2023年9月3日日曜日

篠原さんの生き様を投影していく作品の継承   Dance for Life2023   篠原聖一バレエ・リサイタル   8月27日(日)





8月27日(日)、池袋の東京芸術劇場にてDance for Life2023   篠原聖一バレエ・リサイタルを観て参りました。
http://www.seiichi-yurie.com/Infomation.html






「クリスタル」
初演は1995年、淡いエメラルドグリーンの長めのチュチュの衣装を纏ったコール・ドに
主軸は女性2人と男性1人の構成。バランシン『ジュエルズ』エメラルドに近いイメージです。
今回は吉本真由美さん、奥田花純さん、奥村康祐さんが率いる形で、中でも奥田さんが微風に包まれて輝くガラス細工そのものな繊細さで魅了。
脚先にまで届き奏でる音楽性の鋭さはに感嘆し、職人肌な踊りをこの度も堪能です。
ベテランながら奥村さんの若い息吹を思わすクリアな身体の使い方や、奥田さんそして芳醇な魅力を全身から醸す吉本さん双方と通じ合うパートナーシップも見所でした。
コール・ドの切れ味ある統制の取れ方にも目を見張り、音楽がテーマとヴァリエーションと同じ音楽でバランシンの振付が過るのも束の間、
素早い角度の切り替えや腕や脚のラインの連なりも反射するガラスの輝きの如く多面的な光を見せ
チャイコフスキーの音楽を更に細かく解いて全員で昇華させていた印象です。
最後はキンキラキンと光り輝く紙吹雪が降り注ぎ、煌きは最高潮へと達しました。


「Leave it to the flow」
浅田良和さん、荒井英之さん、檜山和久さんのトリオで踊られ、スピード感たっぷりに光がぽっかりと映された暗闇の中を縦横無尽に疾走。
どこまでも駆ける身体の器用さやスタミナ、突如3人で作り出す奇怪なポーズですらユニークと感じさせるもすぐさま次の展開へと繋がり、ダンスが凝縮していました。
プログラムによれば約6分間の作品と記されていましたが、もっと短く思えたほど。


「Charlie」
リサイタル開始の初期から手を加えながら上演され、私の初鑑賞は2012年。当時は記憶が正しければ金子優さんとのデュエット作品で、青山円形劇場の構造を生かし
篠原さんが客席から登場しながら愛嬌振り撒く演出にびっくりしたものですが、今回は無し笑。
チャップリンをイメージさせる帽子を被った女性のアンサンブルがパリのカフェを舞台に要所要所で絡んでは話を動かしていく役目を果たし
整列してショーダンスのように踊り出すかと思えばキビキビと隊形を変えながら舞台転換へ導いたりと大活躍。
Charlieは勿論篠原さんが踊られ、喜劇の中にも篠原さんの生き様が深く刻まれてしんみり。
女主人との掛け合いや客達とのひと騒動を滑稽さやおかしみを湛えつつ次々と降りかかる歓喜と寂しさ、ほろ苦さを表出しながら踊られ、
Charlieの人生をお洒落なステップ満載で披露されました。初演時は台詞も入り、「疲れたー、もう62歳」と仰っていましたから11を足して現在のご年齢を計算すると
パ・ド・ドゥをこなされる上に若手も含まれているであろうアンサンブルと一緒にいても、藤島光太さんが務めるパワフルな紳士との対決でも不自然さがなく
中規模作品のたっぷり踊る主人公として今も尚衰えが一切見えず、恐るべき若さであろうと思います。

音楽はコンスタント・ランバートやジョン・スティーブンソン他様々な作曲家で構成され、
私が30年以上前にバレエで観て気になっていた『ホロスコープ』が英国人作曲家のランバート作品であるとやっとこさ判明し、解決。
(アシュトン振付『レ・パティヌール』編曲者でもあるとのこと)
プログラムにも未掲載で30年前はインターネット普及前でしたから調べる術がなく、近年は英字でホロスコープ、バレエと入力すれば検索できたかもしれませんが
カタカナでしか入力していなかったためかヒットせず。「クリスタル」初演前から、Jリーグ開幕以前より気になってから気づけば30年以上の時が過ぎた今回
ホロスコープに似た節があると聴こえ後日調べたところ無事辿り着くことができました。
ちなみに本来のあらすじは把握できず(星座が登場するのか?)、銀河系を想像させる壮大な天体空間広がるシリアスな旋律でございます。


「Les Saisons」

初演は2012年「Season」としての下村由理恵さんリサイタルにおける上演を鑑賞しており、今回は改訂して「Les Saisons」として上演。
当時は下村由理恵さんを主軸に大畠律子さん佐々木大さん組(緑ぺア)、森本由布子さん山本隆之さん組(ピンクペア)、
大長亜希子さん荒井英之さん組(黄土色ペア)、奥田花純さんが配役されていました。音楽はチャイコフスキー『四季』管弦楽版より抜粋です。
クランコ版『オネーギン』と同じ2月の曲で始まる序盤に先陣を切って登場したのは藤島さんのパックで
前回は奥田さんが踊られ、それはそれは初々しく可愛らしい妖精が細かな脚捌きでぴょんぴょん跳ね回っていた印象が刻まれておりましたが
対する藤島さんは逞しいパワー全開で、全ての技がぴたりとおさまる安定感も抜群。
タイプが大きく異なるダンサーが務めるからこそ生じる違いの面白さに目が冴え渡りました。
小野絢子さんが下村さんパートを、奥村さんが山本さんパート担当等、胸が熱くなる一新キャストで
小野さんの孤高な哀愁や慈しみを漂わせながら空気を締めて引き上げる凛としたソロは2階席から観ると下村さんに似たシルエットにも思えてきて
冬の存在を想起させる白い枝の持ち方からして継承がきちんとなされていた印象。
違いを強いて申すなら下村さんは皆を優しく見守る女神、小野さんは君臨する女王といった趣き。どちらも私は好きでございます。

北村さんと奥村さんのペアは初組み合わせかと思われますが、何処かクールな北村さんとあたたかく引き寄せる奥村さんのバランスが宜しく
ドピンク衣装の着こなしも万全。母性が優しく滲む吉本さんと受け止める浅田さんも流れに厚みを加え、
闊達なパックから移行された奥田さんと檜山さんのペアが新鮮に映り音楽をしっとりと体現する身体の呼応にも目を奪われました。
最後は重厚華々とした9月の曲で全員集結し、円形劇場では四方を向くように立ってのポーズで締め括っていた幕切れは今回は全員正面向きに変更して終了。
人間模様の哀しみや喜びをも包む美しさを、生命力や大地を思わす力強さを膨らませていくチャイコフスキーの楽曲が奏でる四季折々の彩りに重ねた
観るとじんわりと胸に響き続ける作品です。今回の背景の木々が遠目では葱か何か、野菜に見えかけたときもありましたが(失礼)
再演の機会が巡ってきたことを、初演を観た者の1人として歓喜しております。
尚、初演地の青山円形劇場では手が届きそうな距離で山本さんを拝見し、演歌じゃないから触れるのは禁止と
友人らから念を押されたことも懐かしく笑、キャスト一新しての再演嬉しく鑑賞いたしました。

※ご参考初演時の感想でございます。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/2012-01ea.html


作品によっては約30年の時を経ても古さを感じさせず、それどころか新たなキャストによって命が再び吹き込まれ
作品が生き続けていく継承の大切さを再確認した思いがいたします。ミストレスとして今回は支える側に回られた下村さんの貢献にも頭が下がります。
また篠原さんの作品ははっきりとした物語の有無問わず人間が持つあらゆる感情を美しく包み込んで洗練された踊りに表していると今回再び感じ入り
今回のような篠原さん作品のミックスプログラム、是非上演をお待ち申し上げます。
北海道出身のバレエダンサー、振付家というと英国で長らく活躍されたのちにバレエ団を立ち上げ、
昨夜のTBS番組出演を始めメディアへの露出も多い熊川哲也さんに注目が行きがちですが
道内の舞踊界牽引の先駆者として全国各地で作品上演、指導も行っていらっしゃる篠原さんの偉大さは計り知れないものがあると思っております。




池袋にも開店と聞いて行ってみたかった、オールシーズンズコーヒー。



爽やかなアイスコーヒーにアイストッピング。


鑑賞前に、池袋のルミネで昼食。ハートランドビールを注文したら、SEASONの文字入りで嬉しい。
そしていかにして改訂しLes Saisonsとなったか変化にも期待が高まります。
Saisonといえば、西武池袋の動向も気になるところ。



季節のケーキ。桃がどっしり、瑞々しい甘さでした。友人はシャインマスカット入りの桃ケーキ。



コンサートホール前の天井



ガラス屋根



帰り、サッポロビールで乾杯。インタビューによれば、篠原さんがチャイコフスキーがお好きなのは
北海道出身で生まれ育った地理も影響しているかもしれないと語っていらっしゃいます。
私は北海道はこれまで数回しか行ってはいないものの、札幌交響楽団が演奏する『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』の
太く力強い演奏は今も忘れられず、ロシアの楽団の演奏に似ていると捉えた記憶がございます。
さてこの夏最後の鑑賞が無事終了。昨年ほど移動は多くなかったが、暑さが長引いた今夏でした。私の夏が終わりました。

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