2022年10月18日火曜日

秋山瑛さんのニキヤデビュー   東京バレエ団「ラ・バヤデール」10月15日(土)







10月15日(土)、東京バレエ団『ラ・バヤデール』を観て参りました。 https://www.nbs.or.jp/stages/2022/labayadere/index.html

※キャスト等はNBSホームページより

振付・演出:ナタリア・マカロワ(マリウス・プティパの原振付による)
音楽:ルトヴィク・ミンクス
リハーサル指導:フリオ・ボッカ、オルガ・エヴレイノフ
舞台美術:ピエール・ルイジ・サマリターニ
衣裳:ヨランダ・ソナベント

◆ 主な配役 ◆

ニキヤ(神殿の舞姫):秋山 瑛
ソロル(戦士):秋元康臣
ガムザッティ(ラジャの娘):二瓶加奈子

ハイ・ブラーミン(大僧正):安村圭太
ラジャ(国王):中嶋智哉
マグダヴェーヤ(苦行僧の長):井福俊太郎
アヤ(ガムザッティの召使):菊池彩美
ソロルの友人:大塚 卓
ブロンズ像:生方隆之介

【第1幕】
侍女たちの踊り(ジャンペの踊り): 政本絵美、平木菜子

パ・ダクシオン:中沢恵理子、工 桃子、安西くるみ、長岡佑奈
     政本絵美、髙浦由美子、長谷川琴音、平木菜子
     ブラウリオ・アルバレス、南江祐生

【第2幕】
影の王国(第1ヴァリエーション):涌田美紀
影の王国(第2ヴァリエーション):金子仁美
影の王国(第3ヴァリエーション):長谷川琴音

指揮:フィリップ・エリス
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


秋山さんは序盤から只者ではない感醸すニキヤで、身体、特に背中の使い方が大きく、静かな調べにそっと寄り添うように
且つ空間を目一杯使う踊り方に登場のソロから魅せられました。インタビュー記事にて、大人の女性らしく視線の運び方にも注意を払い励んでいると話されていた通り
咄嗟に大僧正を見上げる場面においても慌ただしい様子がなく、達観しているようにも見えたほど。
踊る最後の恨み節の情念もや、佇む姿や現れては走り消えて行き、更にソロルを窮地に追い込んでいく表現も演奏の迫力に負けず見事でした。

秋元さんは揺らぐ弱さ、ガムザッティに追い詰められる苦しさにとことん悩むソロルで
虎を退治しそうな勇猛な戦士には見えなかったものの、あれよあれよと出世欲と純愛に掻き乱される男性の心の脆い内側をはっきりと示していたように思います。
ガムザッティとの初対面でのすぐさま一目惚れ状態にならず、ニキヤの存在があるはずが
王の娘にも惹かれてしまう衝動に困惑する表情で全ての悲劇はソロルの浮気が起因とは簡単には言い切れぬ説得力を持たせました。

特筆すべきは秋山さん秋元さんのパ・ド・ドゥの息の合い方で、まず秋元さんのサポート大万全で、手の僅かな動きに至るまでシンクロ。
しかも機械的ではなく2人して音楽と一緒に呼吸するように踊り、中でも静けさの中で曲もヴァイオリンソロが続いたりとシンプルに削ぎ落とした影の王国のパ・ド・ドゥは
ほんの少しのずれが全体に亀裂を引き起こす恐れもありながら隙が寸分もなく、ニキヤのぽっかりと浮かび上がるようなポーズの連なりや
ソロルの手の添え方の柔らかさが合致して、幻想の国へと誘われていきました。

二瓶さんは恐怖やおっかなさよりも順風満帆であったであろう人生が初めて狂う現実を受け止められぬ戸惑いが露わで可哀想と同情誘うガムザッティ。
ニキヤとの争いでの落涙しそうな表情も目に残り、政略であれ何であれ一度は決まった結婚が
踊り子によって邪魔され壊れる寸前な不安を思えば、実は彼女が一番の被害者でしょう。
抹殺宣言のポーズは打って変わって決意が滲んでいて恐ろしい印象を抱かせ、ぶるっと震えを覚えました。
姫ではなく一見観音様を思わすとんがり風ティアラも似合い、姫に見えた点も高評価です。

ハイ・ブラーミン(大僧正)の安村さんは生気と貫禄のバランスが宜しく、立ち姿に威厳や重厚感はあれど
ニキヤへの求愛も迫り過ぎぬ程度に抑えていた点を思うと、立場上いけないとは言えども恋する健気なお坊さんにも見えた印象。
終幕、ずっしりとした歩みで登場する儀式の支配ぶりも威光に圧倒され、最後まで重たさを引き摺るマカロワ版の肝を押さえたご活躍でした。

この日は落下物事故が多発し、あろうことか花籠の踊りの最中に籠から蛇が落ちてしまい
井福さんマグダヴェーヤがその場で独自演出を編み出し拾って芝居で繋いで
ニキヤは身体の異変は毒蛇が原因と気づき強調して秋山さんも応え、一件落着でした。
1幕前半の苦行僧達の場では空中体勢が抜群にしなやかな跳躍を見せ、宴の最中は機転を効かせて数秒で状況に応じた台本を執筆された井福さん、15日のMVPでしょう。
パ・ダクシオンの誰かの装飾品も落ちてしまい、王の家臣(竹本悠一郎さんだったようです)が
ささっと拾って無事綺麗な状態でソロルは無事ヴァリエーション披露。拾いに行くタイミングや極力目立たぬよう控えめな所作も好感を持ちました。

生方さんはこれまで観たブロンズ像の中では最も高身長で、当初配役を目にしたときに心配が募った手脚の持て余しもなく、
それどころか怒りは込められていても何処か優雅に浮遊する姿を懸命に目で追ってしまいました。
マカロワ版では最終幕に登場するためカーテンコールにも現れたものの塗料の事情なのでしょう、共演者と手を繋げず笑、ずっと孤独なブロンズさんです。
重要局面でソロルに助言を行っていた友人役の大塚さんが良い味を出していて、王に仕える戦士の同僚として、ガムザッティとの婚約を拒みそうになるソロルを窘めたり
3幕だったか、いよいよ結婚に臨む場でも気弱状態にあるソロルをきっぱり叱咤して王の命令に従うよう促したりと
友人ではあれど言うべきことはしっかりと意見する性分が、厳しい階級社会の側面をよりはっきりと見せていて納得いく流れを構築。

一番の見せ所とも言える影の群舞は幻ではあっても整然とした連なりに見入り、坂がジグザグのほうが好みではあるものの
舞台に下りたあとの並び、脚の上げ方まで一斉に揃う光景は厳粛な空気にも包まれ壮観でした。

マカロワ版特有の、影の王国が終わった後にも休憩入れて更に結婚式を入れる演出は、継ぎ足した感もあって決して好みではありませんが、
ニキヤの怨念やブロンズの君臨、ガムザッティの執念のソロが覆う終幕 で、後を重く引く幕切れへと繋がってこれはこれで面白味がある気もしております。
当初は新制作『眠れる森の美女』初演の予定が延期となった関係でバヤデールの再演となったようですが
大掛かりで壮麗な作品の久々再演を鑑賞でき、秋山さんのニキヤデビューや、鑑賞は叶わずでしたが
中島映理子さんが主役デビューでいきなりニキヤ、しかも大成功を収めたとの感想も耳にし、次回は是非ともお目にかかれるよう願っております。




鑑賞前、楽しく飲茶ランチ。蒸籠を眺めつつこの後はどんな花籠登場かと思っていたら、まさかの蛇落下事故。



特製さわやか杏仁豆腐。ライチを使用しているのかすっと抜けるような爽快感残る味でした。おすすめでございます。
ライチ紅茶もポットにたっぷり。2人で分け合うぐらいでちょうど良い量でした。



帰り、南インド料理店へ。



ハイデラバード・ダム・ビリヤニとのこと。インドの結婚式やお祝いの席でも好まれる料理らしい。香り高い炊き込みご飯です。
いくつかの店舗でビリヤニは食べておりますが、香りの芳醇さは断トツな印象。きちんと炊き上げ手間をかけているらしい。
ところでバヤデールは祝宴が婚約式も結婚式も修羅場と化していますが汗、参列者の中にトラウマとなった方は少数ではない気がいたします。
もし参列した結婚式で新郎新婦どちらかの浮気相手が現れただの、毒蛇が登場したりと修羅場に居合わせた状況を想像しただけでも背筋が寒くなる思いです。
量が多めのため万一食べきれない場合は持ち帰りも可能とのことでしたが、中学生なんて太古の昔のはずが現在も常に食べ盛りな管理人。
スパイスの調合やヨーグルト風のソースも好みにあっていたためか完食してしまいました。一駅分歩いてから電車乗車でございます。



私が初めて観たバヤデールがマカロワ版でしたので思い出深く、今年で初バヤデール鑑賞から早30年。英国ロイヤル・バレエ団の来日公演です。
ブロンズアイドルは熊川哲也さん、俊敏とした跳びっぷりに衝撃を受けた舞台でございました。



年数経過しておりますので中身をチラッと。若かりし頃の熊川さんも載っています。
貼り出し表を同行者が書き写したのであろう裏ページのメモによればニキヤはバッセル、ソロルがソイモジー、ガムザッティはチャドウィックでした。
同行者はムハメドフを観たかったようですが時間が合わず断念したもよう。まだボリショイから移籍間も無い頃かと思います。
グリゴローヴィチの申し子な印象があっただけにまさかロイヤルへの移籍に当時は驚きましたが、
ソ連崩壊によりボリショイも一時混迷期となり(現在の状況のほうが心配だが)、キャリア転換を決意されたのであろうかと
今も知識豊富かと聞かれたら首を縦には振れないが、まだバレエを観始めて3年弱の鑑賞初心者でありながら感じておりました。

2 件のコメント:

Aki Ogawa さんのコメント...

秋山瑛さんのニキヤ・デビュー、素晴らしかったですね。
空飛ぶ毒蛇事件も含め、忘れられない公演になりました。
次回は中島映理子さんのニキヤも是非~!

管理人 さんのコメント...

Aki様
おはようございます。秋山さん、技術は隙なく表現も豊かで、初役とは思えぬニキヤでした!
きっと蛇も興奮してしまったのでしょうね笑。
はい、中島さんニキヤも次回は是非鑑賞したいと欲が募ります!