2023年10月19日木曜日

御伽噺なサスペンス  K BALLET TOKYO(Kバレエ トウキョウ)新制作 熊川哲也版『眠れる森の美女』10月14日(土)





10月14日(土)、渋谷のオーチャードホールにてK BALLET TOKYO(Kバレエ トウキョウ)新制作の熊川哲也さん版『眠れる森の美女』を参りました。
Kの眠りは17年ぶり鑑賞で、当時は浅川紫織さんや宮尾俊太郎さんがコール・ドにいらした頃。
長田佳世さんがパ・ド・シスの妖精、プログラムにて熊川さんの次にページ割いてインタビューや紹介記事が掲載されていたのが芳賀望さんでした。
その後はTBSドラマ『眠りの森』にてKバレエが全面協力出演し、話のテーマが『眠れる森の美女』でしたから衣装等を画面越しに目にする機会はあったくらいです。
https://www.k-ballet.co.jp/performance/2023sleepingbeauty.html

オーロラ姫:岩井優花
デジレ王子:栗山廉
カラボス:小林美奈
リラの精:戸田梨紗子
フロレスタン王:ニコライ・ヴィユウジャーニン
王妃:山田蘭
執事:ビャンバ・ボットバルト
フロリナ王女:長尾美音
ブルーバード:山田博貴
猫:世利万葉  金瑛揮
赤ずきん:山田夏生
狼:グレゴワール・ランシエ  中井皓己  高橋芳鳳
婚約者:杉野慧  グレゴワール・ランシエ  中井皓己
宝石:佐伯美帆  石橋奨也  島村彩



新制作であり、まだ後半の東京文化会館公演日程や大阪、福岡公演もありますので詳細は極力(でもないか)控えますが、
御伽噺にサスペンスが融合したようなスリルある展開でした。※以下所々ネタバレございます。これからご覧になる方はご注意ください。雑記風な記述が続きます。


プロローグは従来よりも家庭的な雰囲気をもう少し押し出し、王室の権力誇張な儀式感を削ぎ落として貴族達のゴテゴテした行列も無し。
延々と続く形式重視な祝宴に違和感を覚え、王室万歳ではなくもっとオーロラの誕生そのものに訪問客が心を寄せる場面にしたかったのかもしれません。
王妃の山田さんがたっぷりと踊る場があったのは嬉しく、デコルテ部分や首筋、立ち居振る舞いも抜群に美しく惚れ惚れ。
にこやかな笑みが岩井さんと何処か似ているのか、母子関係の構図も説得力がありました。
妖精達はリラを筆頭に、ソリスト陣は衣装は色違いですが4人で、名前や各々のヴァリエーションは無し。リラはあり。
これまた延々と続く妖精達の踊りに熊川さんは違和感を覚えていたのか、残して欲しかった気もいたしますが
代わりにいくつかの従来のソロ曲ではカバリエや子供達も加わっての祝福の踊りや妖精達が力強く踊る場としても披露。
コーダはあり、角度を少し変えながら並んでのリフトポーズで締め括りです。リラがだいぶ変形なポーズで持ち上げられて静止し、なかなか不思議でございました。

場面によってはここでこの人もう出るのか⁈なる演出もありますが、フロリナと青い鳥、猫達もオーロラとの関係性に落とし込んでいて
赤ずきんの位置付けは実に驚かされましたがただの添え物にしたくない意図には納得。
上野公演の日程は時節柄南瓜が目に浮かぶメイクにも見えなくもありませんが。
世利さんの猫が小回りが自在に効く大変な身体能力で場をリードする姿にも目を奪われました。
結婚式にもフロリナや猫達、改心した赤ずきん達もお祝いに駆けつけしかも姫と王子のグラン・パ・ド・ドゥも後方から見守る演出も繋がりがきちんと見えて好印象。
フロリナ達が別室に行かず(毎度思うが別室モニターから中継を視聴しているのかと疑問)主賓達の踊りを見届ける演出は東京バレエ団こども眠り以外では2団体目の鑑賞です。

1幕の花のワルツは宮廷ではなく森の中の生き物達の歓喜をオーロラ姫と共有し、つまりオーロラ姫がこのワルツで登場。
先に述べたフロリナ達とはお友達関係と見て取れます、恐らく。花々や蛙さん達とも仲良しで目一杯踊ります。
オーロラとデジレ王子が出会うのはこのあとで、オーロラがカラボス手下の狼集団の奇襲を受けているところに短剣手に勇猛にヒロイックに登場!
音楽は本来は貴族達が目隠し鬼遊びをしている曲で、急かす曲調が姫のピンチと王子による救出作戦の緊迫感にもよく合っていました。
しかもただジャジャン!と登場するのではなく跳躍を繰り返しながらの救出で、まさかな出会い状況でございました。
しかし単細胞人間な私は、少女漫画王道シチュエーション(読んだこと殆どございませんが)に色めき立ち、
Kバレエを観ているはずが他団で当て嵌めたくなった方がすぐさま脳裏に浮かびましてその後暗い影を漂わせ豹変していく場面を鑑賞していると更に加速。
勿論栗山さんの好演もあっからこそですが、上階後方列で興奮していた旨はお許しください。

デジレ王子はその後ヒーローから瞬く間に転落してカラボス達の魔力が乗り移り、事態は急展開。
そしてローズアダージオにて改めてオーロラが今度は白地にピンク薔薇が大きく描かれた優美なチュチュで登場すると
そしてあの日に出会った男性としてデジレ王子も再び登場。ローズアダージョの4人の中の1人として振る舞い、
何処かで出会った記憶が互いに交差するオーロラとデジレ王子の間には不穏な感情も生まれ、デジレ王子は1人だけ翳りや和を保てない静かな焦りもあって
惹かれ合いながらも冷たい不気味な物質に身体中が弄られかき乱される感覚がもたらされた気がいたします。
やがて最後、オーロラに黒い薔薇を渡して死に至らせたのがデジレ王子でした。チラシの文言をようやく咀嚼。まだ王子、邪悪な罠にかかったままでございました。

2幕はサクサクと進み、それまでの話の膨らみに比較すると王子とカラボスの対決やカラボスの敗北も呆気なく思えてしまいましたが
全体を通してオーロラよりも王子ありきな演出であった印象が濃く残っております。
デジレ王子の方々にさぞかし重荷ではあったでしょうが、栗山さんは大試練に見舞われる王子の翳を場面毎に微細に体現。
ローズアダージョ、幻影?、グラン・パ・ド・ドゥが全て2幕に含まれているためか体力配分はかなり難しそうで最後は栗山さんに疲労の色が見え隠れしていましたが
勇ましいヒーローから転落して毒持ち陰鬱殺人鬼な王子に豹変し、そして自身と姫の呪いも解いていくストーリーを
しっかり伝えてくださいました。王子としては合格点かと思います。来年多数の団体からの出演者が集う山口県での公演も訳あって拝見予定でおります。(Kバレエの方々も何名かご出演)
また16年前には札幌市での全道バレエフェスティバルドン・キホーテにて子役として出演されていた舞台も観ており、当時認識はしておりませんでしたが
この度は新版眠りにて主演舞台を初鑑賞できたのは大変喜ばしく感じております。

岩井さんの主役も初鑑賞。柔らかな品が香り技術も美しく達者。上品な魅力も備え、今後が益々楽しみになりました。
もう1組の主役とも呼ぶべきでしょう、カラボスの小林さんは黒いスタイリッシュなドレス捌きを颯爽と行いながら踊りでグイグイと宮廷の空気を暗雲立ち込める色味へと変え
自身の招待漏れを執事ではなく最終確認者、最高責任者であろうフロレスタン王の頭を掴みつつ縦横無尽に駆けながらとことん問い詰めるお仕置きが痛快に映りました。
リラの戸田さんはきりっと気風の良い凛としたリーダーで、包容力もありつつ
シャープでダイナミックなテクニックも駆使しながら妖精達を従え、カラボス達にも負けぬ力強さをも発揮。
4人の妖精たちもカラボス達と踊りで対抗し合いフォーメーションを素早く変えて行く情景を鮮やかな身体使いで魅せていました。

全体を通して、アトラギッチが手掛けた衣装は色味やデザインも上品。Kのダンサーにも皆さんよく似合っていた印象です。
カバリエの衣装は、初台の眠りのときには是非ブルーインパルス隊に貸し出し求むと願いたくなるほど、
薄いクリーム色だったか、甲冑模様を彩るようなスタイリッシュなデザインでございます。
フロリナ王女の少し渋みあるブルーやゴールドを合わせた衣装も高貴な輝きがありました。
解説文によればヴィクトリア朝に移してのイメージとのことで、そもそもブルボン王朝礼賛な作品からすると音楽と国王夫妻や貴族衣装のバランスが時折ずれ掛けている印象はあれど
コテコテの鬘や豪奢な衣装行列とはまた違ったすっと垢抜けた色彩美で綴る眠りもこれはこれで良いかと考察。
100年に及ぶ悠久のロマンはないものの、予測不能なサスペンス展開眠り、なかなか面白い新解釈でした。




Bunkamuraはオーチャード以外は改修のため閉鎖中。静かでございました。



帰りは渋谷のスクランブル交差点を避けるため、宿泊街な裏道を通って渋谷マークシティへ。
ロゼシャンパンで乾杯。生ハムイチジクとのセットで、ピンクの祝宴でございます。

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