2021年6月8日火曜日

見どころ押さえたコンパクト演出  NBAバレエ団『ドン・キホーテ』  5月29日(土)夕方公演 《所沢市》




5月29日(土)、所沢市にてNBAバレエ団『ドン・キホーテ』夕方公演を観て参りました。
https://www.nbaballet.org/performance/2021/donquixote/


キトリ:勅使河原綾乃
バジル:高橋真之
ドン・キホーテ:米倉佑飛
サンチョパンサ:河野崇仁
ロレンツォ:多田遥
ガマーシュ:宝満直也
エスパーダ:刑部星矢
メルセデス:浅井杏里
キトリの友人:岩田雅女/鈴木恵里奈
夢の女王:田山修子
キューピッド:須谷まきこ


勅使河原さんは初役とは思えぬ堂々たるキトリで、明快なテクニックが炸裂。これ見よがしには一切ならず、バルセロナの広場を駆ける人気者なヒロインを
生き生きと斬れ味鋭く踊る姿に魅了されました。ただ活発なだけでなく 駆け落ち先での夜は顔をくっつけて
色めき立つ表情を見せたりと多彩な面を掘り起こし、バジル狂言自殺での仕掛けに気づいてすぐさま取り仕切る頼もしさもあり。実にチャーミングなヒロインでした。
勅使河原さんといえば、2017年に鑑賞したリバーでのソロにおける身体を自在に操る体幹の強さやスピード感のある踊りに驚愕し今も印象に残っております。

今回は初役であることもあってか、また勅使河原さんがとても愛されているからこそでしょう。
団員達も観客も大応援な雰囲気で舞台を共有。序盤から生での鑑賞の幸福を味わいました。

結婚式の衣装がドンキにしては珍しい、白地でふんわりとしたチュチュで、一見スワニルダを彷彿させましたが
お似合いでしたし初々しい花嫁な印象にも繋がり問題なし。愛らしい新婦でした。

バジルの高橋さんは張り切り過ぎてしまったのか安定感が少々欠けてしまう箇所もあったものの、繰り出される爽快な跳躍や
豊富な主役経験を生かし周囲とのコミュニケーションや行き届いたお芝居もお手の物。勅使河原さんの役デビューのサポートに力を注いでいる様子も好印象でした。
狂言自殺での仰向けの状態から身体を引き起こしてはキトリの頬に口付けする流れが音楽とぴったり噛み合い
更には約2回であったかオットセイの如き歯切れ良い身体起こしにも、種明かしを知りつつあるキトリを囲む人々でなくても思わず笑みが零れます。

主役を引き立てつつ、舞台をビシッと引き締めてくださったのは友人の岩田さんと鈴木さん。
軽快且つダイナミックな踊りで濃密に楽しさを刻み、しかもいとも易々と、幸福感を放ちながらの延長線上で
呼吸と身体の角度の双方が微塵も狂いが無い、恐ろしいまでの職人芸を披露です。
しかも、2人きりで踊るときにはひたすらアピールするも、キトリやバジルの脇に回ればすればすぐさま引き立て役に徹して2人とさりげなく目線を交わしたり
周囲を包むように盛り上げたり、ほんの数秒の箇所であっても出来るか否かで舞台の温度や精度を大きく左右する役目を率先して果たしていらっしゃいました。

最たる驚きであったのは宝満さんのガマーシュ。想像する限り上品で楚々とした人物になると巡らせておりましたが、随分と美貌なお坊ちゃま。
真っ黄色な衣装も白塗りのお顔もコント化せず、スペイン貴族が所沢にやってきたと見紛うほど違和感無しでした。
また無理に笑いやウケ狙いをしようとせずやり過ぎず、あくまでシンプルに優雅な立ち振る舞いを意識なさっていたからこそ
ふふっと笑いを起こさせるキャラクターへと繋がっていたと捉えております。これまで大勢のガマーシュを観ておりますが、
私の中で3本の指に入る名ガマーシュとなりました。もうお2人は篠原聖一さん、そしてKバレエカンパニー公演に客演されたときのアンソニー・ダウエルです。

街のお祭りな賑わいを統率していらしたのはメルセデスの浅井さん。登場の瞬間から場をぱっと艶やかな色に変える太陽のような存在感に
音楽をたっぷりと使った大らかな踊りが観ていて気持ち良し。舞台を知り尽くしたベテランらしい余裕も醸して、慕いたくなる大人の女っぷりでした。

演出で特に面白さが光っていたのは、狂言自殺後の流れ。ボリショイの新版ドンキには挿入されているジグだったか、急速テンポな曲にのせて
ドン・キホーテとガマーシュがコミカルで軽やかな決闘を行うも決して流血騒動にはならずとどめはドン・キホーテがガマーシュの鬘を取ってお終いな展開。
そうこうするうちにエスパーダとメルセデスが再び登場して合図して幕を上げさせ、結婚式の開宴となりました。
休憩無しであっても舞台転換の時間を要する関係での単なる時間稼ぎではない、立派な前座を目にした気分ですし
街の人気者で1幕から大活躍のメルセデス達が繋いで行く演出も一貫性があって好ましいと思えた次第です。
そしてメルセデス達はファンダンゴのリードも担当し、終幕まで結婚式に関わっていた点も嬉しい演出でした。

衣装は全体を通してカラフルで、キトリの友人の鮮やかな黄色と青や夢のコール・ドの柔らかな素材の淡いピンクのチュチュに散りばめられた銀色の装飾が
照明に当たる度に反射して輝き、全幕通して目が冴え渡る色彩が覆っていたと感じさせます。

それからここ最近のNBAバレエ団公演名物となりつつあるのか、開演前の久保紘一監督による漫談、ではなくプレトーク。
バナナの小ネタが含まれた演出を発見して欲しいと語ると会場沸き立ち、幕の向こうからも出演者達の楽しそうな声も聞こえ、
開演前から既に出演者と観客の距離が縮まり一体感が出来上がっていたほどで、肩の力も抜けて一層楽しい幕開けとなりました。

次は8月の『ドラキュラ』全幕を鑑賞予定。昨年の夏公演は残念ながら中止となり、今年こそは開催できますように。
2014年に初演の全幕版を、昨年2月のホラーナイトにて1幕抜粋を観ておりますが
堅固な装置や背筋が冷んやりとしそうなおどろおどろしい展開を西洋版肝試しとも思って今夏楽しみに待ちたい公演です。




ロビーから新緑が眩しく覗いています。所沢ですから、トトロがいるかもしれません。サツキやメイ達が松郷に引っ越してきたのは5月でした。



航空公園がある立地柄、飛行機と音楽を合わせたトコろん。



埼玉県でNBAバレエ団公演を観た帰りは日高屋が定番なのだが(但し乗り換えや通り道にある店を利用する関係上、都内の店舗)
季節メニューとしてバジル餃子を発見。
鶏肉使用でバジルもよく効き、さっぱりとした味わいでした。炒飯は我が好物の1つです。(チコちゃんか笑)

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