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2021年6月1日火曜日
踊るサスペンス劇場 DAIFUKU VOL.7 DAIFU”Q” 5月22日(土)《横浜市》
5月22日(土)、横浜にてDAIFUKU VOL.7 DAIFU”Q”昼公演を観て参りました。毎回あっと驚くテーマを打ち出し好評を博してきた公演ですが、今回はサスペンスです。
https://www.angel-r.jp/event_ar/daifuku/daifuku-vol07-daifuku/31239/
昔から十津川警部や浅見光彦シリーズなど2時間、特に旅した気分に浸れる旅情系サスペンスが好きで
以前出向いた地域が登場すると懐かしさも募りしばしば視聴。刑事物のバレエ化をかねてから望んできた者としては実に嬉しい謎解きバレエ誕生です。
振付演出を手がけた大和雅美さん、福田圭吾さん(2人の苗字の頭を合わせてダイフク)の妙案や配役が秀逸で、抜擢されたダンサー達も新境地開拓に成功していました。
大まかなあらすじは、バレエ団を舞台にスポンサー企業の不動産会社社長が何者かに殺害され、団員の指紋が残るが謎は更に深まり
社長を巡って憎悪を抱く人々は複数いるものの闇は潜み、刑事の奔走により徐々に真相が解き明かされていくサスペンスです。
謎解きですから再演の可能性を考えると詳細な展開記述は控えるべきかもしれず、ざっくりと綴って参ります。
不動産会社社長の黒田清はスターダンサーズバレエ団の池田武志さん。徹頭徹尾悪に身を投じた熱演で、目的のためなら手段を選ばぬ強引やり手社長。
股関節の柔らかさを生かした大胆な脚の振り上げも向かうところ敵無しな威圧感に繋がり、バレエ団のトップ安西香織に迫る様子もああ嫌らしい笑。
黒田に恨みを抱かずにいる人物なんぞいないであろう人間性に説得力を持たせていました。
黒田の秘書由良一夫は新国立劇場の小野寺雄さん。冷酷な黒田にこき使われようが無理難題を押し付けられても淡々黙々と業務を進めていて感情が見えにくいものの
周囲からすれば黒田に最も強い不満を持つ人物であるのは明らかで警察が真っ先に容疑をかけたくなるのも納得。
黒田の暴力によって抑圧されても表情変えずに過ごしていましたから、精神の耐震強度は相当であったと思われます。
壁を作り覗きづらい内面を持つ秘書役がぴたりと嵌り適役です。
渡辺恭子さん(スターダンサーズバレエ団)は物静かで心優しい性格のプリマ安西香織を儚い趣きで踊り演じられ、ポスターでの写りからして薄幸な美しさに惹かれた次第。
サスペンスドラマにいかにも登場しそうな訳あり物憂げな表情を見せ、見れば見るほどに
どうにか心を開かせようと後方から片平なぎささんが慰めの声をかける光景がすぐさま浮かばずにいられず(火サスの見過ぎか笑)。
黒田に好かれ、抵抗するも事件に巻き込まれ追い詰められて行く様子が痛々しく哀れに響きました。
大スターオーラを纏っていたのは花形ダンサー城田春彦の渡邊拓朗さん(新国立劇場)。役柄設定の通り飛び抜けたスター性を放ち
古い表現を承知で申せば「銀幕のスター」(今時言わぬか)。香織のダンスパートナーに相応しい貫禄で魅せて
高度なリフトもいとも簡単そうに披露し、トップを張る人物としてのプライドをも滲ませていました。
驚かされたのは芝居も頗る上手く、怪我を負わされた瞬間の苦痛そうな様子は思わず身を乗り出して心配したくなるほどに自然で、
まさに事件勃発な状況を鋭く描写。また負傷によりやさぐれてしまった感も実にリアルでした。
そういえば、まもなく開幕する新国立劇場バレエ団『ライモンダ』におけるリハーサル映像にて
渡邊さんはスペインの手下4人に抜擢されたもよう。バレエ団のSNSで公開中ですので是非ご覧ください。
そして、その映像の主演者の練習姿は映らず記述も無しですが、夢の場コール・ドのワルツ練習にて
端で準備や話し合いをする主役お2人を発見。どうやら金曜日キャストのようです。
そうなると兄上様とは敵対派閥の役となりこれはこれで楽しみであると、スペインの最中に隅っこで恐らくは剣を抜く練習をする
主役姿の僅かな映り込みを一時停止及び拡大しながら確認し(私は監視カメラ映像の分析官か笑)思えた次第でございます。
話を戻します。恨み辛みの感情を募らせ黒いオーラを撒いていた滝川ルミはスターダンサーズバレエ団のフルフォード佳林さん。
黒田に擦り寄るさまもお色気たっぷりで、同時に実力はあれど香織に先を越されて滲む悔しさや嫉妬心も匂わせ、ただの悪女にとどまらぬ人間味ある女性を造形です。
香織と密かに交際中でひたむき地道に走る森田維央さんによる羽場裕一の実直ぶりも目に留まり、仕事の立場上では階級差のある恋ではあっても睦まじい雰囲気を描き
香織からはプリマではなく1人の女性としての魅力を引き出し、内緒の恋である分、見つかりやしないかと観ている側も常に緊張が過りました。
温厚で生真面目そうな青年ながら、香織に目をつけた黒田に対しては腹わたが煮え繰り返りそうな怒りをぶつけ、豹変ぶりに驚嘆。
優しそうなバレエ団のピアニスト真鍋茂にはダイフクでのネタ担当!?お馴染み小柴富久修さん(新国立劇場)。
外見も対応も常に柔らかで、ビジネスバッグや楽譜を持つ姿も違和感なく、団員達にも慕われ談笑する光景はどこかほのぼの。
幸いにもピアノ近くの席であったため、熱心に弾く姿やチャイコフスキーと書かれた楽譜まで観察できました。
ただ暗い過去を背負って人生を歩む様子が中盤以降で描かれ、思わぬ接点が明らかになっていきます。
パンフレットには詳細な相関図が記されてはいるものの、スピーディーに斬り込む展開で開演後はどうしても混乱しかけてしまうのはごく自然なこと。
そこで手助けの効果をもたらしていたのが、容疑者浮上人物と黒田それぞれ関係性を乾刑事の脳内整理も兼ねて刑事のナレーションを流し確認する場面を
中盤少し前あたりに挿入。乾刑事は踊りつつ、手掛かりが掴めずに捜査が進まず苦悩するさまを
八幡さんはナレーションと調和させながら、そして観客と一緒に謎解きを展開させていく流れを構築していました。
そうです、2時間サスペンスでの恒例である開始約30分後、事件に関係する人物の写真を白板に貼って
被害者との絡みや行動を記し、警察署内にておさらいするお馴染みの場面の刑事1人で頑張るバレエ版ともいえます。
暗闇な序盤から物語を引っ張り、捜査を担う重責と奮闘を、時には聞き込みにて観客にも協力を求め全人物と絡むキーパーソンを
八幡顕光さんが実直な刑事として見事に踊り伝えてくださいました。友人の言葉を拝借すると、
織田裕二さんの代表作品の主役であろう青島刑事に似た格好も推理物としての色味をより濃いものに後押し。
会議室ではなく舞台で起きている事件をまさに「踊る」大捜査線な状況として描いていらっしゃいました。
バレエ作品でサスペンスを描く手法は概要を知ったときから気にかかりましたが謎解きばかりに重きを置かず、あくまでバレエ作品として成立していた点も好印象。
暗闇の中で僅かな光を帯びた冒頭で黒い服に身を包んだ主要人物達が怪しく大胆に踊り、全員が容疑者である緊張感が瞬時に突っ切る幕開けです。
また、味わいが全く異なるパ・ド・ドゥが核として配され、香織と春彦の崇高でスター性が輝く踊りや
打って変わって香織と裕一による束の間の穏やかな幸福に浸るもの、そして擦り寄るルミと黒田の妖艶で毒々しさまでもを放つ踊りもあり
バレエ作品として見応えが十二分にありました。加えて要所要所には乾刑事の捜査行き詰まりからなる苦悩や
手がかりを掴み解明の扉をいよいよ開こうと自信漲るソロも用意。 会場がスタジオである生舞台で装置も最小限で
360度から見渡せる粗が隠せぬ空間で制約も多々ある中、バレエとサスペンス双方の魅力が融合ししかも生舞台で形となり、ただただ拍手を送りたいばかりです。
音楽の聴き応えも忘れられず、手がけたのは舞台協力の欄に名を連ねた福田紘也さんでしょうか。
情景と心理に呼応するように時には壮絶な現場が焼き付く圧の強い曲調から、優しさに触れる穏和な空気感まで自在に彩っていました。
テレビドラマではこれまでもバレエを題材にしたミステリーは何本もあり、東野圭吾さん原作でKバレエカンパニーが全面協力した『眠りの森』や
名取裕子さん主演の『法医学教室の事件ファイル』でも再放送にて視聴したある回にてバレエ教室を舞台にした推理を展開していました。
しかしバレエ公演でミステリー、サスペンス物が上演される日が訪れるとは、ローラン・プティ振付『こうもり』や『コッペリア』を観たときから
いくつかのポーズが何処か似通っている『サザエさん』のバレエ化を夢見て、そして推理刑事物のバレエ化も頻繁に想像を巡らせていたところ
両方がDAIFUKUにて実現。バレエに秘められた大きな可能性を毎回示してくださっています。
大和さんと福田さんの脳内構造を覗きたくなる、刑事の心理描写や登場人物の各々が抱える闇部分まで、あっと驚く推理展開の面白さが詰まった作品でした。
尚今回は出演者欄にお名前の掲載が無く、振付演出に専念されていたかと思いきや、お2人とも物語の急展開にてチラリと重要な役どころでご出演。
スリルや悲しみの迸りに拍車をかける役目を果たしていらっしゃいました。
ところでDaifu"Q"は喜劇の要素は削ぎ落とし、背筋に戦慄が走るようなシリアスな展開や複雑に絡む人間模様、1人の刑事の奮闘ぶりから
『踊る大捜査線』と火曜サスペンス劇場を合わせた風味のミステリーと見受けておりました。また後日前者の劇中音楽を聴いていると明快で耳に入りやすく
個性豊かな警察官達や一斉に乗り出す捜査員達のコール・ドなど思い浮かび、あのメインテーマ曲が幕開けに流れたら
盛況間違いないなど勝手にバレエ化の想像を膨らませていたわけでございます。
暫くして役名を眺めていると森田さんが踊られた羽場裕一の名前が以前観ていたテレビドラマに出演していた俳優でいたはずと思い出し
管理人がこれまでの人生で全話視聴したたった2本の連続ドラマのうちの1本、学園ミステリー物に出演されていた方であったのは記憶通りでした。
しかし更に検索結果を見てみると、ある推理物ドラマの中の役名でもあったもよう。もしやと思いDAIFU"Q"の他の登場人物名も調べてみると揃って
公演開幕数日前に訃報を知った、田村正和さん主演の名作ドラマの中の役名に由来するようです。管理人が通っていた大学でも撮影があり
賛助出演者募集も行っていたため懐かしさも込み上げます。まさか後に、下地が重なるバレエにお目にかかれるとは。
ただ独特の語り口を含めこの名作のバレエ化は難しいか。
人物相関図がやや複雑でキャラクター設定紹介も細かく、開演前は観客誰もが入念にパンフレットを読み込んでいたほど。
会話控えの効果にも繋がっていました。
中華街入ってすぐに出現。色艶やかです。
会場近くで1人黙々蟹チャーハン。BGMで胡弓版と思われる『白鳥の湖』情景曲が流れていたのは嬉しい演出です。
終演後に利用した交通機関にて鹿の衝突による電車の少々の遅延もあり、ようやく落ち着いたところで大福を食し1日の締め括り。
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