2020年3月26日木曜日

パリ・オペラ座ダンスの饗宴




1週間以上前ですが、東銀座の東劇にて映画『パリ・オペラ座ダンスの饗宴』を観て参りました。
https://www.culture-ville.jp/celebratedance

https://spice.eplus.jp/articles/266660

https://spice.eplus.jp/articles/266753


デフィレ
アマンディーヌ・アルビッソン/エミリー・コゼット/オーレリ・デュポン/ドロテ・ジルベール/
マリ・アニエス・ジロ/レティシア・プジョル/アリス・ルナヴァン/
ジェレミー・ベランガール/ステファン・ビュリョン/マチュー・ガニオ/ジョシュア・オファルト/
エルヴェ・モロー/カール・パケット/バンジャマン・ペッシュほか

<バレエ学校の生徒と100人と団員154人が一堂に会し>の解説やポスター写真を眺める以上に壮観。
白或いは白と黒を組み合わせた至ってシンプル且つクラシカルな衣装で全員登場し、行進しているだけでも
ゴージャスな眩さに拍手をしたくなったほどです。
ところで、衣装からして多少は踊るのかと思いきや本当に行進とレヴェランスのみであった点も驚きを覚えましたが
跳躍や回転ではなく歩く姿でいかにエレガンスを表現し世界最古のカンパニーのプライドを示すか
パリ・オペラ座の意地を見せられた気もいたします。基本左右対称で幾何学模様を描くように進行し
気づけばガルニエの舞台全体が覆い尽くされ圧巻。


エチュード
振付:ハラルド・ランダー、クヌドーゲ・リーサゲル
音楽:カール・チェルニー
出演:ドロテ・ジルベール/カール・パケット/ジョシュア・オファルト

生粋のクラシック・バレエ技術てんこ盛りでレッスン風景から始まり、中盤にもバーは無くても
レッスンを彷彿させる大勢で整列してのタンデュも取り入れたりと誤魔化しが一切許されぬ
更には終盤にかけて煽るように勢いや熱が一気に帯びていく体力消耗過酷作品。
初鑑賞は2006年のマリインスキー来日公演オールスターガラで、ソーモワ/サラファーノフ/シクリャローフの若手(当時)トリオ。
次が2009年春の東京バレエ団公演で吉岡さん/フォーゲル/サラファーノフ、
映画ではボリショイシネマにてスミルノワ/チュージン/オフチャレンコ、で回数こそ少ないものの何度か観る機会に恵まれております。

ジルベールが安定感と歯切れ良さで全編を締め、女王然とした貫禄。
ロマンチックチュチュでの優雅さよりもクラシック・チュチュでの正確なコントロールの効いた踊りで
空気を斬るかのようにパワフルに全体を率いていた印象のほうがより強く残っております。
パケットの目を惹く華は文句無しだったが他のカンパニー鑑賞時は連続ザンレールであった箇所を
1回こなして次は跳躍のみ、の1回おきであった点が気にかかるところ。
音楽はこれといって華麗でもなくされど様々なピースを組み合わせ次々と見せ場が現れ、
重々しくも弾ける何とも不思議な旋律から一気に最後へと突き進む流れに
随所に跳躍を盛り込んで終盤へと駆け抜ける振付が合わさり、いよいよフィナーレかと思ってもまだ続く
対角線上の舞台を斜め横切りには何度か観ている作品であっても踊り手泣かせなランダーによる技巧の嵐に目が追いつかず。
過酷且つクラシック・バレエの基礎をシンプルに魅せる振付を存分に堪能できました。


くるみ割り人形
振付:ルドルフ・ヌレエフ
音楽:チャイコフスキー
出演
クララ:ミリアム・ウルド=ブラーム
ドロッセルマイヤー/王子:ジェレミー・ベランガール
ルイーザ:ノルウェン・ダニエル
フリッツ:エマニュエル・ティボー
雪の精:イザベル・シアラヴォラ、ステファニー・ロンベール

ヌレエフ版くるみを映像で観るのは初。生では一昨年のウィーン国立バレエ団ガラにて橋本清香さんのグラン・パ・ド・ドゥのみ鑑賞し
橋本さんはいたくスタイル宜しく品格もあり踊りも安定していたもののアダージオ最後のリフトとバランスが冷や汗もので
加えて仰々しい頭飾りばかりが目についてしまったと記憶。そしてオペラ座ダンサーの写真では
2014年末にレオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェ、更に遡れば80年代後半の雑誌で
モニク・ルディエールやエリザベット・モーランを目にしたぐらいで実質初鑑賞者として開幕を迎えた次第です。

不気味さや醜さを前面に出した箇所が多くいわゆる王道のくるみからは離れた路線であると耳にしており
恐る恐る蓋を開けるように眺めておりましたが、序盤からパーティーへ行く中上流階級な人々ではなく
労働者らしい人々が至るところで跳びはねたりと弾けていて、不思議な幕開けにびっくり。
2幕では仮面のような被り物をした怪しい侵入者たちがクララを囲い込み、これまた仰天の連続でした。
しかし全編通してあくまで少女の夢物語の軸が緩まずであったのは、クララ役のブラームの好演が大きかったと推察。
1幕でのパーティー場面では清楚な雰囲気である上にあどけなさもあり、子供らしさはそのままながら
複雑なステップや足捌きも涼しい顔で難なく踊り、目を見張る軽やかさに天晴れです。
グラン・パ・ド・ドゥはすっかり大人の顔で艶っぽさが漂い、1音1音に何かしら嵌め込まれたややこしい振付も
1つ1つのポーズの優雅さも保ちつつ滑らかな軌跡を描くように舞台を彩る好演でした。
ブラームを以前鑑賞したのは友人の代わりに足を運んだ2017年の来日公演『ラ・シルフィード』で
儚いたおやかさに魅せられ、近年は希少であろう古しきゆかしきロマンチック・バレエの真髄を体現していて大変好印象を持ちましたが
クラシックしかもヌレエフ版をも余裕で、脚で雄弁に語る技術の高さに感激するばかりでした。

ガルニエの舞台を覆い尽くす圧巻のデフィレから研ぎ澄まされたクラシックの技術が不可欠な『エチュード』、
そして独特の不気味な世界観も含ませたヌレエフ版『くるみ割り人形』ハイライトまで見応えのあるプログラムを満喫。
6年前にシネマで鑑賞した『水晶宮』での全体が重たい印象が拭えずであったため(失礼)
近年のパリ・オペラ座バレエ団が踊るクラシック作品の舞台に対しプラス方向ではない考えを勝手に抱いてしまっておりましたが
今回はどれもしっかり響き、大きなスクリーンで鑑賞できて良かったと感じております。

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