2023年7月17日月曜日

3本より多い祝祭企画   東京シティ・バレエ団創立55周年記念公演「トリプル・ビル」7月15日(土)




7月15日(土)、東京シティ・バレエ団創立55周年記念公演「トリプル・ビル」を観て参りました。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000887.html

https://tokyocityballet.com/triplebill55th/


『Allegro Brillante』
音楽:P.I.チャイコフスキー「ピアノ協奏曲第3番」
振付:ジョージ・バランシン
振付指導:ベン・ヒューズ
バレエミストレス:信田洋子
衣裳制作:Costumiere


今年3月のバレエ団初演から7ヶ月でのスピード再演。その成果は大きく、全体における風を切るような勢いとぴたりと止まる箇所の対比がより強まっていた印象です。
キャストは変わって飯塚さんは軽やかな中でスパスパと決まるポーズが爽快な一方でお花畑を駆け抜けるような可愛らしさもあり
吉留さんは男性アンサンブル率いる様子が想像以上にパワーも持ち合わせ
コロコロと転がるピアノの音の粒と一体化したアンサンブルにおける急速なフォーメーション転換も見事。
この日も暑さに悩まされましたが、幕開けのパステル調の水色やシルバーホワイト等の冷涼感ある色味の衣装で突っ走る作風が避暑なひとときを与えてもらえた気分。
翌日は40度近い気温に達する予報が出ており、ご覧になる方はまずはブリランテでお涼みください。


日韓バレエ文化交流事業【日本初演】『Quartet of the Soul』
音楽:アストル・ピアソラ
振付:パク・スルギ(韓国国立バレエ団プリンシパル・ダンサー)
出演:韓国国立バレエ団ダンサー

ピアソラの音楽にのせたコンテンポラリーで、一度観てみたいと思っていた韓国国立バレエ、と期待に胸を膨らませて鑑賞すると
振付も技術レベルも予想遥かに上回り、舌を巻きました。幕が開くと4人それぞれが椅子に腰掛けているのはコンテンポラリーでもよくある光景と思ったも束の間、
全員が楽器を模したポーズ、踊り出しでまずそのしなやかさに驚嘆。ソロやパ・ド・ドゥ様々な形態が組み込まれていました。
照明演出もよく練られ、規則正しいタイミングで映し出されるときもあればふとした瞬間思いがけぬ場所からの照らしもあり、
不規則な面白さも含んだ光との相乗効果でスリルと美が連鎖。シャープに奏でる肢体にヒリリとした感覚が呼び起こされる4人でした。
韓国国立バレエでは振付家発掘活動にも力を注いでいるのかもしれませんが、外国公演でも堂々とお披露目できる作品が生み出されている状況には再度びっくりです。
韓国国立バレエのイメージとしてはグリゴローヴィヂ版作品をいくつも上演していて、
『白鳥の湖』と『くるみ割り人形』、『スパルタクス』はダンスマガジンでの写真で目にしておりますが
3年前には配信でグリゴローヴィヂ版『ラ・バヤデール』を視聴し、ボリショイに引けをとらない迫力、情感、プロポーション、技術にも驚かされ
来日公演が叶って欲しいと願っているところでございます。


<シティ・バレエ・セレクション>
『挽歌』
音楽:J.シベリウス「トゥオネラの白鳥」
振付:石田種生
バレエミストレス:長谷川祐子

黒い総タイツな女性のみで踊られ、静かにずっしりと後を引く余韻が残る作品。
終盤鎖のように繋がっては解かれる儀式のような展開や腕が秘めやかに語る艶っぽさも目に残りました。


『カルメン』よりパ・ド・ドゥ
音楽:G.ビゼー「カルメン」
振付:中島伸欣
衣裳:桜井久美

前奏曲やハバネラ等数曲組み合わせたパ・ド・ドゥ。元の全編は現代の日本の企業に舞台を置き換え、女性会社員と純朴なビル警備員との不穏な恋を描き、
確かエスカミーリオは有能なシステムエンジニア、の設定であった記憶あり。私もですが、システム系の企業に勤務経験のある方からしたら
実際に現場でこんな情事が発生したら困ったものですが(目撃しても衝撃のあまり総務部にも通報できないでしょう笑)あくまでバレエの世界。安心でございます。
カルメンの志賀さんは姿を見せずにホセを後方から立ったまま抱く序盤から摩る腕の魔力に襲われた心持ちとなる、奔放なヒロイン。
濱本さんはあとのベートーヴェンでも思ったがリフト職人で、志賀さんカルメンを高い位置から何回転もしながら降ろしていく過程も
ぶつ切り感なく、誘惑の渦に呑み込まれていく生真面目ホセにお似合い。
大胆な脚色に初演記事で仰天し、全幕で観たいと思いながらも先に抜粋で鑑賞する機会に恵まれた今回です。


『四季』より「春」
音楽:A.ヴィヴァルディ「四季」より春
振付:石井清子
バレエミストレス:吉沢真知子、草間華奈
衣裳:君野美恵子

打って変わって春のほんわかな森が出現。庄田さんと吉留さんが主軸で春の精として登場。
庄田さんはお花の妖精さんそのものな可憐な愛らしさ、吉留さんがピーターパン風で、ソリストの風の精、春の妖精達の群舞や子供も多数登場。
ただ子供のみの長々した場面はなく、あくまで団員と少し調和しながらの活躍にとどめたのは公演用としては好印象。
鳥さん達が頭飾りのデザインからかキョロちゃんに見えなくもなかったが笑、
羽ばたきながら移動したり踊るのは子供にとって難易度高い振付である旨は5歳でひよこをやった管理人からも申し上げておきます。


『ベートーヴェン 交響曲第7番』
音楽:L.V.ベートーヴェン「交響曲第7番」
振付:ウヴェ・ショルツ
バレエマスター(ゲスト):ジョヴァンニ・ディ・パルマ
バレエミストレス(ゲスト):木村規予香
バレエミストレス:山口智子、加藤浩子
衣裳協賛:チャコット株式会社

シティの十八番とも言える作品でしょう。第1楽章から第4楽章まで兼任者はいるものの
(キム・セジョンさんがほぼ全編出演なさっていたが、1人のダンサーにここまでの負担を今までかけていたかどうかやや疑問も)
相当な出演者人数を要するため大宇宙を思わせ、おかしな体勢でパートナーをリフトしながら登場してはすぐさま踊り出したりと男性パートも大忙し。
風変わりなリフトをも易々とこなすサポート力、大人数で息を合わせながらハイテクニックを披露する巧みさといい、全員に双方の力量が問われる作品とも思えます。
再演を重ねているだけあって全員の息がカチッと合い、三角隊形や斜めからの一斉突っ切りもパワーも増して胸躍りっぱなしな約45分でした。
作品には初登場、2楽章率いる大久保さんが暗闇から光が見えるかのように音楽をたっぷり使って描出。
ゆったりとした曲調のため勢い任せにできず、下手すれば冗長な印象も与えかねない場面であっても
身体全体で大らかに歌うように舞台空間を支配し、脚の差し出し方1つとっても艶かしさもが醸される美しさの連続に息をするのも忘れかけた私でございます。
実は数あるベートーヴェンの曲の中で最も好きな曲がこの第2楽章で、新国立劇場バレエ団の『ベートーヴェン・ソナタ』2007年初演時といいシティ55周年といい
重々しい響きから希望を見出すも哀感が漂う旋律部分に、虜になっているダンサー(しかも同じバレエ学校ご出身で同期⁈である)が配されたことに再度喜びを覚えます。
そういえば、この3連休の2日間は神戸の貞松・浜田バレエ団が『ベートーヴェン・ソナタ』を初演。細かい配役も気になるところです。

話を戻します。毎度思わずニンマリとしてしまう場の1つが、皆で輪になって舞台中央の円形の光を囲み佇む箇所。特に踊るわけでもないのだが
衣装デザインからしてもウルトラマンの隊員達を思い出してしまい、宇宙との交信に明け暮れる防衛団に見えて仕方ない場面です。

時間軸戻りますが、第1楽章での幕開けを空を突っ切るようにスケール大きく体現されていた佐合さん
小柄であっても踊り方が大きく、機敏でクリアな職人芸を見せてくださった松本さん、
盛り上がりがおさまらぬ所から更に壮大に押し上げ、全身で音楽をリードされていた清水さん、と主要パートの女性ダンサーのレベルの高さにもこの度も痺れた次第です。

そして特別フィナーレが用意され、オペラ『エフゲニー・オネーギン』のポロネーズにのせて総登場。
四季の妖精達が集合して赤い団扇を手に55の数字を作り、石井清子さんや安達監督始めバレエ団スタッフ陣から
今回の出演者も続々と舞台に現れ、再度眺めるとこの公演のどこがトリプル・ビルであろうかと疑問が沸くわけです笑。
シティの歴史から躍進の大きなきっかけとなった作品、交流のあるバレエ団からの招聘、と創立55周年記念に相応しいプログラムでした。

ゼロの節目ではなく5の節目ではそこまで盛大な祝宴公演はあまり見かけないかと思いきや(25周年は四半世紀の意味もあって何処も盛大に行う傾向があると感じますが)
5と5の並びは祝福感に満ちるのか。偶然にも翌日鑑賞した団体も創立55周年記念の舞台でございました。
この3連休私が住む関東を始め多くの方が生命を脅かす災害級の暑さに悩まされながらの生活であった中、
最高気温が30度に達しない、夜は肌寒く冷房不要な気候の地域へ出向き鑑賞して参りました。
それはまた後日。




帰り、住吉銀座商店街へ。オレンジ色に輝くスカイツリー。



ソウル市場へ。韓国国立バレエをよくぞ呼んでくださった、ありがとうございます。



マッコリ(どぶろく)と冷麺。ココアのようなまろやかな甘みのマッコリと、ワイルドな刺激多し冷麺とよく合います。


2023年7月14日金曜日

【ショック】清泉女子大学ラファエラ・アカデミア休止へ





五反田の清泉女子大学にて開講されている生涯学習講座ラファエラ・アカデミアが今年度をもって講座全てが休止に入るとのことです。
(後期の講座は今からでも申し込み可能のようです)
https://www.seisen-u.ac.jp/rafaela/

https://www.seisen-u.ac.jp/albums/abm.php?d=543&f=abm00008637.pdf&n=ラファエラアカデミアの休止について.pdf


現在も通っているバレエへの招待講座も例外ではなく、今年度をもって休止に入るそうです。
https://rafaela.seisen-u.ac.jp/lecture/detail.php?lecturecd=20232001,20232003


習っていた子供のときから自分で踊るよりも鑑賞や書籍での調べ作業を好んでいた私からすると、
作品史や演出の違いについても学べる内容はまさに自身にぴったりな講座で通い始めてかれこれ10年。
この先々も通う気満々でいただけに残念でなりません。各講座それぞれ初開講の時期は異なりますが、バレエへの招待は来年で25年、四半世紀も続く講座でございます。
守山先生の分かりやすく、親しみがなかった作品や演出の映像を断片的に観ていても
思わず全編を生で観たくなるご説明から、何度も新たな扉が開かれた気持ちになったものです。
また、鑑賞が好きな方々が集まっているとはいえ受講者の方々の好みな作品、バレエ団、ダンサー等は様々で、交流を通して格段に視野も広がるきっかけとなりました。
先日前期の授業が終わり、残りは2023年度後期の『シンデレラ』3回となってしまい寂しさが募るばかりでございます。これまで以上に大切に受講したいと思っております。

校舎の入口に掲示もされ、そのまま喪失感に駆られながらそのままヌレエフ版『ロミオとジュリエット』について先日は学び、葬列から始まる陰鬱な幕開けに
そのまま感情が重なってしまいましたが、ロミオ役のルグリのぱっと輝く、ヌレエフ特有の振付のややこしさをも包んでしまう清流のようなテクニックや
他の版に比較すると大人びた設定と思われるジュリエット、よく踊る貴族達の踊りも面白味があり、食い入るように観てしまいました。
あと3回。これに代わる定期的に通える且つ魅力ある講座、今から探さないと。しかし簡単には見つからないか。
ショックが非常に大きく、共通するのは響きだけでしょうが先日の土曜日午後からずっと『北斗の拳』の主題歌が脳裏を過っております。




この日午前は健康診断のため朝食を抜いてくるよう指示があり、五反田に早く到着できたため、
それならば台湾の朝ごはんを提供しているお店、東京豆漿生活とうきょうとうじゃんせいかつ)に行ってみようと来店。旧ゆうぽうと近くです。
レトロな内装で店内は決して広くはなく、相席になる確率は高いのですが、それがまた現地の空気感を味わえた気がして楽しい。
温かい豆乳スープに酸味あるソースがかかった鹹豆漿(シェントウジャン)と台湾のパン2種、大根や干し海老入り、ほくほくした緑豆と挽肉入りを購入。
前者は程よい塩っぱさ、後者はほんのり甘い味でバランスも良し。他にも多種のパンがあり、また食べに行きたいお店です。



地下の清泉カフェ、全講座の受講生含めてもしや最も訪問回数が多いかもしれない私である。
最近はコーヒーカップが復活。その場で挽いてくださるホットコーヒーの深みあるコク、香ばしさが実に好みでございます。ここへ足を踏み入れるのもあと数回。
次回からはケーキ2種とゼリー、ピザも毎度いただこうと決意です。(何しに生涯学習講座へ通っているのか笑)

2023年7月9日日曜日

踊り継がれる冒険記 牧阿佐美バレヱ団『三銃士』7月1日(土)


7月1日(土)、牧阿佐美バレヱ団『三銃士』を観て参りました。1993年のバレヱ団初演から今年で30年を迎えます。
https://www.ambt.jp/pf-sanjushi2023/



ダイジェスト映像。歯切れ良い音楽と冒険心に満ちた作風が短い映像であっても伝わってきます。



ダルタニヤン:水井駿介
コンスタンス:阿部裕恵
ミレディ:青山季可
アンヌ王妃:三宅里奈
ポルトス:大川航矢
アトス:清瀧千晴
アラミス:正木龍之介
バッキンガム公爵:石田亮一
ロシュフォール:塚田渉
リシュリュー枢機卿:保坂アントン慶
国王ルイ13世:中島哲也


ダルタニヤンの水井さんは、冒頭はまだまだ純朴な青年ながら踊り方は実に瞬発力がある上に無駄が力みがなく
ロバ(2人体制と思わしき人間が被り物して歩く)を連れての登場はロバとのやりとりが軽快で、歩調を合わせてもらえず素直でない相棒ロバに困り果てる部分も含め
客席にクスリとした笑みを広げ、共に冒険に旅立つ気分にさせてくださいました。
これまでは水井さんの底抜けに明るい剽軽な主役級の役柄は観たことがなく、綺麗な踊り方の印象が先行しておりましたが
持ち味を生かし、頭ひとつ抜けたしなやかさで魅せつつ俊敏に駆け回る 広場での争いで活躍を示し、エンジン全開な楽しさに満ちていました。
コンスタンスとの恋の芽生えはほんわか微笑ましく、何時の間にか彼女の虜になってしまい仲間からの呼びかけにも気づかぬ夢中な様子も昂りが自然と伝わり
ミレディを騙しながら首飾り奪還作戦を着々と進めるパ・ド・ドゥの黒々とした怪しさも、展開は分かっていてもスリル満点な面白味を与えてくださいました。

アトスの清瀧さんは賑やか個性軍団をきっちり纏め上げるリーダーらしいシャキッとした踊りで気持ち良く、
アラミスの正木さんは優雅をも香らす雰囲気で、人物紹介にある惚れっぽさもあれど笑、
ダルタニヤンの恋愛の成り行きを見守る様子がとても優しく、誰かの恋となれば手助けせずにいられぬ性分なのでしょう。
鋭い剣の音が鳴り響く場面が多いながら、銃士の身内の中からふと花がふわりと零れてくる不思議な魅力が備わっていました。
この作品の初鑑賞時の2017年3月公演から訳あって毎度注目しているポルトス役に今回は大川さんが初挑戦です。
持ち味からしてぴったりであろうと想像しておりましたがまさに嵌り役で、全身を大きく使っての立ち回りが余裕綽々の身のこなしで
決して大柄ではなくても豪快なテクニックが炸裂し舞台姿が大きい。しかも重々しさは皆無で、人を飛び越えたり階段を用いたスピード移動もお手の物。
王宮におけるダルタニヤンの立ち振る舞い指導係も頼もしく、厳しくも愛と情熱が詰まったやりとりが典雅な宮廷の空気感と一線を画するものがあり
立ち位置が端であってもつい目がいってしまい笑いも止まらない光景でした。

近年『アルルの女』や『ア・ビアント』パ・ド・ドゥ等にて味がしっとりと出てきた青山さんのミレディも注目の役どころで、
スターダンサーズ・バレエ団に移籍された中川郁さんがこれまで踊ってこられた、ぎょっとするような毒てんこ盛り悪女(褒め言葉)とはまた違った
チラリと黒い光が覗くスパイ。ポーズの運びは端正さを保ちつつもふとした瞬間にゾクッとする闇部分が見え、
青山さんの良さが更に拡張された造形であったと捉えております。バッキンガム公爵とのバトルは何だか心底楽しんでいそうでつい応援してしまい
最後ダルタニヤンの作戦に屈してしまったときにはテーブルに両手を置いて俯き悲しむ姿が可哀想に思えてしまう、憎めぬキャラクターです。
首飾りの扱いは少々難度が高そうに感じる箇所はありながらも、唐突の足蹴りや、首飾りをバッキンガム公爵から奪ったときの高らかな喜びようといい
観ていて痛快な気持ちになってしまったのは、内側に抱えた感情が沸々と踊りに表れ、単なる悪人とは呼ばせぬ誇り高さも持ち合わせていたからこそでしょう。

一見嫋やかそうでも実はしたたかで怖いもの知らずなアンヌ王妃の三宅さんは華麗な雰囲気を纏った近寄り難い王妃様。
その分コンスタンスの阿部さんがおっとりとしたまろやかさが引き立ち、身分は違えど互いを慕い合っている関係性がはっきりと映って見えました。
命の危険をかえりみずに禁断の恋に走る王妃を侍女の立場からコンスタンスは正直どう感じていたか聞いてみたいものですが
阿部さんコンスタンスの健気で大胆な行動が胸を打ち続け、声援感情に駆られたのは明らか。
ダルタニヤンと恋に落ちたパ・ド・ドゥでの愛くるしさや、手紙を持ってのポーズの取り方も
どの場においてもくっきり美しく、奔走が実を結んで良かったと一安心いたしました。

主役、三銃士ら各人物の位置付け配役が適材適所である上に、作品の最大の特色でもあろう広場での銃士達と枢機卿の護衛隊達の争いが
痛快な楽しさを後押ししていた点も好印象。ちょうど奇しくも公演と同時期に上野では英国ロイヤル・バレエ団が『ロミオとジュリエット』を上演中で
舞台設定は異なっても抗争の場面が繰り広げられますが、完全悲劇なロミジュリに対して『三銃士』はあくまで喜劇で、
運動会の徒競走で流れそうな急速テンポな曲にのりながら敵同士で剣を激しく交えていても
高速剣術漫才と思わす絶妙なタイミングでの素早い倒れ込みや身を起こしての復活、
また階段やテーブル、椅子をフルに生かしての大胆な立ち回りの中でも軽快な笑いが不可欠。しかも複数人数が踊りながらスピーディーに大移動しつつ行いますから
舞台空間の使い方が全員巧みでないと大事故にも繋がりかねないリスクもある中終始わくわくとさせる展開でお見事。
2幕では倒れてきた樽の中から捕獲されたロシュフォールが出てきたり、ダルタニヤンがドアを突き破って前転してきたりと、
下手すれば往年のコント番組状態になりそうな演出が散りばめられたベタな仕掛けかもしれません。
しかし三銃士達の勢揃いテーマやダルタニヤンとコンスタンス、アンヌ王妃とバッキンガム公爵、ダルタニヤンとミレディといった
物語を動かして行く要所のパ・ド・ドゥの振付の骨格がしっかりしている点や、倒れた隊員を使用人が箒で掃きながら袖へと転がす等出演者も絡めた装置転換も工夫に富んでいて
冗長なところが見当たらず。幕開き前から幕全体に登場するフランスとイングランドの大地図(航海図?)は冒険心や旅情を誘い、
ヴェルディの音楽の取り入れ方も秀逸でそれぞれの場面にぴたりと合致。三銃士達のテーマ曲がまたしても『インディー・ジョーンズ』を彷彿させ、耳に残る旋律でございましたが
牧阿佐美バレヱ団で最も好きな作品であるとこの度も再確認いたしました。またの再演を心よりお待ちしております。

尚、毎度牧バレヱのプログラムが無料である上にオールカラー。写真付きキャラクター紹介や過去の舞台写真付きのあらすじ、
音楽や原作の解説まで非常に詳しい内容で、休憩中に小さなお子さんが親御さんから絵本の読み聞かせを楽しんでいるかのように各キャラクターの魅力に見入っている光景や
解説文を懸命に読む大人まで、とても読み応えある構成となっています。
私も誠に重宝しており帰宅してからも読み返す回数が多く、何重にも満喫している気がいたします。





帰りは日頃からお世話になっている、牧バレヱ古株の鑑賞者の方とまずは爽やかビールで乾杯。7月始まったばかりであってももう夏本番な気候でございます。
お願いが、と幕間に恐る恐る口を開かれ、何事かと思いきや、六角精児の呑み鉄本線・日本旅の番組を最近視聴して
どうしてもソーセージが食べたくなり、時間が許せば一緒に行ってもらえないか、とのことでした。はい、喜んで!!!



念願ソーセージの盛り合わせ。数日前から召し上がりたかったとのこと。喜びを共有できて私も幸福でございます。



ダルタニアンと三銃士なおつまみ。どれが誰の剣であろうかと位置や色から想像巡らすと楽しい。



パテとワイン。ワインが進みます。



ワインとロック。ポルトスには及ばずとも、我々も酒呑みである。

2023年7月7日金曜日

ステージバレエアカデミーにて江藤勝己さんによるバレエセミナー  パキータ





順番前後いたしますがこちらから。7月2日(日)、千葉県柏市のステージバレエアカデミーにて開催された、
江藤勝己さんが務めるバレエ音楽講座を受講して参りました。今回は『パキータ』です。
同じ内容で7月16日(日)にも開催されますので、また来年3月には日本バレエ協会が新制作で全幕『パキータ』を上演いたします。
お時間のある方、ご興味のある方、是非講座にご参加ください。
https://www.stageballet.net/index.html

ステージバレエアカデミー通信最新号の2023年7月号。
江藤さんからのメッセージ欄にて紹介されていますが、江藤さんはこのたびヴァリエーションを全曲収録したパキータのピアノ楽譜を出版されました。
もしもピアノが弾けたなら、購入したいところでございます。気分はバレエピアニストです。
https://www.stageballet.net/pdf/ballet_communication.pdf#zoom=100

『パキータ』は抜粋で結婚式のグラン・パのみ上演される機会は多々あれど、全幕上演は滅多になく
作品の成り立ちから作曲家、あらすじ、人物関係についてまず説明がありました。
人物関係は少々ややこしく、しかし江藤さんがホワイトボードに名前と関係性を分かりやすく書いて話を進めてくださり
そうです、2時間サスペンスドラマにて開始から30分経った頃に警察署にて事件に絡む人物の写真を貼り出し相関図をおさらいするあの場面に似ていたと思えたのでした。
(通っていた大学の都心部の校舎が当時は古めかしい殺風景な作りで、テレビドラマではしばしば警察署として登場しており
興味が沸いて警察署のセットを撮影スタジオへ見学に行ったこともございます。加えて旅気分満喫できるため昔から西村京太郎ミステリー始めしばしば好んで視聴)
そしてあとから追加されたグラン・パやミンクスの登場、何でもござれなヴァリエーション追加事情等
現在のグラン・パ定番形式になるまでの過程もお話しいただき、初耳な事柄がわんさか。
またステージバレエアカデミーさんでは嘗て全幕『パキータ』を発表会で上演したことがあるそうで(驚き!)
当時のエピソードや実際に使用した小道具も見せてくださったりと、興味津々なお話盛りだくさんでした。

最大の要所はグラン・パの使用曲大整理で、ポロネーズやマズルカ、パ・ド・トロワから
20曲超のヴァリエーションの作曲家や元の出どころである作品についても配布資料に明記してくださいました。
まだ僅か34年とはいえ長年バレエを観てきてずっと疑問を持ち、一度やってみたかったパキータのヴァリエーション曲総ざらいの願いが
本日の七夕より前に叶ったのでございます。バレエ観始めて間もない頃にも『パキータ』グラン・パも鑑賞はいたしましたが、
作曲家欄には大概ミンクスとしか記されておらず、しかし団体によってヴァリエーション構成はまちまちで。本当に全曲ミンクス作曲であるのか鑑賞歴早期の段階から疑問を抱いていた私で
近年は福田一雄さんの講座にてどうやら出元は様々とも耳にして益々関心を持ったわけですが
今回の江藤さんのお話ほど総括大整理な内容は初受講。発表会では大人気作品であちこちで上演機会は頻繁にあり
指導する先生方は皆様それぞれのヴァリエーションの作曲家や元の作品についての知識も持った上で指導なさっていると信じておりますが
(作曲者や曲の由来も知らずに生徒に指導するなんぞ、まずないとは思いますが)
素人の私は初めて知る事柄多数。ミンクス以外の作曲者も1人や2人どころではなく、
初めて知る作曲家や、ヴァリエーション曲の出どころとなった現在は埋もれたバレエ作品についても知るきっかけとなり、誠に聞き応えのある講座でした。

尚ヴァリエーションには特に名称はなく番号のみ。どの踊りか照合するため、チャンチャカチャーン、ズンチャカチャカチャッチャ、ポロンポロンなハープ等
自己流のメモ書きで擬音祭り。(暑い盛りの京都も只今開催中、それは祇園祭か汗)
また振付の特徴も似たり寄ったりなものがいくつもあり笑、いつ誰が何処で踊ったものか、印象に刻まれている出来事と合わせても書き込み
例えば2021年配信の新国立劇場バレエ団ニューイヤー・バレエにて細田千晶さんが踊られ九州の友人から見目麗しいと感激の声が届いた曲、
千葉で観た宝塚風ヘアーリュシアンの珍しい曲、我が後輩が踊りたい憧れの曲であると映像送ってきた曲等
第三者が読んでも全く読解できぬ書き込み祭りと化しており、そうでもしないと曲が多数のため結び付きません笑。

講座では毎回資料にメモ用の枠が書かれていて好みに記録できるようになっていますが、今回はお気に入りのヴァリエーションを書く欄があり。
以前から脳内では2曲を思い描いてはおりましたが講座中に皆で映像を観つつもやはり変わらず。
1曲はどうやら元はユーリ・ゲルバー作曲『中折れ帽子』の曲、もう1曲はミンクスのもの。
但し振付も音楽構成もまさに似たり寄ったりで、音楽入れ替えても違和感がなさそうでございます。
あれこれ考える前に、そもそも踊れるレベルには達しそうにありませんが。ズンドコドッスン!

話の方向を変えまして、『パキータ』全幕は2006年のパリ・オペラ座来日公演にて
クレールマリ・オスタとバンジャマン・ペッシュ主演で鑑賞しておりますが、前半部分の記憶は遠い彼方。
『コッペリア』スワニルダに似ていて、パキータが機転を効かせてリュシアンを助け出した辺りは覚えがあるものの、
結局グラン・パしか脳裏に刻まれなかった、恥ずかしき鑑賞記録でございます。
公演期間中の前半日程で上演されたヌレエフ版『白鳥の湖』にてプロローグで主役がいきなり負傷し、何のアナウンスもなく代役オデットが湖畔の場に登場し
当然客席もざわめいた騒ぎが強烈であったこと、直後の5月ゴールデンウィークに来日した
ボリショイ・バレエ団公演『ラ・バヤデール』『ファラオの娘』に通い詰め過ぎて公演期間中は東京文化会館の主と化し
パリ・オペラ座に比較すると大赤字であったであろう客入りながら我が情熱は高まる一方であったため、
ボリショイ祭りに上書きされてしまったのも理由の1つかと思っております。

全幕では一度しか生では鑑賞していない作品ですが、結婚式のグラン・パ部分はガラや発表会でも大定番で、昨年1年間だけでも5回は観たほど全国で『パキータ』行脚でした。
リュシアン役がお目当てのダンサーの場合で自由席のときは上手側前方に座り、私の中でバレエ男性主役三大華々しい登場に数えております
溜めに溜めて下手側奥から対角線上に勇ましく登場する姿を愛でるのも楽しみでございます笑。

先述の通りプログラムでは作曲者明記がある場合、大概はミンクス1人。その場合は本当にミンクスの曲のみで構成されているか
今回いただいた資料を持参して確認しながら鑑賞に臨みたいと思っております皮肉屋な私です。

ところで、ステージバレエアカデミー通信によれば、バレエ音楽セミナーは8月はお休みで、9月と10月に『ライモンダ』を予定しているとのこと。
バレエ音楽で最も好きな作品であるため、これは行きたい欲が止まらずでございます。
これまで福田一雄さん、井田勝大さんの講座でも受講いたしましたがまだまだ気になることが溢れ返っております。
特に、私の中で対角線リュシアンと並ぶバレエ男性主役三大華々しい登場の1つであるマントでジャン!のテーマ曲、
グラズノフがいかにして思いついたのか知りたいものです。

2023年7月5日水曜日

新国立劇場 オペラ『ラ・ボエーム』6月28日(水)








※今回は短めです。お急ぎの方もご安心ください。

6月28日(水)、新国立劇場でオペラ『ラ・ボエーム』を観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/laboheme/

オペラ鑑賞は2021年の新国立劇場オペラ・演劇・舞踊部門合同制作『スーパーエンジェル』以来、
全幕作品本公演としては2019年の藤原歌劇団『椿姫』以来の初級鑑賞者でございます。(しかも両公演ともにバレエ場面目当て)
18年前前後には『イドメネオ』『コジ・ファン・トゥッテ』、『運命の力』、『さまよえるオランダ人』、『蝶々夫人』
5年前には『アイーダ』は観ておりますが、相変わらずの初級者同然。
『ラ・ボエーム』に関しては音楽はプッチーニ、主人公はお針子のミミ、この知識のみで着席した私です。

平日中日の夜に3時間の上演時間、しかも数年に1度のオペラ鑑賞、眠たくなりやしないか、疲労困憊になりそうと心配も過ぎりましたが見事なまでに全くの無用。
出演者もよく分からず、主役登場のタイミングも把握せず知識皆無に等しい状態でのんびりとした心持ちで観たのがかえって良かったのか
プッチーニの甘美な音楽にゆったり身を任せて時々字幕追いながら鑑賞していると瞬く間に時間が経過し
写実的な美術や装置、派手過ぎずされどぱっと目を惹く華やぎある衣装も好みでございました。藤原歌劇団『椿姫』と同じ、粟國淳さんの演出だったようです。

珍体験もあり、2幕冒頭にて照明トラブル発生により合唱と演奏が中断。どうやらライティングが上手くいかなかったとのことで
恐らく指揮者の大野さん?(私の席から見えず)が事情説明を始められ、対して観客が既に歌われていた歌詞の焼き栗の如くほっくりした笑いと温かい拍手で応え暫し待機。
そして再び客電を明るめにしてから出直し再開!オペラ精通者曰く滅多に遭遇しない出来事であるそうで、数年に1度の鑑賞ながら珍体験した夜となりました。
街のお祭りの風景は見所も盛りだくさんで、奥行きが見えるように設置された街並みの装置がビントレー版『アラジン』思い出す大掛かり設計で
カフェのテラスの様子はダレル版『ホフマン物語』を彷彿。建物を出演者が動かしつつ
更に視界を広大化させる演出もスムーズで、出演者の1人となった気分で堪能いたしました。
日本語字幕を観ていると、美しい日本語が次々と表示されときには声に出すのも恥じらうような
甘く優しい言葉が続き、日本語の面白さにも気づけた思いがいたします。

今回オペラを勧めてくださった方は日頃新国立のバレエ公演も多々ご覧になっている方で、米沢さんと小野さん両方がお好きでお2人の公演は1回ずつは足を運ばれていて
バレエ偏愛な私の性分及び男性ダンサーの好みにも理解を示してくださっていています。
(歌舞伎のポスターに載っていそうな人だけど、パートナーがこの人だとどこか安心する、とは言ってくださっています)
結局幕間の半分は白鳥総ざらい、レパートリー英国寄り志向の今後について等の話に持っていってしまいましたが、
せっかく初台の大劇場で開催されているのですからオペラもときには鑑賞に足を運びたいと思っております。

それにしても、生の声で上階席まで届くのはオペラ歌手という職業柄当たり前かもしれませんが、今月末から始まるエデュケーショナルバレエ白鳥の湖では
おけぴ記事の冨田実里さん木村優里さんインタビューによれば王子に台詞があるとか。
職業柄声ではない部分で日頃観客に舞台を届けているダンサーの方々がどれくらい響かせてくださるか、楽しみでございます。






ミミといえば、姫路市のレンタル自転車こと姫チャリ、ミミちゃん号です。
100円で1時間以内ずつ(街のあちこちにある指定の駐輪場にとめる)であれば加算料金なしで利用できます。※2023年4月時点
英国ロイヤル・バレエ団姫路公演会場アクリエ姫路横の高架下にもあります。
姫路へお出かけの皆様、宜しければ現地でご活用ください。そしてアーモンドトースト、生姜醤油を使った姫路おでんも是非お召し上がりください。



アクリエのすぐ横、姫路にロンドンのタワーブリッジがあります。結婚式会場のようです。アクリエのロビーからも眺められます。


2023年7月3日月曜日

【人生5度目】アーキタンツにてレッスン受講







6月25日(日)、人生5度目のアーキタンツにて渡邊峻郁さん講師初級IIクラス受講して参りました。レッスン自体は今年は3回目、1ヶ月ぶりのズンドコドッスン日記でございます。
私が半年間溜め込んでいた諸々を一応解禁した新国立劇場バレエ団セルゲイエフ版『ジゼル』2017年6月25日からちょうど6年にあたり、曜日も同じ。
まさか6年後こうして過ごしているとは当時は知る由も無く、人生何が起こるか分からぬものです。

今回は上級者も大勢いらしたためかバーから複雑内容多めで、脳味噌も身体てんてこまいになりっぱなしになり
このテクニックなんじゃこりゃ、こんな速い回転観たことやったことないねんと何度もジーパン刑事(お若い世代の方、各自お調べください)になりかけました。
また、「これだけです!」と仰っても私にとってはややこしく詰め込み多量としか思えぬときもしばしばあり
渡邊さんがフランスのバレエ団時代に踊られたことがある振付家の1人、ヌレエフだったら喜ぶか汗(スケール膨らませ過ぎである)。
お弁当ならば多種詰まっていると嬉しいが今はそうではないと言い聞かせたのも1度や2度ではありません笑。
しかし覚えられず上手くこなせず全敗真っ盛りであったにもかかわらず萎縮せず楽しんでいる自身がおり、
渡邊さんの教え方や口調の明るさ、前向きなお言葉に助けられ安心感を与えてくださったからこそでございます。

もし昨年の3月であったら、周囲のお上手な方々に圧倒されてしまい自分はもう退出処分決定であろうと決めつけ
床に額と両手をつけて詫びたい思考に落ちていたかもしれませんが、考えてみれば講師と受講者には上下関係はきちんとあれど
時代劇に描かれている悪代官と年貢を納められない農民のような身分制度による隔たりはないのですから
できず失敗するたびに謝罪したい欲に駆られる状態になるのもおかしいわけです。
今でもアーキさんに対してはオープンスタジオの中ではやや高尚なイメージも持っておりますし、いくら初級と言えども私のような永久ズンドコドッスン困り果てレベル者が行って
スタジオの敷居を跨いで良いものか時々不安にもなりますが、可能な限り継続したいと思っております。

渡邊さんといえば、どうしても高く浮遊感ある跳躍に惚れ惚れ注目してしまいがちですが
身体の角度の向け方や腕使いのコツ等の細かな点も一層丁寧にお手本見せながら教えてくださり、宝が益々増えた幸せな時間となりました。
プロ並みな上級者から私のような底辺住民まで、クラス名称は初級Ⅱであっても受講者のレベルは様々。
しかも単発開講ですから当日開始時間までどんな人が受講するかも分からぬ条件下であっても
全員が終始強張らずに楽しく身体を動かせるよう言葉掛けも優しく明るく、加えてよく通るお声で発声が良いのか落ち着きと朗らかさのバランスが取れた、
天井高く面積も広大な01スタジオであっても大変聞き取り易い且つ度量の大きさを感じさせる声色も魅力と思っております。

ピアノは工藤さんで、『シンデレラ』結婚式の場などバレエ音楽もあれば『カルミナ・ブラーナ』や
聴き間違いでなければベートーヴェンの第九やハチャトリアンの『バラの乙女達の行進』もあったかもしれません。
聴き覚えのある曲でもアレンジ次第でユニーク新鮮に聴こえたり、発見の連続。最たる驚きは『茶色の小瓶』で太古の昔に吹奏楽部で演奏した曲で
高校生の頃に演奏した曲が初めてバレエに繋がりました。デューク・エリントン・バレエがあるならグレン・ミラー・バレエもどなたか振付祈願と
デューク初演時から思っておりましたがまさか小瓶で自分が踊るとは、加えてレッスン再開しているとは。
何十年前にタイムスリップして高校時代の自身に伝えたら、太陽が西から昇り東へ沈むの文字以上に信じ難くびっくりすることでしょう。
保管していた楽譜を引っ張り出してきたら書き込み多し女子高生であった頃が懐かしく、例え一部たりとも載せてはならぬ譜面と化しておりました。
それはそうと、前半にて少々過激な例を挙げてしまいましたがついでに言い訳。吹奏楽部で水戸黄門と大岡越前のテーマ曲を吹く機会があり、
演奏するからには一方だけでも中身の理解が不可欠と言わんばかりに前者は視聴しながら学んでいた時期がございました。
印籠の登場時間が毎度ほぼ同じであると知ったのはこのときです。

話があちこちに逸れました。慢性的運動不足人間でウォーキングもフィットネスジム通いの習慣もなく、恐らくは受講者の中でもレッスン回数は
最たる少なさであるのは間違いありませんが(年間平均3回程度、対しては鑑賞は約90回汗。
アーキさんに通っていらっしゃる方で似た習慣の方は果たして存在するのでしょうか)
しかし今回も疲労感皆無。筋肉痛もございません。レッスン終了後叶うならばすぐにでももう1回、90分間丸々同じ内容で受講したいと毎度恒例の欲望が募ったのでした。
技術も体力も運動神経も音感も賢さも端麗な容貌容姿も、何もかも備わっていない私でありながらなぜこうも楽しめるのか。講師マジック、これに尽きます。
自宅最寄駅からの帰り道、教えてくださったことを歩きながら再現せずにいられず、ご通行中の方々から不審人物と思われたに違いありません。

それから再度感謝申し上げたいこと。それはレッスン受講感想を楽しみに待っていてくれている鑑賞仲間や友人の存在です。
講習会や発表会の練習で間近で目にしたプロのダンサーの教え方やお手本について
目を輝かせて保護者に話すお子さんのエピソードをしばしば見かけますが、その気持ちが今となってはよく分かります。
されど聞き手の存在なしには不可能なこと。幸いにも私の周囲には毎回レッスンレポートを待ち構えてくれている友人もいて
私がどうこうではなく渡邊さんがどんなご様子だったのかが最大の興味かと思いますが笑、結果として振り返りにも繋がり、心強い存在です。
受講している側からしても、友人が待っているから頑張って伝えているというよりも、元を辿れば思わず周囲に伝えたくなるレッスン内容であるのが一番の原点。
そういう気持ちにさせてくださる渡邊さんの存在が益々尊いと思う今日この頃です。




到着!



田町駅からの道。デッキ通路もあるのだが、船舶とモノレールが同じ枠におさまる構図も好きな風景です。



帰りはカウンセラーこと、年間レッスン回数は私の40倍は超えるであろうストイック上級者なレッスン人と乾杯でございます。
ストイックレッスン人なカウンセラーは爽やかなソフトドリンク、私はビール一択!



レッスン帰りは和酒洋酒問わず、枡酒を選びがちである。



レッスン帰りは唐揚げも定番化しております。



振りの覚えの遅さ悪さ及びアルコールの吸収力の良さはともに在住自治体の上位に入るであろう私である。
ちなみにカウンセラーは瞬時の記憶力がダイソンの掃除機並みに素早い吸収力の持ち主。私は人生2回やり直しても追いつけそうにありません。
ズンドコドッスン!

2023年7月2日日曜日

息づく伝統吹き込む新風 英国ロイヤル・バレエ団ロイヤル・セレブレーション 6月24日(土)昼







※2023年も下半期へ、7月に入ってしまいました。
前記事に時間をかけ過ぎましたので、溜まっている分をジュリエットの如く駆け抜けて更新して参りたいと思います。


6月24日(土)、英国ロイヤル・バレエ団ロイヤル・セレブレーションの初日昼公演を観て参りまた。
ロイヤルシネマで鑑賞した作品が何本かあれど、映像と生では全く異なり、生で観る面白さを体感いたしました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/royalballet/

※今回は短めです。お急ぎの方もご安心ください。
※キャスト等はNBSホームページより


FOR FOUR
日本初演

振付: クリストファー・ウィールドン
音楽: フランツ・シューベルト
衣裳デザイン: ジャン=マルク・ピュイッソン
照明デザイン: サイモン・ベニソン
ステージング: クリストファー・サンダース

アクリ瑠嘉、マシュー・ボール、ジェイムズ・ヘイ、ワディム・ムンタギロフ

四重奏:ヴァスコ・ヴァッシレフ、戸澤哲夫、臼木麻弥、長明康郎

全員色違いシャツとパンツスタイルのシンプルな格好で登場し、シネマで観たときはシャツの背中の模様に気づかず、上階から観てようやく発見。
哀切や憂愁を含む旋律の中で4人がときに交互に、ときに複数人数であったり踊り繋ぎながらの展開で、似た衣装を着ていても個性がくっきり覗けて楽しく映りました。
久々に観たムンタギロフは上品で柔らか、ボールは端正、アクリさんは機敏性に富み、ヘイは小気味良い印象で同じ音楽の中で次々と遊泳していくように披露。
ただ想像よりも全体が大人しくなってしまった気もしており、良く言えば綺麗な調和であってもぱっと目を惹くものが少し物足りなかったかもしれません。


プリマ
日本初演

振付: ヴァレンティノ・ズケッティ
音楽: カミーユ・サン=サーンス
衣裳デザイン: ロクサンダ・イリンチック
照明デザイン: サイモン・ベニソン
ステージング: ヴァレンティノ・ズケッティ、ギャリー・エイヴィス
フランチェスカ・ヘイワード、金子扶生、マヤラ・マグリ、ヤスミン・ナグディ

ヴァイオリン: ヴァスコ・ヴァッシレフ

シネマではどぎつい色味の衣装に仰天して終わった感がございましたが、生で観ると強い女性陣たちがピリリと火花散らし合う鋭い空気に痺れた作品。
特に金子さんが女王然としていて、長いスカートを翻しながら舞う押し出しの潔さや、ヘイワードの音楽と細かく砕き合うように俊敏に踊る反応の良さも目に刻まれ
マグリの身体能力から繰り出すダイナミックなパワーやあくまでエレガントをベースに踊るナグディ、とそれぞれの個性が競演です。
夜の抜擢組な布陣も興味があり、中でも今月末には古巣の舞台ではソロの役での鑑賞を予定している佐々木須弥奈さんと
近年は『くるみ割り人形』クララや『シンデレラ』四季の精?等でも活躍目覚ましく
知ったときから名前が気になって仕方ない前田紗江さんも観てみたかったと思います。


田園の出来事

振付:フレデリック・アシュトン
音楽:フレデリック・ショパン 編曲:ジョン・ランチベリー
美術・衣裳:ジュリア・トレヴェリアン・オーマン
照明デザイン:ウィリアム・バンディ
照明デザイン:ジョン・チャールトン
ステージング:クリストファー・サンダース

ナターリヤ : ナターリヤ・オシポワ
イスラーエフ : クリストファー・サンダース
コーリャ(息子) : リアム・ボスウェル
ヴェーラ(養女) : イザベラ・ガスパリ―ニ
ラキーチン : ギャリー・エイヴィス
カーチャ(家政婦) : ルティシア・ディアス
マトヴェイ(従僕) : ハリソン・リー
ベリヤエフ(家庭教師) : ウィリアム・ブレイスウェル

ピアノ:ケイト・シップウェイ

その昔、グレート・パ・ド・ドゥだったか華麗なるパ・ド・ドゥであったか、テレビ放送されたパ・ド・ドゥ名品集なる映像で
マカロワとダウエルが踊るのを観て以来、何の予習もせずに臨みました。収録は他に記憶が正しければフェリとイーグリング『ロミオとジュリエット』、
フォンティンとヌレエフ『海賊』、バッセルとコープ『パゴダの王子』、ハーヴェイとバリシニコフ『ドン・キホーテ』、
コルパコワとベレジノイ『眠れる森の美女』、コリアーとダウエル『くるみ割り人形』、といった目も眩む傑作選でございました。

幕開け、オフホワイトを基調とした隅々まで彩る奥行きも備えた緻密な美術に目奪われ、使い込んだ調度品の質感まで凝ったデザインで床にも幾何学形な模様が描画。
ソファーベッドで寛ぎ何処か気怠そうにしているオシポワの悩める妻ナターリヤがなかなかの嵌まり役で日常に疲れた感のある裕福なマダムが実にナチュラルで貫禄もあり。
家庭教師ベリヤエフのブレイスウェルの登場はインパクトこそ控えめではあったものの
淡い風情の中でも熱の疾走が止まらずナターリヤと徐々に危うい関係へと発展する過程に、少しずつ針で刺されて行く感覚が呼び起こされました。
子供達の目撃が不穏さを掻き立てる進行からも目が離せず、ナターリヤの情事を知ったときの衝撃はいかばかりか。
怒りを滲ませてナターリヤに迫る姿は痛々しく、静かに崩壊していく家庭の行く末を案ずるしかありませんでした。
見せ場のパ・ド・ドゥは繊細な調べの中で、ベリヤエフに抱えられたナターリヤが葛藤や戸惑い、苦悩といったよからぬ感情の1粒1粒が悲しみを帯びた旋律と溶け合う一方
アシュトン特有の上体の捻りや反りを行う振付が多々組み込まれ、内に秘めたものを振り切って放出している双方の連動した動きが
人間関係の危うさ、揺らめきの描写にそのまま繋がっていたとも捉えております。


「ジュエルズ」より"ダイヤモンド" [全編]

振付: ジョージ・バランシン© The George Balanchine Trust
音楽: ピョートル・チャイコフスキー
衣裳デザイン: カリンスカ
装置デザイン: ジャン=マルク・ピュイッソン
照明: ジェニファー・ティプトン
ステージング: クリストファー・サンダース、サミラ・サイディ

マリアネラ・ヌニェス、リース・クラーク
アネット・ブヴォリ、イザベラ・ガスパリーニ、メーガン・グレース・ヒンキス、ジーナ・ストリーム=ジェンセン、
デヴィッド・ドナリー、ニコル・エドモンズ、カルヴィン・リチャードソン、ジョセフ・シセンズ、ほか

シネマではひたすらパワー全開に見えましたが、生で上階から観ると全体が枠として視界に入ったためか落ち着いた印象に変わりました。
ヌニェスは奥底から煌めき発するダイヤモンドで、他を圧倒する輝きで
ソロの強靭な体幹を駆使したバランスや回転も力強くなり過ぎず、これはこれで良いのかもと考え転換。
クラークが予想より踊りが歯切れ良くなり、だいぶ別人に見え、あの高い背丈でのコントロールと思うと身体の芯がきちんと備わっていないと成し得ないと思います。
ヌニェスとのペアもダイヤモンド超えて太陽なオーラで照らし、コールドを率いていました。
コール・ドの生命力溢れる踊り方もロイヤルらしい特徴と思いますし、それにしてもチャイコフスキーのポーランドを生で聴けたのも幸運でございました。

パ・ド・ドゥ集のガラではなく、巨匠の伝統作品から現役団員による振付まで、多彩な作品を丸々取り入れたミックスプログラムであったのは嬉しく
またシネマでも観たとはいえ大型スクリーンと生での上階から全体を鑑賞するのは全く違った印象も与え、足を運んだ甲斐がありました。
今回の我がロイヤル鑑賞はこの1回ですので『ロミオとジュリエット』祭りが続く皆様、大阪公演姫路公演にお出掛けの皆様、引き続きお楽しみくださいませ。





帰りは所用で秋葉原まで歩き、駅前のパブへ。いかにも古き良き英国な趣溢れる空間で、ヴィクトリアンアルトビールで乾杯。獅子と薔薇模様のグラスでございます。



シェパーズパイを注文。熱いのでお気をつけくださいと言われたにもかかわらず空腹であった管理人、
勢いよく口に入れてしまった笑。でもほくほくと香ばしく美味しい。



キャロットケーキ。チーズクリームが絞られています。不思議の国のアリスを思い出す形、色合いで1年前の6月は東京と群馬県高崎市にてアリス祭りであったと回顧。
にんじんぎっしり詰まっていてバターもたっぷり。しかしクリーム効果かしつこくない味わいでした。
翌日に有酸素運動を控えておりましたが、まだ早い時間帯ですので良しといたしましょう。


2023年6月30日金曜日

新主役誕生の立役者 新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』6月10日(土)~18日(日) 計5回




6月10日(土)〜18日(日)、新国立劇場バレエ団『白鳥の湖』を計5回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/swanlake/



※速報でもないが記事と被る部分もありますが悪しからず。

6月10日(土) 14:00
オデット/オディール:米沢 唯
ジークフリード王子:福岡雄大
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、飯野萌子
ハンガリー王女:飯野萌子
ポーランド王女:根岸祐衣
イタリア王女:奥田花純

6月14日(水) 13:30
オデット/オディール:吉田朱里
ジークフリード王子:渡邊峻郁
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:小柴富久修
ベンノ:中島瑞生
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):廣川みくり、広瀬碧
ハンガリー王女:中島春菜
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥

6月17日(土) 13:00
オデット/オディール:吉田朱里
ジークフリード王子:渡邊峻郁
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:小柴富久修
ベンノ:中島瑞生
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):廣川みくり、広瀬碧
ハンガリー王女:中島春菜
ポーランド王女:池田理沙子
イタリア王女:五月女遥

6月17日(土) 18:30
オデット/オディール:米沢 唯
ジークフリード王子:速水渉悟
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):池田理沙子、飯野萌子
ハンガリー王女:飯野萌子
ポーランド王女:根岸祐衣
イタリア王女:奥田花純

6月18日(日) 14:00
オデット/オディール:小野絢子
ジークフリード王子:奥村康祐
王妃:楠元郁子
ロットバルト男爵:中家正博
ベンノ:木下嘉人
クルティザンヌ(パ・ド・カトル):奥田花純、池田紗弥
ハンガリー王女:廣川みくり
ポーランド王女:直塚美穂
イタリア王女:赤井綾乃



米沢さんのオデットは登場時から腕や背中にかけて背負う悲しみが伝い、
水面がすっと揺らぐように音楽と静かに呼応しながら切々と訴えてかけてくる嘆きに震え思いがいたしました。
ヴァリエーションでの全身を隅々深々と操りつつも力みのない美しさ、空間を大きく使っての削ぎ落とした踊り方にも目を奪われ、じっと観察。

福岡さんは序盤から風格がある立ち姿で一見王位に就く準備は整えていそうな姿からは想像つかぬ、弓を貰って嬉々とする様子に内側に潜む幼さを覗き見た気分。
普段ベンノ以外の前では気を張っての生活続きであろうと思わせます。
以前の記事でも触れた通り、お2人の間から生じるドラマティックな情感が心を誘い、
技術は万全盤石である状態を超越して特段派手なことをしていなくてもじんわりと通わす熱が高まり
特に4幕での引き裂かれそうな苦しさをかちっとしたポーズは維持しつつも全身で深々と歌い上げたり
互いを慈しむような抱擁といい、しみじみとした味わいがあった印象です。

小野さんは他人を寄せ付けない近寄らせない威厳のあるオデットで、心を開かせるのにだいぶ時間を要しそうな高嶺の花。
水晶を思わせる硬質な魅力を秘め、今回観た中では最も女王然としていたヒロインでした。
しかし決して冷たいのではなく、ふと見せる表情に儚さが宿り王子を完全拒絶せず少し隙を与えている姿に吸い寄せられます。
オディールは明快な悪女であった前回とは方向を変えてにっこりとした晴れやかさからの弄るような恐怖感を見せ、これはこれでおお怖し。

速水さんは意外と言ったら大変失礼なのだが、最初からきっちり王子な出で立ちにまず驚き。
いたく思い詰めた様子で、ベンノに呼ばれたからどうにか出てきたが心は空虚なままである様子や
王族の身分に恥じない実直な人生を送ってはいても不安真っ盛りな雲行きが怪しい内面と見て取れ、
開演してから期待度が高くなった次第です。(失礼極まりない客である)。技術も安定し、以前よりも全体の余韻が大きくなった印象でございました。
特に面白かったのは3幕で、まず米沢さんオディールが大攻めで、但し派手な事はせずとも摩る魔力や繰り出すお手本のようなポーズの連鎖に首っ丈になる踊りで魅了。
ふとしたところで肩をしならせたり、アダージオが終わり、捌ける前にそっと王子に触れて艶かしい感触を残して立ち去って行き
4階隅で観ていた私や近場の観客も思わず呻き声を出しそうになったほど。速水さんが触れられた手を見つめて戸惑う反応を細かく表していて、
例えるならばジーパン刑事の王族版と言ったところでしょう。(お若い世代の皆様、ご自身でお調べください)
アダージオでのスケールの大きさも十二分で2人が醸すものがみるみると増幅し、
思えば双眼鏡を余り用いていなかったと記憶。それだけ迫り出しの強さがあるアダージオだったのです。
速水さんのようやくのジークフリード王子デビューで周囲も盛り上げていた点も効果をもたらしていたとは思いますが
オディールが仕掛けては王子が罠に嵌っていく展開にパワーが宿って何十にも重なり
圧迫感のある装置に囲まれていても目に飛び込む迫力があったのは間違いありません。

奥村さんはどこかやさぐれ感ある、世の中を冷めた目で見つめるような表情での登場から国王である父親の死以降、投げやりな生活を送ってきたのであろうと想像。
ベンノがあれやこれや切り出してもなかなか反応を示さないのも納得で、人生の過渡期真っ只中と窺えます。
前述の通り小野さんオデットが誰も寄せ付けない雰囲気を湛えていたため慎重に近づいていて、
オデットとの出会いやアダージオも一見淡々とした安全運転に見えかけたときもあったものの
振り向かせるだけでも難攻不落そうな姫ですから、時間をかけてじっくりな愛の育みであったと推察。
その分、4幕では何もかも振り切ったように決然としたパ・ド・ドゥで心の寄せ合いが伝わり、身を投げる最後は大加速しての幕引きに思えたのでした。

2016年『シンデレラ』池田理沙子さん以来約6年半ぶりに女性の全幕主役デビュー者(長かった)となった吉田さんは
純粋無垢で清純なオデットとして鮮烈に登場。つい高い背丈や手脚が長い点ばかりが注目されてしまいがちですが、単にプロポーションが良いだけではなく
変にくねくねとした動きが皆無であくまですっきり滑らかなフォルムを描きながら踊っていた点にも息を何度も呑みました。
とにかく透き通るように繊細で美しく、登場してバランスを取った瞬間から私は吉田さんのオデットが好みだ、と繰り返し心の中で唱えていた管理人でございます。
初心な部分が残る姫であったのも今だからこその魅力で、まだ重たい悲しみを背負っているよりも
事態を呑み込めずにいるまま白鳥に変えられて間もない頃で、王子に救いを求めているのであろうと勝手に推察した私でございます。
オディールは毒盛り悪女ではなく何処か可愛らしい面を持ち合わせ、ロットバルトに対して素直そうな姫。
王子がのぼせている間にパパのもとへ行き、次の作戦指示を仰ぐときの可愛らしさよ笑。(そしてベンノと儀典長の心配も最高潮になった構図が面白かった汗)
ただ踊り方はダイナミックな美を放っていて、空間移動も大きく爪先が随分と遠い場所に、されどコントロールはしっかりできていて
怖かったり愛くるしかったりと王子を狂わす誘惑も十二分。オデットと同様に大事に触れたくなる王子の気持ちにも頷ける姫でした。

※以下まだまだ続きます。英国ロイヤル祭りで既に疲労困憊な方、ロミジュリ東京後半戦に体力温存なさりたい方は後日どうぞ。

渡邊さんは前回2021年よりも作品の中で幼い部分と成熟した部分の対比がより色濃く描き出されていた印象で
冒頭の葬列での将来を案ずる引き裂かれるような表情での重たい歩みからの1幕の登場では
頭から脚先まで動き方に乱れがなく格式ある王族な佇まいながら心は不安で一杯そうな
まさに父親の葬儀を終えて間もない感が漂い、プロローグからの流れに違和感がなく思えました。
中島さんベンノと並んだときの、太陽に対して月のような翳ある雰囲気もしっくり。
王子お気に入りの監督椅子(よく映画監督やプロデューサーが撮影中に座っていそうな折り畳み式椅子の黒色堅固版といった作りのためこう呼んでおります)に腰掛けても
休憩中にならず、友人達を眺めているときのすっきりした顔からふと鬱屈そうになるときの変化もぶつ切りにならず
前回以上に常に円を描くように自然な流れで心理を描写されていて、暗がりが少しずつ差し込んでいく空模様を刻一刻と微細に醸していらした印象です。
椅子に立て掛けた弓がいつも気になって触れては嬉しそうにしていたのも、まだまだ仲間と遊びたい
男同士で気兼ねなく出かけたい盛りなお年頃と見て取れて微笑ましいひと幕。
3幕での花嫁選びのやる気ございませんたる姿もベンノの前では露わで、
押し寄せる大使達や使節団の圧に耐えつつ取り繕うも、つい本音がポロリと出てしまう、心許せる愛おしい存在と再確認でございました。

今回ようやく気づいたのが3幕にて、登場後玉座への着席を拒否する王子のために、ベンノがわざわざ王子お気に入り監督椅子を持ってくる経緯があった点で
ベンノは宮廷の物置まで把握しているとは驚きで、それだけ常時出入りしていて内部見取り図も頭に入っていると推察。
そして王子はどれだけ椅子がお気に入りなのだ笑。職場でいう、席替え時や引っ越し時に椅子を取り替えたくなけえば名前書いた付箋を貼っておくイメージであろうかと
私自身実際に行っている状況を(職場で使用の椅子、漢字で付箋に姓名明記してセロテープで貼り付けております汗)重ねたのはさておき
堅苦しさや王室からの束縛を拒否したい王妃から離れたいせめてもの意思表示なのかもしれません。
しかしいざオデットではなくオディールヘ愛を誓ってしまったと発覚した直後に駆け寄るのはママの元。皮肉なものです。
全編通して重厚な装置に負けぬ、品格と厚みの双方宿る踊りにも脱帽で1幕の憂鬱なソロのいよいよ暗闇が忍び寄ってくる感傷を帯びていて
柔らかくもすっと抜けるようなしなやかさもあり
3幕ソロは張りのある跳躍やきりっとした見せ方、オディールにのぼせた喜びを品良くも高らかに、
ベンノ達の心配から逆行しての歓喜の飛び散りようを全身で表していました。

今回最たる驚きであったのは吉田さん渡邊さんのペアの魅力で、当然未知数だったわけですが
渡邊さんが吉田さんのフォルムの美しさを引き立てる術や、パ・ド・ドゥも音楽と連動して呼吸も合い、
初心でピュアな姫と成熟した王子でおとぎ話の絵本捲って現れたようなお2人が出現。
ライト版は全体が暗がり覆う色彩や重厚な美術装置が特色ではあれど、2人だけは場面にもよりますが
何処か水彩画な色彩美も放っていて、それはそれは高純度な物語が成立していたと捉えております。
また2人の語らいがしっかり見えていたのも大変響き、出会ったときの逃げ惑うオデットと追いかける王子の鼓動や
白鳥達を前にするとリーダーとして君臨し、弓矢で打たないよう懇願するオデットの強さと、
願いを受け止めて恐ろしい形相で友人達に立ち去るよう命じる王子の豹変等やりとりの流れも実にスムーズ。

2幕の肝であろうアダージオも吉田さんの伸びやかな四肢がしっとりと訴え、そして背が非常に高いはずの吉田さんが
すっぽりと渡邊さんに包み込まれていた印象も潤いで満たされ、今まで組んだどの女性よりももしかしたら背丈のあるパートナーであったとは思えず。
どの瞬間も吉田さんの大きく優雅なフォルムが立体的に羽ばたくように見せる渡邊さんの愛情深さや
安全且つ最大級に魅力が開花するよう、そして渡邊さんご自身も美しく見えるよう
立ち位置やタイミングを考え抜いての職人級のサポート術に今回ほど天晴れと思ったことはないかもしれません。
静謐でゆったりとした曲調の中で、音楽をたっぷり使いながら粗も冗長さも一切感じさせず
ただ綺麗なだけでなく信じ合う心の近づきも響き合い描き出されたアダージオでございました。

4幕のライト版名物のパ・ド・ドゥも、重たい悲しみの中でも静動のメリハリが富んでいて、
オデットが身体を思い切り斜めに引き伸ばしてからの高速回転させての瞬間抱え込みもダイナミックに展開させ一瞬一瞬の動きがいたく大きい絵と化。
最後、覚悟を決め先に湖へと飛び込んだオデットにはもう初心さもなく、
遮るロットバルトへの憎悪が猛々しい王子の後追いの呼応も凄まじく、劇的な幕切れへと繋がっていた印象です。

前の速報でもない記事でも綴りましたが吉田さんは何度か代役や抜擢でソロの役は当てられた経験はあれど、
2021年入団のまだアーティスト階級(コール・ド)ながら本番まで1ヶ月切った段階でプリンシパル代役として登板での全幕主役デビュー。
更には重厚な趣が前面に出た大作の主役で、眠りやドンキのような皆ににこやかに出迎えられる登場場面も無し。胃に穴があきそうな重圧あったのは想像に難くありません。
しかし2日間鑑賞すると清純なオデットも、パパを慕う可愛らしくちょこっと悪女なオディールも、特に2回目には相手と美しく語り合えるまでに大成長。
身体も感性も素直で吸収力がありこれ以上にないくらいに練習を重ねたであろう吉田さんの努力は勿論のこと、
不安や心配が塵1つ残らぬよう拭き取って安心感を与えながら主役デビュー成功へと導いた上に
自身の役どころも万全にこなした渡邊さんを吉田監督、褒めちぎってくださっていることを願います。
新主役誕生や、17日夜公演カーテンコールに吉田都監督が登場して舞台上での速水さん柴山さんプリンシパル昇格発表がどうしても華々しく報じられがちですが
弓が気になる幼さからの恋の目覚めから最後決死の兜投げまで、王子としての心理描写や基盤を整えつつ吉田さんを支えた渡邊さんこそ大功労賞に値するご活躍でした。

そういえば最後のロットバルトから奪った兜投げといえば、王子の皆様投げ方は任されていたのかそれぞれ異なり
両手でスローインもあればボウリング、フォークボールもあったか。
特段ユニークな投げ方であったのが2回目の渡邊さんでソフトボールっぽく下側から投げたと思われますが飛距離が伸びず汗
ゆったりと縦型の放物線を描いたのちにあろうことかぎりぎり白鳥達の後ろ側あたりの半端な場所に落下。
飛んできたファウルボールを近くの観客がメガホンを上に向けて手に待機して見事すっぽりゴールさせた、
私が嘗て神宮球場で居合わせた事態を彷彿させたのも束の間、殺気立った表情で果敢に奪い取ったまでは勇猛な立ち向かいであったのに
兜が白鳥達に激突したらどうなっていたであろうかと考えると可笑しくなってしまったのは目を瞑ってやってください。

吉田さんの抜擢については意見様々で、主役経験豊富なプリンシパル木村優里さんの代役である上、新人のサポート尽くしで大変そうであるから
渡邊さん好きな側からすると今回不満ではないかと聞いてきた方もいらしたのですが、私としては一切なし。
30代半ばに差し掛かる頃にはパートナーのデビューの支えと自分の役どころ両方こなす力量を問われ
こういう役目も巡ってくる気がしておりましたし、(しかも両方こなせる結果を出した!ファンとして誇らしい!!)新人指導に向いていそうな予感もしましたから
寧ろ私としては嬉しい組み合わせにも思えた次第です。このペアならではの清らか高純度な空気感、たいそう好みでした。
山本隆之さんも現在の渡邊さんのご年齢の頃、寺島まゆみさんの全幕デビュー『くるみ割り人形』マーシャや
本島美和さんのマーシャ、さいとう美帆さんのジゼルといった役デビューの心強いパートナーをなさっていて、色々思い起こした私でございます。

ロットバルトも個性色々で、中家さんは太く切り裂くような豪胆なおっかなさが噴出。目をカッと見開いて湖畔の覇者のような登場で脅かし、
王子を遮るときも全身から発する剛力でねじ伏せるように圧力をかけての封じ込めで恐ろしさを強調していました。
毎度思うが、中家ロットを倒せる王子がいるのか2幕の時点では疑問なわけで
しかし演出上の都合とはいえ断末魔に襲われるように苦しみ悶える最期に、
強力なロットバルトであっても抗えないオデットと王子の愛の力の存在に気づかされるひと幕でございます。
3幕では帝王を思わす貫禄で、オディールとの共謀作戦も、適宜出す指示もおどろおどろしい魔力が炸裂。
カーテンコールでの、兜を外してニッと不気味且つ愛嬌ある笑みを浮かべながら去って行くサービスには笑わされました。

小柴さんは一直線に怖いとはまた異なる摩訶不思議な風貌で、何者であるのか知りたい衝動に駆られるロットバルト。動き方が鋭い時もあれば
突如まろみと品ある仕草もあったりと緩急が引き立ち、男爵と明記された旨をふと思い出させる造形でした。
3幕は子煩悩なパパの魅力全開で、吉田オディールが初々しくパパを慕っていたこともあって毎回指図も優しく
王子がのぼせている間に笑、今のうちに囁きにいくよう助言や所作も丁寧で愛情たっぷり。
きっとオディールも舞踏会デビューだったのかもしれません、パパに促されると自信を持って王子に擦り寄り、一段と堂々と黒さを放つ娘と化していたのでした。

ベンノも性格様々でベンノに始まりベンノで終わる演出ですから、オデットと王子と同様主役といっても過言ではない重要役でしょう。
木下さんは敏腕マネージャーといった頭脳明晰で動きにも一切無駄のない 現代でいう、大企業のCEOのすぐ横に常時いる秘書のような存在で、既に王としての未来が見えかけている貫禄ある福岡さん王子には仕える、
まだまだ遊びたい盛り甘えたい盛りな笑、奥村さん王子には面倒を見る様子でアプローチを変えていた点にも拍手でございます。
宴の仕切りも出過ぎずされどここぞというときにはすぐさま案内を行い、雰囲気が重たくなったときの王子の機嫌を晴天へと変えようと導いて行く行動
どれも説得力を持たせ、かといって夏場に体育館に臨時設置される巨大扇風機のようにただブンブンと換気するわけでない、
場の空気や王子の心の内を自在に細やかに読み取り上昇気流に乗せる術に長けた、多機能装備の人力高性能空気清浄機な働きでした。
加えて踊りも盤石でテクニックも冴え渡り、明るい語りかけもぐっと引き締め度も抜群で、どの舞台でもいえますが
木下さんの舞台から粗を探すのは繁華街で落としたコンタクトレンズの捜索よりも困難そうです。

中島さんは心優しいお友達か幼馴染といった様子で、ほんわか優美な穏やかさで心を寄せているベンノ。
宮中の人前では機嫌を保ってはいてもベンノの前ではとことん本性露わにして不機嫌なときは誰も寄せ付けないオーラすら発する
そんな王子にどんな不機嫌な顔をされても常ににこやかに包む対応力及び精神力の強さ、寛大さが感じられました。
それだけ宮廷の生活が窮屈で、ベンノが心の拠り所であり唯一心を開ける存在だからこそと渡邊さん王子との関係性から見て取れます。
一昨年の長野県上田公演は未見のため中島さんベンノは初鑑賞でしたが、
中央の絵を邪魔しない崩さない身の置き方や行動に配慮が行き届いていて、花嫁候補選びにしても1幕のお見合い肖像画の並びを前にしたときも王子に懸命に勧めつつも
行き過ぎた行動は取らない匙加減が絶妙。王子がオディールにのめり込んでいるときは儀典長と共に本気で心配しやめるよう催促の信号を送っていたり
加えて宮廷の文化に育まれた感のある品の良さもあって、とても好感が持てる造形でした。
以前はだいぶ冷や汗ものであった踊りも(失礼)、非常に安定感が増して張りも出てきて宜しうございました。

花嫁候補として登場する三ヶ国の王女達も花が咲き競い、ほんわかな印象ある飯野萌子さんがハンガリー王女での視線や腕の色っぽさにもゾクゾク。
中島さんの、ソロでの登場してすぐの両腕を音楽をたっぷり使って王子にアピールしながら広げてのハンガリアンポーズからして自信たっぷりで艶やかで
前回よりも押しの強さも踊り全体に出ていて、新風直塚さんポーランドの強靭な軸と広がりのある踊り方や高い跳躍移動も衝撃ものでした。
3王女の似たり寄ったりながら渋めのゴールドで揃えた重厚な膝丈チュチュ衣装デザインも好きで、特にハンガリーは赤い宝石を散りばめた冠で頭を覆う作りも気に入っております。

民族舞踊では赤井さん池田紗弥さん小野寺さん佐野さん組のナポリにおける花火大会の如き弾け散る光り具合や
ソロではひょっとしたら初役の関優奈さんチャルダッシュの堂々とした衣装捌きも見事。
戻りまして、2羽の白鳥は花形さんの歌い上げるような身体能力の高さや躍動感の強さ、
中島さんのバネのあるしなやかさ、金城さんのすらっと伸びる長い腕が翼に見える羽ばたきも目に刻まれ
オデット不在時のリーダーとして湖畔を守っていたであろう纏め上げる統率力も良き印象でした。

白鳥コール・ドの1人1人の芯が感じられる統一感も毎度うっとり見入り、
隊列が次々と変化する場においても移動や配置に無駄がなく誇り高さを思わす美の連鎖。
4幕の霧の中から徐々に現れる幕開けの幻想性や、変わって集団で固まりながらロットバルトを追い詰める鋼のような強さも
観る度に息するのも忘れかける集中をもたらす美しさです。1幕のシルバーグレーで纏めた
曇り空によく調和しつつもきらりとした品が光る男女のワルツも格式高さがあり、堅固な調度品や立派な葡萄が置かれた食器も気に入っております。

国葬から始まり、喪に服した設定の鬱屈した趣ある特徴は最初なかなか好きになれませんでしたが
一昨年の公演期間途中あたり、つまりは渡邊さんの登板以降は好きになり、但し王子がよほど表現達者でないと場が持たない難しさがあると再確認。
3幕の壮麗重厚な装置衣装の圧迫感も、大応援団率いての王女達の登場も王子の重圧に一層試練与える効果もあり。
繰り返されるファンファーレの唐突な連続に最初は正露丸の宣伝垂れ流しと思えてならなかった私も
王子こそ国運を担わされ体調がおかしくなりそうな状況で早う飲ませねばと勧めたくなったのはさておき
オディールを見つめるときの絨毯の寿司詰めな状態と化す堅固な壁はオディールへの敵意強まりも思わせ、ただ豪華にしただけではない説得性が感じられます。
連日完売或いはほぼ完売な売れ行きで、初演時より団の総合力も大幅に高まり、公演中止日も無し。
波乱の連続であった今シーズンでしたが、思い残すこともありますが(二・二三事件は生涯忘れませんから)、無事に大入りで終了。
シーズン締め括りに相応しい公演で幕を閉じました。



※英語版新国立劇場インスタグラムにも舞台写真掲載。特に4枚目、吹っ切れて勝利確信な吉田さんオディールと、
その手に顔を乗せて温泉に浸かっているかの如く幸せで気持ち良さそうな渡邊さん王子にご注目ください。






改めてのマエストロ14日振り返り。吉田さんと渡邊さんのサインの並び、新鮮!清らかで美しいペアでございました。



刷り直されたチラシ。



桐生のハムロールといった名称だったか、胚芽パンにチーズもたっぷり挟まっています。赤ワインともぴったり。



この日は暑かった、夕刻前のビール。



他日に再びマエストロへ。前菜は海老と帆立貝のカクテル。大きなお皿に迫力です。



サーモンとパプリカ ケッパーのアーリオオーリオパスタ。塩加減丁度良く、ワイン進みます。



氷温熟成黒豚のソテーレモンソース。ぎゅっと旨み凝縮、そして後味さっぱり。




彩りが14日と異なりラズベリーやキウイが入ったメロンのスープ仕立てとドライシェリー。お洒落な組み合わせ!



ライト版白鳥を観ると、ギネスビールが飲みたくなります。再演時も大人は黙って毎度のオアシスで黒ビール。
入団2年目にして、プリンシパルの代役での全幕主役デビューしかも重厚な大作であるライト版『白鳥の湖』オデット/オディール役に挑む吉田さんが不安を抱かぬよう、
誠心誠意尽くして心配事を塵1つ残すまいと拭き取っては道標を照らし、魅力を引き出してくださっていた渡邊さんの功績は非常に大きく
加えてご自身の役どころも万全にこなされて、王子の心の移りようも陰陽自在に事細かに描画。
虜になって良かった、心から誇らしいと再度思えた2022/2023シーズン最終演目の公演でした。
虜になった最初の半年、2017年年始から6月下旬にかけては季節は過ぎてもヴァレンタイン・バレエだの、双眼鏡目に押し付けてコッペリア衛兵さん探しだの
ベートーヴェン・ソナタでは私が1番好きな交響曲第7番2楽章に配され、レントゲン風な衣装や福岡さんの後方で眩しがる振付が面白いだの
眠りは全幕であっても全日出演しかも日によっては1公演の中で寺田亜沙子さんとも組んでのプロローグカヴァリエ、韃靼風なロシア王子、ゴールド、とトリプルビル状態で
そうかプリンシパルではなくソリスト好きになるとこんな楽しみがあるのかああ万歳!だのこっそりときめき応援していたはずが
2017年6月25日の『ジゼル』を境に周囲に事情をボジョレー並みに大々と、とは当然いかず
何名かずつに徐々に解禁してからちょうど6年経ちました先日の6月25日。
まさかご本人と同じスタジオの中に立つ日が到来するとは6年前当時は知る由も無かったわけですが、
本記事をアップした頃には再びのズンドコドッスンを既に管理人は行った頃でございます。
それはまた後日。

2023年6月19日月曜日

雨上がりにシューマンの調べ  原美香バレエスタジオ第10回発表会6月11日(日)《京都市》




6月11日(日)、京都ロームシアターで原美香バレエスタジオ第10回発表会を観て参りました。
原さんのリサイタルは2011年4月に旧京都会館(現ロームシアター)にて拝見しておりますが、スタジオ発表会は初見。楽しみに伺った次第です。
https://www.mikahara.com/news/3433/

まずはオープニングから、チャイコフスキーのオペラ『エフゲニー・オネーギン』ポロネーズにのせてほぼ全出演者が登場。
この曲を聴くとまずバレエアステラスが思い浮かぶわけですが、華々しく開幕に相応しいと毎度感じております。
ここで早速目を惹いたのは子供の生徒さん達の踊り方が実に丁寧で堂々としていたこと。
あとのディズニー作品でも同様の印象を持ちましたが、ポール・ド・ブラ1つにしてもきっちりと、しかもくっきりと示していて
基本中の基本である脚の差し出しやプリエにしても一切疎かにせず音楽によく合わせて、自信を持って披露。
レヴェランスも深々としっかり行っていて舞台マナーも良く、すっかり感心してしまいました。
子供の頃の私だったらこんなにきちんと務めることなんぞできなかったはず。
第1部、第2部はヴァリエーションやグラン・パ・ド・ドゥを織り交ぜ飽きさせぬ構成で時間が瞬く間に経過。
子供から大人まで舞台を楽しんでいらっしゃる様子に、観ているこちらまでこの日の京都市の天候と同様、徐々に晴れ間が射し込んできた気分となりました。
それから照明の凝り方やセンスにも魅せられ、手がけていらしたのは松浦眞也さんとのこと。
山本隆之さん版の『白鳥の湖』や川上恵子バレエスクール、深川秀夫さん作品でお馴染みのお方かと思います。西日本の光の魔術師と勝手に呼んでおります。
バレエコンサートでも例えばガラでも鉄板な海賊は薄紫の夜明けのような色味であったり、柔らかめの光で演出する作品もあったりと細かな妙技に驚かされました。

コンサートのハイライトが山本康介さん振付で佐藤美和さんのピアノで奏でられたHommage〜オマージュ〜。
解説によれば、1曲目と3曲目の作曲はクララ・シューマン、2曲目はロベルト・シューマンとのこと。
落とした照明の下、静けさに包まれた空間の下手側にピアノが置かれ、佐藤さんが登場。続いて山本さん、原さんそれぞれのソロがあり
やがてパ・ド・ドゥへと繋がっていきました。
ただソロとは言っても佐藤さんと穏やかに語らうような場もあり、より体温が伝わる振付に心癒されました。
そして原さん山本さんが一緒に踊り出すと、年齢を美しく重ねていったお2人だからこそ醸す、
この日に観察してきた紫陽花を滴る雨雫のようなしっとりとした華やぎに目も胸も潤った思いでおります。
山本康介さんの振付作品はこれまでにモダンでカラフルな味わいが刺激を誘った2022年の東京シティ『火の鳥』や、
2018年の東京都江戸川区での佐藤朱実バレエスクール『くるみ割り人形』における踊り盛りだくさんなドロッセルマイヤーや
人物同士の繋がりがはっきりと見える演出、生徒さんの特性を生かしたねずみ等工夫が行き届いた構成に引き込まれ、また振付作品を拝見したいと思っておりました。
今回は優しさが響き合う大人の雰囲気に満ちた作品にお目にかかれ、大変幸運でございます。

続いては『白鳥の湖』第2幕湖畔の場と第3幕オディールが登場する舞踏会で、オーソドックスな中にも独自の捻りある味付けが光る見応え十二分な内容でした。
まず2幕ではジグザグに白鳥達が登場した後に両腕を翼のように掲げて羽ばたく振付の中にさりげなく両手で涙を流す仕草が含まれ、一斉に行うと白鳥達の悲しみがより強まり
しかも音楽の中に違和感なく溶け込んでいるため不自然さもなし。はっと心を奪われる瞬間でした。
オデットと王子のアダージオのときも後半部分であったか、群舞に立体的な動きが付けられていて
オデットの訴えを白鳥達も共に切々と語っているように見えた気がいたします。
それから四羽の白鳥の生徒さん達の揃い方、特に素早く斜め前に脚を擦り出しながら立つ箇所での顔の付け方も滑らか且つ音楽としっかり連動していて
奇しくも前日に東京で新国立劇場バレエ団の『白鳥の湖』を観てきた者からしても引けをとらない完成度の高さに目を見張りました。

3幕は民族舞踊の構成が実に工夫がなされていて、マズルカ、チャルダッシュ、ナポリは主軸に生徒さんと男性ゲストペアが配され達者に披露。
アンサンブルはナポリは小さな生徒さん達が可愛らしく、チャルダシュは大人の生徒さん達、マズルカは小中学生くらいの年代の生徒さん達、と配置がなされ
それぞれの魅力が花開いていた印象です。中でも大人のチャルダッシュが重厚でしかもポーズも揃い、心から楽しんでいらっしゃる様子が窺えました。
2幕3幕とも王子は青木崇さんで、貫禄と成熟した雰囲気や技術も美しく力強く、オディールに結婚を誓ってしまったと判明したときに大袈裟に嘆かず
静かに胸を当て悔やむ王子は初見かもしれません。タラちゃん或いはクイーンの有名曲を思わすかのように
母親を叫び呼ぶのではなくしんみりと悲嘆に暮れる姿は青木さんの佇まいによく合っていて、好印象でした。
宮廷の装置は舞台袖に至るまで壮麗豪華。中世ドイツかと聞かれるともう少し近代寄りな気もして
少し首も傾げかけましたが(美術史に詳しくないため、あくまで勝手な想像ですが)、幕開けから客席がどよめくほどの華々しさに圧倒されました。

フィナーレはエフゲニー・オネーギンのワルツにのせて、出演者総登場。最後に原さんが登場され、シンプルなワンピース姿がまた美しや。
同時に原さんを初めて拝見したときの2011年4月のリサイタルが思い起こされ、東日本大震災から1ヶ月も経っていない頃で都内もまだ計画停電の実施や物流も順調ではなく
チケット代の入金においても銀行によってはATMが停止中であった記憶もあります。都内では舞台開催も多々中止に追い込まれていた状況下
京都会館で観た『ソワレ・ドゥ・バレエ』等の深川秀夫さん作品の数々や『パキータ』に、
舞台ってこんなに煌びやかなものだったのかと遠くにいきかけていた感性が戻ってきた思いすら募ったものです。
今回はスタジオ第10回の発表会、おめでとうございます。スタジオの一層の発展を願っております。




※以下写真が20枚以上ございます。日帰りでこの枚数なんぞ見ている暇はないと仰るご多忙な方は次回をお待ちください。(次回、恐らくは長いと思いますが)
もう今年も上半期が終了、お時間と忍耐力のある方は以下どうぞ。
当初は昨年夏と同様に貴船へ行き
川床で流しそうめんを堪能する予定でおりましたが雨天予報が出ていたため紫陽花見物に変更。
新国立の『白鳥の湖』初日から帰宅後大急ぎで名所を調べ、京阪沿線にも色々あると知り、行って参りました。



おはようございます。京都駅に参りました。早朝のため、人が視界にいません。



鴨川を北上し、徒歩で祇園四条駅へ。前日までに申し込むと800円で購入できる京阪電車1日乗車券を申し込み
受け取りはいくつかの駅限定らしく、祇園四条駅もその1つ。電車代を使うのが悔しいため、徒歩で向かった次第。
(だから誰も私と一緒には旅行動をしたがらない笑)そして初めて巽橋へ。まだ人がいません。
ガイドブックには必ずといってよいほど載っていますが、静かで新緑情緒ある場所でした。



祇園の道沿いの紫陽花



花見小路通を歩きつつ二年坂へ。まだ人がいません。このとき朝6時30分、そりゃ観光客はまだ疎らか。混雑時には人の頭しか見えないらしい。



清水寺は早朝に行くのが好きな管理人。その代わり、何度も来ていながらお寺周辺のお店事情に詳しくない。
例外で去年2月は昼食時に湯豆腐の老舗奥丹清水へは行きましたが。
清水の舞台、人が写っていません。早朝の雨天のためか、10人もいなかったかと思います。



今日は京都でバレエ鑑賞どすえ。



八坂の塔、サザエさん歌いたくなります。まだ人がいません。今日も「能天気」〜は私のことだ。幼い頃から直りません。人生どうしたものか。



京阪電車の清水五条駅から宇治の三室戸寺へ。1本で行けます。「みむろとじ」と読むそうで、袋とじしか思い浮かばぬ管理人の思考をお許しください。



艶やかな紫陽花達。



蓮の葉に水滴がきらり。



紫陽花の花園!植え込みがどこまでも続き迷路のよう。ここでお江戸版 アリス、いけるんちゃいますか??
老中の家で働く青年が将軍の護衛隊侍に転生し、お江戸のアリスと(名前何がええやろ)脱出を図る大作戦。ああ生垣からひょっこり出現、配役想像が巡ります。
アジサイ・アダージョもどうでしょう??あっ、ここ京都どすえ。次行きます。



道沿いに紫陽花。霧も見えます。あの中から白鳥達が出現でしょうか。それはピーター・ライト版か。



三室戸寺と源氏物語ミュージアムの間あたりに位置する、これが食べたかった、伊藤久右衛門茶房にて季節限定紫陽花パフェ。
紫陽花きんとんが涼やかです。あたたかいお抹茶といただきました。
このお店は混み合っていて、今回の京都で唯一遭遇した混雑地だったかもしれません。
整理券制のため、機械から受け取った券に記載のQRコードを読み取ると
待機者や待ち時間目安状況もわかるようになっていて便利です。



源氏物語ミュージアムへ。貴族の生活を再現した展示。シャンブルのかぐや姫を観てきたばかりのため、思い起こされます。
オーベロンはミタなる覗き見貴族もいます。怪しい。



朝霧橋へ。来年の大河ドラマは紫式部が主役です。



京阪電車に乗り、墨染駅へ。藤森神社の紫陽花見物。コスプレイヤーがたくさんいました。管理人には炭治郎しか分かりませんでしたが。



ふじのもり、と読むらしい。今回の発表会の舞台監督は関西の名手!?藤森(ふじもり)さん。私もお世話になっており、3月に東京での公演会場で偶然お目にかかったとき
2月の例の件についての不納得な事態発生のぼやき嘆きにも耳を傾けてくださり涙、その節はありがとうございました。



京阪で祇園四条駅へ。京都に何度も来ていながら初訪問、松葉のにしんそば。
甘辛いにしんと刻み葱の辛さ、お出汁の優しさが身に沁みます。13時頃の来店でしたがすぐに着席できました。窓の外には東華菜館も見えます。



四条大橋からの鴨川風景。



9年ぶりの訪問、河原町にある喫茶ソワレへ。



ゼリーポンチ。100年以上変わらぬ製法の刺激度弱めな神戸産サイダーを使用とのこと。
原美香さんを初めて拝見したのも京都で、ロームシアター改装前の京都会館でした。
そのとき踊られた2演目に含まれていた深川秀夫さん振付『ソワレ・ドゥ・バレエ』の色彩美に重なり、当時を思い出しつついただきました。



晴れ間が見えてきた。




京阪電車で1駅、京阪三条へ。ロームシアター到着。



東京文化会館と同じ、前川国男の設計です。



帰りは会場から徒歩で京阪三条駅を経由し歩いて先斗町へ。京都の地酒で乾杯!ええ舞台でした。そして京阪線のみで1日過ごしたのでした。さらば京都、また会う日まで!!