2024年5月17日金曜日

世界バレエ名作物語『海賊』『ラ・バヤデール』『ライモンダ』





汐文社から出版されている、子供向けに書かれた世界バレエ名作物語『海賊』『ラ・バヤデール』『ライモンダ』を読んでみました。
異国情緒系3本立てで、現代において上演するには東洋を描く演出の工夫が強く求められる3本かと思います。
直近で観た全幕が2本入っているため、大きな関心を持ちながら手に取りました。

全作品が小説風に綴られていて、原典とは違うかもしれませんが実際には舞台で描かれていない行間も丁寧に描写。
人物達の内面もよりくっきり浮かび上がってきて心を掻き立てられました。
例えばラ・バヤデールのソロル。村人達に慕われ勇者ソロルよ、と讃えられながら呼びかけられる場面や、
彼らが恐れる虎(子供を連れ去るらしい)を退治できる戦士の中の戦士である旨が冒頭に綴られています。
ガムザッティとの婚約は、村人達も大納得な出世であったに違いありません。
また鑑賞時の謎である、ラジャーの屋敷でガムザッティに命じられアイヤが呼びに行くとすぐニキヤがやってくる時間軸。
鑑賞していると舞姫達の待合室が隣部屋にあるとしか思えず笑、ガムザッティ医師の診察を待つ患者のニキヤ、に見えてなりません。
しかし本では、アイヤが屋外まで出向きニキヤと一緒に宮殿の裏口から入ってくるくだりも描写。

ガムザッティが父親のラジャーからソロルの肖像画を見せられると心から喜び、勝気な顔つきが綻ぶ変化も描かれ、この辺りを読み進めていると
また先日の新国立劇場バレエ団公演で鑑賞した直塚美穂さん、木村優里さん2人のガムザッティの造形を観ていても
ガムザッティが意地悪で我儘な女性だなんて一切感じられず。政略結婚ではあれど
父親が正式に決めた結婚を喜び受け入れる様子からしてもむしろ最も真っ当な生き方をしている人物といえるでしょう。
ニキヤはソロルと結婚できるなら寺院から出られる希望を秘めていた内面が前半には綴られていましたが
万一叶ったならば最初はよかれど、やがてソロルがガムザッティとの結婚を命じられたらソロルは承諾するしかないでしょうし、
離婚したニキヤの生活は立ち行かなくなるでしょう。一級戦士と第一舞姫な立場を捨て無職になった2人が果たして運命を共にできるのかと聞かれたら首を縦には振れません。

殊に『ライモンダ』ではヨーロッパ優位な視点で捉えた東洋描写の疑問点や現代における上演工夫についても触れています。
胸の中はジャン一色なライモンダをからかう友人達の微笑ましさや、突然のサラセン人達の到来にも毅然と対処する
ドリ伯爵夫人の凛とした立ち居振る舞いも絵としてぱっと浮かび立ちました。
絵は漫画風ですが子供のみならず大人もしっかり楽しめる学びたくさんな書籍です。
そうでした、帰還した時のジャンの台詞が演劇の決め台詞並にいたく格式高い言葉が並んでいましたが、
婚約者が戦地での敵にあたる人物に強引に連れ去られそうになっている緊急事態に口から出るか?
兼業脚本家な騎士でもない限り、もっと荒くれた口調になりそうな気もしてちょいと疑問も笑。
あくまで子供達、青少年に向けた、きちんとした言葉遣いが連なる点もこの書籍の魅力なのでしょう。

表紙の絵が目に入ると手に取るときは一瞬躊躇うかもしれませんが、是非一度お読みになってみてください。
登場人物達の背景や感情について、新たな発見がきっとあるかと思います。

0 件のコメント: