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2024年8月23日金曜日

ほどよく刈り込み見せ場を工夫  エチュードバレエアカデミー  バレエフェスティバル『眠れる森の美女』 全幕  8月7日(水)

8月7日(水)、多摩センターのパルテノン多摩にて、エチュードバレエアカデミーバレエフェスティバルを観て参りました。
http://www.etude.gr.jp/

https://www.parthenon.or.jp/event/daihall20240807



 




  ゲストに新国立の渡邊峻郁さん、柴山紗帆さん、木下嘉人さん、中島駿野さん、宇賀大将さん、
牧の濱田雄冴さん、𡈽屋文太さん、ロシア国立サラトフ・オペラバレエ劇場の廣瀬晃太朗さんを迎えての舞台です。
定時退勤後に向かいましたため第1部のバレエ・コンサートは客席からは鑑賞できずでしたが
友人がチケットを持っていたため到着後次の休憩時間まで受付前で待機していたところモニターを発見。
コンサート最後を飾る『くるみ割り人形』グラン・パ・ド・ドゥコーダがちょうど始まった様子を確認いたしました。
最初から観ている友人がプログラム受け取り後すぐコンサートの出番について予め連絡をくれていたため
モニター凝視しながら思わず興奮しつつ、休憩時間までその場で待っておりました。
王子が渡邊さんでしたので、また前日には渋谷の大和田さくらホールにて我が後輩が踊って大成功収めた演目のパ・ド・ドゥでしたので
受付前待機状態ながらちょこっとだけでもモニター越しに拝見でき、多摩センターの祭典2024夏が開幕です。

さて休憩時間になり友人から無事チケットとプログラムを受け取って入場し、客席からは『眠れる森の美女』全幕の部から鑑賞。
エチュードさんの鑑賞は2022年以来2回目で、前回は第1部バレエ・コンサートの幕開けから鑑賞いたしましたが
柴山さん渡邊さんが主演務められたお目当ての『パキータ』グラン・パ含めても大変ボリュームのあるバレエ・コンサート構成な上に
その後に刈り込み演出ほぼ無しでの全幕『コッペリア』上演に仰天した記憶がございます。
勿論発表会の主役は生徒さんですから、大きなスタジオの場合バレエフェスやお正月時代劇も驚愕な長時間上演になるのは当然の流れとは思ったものの
先生方及び出番が多い少ない問わず生徒さん達の体力に脱帽したものです。小さなお子さん達にとっては待機時間もなかなか大変かと思います。

しかし今回は第1部を観ていない身分で申すのも失礼かもしれませんが2022年に比較するとバレエ・コンサートの演目数は抑えられ
眠り『全幕』であっても、プロローグ妖精達のアダージョ部分はカット(確か)、第1幕のワルツ前座こと糸紡ぎお許しください場面や
2幕森の場の村人達の踊りもカットしたりと上手いこと少しずつ刈り込んで短縮。
しかし生徒の出番もしっかり見せる、幕ごとのポイントは華やかに見せて全幕観た気分に浸らせる等終始工夫された演出が光り
渡邊さんがデジレ王子役であった点を差し引いても観客の集中力を切らせないよう配慮が行き届いた構成であったと捉えております。

通常オーロラ姫登場直前に披露される花のワルツを別所(プロローグだったかと記憶)に持ってきて、木下さん、中島さん、濱田さん、宇賀さんも投入されての
パ・ド・ドゥペアを軸に展開する振付も華々しく、開幕に期待膨らむワクワク感を募らせて見応えがありました。
フォーメーションもよく整理され、小さなお子さんからコンクール入賞者達まで、それぞれ目立たせる場面が設けられて大人数であっても混雑した印象皆無でした。

第1幕のオーロラ姫はスタジオご出身で牧阿佐美バレエ団で活躍中の門脇紅空さん。
直近で拝見したのが5月に上演されたバレエ団振付家発掘公演での黒い衣装に身を包み美術館の警備員を誘惑する女怪盗役でしたので
淡いピンク色チュチュがぴったりな、可憐なお姫様が妙に新鮮。小柄で軽やかで、すくすく育った感のある伸び伸びとした踊りにも惹きつけられました。
4人の求婚者の王子達が花のワルツからそのまま出世した!?男性ゲスト陣。この3日前の8月4日(日)江戸川区に現れた宮殿で勃発した
区が誇る夏の大行事である明日開催の花火大会も仰け反るであろう火花の散らし合いや濃厚に波打つ争い、奪い合いは無く笑
4人揃って白系のクラシカルな装いで、温和な協調性を重んじながら姫を優しく見守り支える王子達でした。
倒れたオーロラ姫を運ぶ格好も、1人が先導役で前を歩き、3人が等間隔で持ち上げて歩く様子も音楽と調和していて自然でエレガント。
安全第一を重視して姫を落とさずに運ぼうと真剣になるあまり建設現場での鉄鋼運搬作業にもなりかねない場面においても
あくまで優雅に運び、リラの精の魔法へとスムーズに橋渡ししていた多摩センター求婚者王子陣でした。

大概発表会での眠りはプロローグ、1幕、3幕結婚式辺りを抜粋上演する教室が大半で
役が少なくコール・ドで見せるのも難しい第2幕は上演機会は珍しく、今回とりわけ楽しみにしておりましたが、進行すればするほど目が冴え渡って感激した幕でした。
まず、王子様がやってくる森の狩りとはいえ貴族達はいますが賑やかな村人達が不在の少人数な御一行のため
渡邊さんデジレ王子が登場からずっと跳躍や回転含ませながら踊りっぱなしで驚倒。
王子の見せ場が多いとされるヌレエフ版もここまでは踊らぬはずで、若さと情熱に溢れ、生気や躍動感も漲り
優雅に歩いてご登場ではなく最初から大跳躍で斬り込んでくる勇壮な王子でございました。更には衣装のセンスが良く、濃紺のベルベットな上着でカチッとした装い。
白いブラウス系ですと棘にすぐ刺されそうですし獲物からの奇襲も危ぶまれるため狩にしては危険な軽装に見え(現代で言えば、富士山軽装登山問題を想起)
そうかといって、丈夫そうな作りやシックな色味は評価できるものの某国立の胸元開き過ぎ衣装はいただけず汗。
心は開いても胸元は閉じろと初演の10年前から何度嘆いていることか、2ヶ月後も同様にぼやくのは目に見えておりますが
それはさておき、パルテノン多摩を飛び出してキティちゃんもびっくり歓迎であろう、サンリオピューロランドまで跳んでいきそうな勢いで
踊りも衣装も凛々しく気高く勇壮さ抜群な印象で舞台を席巻していらっしゃいました。
そうです、オーロラ姫は眠りについても、観客は益々意識をはっきりさせないとならぬ場面ですから(結婚式が終わるまでまだ長い)
目覚まし時計代わりに王子のインパクトが増強されてちょうど良かろうと納得でございます。

2幕からオーロラ姫は柴山さんにバトンタッチ。幻影であってもぼやけ過ぎないよう、緻密に強弱を付けた美しい踊り方で
3幕結婚式場面でも感じましたがバレエ団公演で度々組んでいる渡邊さんと、王道のクラシック演目であっても
互いに刺激を与え合うように情感が広がるやりとりに心動かされました。
お2人のペアはとても好きですがこれまで作品によっては少々ぎこちなくなってしまったときもあり
しかし当ブログでは度々申し上げているように『ライモンダ』での深窓の淑やかな貴族令嬢と愚直な騎士の並びや、
双方が身体の底から吹っ切れたと思わせた『夏の夜の夢』でのティターニアとオーベロンの、喧嘩しても睦まじく威厳と気品香る妖精女王と妖精王夫婦も忘れられず。
久々に再び組んでくださり、端正なラインや品を醸すパ・ド・ドゥが目に胸に沁み入りました。

そして16人構成の森の精達のコール・ドもよく揃っていて、オーロラ姫、デジレ王子、リラの精を柔らかく囲んで導いていました。
ジュニアから大人の生徒さんまでが一緒にグランド・バレエのコール・ドを踊る技量の高さにも拍手でございます。
2幕佳境に達しつつある、王子を乗せたリラの舟の運行中に何かに衝突したか一時つっかえる事態もあったものの事故なくそのまま運行して無事姫の元へ。(一瞬の事でしたが)
2幕序盤の登場からして、剣持って必殺技なのか回転攻撃もしながらカラボスを退散させるのも頷ける勇敢な王子でした。剣がちょいと短かった気がするが、
五輪でフェンシングの報道が頻繁になされていた影響かもしれず。それはそうと
オーロラ姫の幻影に恋い焦がれ、手に入れたいけれど儚さに阻まれ益々恋心募る王子の心理が舞台を覆って、
姫もまた幻影であっても徐々に王子に引き寄せられ吸い付いてはまたぱっと離れる、胸が騒ぎ立つような恋模様が
呼吸の合った森の妖精達のコール・ドとともに美しく豊かに描き出された2幕でした。姫に恋して助け出せ作戦なる王子の大冒険も満喫です。

結婚式での3幕では、宇賀さんの狼が被り物で顔は全く見えずでも身体の動きが実に雄弁で、怖くも楽しさいっぱいな狼さん。
青い鳥の木下さんの、正確な折り鶴の如く隅々までぴたりと隙がない職人な技巧も印象に残っております。

刈り込んで時間はほどよく短縮、されど全幕を存分に観た気分を与えてくださるエチュードバレエ版眠りでした。冴え渡る目で帰途についた私でございます。
眠り祭り2024、まだ続きます!!



行きの電車内。急行橋本行きは調布駅を過ぎるとゆったり車内に。(余談だが関西の南海線にも急行橋本行きがあり、先日初めて乗車)
多摩センター到着前に、懐かしい報道映像にて、2002年に多摩川の丸子橋付近で発見された野生アザラシのタマちゃんのニュース。
同年8月下旬だったか、草刈民代さんも、笑っていいとも!テレフォンショッキングにて客席アンケートのテーマに採用なさっていたほどでした。
ちなみに私は丸子橋まで見に行きまして、野生のアザラシを見たのはこのときのみ。
京王線沿線にも、多摩川のつく駅がございます。



京王多摩センター駅。天井にサンリオの仲間達!



パルテノン多摩外観



電光掲示板にもキティちゃん。



ロゼワインで乾杯!

2022年8月18日木曜日

パルテノンの夏 エチュード・バレエ・アカデミー バレエフェスティバル 8月9日(火)《多摩市》





8月9日(火)、パルテノン多摩にてエチュード・バレエ・アカデミーバレエフェスティバルを観て参りました。初めて鑑賞する教室の舞台です。
足を運んだことのある方によれば、『海賊』全幕を上演したときもあったとのこと。
http://www.etude.gr.jp/

バレエ・コンサートと『コッペリア』全幕(2幕3幕は休憩なしで続けて上演)なかなかの盛りだくさん舞台で、ゲストも複数のバレエ団から招いての上演でした。
我が目玉はまず新国立劇場の渡邊峻郁さんが『シルヴィア』パ・ド・ドゥにご登場。スタジオ出身で今春に牧阿佐美バレヱ団に入団された
新国立劇場のイーグリング版『くるみ割り人形』初演時には子役として出演されていた門脇紅空さんと踊られました。
お2人とも白系の衣装で纏められ、小柄な門脇さんはいたく愛らしく軽やかで丁寧。
渡邊さんは間延びしがちなアダージオもたっぷりと大らかに音楽を受け止めながら滑らかにサポートされ、
ヴァリエーションも次々と繰り出される着地している時間が短い振付を晴れやかにこなされこの日の天候以上に抜けるような爽やかな青空彷彿。
そして元がギリシャ神話を題材にした作品であるためか再び思う会場名の由来、一応外観もそれらしい形状ではあるが多摩センターにパルテノン。
振付は恐らくバランシン版参考と思われ、8月4日に引き続き私の中の38年前のABT名盤ハメル&ビッセルの映像が脳裏を通過していったものの
渡邊さんで拝見したいと願ってきたパ・ド・ドゥの1本でしたから幸いなる多摩の夕刻でございました。

『パキータ』には新国立劇場の柴山紗帆さん(スタジオで講師も務めていらっしゃるとのこと)と渡邊さんがタイトルロールとリュシアン役でご登場。
かっちり規範を守る技術を持ち、ぱっと華やぐ品位あるお2人で白地に赤い花が彩られたチュチュが艶やかに決まった柴山さんと
上は黒(ボレロと呼ぶのか?)、下は白な衣装の渡邊さんはじっくりと溜めに溜めた後にコール・ドの整列に沿って歩み出てくる
対角線登場(これ大事。さまになっていなかったら管理人、心は閉店作業に突入です笑)も
周囲に赤薔薇が見えてくる凛々しい軍人ぶりで整った横顔もああ美しや。
生徒さん達は紅色に近かったか濃いめの赤い衣装で、ヴァリエーションの見せ場も増やしつつよく息のあったコール・ドでした。

『コッペリア』全幕の3幕はスタジオ出身の新国立劇場多田そのかさんが優美なスワニルダ披露。頭小さくほっそりとした身体から麗しい香りを放ち、
結婚式に臨むもコッペリウスの大事な人形コッペリアを壊してしまったことを憂える表情は1、2幕から出演していたかと思わせる表現。
全編通してフランツは木下嘉人さんで、コンサートで黒鳥のグラン・パ・ド・ドゥを踊られた後に全幕フランツ
しかもヴァリエーション1個追加版を(プティ版を参考にしたのか1幕にて戦いの踊りの音楽でフランツが踊る演出)踊りも芝居も上質なレベルで見せ、恐れ入るばかり。
祈りの音楽でコッペリアとコッペリウスが踊る場を挿入したりと独自な演出も盛り込んだ全幕でした。
なかなかの長丁場でしたが、発表会での『コッペリア』は1幕のマズルカとワルツと3幕合体型なる演出でしか経験がない私からすると、全幕挑戦は羨ましい限り。
スワニルダとの大慌てなコッペリウス宅侵入を始めドタバタ騒動や、絵本に出てきそうな可愛らしい装置
コッペリウスの家の内装、美術に触れられるのは全幕ならではでしょう。最後まで楽しみ、帰途につきました。



早退し、特急橋本行きでぶらり京王線の旅へ。到着するとサンリオピューロランドなお出迎えで、多摩センター駅はキャラクター達の絵で溢れています。



パルテノン多摩外観。うう、雲ひとつない夏空が広がります。一瞬アクロポリスに身を置いた気分になりかけたが東京都多摩市です。



なかなかの長丁場でしたが楽しみました。甘酸っぱく爽やかなサングリアで乾杯。



チーズリゾット。複数種のチーズがよく馴染んでいてサングリアも進みます。
まだ8月は始まったばかりです。

2021年8月2日月曜日

コッペリウスを気遣う新郎新婦   井上バレエ団『コッペリア』7月31日(土)




順番前後いたしますが7月31日(土)、井上バレエ団『コッペリア』を観て参りました。
http://inoueballet.net/information/


振付:関 直人
再構成・振付:石井 竜一

スワニルダ:源小織
フランツ:清水健太
コッペリウス:森田健太郎


源さんは容姿や踊りの持ち味はほんわかおっとりながら中身は男前なスワニルダ。フランツへの嫉妬も湿度が低く、放って立ち去る行動もさっぱりしていて
コッペリウスにも人形たちに怖気づく様子もなく何事も堂々とこなしていく頼もしいヒロインでした。
清水さんはお調子者且つ怖がり屋なフランツで、コッペリウス宅から聞こえてくる人形作りの音に気づくや否や人目も憚らずスワニルダに縋り付く小心者。
(対するスワニルダ、動じずさっさか家に近寄り、音の正体を掴むとフランツに事の経緯説明を冷静沈着に行う度胸あるしっかり者でやりとりが面白い)
コッペリウス宅侵入前の梯子持っての登場は一旦出てきたかと思いきやコッペリウスの姿を発見してそのまま戻り
タイミング見計らって再度同じ持ち方歩き方で登場する流れが出方を間違えたわけでもないながら笑いを誘い、2幕以降の侵入騒動に期待を高める効果大でした。
1幕前半でのマズルカでも中央で皆を率いて踊る見せ場もふんだんにあり、盤石のテクニックで舞台を締めて全体を勢いづけに貢献。

3幕フランツのソロは珍しい曲で、プログラムに挟んであった機関紙あまりりすによれば、依頼を受けた音楽監督冨田実里さんが
ドリーブの音楽の中から探し、オペラコミック『ムッシュー・グリフォー』モティーフを元に作・編曲しポロネーズ風のヴァリエーションになったとのこと。
花火のように煌びやかに弾ける曲調で祝祭感も高まり、定着すると嬉しい振付と音楽でした。

源さん、清水さんともに驚かされたのはマイムの上手さ。下手な人が行うと途端に冗長な印象がまさってしまい
ましてや私が座っていたただでさえ舞台から遠い新宿文化センターの2階席後方鑑賞者からすれば退屈にもなりかねないわけですが
音楽に乗って自然と溶け合うマイムで進行し、ちょっとした角度や目線の運び方、顔の表情の付け方も工夫が行き届いて退屈どころか展開をわくわくとさせたほど。
中でも、先にも触れましたが1幕にて家の中から響く謎な音はコッペリウスの人形作りであろうとスワニルダが技術者と人形を交互に演じ説明する場面や
家に忍び込み、一瞬コッペリウスに見つかるも彼を人形と思い込み油断を続けるフランツの能天気ぶりのマイムは分かりやすい伝わり方であったと思っております。

1990年の井上バレエ団『コッペリア』初演時にフランツ役を務め(スワニルダは藤井直子さん)、久々の復帰となった森田さんのコッペリウスは
若々しくも静かに感情を滲ませる人物で、お爺さんメイクもなく森田さんの自然な風貌を生かしての造形。
喜怒哀楽が抑えめな分、近寄り難さを増幅しコッペリアに対しても愛情を露骨に出さず、そっと慈しむように接してコッペリウスが内包する優しさを表していた印象です。
フランツへの薬入りの酒の成分が気になるところで、一度アルコール欲を敬遠させてコッペリウスがグラス底に手を添えて飲ます
強引飲酒を行ったのち今度はアルコール欲が止まらなくなり、遂にはコッペリウスから瓶ごと奪うまでに暴飲。結果、すぐさま熟睡でございました。

演出でひときわ魅力的に光っていたのは、スワニルダとフランツのコッペリウスに対する優しい気遣い。
3幕、めでたく新郎新婦が堂々と入場するかと思いきや慌てふためいて手放しでは喜んでいない様子を見せ
コッペリア人形を壊してしまった後悔を2人とも引き摺っていたのでしょう。祝い金も受け取らず辞退し、呼び寄せたコッペリウスに渡すよう市長に訴えていたのでした。
するとコッペリウスは許しているのか拒絶。やや曇りがかった空気を消し去ったのは中尾充宏さん演じる陽気な市長で
市民の輪にも気さくに入っていく、親しみやすく場を和ませる長として活躍。
隠し持っていたもう1袋をコッペリウスに渡して一件落着。更には市長、コッペリウスを誘って一度は断られても説得させて一緒に着席し
2人でワインを飲みながら結婚の宴を眺め、最初は気乗りしなかったコッペリウスも徐々に心を許してスワニルダとフランツのパドドゥでは
手を掲げて祝福を示したりと、内面の変化を表していく過程も森田さん、お上手でした。
思えば森田さんの牧阿佐美バレヱ団入団は1998年で、それ以前は井上バレエ団や小林紀子バレエシアター等あちこちのバレエ団公演に客演なさっていたのかと追想。

淡い色味中心のピーター・ファーマーの衣装美術、柔らかなタッチの風景や建造物も絵本を覗いている気分にさせ
マズルカやチャルダシュは濃い目の色を配してバランスの図り方も宜しく、また決して大人数な舞台ではなくても工夫が光る振付で前後左右への移動距離が豊富で
踊りと衣装両方の鮮やかな広がりが視界に入り、舞台上の隙間を気にさせませんでした。
管理人が太古の昔に発表会にて踊った「仕事の踊り」での手のポーズが一瞬ウルトラマンのシュワッチに見えたのは気のせいか笑。
透明感のある青い村娘な衣装も可愛らしく映った軽快な3人構成です。

関直人さんが振り付けて石井竜一さんが手を加えて優しさがじわりと馴染む、朝昼夕と照明の色味変化も時間軸を明確にさせる
絵本のような『コッペリア』でした。村を舞台にした、元祖な版も良いものです。
いつもロビーで立ち、挨拶をなさっている藤井直子さんのお姿も変わらず美しく、目を惹きました。




鑑賞前、行ってみたかった下北沢のカレー店へ。鰹のアチャール(スパイス漬けのようなもの)が疲労回復に嬉しい。
これでビールがあれば尚爽快だが、店主が試行錯誤して開発したスパイスピーチラッシーも甘さが程良く美味しい。ドリンクも色々あり。




4種盛り。目にも綺麗な配色です。酸っぱい印象が強いラッサムを用いたカレーが隠し味の工夫でまろやかに。ご馳走様でした。
偶々ギター近くの席で、妹は確か弾けるはずでサウンド・オブ・ミュージックのマリア先生目指すと口走っていたかと記憶。カレーとギター、お洒落な組み合わせです。

2021年3月11日木曜日

白河が生んだ偉大な芸術家 井上バレエ団2月特別公演 関直人を偲ぶ 2月28日(日)




2月28日(日)、井上バレエ団2月特別公演 関直人を偲ぶ を観て参りました。
http://inoueballet.net/information/index.php

ダンススクエアに、多数の舞台写真と解説が掲載されています。当ブログより遥かに分かりやすい説明ですので(当たり前だが)どうぞご覧ください。
https://www.dance-square.jp/isy1.html


ゆきひめ
曲:ワーグナー
原案・振付:杉昌郎
振付:関直人
指導:吾妻徳穂
バレエミストレス:鶴見未穂子

ゆきひめ:花柳和あやき
若者:荒井成也
雪の精:大長紗希子 野澤夏奈

小泉八雲『雪女』を下敷きにした作品。雪の夜に路頭に迷った若者を哀れみ、掟を破って殺すことをやめるだけでなく若者に対して恋心を募らせ、
出会いを内密にする約束を破った若者の命を再び奪おうとも躊躇するゆきひめの苦悩を切々と描いています。
ゆきひめを日本舞踊家が務める版とバレエダンサーが務める版両方が作られ、今回は前者。
ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』音楽を用いた和製ジゼル、日本を舞台にしたロマンティック・バレエといった趣です。
花柳和さんは滲む厳しさが次第に溶け始め若者に近付いていくゆきひめの心が所作の隅々から表していました。

白く透き通った打掛らしき衣(多分、名称違っていたら失礼)を両手に持ちひらひらとたなびかせていく雪の精達の連なりが
ぞくぞくと背筋を摩るようなワーグナーの音楽と響き合い、冷たさを誘いました。
上階席から眺めているとあると海月の揺らめきに見えたり、そうかと思えば早い切り替えで張りのある丸みのある形の一斉移動に驚きを覚えたり
ときには両手で広げた姿が『魅せられて』のジュディ・オングさんと重なったり、静けさの中にも恐怖感、美しさ、愛おしさと
様々な要素が融合した振付で飽きさせず。昨年上野バレエホリデイによる田中りなさん主演映像の配信も視聴いたしましたが
冷気が会場を満たす感覚を与えていくような生ならではの体感に感激いたしました。
2018年の大和シティバレエ公演では小野絢子さんと福岡雄大さんを主演に迎えて上演され、好評を博していたとのこと。
バレエダンサーであり日舞経験者でもある小野さんのゆきひめもいつか観たいと興味を惹かれます。

井上バレエ団理事長の岡本佳津子さんも嘗て踊っていらっしゃり、一昔前まで放送されていた『NHKバレエの夕べ』最終回(1989年)を飾ったのが
岡本さんそしてバレエ団創立者である井上博文さんによる『ゆきひめ』であったそうです。
ダンスマガジン2005年12月号の三浦雅士さんとの対談に登場された岡本さんが当時や井上バレエ団結成に至るまで事細かに語ってくださっていて、
ゆきひめの他ゼンツァーノの花祭り(1968年の写真ですから日本初演時かもしれません)の写真もあり。ご興味を持たれた方は図書館などでお探しください。
東京文化会館杮落し公演主演でのヒヤリとした逸話からご両親と井上博文さんとの関わりなど、ドラマに富んだお話満載です。

それにしても、オペラに詳しい方から先日ワーグナー音楽の特徴について窺ったが、『ゆきひめ』で観るにはちょうど良いものの仰ていた通り曲に終わりが見えず。
初のワーグナーオペラ鑑賞として『ワルキューレ』を今週末観に行く身内が休憩有りとはいえ果たして約5時間半耐えられるのか、少々心配でございます。



Chacona Dedicada
曲:民族音楽
振付:石井竜一

日本バレエ協会でのバレエフェスティバル(現バレエクレアシオン)にて2007年に初演、2014年3月に再演された発表した作品に改訂を加えて上演。
2014年再演の舞台も観てはいるものの最後を締め括った、先月の記録上映会でも鑑賞した
キミホ・ハルバートさん振付の秀逸作『真夏の夜の夢』に上書きされてしまい、今回ほぼ初見状態であったのは失礼。
入れ替わり立ち替わり生き生きと胸躍る展開で喜びも悲しみも全身で歌うように感情を発出する
目にも楽しい作品で、女性の髪型が各々自由度が高いようで面白く観察いたしました。
曲調からしてスペインの民族音楽かと思われ、分野は違えどもスペイン語詞のルネサンス歌曲が散りばめらた
ナチョ・ドゥアトの『ポル・ヴォス・ムエロ』好きな者として大変嬉しい選曲です。



クラシカル・シンフォニー
曲:プロコフィエフ
振付:関直人
バレエミストレス:鈴木麻子 萩原美佳

宮嵜 万央里 源小織 齊藤 絵里香
浅田良和 吉瀬智弘

プロコフィエフの古典交響曲をシンフォニック・バレエ化と知って居ても立っても居られず笑、今回一番の鑑賞の契機となった作品。
ソリストは爽やかな青、コール・ドは赤系で整えられ、清らかさと情熱が合わさった色彩美にまず感嘆。
細やかなステップや、うねりが出現したかのようなコール・ドによる座り姿勢から一斉に上体を上げてのポーズ、
予想もつかぬところから回転して舞台を駆け抜けて行くなどクラシック・バレエの技巧が詰め込まれています。
チラシによれば<1977年初演。日本で最初の本格的シンフォニック・バレエ>と紹介されていますが
今観ても古さを感じさせず。プロコフィエフの音楽にしては、『ロミオとジュリエット』舞踏会の客人達が帰り
バルコニーの場面に入る前の箇所でも使用されている3楽章ガヴォット以外は風変わりな曲調が抑え目で、独特の癖は薄め。
整理整頓された、道から一切外れず折り目正しい進行を思わせるプロコフィエフも珍しい味わいとクラシック音楽ド素人な管理人には鮮烈に響きました。

それからもう1つ作品に関心を持ったきっかけがあり、26年前に世田谷区民会館にて鑑賞した合同発表会にて、先にも触れたハルバートさんも所属なさっていた
岸辺バレエスタジオが同じ題名の作品を披露。岸辺先生による振付ですから関さんの作品とは勿論全く異なり、岸辺バレエでは生徒さんが大勢出演し
グループごと色違いのレオタードに巻きスカート衣装。音楽が古典交響曲であったか否かは記憶の彼方ですが
音楽はプロコフィエフと明記されており、同じ題名で気になっておりました。
菊池あやこさん、相澤麻愉子さんらのちに都内の大型カンパニーに入団する方々の名もあり、レベルの高い舞台であったのは確かです。

ところで関さんは若き頃から振付にも挑戦なさり、うらわまことさんによる今回のプログラム解説によれば
契機は1956年、小牧正英さんが設けた若手ダンサーに振付作品発表の場だったそうです。
先月に1957年か56年上演の横井茂さん振付『美女と野獣』について取り上げましたがまだ来日公演も殆ど無く、
日本で活動している状態で海外からのバレエ作品の振付や譜面の情報入手は
貝谷八百子さんのようにソ連へ出向いてブルメイステル版を自身のバレエ団に持ち込んだ(確か)など余程裕福な方でない限り困難な時代でしたでしょうから
国内でオリジナル創作が生まれやすかった事情はあると思うものの 今で言えば、新国立劇場のDance to the Futureや
東京バレエ団のコレオグラフィックプロジェクトといった各地のバレエ団が推進している企画を小牧さんがその頃から発案なさっていたとは驚きでした。
関さんの振付初挑戦作品『海底』は高い評価を受け再演を重ねるまでの代表作となったそうです。

実のところ、関さんのオリジナル振付作品をじっくり鑑賞したのは今回が初めてで、米国留学中にチューダーにも学んだ関さんと縁が深かった
スターダンサーズ・バレエ団2007年12月太刀川瑠璃子さんのお誕生日を記念した公演での小ピース中心の構成にて『陽炎』を上演。
しかしたった14年前の舞台にも拘らず管理人、シベリウスの『トゥオネラの白鳥』使用の重々しい作風の男女ペアの作品である点しか恥ずかしいながら記憶になく
当日にであったか直前に降板発表された『ロミオとジュリエット』バルコニーを踊る予定であった吉田都さん急遽のサイン会の盛況ぶりばかりが思い起こされ
只今記憶を掘り起こしている真っ最中でございます。ただ思えば、関さんのみならず長年スターダンサーズの監督を務めた遠藤善久さん版『火の鳥』
(フォーキン版が基盤ですが最後に火の鳥が勝利の象徴として舞台中央にいる点は好ましく、
フォーキン版も好きですが主役がフィナーレ不在であるのはいただけないと思っている)に
その頃マルセイユ中心に活躍されていたご子息の遠藤康行さんが改訂上演したりと振付家も錚々たる顔ぶれでした。

時間軸は戻りますが、関さんのインタビュー内容や紹介を拝読すると、郷土愛がお強いのでしょう。ご出身地の福島県白河の文字が繰り返し登場しています。
ご実家が映画館で子供の頃からバレエ映画やフレッド・アステアの作品をご覧になったり、スクリーンの前が舞台状になっていたため
終映後に踊って遊んでいたりと(アフタートークならぬ館主の子息によるアフターダンス!?)舞踊芸術とは接点があったようです。
戦時中は学徒動員で横須賀へ爆弾作りに出向き、終戦後は貨物列車で逗子から15時間かけて白河へ戻るときの心境や
新聞記事で見つけた『白鳥の湖』全幕日本初演を観たいと白河から5時間かけて東京へ行ったお話など、
戦後間もない当時の白河と関東間の交通事情も踏まえて語ってくださっている記事もありました。東北の玄関口と称され
栃木県と接する福島県南部の街ですが新幹線も高速バスもなかった時代、移動の大変さを思い知らされる内容です。

そして松尾明美さん東勇作さん、小牧さんが主要役を務める『白鳥の湖』全幕日本初演鑑賞後すぐバレエを始める決意をなさり、
小牧バレエ団入団後は瞬く間に頭角を表し1948年に貝谷バレエ、小牧バレエ、
服部島田バレエ、東京バレエ研究会が合同出演した『白鳥の湖』全幕では早速王子に抜擢される快挙。
7年前に日大芸術学部で開催された貝谷八百子さんの衣装展にて資料として展示されていた記事だったか
紹介記事には学歴も記され、目がくりっとした顔写真や踊りの特徴も合わせて白河中學出身と紹介されていました。
(昔は学歴明記が当たり前であった?太刀川瑠璃子さんは東京女學館、笹本公江さんは中野高女、と主演ではない方々にも明記あり。
そういえばだいぶ現代寄りで学歴とはまた異なるが、下村由理恵さんが福岡の川副バレエ学苑に通っていらした頃
将来有望な生徒として、フロリナ王女の衣装を着けてポーズを取った写真と通っている小学校名が発表会のプログラムに掲載されていました)
また手元の書籍には『眠れる森の美女』日本初演時の青い鳥、『グラン・パ・クラシック』日本初演にて踊る関さんの写真があり、
青い鳥は空中体勢、特にふわりと起こした上体の姿勢や掲げた腕、指先まで美しさを保っていて
話によればブリゼ・ボレを26回行ったとのことですから身体能力も抜きんでいたのでしょう。
しかも客席に視線をしっかりと送りにこやかな表情で観客と会話している印象すら抱かせ、残っていれば映像で観てみたいと殊更欲が募ります。
『グラン・パ・クラシック』はご本人曰く脚が曲がっていると仰っていますが、手の指先が柔らかで目を惹く写真です。

白河と言えば先述の通り東北の玄関口と呼ばれ、松平定信に所縁ある全国有数の名関所ですが、
学業不振に加え歴史勉強不足でそう意識せずに我が脳内では通過してしまい、
思えば日本のバレエ黎明期に関する記事や書籍をあちこちで読み始め、関さんの生い立ちを知った、20年少々前に実質初めて頭に入ってきた地名かもしれません。
次に白河に着目したのは2004年夏の甲子園にて、今季より大リーグヤンキースから東北楽天ゴールデンイーグルスに復帰した田中将大さんが当時在籍していた
北海道の駒大苫小牧高校が優勝し、優勝旗が初めて白河の関そして津軽海峡をも越えた「白河越え」報道が連日なされ
テレビでも新聞でも見聞きする機会が多々ありました。天城越えしか知らずにいた私は(歌えませんが)興味津々に新聞を眺めたものです。

そしてインターネットも発達し、歌と同様機械も音痴な私もどうにか駆使できるようになり、4年ほど前からは調べ物作業で
しばしば関さん及び白河の情報に到達する回数が増加。そうです、関さん以来の白河に所縁あるバレエダンサーでいらっしゃり
この公演の1週間後の週末に日本バレエ協会公演にて主要な役で大活躍された新国立劇場の渡邊峻郁さん。
モナコ留学から一時帰国中に行われた地元メディア取材にて「プロで活躍することとなれば日本バレエ界の牽引者である関直人さんに次ぐ」と
紹介されていたほど。白河の方々も心待ちになさっていたと窺え、現在の目覚ましく華々しいご活躍に、
そして弟拓朗さんも同じバレエ団でプロとして歩んでいることも含め皆様目を細めていらっしゃることでしょう。
福島は大変面積が広く、浜通り、中通り、会津地方と3つの呼び名が付いていながらも習慣や文化は更に地域ごとに異なっていると思われますが、
渡邊さんが一昨年の『ロメオとジュリエット』終演後シーズン期間中の異例なプリンシパル昇格は福島民報にも実に大きく舞台写真入りで掲載。
県全体に注目と喜びが広がっていると想像するとこちらまで益々幸福に浸ったものです。
この記事を読みたいがために販売局に連絡し、取り寄せ購入いたしましたが、突然の東京からの連絡にも拘らず
ご担当の方がそれはそれは丁寧に優しい対応をしてくださり、 まだ県内を数回しか訪れてはおりませんが都内での仕事でお目にかかった
白河、会津若松の親切な地域産業関係の方やいわき訪問時の郷土料理店にて和ませてくださった地元の方々を始め飲食観光にしても
以前から好印象しか持っていない福島が関さんの功績や渡邊さんのご活躍を拝見する度、更に良いイメージへと日毎に上塗りされていっております。

あちこちに話が飛びましたが、戦争が終わり混乱する中で日本のバレエ黎明期を支えてこられた関さんに心から敬意を表したいと思います。
白河が生んだ、偉大な芸術家です。




帰り道、会場から浜松町駅へ向かっていると右側の通りの奥に見えた日本酒立ち呑みバル。
劇場ロビーに似た、景色が見えるカウンターでの一杯は久々でございます。
フェアだったかハウス入荷だったか、お値段お手頃な旬のお酒をいただき、せっかくですから福島県の日本酒で乾杯。
グラスで出してくださり、劇場の気分をそのまま延長です。1杯300円少々とは思えぬ、上品で口当たりの良いお味でございました。