の舞台を目にした珍感想が続きます。歌舞伎精通者からはお叱りを受けるかもしれぬ
素人にもほどがある或いは分野問わずバレエにとらわれている感のある且つ大雑把な支離滅裂内容でございますが悪しからず。

一言で申せば、よくぞあの壮大な物語を歌舞伎化したと唸らせる舞台でした。
原作は大変な長編ながら登場人物は一通り出てきますし、心配していた飛行物もメーヴェはワイヤーを使って
スキー場のリフトのように再現。映画でも原作でも実際にはもっと多数の飛行物が登場しますが
(映画のみでもバカガラス、コルベット、ブリック、ガンシップ、バージ等々風の谷にしてもトルメキアやペジテにしても各々装備は様々)
とても全ての再現は困難であるのは想定の範囲でしたから、ナウシカの相棒こと
メーヴェの大掛かりな登場のみでもまことに嬉しい演出でした。

またポスターからも分かるとおり、風の谷の王女ナウシカとトルメキアの王女クシャナを同等の主役として描いている点も魅力。
映画化にて原作ファンが最も不満を募らせたのが映画でのクシャナがまるで悪女のような描き方であった点と耳にしており
確かに映画だけを観ると、小さな国を脅かす傲慢で手段を選ばぬ悪党の女としか思えなかったのは事実です。
しかし歌舞伎では2人の心の交流を細やかに描き、葛藤や不安を打ち明けあったりとナウシカとクシャナ2人きりの場面も多し。
原作ファンの方も満足できる演出と見て取れました。

そういえば、敵役と思われがちなキャラクターも原作に即して主役同等と捉えた舞台といえば時節柄すぐさま浮かんだのが
新国立劇場バレエ団が2017年よりレパートリーに加えたウエイン・イーグリング版『くるみ割り人形』。
ネズミの王様を他日王子を務めるダンサーまでもが兼任し、英題にはMouse Kingの記載もあり
全体の演出が好みであるか否かはひとまず差し引き、ネズミ王の位置付けは納得いくものでした。
更には、ナウシカの原作者で映画史に残る数々の名作ジブリ作品を生み出してきた宮崎駿さんもくるみ割り人形の物語に魅せられた1人で
ジブリ美術館にて企画展まで開催。しかも展覧会名を「クルミわり人形とネズミの王さま展」と題するほど
ネズミの王様も主役級として描いていらっしゃいました。この企画展には勿論足を運びましたが
(ジブリ美術館まで頑張れば自転車で行けます笑。駐輪場もまた木や落ち葉に包まれ素敵なのです)
当然バレエについても触れていらっしゃり、宮崎さんが描いたプティパが余りに似ていなかった点はさておき
宮崎さん監修の実際にくるみが割れるくるみ割り人形が飾られていたり
手回しで動く絵を展示して戦闘シーンを臨場感たっぷりに伝えたりと相当凝った企画展でございました。

話が二転三転いたしましたので戻します。幕開けから驚かされたのは、メーヴェと並ぶナウシカの相棒のキツネリスのテトが
ぬいぐるみであった点。動物をいかにして描くか気にはなっておりましたがまさかぬいぐるみが登場するとは、
良い意味でほのぼの感が増して頬が緩んでしまうひと幕でした。しかも歌舞伎らしく、黒子さんが持つ棒の先端にテトが装着し
ナウシカの肩の動きに合わせて寄り添うように黒子が操作。何処かに行っているようナウシカに促されると
テトが舞台をサッサカ歩くように床上にて犬の散歩の如く動かして退散。
実のところ、黒子が登場した途端真っ先に脳裏を過ったのは同年1月に上演された新国立劇場バレエ団ニューイヤー・バレエでの
中村恩恵さん版『火の鳥』における黒子さん。火の鳥を裏で支える謎めいた役柄として3名登場し
役名や衣装の色彩は同じでも和風、中華風、ハリウッドアクション映画風と各々衣装が異なっていたわけですが
浮かんだのは勿論和風の黒子さん。ああ、テトを大事そうにナウシカになつかせていると思うと愛おしさも妄想も倍増せずにいられず
新橋演舞場においても、人間とはかくも身勝手な生き物であると猛省していた管理人でした。

さてバレエの話からは切り離しまして、衣装は主要な役柄は原作に近い、或いは原作の味わいに着物を合わせたデザイン。
中でもユパ様の大きな帽子に髭と着物の組み合わせは和洋折衷な装いでなかなかユニークでした。
ただ気にかかったのは、民衆の衣装が完全和物で戦国時代のドラマを彷彿。(大河ドラマ平清盛に近かった気がいたします)
ナウシカの舞台はこれといってはっきりとした設定国はないものの風の谷のモデルはパキスタンのフンザとされていて
映画や漫画で服装を見る限り少なくとも日本ではない。また和装の民衆の光景を眺めると
宮崎駿さんの名作の1本である、日本を舞台にした『もののけ姫』を脳内再生。
ナウシカの世界への入り込みにやや時間を要した一因にも繋がり、伝統芸能に漫画を当てる難しさを明示していたともいえます。
アスベルも着物に髷でしたが、工房都市ペジテの出身らしくもう気持ち飛行機乗りな装いであると尚良かったと思っております。

台詞回しや声についてはいかんせん歌舞伎ド初心者であるためバレエ鑑賞時の如く重箱の隅をつつくことは致しかねますが
セルム役の中村歌昇さんも声が映画のナウシカにてアスベルの声を務めていらした(もののけ姫のアシタカ担当)
松田洋治さんの声に似ている印象で、引っかかりながらの鑑賞となってしまいました。これは中途半端なジブリオタクな管理人の脳内設定がいかん笑。
動物系の演出にてテトと並び興味津々であった、ナウシカやユパが映画中で乗用していた鳥のトリウマは人間が組み合わさった形。
私の席から花道が見えず、夜の部にも登場したかは定かではなく尾上菊之助さんが跨る姿は目にできずでしたが
まさか本物のラクダを連れてくるわけにはいかないでしょうから人間合体型と後から知って納得でございました。
ただ人間合体型である都合上、映画で目にしたような疾走場面は無かったもよう。

終盤では歌舞伎といえば大勢の方の脳裏に浮かぶであろう頭をブンブン振り回す連獅子と思われる場面もあり
歌舞伎を観に来た気分を一層高めたと同時に記憶が正しければ主要な2人がブンブン回していて
後方で多めの人数がぐるぐると回っていたため(頭ごと振り回していたかは記憶曖昧)
上階から眺めるとバランシン振付『シンフォニー・イン・C』でのフィナーレにおける第3楽章を彷彿。
目が回るよりもビゼーの交響曲が先立って流れた観客は恐らく私1人かと思います。
干支一回りぶりの歌舞伎鑑賞でバレエからは簡単には離れられず、諸々疑問も投げかけてしまいましたが
『風の谷のナウシカ』映画公開は36年前の1984年、つまりバレエ界では吉田都さんがプロデビューされ
ボリショイバレエ団がグリゴローヴィヂ版『ライモンダ』を初演し、日本でダンスマガジン創刊号が発行された年。
監視体制に疑念を抱き始めた役人を主人公に描いたジョージ・オーウェルの代表作も『1984年』です。
(あらすじには記録の改竄作業に打ち込むと記され、現代の日本を風刺しているとも受け取れる内容だが)
私にとっても縁ある年で、ザ・ベストテンを欠かさず視聴しロサンゼルス五輪をテレビ観戦しながら
体操の森末慎二さんや陸上のカール・ルイスの偉業に拍手を送っていた日々を懐かしく思い出すと綴っているのは
当ブログには遅くに到来した4月1日の行事か否かは想像にお任せしつつ
年月を経ても色褪せぬ、現代社会にも突き付けるテーマが宿る作品であると歌舞伎においても再度感じさせました。
他にも王蟲や巨神兵など申したいキャラクターや演出は多々ありますが、長くなりましたのでこの辺りでお開き。
夜の部のみでも4時間超えの長丁場ながら、疲弊は多少あれども笑
ナウシカの世界の要素を取り入れた、初心者も堪能できる歌舞伎であった印象です。
もし再演が決定し、ご覧になろうとしている方は映画ではなく原作の知識があれば尚のこと楽しめるかと思います。
登場人物も多岐に渡り名前も独特の響きですので、原作本読破おすすめでございます。
映画の内容は今回鑑賞した夜の部ではなく昼の部つまりは前半に含まれているため、
再演の際には昼の部鑑賞を決意。腐海の底の澄み切った世界や王蟲の触手の描き方が特に気になっております。

ところで先述の通り宮崎駿さんはジブリ美術館でくるみ割り人形展を開催し、想像でお描きになった
似てはいないプティパの絵を公開なさっていたほどでジブリ作品のバレエ化もそれ以前から勝手に夢見て妄想しております。
ビントレー版『アラジン』を観た際には新国立の舞台機構を生かしてタイガーモスやフラップター、ゴリアテといった
飛行物の空中演出も可能であろうとラピュタが良さそうに思えましたが、日本を題材にしたもののけ姫も推しております。
本島美和さんのエボシ御前や寺田亜沙子さんのタタラ場リーダー、ぴったりかと想像。
アシタカを乗せて旅を共にするヤックルをどうするか、これは難題だ。




歌舞伎通且つバレエもご覧になっている方と木挽町広場で待ち合わせ。初めて訪れ、お土産の種類の多さにびっくり。
お土産といえば演舞場内にも充実。舞台写真も販売されていましたが、ブロマイドの呼称で親しまれているらしく
近年耳にしないためか不思議な響きに感じた次第。新国立劇場の場合は舞台写真、と記して販売されています。
ブロマイドと聞くと、フォーリーブスや更に遡って宝田明さんや岡田眞澄さんといった
往年のアイドルや映画スターが写っているものを想像してしまうのは私ぐらいか。



歌舞伎といえばお弁当。食いしん坊の管理人、木挽町広場で購入。



帰り道、大都会の銀座。石原裕次郎さんと牧村旬子さんの『銀座の恋の物語』を再生しながら闊歩。



闊歩するうちに有楽町ガード下へ。今度はフランク永井さんの『有楽町で逢いましょう』の気分。



日本酒熱燗と鰆の炙り焼きで乾杯。


ナウシカの漫画。壮大な世界観に圧倒されますが、正直申し上げると繰り返し読みたくなるような内容ではございません。
とにかく重たくそして虫の描き方が写実的でなかなかのインパクト。



CDも集めて大事にしておりました。



2003年に東京都現代美術館にて開催されたジブリ立体模造展で購入した書籍。
他にも池袋のアニメショップで見つけた映画公開当時のアニメ雑誌もございますが、表紙が強烈な絵柄であるため
バレエブログでの掲載は遠慮いたします笑。



DVD特典フィギュアセット。自宅に届いた際、家族が仰天しておりましたが無理もないか。



英語学習用のテキスト。テスト問題もあり、これなら親族の間で学業成績の話題は現在も禁物状態にある管理人も勉強が捗りそうです。

さてバレエではない分野の鑑賞記事ながら長くなり申し訳ございません。
当ブログ、先月末で開設から7年を迎えました。開設時は新国立劇場Dance to the Future2013上演の時期で
ここまで継続できているのは読者の方々の存在があってこそであり
繰り返しにはなりますが、知名度の低い且つ素人が綴っているしかもタイトルはアで始まるからと30秒程度で思い付いた
適当にもほどがある性格の管理人が運営する当ブログに1秒でもお越しくださった方は貴重な貴重な読者様です。
本当にありがとうございます。
まさか開設から7年後、舞台芸術の開催鑑賞がここまで厳しい状況になるとは思ってもおらず
感染拡大や医療崩壊等世界各地で気が滅入る状態が続く情勢に胸が痛まずにはいられません。
収束を願いつつ、他人事ではなく明日は我が身と意識を持ちできる対策は念入りに行っていきたいと思っております。
バレエは劇場で生で鑑賞する鮮烈な感激を大事にしたい一心で特例もあるものの長時間の動画検索や再生は極力控え
記事のテーマも劇場に足を運んでの鑑賞記が大半でしたが現在は困難であり
公演を中止にしても生活に潤いを届けたいと映像配信をしてくださっている劇場及び舞踊関係者の方々に感謝し
関連書籍や映像、雑感の範囲を広げる等趣向を転換させつつ継続して参りたいと考えております。
筆が遅く、更新は週1回程度のこまめとは言い難いブログではございますが今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。

※次回は4月4日に東北地域にて鑑賞予定であった公演に関する内容を検討中でございます。

2020年4月2日木曜日

【お茶の間観劇】食卓の椅子に着席してライブストリーミング開演 新国立劇場バレエ団DANCE to the Future2020コンポジション・プロジェクト 3月28日(土)

3月28日(土)、新国立劇場バレエ団DANCE to the Future2020
コンポジション・プロジェクトライブストリーミング配信を鑑賞いたしました。

https://www.nntt.jac.go.jp/dance/dtf/

https://www.nntt.jac.go.jp/dance/upload_files/DtF2020-livestreaming-program.pdf

https://spice.eplus.jp/articles/264453

音楽を手掛けられた平本正宏さんのツイッター。音楽の聴きどころや
リハーサルで振付作業に打ち込むダンサーたちと接しながらの作曲過程を丁寧に綴ってくださっています。
https://mobile.twitter.com/HiroHiramoto?p=i


ライブストリーミング配信映像、明日4月3日15時まで視聴可能です。



コンポジション・プロジェクトによる作品
音楽:平本正宏
アドヴァイザー:遠藤康行

Works from The Composition Project

「〇 〜wa〜」
グループ『DO/ 動』 衣裳:朝長康子
渡邊峻郁 木村優里 益田裕子 稲村志穂里 太田寛仁 関 優奈 徳永比奈子
中島春菜 中島瑞生 原田舞子 廣川みくり 渡部義紀 伊東真梨乃


「A to THE」 グループ『ZA/ 座』
柴山紗帆 飯野萌子 広瀬 碧 福田紘也 益田裕子 赤井綾乃 太田寛仁
関 晶帆 仲村 啓 西川 慶 原田舞子 樋口 響 廣川みくり 横山柊子


DO/動は小宇宙に鋭く斬り込んでくる連鎖を思わせ、テクノ系の音楽と融合してのせめぎ合いが迫りくる感覚。
暗闇の中で自在に変容していくすっきり時には混沌とした不思議なSF世界が現れた印象で
中でも渡部義紀さんのダイナミックに駆使する身体能力に驚かされました。衣装は全員淡いブルー系。
ZA/座は重力を引き摺るような趣で、西川さんのしっとり且つ訴えかけてくるソロを軸に展開。
女性ダンサーたちの黒いダボっとしたシャツと黒い短パンが眩しく映えるデザインでした。
どちらのチームもダンサーの案とアドバイザー遠藤康行さんの助言が上手く合体していたと見受け
目で追うのが面白い作品に仕上がっていた印象です。全員が振付家として挑んだ共同作品である以上
所々ばらつきや無理やり繋いだ感のある箇所もあったのは否めませんでしたが
本公演ではなかなか実現しないであろう斬新な人員構成やダンサーの新たな一面の発見も多々あり。
横山さんと赤井さんによる実はコンテンポラリーもお手の物な女性コンビ披露もこのプロジェクトならではでしょう。

振付家発掘はDTFの醍醐味ではあり、始動は2012年ですから年々ダンサーによる作品のレベルは上がりつつも
ここ数年常連のダンサーの名前ばかりが並んでいる状況は気になっていた点でもありました。
(そのため概要を掲載したチラシを初めて手にした際、振付者の欄に渡邊さんのお名前を見つけ
更には振付は初めてであるとアトレのインタビューでも仰っていたため二重に驚いた次第)
遠藤さんの助言を得ながら自身の構想を伝えて取り入れたり、
階級や契約登録関係なく意見を交わしながら新しい作品を仕上げていく作業は大きな収穫であったに違いありません。

公演中止は残念でしたが先行き不安なこの状況において一部だけでも配信してくださり
配信の環境を整えてくださった劇場に感謝するばかりです。
一方入念な準備を重ねながら公演中止を余儀なくされ、無観客の場での披露は
出演者やスタッフの方々の心情を察するに余りあるもので事態の早期収束を願うしかありません。

惜しまれるは我がパソコンは長年故障しておりタブレット端末は古いモデルのため動画鑑賞が不可能。
渡邊さんのベジャール版火の鳥主演リハーサル映像を連日再生していた頃はタブレット端末での鑑賞でしたから
約2年半前は再生可能であったのか。そんなわけで今回は携帯電話画面での鑑賞であったため
目に飛び込む範囲が格段に狭まり、新国立の鑑賞ながら珍しく短文であった点はお許しください。(むしろ良かったか)
尚映像配信であろうが携帯電話鑑賞であろうが新国立鑑賞には変わりなく
毎度の開演前アナウンスや幕間の一杯妄想はしかと行った管理人でございます。


------------------------------------------------------------

※残念ながら観客前でのお披露目は持ち越しになってしまいましたが上演予定であった団員振付作品。
毎回全作品胸躍らせて鑑賞に臨んでおり、次こそは上演を心待ちにしております。
6年前に映画『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』を鑑賞していた経緯もあり(加えて云々笑)「Seul et unique」は勿論のこと
バレエ団本公演では同じ役や曲で共演する機会がまずなさそうな個性豊か過ぎるメンバー構成の
「コロンバイン」も特に気になる作品の1本。髙橋さんがいかに取りまとめたか、披露を待ち侘びております。

「Seul et unique」
【振付】渡邊峻郁
【音楽】ニコロ・パガニーニ
【出演】中島瑞生、渡邊拓朗

「Contact」
【振付】木下嘉人
【音楽】オーラヴル・アルナルズ
【出演】米沢 唯、木下嘉人

「福田紘也2020」
【振付】福田紘也
【出演】速水渉悟、宇賀大将、川口 藍、原田舞子、福田紘也

「アトモスフィア」
【振付】木下嘉人
【音楽】ルドヴィコ・エイナウディ
【出演】福岡雄大
【ピアノ演奏】蛭崎あゆみ

「神秘的な障壁」
【振付】貝川鐵夫
【音楽】フランソワ・クープラン
【出演】米沢 唯

「コロンバイン」
【振付】髙橋一輝
【音楽】ソルケット・セグルビョルンソン
【出演】池田理沙子、渡辺与布、玉井るい、趙 載範、佐野和輝、髙橋一輝

「accordance」
【振付】福田圭吾
【音楽】峯モトタカオ、アルヴァ・ノト
【出演】小野絢子、米沢 唯、福岡雄大、木下嘉人、五月女 遥、福田圭吾

------------------------------------------------------------



帰り、ではなく視聴後は冷蔵庫に手を伸ばして家呑み。
寝床はすぐそこ。日本酒にウイスキー、白ワインを並べ鑑賞後はちゃんぽんだ笑。
金水晶さんは今週から放送開始された、朝の連続テレビ小説『エール』主人公のモデルである
福島県出身の作曲家古関裕而さんに因む限定ラベルも製造。次回呑んでみたいと思っております。



明後日鑑賞予定であった新国立劇場バレエ団山形公演『白鳥の湖』は来年に延期。
新国立にとって初の東北公演、来年こそはお目にかかれますように。
舞台のみならず現地で温泉や銘酒、米沢牛も堪能する気も満々でございます。
気になるのは当初の予定通り牧版か、それとも10月11月のピーター・ライト版上演後の白鳥となれば山形もライト版か
新たな概要の発表を待つのみでございます。
⇒ピーター・ライト版での上演予定と本日発表。
https://yamagata-bunka.jp/news/2020/04/02038323.html

→ライト版上演延期に伴い、当初の予定通り牧版上演。