2024年7月11日木曜日

日本舞踊とバレエが織りなす展覧会の絵 ムソルグスキー生誕185周年記念コンサート 7月1日(月)





順番前後いたしますが、先にこちらから。7月1日(月)、銀座の王子ホールにてムソルグスキー生誕185周年記念コンサートを鑑賞して参りました。
http://www.russian-festival.net/program.html

前半はミハイル・カンディンスキーさんによるピアノ演奏で『禿山の一夜』。
ヴィタリ・ユシュマノフさんのバリトンによる歌劇『ボリス・ゴドゥノフ』より、山田剛史さんのピアノ伴奏で披露されました。
カンディンスキーさんは渋めな曲を軽やかで力強いタッチで演奏され、ユシュマノフさんはとても滑らかな歌声。
身体と違って耳が肥えていない私ですが、どちらも楽しませていただきました。

そしてお待ちかね。後半は『展覧会の絵』を日本舞踊とバレエ、ピアノ演奏で披露するプログラム。
プロムナードに始まりひよこ、キエフの大門まで、10本の要素から成り、木曽真奈美さんのピアノ演奏で
藤間蘭黄さんの日本舞踊と、山本隆之さんのバレエによる共演が実現いたしました。
舞踊ジャンルは異なるも、藤間さんによるムソルグスキーと山本さんによるガルトマン(ムソルグスキーの親友)の間で交わされる温和な感情が響き、
木曽さんによるソロとは思えぬ多層的な演奏に包まれ調和していく光景に胸が高鳴り続けました。
藤間さんが踊られる姿を拝見するのは恐らくは初で、日本舞踊家の公演鑑賞は2010年に半蔵門の国立劇場(行く末が懸念されるが)で開催された
矢上恵子さん振付のコンテンポラリーを日本舞踊家達が踊る企画公演や、2016年に山本隆之さんが日本舞踊家西川祐子さんと共演された舞台、井上バレエ団ゆきひめ以来かと思いますが
力強く踏み締める踊りがずしっと響き、所作も綺麗なだけでなく太い輪郭で描き出すような鮮やかさ。
冒頭のプロムナードから余りに音楽と一体化していたためか日本舞踊で演じるムソルグスキーにも違和感無しでした。

そして山本さんのガルトマンの美しいこと!シャツにパンツのシンプルなお姿がしなやかな身のこなしを一段と引き立たせ、
ムソルグスキーへの語りかけも上体から大らかで優しい情感がふわりと零れて香り、
病で倒れるところは胸が締め付けられそうになるほど苦しそうで、床を履いながら今にも息絶えてしまいそうな恐ろしさを放っていて震えが止まらず。
やがて気丈に立ち上がっても何処か命の限界を彷徨うように、されど晴れやかに歩み出す姿に心を持っていかれました。
遂に命を落としたときにムソルグスキーの後悔や絶望は全身から涙を流すかの如く重たい悲しみが空気を覆い
しかしガルトマンの幻影(白い衣装に替わりました)が現れると、輝きをもたらすような純白な踊りに救われ
徐々に気力を取り戻していくムソルグスキーが眩しく見えた次第です。最後は昇華したガルトマンが上半身裸体になり、削ぎ落とした美が神々しうございました。

王子ホールは昨年7月21日に開催された滝澤志野さんのピアノリサイタルにて初めて足を運びましたが
今回は音響もさることながらピアノ1台と2人の舞踊家が共演する舞台として面積もほどよく
両脇の扉も生かしての出入りも工夫が行き届いてスムーズ。ムソルグスキーが考え込んでいるところへ
ふとガルトマンが現れる鮮烈な喜びの演出も、扉の奥からの登場が鍵にもなっていたと見て取れました。

プログラムに掲載された桜井多佳子さんの解説によれば、初演は2017年のキーウで、黄金の門(展覧会の絵でも描かれているキエフの大門)の中に組まれた特設ステージで
このときはムソルグスキーが藤間さん、そしてガルトマンは寺田宜弘さん。解説に目を通して初めて初演時の様子を知り、
作品の世界観そのままな場所での初演に目が飛び出そうになったものです。
可愛らしく軽快な響き合いが印象深いひよこの踊りの部分は初演時はキーウ国立バレエ学校の生徒が寺田さんの振付で務めたそうですが今回はガルトマンつまりは山本さん。
カラッと明るい笑みを全身から静かに照らしながらムソルグスキーを見守りエネルギーを注入するように舞っていらして、それはそれは涼やかな美の連続。
この曲が人生初バレエの発表会の中の1曲で自体に思い入れがある私ですが(ひよこの格好してパタパタバタバタしながら踊りました。今も振付は覚えております)
当たり前ながら山本さんが踊られると全く違う曲に聴こえ、最高級な響きが脳に胸に迫ってくるのですから不思議なものです。

一方で寺田さんも出演されキーウで初演された作品を現在の情勢下におけるロシア文化フェスティバルで上演するのは複雑さもあり
会場外では拡声器を用いて開催に抗議する方の姿も見えました。バレエ界においてはボリショイやマリインスキー、ダンチェンコ始めロシアのバレエ団来日や、
個人であっても、諸外国の所属ではあってもロシアのダンサーの来日も容易ではなく(ガラ等では来日していますが)
ボリショイシネマは即刻中止。ボリショイ劇場で行われるブノワ賞授賞式も協賛機関が離れていく中、厳戒態勢での実施しょう。
そんな最中、ロシア連邦文化省が後援の1つであり、司会者による今後のロシア文化フェスティバルプログラム内容紹介にて
ロシアの数々の映画や音楽、演劇関連の名称が次々と紹介されていった状況に違和感を覚えなかったかと聞かれたら首を決して縦には振れません。
勿論、上演は嬉しく私もすぐさまチケットを購入はいたしましたが、芸術は切り離して考えるべきとも思いつつも
とどまることがないロシアによるウクライナ攻撃の報道を見聞きするたび、手放しでは喜べぬ難しさは何処かに残っております。
ただ繰り返しにはなりますが木曽さんのピアノで藤間さん山本さんが舞踊のジャンルを超えて共演する夢舞台は幸福をもたらしてくださいました。




矢上恵子さん版『展覧会の絵』。2008年にKバレエスタジオでの上演時に鑑賞しております。
恵子先生作品にしては珍しく女性がポワント履いて踊る振付もありました。
雛の場面にて、ジュニアの生徒達がランドセル背負って卵の殻のような頭飾りを被って踊る演出も衝撃が走りました。
そして2010年に国立劇場で鑑賞した矢上恵子さん作品を日本舞踊家達が踊る破天荒⁈企画。恵子先生が藤間さん、桜井さんとのご縁がきっかけで実現したようです。日本舞踊とコンテが妙にしっくりな面白い企画でした。



帰り、会場すぐそばのマトリキッチンにて。夜でもセットメニューがお手頃価格でいただけました。



モルドバの赤ワイン



ボルシチはあっさりめ、ピロシキの中はひき肉たっぷり。



1階のワインの並び。

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