2024年5月31日金曜日

代官山の駐車場で地下バレエ   牧阿佐美バレヱ団DANCE ALOUD  5月25日(土)昼




順番が前後いたしますが5月25日(土)、代官山のヒルサイドテラスにて、牧阿佐美バレヱ団DANCE ALOUDを観て参りました。
牧バレエも遂に、所属ダンサーによる振付作品を一挙上演です。一度スタジオにてファンクラブ向けに上演したそうですが
アンケートにて良かった作品を1本選択との問いに悩みに悩むほど良作揃いで驚かされました。
https://www.ambt.jp/dance-aloud/



プログラムにて、作品、振付者、出演者、そして使用音楽や構想のもとになった文献等実に詳しく紹介されています。
特に音楽はあとからもう1回聴いてみたい曲も多々あり、曲目リストは大助かりでした。



「収集狂」振付:前田龍生
近藤悠歩  今村のぞみ

蝶々の収集を密かな趣味としているサラリーマンが意中の女性に対して危うい行為を働き、やがて夢の中で睦まじく戯れる展開。(違っていたらすみません)
映画『収集狂』から構想を得て時代は現代に設定。トップバッターからいきなりホラーサスペンスな作風で意表を突く順序ながら
近藤さんがどう見ても渋谷辺りで高層マンション物件の成約を次々と取っていそうなやり手の不動産営業で
だからこそ気を張っているビジネスから解放されて夜な夜な秘密の趣味に没頭する姿が妙にしっくり。
白い衣装に身を包んだ今村さんのしっとり妖しい色香と淑やかさが隣り合わせになった女性役が、過剰なことをせずとも見惚れてしまう危険性を匂わせ説得力もあり。
6作品の最初は健全系な作品がくるかと思いきやいきなりアダルトサスペンスな攻めプログラムで
ただ音楽と振付、サラリーマン男の哀歌も含ませた雰囲気がよく合っていて印象に最も残った作品となりました。


「Phantom」振付:小笠原征論
女怪盗:門脇紅空
男怪盗:大平歩  𡈽屋文太
警備員:小池京介

女怪盗と2人の男怪盗3人が侵入し宝石を盗むもうとしていると警備員が駆け付けて到着。
怪盗達は御用になるかと思ったら逃げ遅れた女怪盗が警備員を誘惑していく、少々カルメンなお話。
序盤からピンクパンサーのテーマ曲で3怪盗が嬉々として美術館を徘徊していて、
門脇さんが小柄で可愛らしい、どちらかといえば幼い雰囲気を持ちながらふとした瞬間に見せるお色気がムンムン。こりゃ警備員も職務放棄して落ちます笑。
そして小池さんの警備員が警備室でコーヒー(見間違いでなければ、恐らくは蓋つきのこぼれにくい、
オフィスでよく使用されていそうなステンレスマグカップだったか)飲んでいる姿からしてリアリティがあり、
私の勤務先にもいる警備員さんと腰掛け方がそっくり笑。制服姿や、警報がけたたましく鳴ってから懐中電灯手に
大慌てで巡回する様子も違和感皆無。女怪盗からの誘惑で、制服のボタンを1箇所だけ外すところも平静を保とうと踏ん張る姿として自然に映りました。
女怪盗のあの手この手な作戦を隅から応援する男怪盗達、ハラハラしながら壁をつたったりと何だか楽しそうに周りを固めていました。
尚、3怪盗達はアニメコスプレのような派手衣装ではなく、黒系で纏めてシックな装い。
だからこそ門脇さん怪盗の可愛らしいお色気が引き立ち、観ているこちらまで終始ドキドキさせられました。2年前に多摩センターでの発表会で拝見しておりますが、
益々お美しくなられたお姿をスタジオにて間近で目にでき嬉しうございました。


「flower,piano and motorcycle」振付:渡會慶
田切眞純美  檀上侑希  近藤悠歩  前田龍生  岡本尚之

ショパンの音楽を丁寧に紐解きながらダンサー1人1人が曲調に沿って形を作っていく様子が柔らかで、時折悲しい、寂しいような感情が広がるも
最後は心がふわりと花開くような良き後味で終演。例えば身体をくっつき合わせで集合体になった状態においても無理な体勢に思わせず
あくまで音楽が終始流れているように形作っていて、そこから離れて斜めに連なってもぶつ切りにならぬよう繋ぎの部分もとても滑らか。
笑いや派手な振付が一ミリもない、シンプルに綺麗に突き進む、
ショパンの音楽を目一杯生かした作品でした。


「NADJA」振付:石田亮一
山本翔子  細野生  石田亮一  依田俊之  鰐渕ののか  加藤瑚子 𡈽屋文太

アンドレ・ブルトンの『ナジャ』からナジャとアンドレの出会いから別れまでを石田さん独自の考察も入れて形にして振り付けられたとのこと。
音楽はラヴェルのラ・ヴァルス。曲の起伏や変化と振付、物語が見事なまでに噛み合っていて、
山本さんのナジャは清純さと奔放さが合わさった神秘的な艶かしさでアンドレをみるみると魅了。
そしてびっくりしたのが細野さんの鮮やかなテクニックで語る力で、リーズのアランを始めキャラクテールでの活躍の印象が先行しておりましたが
全編通して多彩な技巧、サポートも駆使してアンドレの喜びや苦悩も雄弁に表現され、作品を牽引。
波乱に満ちた2人の浮き沈みを更に引き立てるようにアンサンブルの彩り方もよく練られ、確か黒と白のチームに分かれて明暗をもくっきりと描き出していました。
『ラ・ヴァルス』の曲は元々は好きであったはずが、我が観劇歴の中でも駄作上位7本に入るであろう某作品での使用曲であったことがきっかけで好みから転落。
このバレエ団の公演感想記事では振付者のお名前はとても申せませんが、音楽は流麗なはずが平坦な振付に客席の集中度も怪しく
18年前にはワシントンD.C.でも上演され私もその場で鑑賞いたしましたが現地の反応は、以下略。(もう正解が見えつつあるか)
しかし今回、曲中のじわりとした襞のような部分に至るまでナジャとアンドレが交わす心の動きや展開に生かされていて、音楽の魅力も再発見でした。


「Devils Variation」振付:田切眞純美

佐藤かんな  光永百花  佐藤まひる  高橋晴花
清瀧千晴  大川航矢  渡會慶  小池京介  岡本尚之

題名からして、悪魔の宴組曲風の賑わいかと想像しておりましたが、お洒落で刺激的でユーモアな笑いも含む悪魔を万華鏡で眺めるような面白さに満ちていました。
音楽も古い映像に流れていそうな音源もあればシューマン、ビートルズもあり、多ジャンルから選曲で衣装は男女全員黒い小さなチュチュ付き。
中央での不思議な集合体から重心を下に、両腕を垂れ下げながら一斉に踊り出して、
ソロのヴァリエーションやカトル、パ・ド・ドゥへと繋げていく流れもよく考えられていました。
大川さんがぶったまげるジャンプで沸かせ、近くで観るのは初でしたから口あんぐり笑。
清瀧さんはキックボードに乗る姿も脚がピンと伸びていてしなやか。光永さんはしなるような身体の使い方で奇怪な美を体現。
佐藤かんなさんがすらりとした長身を伸びやかに操りながら小池さんと絡むパ・ド・ドゥも見応えありました。
最後は何処へ仕組んでいたのか踊りながら黒い涙の如き悪魔メイクを施し邪悪感倍増。ユーモア一杯な黒いオーラで締め括りでした。


「Fix You」振付:織山万梨子
久保茉莉恵  近藤悠歩

大トリが大人数大掛かり作品ではなく純白そうなパ・ド・ドゥであるのがまた面白い順序と思っておりましたが、いざ観たら納得。
多岐に渡る作品を上演してからの、映画のエンディングテーマの如く総まとめな趣きもありました。
スケール感のある音楽に身を委ね、混じり気のない美しさをひたすら大らかに奏でていく振付で久保さんと近藤さんに持ち味にぴったり。
(近藤さんからはやり手サラリーマンの雰囲気はすっかり消え去っていた)
久保さんの優しげな包容力から繰り出す優雅さにも惹かれ、エンディングに相応しいお2人でした。

一般公開は実質第1回目の企画のはずで(恐らく牧バレエでは初)、ダンサー振付の感性豊か且つよく練られた作品が予想以上に続々登場。
サラリーマン、悪魔、警備員等の変わり種から純白な作風まで多岐に渡り、本公演では脇やコールドでの活躍が多い方をも中心な役柄で鑑賞できたのは新鮮でした。
外部の地下スタジオでの開催で、劇場と違って照明や演出にはだいぶ制約もあったかと察しますが
出入りや照明の切り替え、大道具小道具の使い方も工夫に富んでいてとても楽しい企画でした。
こういった団員による振付作品上演はバレエ団問わず足を運びたい企画ですので、継続開催を望んでおります。




会場は駐車場にあるこの建物の地下です。まさか地下スタジオが広がっているとは思いもよらず。



帰り、会場から渋谷駅方面へ歩いていると行ったつもりで台湾なお店を発見。アクビという店名です。



台湾のクラフトビールも多種。塩気が効いたタイフーブルーイングをさっぱりといただきます。グラスもお洒落。



味変用の調味料。後ほど活躍。



魯肉飯。スパイスが効いた挽肉がふわりと盛られ、上品な味付けです。角切り肉の脂身が苦手な方はこちらおすすめでございます。



レトロな内装。虎と竜が合体して楽しそう。虎舞竜でしょうか。さて、食後は渋谷駅まで、安全第一に移動。
何でもないような事が幸せだったと思う、と言い聞かせながら更に歩いて向かいましょう。
桜丘に差し掛かって渋谷の大和田さくらホールに着く頃、そういえば5月23日に来たばかりと思い返していたところ同会場での7月の素敵企画が発表され、ニンマリ。
その前に、23日の件は次回を予定しております。(もしかしたら、ヴェローナが先になるかもしれません)

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