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2022年5月20日金曜日

合唱も踊る壮大空間   O.F.C. 合唱舞踊劇『カルミナ・ブラーナ』5月14日(土)





佐多達枝さん振付O.F.C. 合唱舞踊劇『カルミナ・ブラーナ』を観て参りました。
https://www.choraldancetheatre-ofc.com/

佐多さんの作品は初鑑賞。カルミナは身体中の細胞が騒ぎ出すほど心から好きな音楽で、佐多さん版は過去にも何度も上演を重ねていながら
機会を逃して行けずにおり、舞踊と合唱の構成も気になっておりましたが序盤から驚愕の連続でした。
まず独唱歌手も舞台中央に登場したり合唱も踊る群舞兼任な大掛かり演出に驚嘆。実のところ、壮大で1時間以上はある音楽に対し
ダンサーの人数が少なめな気もしておりましたが心配は無用で、青空時には星空にも変化する円形照明の下に実力者が次々登場。
捻りやユーモアも散りばめられた振付を全員が音楽を身体で目一杯奏でていて、透けた素材のシンプルな衣装であっても物足りなさは皆無でした。
春を謳歌する前半が遂には天体讃美かと見紛う宇宙なる空間への変貌も目に響き、スケール感を満喫です。

そして最たる驚きは舞台の左右に大勢のコロスが立ち、群舞の役割も果たす演出。例えばゴスペルのような、手拍子や少しリズムを取る風ではなく
身体の曲げ伸ばしを行ったり、方向転換や前進後進もこなしながら歌い続け、舞台全体が作り出す舞踊と合唱一心同体な空気にひたすら圧倒されました。
舞台両脇の出っ張り?ような場所の合唱団と舞台上のコロスともにマスクを着用。約1時間強、壮大と言う他ない作品を全曲歌うと考えただけでも
息切れしてしまいそうですが、好条件とは言い難い中であっても堂々とした立ち姿或いは
大人数で息を合わせながら踊り歌う合唱の方々に今一度拍手を送りたい思いでおります。

そして独唱歌手の方々も舞台中央まで登場しダンサーと向き合って呼応しながら歌ったりと、舞踊、独唱、合唱、演奏全てが主役とも見て取れる演出。
声楽界については大変疎くあれこれ感想を綴るべきではないかもしれませんが中江早希さんの、頂点に達したかと思えば更に膨らみを帯びて響き渡る声量は
天まで届きそうな迫力と艶で、東京文化会館の5階末端席で鑑賞していても今にも声に引っ張られる感覚を呼び起こされました。
各地から複数の団体が集結して臨んだ子供達の合唱も、ピュアな中に陰が落ちていくような孤独感を秘めた歌声で会場を包み、耳がぞわっと反応。

ダンサーの中ではとりわけ酒井はなさんと島地保武さんが印象に残り、 大所帯の中であっても埋もれず、音楽を身体でくっきりと描き出しながら舞う酒井さんと
長身を持て余さずしなやかな軌跡を残して行く島地さんのパ・ド・ドゥを目にできたのは大きな喜びです。

カーテンコールに佐多さんも登場され、残念ながら当方の席からは殆ど見えずでしたが車椅子に乗っていらしたとのこと。
日本のバレエ創成期から続々と作品を生み出してこられたエネルギーに平伏し、プログラムに掲載された
作品の記録を眺めているともっと前から観ておくべきであったと後悔すら募ります。
中でもベートーヴェンの『交響曲第9番』は約20年前のバレエ雑誌にてリハーサル記事を読み、坂本登喜彦さんや高部尚子さん、安達悦子さんや柳瀬真澄さんといった
所属の垣根を越えての稽古写真を目にし、何が飛び出すかわからない面白さがあって大好きとの高部さんから見た佐多さん作品の魅力についてのご発言や
日本では1回きりの公演が多いため作品もなかなか残らず振付家も観客も育たないと思う、と
佐多さんご自身が日本のバレエ公演事情の難しさについて語る内容にも関心を持っていたはずが行けず終いであったのは悔やまれます。

カルミナのバレエは3人の神学生が踊り繋ぐ展開を見せる、刺激度の強い衣装が大半を占める演出に大変な衝撃が走った新国立劇場でのビントレー版、
京都では女神に気まぐれで神出鬼没な性格を加味して描いた石井潤さん版を鑑賞しておりますが佐多さん版鑑賞ができた今回は誠に幸運。
ダンサーからソリストの歌手、合唱まで舞台を埋め尽くす壮大な合唱舞踊劇を堪能いたしました。これからも踊り継いでいって欲しい作品です。





鑑賞前、東京文化会館目の前の国立西洋美術館の常設展へ。いくつもの部屋に跨って展示作品多数。
常設展は初めて訪れ、作品数や製作時代の幅広さにも今更ながら驚かされました。個人の使用においては写真撮影も可能とのこと。
特に目にしたかったのが中世時代の詩集で、昔から教会史料や色づかい、文字の形に興味もあり。カルミナ・ブラーナ鑑賞前で好タイミングでした。



金色の文字と抑えた青色の組み合わせが美しい歌集。5線譜ではなく4線譜です。



鳥と植物の渋めな色彩模様にも魅せられ、綴られている内容をいつの日か読み解きたい。



こちらも感激、テオドール・シャセリオー作『アクタイオンに驚くディアナ』。37歳で生涯を終えた画家であったらしい。
まさにアクタイオンが水浴び中のディアナに見つかり、鹿に姿を変えられた瞬間を描いています。ディアナの頭に三日月あり。
少し前までならば、この絵の鑑賞中はギリシャ神話の中で3本の指に数える好きな物語であり、絵について、話について再度本で調べようと思う或いは
グラン・パ・ド・ドゥ抜粋なら晴れ晴れ爽快な作品に思えるが全幕の中の余興に入れるのは無理矢理感が拭えずであった云々
バレエにおける鑑賞時の記憶掘り起こしにとどまったのでしょうが、今回は生活習慣の変化の兆しが表れつつあった今年3月中旬を思い出し
アクティオンコーダのジャンプもう1回やってみたいと某日の有酸素運動終盤が脳裏にて再生。
何しろ突如ふわっと勇ましく舞う目の前のお手本に眼福でございました。音楽も爽快で宜しい。



帰りは当ブログレギュラーの後輩と、後輩と同い年でバレエの歴史や作品について学ぶ講座を検索するうちに当ブログに辿り着いてくれた方と食事へ。
ひとまずビールで乾杯。
今年3月の管理人2年2ヶ月ぶりのレッスン受講において、都内一等地での移転オープニング記念であるからズンドコ人間ではなく踊れるお綺麗な方々が行くべきと
断固不参加を明言していた私に対し、是非受講するよう約1日がかりで説得してくれたお2人です。
踊れる女子なこの2人は酒井はなさん指導クラスで知り合って以来の仲だそうで、私も1度6年前にクラスを受講。2人の存在が心強かったものです。
2人とも見るからに「バレエ女子」な風貌容姿で、例えるならば大輪の薔薇と涼やかな菫といった雰囲気を持ち
カルミナの第1部春の一節にある花いっぱいの気高き森、花は咲きほころび、の歌詞がそのまま当て嵌まります。
私と違い、レッスン後に大衆酒場へはまず行きそうにない、子供時代から現在に至るまでブランク無しのバレエ歴を誇る2人組でございます。
私の良き理解者でもあり、鑑賞やバレエ史等の座学講座受講が中心である我が習慣を尊重及び
レッスン回数が極端に少ない割にはクラス選択や受講時の格好が大胆にもほどがある点⁉も優しい反応を示してくれています。



鎌倉ハムフェア中。鎌倉は酒井さん所縁の地域で2人も嬉しそうな笑みを浮かべていました。
ピザはチーズ控えめでハムが前面に出た味わい。リエットも旨味があり、ビールに合う料理ばかりです。



ベーコンフリットは肉汁が溢れました。衣はサクサク軽い。ハムカツはレギュラーメニューで、ゆで卵も挟まっていてまろみもあり。



お店名物のロースビーフもいただきました。豪快なボリュームです。
スタジオは広いところがいい、床はリノリウムがいい、音楽は生伴奏がいい、と踊れぬ素人にも拘らず
レッスン環境の理想を八代亜紀さんの代表曲『舟唄』風につらつら並べても耳を傾けてくれる優しきお2人です。


デザート、春らしいパフェが似合う2人。私はプリンと赤ワインで締め括りです。

それにしても新国立劇場で久々に観たい、ビントレー版。特に性欲に溺れる神学生3は名演者が、そしてこれから観たい人も脳裏を過って止まらず。
我が目が黒いうちに実現しますように。

2021年10月15日金曜日

各団体の自負心が伝わる4本構成 NHKバレエの饗宴2021 in 横浜 10月3日(日)《横浜市》





10月3日(日)、NHKバレエの饗宴2021を観て参りました。今年は異例の神奈川県民ホールにて開催です。
来年2月のEテレクラシック音楽館にて放送が予定されていますので、簡潔に綴って参ります。8Kでは中継放送がされたそうです。
https://www.nhk-p.co.jp/ballet/



新国立劇場バレエ団『パキータ』

木村優里
井澤駿
パ・ド・トロワ:池田理沙子  奥田花純(柴山紗帆さんが怪我のため変更)   中島瑞生
ヴァリエーション:原田舞子  中島春菜  飯野萌子  五月女遥
廣川みくり  益田裕子  朝枝尚子  岸谷沙七優  北村香菜恵  木村優子
多田そのか  徳永比奈子  中島春菜   土方萌花  廣田奈々  吉田朱里


今年のニューイヤー・バレエにてセカンドキャストとして配されていた布陣が初台を飛び出して横浜へ。
ニューイヤーで上演予定が直前に公演中止が決定し、ファーストキャストは無観客無料配信がなされたもののセカンドキャストは披露すらできず
約9ヶ月越しで叶ったお披露目です。しかも有観客舞台での上演更には日曜日のゴールデンタイムに放送されますから寧ろ喜ばしい運びとなりました。
2年ぶり開催である饗宴のトップバッターであり、しかも異例の横浜上演加えて洗練されているとは言い難いやや古めかしい趣味の衣装ながら(失礼)
踊る嬉しさが光と化して全身から零れる溌剌な舞台で饗宴の幕開けを飾り、ファーストに比較するとソリスト、コール・ド共に若手を中心とする構成でしたが
何ら遜色なく、より明るく朗らか。素早くも粗さがない腰の捻り方やメリハリをつけた踊り方も宜しく、めでたい心持ちとなりました。
所々に中堅やソリストも投入して粋で美しい朝枝さんや、ヴァリエーションも踊られた飯野さんが頼もしく引っ張っていらした印象です。

木村さんのパキータは驚くほどに軸が強くなり、踊りも余裕たっぷりで鮮やか、回転も安定。顔の付け方や身体の角度、見せ方も膝を叩きたくなるばかりでした。
品を保ちつつ、顔ではなく身体全体でドヤっと魅了させる姿も好印象。
井澤さんリュシアンはやや長めの髪のまとめ方に目を疑いかけたものの(パーマをかけていらっしゃるのか遠目で横や斜め後方から見るとちびまる子ちゃんのお母さん風)
華やかな貫禄十二分で、対角線登場も合格ライン。(勝手に失礼)
そして舞台姿の変化に思わず目を留めたのが、パ・ド・トロワ抜擢の中島瑞生さん。
2年前3月のインプロビゼーションにて実は感性も身体能力も抜群なものを秘めていたと衝撃を受けておりますが古典となると今一つ印象に残らずにおりました。
しかし今回はまず自信に溢れた姿でいたく伸びやか。踊りの線がしっかりとした気がいたし
決してときめきはしないが(失礼)、少女漫画を彷彿させる生来の美形が踊りと共に舞台でも益々活きていた様子です。
思えば中島さんは8月のバレエ・アステラスも出演演目が当日になってから上演見合わせとなり、より一層歓喜が体内から沸き起こってきたのかもしれません。
またヴァリエーションではアルミードの館の曲(冒頭にて鉄琴?でポロンと始まる曲)での飯野さんの輪郭のはっきりとした豊かな身体の語りや
連続跳躍で突っ切るも勢い任せにせず、滑らかで雑味ない職人芸を見せた五月女さんがとりわけ脳裏に刻まれております。


牧阿佐美バレヱ団『アルルの女』

フレデリ:水井駿介
ヴィヴェット:青山季可

茂田絵美子  佐藤かんな  田切眞寿美  三宅里奈  塩澤奈々  西山珠里  高橋万由梨  今村のぞみ
中島哲也  坂爪智来   石田亮一   米倉大陽  石山陸  近藤悠歩  正木龍之介  小池京介


これまで何度も饗宴に登場するも、手堅く纏めた2019年『ドン・キホーテ』3幕以外は首を傾げる出来であった牧バレエですが
今回は1996年に日本のバレエ団としてローラン・プティ作品初挑戦及び本作初上演を遂げた誇り高さを感じさせる仕上がりでした。
主演の水井さん、青山さん共に初挑戦と思いますが、既に何度も踊り込んでいるかと思わす役への没入ぶりで終始身震いさせたほど。
水井さんは悩んだ末に徐々に壊れていくフレデリを、力強さと脆さの強弱を濃く描き、最後ファランドールでの狂おしさへの突入も
ただ闇雲にではなく、次第に沸き上がる昂りを1つ1つ明晰に踊りに表しつつ音楽の抑揚ともぴたりと溶け合って壮絶な最期へ繋げていました。
手の差し出し方や立ち姿でもうっすらされど恐れおののきそうな執念がじわりと伝わる青山さんのヴィヴェットも魅惑的な女性として存在し
2人を見守るかと思えばフレデリを狂気へと後押しするように静かにうねって迫り来る 群舞にも見入り
序盤の行進からしてにこやかな祝宴ではあってもどこか無機質な怖さすら滲み出る空気感も、悲劇の予期に説得力十二分。
主役2人から場面ごとに役割が変化する群舞、そして牧歌的な穏やかさと狂おしい興奮と隣り合わせな音楽どの要素も共鳴し合った舞台でした。


東京シティ・バレエ団『Air!』

<第1曲>松本佳織  斎藤ジュン  馬場彩  新里茉利絵  石井日奈子  西尾美紅
玉浦誠  福田建太  吉留諒  土橋冬夢  杉浦恭太  渡部一人

<第2曲>佐合萌香  土橋冬夢  
中森理恵  濱本泰然

<第3曲>松本佳織  新里茉利絵  石井日奈子  西尾美紅
玉浦誠  福田建太  吉留諒  杉浦恭太  

<第4曲>土橋冬夢
松本佳織  馬場彩  石井日奈子

<第5曲>松本佳織  斎藤ジュン  馬場彩  新里茉利絵  石井日奈子  西尾美紅
玉浦誠  福田建太  吉留諒  土橋冬夢  杉浦恭太  渡部一人

バッハの管弦楽組曲第3番にショルツが振り付けた作品で、ヴヴェ・ショルツ23歳での振付デビュー作。今年1月公演ショルツ・セレクションでのバレエ団初演に続く再演です。
そのときは録音音源であったため、今回は生演奏である点も嬉しい限り。全員茶色系の一見地味なレオタード衣装ですが、音楽を身体中から響かせ
特に第5曲では音の粒がぱっと弾け飛ぶ踊り方が引き立ち、瑞々しい魅力全開でした。
全編通して、音楽を自在に身体で表現していくシティのショルツは幸福を与えてくださると今回も再確認。


谷桃子バレエ団『ジゼル』第2幕

ジゼル:馳麻弥
アルブレヒト:今井智也
ヒラリオン:三木雄馬
ウィルフリード:土井翔也人
ミルタ:山口緋奈子
ドゥヴィリ:前原愛里佳  星加梨那
ヴィリ:永井裕美  森本悠香  塚田七海  荒川みなみ 島亜沙美  北浦児依
古澤可歩子  篠塚真愛   佐藤舞  白井成奈  手塚歩美  石川真悠
島倉花奈  渡部栞  中川桃花  嶌田紗希  奥山あかり 梶原芽衣


この場面をプログラム最後に持ってくる、しかも2幕まるごと上演で饗宴全体の長丁場に貢献な披露に当初は眠気の襲いも予感すらしておりましたが心配無用。
音楽の編曲が妙に明るめであった点が気にかかりましたが、永橋さんの代役で登場した馳さんがまだ人間の体温が微かに残り、アルブレヒトを優しく包むジゼルを好演。
今井さんは久々に観ましたが感情をすっと出して悔いる姿やミルタに怯えながらの死に際の跳躍でも魅せ、
そしてヒラリオン三木さんが前半にて張りと高さのある踊りで恐怖感や絶望を劇的に展開させ、ウィリ達との呼応も強い緊迫感で覆い尽くし躍動していらっしゃいました。
ところでジゼルのお墓、十字架の手前が緩やかな坂付きの芝風の板でパターゴルフに見えてしまったのはご愛嬌笑。
創設者谷桃子さんの十八番であった作品への深い敬意が込められた上演でした。


紅白歌合戦を想起させる全出演者が舞台上に集合してのフィナーレは無しとなり、レヴェランス付きリハーサル映像使用での演出となったのは
寂しかったものの、状況思えば致し方なく次回は復活しますように。有料プログラムも製作されず無料配布冊子のみで規模縮小な異例開催でしたが
日本のバレエ団として初演した振付家の作品や創立者の十八番、中止を乗り越えての披露等、各団体の自負心が伝わる4本構成でした。
テレビ放送を今から心待ちにしております。尚、来年は場所をNHKホールに戻して8月の開催予定です。





開演前に会場上の階のレストラン英一番館にて昼食。メニューの紹介文によれば
「横浜スタジアム、神宮球場にプロ野球9球団のケータリングサービスをしております」とのことで、
ちなんだプレマッチランチを選択。カレー味のスープが芳醇でスパイシー。ホットサンドに唐揚げに温野菜にヨーグルト、と
大変なボリュームである上に、これら以外にもランチ用のスープとゼリー、飲み物が付く、謎の大盤振る舞い。
美味しくさらには窓際ではなくても大窓から横浜港が見渡せる空間でした。



帰り、会場近くにてカウンセラー友人と夕食。遂に首都圏の飲食店でもアルコール解禁!東京近郊においては久々にお店にてワインで乾杯再開記念日。
友人はオレンジジュースを注文したところブランデーグラスのような形、しかも大きなサイズでびっくり。
トマトソースのふわふわオムライス、チキンがたっぷり入っています。日中ならば、窓辺の席では海を見渡しながら食事可能です。まずはささっと食べてマスク着用。
『パキータ』の話題になってもこの日の横浜ではなく前月の白河リュシアンの話につい持っていってしまい
軍服、詰襟だ、白に金色、肩輪っか、ヴァリエーションは勇ましい曲調の音楽であった云々と説明する管理人の話に耳を傾けてくださりこの日も深謝。



帰り道、電車で渋谷まで移動し乗り換えのため降車すると仰天。
目の前に現れたのは、『くるみ割り人形』の舞台が写った新国立劇場看板。しかも王子がこのダンサー!駅によっては異なるダンサー版もあるようです。
(数年前、水道橋駅ではイーグリング版眠り初演時のコーダ写真看板が掲示されていました)
くるみのシャンパンゴールドな衣装も好きですが、白地にかちっとした金ベルトの不思議なデザインが妙にお似合いな
『ライモンダ』ジャンのお姿もいずれは看板化の機会を願います。甲冑を模したブルーグレーな色味も絵になるプロローグや夢の場
マントで帰還(看板化は不可能に等しいでしょうが、これが良い笑)も歓迎。今思い返しても、美しく勇ましく凛然とした騎士であったと再度目が心臓印状態です。
それはそうと、管理人の饗宴2021は神奈川県境を越えて東京都内に入ってもまだ終演しておりませんでした。ヒャッホー!!

2021年3月16日火曜日

異例の企画に喜ばしい人選 日本バレエ協会 コンテンポラリーとクラシックで紡ぐ眠れる森の美女 3月6日(土)7日(日)




日本バレエ協会公演コンテンポラリーとクラシックで紡ぐ眠れる森の美女を2日間観て参りました。例年はこの時期文化会館での協会公演は全幕物上演ですが
今年は現況でも実現できる企画として、前半は遠藤康行さん振付コンテンポラリーLittle Briar Rose(いばら姫)、 後半は篠原聖一さんによる古典(オーロラ姫の結婚)を上演です。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/2021都民芸術フェスティバル参加公演/

ダンススクエアに多数の舞台写真付きの記事が掲載されています。当たり前ですが当ブログより遥かに分かりやすい説明ですので、是非ご覧ください。
https://www.dance-square.jp/jbes1.html

プロの優れた執筆を読んだ後であっても素人の欠陥多数な文章を読む気力のある方は以下ご覚悟と忍耐の上、どうぞお読みください。


※キャスト等バレエ協会ホームページより抜粋

【第一部】 Little Briar Rose(いばら姫)

音楽:ピョートル・チャイコフスキー 他
振付・構成・演出:遠藤 康行
美術:長谷川 匠
音楽監修:平本 正宏
衣裳:朝長 靖子
バレエ・ミストレス:梶田 留以
アシスタント:原田 舞子

Cast
オーロラ:木村 優里
王子:渡邊 峻郁
カラボス<マジシャン>:高岸 直樹
梶田 留以 金田 あゆ子 木ノ内乃々
柴山 紗帆 原田 舞子 石山沙央理

石原 一樹 磯見 源 上田 尚弘 岡本 壮太 南條 健吾
小幡 真玲 南 帆乃佳 田代 幸恵
井後麻友美 海老原詩織 橋本まゆり


コンテンポラリー版いばら姫は、待っているだけでない能動的な姫と誠実そうな王子が出会い、
ローズアダージオとほぼヴァイオリンソロの間奏曲を使った濃密で長いパ・ド・ドゥを軸に出会い、試練を経て結ばれるまでを展開。
要所要所にカラボスや6人妖精も絡み、凝縮版として面白味のある作品でした。

オーロラ姫の木村さんはワルツを踊る人々の中へ序盤から好奇心旺盛な様子で入って行き、今回の版で遠藤さんが理想とする能動的な姫像をくっきりと造形。
大概の人ならばコスプレ大会での大コケ姿露呈状態となるであろう奇抜にもほどがある紫やピンクがかった三つ編みの鬘や
かぼちゃ型を模したパンツの衣装でも着こなせていたのは木村さんの生来の可愛らしく麗しい、抜群に長い四肢からなる容姿だからこそでしょう。
一瞬度肝を抜かれましたがフィギュアのようにも見え、それだけさまになっていたわけです。
コンテンポラリーはまだそう経験豊富では決してないはずですが、錚々たるダンサーに囲まれても埋没せぬ姿にも驚きを覚え
しなやかに動く身体が熱を帯びて観客の目を吸い寄せる魅力を示し、このオーロラと同様恐れずに飛び込んでいくチャレンジャー精神に天晴れでした。

渡邊さんは銀髪銀色スーツでこれまた大仰天でしたが、お詳しい方々曰く宝塚歌劇団で見られるようなデザインでも着こなす容姿は稀少であるとのこと。
(実は管理人、宝塚の舞台鑑賞未経験ですぐさま思い浮かばず。一昔前の歌謡歌手だの頓珍漢な例ばかり挙げており大変失礼いたしました)
衣装話はこの辺りにして、出演者の殆どが舞台上に集まり床に伏せた状態で始まる花のワルツ序盤から軽やかさと強さが共存し
手脚の長さを持て余さず無駄なく駆使していく身体の使い方と言い、抜きん出たレベルにいらっしゃると見て取れ
淀みない流れの中でいつの間にか跳躍し宙を舞っていた瞬間も多数。 トゥールーズのキャピトル・バレエ団在籍時代におけるコンテンポラリーも
大変経験豊かな方でありながら新国立劇場での公演では滅多にご披露の機会がなく、約40分踊り通しのお姿を拝見でき感激もひとしおです。

更にはただ身体能力を駆使するにとどまらず、今回の公演テーマの文字通りコンテンポラリーで物語を紡ぐ力にも驚倒。
勿論、バレエ団公演で好評を博している組み慣れた木村さんとの相性の良さもさることながら
オーロラ姫のほうが見た目も、古典とは違った役の解釈で重みが置かれていると思いがちな作品の中でも
姫との出会いにおける立ったまま向かい合っているだけでみるみると感情が押し迫るように高揚する様子が伝わり
カラボス達から逃れようと走っていく姿はなかなか独特のフォームでしたが笑、走行姿はともかく音楽に対して身体の反応がいたく敏感で
一瞬一瞬において残る鮮烈な余韻にも身震いするほどに感激。
混沌と入り乱れた設定の舞台上でも物語を牽引し突き動かす人物として確立し、古典のようにリラの精による舟の送迎もお膳立てもなく身体を張って立ち向かい
打ち負かされそうになっても尚めげすに突き進んでいく心理や状況描写も的確で
最初は目を疑ってしまった銀色スーツどころではもはやなくなったくらいです。

さて、協会公演でもやります髪型観察。今回は銀髪な異例事態となりましたが二重丸。
自然な分け目でペッタリ具合も無し、難しい色合いでもきらっとした銀がまた良かったのでしょう。
王子であり若く溌剌とした青年にも見え、『ロメオとジュリエット』パリスを除いては黒髪の印象しかない
しかもお醤油顔ながら銀でも映えるのは容貌がいかに端正であるか再証明しているといって過言ではないでしょう。

作品の核となっていた見せ場がローズ・アダージオとヴァイオリンほぼソロの間奏曲を用いた2つのパ・ド・ドゥ。
前者は出会って間もないオーロラと王子の距離感が一気に縮んでいくさまを壮大に描き、オーケストラの楽器総動員な仰々しいほどにスケールのある
本来は姫の友人や両親、求婚者達、貴族達、と立ち役含む大勢の出演者に囲まれた豪華な誕生会に似つかわしい音楽を
舞台上でたった2人であっても冗長さを感じさせずに作り上げた力量にまず賛辞を送らずにいられず。
しかも身体を濃密に絡ませたり、危険そうなリフトや構造が見えぬ複雑なサポートも多岐に渡る振付ながら木村さんが無防備に飛び込んでいったり、
どの場であっても盤石に受け止め場合によっては背中に乗せたままそのまま走る箇所も興奮が噴水のように溢れる王子の心の内側を覗かせるように
サポート姿でさえも渡邊さんは美しく魅せ、力んでのサポートや頑張って走っている感も皆無でお2人の実力と互いの信頼感の結晶と想像。
曲の起承転結といよいよ結ばれる姫と王子のときめき感が調和し、物語の流れの鮮やかな表現に息を呑むしかありませんでした。

間奏曲はライト版やウエストモーランド版、イーグリング版など英国系列の演出では目覚めのパ・ド・ドゥとして使用されていますが
混沌とした世界が過ぎ去った後の安堵と愛情を確認しあう空気感を柔らかく描き、古典におけるお2人の目覚めも過去に鑑賞しておりますが、
空間を大きくより自由度が高まった今回のパ・ド・ドゥも宜しく、最後は王子が姫を抱いたまま幕。そして第2部『オーロラ姫の結婚』へバトンを繋いだのでした。
ふと思ったが、渡邊さんならば新国立劇場エメラルド・プロジェクトで上演され高い評価を得ながらも一度も再演されていない
ドミニク・ウォルシュ振付『オルフェオとエヴリディーチェ』ができると思っており
第2幕には互いに目を合わせてはならぬ極限状態で踊る20分以上に及ぶ壮絶なパ・ド・ドゥが用意され
パ・ド・ドゥ名手の渡邊さんならば物語の世界やオルフェオの心理を深く描きながら出来ると確信しており、いつの日か観たい役柄です。


カラボスの高岸さんは元々の上背が威圧感と共に文化会館入口からも見えるスカイツリーの如き巨大な存在感。
黒く豪奢な衣装に負けぬ堂々たる立ち姿で、身体もまだまだ俊敏に動き、姫や王子に容赦なく試練を与える、誰も勝てそうにない強敵カラボスでした。
尚高岸さんの責任ではありませんが、マジシャンの呼び名の由来が今一つ分からずであったのが心残り。

妖精達の配置もユニークで、古典ではオーロラの赤子時代にしか勢揃いしない6人の妖精達がパ・ド・シスの音楽に乗せて、
オーロラに寄り添い、オーロラも興味津々に幸せそうに恵みを受け取るやり取りにも注目。
またただ魔法を優しくかけるだけでなく、カラボスの奇襲から逃れようと奮闘する姫と王子を囲い守る勇ましい戦士な役割も。(セーラームーンか笑)
リーダー格が紫であるのは古典からの踏襲で分かりやすく、それぞれ赤や緑、青など色とりどりのワンピース風衣装でお洒落な装いと映りました。
髪型も体型もそれぞれ自由で専門舞踊も皆異なっていても自然と和を保つ、不思議な魅力も堪能です。

それから最も危惧していた遠藤さんの振付名物、謎の長き静謐時間が今回は抑え目であったのは幸い。
2018年に新国立劇場で開催され遠藤さんが主に振付指導にあたっていらしたジャポン・ダンス・プロジェクト『夏ノ夜ノ夢』2幕の約半分が
無音の中で出演者が「ブハッ」と息つぎする展開で、コンテンポラリー不慣れな私がいかんのだが、せっかく心から虜になっているダンサー出演舞台
しかも間近で下着1枚衣装でありながら、本来ならば崇めて拝んで鼻血が心配な状態になろうはずがとても至らず苦行に近い鑑賞となってしまったのでした。
しかし今回も似た路線の場面はあったもののそう長くは無く、また上から降りてくる装置を各々取り外し
フラフープのように持っては床に倒れ顔にフェイスカバーのような布を被せるといった
意図は深くは理解できすとも、実体が未だ解明されずにいるウイルスによる支配や抑圧に苦しむ今の時代に語りかけているとも捉えられる展開で、
遠藤さんによる現代社会の鋭い描写が私の目や心にもすっと入り、集中して鑑賞。苦行と呼び失礼極まりなかった笑、3年前とは大違いでした。

※ご参考までに、当時の舞台の様子が気になる方はこちらをどうぞ。

オーロラ姫と王子の出会いに一捻り加え、眠りの御伽噺な世界観はそのままにチャイコフスキーと平本さんの音楽を切り貼り感なく合わせ
現代の問題を無理矢理ではなくさりげなく問いかけるような要素も組み込んで展開する
斬新でありつつも普段バレエを中心に観ている私のような客層も変に肩肘を張らず、すんなりと入りやすいコンテンポラリー作品でした。

ところで、このところ渡邊さんは今回の王子や、2月公演のデジレ王子にしても、戦闘能力が頗る抜群そうな王子とは言い難いのだが
過去には今回のプログラムの出演者紹介ページの舞台写真にも載っているベジャール版『火の鳥』や(新国立での写真を希望するお声もあるでしょうが私は嬉しい)
『海賊』スルタン、『美女と野獣』野獣など、近寄り難く豪胆な人物やいたく雄々しい役柄も数々踊っていらっしゃり
中でもスルタンは泣く子も黙るおっかなく冷酷な、素手でねじ伏せられそうな暴君で
これまでに観た歴代の悪役敵役ではボリショイのゲディミナス・タランダのアブデラーマンに並ぶインパクトで初めて映像を目にした日は大事件勃発な1日、
当時20代前半であったご年齢も到底信じ難い衝撃であったのは事実で貫禄や凄みをいかにして体現なさっていたのか疑問が絶えず沸き続いたのは事実です。
弱小ヒーロー(失礼)から正反対の一癖も二癖もある悪人まで、 役柄の引き出しが多く振り幅が広い魅力に再度興奮を覚えた次第でございます。




【第二部】 オーロラ姫の結婚

音楽:ピョートル・チャイコフスキー
振付・構成・演出:篠原 聖一
振付補佐:下村由理恵
バレエ・ミストレス:佐藤真左美

Cast
<オーロラ姫>  酒井 はな(6日) 寺田亜沙子(7日)
<デジレ王子>   橋本 直樹(6日) 浅田 良和(7日)
<リラの精>   平尾 麻実(6日)  大木満里奈(7日)
<フロリナ王女> 清水あゆみ(6日) 勅使河原綾乃(7日)
<青い鳥>    荒井 英之(6日) 高橋 真之(7日)
<白い猫>     岩根日向子(6日) 寺澤 梨花(7日)
<長靴を履いた猫> 田村 幸弘(6日)  江本 拓(7日)
<赤頭巾>     橋元 結花(6日) 清水 美帆(7日)
<狼>       荒井 成也(6日) 小山 憲(7日)
<王妃>      テーラー 麻衣
<フロレスタン王> 小林 貫太
<式典長>     奥田 慎也

<宝石の精>
大山 裕子 玉井 るい 吉田 まい ヤロスラフ・サレンコ(6日)
渡久地真理子 古尾谷莉奈 渡辺 幸 加藤 大和(7日)
<マズルカ>
青島 未侑 金海 亜由 金海 怜香 栗田 陽南
小林 由枝 染谷 智香 須貝 紗弓 中村 彩子
深山 圭子 細井 佑季 宮本 望 山内 綾香
石原 稔己 オリバー・ホークス 川﨑 真弘
草薙 勇樹 小林 治晃 高橋 開 竹本悠一郎
秦野 智成 安田 幹 安中 勝勇(以上両日)
加藤 大和 小山 憲(6日)
荒井 成也 田村 幸弘(7日)
<貴族>
大塚 彩音 小野田奈緒 佐藤 愛美
田代 夏花 寺坂 史織 野澤 夏奈
八木真梨子 林 彥均


古典版は第3幕「オーロラ姫の結婚」。3年前に札幌での旧北海道厚生年金会館(ニトリホール)閉館公演にて篠原聖一さんが国王役で出演された
結婚式場面を鑑賞しておりますが、篠原さんが関わっていらっしゃるためか似た路線の演出で、王道なる絢爛な式が繰り広げられました。

オーロラ姫の酒井さんは幕開けの登場時に腕を掲げたときから花を開かせるように艶やかな風を起こし、気品香り立つ姫君そのもの。
特に国王と王妃や貴族達全員に目配せをして祝宴を更なる纏まりへと繋げ、舞台の格を増幅です。
ただ、私が酒井さんのオーロラといえば舞台でも写真でもマリインスキー系の版で見慣れているせいか
今回のロイヤルスタイルはやや違和感があり、いつもの大輪の花の如き晴れやかなステップは抑えめであったかもしれず
ヴァリエーション冒頭でもパッセではなくダイナミックなアチチュードのポーズで引き込む姿が観たいと思わず欲が募ってしまったのは正直なところ。
そうは言っても先述の通り、宮廷の人々との視線の交わしや指先から幸せの花々が零れ落ちるような幸福感は酒井さんのオーロラの真骨頂。
至福のひとときであったのは間違いありません。光沢のある白い布地にピンクの薔薇が添えられた衣装もたいそうお似合いでした。

橋本さんのデジレ王子は昨年のバレエ協会全幕『海賊』に比較すると酒井さんとの呼吸の合い方に少々ずれを感じたのは否めずでしたが
からっと明るい王子を造形。貴公子系よりもキャラクターの濃い役の方が本領を発揮なさるタイプであるのかもしれません。

寺田さんのオーロラ姫は初見。すらりとしたスタイルに新国立きっての華やかな美貌の持ち主で、姫の中の姫も観てみたかったため期待を持ち過ぎてしまったか
内側からの煌めくオーラよりも不安や緊張な胸の内が露わになってしまっていた印象で、ハラハラと手に汗握る箇所がいくつもあり。
しかし天性の美しさから醸し長い腕が柔らかに描く優雅さや、威風堂々とはまた違うほのかな恥じらいも覗く愛らしさにも魅せられ、貴重な舞台を堪能です。

浅田さんは当初心配していた寺田さんとの身長差はそう感じさせず、パ・ド・ドゥにおいてサポートや立ち位置微調整が上手い対処の効果なのでしょう。
寺田さんの手が長い条件もあって、手先が床に付きそうな状態に一旦なってしまってから浮き上げて止めていた
誠にスリル満点なフィッシュダイブ以外は手堅く纏め上げていらっしゃいました。

リラの平尾さんは役の経験も豊富そうで、出から宮廷を司る妖精らしい統率力を明示。
マイムの間も絶妙で、挿入されたプロローグのヴァリエーションの滑らかに歌うような踊りに魅了され、対する大木さんはにこやかな笑みと長くすらりと伸びる手脚が描く軌跡の美で祝福感を後押し。
お2人とも紫と銀で覆われた豪華な頭飾りや細かい装飾で彩られた衣装もよく合って好印象です。

両日目を見張ったのは白い猫と長靴を履いた猫で、岩根さんと田村さんは登場から達者に繰り返すパ・デ・シャも見事なほんわか仲良しな猫ペア。
寺澤さんと江本さんは隙あればいたずらの応酬が止まらぬ仕掛け満載な楽しいペアでふと静まった瞬間も何をするか面白く観察し
両ペア共通していたのは、宮殿のソファやクッションにて寝転んだりじゃれ合っていそうな品を備えていたこと。
貴婦人や紳士を模した衣装を着るに相応しい猫さん達で、岩根さん寺澤さんは白鬘も違和感皆無な容貌でした。

宝石は玉井さんが頭一つ抜けた洗練された存在感で、力みのない 跳躍やダイヤモンドのカラットを思わせる立体感ある身体の見せ方も秀逸。
協会公演での毎度楽しみな方のお1人、渡久地(とぐち)さんの鮮やかできりりとした踊りも惚れ惚れいたしました。
宝石女性の衣装も宜しく、クラシックチュチュにきらりと光る素材が散りばめられた明快且つ派手過ぎずされど華やぐデザイン。
目は慣れてはきたが、某国立も参考にしていただきたいと願います。 (宝石より先に青い鳥が要早急案件ではあるが)

話が青い鳥の如くあちこちに飛びますが、冒頭で述べたように3年前に旧北海道厚生年金会館(ニトリホール)閉館公演にて篠原聖一さんが国王役で出演された
結婚式場面を鑑賞。概ね似た路線ながら今回篠原さんの改訂によって違う点もありました。
特徴として共通していたのは、国王と王妃や貴族達が童話のキャラクター達を出迎える前に披露するサラバンド。
王朝の栄華を悠然と漂わす効果大で宮廷世界への入り込みに一層繋がっていき、札幌以外でも是非取り入れた演出を観たいと願っていただけに嬉しい共通点でした。
対して異なっていたのはオーロラ姫とデジレ王子登場のタイミングで、札幌では最後の最後グラン・パ・ド・ドゥの段階になって
ようやくの登場でしたが(首を長く長くして待っていた当時を回想)
今回は幕開けに勢揃いしたところで登場。セルゲイエフ版などに見られる、新郎新婦が早々に登場して
赤頭巾ちゃんや青い鳥達始め客人達をお迎えする、私が好きな演出に少し近い形でこれまた喜びでございました。

それから札幌では宝石は女性のみで、シンデレラと王子の踊りが有り。(哀愁がじわりと滴るような曲調がいたく好みですが近年は省略が多く、少々残念。
近年の傾向である上演短時間化事業仕分け真っ先の対象となるのでしょう)
他にも細かな箇所で諸々あるとは思いますがそうでした、今回はアポテオーズにてオーロラ姫とデジレ王子がマント装着。
札幌でも装着ありで観たかったとの欲は尽きませんが終わってしまったものは仕方ない笑。
※札幌での公演の様子が気になる方は、ご参考までにこちらをどうぞ。 恒例旅日記付きでございますが、クラーク像のある羊ヶ丘展望台には僅か10分滞在、
徒歩ではなく基本小走りでないと間に合わぬ欲張りスケジュールでございました。このとき以降北海道は基本日帰りは無し、と心に決めたものです。

今回の話に戻します。昨年2020年は眠り初演から130年を迎えたためか、昨年から今年にかけて、国内団体による眠り上演が相次いでいる気もいたします。
毎度クラシックの全幕上演が恒例である2月や3月のバレエ協会公演と趣向を変え、例年にはない構成でしたがむしろ喜ばしい人選もあり。
現況だからこそ成し得る公演企画が結果として良い方向へ作用した公演で
しかもコンテンポラリーでは出会いと試練を、古典では結婚式を描き出し第1部からの流れを汲む物語進行形式は斬新で面白味も十二分。
発案に拍手を送りたい思いです。

来年3月の協会公演はユーリー・ブルラーカ版『パキータ』全幕を予定との告知あり。内容が無いに等しい1幕をいかにして描いていくか
15年前のパリ・オペラ座来日公演でラコット版全幕を鑑賞していながらいざこざがあった点やペンダントが鍵となっていた程度にしか
前半の内容は覚えておらず、今から心待ちにしております。




『いばら姫』カーテンコールには撮影時間が設けられ、両日発表会でいえばカメラマンさんが腰掛けるであろう辺りにに着席していながら
我が撮影技術の劣り具合が益々進行しているのか良作なかなか撮れずで悪しからず。舞台の様子の参考までに数枚紹介いたします。






遠藤さん、ご登場。






2日目はズーム中心。






2日間とも、客席開場前にはいばら姫の美術を担当された長谷川匠さんによるギャラリートークもあり。説明を踏まえて鑑賞するとより面白味が高まり
模型製作時は客席も作って観客からの見え方も計算している点や、出演者側からも見ても舞台の世界に浸っていられるよう
裏側まで立体感のある作りにしているなど(もし聞き間違いがあったらすみません)心掛けていらっしゃることを説明してくださいました。
プロフィールによれば1985年生まれとのことで、舞台芸術の美術担当をなさっている方の中では大変お若い年代であるかと思います。



2018年新国立劇場で開催されたジャポン・ダンス・プロジェクト『夏ノ夜ノ夢』パネル。パネル下部の写真、
オレンジ色の衣装を着ていらっしゃるのがライサンダーの渡邊さんです。



『夏の夜ノ夢』模型。きらきらと光る鏡板の吊るしは今もよく覚えております。当時は終演後、舞台装置のみ撮影時間が設けられました。
今回の展示も撮影自由で、長谷川さんが手掛けた昨年末に大和シティーバレエで上演された『美女と野獣』模型も展示されていました。



『いばら姫』模型。長谷川さんは大変気さくでチャーミングな方で、自らペンを手にサインしますと呼びかけていらっしゃり、私もいただきました。
名前も入れてくださるとのことで、苗字を申し上げたところローマ字で綴ってくださいました。
またジャポンも鑑賞していたことも伝えたところ喜んでくださり、そして質問を受けたわけでもないにも拘らず目当てのダンサーについて
つい話してしまい笑、プリンシパル昇格や今回も大活躍である旨を語ってくださり長谷川さん、この度はありがとうございました。
余りに好きな映像があるゆえに鑑賞を見送った昨年末の『美女と野獣』、再演時は美術含めじっくりと拝見いたします。
※今春、もしかしたら同名のバレエは関東外で鑑賞する機会があるかもしれず、その際は詳しく感想お届けいたします。




2日目開演前、上野駅アトレにてローズハイボール。脳内はチャイコフスキーの音楽のみならず、マイク真木さんの名曲も旋回です。半券の絵もロマンを誘います。




初日開演前、薔薇色に近いであろうと苺カクテルを注文。予想通り、薔薇が詰まっているような色彩です。



酒井はなさん、そしてコンテンポラリーを踊る渡邊さんにも興味を示し来場してくださったムンタ先輩と。
管理人のスパークリングワイン、表面張力で耐えうるギリギリまで注いでくださいました!



2021年1月22日金曜日

全員でめでたし大団円 谷桃子バレエ団『海賊』1月16日(土)




1月16日(土)、谷桃子バレエ団『海賊』を観て参りました。エルダー・アリエフ版は初鑑賞です。
https://www.tanimomoko-ballet.or.jp/img/ticket/kaizoku.pdf?v=201120

脚本・演出・振付:エルダー・アリエフ
メドーラ:佐藤麻利香
コンラッド:福岡雄大(新国立劇場バレエ団)
ギュリナーラ:齊藤耀
ランケデム:牧村直紀
パシャ:齊藤拓
オダリスク:山口緋奈子 山田沙織 永井裕美




紹介動画



新国立からのゲスト福岡さんのコンラッドは登場するやいなやリーダー格をこれでもかと見せ、鋭い超絶技巧の繰り出しが圧巻。
頑張って見せています感はなく、切れ味たっぷりな上にあくまで劇中の、仲間たちに慕われ迎え入れられる場面にすっと溶け込んでいた点も好印象。
加えてこの状況下の不吉成分もぶっ飛ばす勢いも好ましく(これ大事)
序盤から物語をぐいっと引っ張って観客を引き込んでいく見事なリーダーでした。
ゲストらしい格を持ちつつも谷バレエによく馴染み、仲間たちと変装してメドーラ達を眺める様子は向かうところ敵無しな荒くれ海賊の風味は消えて
女子校の文化祭に来た男子生徒のような落ち着かぬ興奮ぶりが微笑ましく映り、アリ不在の設定であっても違和感ない展開に思えたのは
福岡さんによるコンラッドの多面性造形によるところが大きいと捉えております。
ご出身スタジオや客演先の発表会でグラン・パ・ド・ドゥは度々鑑賞しておりますが、所謂全幕公演『海賊』では初鑑賞です。
(2010年に愛媛県で上演された全幕とほぼ変わりない篠原聖一さん版1幕仕立てハイライト海賊では佐々木大さんコンラッドに従順なアリを好演
日本における海賊こと村上水軍ゆかりの地に近い瀬戸内海まで近距離地域でした)

佐藤さんを主要な役で鑑賞するのは初かもしれませんが、想像以上に安定した技術と高い表現力の持ち主であると分かり驚嘆。
メドーラ登場のソロでの全身から迸る嘆きは強くしなやかで胸に訴えかけ、コンラッドとの出会いでの一変する見つめ合いは
立ち尽くしている状態であっても恋に落ちた様子が明らかな動揺を醸し、眺めているだけでも心臓が高鳴る出会いでした。
花園での盤石でくっきりとした踊りも観ていて爽快で、コンラッドを導く大らかで優美な雰囲気も二重丸。
更に驚かされたのは佐藤さんと福岡さんの相性の良さで、パとパの繋ぎ過程や表情も含めて、全てにおいてぴたりと噛み合い、
パッションを出す佐藤さんに対する福岡さんの受け止め反応も熱く、鮮烈なパ・ド・ドゥと化していた印象です。

一見おっとりしていながらテクニック達者でそのギャップに蕩けかけたのは齊藤さんのギュリナーラ。
悲嘆に暮れる陰鬱さはなく、むしろにこやかに踊っていた点も健気な性格が伝わり良い方向へ動いたのか、牧村さんランゲデムがギラギラ嬉々としていたのも納得です。
衣装が古き良きキーロフ踏襲デザインのようで、クリーム色のチュチュに赤と濃いめのターコイズブルーや渋めの金模様を組み合わせた色合いが
アスイルムラートワやメゼンツェワ時代のキーロフ好きの心を擽らずにいられず。

上演時間は休憩含め全2幕で約2時間15分。仮に休憩が短ければ2時間以内で終演する誠にスピーディーな展開です。
まず最大の特徴は先述の通りアリが不在である点。仲間率いての冒険な譚海賊にて非常に物寂しい舞台になるかと予想いたしました的中せず
コンラッドに焦点が当てられた分すっきり明解な話となり、むしろこれはこれでいたく面白い人物描写へと繋がっていたと受け止めました。
メドーラとコンラッドの出会いは2人だけに光が当たり、時間が止まったような光景を生み出しまるでロミオとジュリエットと同じ演出にも見て取れたものの
恋に落ちた様子がはっきりと伝わりますからその後において感情移入しやすい筋運びとなっています。
ただ主要人物が減った分コンラッド役のダンサーや彼に絡むキャラクター達もしっかりとした表現者でないと大コケする事態に至るでしょうが
そこは心配皆無で、福岡さんの造形力及び谷のダンサー達の弾けるパワーによって良い方向へと作用していたのは確かです。

そして見せ場を省略せずとも従来の版とは異なる箇所に取り入れ、花園は前半に持ってきてしかもコンラッドの夢の中として設定。
出会って間もないメドーラに対して一段と恋い焦がれる展開としては説得力がありました。
但し、失礼ながら笑ってしまったのはメドーラが登場するまで大人数の花々達が優雅に舞っていても
コンラッドは下手側前方にてうつ伏せで倒れ込んだままで、両手両脚も無造作に置いた形。
つまりは2時間サスペンスドラマにおける開始5分後頃の場面にて倒れ人を白い線で囲み、警察達がシャッター音を響かせながら現場撮影に勤しむ風景を彷彿させ
20分後には警察署内にて写真付き人物相関図の説明場面が入るのはお決まりの展開ですがそれはさておき、突っ込み度上昇場面でもありました。

後半に入ったオダリスクは館を麗しさで満たし、美女に囲まれて寛ぐご満悦なパシャの心も分からんでもないかと辻褄は問題無し。
中でも山口さんの華やぐオーラが目を惹きました。衣装がまたギュリナーラに似たピンク地に濃い赤とターコイズブルーの組み合わせでキーロフの趣き十二分。
着用者によっては洗顔のヘアバンドと化すであろう頭飾りも、このお三方なら難なく絵になり見惚れてしまいました。

ガラでの人気場面のグラン・パ・ド・ドゥはメドーラとコンラッドの祝宴として2人で踊られ、福岡さんが新国立入団前から披露姿を目にしているヴァリエーションを
全幕の中の主役として踊るお姿は何とも感慨深く思えた次第です。
通常ビルバントが踊るピストンパンパン(恐らく正式名称あると思うが)は終盤にて祝砲の如く踊られ、めでたい結末を後押しに効果をもたらしていました。

序盤は久々の公演のためか舞台全体に緊張が走っていましたが打ち消すように後半の大団円へと向かう流れは全員の身体の底からパワーを発し渦巻いていた印象。
珍しく殺人や裏切りや仲間割れ、憎悪といった負の要素排除版でありながら物足りなさを感じさせず
平和な結末に向かって猛スピードで突っ走る物語は感染症の終わりが見えぬ状態で迎えた2021年、微かではあっても縁起良い予感を持たせる胸躍るアリエフ版でした。

カーテンコールにはショートカットの颯爽とした芸術監督の高部尚子さんも登場。30年前初めて拝見した赤城圭さんとの『シンデレラ』、
のちのダンスマガジンでのインタビューをまとめた書籍『バレリーナのアルバム』に綴られていたお好きな言葉として
「鋼鉄に一輪のすみれの花を添えて」だったと思いますが、 強く美しい響きは今も覚えており脳裏を過っていきました。

全幕上演機会が少ないと言われる『海賊』、振り返ると上演があれば足繁く通い全幕映像があれば何本かは鑑賞していると思い出し
初めて観たのは映像でのキーロフ。アスイルムラートワのエキゾチックな美しさが忘れられぬ、
最初に映像ソフト化され以降スタンダード版として広まった演出かもしれません。
ただその後も何本かの全幕公演、映像を眺めていくともはや誰がどこの部分を作曲したか複数の作曲家による音楽混在状態で
把握なさっている方がいらっしゃればお目にかかりたいほど。(生き字引な福田一雄さん、井田勝大さんならよくご存知かと思います)
更にはバレエ音楽屋大集合(大雑把な括りで失礼)による作曲のためか多少入れ替えがあっても違和感無く、余所から取り入れてもさほど不自然さも無い。
加えてあらすじがあるようで実質無いに近い物語ですから、だからこそ振付家演出家にとっては自由度が高い作品で、
重きを置くキャラクターも様々。あたかも違う作品鑑賞に臨む気分でおります。

古式ゆかしくも能天気なキーロフ(マリインスキー)の版は幸いにも2006年の来日公演にてロパートキナ主演で鑑賞し、
数日前の一夜にして『パキータ』『ライモンダ』結婚式、『ジュエルズ』ダイヤモンド3本一挙主演を果たした座長ガラにおける神々しさは微塵もなく笑
喜劇の芝居心が無いのかパシャやビルバントとの慌ただしいやりとりがちょいとわざとらしいご様子でそれがかえって大娯楽路線を増幅。
アンナ・マリー・ホームズ版は概ねスタンダードな基盤を踏襲していながらも、もう少し人物設定や振付も整理整頓された趣きな印象。
2008年にABT、2017年にENB、2019年に東京バレエ団公演にて鑑賞し、バレエ団によって衣装も随分と異なり見比べも興味津々でした。
好きなバレエ団ながら原典復刻版の長さには後半パシャと一緒に居眠りするほか無かったボリショイシネマもございましたが
新たに書き下ろした音楽の溶け込ませに成功していたのはNBAバレエ団で、新垣さんが手がけた曲がさざ波のように調和し、違和感無し。
またメドーラとギュリナーラの関係性が修羅場と化す、さりげなく重たい要素も含まれていました。
嘗ては熊川さんがアリを踊られたKバレエカンパニーは悲劇の英雄アリ物語でしたし、花園やトロワにオダリスクと見所を押さえつつ2時間にまとめ
プロローグとエピローグに原作者バイロンも登場して洒落た雰囲気も合わせた日本バレエ協会が昨年上演のヤレメンコ版もまた観たい演出です。
焦点を4人の人間関係に絞ってシリアスな展開に仕立て、 装置や美術も最小限且つ洗練された色彩にも目を奪われる
数ある海賊の中でも最たる大胆改訂とも思えるキャピトル・バレエ団のベラルビ版は「それゆけ若き暴君スルタン」な副題を付けてもおかしくないほどに
スルタンの怪演が舞台を左右する秀作。理由を綴り始めると原稿用紙10枚分には及びそうですので割愛しますが
管理人がバレエDVDの中でも一番再生回数が多いお気に入りでございます。

そして今回、海賊鑑賞歴に谷バレエによるアリエフ版が加わり、とにかく全員がハッピーエンドへと向かう流れが爽快。
昨年中止になったNHKバレエの饗宴にて抜粋上演を予定していた理由にも納得いたしました。
谷バレエの大事なレパートリーとして上演を重ねて欲しいと願い、今から再演が楽しみです。




ロビーに花園



インドカレー店ですが、店名からして『海賊』鑑賞時にも来店したくなる上野駅東側のお店。
2017年の日本バレエ協会『ラ・バヤデール』、2018年のNBAバレエ団『海賊』に続き3度目の訪問です。
毎度1人で来ており、サグチキンカレーが気に入っております。
(上野での海賊鑑賞時においては、2019年の東京バレエ団公演では有楽町のトルコ料理屋さんに、
2020年の日本バレエ協会公演では上野駅近くの西洋海産物料理店へ。
いずれもムンタ先輩と行き、美味しく海の冒険の余韻に浸っておりました)



振り返ると毎回同じセットメニューを注文しておりますが、前回は最後の方でお腹が一杯になり苦しくなりかけながら完食だったはずが
今回は難なく、しかも瓶ビールも含めて完飲完食。
昨秋の札幌訪問以降胃袋の膨張が止まらないのか或いは老化により満腹中枢が壊れてきたのか笑、真相は不明でございます。