2025年3月30日日曜日

3種の刺激の宝石箱 新国立劇場バレエ団 バレエ・コフレ 3月14日(金)~3月16日(日)











3月14日(金)から3月16日(日)、新国立劇場バレエ団バレエ・コフレを計4回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/triplebill/


『火の鳥』

【振付】ミハイル・フォーキン
【音楽】イーゴリ・ストラヴィンスキー
【美術】ディック・バード
【衣裳】ナターリヤ・ゴンチャローワ
【照明】沢田祐二

火の鳥: 小野絢子(3/14  3/15夜)  池田理沙子(3/15昼 3/16)
イワン王子:奥村康祐(3/14  3/15夜)    渡邊拓朗(3/15昼 3/16)
カスチェイ:小柴富久修(3/14  3/15夜)  中家正博(3/15昼 3/16)
ツァレヴナ王女:益田裕子(3/14  3/15夜)  内田美聡(3/15昼 3/16)


小野さんは音楽と呼応する腕使いに緊迫感があり神々しい魔物のような存在。
繊細で音楽のままに火花が飛び交うような羽ばたきに鳥肌が立ちっぱなしに。(鳥だから、ではない)
細い腕ながら群衆を押さえ込んでは煽るように上手側で取り仕切る腕の動きや表情、
全編通して迷宮が入り組むようなストラヴィンスキーの複雑な音楽を全身で支配している姿も凄みがありました。
イワン王子に対しては猛獣なおどろおどろしさ、野性味で対抗していて攻撃性も強し。

奥村さんは通称サンタクロースな真っ赤な衣装に存在が少し負けてしまっているようにも思えたものの
おっとり優しげな王子様で、火傷も考えずに好奇心旺盛に火の鳥捕まえてしまう行動もあどけない若さが覗きます。
火の鳥の猛烈な反抗を寧ろ楽しんでいそうなわくわくとさせる笑みも可愛げがあり、
まさかこの後に王女と出会ってカスチェイと対峙するなんて想像もつかなかったことでしょう。
群衆の中の強面な警備隊風の2人(長谷川さんと朔さん)に両脇を掴まれてしょんぼりした困り顔からのカスチェイへの対抗、そして宝箱持ってきて卵を割るまでの流れが
一時は火の鳥と群衆中心の場を挟むことになってもスムーズに思えたのは、混沌とした舞台上をも
生き生きと捉える奥村さんの表現がそのまま続いていた点も大きいはず。
艶のある美しさの益田さんツァレヴナの色香も場をきらりと潤わせていました。

カスチェイの小柴さんは初日は頭飾りの冠トラブルがあれど、独特のおかしみを醸していてあからさまに怖いとはまた別の印象で覆い尽くす魅力あり。
イワン王子とはお互いに対峙するとパワーではなく飄々とした摩訶不思議な要素をぶつけ合う2人でした。

池田さんはきりっと強い火の鳥で俊敏に飛び交う鳥っぷり。決して恵まれた体格条件ではないかもしれませんが
肩からの腕の動かし方が柔らかく自在な羽ばたきで見せ、起伏に富んだメリハリで強弱をよく付けていて予想以上に鳥、しかも森を支配するリーダー格に見えた次第です。
池田さんのイメージに抱きがちな親しみやすい可愛らしさは一切封印しての姿で近寄り難いオーラも十二分。

そして本当に今回が主役デビューかと驚かされたのが拓朗さんのイワン王子。まずは主役デビューおめでとうございます!
ロシア民話の絵本の世界観にぴったりな逞しい王子で、舞台で1人立っていても
スカスカ感がなく振る舞いもよく考えて臨まれていたと思え、物語を力強く動かしていた印象。1回目は4階隅から観ておりましたが双眼鏡不要であったほどです。
カスチェイにもすぐ勝てそうで、両脇から警備隊2名に捕らえられてもふりほどいて逃げ切れそうでございました笑。

池田さん拓朗さんペアのビジュアルも興味を持たせ、イワン王子が火の鳥を捕まえる場は腕の中にすっぽりとおさまってしまいそうな火の鳥を楽しそうに見つめる王子と
キッとした鋭い顔つきで刃向かう火の鳥の攻防戦で、妖しい旋律にのせて2人が近づいては離れる不穏な空気感が浮き立って伝わりました。
中家さんは豪胆に歪んだ体勢がおどろおどろしく、見るからにおっかないカスチェイで
王子達を苦しめる様子もいたく楽しそう。イワン王子と向き合うとガツンとパワー炸裂。

木陰から次々に悠然と1人ずつ現る王女達の耽美な並びも眼福でしたが(双眼鏡で眺めていてもとにかく美女しか出てこない)
トリで出てきた内田さんツァレヴナ王女の飛び抜けて現実離れした美は圧巻。肩を見せながらの横移動の短いソロも芳しくデコルテのラインも綺麗な上に
拓朗さんイワン王子と並ぶと身長だけでなく存在の大きさにも目を見張り、動くロシア民話の巨大絵本と化。ロシアのバレエ団による上演以上に迫力ありそうな2人です。

新国立では久々12年ぶりの上演で、低音リレーな前奏の長さや、りんごキャッチボールだけでなくボウリング披露もあったかと手探りで思い出しながら鑑賞。
キャッチボールは初日はエラー続出で笑、エアーボウリング選手も見かけましたが王女達が慣れぬ遊びに取り組んでいたと思えば納得です。
群集をよく観察すると衣装の渋みを帯びた色鮮やかな面白い色調にも魅せられ、コサック隊達の座り込んでの股関節運動もハードでしょうに、上の階から観ていると
怒涛になだれ込んでいそうでフォーメーション移動がきちんと計算し尽くされた並びが壮観。
踊る部分は勿論、最後の式典は更に大人数の立ち役が必要で、他の作品出演者も合流して式を盛り立てていました。
その中に君臨するイワン王子とツァレヴナ王女は埋もれぬ存在感がより光り輝くことが不可欠ですが
王冠被った拓朗さんイワン王子は戴冠式状態で、国をおさめる権力を持ち合わせているとしか思えず。
内田さんツァレヴナもマントにくるまれての王冠着けた様子は女王の貫禄。他のクラシック作品に比較すると火の鳥以外は忙しなく踊る部分は少ないものの
ゆったり、しかしまったりせずに見せるのが非常に難しいであろう作品挑戦での堂々たるデビュー、めでたさで満ちていました。

冒頭から玉葱型屋根の建築群の絵を観るだけでも、数日間ではあれどモスクワで過ごした日々にて散歩中に突然現れる正教会の光景を思い出しました。
今はロシア観光や観劇、文化についても語りづらい情勢になってしまったが今回火の鳥の舞台を目にしながら民話の魅力や音楽、美術の色彩感に再度感激。
ストラヴィンスキーの音楽、なせこうも魂揺さぶられるのでしょう。動くロシア民話な世界観に見入り
楽器の細胞までもが一斉に暴れ出して踊り狂うような中間部を始め、やはり傑作です。
皆で揃ってYの字祭りな振付も、劇場全体を鼓舞するパワーを放っていて何度観てもクセになります。
再演まで干支1回りの年月を要しましたが時間を空けず、こういったバレエ・リュス作品上演にもまた取り組んで欲しいと願います。
前回、前々回は山本隆之さんのイワン王子の名演が忘れられませんが、前回は当時研修生ながら
今も山本さんのイワン王子が印象深いとアトレのインタビューで語っていた拓朗さん、ありがとうございます!


※外苑前のPieBirdにて。散歩番組のテレビ放送で視聴してFirebirdに似ている気がし、鑑賞前に訪問。アップルパイが名物でりんごの形の膨らみもあります。
地層の如くりんごが詰まっていて、おすすめ!しかも場所は神宮球場すぐそば。
王女達のりんごキャッチボールをつば九郎も応援してくれているに違いありません。今も周囲はつば九郎のポスター多数あり。
しかしボウリングもあるのはすっかり記憶から抜けていた笑。
他にも種類多数で、ピスタチオヨーグルトパイやキャラメルパイも食べてみたい。




断面



『精確さによる目眩くスリル』

【振付】ウィリアム・フォーサイス
【音楽】フランツ・シューベルト
【美術】ウィリアム・フォーサイス
【衣裳】スティーヴン・ギャロウェイ
【照明】タニア・ルール
【ステージング】ホセ・カルロス・ブランコ
3/14  3/15夜
米沢 唯、直塚美穂、根岸祐衣、速水渉悟、渡邊峻郁

3/15昼  
花形悠月、山本涼杏、東 真帆、森本亮介、上中佑樹

3/16
米沢 唯、山本涼杏、東 真帆、森本亮介、上中佑樹


ポスターになった初日組を、もっと辿れば昨年10月発売のシーズンガイドブックにて
ビジュアルのみ公開されていた渡邊さんがきっとファーストキャストであろうと想像して自分の中の世界初演にしたいと決めてあえて予習せずに鑑賞。
猛スピードで斬り込んで捻り崩しては端正なポジションに戻る、めくるめく過酷振付に口あんぐりでした。使用曲も初耳です。
ソロもあればパ・ド・ドゥもあり、音楽が止まることなく風を切るようにせめぎ合う5人に全日程天晴れでした。

ファーストチームは超絶熟練職人組合で、それぞれに突き抜けた魅力の持ち主。
『くるみ割り人形』ではアラビアのみに出演されていた米沢さんが新制作に登場してくださったのも喜ばしく
スイスイとステップを軽快に繰り出してオフバランスのポーズもキビキビと造形していく姿に拍手。
直塚さんの、股関節の奥から脚をぐいっと力強く上げてしかも音楽に全く遅れることなく意図せぬ場所からの強靭な回転やバランスへの繋ぎもお手の物。
根岸さんはよく研がれた上質な包丁のような身体捌きが妙にお洒落に見えて
急速なテンポであっても楽しそうに四肢を操ったり少し溜めてからの角度の決め方も凛としていて痺れました。
速水さんは音楽の中で端正でありつつ躍動感溢れる踊りで全体のムードを高め、ドヤドヤニヤ顔もこういう作品ではよく活きると納得(失礼)。
初日、幕が下りた瞬間に叫び声上げてしまったのもご愛嬌笑。それに対して観客も笑いつつも再度拍手。
しかし観客としては再び賛辞を送る機会をもらえましたので、結果オーライです。

※ちょいと長くなります。

渡邊さんはギリギリまで攻めてハイスピードで突き進むもポジションは美しく、ヒリヒリとした興奮がおさまらず。ベテランらしい余裕、牽引力も座長そのものでした。
素早い音の中でどうポーズを描き出しているかスローモーションで観て検証をしたいほどです。
身体には叩き込まれているのは勿論のこと、ただやみくもに突っ走るのではなく音楽を細部に至るまで解析して
どう見せていくか、思考回路の中に組まれた工程管理表で自ずと細かく処理しながら進めていると考察いたします。
『エチュード』で観たかったなんぞ延々とぼやいていた(今もまだ望みは捨てていないが)私の勝手な望みにガツンと衝撃与え、スリルの作品全体が好きになったのは
音楽と仲良く時にはストレートのみではなく変化球に戯れつつ美しく崩し攻め帝王として君臨なさっていた渡邊さんのお力が大きかったのは確実。
身体から凄まじい熱量を発していても、ドラゴンボールも仰天であろう限界突破級に極限まで捻りや回転、跳躍をこなしていても1ミリも粗削りにならず。
あくまで音楽を大切にされながら異次元のコントロール力で身体を美しいままに、
素早い中にも清々しい造形美、余韻が残るようにメリハリつけて奏でていらっしゃいました。
渡邊さんと速水さんによるタイプ異なる男性プリンシパル同士の火花の散らし合いや
その一方で戦友な熱い視線交わしも多々見受け、お互いが精神的支柱な存在だったのでしょう。パッションとエネルギーも大全開でした。

セカンドチームは威勢と若さ充満組合で(1回は米沢さん投入。ファースト時とはまた違った雰囲気に見え、全体を落ち着いて取り纏める長でした)
花形さんは柔らかな身体が喜びの声を上げるように、変わり種な動きも易々と披露。過酷な振付であっても場をカラッと明るく照らす天性のオーラにも脱帽です。
山本さんの軸の強さ、身体能力にもたまげ、思えば2023年1月ニューイヤーにおける
ドウソン振付のミリオンキッスでも冒頭からの飛び出し登場も衝撃があったのはしっかり記憶。身体の捻り出しや描き出すポーズの流れも粗がなくパワーもあり。
東さんは今もスタダン時代のロビンズ振付『牧神の午後』のゆっくり微睡みスラリと伸びる脚を差し出すニンフの印象が強く「スリル」の言葉が浮かばずにおりましたが
大変失礼な思い込みで、身体を音楽と溶け合わせながら軌跡を涼やかに描きつつもびしっと決まるオフバランスや伸びやかなポジションに釘付け。
上中さんの底知れぬ強みにも驚かされ、闊達に動き出す身体や勢い良く刻み込んでいくも捻りポーズの美も見事。
森本さんは一番豪快で、されど思えば急ピッチリズム且つクラシックの規範からのはみ出しも多き振付を
スタミナ切らさずに常にエネルギーを押し上げるようにこなしていたのは凄腕かもしれません。

両チーム共通していたのはチームワークの良さ。パ・ド・ドゥ場面はあれどこれといった物語はなく
ひたすら舞踊で突き進む作品ながらぶつ切り個人プレーに見えなかったのは
複数で踊る箇所や入れ替わり時での視線の交わしがバトンリレーとして生き生きと浮き立ち、興奮と喜びを互いに重ねていくように踊りこなしていたからこそでしょう。
幕開けと最後、整列して基本のポジションを組んでいるときですらメンバー同士身体で目配せを行っていると思わせるほどの結束を感じさせました。
女性ダンサー達が動くたびにボヨンと翻る円盤チュチュの視覚効果も面白く、下手すれば昔の五輪水泳選手にもなりかねない形状の
紫タンクトップ短パン衣装も着こなす男性ダンサー達も讃えるしかございません。
オフバランスの連鎖の美しさは、コフレの期間に家族の1人がイタリア旅行に出かけており、今にも倒れそうになった体勢でありながら
ぴたりと綺麗に斜めに止まっていてじっと見つめてしまう建造物だったと話すピサの斜塔を思い起こさせました。



『エチュード』

【振付】ハラルド・ランダー
【音楽】カール・チェルニー/クヌドーゲ・リーサゲル編曲
【ステージング】ジョニー・エリアセン
【アーティスティック・アドヴァイザー】リズ・ランダー
【照明】ハラルド・ランダー

3/14  3/15夜  木村優里  井澤駿  福岡雄大

3/15昼 3/16  柴山紗帆  水井駿介  山田悠貴


もし男性ダンサーになれたら一番踊りたい役がプリンシパルであるほどとても好きな作品でございます。(可能ならカブリオール隊員)
未だ初台でのレパートリー入り実現が不思議な嬉しさで、バーから始まりセンター、キャラクターダンスと基礎レッスンの展開をそのままバレエ化。
しかもTシャツやカーディガン、ストールやレッグウォーマー等は身につけず
ライン丸見えの形状のお揃い舞台衣装で行うわけですから誤魔化しは許されず。世界一基礎力試される作品でしょう。
初めて観たのは19年前の2006年のマリインスキー・バレエ団来日公演オールスターガラで
当時20代前半であったソーモワ、サラファーノフ、シクリャローフの3人が主軸。
若さとテクニックでぶっ飛んだ舞台であった記憶しかなく、以降見方が厳しくなってしまいました。
半世紀前からレパートリー入りしている東京バレエ団の締まりあるエチュードも好きであるが故に
初日は全体が大人しくゆるりとした空気に思えて山椒入れ忘れた麻婆豆腐と思ってしまったものの、翌日からは格段にレベルが上がって締まりも良くなった印象です。

濃厚系なファースト組は木村さんが大安定感の貫禄プリマ。両腕を上向きに掲げながらのバランスやポーズの切り替えも微塵も揺らぎがなく
それどころか失礼ながら物語無き作品にて何処を切り取ってもテクニックと音楽のみで晴れ晴れとした気分を与えてくださるとは驚愕の連続でした。
ロマンティックチュチュでの登場も白い大輪の花が広がるように包み込む踊りで魅了。
大ベテランの域に入ってからの初挑戦となった福岡さんは想像以上のお祭り隊長で、
井澤さんも意外にも(失礼)颯爽とした技術の駆使にびっくり。主役は慣れているお2人ならではの斬り込み力で群舞を統率です。
主役陣同士張り合いつつもトライアングル調和も万全。品格、円熟味の全てのバランスが良く、
終盤のマズルカでは主役級の3人が我こそはと畳み掛けてくるパワフルな踊りで舞台を突きながら興奮は最高潮へ。押しの強い舞台を届けてくださいました。

清涼系なセカンド組は柴山さんが初回は緊張からかポワントが落ちてしまう箇所がいくつもあり、少々心配でしたが2回目は大挽回。
クリアで美しいテクニックで涼しげにステップを紡いでいました。私プリマです!オーラがもう気持ちあれば尚良かったかと思いますが、
新天地での初主役の水井さん、初主役の山田さんとチームワーク良い構築で皆を率いていました。
水井さんは跳んだときの爪先がいたく綺麗で余分な物が削ぎ落とされた鮮やかなテクニック、勢い任せにしない落ち着きを帯びた踊りも爽快。
山田さんはとにかく熱く頑張っていて笑、少々粗削りな部分はあれど周囲を統率していこうとする気概は頼もしく映りました。

戻りまして、幕開きのグラン・プリエ担当は奥田さんと赤井さんのダブルキャスト。
シンプルな音階の中、暗がりにぽっかり光が当てられた場所での披露でここからして基礎の強さが求められます。
やがてバーに並んだダンサー達の身体のシルエットや脚だけに光が当てられたりとこれまた表情や衣装での誤魔化しも効かぬ、
行っているのは簡素なことであれど舞踊作品として飽きさせずに見せる難しさを再確認。
初日は不揃いな箇所が散見されるも、2回目以降はタンデュですら統制のとれた美しさが視界を覆いました。
女性のみ、男性のみの場もあればパ・ド・ドゥ2組が並んだりとレッスンの展開といえど多彩な振付が散りばめられていると思え
中盤の2010年入団組奥田さん五月女さん広瀬さんが3人並んでの場面の職人ぶりたるや。 最大の難所であろう6人くらい並んでの横一列フェッテは完璧な出来上がりとは言い難かったが、早期の再演で是非精度向上を!

終盤にマズルカ太鼓音頭での男性達が一時静止しながら斜めに進んでくる振付に差し掛かるといよいよ終盤への突き進み開始が窺えて、
暗闇での光の対角線上における駆け抜けも要交通整理!と思えたのは初日のみで以降はシャープで均等な駆け抜けに。
最後の女性達が縦一列に並んだ状態から跳躍での横移動を繰り返していく箇所や男性達のその場で一斉鹿ジャンプな部分も一挙に熱量上昇。
チェルニーの音楽のオーケストラ編成も聴けば聴くほど時にチャーミングで時には大地を揺るがすような重厚さもあり、耳に響く音楽です。
終盤のマズルカ祭りも嵐が起こりそうなうねりに興奮しきり。木琴音のスパイスも効果的で、何度でも観たいくらいに高揚が連鎖しておりました。
ところで終盤のザンレール連発は1回おきに変わっていましたが、(確か東京バレエ団、マリインスキー、シネマのボリショイ全て連続でビュンビュンと行っていたはず)
初演時はどちらだったのか、正しいのはどちらか、気になる振付です。
ちなみに15日夜は東京バレエ団の指導スタッフのお姿も見かけ、新国立の新制作をどうご覧になったか感想を伺いたいものです。
とにかく新国立レパートリー入りは喜びいっぱい。早めの再演お待ちしております。

オペラパレスでのトリプルビルでこんなに連日満席に近い盛況になったことにも感激。
セカンドキャスト日は両日3階4階で観ておりましたが、空席もあまり見当たらず。
例えば11年前は中劇場での開催であってもトリプル・ビルは空席が目立ち、ホワイエが図書館よりも静けさに包まれていたときもございました。
4回のみが寂しく、しかしスリル陣を思うと回数増加は厳しいか。来年のコフレも4回のみですが、きっと今回とはまた違った色味の宝石箱となることでしょう。
ドキドキしながら開けると3種の刺激の飛び出しが止まらないコフレ2025でした。

ちなみに、渡邊さんは最初は『エチュード』主演かと思っており、かれこれ8年前のボリショイシネマ上映時から
ザンレールやカブリオール連発等をチュージンやオフチャレンコに重ねて想像。
いつの日か新国立にレパートリー入りしたら観たい役として心に刻んでおりましたので、スリルの座長も素敵でしたが次回は是非『エチュード』で!
渡邊さん速水さんによるプリンシパル競演も『エチュード』レパートリー入り決定時から想像を巡らせており
叶えば2021年6月のライモンダ巌流島対決以来となるであろう火花バチバチ負けん気のぶつかり合い、観てみたい願望が募るばかりです。
それにしても劇場や駅に掲示されたポスターやプログラム。いつ見てもキリッと凛々しい男前な飛翔紫侍でしたなあ。







ボックスオフィス前にもスリル!



偶然でしょうが、火の鳥、スリル、エチュードすべて網羅しているお花。



初日打ち上げ!ダンサーは身体で、私は座って泡で弾けます。メニューはエチュード主軸陣。



ミネストローネ。温泉卵とふわふわチーズ入り。



サルシッチャと新じゃがのクリームソースペンネ。本日はハッピーホワイトデー!ソースがこってりとペンネに絡んでいてワインが進みます。



ティラミス。程よい苦さでございます。フルーツものって華やぐお皿。管理人の家族が無事イタリアから帰宅し、これを書いている日は安堵の1日。
コフレ前から3都市と少し郊外へ出かけていたそうだが、フィレンツェは洪水警報だったとのこと。アルノ川が氾濫し、ウフィッツィ美術館も休館したらしい。ああ。



矢印より鋭い脚線美!



拓朗さん主役デビュー!



市松模様のプログラム置き場。



夜の灯りを背景に。一層美しいお2人。星空を飛翔しているようにも見えます。



ベテランから新鋭まで、多彩な面々。



渡邊さんのエチュードプリンシパルも観たいと願ってかれこれ8年超。この写真観ると、カブリオール担当側に姿を重ねてしまいます。
しかしコフレ千秋楽の1週間後、思いがけず上州にてぐんまちゃんもびっくり、1/50ほど叶う機会があり、また後日綴って参ります。



火の鳥新国立初演は2010年。タイトルロールは小野さん、イワン王子は山本隆之さん。お2人とも前回の2013年も同役でご出演。



千秋楽。研修生時代から拓朗さんを応援なさっている方と祝杯!堂々たる主役デビューを無事2回ともご覧になれて感無量なご様子でした!
山田さんのサインが丸みがあって可愛らしい。
甘海老のマリネがのったホワイトアスパラのパンナコッタ。生い茂る森の中の火の鳥にも見えなくもない。


鰯と新玉ねぎトマトソース。新玉ねぎのシャキシャキ感も良きです。



筑波清流豚のグリル  コルニッションとハーブのソース。甘辛いソースからスッとハーブが香り、旨味が凝縮。ブルゴーニュの赤ワインが進みました。



赤ワイン



赤ワインとティラミス。合います!



締めはエスプレッソ。



その後には紫なサングリアで乾杯。ポスターやプログラムにチラシを飾られた紫侍、キリッと凛々しい男前でございました。



新国立劇場側の改札からの通路。



『火の鳥』の音楽を連日4回聴き、燃え盛る情熱帯びた骨太な旋律を耳にするたびに再度思います。いつか拝見したいベジャール版を踊られる渡邊さん。
2016年の映像で、初めて目にしたのは翌年1月。既に貫禄を備えていらっしゃる印象を受けておりましたが、
しかし今の心身が円熟期に差し掛かった大黒柱な存在感で踊られるとどんな感じになるか。観てみたいと願望は諦められずです。

2025年3月25日火曜日

塩谷さんの狂乱   スターダンサーズ・バレエ団  NEXT  ピーター・ライト版『ジゼル』 3月22日(土)





順番前後いたしますが3月22日(土)、新百合ケ丘でスターダンサーズ・バレエ団NEXT  ピーター・ライト版『ジゼル』を観て参りました。若手主体の企画です。
https://www.sdballet.com/performances/2503_next/


< ジゼル:塩谷綾菜
アルブレヒト:林田翔平
ヒラリオン:西澤優希
ミルタ:小川紗季
クールランド公:宮司知英
バチルド:角屋みづき






塩谷さんのジゼルは1幕前半は快活な朗らかさが可愛らしく、恋することにも積極的でアルブレヒトによく懐く少女。
おっとりしたアルブレヒトよりもしっかり者そうでにこっと明るい笑みを向けつつポーズは1つ1つ淀みなく、
スカートを持つ仕草も細やか。離すときもヒラリと広がるような光景を残していたのも好印象でした。
ジゼルの茶色系衣装は決して好みではないのだが内側から明るさを発光する存在感から気にならず鑑賞。
これまで元気溌剌とした役の印象が強かったためジゼルはなかなか想像つきにくい役柄であったものの、出色であったのは狂乱の場。
とにかく恐怖感の押し出しが強く、顔は青ざめて目は虚ろ。既に魂も抜け落ちて微かな気力だけで身体を保っているかのような危うさがある一方
左右の村人達にも奇襲の眼差しで迫るおどろおどろしさに背筋が凍りついたほどです。
ウィリーになってからの回転登場では速度も速く、人間味が削ぎ落とされて宙に浮いたまま回っているようにも見て取れました。

林田さんのアルブレヒトは、純愛か遊びかがはっきりとしない点が寧ろフラフラとした先行き不安な行動に説得力を持たせ、どっちつかずなユルブレヒト。
舞台袖近くに腰掛けたジゼルのバチルドからもらったネックレス装着姿を見るや否や顔が青ざめたりと隅っこでの出来事もしっかりと描画していて
アルブレヒトの危なっかしさや、誤魔化しが苦手で顔にすぐ心境が出る性格も興味を持たせる造形です。
ミルタに苦しめられる踊りの場は垂直跳びから舞台にて半円描きながらの跳び上がり移動もあり、かなり多彩に動き回る振付と今回把握いたしましたが
苦しそうにしつつも要所要所はきっちりと決めて、ミルタに許しを求めていらっしゃいました。
塩谷さんとは何度も組んでいるだけあって安心感あるパートナーシップを築くと同時にジゼルでは初共演。
恋の戯れの喜びいっぱいな微笑ましさからの、急転直下な悲劇への疾走を丁寧に作り上げるお2人でした。

西澤さんのヒラリオンは粗暴な要素は皆無な優男風の青年で、ジゼルへの接し方も強引な印象はさほど受けず。
ベルタも全面の信頼を寄せるようにヒラリオンの肩に手を添えたりと娘の将来の夫として未来予想図を描いていたに違いありません。
事件の展開を握る人物でもあり、全体を見据えた視線で観客を捉えて次の展開を音楽とマイムをかっちりと合わせた表現も目に届きました。
沼落ちはひょいっと身体が軽々と舞って妙に綺麗なフォームにも注目。

小川さんのミルタは余りに華奢で少々不安も思わせましたが鋭い怖さは十分にあり、
登場のパ・ド・ブレの地に足が付いていないような浮遊移動もお手の物。パ・ド・ドゥ直前のジゼルの揺るぎない愛に打ちのめされそうになったとき、
まさかの新入りウィリーの反逆ぶりにどうしたら良いか分からずな悔しさ滲ませる戸惑い表現も
内側からくっきり分かりやすく、女王らしい貫禄はこれからついてくるでしょう。

ライト版『ジゼル』は4回目の鑑賞ですが、前回2022年公演でようやく気づいて面白味を感じるようになった点が、貴族と村人達の階級差の明確な描写。
お互い決して歩み寄ろうとはせず、村人達に蔑みの視線を送り続ける貴族達は一見冷たく見えるものの住む世界が違う者同士、打ち解けなんぞできなかったはず。
狩猟長だったか、村人の女性に興味を持つも顎に手を当てて顔を無理やり上げさせようと卑しい行為に走る貴族もいて
しかし村人は立場上逆らうこともできず。こういった理不尽な事情は多々あったと想像できます。

ベルタの描き方も特徴があり、居眠りしてしまったりとマイペースに見えながらも
愛娘が息絶え、亡骸に近づくときにはラスボスの登場かのように曲のテンポの速度が落ちて怒りの溜めが凄まじく呼応。誰も近寄れない恐ろしさを強調です。

ウィリー達の群舞は所々不揃いな部分が目に留まり、脚を上げる高さや腕の角度が異なっている箇所はありましたがこれも経験。
若手主体育成と銘打っている公演ですから舞台数を踏んで頑張ってくれたらと応援しております。

それにしても今年は『ジゼル』当たり年。ライト版のリアルな描写を重要視し、ジゼルは自ら剣で刺しての自殺や、きちんと葬ってもらえず粗末なお墓といった
バレエとして上演するには目を背けたくなる点も挿入するも気づけば考えてみればそうか、と自然と納得いく演出です。
考えてみれば版によってはお墓が立派過ぎて、ジゼルの死後時間軸からすれば恐らくはその晩にはお墓が出来上がっているのもおかしく
中世ドイツには注文から即日対応墓石センターがあったとも思えず。エレベーター完備のお墓で地中から出てくる演出もあり、それはそれで好きでしたが。
来月は新国立劇場での上演。装置美術も細部まで凝りに凝った2022年新演出の再演。満喫したいと思っております。2幕にて月が出る消える瞬間も見逃せません。




暖かな晴天!



ステンドグラスのオレンジ色の光


ワイン

2025年3月20日木曜日

【おすすめ】6月6日(金)浅草公会堂でピアノ×バレエ×日本舞踊『展覧会の絵』開催







6月6日(金)、浅草公会堂にてピアノ×バレエ×日本舞踊『展覧会の絵』が開催されます。
https://www.nbkanousei.com/

https://newscast.jp/news/7619826


昨年の7月に銀座の王子ホールにて開催されたムソルグスキー生誕185周年記念コンサートでの上演は満員御礼で、待望の早期再演です。
今回もピアノを木曽真奈美さん、バレエを山本隆之さん、日本舞踊を藤間蘭黄さんが務められます。
前回公演に足を運びましたが、舞踊ジャンルは異なるも、藤間さんによるムソルグスキーと
山本さんによるガルトマン(ムソルグスキーの親友)の間で交わされる温和な感情が響き、
木曽さんによるソロとは思えぬ多層的な演奏に包まれ調和していく光景に胸が高鳴り続けました。
殊に山本さんのガルトマンの美しさに魅せられ、ムソルグスキーへの温厚な語りかけや病に倒れ生命危機に瀕する苦しみ、
やがて息絶えるも幻影として現れてムソルグスキーに輝きをもたらすよう踊りにも引き込まれて止まず。
6月に再びお目にかかれますこと、心待ちにしております。是非劇場にてご覧ください!

尚、『展覧会の絵』は第二部にて上演。第一部では小林一茶の俳句と日本舞踊を融合した『鄙(ひな)のまなざし』が披露されます。
藤間蘭黄さんが作詞・作曲・演出・振付を手がけられるとのことで、前半も後半も蘭黄さん大忙し!観る側としては楽しみでございます。
俳句と言うと、中学生の頃から渋く味わい深し紀行文に心惹かれた、また近年訳あって観劇の用事で福島県白河市へ出向く機会が増えて白河の関も訪れた経験から
『奥の細道』執筆の松尾芭蕉がすぐさま浮かぶ私でございますが、このたび浅草に小林一茶のどんな俳句が登場するか、
いかにして日本舞踊と共演していくのか、注目して参ります。

浅草公会堂は2010年に全日本舞踊連合創立三十五周年記念公演における多分野の出演者が集うプログラムにて
下村由理恵さん、島添亮子さん、永橋あゆみさん、堀口純さんの共演が実現した『パ・ド・カトル』目当てに足を運んで以来ご無沙汰です。
雷門の場所すら把握しておらず東京都民歴を疑われても致し方ないほどに土地勘無き浅草ですが、下町風情を味わいながら満喫したいと思っております。




本日はめでたき3月20日、池袋で素敵店名の鉄板焼き屋さんを発見!

2025年3月16日日曜日

新作と伝統  団ならではのミックス・ビル  牧阿佐美バレエ団  ダンス・ヴァン・ドゥⅢ   3月8日(土)





3月8日(土)、牧阿佐美バレエ団  ダンス・ヴァン・ドゥⅢを観て参りました。

https://www.ambt.jp/pf-danse-vingt-deux3/







『グラン・パ・ド・フィアンセ』
振付:ジャック・カーター
音楽:ピョートル・イリイチ・チィコフスキー
衣装デザイン:ノーマン・マクドウェル

高橋万由梨  三宅里奈  秦悠里愛  久保茉莉恵  土川世莉奈  茂田絵美子

『白鳥の湖』より、花嫁候補達による踊りでアントレ、6人それぞれのヴァリエーション、コーダと続く展開。
現在全幕においてこの音楽構成での披露は大概は割愛されている場面と思われ、記憶が確かならば30年以上前のキエフバレエの放送にて
6人分のヴァリエーション付きでお披露目していたかと思います。出演者の中にはフィリピエワもいたはず。
しかしその後に4カ国分の民族舞踊にオディールと王子のグラン・パ・ド・ドゥもありますから、冗長に感じてしまうのは致し方なく
更にはアントレは平坦な旋律でヴァリエーションは滋味深いものもあり。
全幕ではカットされがちであるのは頷け、抜粋でやるならこれぞ大プリマ!な人々でないと
場を持たせるのが難しい作品でしょう。全幕ではありませんから無背景にシャンデリア数台ある程度です。
初演時は大原永子さんやゆうきみほさん、その後日本バレエフェスティバルでは藤井直子さんや草刈民代さんも踊っていらっしゃるはず。

さて序文が長くなり失礼。いくら継承は大切であっても盛り上げ高難度な作品を令和もやるのかと概要発表時には驚きを覚えたわけですが
6人揃って悠然と軌跡を描いていく光景や、初演の頃からデザインは変わっていないであろう色違いのはっきり濃いめなオペラ型チュチュの並びが古き時代を偲ばせ
失礼ながら予想以上に見応えはあった印象。殊に三宅さんの背中の豊かな表情や、秦さんの瑞々しさを放つ魅力が目に残っております。



『ホフマン物語』第2幕より幻想の場
振付:ピーター・ダレル
音楽:ジャック・オッフェンバック
編曲:ジョン・ランチベリー
美術:アステリア・リビングストン

ホフマン:石田亮一
アントニア:米澤真弓

牧バレヱでの上演は2002年の全幕上演以来23年ぶりとのこと。その23年前の上演を観ている私でございます。
当時のホフマンは逸見智彦さん、アントニアは柴田有紀さんで会場はゆうぽうとでした。
2015年には新国立劇場バレエ団が衣装装置を一新してバレエ団初演。以来再演を重ねて直近では昨年2024年2月に上演されました。
牧での全幕は観たといっても3幕の舟歌が綺麗だった点と全体通して暗鬱な雰囲気であったことくらいで23年前の管理人をお許しください。
しかし2015年の新国立での一新上演以降、音楽構成もホフマンの人生を幕ごとに辿る振付も面白味があると思え、
洗練された衣装効果もあって今ではとても好きな作品の1本となりました。

さて抜粋とはいえ久々の牧での上演。アントニアの米澤さんは細い肢体からきらりとした華を香らせて踊られ、
病弱な身のアントニアが夢の中でバレリーナになる願望を叶える喜びと何処か悲しみを帯びた風情が折り重なった魅惑的なヒロイン。
技術が大安定ではなかったものの、儚くもすっと抜けるように舞う姿が、オディール思わす黒いチュチュであっても(丈はやや長め)透明感がまさって美しや。
ホフマンの石田さんは踊りはもう少し、な箇所も散見されるも1幕の若気の至りなオリンピアへの恋の失敗を経ての包容力もある青年ぶり。

衣装は新国立の透け感のある黒いものとはデザインは大幅に異なり、女性はこってりゴージャスなフリルやレースも付いたピンク系のデザインで、男性も華々しい色合い。
新国立ではひたすら繊細なオーロラ風のカーテンが覆うスタイリッシュな空間であるのに対してお伽噺の森の中で男女ペアが囲うように踊るのも新鮮。
牧バレヱでも久々の全幕上演を望みたいところですが、例えばこの2幕ならば終盤にドクターミラクルに肩を揺さぶられながらピアノを弾かされるホフマンと
病弱である我を忘れて狂うように舞うアントニア、そしてとことんホフマンを背後から苦境に追い詰めるドクター、と3者の危うい関係が同時に現れる場面であり
ホフマンと敵役の怪しい医師ドクターミラクルが互角な強度で修羅場にてバトルを繰り広げられる男性ダンサーが不可欠です。
今の牧では果たして可能か。しかし全幕版もまた観てみたいと思っております。
それにしても新国立での上演以降聴くたびに思うのが、ホフマンのヴァリエーション曲が
BoAさんの『メリクリ』そっくりに聴こえております。私だけの空耳アワーかもしれませんが。


『Tryptique~1人の青年と成長、その記憶、そして夢』
演出・振付:金森穣
振付アシスタント:井関佐和子
音楽:芥川也寸志「弦楽のための三楽章」(トリプティーク)

金森穣さんの新作。男女ともブルーやグリーン系で整えたシンプルなレオタードが色図鑑を開いたかのようなグラデーションが広がり、
涼しげな見た目の一方、振付は熱量多しでその対比も面白く感じました。
清瀧さんを主軸に、青年の浮き沈みありながらも生き抜こうと藻掻く人生を丹念に描写していて、弦楽の歯切れ良くもどこか哀愁感を帯びる低音から繰り出す重厚な響き
そしてゆったりと悲壮を迸らせる曲調にもぴたりと合って瞬く間に終わってしまったと思えたほどです。
ダンサーへの照明の当て方も1点1点の光が数珠繋ぎのように連なって吸い寄せる力もあり。
この曲といえば牧阿佐美さんの振付が真っ先に浮かび、新国立劇場でのバレエアステラスや研修所公演における研修生達の舞台にて度々目にしているため
金森さんの振付がどう映るか少々心配もありました。しかし当たり前といえば当たり前ですが全く異なる作風で、序盤から男性群舞を一気に押し出す展開といい
主軸を務めた清瀧さんが踊りで次々と語り尽くす技量や過去の恋人やライバル達とのすれ違いや散らし合う火花といい青年の歩みがぎゅっと凝縮。
金森さんも、牧さんが振り付けた同じ曲で新作を手掛けるのは重圧もあったかと思いますが
師匠への敬意とご自身のオリジナリティの双方を合わせた見応えある作品と捉えております。是非とも再演を重ねて欲しい作品です。


『ガーシュインズ・ドリーム』
振付:三谷恭三
音楽:ジョージ・ガーシュイン  斉藤恒芳
衣装デザイン:前田哲彦

三谷さんが手掛けてきたダンスヴァンテアンの1997年第5回公演にて初演とのこと。
ガーシュインの曲を用いた作品が世に溢れる中でやや長丁場に思えてしまい、今ひとつ洗練や粋な要素は感じ取れず。
しかし男女カップルのアンサンブルは綺麗に纏まり、女性陣がまっすぐに伸ばした脚線も皆すらりとしていて見栄え十分。
フィナーレにアイ・ガット・リズムが来ると気持ちも晴れ晴れとするのは音楽の力も大きそうです。

パ・ド・ドゥ集ではなくバレエ団ならではの作品をある場面をまるごと、作品によってはコール・ドや美術付きで上演するプログラム構成は好印象。
好みはそれぞれあるものの継続願いたい企画です。無料配布のプログラムはダンサーの顔写真含めて
オールカラーで掲載されていて作品解説も大変詳しく、重宝しております。

ジャック・カーターのプロフィールを読んでいて思い出し、復活上演に興味を持たせているのが『ナムーナ』。
1990年の上演以来再演が恐らくはなさそうで、当時の主演は佐々木想美さん。
ただ批評によればかなり古めかしいスタイルでの振付とのことで、またギリシャのコルフ島を舞台に奴隷の娘と貴族の男性が関わるあらすじからしても
掲載された写真からしても、西洋人にとっての東洋への憧憬をそのまま視覚に訴える作品と見て取れます。
現代においては上演が難しいタイプの作品かもしれませんが、根岸正信さん小嶋直也さん久保紘一さんが踊られた劇中のモロッコ舞曲の様子も気になるところ。
この曲を聴くとトゥールーズの『海賊』ダイジェスト映像音楽しか浮かばずかもしれませんが、どう描かれているのか、全体を通して観てみたいものです。




シビックには飯田橋から大歩道橋を歩いて行くのが好きな道。



シビックへ



ロビーの曲線



雪混じりな寒い日。ホットワインで乾杯。友人や親族とは度々訪れている水道橋駅のお店ですが鑑賞帰りに行くのは初です。



生春巻き。サパナとは、ネパール語で夢との意味らしい。今回偶々、タイトルに夢がつく作品が複数並びました。



お国混在なセット。このお店のトムヤンクンはお初ですがとにかく寒い日でしたので、辛いスープで温まりたい気持ち



トムヤンクン拡大。魚介類たっぷり!!



2010年、兵庫県三田市での新国立クラシックバレエハイライト公演。同月の本拠地ニューイヤー・バレエも1発目にグラン・パ・ド・フィアンセでした。
この面々であっても盛り上がったとは言い難かった。
三田市はこの日大寒波で粉雪舞う1日。今回の天候と似ておりました。



2002年ホフマン物語全幕プログラムの内側。1幕?



大原永子さんかもしれません。


2025年3月9日日曜日

策略家のドゥグマンタと壮麗な式典からの緊迫した崩壊  日本バレエ協会『ラ・バヤデール』 3月1日(日)





3月1日(日)、日本バレエ協会『ラ・バヤデール』を観て参りました。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2025tominfestival/


ニキヤ:水谷実喜(英国バーミンガム・ロイヤルバレエ団) 
ソロル:アクリ瑠嘉(英国ロイヤル・バレエ団)
ガムザッティ:柴田実樹(バレエ シャンブルウエスト)
大僧正:マシモ アクリ
金の仏像:二山治雄
マクダビア:牧村直紀
ドゥグマンタ(ラジャ:藩王):遠藤康行




初日キャストのゲネプロ
 


 
3/2夜キャストの3幕3場からフィナーレ
 



水谷さんのニキヤは登場の瞬間は慎ましさが滲み、されど見据える目線からは迷いのない強い意思が感じられる舞姫。
小柄であってもそう感じさせぬ空間を大きく使う身体のコントロール力や揺るぎないテクニックも美しく、感情の起伏も滑らかに表現していて
ソロルと会えると分かったときの雫がきらりと光るような笑みといい、ガムザッティに対して怒りよりもソロルヘの確固たる愛を訴える姿がいたく健気。
だからこそ、終盤3幕3場での恨めしい空気感を漂わせながらの立ち姿が恐ろしく映りました。
3幕では幻にしては生身の体温があり過ぎる気もいたしましたが、音楽とすっと溶け合いながら舞う力みのない踊りで満たしてくださいました。
ベール持ちながらの回転やバランスは流石の水谷さんも少々苦戦していて、いかに高難度な振付であるか再確認です。

瑠嘉さんのソロルは豪胆そうな垂直跳びで場を湧かせてご登場。ソロルの有能そうな戦士っぷりは
この場面限定であとはひたすら転落人生まっしぐらですから笑、最初のインパクト、まずは好印象。
戦士達に向けた視線の運び方も統率者らしい力強さがある一方、ニキヤとの逢瀬はそれまでお互いに禁欲の世界で抑えてきた感情を吐き出すように身体が絡み
バヤデール経験はさほど多くはないであろうお2人とは思えぬ、音楽にもよくのった清々しいパ・ド・ドゥを構築していました。
ガムザッティと出会いお見合いしながらジャンベを観たあとにニキヤによる神に捧げる踊りが悠然と披露される場も盛り込まれており、
ソロルにとっては婚約式以前から既に後ろ髪引かれる思いで苦悩がより曇りがちになる展開で
さっきまでガムザッティの美貌に惹かれていたのが嘘のように気まずそうに壁にもたれて悩ましい姿もごく自然。
されど婚約式登場時はゾウさんに乗っての豪奢なお出ましで、心境のジェットコースターはいかほどか。

柴田さんのガムザッティはテクニックはもう少しクリアな滑らかさがあれば尚良かったかと思ったものの
サリー風の赤い衣装も、オレンジが鮮やかなチュチュ共にゴージャス衣装が実にお似合いな美貌で麗しいばかり。ソロルがコロっと気持ちが移るのも頷けます。

マシモさんの大僧正は怖さよりや欲深さよりも風格が引き立ち、ニキヤに対しては恐怖感で締め上げるのではなく優しく訴えかけるように迫っていた印象。
手を差し出したり歩いたりする仕草や立ち居振る舞いも品良く、ニキヤに解毒剤を受け取ってもらえなかったときは悲嘆に暮れる表情が後を引きました。

悪事の鍵を握る部分に焦点が大きく当てられていたのが遠藤さんによるドゥグマンタ(ラジャ)。
娘への溺愛が強すぎて、ガードマンの如く制したり、ソロルにも有無を言わせぬと強面で圧力をかけたり、
ニキヤも花籠の蛇混入の犯人として名指しするほど、この版の最大の悪人かもしれません。
そうはいっても代々受け継いできた藩の伝統を絶やすわけにはいかぬ重圧もあったわけで、ドゥグマンタも欲深いだけではないのでしょう。
今や振付家としての印象が先行していて古典作品にて悪事を働くキャラクターを演じる遠藤さんは初見でしたが
おっとり朗らかそうな顔つきの裏側に潜む黒い部分を徐々に出していく策略家な人物として存在していました。

出色であったのは3幕影の王国のあとに描かれる3場からのエピローグ演出。重厚で壮麗な結婚式からの寺院崩壊が締まり良くドラマティックに描かれ、よく練られた演出でした。
婚礼の行進や花びらを撒く女性達の光景、ドゥグマンタも臨席して絢爛な場が出現。
そして結婚に胸躍らせつつ毅然と臨むガムザッティと、舞台中央に執念で現れたニキヤの亡霊の板挟みになりながら
2人の手を取ってソロルが踊る、しっとりしたパ・ド・トロワが鮮烈でした。
ラコット版の『ラ・シルフィード』にもシルフィード、ジェームズ、エフィが踊る似た場面はありますが
バヤデールのほうが静けさの中に修羅場な強さ、欲や憎悪が入り乱れて濃縮しており、おどろおどろしい。
混乱するも、意を決してソロルが超絶技巧を繰り出しながら舞台上を旋回していくと雷光が轟き、
踊り、照明、音楽がグッと一体化してこそ生み出される緊迫感から瞬く間に寺院は崩壊していく流れが
短時間の中でテンポ良く且つ人物達の心理状況も丹念に描写されていました。
最後、再び坂が現れる中で飛翔するベールを追いかけるのは大僧正。ニキヤヘの叶わぬ恋を火を前に訴える中で幕が下りました。
解説によれば1人残ったと記されていますが、つまり生き残っていたのかそれとも来世まで追いかけて行ったのか。想像を巡らせる幕切れでございます。

衣装や装置は法村友井バレエ団、谷桃子バレエ団からの貸出だったようで、(前回2017年も?)、重厚で抑えた色調で整えた壮麗なデザイン。柱のレリーフの緻密さにも見入りました。
パ・ダクションのチュチュもカラフルながら派手過ぎずされど模様の花々がアクセントになっていて上から楽しく観察。
ロシアのバージョンを踏襲していて、手にオウムを持つオウム隊のワルツがあるのも華やぎと可愛らしさを後押ししていました。

ソロルの肖像画は中村獅童さん似で、小さめサイズで上に掲示されているため校長室状態でしたが笑、しゅっとした佇まいな風貌でなかなかセンスは宜しい。
肖像画問題、新国立ライモンダにおけるお饅頭の騎士ですと主張したいとしか思えぬふっくらに描かれたジャンの絵が最大の難点と思いますので
(よりによってジャンの肖像画がパッカーンと観音開きして本人が登場する演出まである汗)全幕再演時期である来年のゴールデンウィークまでに改善を望みます。

ニキヤとガムザッテイの争いで果物置き場が下手側であったためか、ニキヤが手に取るナイフが
上手側のチェス台に置いてあったように見えて状況描写として少々疑問が残り、
ソロルが捕らえた獲物のトラがふかふかのぬいぐるみでプーさんのティガーにしか見えず笑、
夢の国のお土産店で購入してきたとしか思えなかったマリインスキー来日公演を彷彿させ、懐かしい気分でございました。

影は24人で、幻影にしては生き生きとしていた印象がありましたが統制はよく取れていて、二段構成の長い坂下りも見事。
様々な団体から集う協会公演での大掛かり古典作品、しかも静謐な見せ場の群舞付き作品は一層ハードル高い上演と察しますが久々8年ぶりの喜ばしい再演でした。
尚、プログラムは今回無料配布で装丁も立派で主役から群舞、子役達までカラー掲載。しかもオーケストラ演奏付きで、チケット代は一番お安い席は2200円!
この物価高騰のご時世を考えると一段と感謝が募る企画でございました。
ロビーには顔ハメ仏像や坂下り撮影スポット、協会公演歴史振り返るスペースもあり、開演前や幕間も楽しめる要素を増加。
嘗ては何処を振り向いても「○○先生おはようございます」といった関係者の挨拶しか聞こえてこなかった協会公演も
より一般客へ向けて開かれた公演へ変えて行こうと努める様子が窺えました。




ロビーに短縮版影の王国の坂が登場。夜空に近づく背景の空模様がまた雰囲気を押し上げる彩りです。ポーズ取って撮影している方もいました。
私はとても人様の前ではできぬ容姿ですので、住まいの集合住宅玄関スロープで夜にこっそり練習してみます笑。
それにしても坂道でのアラベスクパンシェ、よほど体幹が強くなければ不可能。しかも大人数で揃えなければならない。影のお1人お1人全員に拍手を送りたい。



顔ハメブロンズアイドルも登場。



協会公演振り返るスペースも。ダンスマガジンでの記事では何度読んだか分からぬ、1990年3月公演パリオペラ座からポントワとイレール客演『眠れる森の美女』。
ポントワのエレガンス、観たかった。下村さんのフロリナは書籍や芦原英了コレクションで閲覧した
川副バレエ学苑に掲載の小学生の頃のお写真でしか目にしておらず、協会ではどんな王女様だったか気になります。



早めに到着していたため、上野の森美術館で開催されていた入場無料の展覧会へ。とても見応えある企画で、絵心のある方々には憧れます。(妹は画伯なのだが)
風景画やお菓子の絵、白鳥や黒鳥、ガザとイスラエルとロミオとジュリエットに例えて抱擁を交わす平和を祈るカップル絵もあり。
一刻も早く穏和な解決が実現すると良いのだが。



この日の昼間の気温は21度と表示。3日後には東京都心部でも積雪。気温差が激しい時期でございます。



鑑賞前に久々の再会ムンタ先輩と。(ワディム・ムンタギロフさんがお好きな人生の素敵な先輩です)
アジアンダイニングで乾杯!季節外れの暑さに身体は参っておりましたがビールは美味しうございます。
チリソースの味が心地良い刺激なサラダからいただきます。



タンドリーミックス。パニールティッカ(さっぱりとした弾力のチーズ。厚揚げに似た食感)や海老、タンドリーチキン、シークカバブ。
鉄板提供のためずっと熱々で、下のお野菜にも味がぎゅっと染み渡るのが嬉しい。



チキンビリヤニ。スパイスが何重にもふわりと香って品あるお味。豆たっぷりカレーのほくほく感も良し。



ビリヤニ拡大。そのままでも、カレーと混ぜてもどちらもワインが進みました。