2026年8月20日木曜日

秀逸で意表を突く台本 谷桃子バレエ団『シンデレラ』 8月9日(日)




8月9日(日)、谷桃子バレエ団新制作『シンデレラ」を観て参りました。谷バレエのシンデレラは1991年メッセレル版の高部監督主演公演を観て以来35年ぶりの鑑賞です。
https://www.tanimomoko-ballet.or.jp/2026cinderella/


シンデレラ:殿岡遥
王子:千野円句
母大蝶々(マザーバタフライ):永橋あゆみ
父バッタ男爵:檜山和久
継母:高岸直樹
義姉:今井智也
義妹:浅田良和
ダンス教師:中野吉章
王子の従者:昂師吏功 安田幹 二村康哉
てんとう虫:齊藤燿
トンボ:光永百花
スペイン女性ソリスト:高橋夏海
オリエンタル:大塚アリス
ロシア女性ソリスト:高谷麗美


殿岡さんのシンデレラは分かりやすく明るい、無邪気で愛嬌あるタイプではないが内側から朗らかさが滲み出る少女で、
仲良しだった頃の義姉達とのカード遊びもゴタゴタ争い合う姉妹を穏やかに見守り受け止める度量も持ち合わせた頼もしさすらありました。
眠れる森の美女のときも感じましたが見るからに麗しいプリンセスな容貌では決してないながら、アームスやステップ1つ1つがとにかく優雅。
シンプルなエシャッペ1つにしても爪先から花が咲くようにエレガントなムーヴメントにも驚かされ、惚れ惚れいたしました。
王子に対しても内面から出る愛らしさ優しさが響き、ただ懸命に快活に誘うのではなく
王子の寂しげな心を覗き込み、そっと触れるように丁寧に手を置きながら語りかけたりと思いやりに満ちて芯の通った美しさに包まれたシンデレラであった印象です。

千野さんは実は舞台を拝見するのも初で、お母様の千野真沙美さんの1980年代後半頃のインタビュー記事は頁に穴が空くほど読み通しておりましたため
ご子息のお姿、ようやく鑑賞が叶いました。勢い任せな踊り方を一切なさらず、癖のない素直でまっすぐ、ソフトで上品な踊りが貴公子にぴったり。
内向きで人前に出たがらない、少々鬱々気味な性格をしたこの版特有の王子像に頗る嵌っていた印象です。
登場時のお誕生会の主役ですかと突っ込みたくなる王冠にはまさか装着したまま踊り続けるのかと度肝を抜かれたが、
すぐさま不機嫌な顔で王位なんて嫌と言わんばかりに外してくれましてほっと一安心笑。
未知数であった殿岡さんとのパートナーリングも、しっかり者であっても何処かで夢を見ていそうなシンデレラと、
消極的な態度であったはずがシンデレラと出会って段々と行動力を付けていく王子の優美な慈しみ合いがとても新鮮に微笑ましく映りました。

義姉義妹はバレエ界のトップを長年走っていらっしゃる今井さん浅田さん、この2人が揃って姉妹役で共演とは誰も想像つかなかったことでしょう。
裏打ちされた技術、舞台経験が生かされ、シンデレラと並んでいるときは変に目立ちすぎず、
しかし見せるべきところではびしっと見せるメリハリが舞台に心地よい刺激を与えていました。
今井さんは美貌のお姉さん、浅田さんはお茶目な妹さん、メイク方法もすっきりな姉と派手めな妹、各々全く違っていて特徴を強調。
2人ともポワントで踊られ、しかもダンスレッスンがポワント初級なレッスンに重なる内容で笑、怪我せずずっこけながらこなすのも高度な技術不可欠です。
露骨な意地悪はせず、例えばシンデレラを呼び出したと思ったら美しい爪先を見て欲しかっただけであったりと
お茶目な部分を前面に出して険悪な空気は極力和らげていた演出と見て取れました。

継母の高岸さんはゴージャスなスターな存在感。しかし高岸さんもまた舞台経験の豊富さが窺える立ち回りで
シンデレラより過剰に目立とうとはせず立ち位置をよく把握なさりながらの振る舞いは好印象。
加えて3人に求められたのはただ笑いを取る、シンデレラに意地悪するのみならず、群舞と一緒に踊る力量。
舞踏会においてはバタバタ劇を描くだけでなく、群舞と一緒にダイナミックに踊りながら王子の登場を盛り上げるなど調和力も求められ、やることもりだくさん。
高岸さん今井さん浅田さんの動けるベテラン実力者が揃ったからこそ、魅力が物語を楽しく彩り、光っていたと捉えております。

そして両親(生まれ変わり?)が物語の大きな要として君臨。とりわけバッタ男爵(父親)はひょっとしたら王子よりも踊る見せ場多き役で、スタイリッシュな紳士として描写。
馬車の御者やシンデレラの宮殿エスコート、またいくつもの場面と場面の橋渡しにて軽快に舞っては楽しませたりと大活躍です。
鋭いジャンプも多用され、檜山さんの綺麗な足捌きに爪先、そしてシンデレラへ愛情深い包容力、興奮と安心感双方で会場を満たしてくださったように思えます。
大蝶々の永橋さんは装置転換時に中央から艶やかにご登場。ヒール靴でのお露目で、これといったバレエのテクニックはあまり含まれず
つい最近まで全幕バレエ公演に主演なさっていた永橋さんには踊り足りない印象にも感じたものの(同役ダブルキャストの大女優さんに合わせたのか真相は分からぬが)
この世の者とは思えぬ神々しいオーラと母性に感嘆。父親も母親もシンデレラの舞踏会の最中も、舞踏会から戻ったあともそっと見守り続けていて
すぐさま助けるだけでなく試練も与えながらもシンデレラの味方としてずっと見守り、観る側からしても救われる存在です。

高部監督のオリジナル台本として意表を突く要素もいくつもあり。まず、幕開けはシンデレラと義理の姉妹達が仲良くカード遊びに夢中になっていて、父親は健在。
つまり、義理の親子関係も連れ子同士も上手くいっていた家庭だったのです。シンデレラも可愛らしいワンピースを着用していて姉妹達とは対等な関係を構築。
しかし父親が船で出張中に亡くなり、知らせが入った途端に継母の意識がどこか歪んでしまい、家長になろう、威厳を持とうと頑張り過ぎてシンデレラに当たってしまい、
ついにはピンクのワンピースにシャベルで灰をかけると一瞬にしてボロ服に早変わり。
シンデレラがいかにしてボロ服を纏うようになったか、経緯までもがしっかりと描かれていたのは舌を巻いた次第です。

それから先述の通り王子が内向的であるのもリアリティがあって面白いと思えたと同時にシンデレラのほうが幾多の困難を乗り越えていて、
更にはあとにも触れますが両親からたっぷりの愛情注がれて自然豊かな場所で伸び伸び育った経緯も描かれている上に、
父親からは長旅の話を聞かせてもらいながら冒険心を育んでいたと想像。
宮殿へやってくると戸惑いよりも新しい世界への飛び込みにワクワクと胸を高鳴らせるのも納得。
そうはいってもずっとシンデレラが王子を助けてばかりではおとぎ話の根幹が揺らいでしまいますが、最後シンデレラがガラスの靴の持ち主と判明するも
出しゃばる継母がシンデレラに再び灰をかけようとすると、王子が立ちはだかってシンデレラを守り、あろうことか王子が灰かぶりに。
しかし王子は動じず、シンデレラとの再会を堂々と喜び合う展開は甘酸っぱい乙女心の欲求もきちんと描かれ、流れのバランス配分にも感心いたしました。

シンデレラの変身を手伝うのは飾られている絵の中から飛び出してきた虫たち。てんとう虫の齊藤さん、トンボの光永さん中心に雲、風、花、草の精たち、子役たちも加わるも、
どの役もあくまでしっかり踊る役として描かれているため子役わんさかな印象は薄く、シンデレラを導く支える頼もしいお友達な存在として活躍でした。
全体の人数は多めで、しかしよく練られた振付でシンデレラの周囲がみるみると変わっていく過程をよく表していたと感じております。

最初に映像が出てきたときは、映像に頼ってしまう展開かと不安が過るもそうではなく、短い時間で実は幼い頃に蝶々を通して王子との接点を持っていた過去をさらっと描き、
愛情深い両親と自然に囲まれて伸び伸び育ったシンデレラと、正反対であろう窮屈で孤独に育ったであろう王子、それぞれの子供時代を分かりやすく伝える映像でした。
映像といえば、ガラスの靴持ち主大捜査線にて、王子の世界捜査の様子は世界の名所を盛り込んだ映像も用いて巧みに描き
セットも最小限ながら回転式でお次の国へと乗り込む様子もごく自然。工夫が練られた演出でした。

一部動画においては私生活を露わにする内容や降板者の挨拶など過激な配信は抑えめにはなってきたものの
練習風景はほぼ全時間密着型と思われ、しかも視聴側は画面1枚で済むが、実際にはカメラや音声など
制作スタッフ複数名で撮影に臨んでいると思うと、撮られる側の心身に負担がかからないか心配も。
一方チケット入手大困難になるほどの人気バレエ団になったことを考えれば密着取材はなんてことはないのか、気にはなってきます。

感心したのは運営側のセンスで、千葉県民会館や東京文化会館では広いスペース生かしてイベント会場さながらの雰囲気でしたが
今回の新国立劇場では物販は極力ロビーではない、入場前の広い場所で開催。
そのためホワイエは落ち着いていてマエストロの軽食やデザート購入してゆったりお過ごしになる方も多数。
会場の規模に合わせての対応力に感心してしまいました。
カーテンコールでは再びワルツが演奏されると舞台上の出演者達が髙部監督筆頭にはばたき始め、
ブルーの蝶が天井から客席に何羽も舞い降り、幸福が飛び交う演出に観客大喜び。観客の心掴む大フィナーレでした。




満員!殿岡さんポスター



殿岡さん千野さん



殿岡さん



千野さん



赤野さん



ホワイエにて。



新国名物マエストロの軽食やケーキも変わらず販売。パリブレストです。



拡大。並べられたケーキやサンドイッチを見て美味しそう!お洒落!と谷バレエファンの方々から声が聞こえて買いに行くお姿も多々見かけ、嬉しい限りです。



タイムスケジュール。



手を掲げてポーズ!



ブルーのカクテルで乾杯。シンデレラと王子のブルーと白、銀色のグラデーション衣装、たいそう美しいデザインでした。



35年前のチラシ。



夜のポスター


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