2021年7月30日金曜日

1年延期を経て後輩のサタネラ 清水純子バレエアカデミー第38回発表会 7月25日(日)





7月25日(日)、渋谷の大和田さくらホールにて清水純子バレエアカデミー第38回発表会を観て参りました。
昨年予定していた発表会が1年延期となりようやく開催。配信も合わせての実現となりました。
http://shimizu-sumiko-ballet.jp/

主宰の清水先生は東京シティ・バレエ団で長らく主役を張られていたほか、スターダンサーズ・バレエ団で日本初演した
バランシン振付『コンチェルト・バロッコ』にゲスト出演されるなど、国内におけるバランシン作品経験の先駆者でもいらっしゃいます。
今回は昼間に新国立劇場にて『竜宮』を鑑賞しておりましたため、終演後に渋谷駅へ駆けつけ、第2部から鑑賞でございます。

最大の目当ては登場機会多数な当ブログレギュラーである我が愛する後輩2度目のグラン・パ・ド・ドゥ挑戦、演目は『サタネラ』。(ヴェニスの謝肉祭)
音楽は晴れやかされど単調気味で特別派手な振付もなく、しかし悪魔な女性である面を明示せねばならぬ見せ方が非常に難しいパドドゥであると捉えております。
さぞ緊張しているであろうと楽しみと心配半々な心境で幕開けを待ちましたが、ぶったまげました。
登場時から溢れんばかりの笑みを湛え、舞台にぱっと華を与えるオーラ一杯。
更に驚きに拍車をかけたのは、パートナーを務めていらした東京シティ・バレエ団所属の吉野壱郎さんとの掛け合いや視線の合わせ方もしっかりとこなしていて
心浮き立つ会話が成立していたこと。振付を追うだけで精一杯にならず、問いかけに対して澄ましたかと思えば振り向いてほんのり魔性香る姿で魅せたり
ふとした箇所においても丁寧な作り込みでした。本人は謙虚の塊のような性格で、技術も体力も不安視していましたが
ほぼヴァイオリンのソロが占める曲調の中で勢い任せでは誤魔化せない振付てんこ盛りなヴァリエーションでも
1本の糸の上をそっと辿るような滑らかな踊りを披露。思えば当初は昨年に踊る予定が1年延期で
心身の調整も容易ではなかったはずであり、それでもめげず頑張りました。先輩は大満足です。

そして後輩のパートナーを務めてくださった吉野さん、シティでのウヴェ・ショルツ作品や『白鳥の湖』等公演では度々拝見しておりますが
お若いながらパ・ド・ドゥにおいて相手の緊張を解して気持ちを上向きにさせるコミュニケーション力に長けていらっしゃり信頼感絶大で好印象。
後輩を優しく明るくリードしてくださり、ありがとうございました。 配信をご覧になった方からも、視線の交わし方に至るまで
2人で楽しそうに踊る空気感が良かったとのご感想も寄せられているほどでございます。
華が無いと着こなしが困難であろう黒と白のシックな統一感のある色調でペアごと揃えた衣装もお2人にお似合いでした。
そういえばサタネラ青年の登場振付は踊り手によって様々で、吉野さんは颯爽と鮮やかに舞台中央へと飛び込んでくる登場。
対して先月新宿文化センターでのガラの青年は上手側の幕からにょきっと顔を覗かせてニンマリと笑みを客席に送ってからの登場で
思わず脳裏に浮かんだ『突撃隣の晩御飯』笑。ガラや発表会の定番パドドゥの印象先行が益々薄れ、観れば観るほど面白いと思える今日この頃でございます。

後輩の話に戻します。幼い頃から同じスタジオにブランク無しで長年レッスンに通っている継続力に
しかも習い事とは言えど頭のてっぺんから指先足先まで隈なく見られながら指導を受け、美を追求する
身体を張っての芸術ですから、ストイックの欠片もない私からすれば益々頭が下がる一方です。
そして後輩、先述の通り当ブログ登場回数が多く、つまりそれだけ鑑賞回数も多し。毎週レッスンに通いつつ鑑賞にも度々足を運び、
加えて鑑賞できなかった舞台についても私に感想を尋ねてくれたりと勉強熱心。私の偏りだらけな話を頷きながら聞いてくれたり
また私の周囲の濃い鑑賞オタク集団(該当するお心当たりある皆様すみません笑。しかし鑑賞中心のバレエ愛好者の集まりですから相当オタクでしょう汗)
話にもすっと入り込めていて観る目と踊る身体両方備え、幼少時から長年レッスンに通っていながら鑑賞も熱心。珍しいタイプかもしれません。
先月も、踊るにあたって勉強したいとリハーサルの合間を縫って新宿文化センターでの新国立劇場ペアによる『サタネラ』も鑑賞。
自身が踊る女性パート中心に念入りに観るかと思いきや男性パートもじっくり観ていたようで、そしてたっぷり褒めてくれました。私へ心遣いも申し分ありません笑。
(念のため、私が鑑賞を強要したわけではありません。誤解無きように)

元々華やオーラがあり、最近の出来事としては練習帰りに私の最寄駅まで届け物に来てくれたときのこと。
ワンピースを着て改札前の桜の木の下に立っていた後輩、映画のヒロインかと見紛う花がパッと咲き誇ったかの如き可愛らしさで
先月利用の団体様の鑑賞報告写真に写り込んでしまい新国立劇場玄関先の灰色の柱との同化が証明された存在感埋没な私とは大違い笑。
隣を歩いていると満開の花園と移動している心持ちとなるほどです。また背は私とさほど変わらぬはずが(彼女のほうが3cm高い程度)
実際の身長よりも高く見え、頭が小さく腰の位置が高めで手脚が長いため実に見栄えする容姿。頭でっかちな上に酒樽体型の管理人とはこれまた大違いです。
あれやこれや綴って参りましたがそんなわけで、我が愛する後輩の晴れ姿を1年延期を経て鑑賞でき、幸福な真夏の昼下がりでございました。
江戸時代に旅を重ねていた、人生の節目日が私と同日であるらしい儒学者の林春斎が日本三景として宮島、天橋立、松島を「日本国事跡考」に綴ったように
私の中ではサタネラ三景がこの度決まり、12年前のグランキューブ大阪、今年6月の新宿文化センター、そして今年7月の大和田さくらホールでの鑑賞でございます。

子供の生徒さん達の作品も楽しく、「フォークダンス」ではアメリカ、ドイツ、イタリア、ロシアと次々と披露し、デザインは少しずつ異なる赤系の衣装で揃え
最後マイムマイムを聴くと、子供の頃は当たり前のように参加していた林間学校やキャンプファイヤーを思い出し
昨年今年と中止になってしまった学校多数である現実を踏まえるとしみじみ。
今年は発表会開催が実現し生徒さん達の晴れ舞台披露の場が整って良かったと心底思えた次第です。
シティのプリンシパルキム・セジョンさんがそれぞれお二方と踊られたグラン・パ・クラシックは爽やかで深みある青い衣装がよく映え、安定感も抜群。
金と白が眩しい『ライモンダ』3幕を2人用に再構成したパ・ド・ドゥもヴァリエーションも挿入の見応え構成で
今年8月のバレエ・アステラス2021における『ライモンダ』披露組も同構成で宜しくと申したいところです。
世界バレエフェスティバルAプログラムにおける、アレクサンドロワとラントラートフも同作品3幕よりと明記のため恐らくは似た構成と想像しております。
教師の方がお1人が踊られたヴィヴァルディの曲に振り付けられたややモダンな雰囲気のソロwindは水色のタイトなスカートが靡く衣装も相乗して流れるように涼しげ。
スタジオに長く通っていらっしゃる女性と男性の大人の生徒さんによる『白鳥の湖』のスペインもキレキレで気持ち良く、長期継続の大切さに触れた思いがいたします。

最後は後輩も再び登場、『ライモンダ』より夢の場を中心に組み合わせた『ロマネスク』。
通常はソロで踊る曲も振付の基盤はそのままに複数人数版にしている点も特徴です。
曲構成は1幕で宴を終えたライモンダの友人達がしっとりと踊る曲いわゆるロマネスク、夢の場第2ヴァリエーション、第1ヴァリエーション、
ヴェールのヴァリエーション、ライモンダによる夢の場のヴァリエーション、第1幕グラン・ワルツのコーダ、であったかと記憶。
(お読みになっている関係者の方がいらっしゃいましたら、違っていればご指摘を)
プログラムや看板の絵にも描かれているロマンティックチュチュで妖精のように舞っていく優美な作品でした。

発表会開催においては昨年から現在にかけて何処のバレエ教室も共通かと思いますが、大勢の観客を迎え満席或いはそれに近い状態で行いたい気持ちは山々でも
入場者数に制限をかけての安全確保や検温消毒、楽屋の使い方、そして配信も行うなど従来では考えられぬ対応に頭を悩ませながらの開催であったと察します。
生徒さん達の嬉しそうな表情を眺めながら、日頃の成果を発表する舞台ができた幸せを共有いたしました。
来年は今年よりも心穏やかに本番を迎えられますように。




帰宅後イタリアワインで乾杯。瓶の下に敷いたレースはヴェネツィア産です。



後出し失礼、何度か借りている書籍に再度目を通したが、私の理解力欠如で今ひとつロマネスクの定義分からず。半円アーチが特徴か。
しかし建築の写真はどれも美しく、堅固な作りに曲線や丸みも細部まで観察です。

2021年7月29日木曜日

【WOWOW加入者の方は是非 】連続ドラマW『黒鳥の湖』




7月24日(土)よりWOWOWにて連続ドラマW 『黒鳥の湖』の放送が開始されています。
全5話構成で、同じ回でも数日後には再放送日が設けられているようです。(第1話は7月31日午後0時にも放送予定)
https://www.wowow.co.jp/drama/original/kokucho/

原作は宇佐美まことさんの同名小説。題名からしてバレエが関わる話であろうと想像がつきますが、
18年前の事件を引き摺りながら生きる主人公の娘がバレエを習っている設定で、オディール役が事件の鍵を握っていくようです。

主演は藤木直人さんで、娘の美華役を映画『ミッドナイト・スワン』にて
ある日突然バレエに目覚め、プロを目指していく心を閉ざした孤独な中学生の一果を演じた服部樹咲さんが務めます。
予告映像を見ただけでも長期に及ぶ悲劇が次々と襲う重たい話のようで、バレエにおいては『マノン』や『アンナ・カレーニナ』、『アナスタシア』、
『ザ・インヴィテーション』や『レイクス・プログレス』など重厚で胸を抉る、時には泥沼化した関係をも露骨に描いた重々しい作品も好むほうではございますが
テレビドラマとなれば話は別で、極力幸福な結末が待っている或いは定番なる展開を好むため(だから2時間旅情サスペンスや水戸黄門に走るのか管理人)
継続視聴できるか心配なところです。しかしそれ以前に、我が家はWOWOW未加入のため視聴不可能。
宮尾俊太郎さんや小林美奈さんも出演された『カンパニー』のようなプロのバレエダンサーがわんさか作品ではなく
映画『ミッドナイトスワン』並の宣伝もさほどされていないのか現時点では私の耳には感想が舞い込んではおりませんが、ご覧になれる方はお時間あればご視聴どうぞ。

余談ですが私が長年の人生において連続ドラマで全話視聴した作品はたった2本で、それぞれに主演していたのが今回出演者に名を連ねている藤木さんと三宅さん。
かれこれ19年前と24年前で、お2人の虜だったわけではなく(失礼)作品に惹かれ、高視聴率作品ではなかったものの
双方痛快喜劇な作風で毎週放送を心待ちにし、気づけば最終回を迎えておりました。お2人はその三宅さんのドラマの
ある回で共演され、同じ高校に通う上級生と下級生の役でしたから時代の流れを思わずにいられませんが
今回絡みの具合は未知ではあれど楽しみではあり、図書館で借りてきた原作を読みつつ、映像を思い浮かべ謎解き含めて堪能してみたいと思っております。
そうでした、先週の連休辺りからテレビ市場を網羅状況にあるスポーツ大会を横目に、本日まで再放送中であった
萩尾望都さん原作で四半世紀前に放送された菅野美穂さん主演『イグアナの娘』も翌年あたりの再放送ではほぼ全話視聴した記憶がございます。
久々に見ましたが、母娘の確執を色濃く描いていて少女漫画原作とは想像し難い作品であると当時も驚かされたものです。
(そうは言っても管理人、昔からバレエもの含めて漫画も読まずですが)

それから念のため、楽しみな共演とは申せど今年5月のプティ版『コッペリア』4公演の千秋楽には到底及びません笑。あの日を超える共演はこの先もう無いでしょう。
管理人、既に人生の運を2021年上半期で使い果たした思いでおります。勿論、同作品でも他作品でも再びの顔合わせがあればと願ってやみません。
特にバレエにおいては管理人がいたく好む、理性の歯車が狂う濃厚重厚系統作品での共演お待ち申し上げます。
バレエダンサーが滅多にモデルを務めないであろう格式ある着物雑誌にて時期は異なれど品性と渋みが香る美しい着物姿を披露された(今考えても珍しい共通点)
御二方による『アンナ・カレーニナ』、まだ諦めておりません。

一部バレエから少し話がずれかけましたので次回予告。我が後輩の晴れ舞台鑑賞記をお送りいたします。

2021年7月27日火曜日

副題に相応しい4幕の創意工夫 東京シティ・バレエ団『白鳥の湖』〜大いなる愛の讃歌〜




7月17日(土)東京シティ・バレエ団 石田種生版『白鳥の湖』〜大いなる愛の讃歌〜を観て参りました。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000653.html

https://balletchannel.jp/17322
バレエチャンネルさんのインタビュー

オデット/オディール:清水愛恵
ジークフリード王子:キム・セジョン
ロートバルト:石黒善大
道化:玉浦誠
パ・ド・トロワ:平田沙織 植田穂乃香 土橋冬夢
三羽の白鳥:平田沙織 植田穂乃香 且股治奈
四羽の白鳥:新里茉利絵 竹嶋梨沙 西尾美紅 佐々木葵美



清水さんのオデットは登場時の表情や身体使いともに孤高な翳りのある神秘的な美しさを体現。
近寄り難いクールな風貌で、舞台全体を覆うように長い腕が描く羽ばたきの残像も目に響くスケールの大きさに息を呑みました。
王子からの問いかけにはなかなか心を開かず怯えが続き、されど背中からは覚悟をにじませる強さも感じさせ
オデットのリーダーとしての風格と過酷な運命を突きつけられた瀬戸際にいる危うさが入り交じって伝わるヒロインです。
オディールは優雅さから黒い魅力がチラリと覗き、あからさまな邪悪ぶりではないからこそ
王子はオデットに魅せられた際の知性や守りたい思いに駆られ恋に落ちた前夜のひとときを思わずオディールから感じ取ってしまったと納得。
オデットとオディール、共に凛として気高く感嘆いたしました。

清水さんはウヴェ・ショルツ振付「Octet」での頭一つ飛び抜けた女神の如き存在感が今も忘れられず、全幕主演も観てみたいと願っていただけに
シティが誇る大作にて鑑賞できたのは実に幸運。出産後復帰の舞台とは思えぬ心身の完成度であったと思います。

キムさんのジークフリード王子は鬱々な内面描写がいたく上手く、3幕に至っては花嫁候補が踊り出しても途中までは寝落ち笑。
王妃に起こされてやっとこさ踊り出すわけですが、品を維持しつつも上の空状態な心持ちがはっきりと伝わるひと幕でした。
清水さんが安心して身を任せられる安定感もさることながら、湖畔のアダージオでは一見して濃密とはまた違った、
心の開き具合を丁寧に織り重ねて刻一刻厚みを増して行く様子が徐々に染み入ってくるパートナーシップを構築していた印象です。

圧巻であったのは石黒さんのロートバルトで、羽に覆い尽くされた衣装にも埋没しないゴージャスな姿にこの度も驚かされ
暗めの峻崖の上に立っていても岩場と同一化しないオーラも見事。元々の上背や装飾たっぷりな衣装に加えて跳躍は高く、舞台ごと突き動かしているような重厚な存在感でした。
最後、羽根をもがれる結末が嘘のような豪胆なキャラクター造形でしたが、それだけ白鳥達の讃歌が恐ろしい勢いでのし掛かってくる設定にも頷けます。
全幕の中の個性の強い人物に石黒さんが登板されると妙な安心感と期待感を膨らませ、予想以上のものを見せてくださるダンサーであると私の中では定着しており
まだ綴っておりませんが今年の5月にご出身の教室での全幕公演『シンデレラ』義理のお姉さんを拝見し、舞台を引き締め面白味を存分に与えてくださいました。
何処かの機会で紹介して参ります。(鑑賞前に食したジンギスカンやパフェも美味しうございました)

パ・ド・トロワは高身長の平田さん、植田さんのコントロール力に目を奪われ、土橋さんのバネのある踊り方も宜しく躍動するトロワ構成。
湖畔コーダでの四羽や三羽が順々に突き進む箇所では最後さりげなく回転技が盛り込まれ他の演出より高難度。
しかし自然とさらりとしかも揃えてこなしてしまう全員の職人級な技巧に天晴れでした。
民族舞踊も非常に高水準で、中でも素早い脚の運びや上体の捻りがふんだんに用意されたスペインでの斬れ味やチャルダッシュでの緩急の対比の付け方には痺れるばかり。
これまでに観た、海外を含むバレエ団の白鳥の中でも5本の指に入るであろう見応えでした。

そして前回2018年上演時に初鑑賞し、話題を攫っていた日本初演時の藤田嗣治の美術や大野さん指揮の東京都交響楽団演奏よりも心を持っていかれた石田版白鳥の名演出な4幕終盤。
現在は『チャイコフスキー パ・ド・ドゥ』アダージオとして馴染みとなった曲にのせてオデットと王子がパ・ド・ドゥを踊りつつ白鳥達の力が結集していき
最後は白鳥達が手を繋ぎ、9の反対な配置で2人を囲む決意の場は希望の光が昇華するハイライトと言えます。
順番前後して、4幕幕開けは左右対称とは違った風変わりな配置に引き込まれ、関連記事を読んだところ
石田さんが竜安寺の石庭から着想を得たとのこと。西洋発祥の芸術に日本的な要素が調和した不思議な美しさです。

そういえば、随分前に本だったか新聞であったか、また石田さんの記事であったかも曖昧なのだが四羽の白鳥が手を繋いだまま踊る意味合いについて語っていらっしゃり
ロートバルトの呪縛の象徴であると強調なさっていたように記憶が霞んでおります。
白鳥達が一旦アダージオで力を結集したのち、臆せずにロットバルトに立ち向かい、王子による羽根もぎ取りも不都合な様相を感じさせず
オデットと王子と共に遂に勝利した印象がまさる展開。オデット達が人間の姿に戻るまでが短時間の中に整理し凝縮されて描かれ
仰々しい名に思える或いは越路吹雪を彷彿させる愛の讃歌、にも説得力あり。1幕の背景にて、城が随分と長く高い坂の上に建っており
居城であるとしたら徒歩での帰宅は相当な脚力を要すると思ったところで貴人は皆様馬に乗ってご移動であろうと想像が巡ったのはさておき
繊細且つ色味もしっかりとある美術、衣装も上品でシティが誇る大作です。

※以前福岡市にて田中千賀子バレエ団公演で拝見した中牟田百香さんが入団されたようで、東京でのプロとしての舞台姿が嬉しい限り。
ドン・キホーテのグラン・パ・ド・ドゥが印象深く、華やぐ雰囲気あるダンサーで注目して参ります。終演後福岡市民会館から徒歩で中洲へ行き屋台を巡った時間も懐かしい涙。
櫻井美咲さんに続き外部の舞台で目にした方がしばしば足を運ぶシティに在籍されていること、鑑賞の楽しみがまた増えそうです。




鑑賞前にノンアルコールビールとローストビーフで乾杯。
こちらの店舗でも、お洒落なノンアルコールカクテルを多種用意していました。
東京在住者が管理する当ブログ、暫く外ではノンアルコールシリーズが続きます。(少なくとも8月22日迄は。延長の可能性もあり)



夏限定生ハムメロンやウニのパスタも美味しい。



ティアラこうとうの換気状況紹介

2021年7月23日金曜日

節目2021

いつも以上にぐうたら日記でございますので、猛暑の最中そんなもん読んでいられぬとのお考えの方は恐れ入ります、次回更新予定記事まで今暫くお待ちください。

管理人、一昨日人生の節目を迎えました。
毎年恒例と化しております、同時期の世相と合わせて以下あれやこれや綴っております世の中で最たる不要不急の内容でございますがご了承ください。
今年2021年の7月21日朝、ふとテレビを眺めていて気づいたのは開会式に先駆けた東京五輪の競技開始日であるため五輪関連の特番の放送も開始されていたこと。
自宅出発まで時計代わりにかけているNHKの番組曲が流れずおや?と思い確認してみて気づいた次第です。
更に携帯電話の表示の五輪仕様もこの日からと思われます。白昼にはブルーインパルス予行練習があり、青空にを駆ける雲をご覧になった方も大勢いらっしゃるかと存じます。
昨年の当ブログでも触れておりますが、私はある五輪の年生まれで妹も4歳違いであるため同様。
ともに開催期間と重なる夏場の生まれでもあり、親は育児の合間にテレビで応援しつつ楽しんでいたようです。
親族の中には1964年の東京五輪を間近で目にした者もおり、通っていた学校すぐ近くの青梅街道にてアベベ選手の走りを見たとのこと。
当時のマラソン観戦話も度々耳にしており、また私自身幼少期からバレエと同じくスポーツも自身で取り組むよりも観る派であったため
各競技の規定には詳しくなくても毎回満喫しているほうではあったと思います。
しかし、自国開催でネットの普及もあり粗が見透かされやすい事情があるとはいえ今回のトラブル続きには口あんぐり状態で
誰のための何のための開催であるのかそもそも夏開催にした点も疑問符が消えず。
57年前は10月であったため爽やかな気候の中で観戦できたようですが、主要スタッフ直前降板者続出の今夜の開会式はどうなることやら。

話を変えまして、ここ最近バレエの舞台には変わらず足繁く通っておりますがバレエ鑑賞以外でも今月は我が大きな出来事がございました。第1回目のワクチン接種です。
接種券未着ならば(のちに誕生日を祝うかのように今月半ば過ぎに到着)後出しで良いとのことで今月最初の月曜に打ち
腕が上がらなくなった程度でやや身体が重たくなったものの発熱も腫れも無く、副反応は殆ど無いほうであったと思います。
発熱、寝込み、出勤できず等あらゆる反応が世に溢れていますが1回目でも年齢や性別体質問わず、出る人は出るが出ない人は出ない、周囲を見ても様々でございます。
職域接種でしたが幸いにも日程を自由に選択できる体制でしたので、在庫切れになる前にと心配性も後押しして持病や基礎疾患の無い従業員の中では開始初日に摂取へ。
仮に自治体で申し込みの場合、送付されてきた手順記載書類を広げてスマートフォンやパソコンで順を追いながら
長いコード番号をも入力していくなかなか時間を要しそうな作業であると同居の家族が黙々と申し込み作業を行う様子を見て
歌に限らず機械も音痴な私には無謀であろうと不安が過っており、高齢者の方々の分を子供や孫たちが代理申し込みしている報道に
他人事ではなく私も人任せ状態になるであろうとかねてから感じておりましたので、希望日だけ伝えれば調整してくれる
しかも鑑賞に影響の無い日程を選べましたので職域接種は大助かりでした。接種3日後、無事にロックバレエ鑑賞です。
ちなみに妹は既に2回目を終えておりますが副反応ほぼ皆無であったそうで、対する同僚しかも先輩達は皆発熱なり何かしらある中で不安もあったもよう。
管理人はどうなることやら。間隔は空けておりますが2回目接種後最初の鑑賞も予定通りできますように。

そもそも人にもよりますが若年層ほど反応が出やすいとは言われていますから、第1回にてほぼ無しであったのは
もしも当ブログにAIを搭載して記事内容から年齢判断を行えば「70代以上」と感知されるであろう中身の年齢不詳ぶりが経過年齢を封じてむしろ良い方向に動いたか。
何しろ10代の頃に隣町に偉大なバレリーナがやって来たがどなたでしょうと質問形式で話をある方にしたところ、「アンナ・パヴロワ」と想像され
仮にそうであるならば著書にパヴロワの衝撃を記していらっしゃる淀川長治さんと管理人、同世代です。
そして報道でチラリと小耳に挟んだ、モデルナワクチンの3回目接種もあり得るとか何とか。第2回第3回、、、大企業の採用試験或いは十字軍かい。
いずれにしてもまずは2回目の接種後、無事帰還できますように。職場到着ないし帰宅後は脳内でジャンのテーマを流すことといたします。

十字軍と言えば、新国立劇場バレエ団『ライモンダ』開催された初夏、新国立劇場を利用したある団体が報告レポートとして劇場玄関付近の光景や感想を掲載。
鑑賞者の感想も純粋且つ隅々まできちんと観ている鋭い気づきもあり、私も大変学びとなる記事でした。
そして劇場玄関の写真に目を留めると、柱と一体化した管理人を発見。心から好きな劇場での鑑賞レポートの掲載は嬉しい限りですし
団体の関係者以外は画質を落としてぼかす配慮はしてくださっていますから何ら問題なく、むしろ第三者から見た我が容姿がよく分かったのはこれ幸い。
小学生の頃から度々指摘されてきた存在感の無さや壁紙と同化人間ぶりは相変わらずで太古の昔ながら指摘者は実に的を射る発言であったと再確認です。
まあ良いのです、人生こんなモンダ。

纏まり欠如な不要不急内容で失礼をいたしました。せっかくの4連休、満喫いたします。
こんな変わり者ではございますが、皆様また1年宜しくお願い申し上げます。

さて1歳年齢を重ねてからの最初の鑑賞は今年も新国立劇場バレエ団『竜宮」。第3公演目にまずは登板、25日昼のサムライ太郎の回でございます。
ああ、髷が似合うを超越して違和感皆無むしろ原作の時代を生き、桶に魚を入れて街中で運搬等々当時の生活感すら漂うお姿を愛でて参ります。




今年も作っていただきました、我が節目及び『竜宮』再演記念として浦島太郎円形菓子。今回は終盤の鶴への変身場面で、モデルは第三太郎でございます。
額の赤と凛とした目元を特徴として捉えて昨年と同じパティシエさんが作ってくださいました。
なぜかタニシとサザエもしぶとく居座っております。
そして鳥繋がりで移籍直前の2016年6月に踊られた『火の鳥』も観たいと欲や願望が止まらず。
カードは画伯な妹が描いてくれた、玉手箱にラッコの絵。


昨年の初演開幕前のインタビューリレーでは確か7月22日に登場され「侘び寂び」や「艶やか」等
美しい日本語が次々と飛び出す語りに耳も研ぎ澄まされ襟を正したい思いがいたしましたが
今年再演前のバレエ団公式インスタグラム(カーテンコールに撮影タイム有りの告知)投稿では海辺に登場場面でのサムライ太郎。
ふわっとした跳び方、温厚そうな眼差しに時代劇そのままな風貌もああ眼福です。しかも投稿日が「2021年7月21日」。記念として胸奥におさめました。

2021年7月21日水曜日

厳選動画

本日は文字数少なめ、短うございます。ご安心ください。
昨年の同日7月21日も似たテーマを綴っておりましたが2021年も記念にやります、心を揺さぶる胸に沁み入る動画選。
世代は違えど、ふう、男前でございます。王子貴公子以外の役ももっと観たいお二方です。
5月の『コッペリア』奇跡の共演実現は生涯忘れられぬ出来事でした。











2021年7月18日日曜日

フレディ崇拝者も満悦  ROCK BALLET WITH  QUEEN    7月8日(木)




7月8日(木)、新宿文化センターにてROCK BALLET WITH QUEENを観て参りました。
振付は新国立劇場バレエ団の福田圭吾さん、そして出演者にはバレエ団の枠を越えた実力あるダンサー達が集結です。
https://www.dancersweb.net/rock-ballet-2021

振付・出演:福田圭吾
出演:
秋元康臣
池本祥真
井澤駿
菊地研
長瀬直義
米沢唯
ピアノ:壷阪健登


とあるバーを舞台に、人生に疲弊した人々が集い衝突もしながらもクイーンの名曲に乗せて次々と踊りを繰り広げ
壷阪さんのピアノ演奏も加わって絡みエネルギーが一気に湧き上がっていきました。
紅一点の米沢さんは音楽の女神な役どころで、Killer Queenが流れる中を鋭いポワントワークで登場。カラフルなワンピースな衣装にボブのヘアが似合い色気たっぷり。
黒いトーンのバー内にて男一色の中に花がぱっと咲くように現れた印象で 三角関係における奪い合いの対象になったかと思えば
セクシーでアクロバティックなパ・ド・ドゥを披露したりとまさに女神な存在で舞台を彩っていました。
特に秋元さんとのパ・ド・ドゥはあっと驚かせるすり抜けるようなスリル感も満点。

一段と目を見張ったのは池本さんで、音楽がすっかり馴染んでいてちょっとした身体の傾け方と言い、力の掛かった曲調への反応と言い
フレディ・マーキュリーの声質、息継ぎの箇所とも調和した踊りを全身から放ち、クイーン偏愛者な身内も賛辞を送っておりました。
バーの雰囲気にひときわ自然と溶け込んでいたのは井澤さんと菊地さん。グラスを片手にやさぐれ気味な姿で感傷的に嗜む様子も違和感なく、
ジャックダニエルあたりを飲んでいたであろうと勝手に想像。少なくとも今夏8月末までは外では一杯ひっかける行為が不可能な東京都において
気分だけでも私もバーの客として、ウォッカ或いはウイスキーでも味わいつつ身を置いた心持ちで鑑賞です。飲み方は勿論「ロック」でございます。
長瀬さんの舞台姿は久々に観ましたが、どこか中性的で妖しいオーラを撒きつつ柔らかな踊りも健在。

福田さんは幕開けから暫くして、バーの主人として登場。後方のカウンター越しでシェイカーを扱ったり、注文を聞いたりと丁寧に接客。
そうこうするうちに壷阪さんも到着し、ピアノ演奏も披露しながらも時にはダンサーと絡んだり、展開から目が離せずにおりました。
終盤に差し掛かる頃の舞台転換にも工夫が光り、それまで後方にて見守って接客していたバーテンダーの独壇場と化し
Bicycle Raceが流れる中スタッフに手際良く指示して装置を袖に入れてもらい、ユーモアに富んだソロを披露。
そして袖に一旦入ったかと思ったら自転車に乗って舞台を走り、大喝采。しかも職場の業務用或いはママチャリな形の自転車で
それまで出現していたお洒落なバーとの落差も笑いを誘い、やがて大量のスモークが焚かれ晴れ間が差し込んでいよいよクライマックスへと突入したのでした。

私自身はクイーンの楽曲に詳しくは全くなくコンサートにも行っておらず映画『ボヘミアン・ラプソディー』も観ておらず
2006年にはベジャール振付の『バレエ・フォー・ライフ』を鑑賞しているにも拘らず未だに題名と中身が不一致状態な曲が多々あるものの、福田圭吾さん版は人間の燻った内面をも引き出しながらも
お洒落に格好良く刻んでいく振付演出で、クイーンの楽曲とバレエとの相性を再確認。
カーテンコールでのI Was Born To Love Youでは客電がついた客席から手拍子が鳴り止まぬ光景がいつまでも続く、肩肘張らずに楽しめた一夜で是非とも再演を願っております。

ところで、クイーン入門者な私はテレビ等で頻繁に流れる曲ぐらいか知らず。
しかし良作ばかり生み出していると思ったきっかけは、邪道かもしれませんが四半世紀ほど前に民放の歌番組で目にした
クイーンの曲の数々を直訳してメドレー仕立てで披露していた歌手?の「女王様」。繋げ方が上手いのか曲ごとの境界線が今一つ聴き取れず、思えばその数年後まで
Bicycle RaceとKiller Queenは曲調ががらりと変化するだけで同じ曲であると勘違いしていたほどの初級者以前のレベルでございました。
現在もBicycle Raceはじーてんしゃ、ボヘミアン・ラプソディー冒頭部分を聴くと母さんー、の文字が脳裏に浮かぶ管理人でございます。

またクイーンは時代を超えて愛されているとあちこちの記事や書物で目にいたしますが、確かに時代を問わないと感じ入ったのは
こちらも鑑賞者は多くないかもしれませんが映画『ロック・ユー!』。中世を舞台に騎士のトーナメントを描いた痛快作品で
要所でWe Will Rock Youが使用され、時には試合場の観客達が鼓舞のために一斉に歌い始めても中世時代の物語ながら違和感皆無で驚きを覚えた次第です。

余談ですが親族の約3名は誠にクイーン愛好家でございまして、レコードの所有や映画『ボヘミアン・ラプソディ』鑑賞は勿論のこと、
1名は2016年のアダム・ランバートを迎えた武道館公演、もう2名は1975年の武道館公演に足を運んでおります。
更に武道館公演に行ったうちの1名はロジャー・テイラー見たさで翌日羽田空港まで見送りに行ったらしく
周囲も半ば呆れる追っかけであったようです。報道カメラがいたか否かは分かりかねますが
あの昭和時代なる特集にてもしも当時の空港にて黄色い歓声を上げている熱狂者達の映像が流れましたら
その中に管理人の親族が映っていると思ってください笑。親族間でこの空港見送り話が出るたび笑いが起こってはいるものの
管理人も似た道を歩んでおり詳細は未だ内密を貫いておりますので黙るしかありません笑。

また我が家の事情ではございますが、公演当日は父の命日しかもちょうど10年。開演前ふと10年前の同時刻つまりは夜7時頃の出来事を思い起こすと
家族3人警察署に呼ばれて死因不明の父と対面し、数日後葬儀を終えてもまだ分からず、病死か事件性関連か判明まで時間をだいぶ要したものです。(結果前者でしたが)
思えばここ数年母と妹と私の3人が揃って同じ場所に出かけることなんぞ墓参りぐらいで他には滅多になく、このご時世なら尚更のこと。
しかし偶然が重なったのか、母と妹はクイーンとバレエの掛け合わせに、特に2008年のバレエ・フォー・ライフ東京公演を見逃し
急ぎでチケットを取って出向いたベジャール・バレエ団大阪フェスティバルホール公演が唯一の舞台鑑賞遠征経験であるフレディ・マーキュリー崇拝者な妹は
ロックバレエはどうしても行きたいと発売日にチケットを購入したほどで、私は振付家や出演者陣に引き寄せられて同じ公演に集い顔を合わせた日が
奇しくも父の命日10年の日であった巡り合わせに、きっと本人も喜んでいることでしょう。
いったいどなたにお礼を申せば良いのか。クイーンの音楽でバレエ公演を企画発案された主催のダンサーズサポート石渡さん、
洗練された舞台を振付演出しリハーサルから楽しさや幸せな空気を作りダンサーを配して魅力を引き出してくださった福田圭吾さんそして出演者スタッフの皆様、心より感謝申し上げます。
10年前を振り返りつつ、そしてこの舞台を天国のフレディにも見せたいと、クイーン熱烈オタクな母と妹が嬉々として口にしていた雨が降りしきる帰り道の光景を
未だ4人全員のメンバー名すら言えず使用楽曲の細かな話について行けぬクイーン入門者な管理人、忘れることは決してございません。




飄々と漕いでいらした福田さんを思い出す、Bicycle。ピリリと刺激が強い白ワインを自宅で乾杯です。作品の空気感にもぴったりな味わいでございます。
帰宅後プログラムを熟読していたところリハーサル写真、随分と良い撮り方をしているがプロを雇っているのかと家族が気になったようで
5月の配信プティ版『コッペリア』で初日と3日目にコッペリウスを踊られた中島駿野さんであると伝えたところ、多才な人であると感心しておりました。
加えて音源編集は福田さんの弟の紘也さんであると教えたところ、新国立の方々は皆本業以外にも得意分野があるのかと更に感心していたようです。

2021年7月16日金曜日

希望を灯すベジャールプログラム 東京バレエ団  HOPE JAPAN 2021 7月4日(日)




7月4日(日)、東京バレエ団HOPE JAPAN 2021を観て参りました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2021/hope/index.html


※キャストはホームページより

「ギリシャの踊り」
音楽:ミキス・テオドラキス
振付:モーリス・ベジャール

2人の若者:池本祥真、昂師吏功 
パ・ド・ドゥ:秋山瑛、大塚卓 
ハサピコ:上野水香、ブラウリオ・アルバレス 
ソロ:樋口祐輝

恐らくは2009年以来の鑑賞、そのときは中島周さんがソロであったかと記憶しております。
ギターの音楽も気に入り、女性のみであったか裸足とシューズ有り両方を駆使した、クラシックを基盤にしつつも
自由な爽快感が適度に交わり、もう一度観たいと願っていた作品です。
幕開けのブルーを背景にしたダンサー達のシルエットが神秘的で波打つ爽やかな音楽が気持ち良く
外は高湿度な大雨でもこの40分だけはカラッとした晴天のエーゲ海を眼前にした気分。
樋口さんが晴れやかで伸びやかなソロで舞台を引っ張ってポーズのメリハリや音楽への反応の良さも目を惹き
秋山さんと大塚さんの空間を大きく描き出す上手さも舌を巻きました。海を愛おしむように全員がひたすら踊り続けるフィナーレも壮観で、定期的に上演して欲しい作品です。



「舞楽」(1988年初演版)
音楽:黛敏郎
振付:モーリス・ベジャール

宮川新大 
伝田陽美、三雲友里加、鳥海創、後藤健太朗

若手時代の斎藤監督の写真がきっかけで知った作品で、共演者の中には勝又まゆみさんや森田雅順さんらが名を連ねていた時代。当時から早32年!?ようやく鑑賞です。
黛敏郎さんの重々しくも歯切れ良い音楽が粋に響き、伝田さんのシャープな力を放つ踊り、視線の運び方の強さにも驚嘆。
尚今回は1988年版上演のため、管理人が32年前の書物で目にしたアメリカンフットボール選手と巫女達の出演は無し。
当時のベジャールのインタビューを読むと中国の古い踊りである舞楽から巫女をイメージし、
アメフトを並べることで過去と未来、東洋と西洋の表現として取り入れた、また巫女とアメフトの形が似ているとも捉えているようですが
巨匠に物申すのは失礼とは承知の上で、似ているとは思えず。素人のぼやきは横に置き、次は全編上演希望です。
ところでベジャールはそのインタビューにて、あらゆるバレエ団がレパートリー入りしていくがゆえに作品の新鮮味を失わないため
前の10年間に『火の鳥』を上演禁止にしたり、(10年ぶりの復活の1本が1989年の東京バレエ団公演での公演となったもよう。
同時上演が舞楽とノイマイヤーの月に寄せる七つの俳句)
過去を引き摺りたくないと『ボレロ』と『春の祭典』も上演をやめていくつもりとも宣言。(私も解釈違いであったら失礼)
しかし現実には今も人気演目として上演され続けており、時代を問わず支持される作品であるのでしょう。そろそろ『火の鳥』も再演を切望いたします。



「ロミオとジュリエット」(パ・ド・ドゥ)
音楽:エクトル・ベルリオーズ
振付:モーリス・ベジャール

ジュリエット:足立真里亜
ロミオ:秋元康臣

東京バレエ団では38年ぶりの上演とのこと。パ・ド・ドゥのみならず若者たちの抗争に巻き込まれ翻弄される場面もあり、
綺麗な幸せだけにとどまらず短時間で喜怒哀楽の体現を求められる難作です。特に可愛らしい印象が先行していた足立さんの表現が胸打つ描写で
幸福から急降下して怒りや悲哀に包まれる流れを、衣装もお顔立ちもピュアな天使のような外見からは想像がつかぬパワーで舞台を支配。
秋元さんとのペアは初見で、滑らかなパートナーリングの中から恋する喜びと苦しみ、渇望を清らかに放出していた印象です。
なぜ38年も上演されずにいたのか不思議でございます。



「ボレロ」
音楽:モーリス・ラヴェル 
振付:モーリス・ベジャール
主演:柄本弾

東京バレエ団でのボレロはギエムと上野さんでずっと観てきており、男性ダンサーによるメロディは初鑑賞。
いたく丁寧に踊っていた印象でしたが、こればかりは個人の好みでまた私の鑑賞眼の乏しさが原因且つギエムと上野さんが刷り込まれているためでしょうが
もう少し身体が柔らかにしなるようなポーズを造形していくほうが目に迫るものがあったかもしれません。
群舞特にリードの4人の呼吸の間合いや刻々と押し寄せては沸き立つ音楽との一体感が宜しく、最後まで集中力切らさぬ緊迫感や鬩ぎ合いも高い満足度でした。

考えてみればオールベジャールプログラムながら爽快な作風から和の要素たっぷりなものまで作品の趣は実に様々。
久々の発掘作品もあり、これからも大事に上演を重ねて欲しいと願っております。
また今回は公演をHOPE JAPAN 2021として、バレエ団自体も度重なる公演中止や変更を余儀なくされながらも、観客の心に希望を灯す舞台を全国に展開。
また諸事情で舞台芸術に触れることが難しい状況にある人々を招待し、幅広い層にバレエを楽しむ機会を設けている姿勢にも敬意を表したい思いです。




帰り、単独でもふらりと入りやすくワインを呑めるお店を上野駅近くで探し入店。1人黙々と外で一杯呑めた時期がもはや懐かしい涙。
お通しのパンも塩気が効いていて(一切れはフォカッチャであると思う)美味しく、ワインが進みました。



メニューを見ると気になる名称、ギリシャのスパゲッティ。
一番小さいサイズを注文したが、どんぶりにびっくり。こりゃギリシャのラーメン笑。
魚介とガーリックが沁み込んでいて、これまたワインが進みました。



上野動物園では、双子のパンダの赤ちゃん誕生。すくすく育っているようです。シャンシャンはお姉さんに。

2021年7月15日木曜日

小道具てんこ盛り農園での楽しい騒動  牧阿佐美バレヱ団『リーズの結婚』 6月26日(土)昼




6月26日(土)昼、牧阿佐美バレヱ団『リーズの結婚』を観て参りました。2019年に続いての嬉しい再演です。
https://www.ambt.jp/pf-lafille2021/


リーズ:阿部裕恵
コーラス:清瀧千晴
シモーヌ:保坂アントン慶
トーマス:京當侑一籠
アラン:細野生
若いおんどり:中島哲也
めんどりたち:竹村しほり  上中穂香  村川梢子  加藤瑚子
リーズの友人たち:
【木靴の踊り】日髙有梨  佐藤かんな  三宅里奈  高橋万由梨
織山万梨子  米澤真弓  光永百花  今村のぞみ




前日のゲネプロ映像(中川郁さん組)



初役阿部さんのリーズはまろやかな可愛らしさが香る少女で、きびきびとした振付も品良く柔らか。
緊張からか、序盤の素早い脚捌きや上体の雄弁な捻りはあと一歩でしたが、持ち前の確かな技術で音楽と共に歌うような達者な踊りに終始目が離せず。
マイムも丁寧に語り、1人でコーラスとの結婚と子育て計画妄想の場における夢見がちな表情と子供を懸命に躾ける現実味双方を
往来しながらの表現は蕩けそうな愛らしさでした。
清瀧さんのコーラスは豊富な経験が土台にあって安定感抜群。農業従事の活気ある堂々とした登場やソロの軽やかさ、力強さもさることながら
初役の阿部さんをさりげなくされど頼もしいリードが好印象。後にも述べますが小道具を用いた仕掛けがてんこ盛りな作品で
失敗は許されまいと顔が強張ってもおかしくないほど高難度な扱いを求められるわけですが
1幕での2人きりでの全身を使い踊りながらのリボンあやとりや、同じく長いリボンを駆使してのコーラスが馬でリーズが御者?に扮するお馬さんごっこもお手の物。
阿部さんの表情が一瞬硬くなりがちな箇所でもささっと手を差し伸べて安心させ、楽しい戯れの作り上げに貢献です。
1幕の見せ場であるパ・ド・ドゥも、阿部さんが立ちやすい位置を察知し僅かに先回りして笑みを引き出しそれはそれは微笑ましい場面に。
また妄想姿が見つかり恥ずかしがるリーズに優しく近寄り、子供は10人!と両手で訴えていた箇所や、その後シモーヌに発見されぬよう隠れ場所を探す際の
棚の引き出しに身体を入れようと(ドラえもんか笑)奮闘する姿もツボでした。

保坂さんのシモーヌはさすがのベテランな芸達者ぶりで、愛娘を裕福なアランと結婚をさせようと走り回るお母さんを嫌味なく表現。
序盤、憎きコーラスに向かってのキャベツ投げから笑いが止まらずです。芝居も仰々しくなく
至って自然でやり過ぎずしかしぱっと明るく面白くなる舞台に繋げていらした印象です。
よく見ると、シモーヌはリーズとコーラス、アランとトーマスは勿論のこと、リーズの友人や農夫たち
後半では公証人など作品の殆どの人物と何かしら関わりがあり、皆の中枢な立ち位置。更には飛び込んでくるアランのトーマスと息を合わせての受け止めや
バター捏ねの指示に鍵隠しまで、次々に到来する忙しく細かな仕掛けを順調にこなさねばならず
ただ面白おかしい母親ではない大変な難役。作品を熟知しているからこその見事なまでの盤石且つ厚みある姿でした。木靴の踊りでは実にリズミカルな職人芸を披露。

リーズたちを見守り、作品をぐっと締めていたのはリーズの友人たちで皆で行うリボンでの図形作りもメリーゴーランドな広げ方も職人気質が光り、ベテラン勢が活躍。
中でも日髙さん三宅さんがリーダー格として率いていて、何処ぞの大会とは違って安心と安全と確約する気迫と示す行動が見るからに伝わる友人たちでした。
木靴の踊りでの靴音までもがぴたりと合う整い方にも見入った次第です。
2幕での、コーラスまさかの藁束から登場には把握している演出ながら毎度驚かされ
各自短い棒を手に輪になって農夫たちが踊る前であったか、仕事で持ち帰ったまとめて1箇所に置いたところにコーラスが隠れていて
下手な置き方をすれば藁束が倒れ、しかもすぐそばで集団で踊るとなれば尚のことリスクも大。
しかし皆置き方が上手いのでしょう、全く倒れずコーラスは潜んでリーズの結婚生活妄想姿をこっそり観察です笑。

細野さんはリーズへの恋に夢中なアランをほろ苦い風味も交えたタッチで踊り、描き方が難しい役ながら魅力を振り撒き惹きつけるキャラクターとして存在。
特にリーズとコーラスの結婚式が執り行われ皆が解散し静まり返ったリーズの家に傘の忘れ物を取りに来たときの
笑みを浮かべつつも残して行くほんのり悲しい余韻は忘れられません。時代を経て表現も変化しているのか
アランに対して人々が嘲笑しているようには決して見えず配慮した描写になっていたと捉えております。
幕開けからニワトリさんたちの朝の舞いにも目が更に覚めた思いで、パタパタとした羽ばたきや歩き方もダイナミック。
最後は皆が幸せな幕切れで、相思相愛の2人の結婚を認めるようシモーヌに優しく促す公証人塚田さんの仕切り具合も味わいがあり、
大団円の中でシモーヌにも花を持たせようと再度木靴の踊り披露の場をすぐさま設ける周囲の気配りにも安堵。
また全編通して感情の起伏をコミカルに時にしんみりと心擽る音楽にも聴き入り、また観たいと思わせる作品です。
初鑑賞の2006年はゆうぽうと、2度目の2019年は文京シビックが会場でしたが、今回の新国立劇場中劇場が2階席でも舞台に近く
群舞も堪能しつつ装置や小道具も見易い、箱のサイズも程よいと思わせました。

ところで辿ればこの作品の初演は全幕バレエの中ではp古いようですが、(1789年7月1日と書かれていて、そうなるとフランス革命の頃!?)
ロシアでの呼ばれ方『無益な用心』由来や、しばしば発表会で目にするグラン・パ・ド・ドゥ(リーズが手を叩くヴァリエーションがある構成)との関係等
知らぬことが多々あり。ロシアではクラシックチュチュで踊る場面もあったか。
『無益な用心』ならば題名を目にしたのはアシュトン版よりも先で、寺田宜弘さんがキエフ・バレエ学校留中かバレエ団入団間もない頃だったか
木靴の踊りの写真で見た記憶あり。用心の文字に時代劇のような題名にも思え、いったい何の話であろうかと疑問を抱いたのはよく覚えております。
それはともかくこの度も登場『バレエ101物語』での薄井憲二さんの解説が最も詳細に感じますが
公演の無料プログラムにも記載があったかもしれず、初演からの音楽や改訂の変遷について整理をして参りたいと思っております。




鑑賞前に和食、自家農園のお野菜たっぷりです。この後はフランスの農園へ。



牧バレエの無料配布パンフレットはオールカラーで作品解説やばバレエ 団初演時の様子も詳しく案内。無料とは思えぬ充実した内容です。
帰宅後はニワトリさんのワインで乾杯。名前は勝手にコッコちゃん。ニワトリはコッコ、
アシュトン繋がりで『二羽の鳩』初鑑賞時の1993年小林紀子バレエシアター公演では
白い鳩たちを勝手に鳩ポッポと呼び、28年経っても我が名付けセンスの無さは不変でございます。

2021年7月13日火曜日

映画『シンプルな情熱』




Bunkamuraル・シネマにて、『シンプルな情熱』を観て参りました。セルゲイ・ポルーニンがロシア大使館の要人警護を務めるアレクサンドルを演じています。
http://www.cetera.co.jp/passion/


只今公開中作品のためこれからご覧になる方も多いと思われ、詳細内容は控えめにいたしますが
R指定がなされているだけあって序盤から露骨な性描写が続き、ポルーニンのタトゥーの種類の豊富さに目が点になりかけたものの(失礼)
大学の教壇に立って文学を教え研究する仕事や友人関係も充実なシングルマザーのエレーヌが
恋に溺れ、手堅い生活を律することができず壊れていくさまや苦悩を静か且つ大胆に描いています。1人息子ポールが母親に対して疑念を抱いていく様子も
感性の鋭さが描写され、親が思う以上に子は親の背中を見ていてエレーヌの異変に気づくのも早し。
親子間に確執も生じますが何時の間にか丸く収まっていて、その辺りはもう少し丁寧に綴って欲しかった気もいたします。

バレエ映画ではない作品に出演するポルーニンは初見で、エレーヌが没入していく気まぐれで危うい、どこか陰のある男性をまずまず好演。
尚ポルーニンの責任ではありませんが、アレクサンドルの心情にそこまで焦点が当てられておらず、ポルーニンの裸体崇拝映画にも見て取れる演出に思えてしまいました。
私の感受性や鑑賞眼の乏しさが一因ではありますがチラシなどに記された史上最高に美しく官能的、とは私個人としては思えずでございます。

ポルーニンが出演した映画では2018年の東京国際映画祭で観たヌレエフの伝記映画『ホワイト・クロウ』でのソロヴィヨフの鬱屈した雰囲気の体現が上手く、少ない出番ながら印象に残り
同年12月に公開されたディズニー版『くるみ割り人形』にも出演していたもののこちらは本当に出番が少なくそして印象に残らず(失礼)、
どんな役であったかすら思い出せずにおります。ミスティ・コープランドに比較すると僅かな出演時間でございました。
ディズニー映画は決して私の好みな分野ではないながら、作品よりも試写をご覧になった某ダンサーによる解説文におけるあらゆる要素を網羅した余りの詳しさや
1回しか観ただけとは到底思えぬ記憶力の良さのほうが印象先行となり、結果として鑑賞の手助けとなったのは今もよく覚えております。
今回の公開記念として2017年に話題となった『セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』も再上映されていますがこちらもまだ観ておらず。
4年前はメディアでも取り上げられる機会が多くあったのか、バレエ好きでない方からも作品について尋ねられたり、
「優雅な野獣」とは意味が矛盾する気もするが美を備えた野獣なんぞ存在するのかとのご質問もあり。
存在しますが但し南仏のバレエ団制作のDVDに限るとまた話が蛇行しそうになって喉元で引っ込めた4年前の公開期間中でございましたがそれはさておき
今回ポルーニンは一切踊ってはいませんが、パリのみならずフィレンツェ、モスクワにも跨る物語で海外周遊の気分も味わえるかもしれません。
尚、管理人はモスクワのトヴェルスカヤ通りの映像に胸躍り、赤の広場すくそばの大通りの賑わいの懐かしさが沸き立った次第です。





ちょうどBunkamuraにてパリ祭開催中。



終映後、気分はパリの人間。管理人が似合わぬカフェにてタルトタタンと白ワインで乾杯。シャンパンにも合うとメニューに書かれていましたが
ちょいとお値段が張り、またシャンパンは5月から先月半ばにかけて自宅にてボトルで飲む機会が多く、白ワインを選択。
りんごをたっぷり使ったタルトに芳しく爽やかな喉越しのブルゴーニュ産白ワイン、よく合いました。
パリ祭の一環で、幸運にもアコーディオンとヴァイオリンの生演奏時間帯に居合わせ
ここはパリかと錯覚。海外渡航がまだ困難なご時世、嬉しいひとときでした。

2021年7月9日金曜日

オリジナル大作で挑んだ井脇幸江舞踊生活35周年記念公演『トスカ』 同時上演『Mozartiana』『サタネラ』  6月19日(土)20日(日)




6月19日(土)と20日(日)、新宿文化センターにて井脇幸江舞踊生活35周年記念公演『トスカ』同時上演『Mozartiana』『サタネラ』を観て参りました。
https://ibc.yukie.net/schedule.html#more

スパイスイープラスでのインタビュー。『トスカ』制作経緯や『サタネラ』奥田さんへの注目ぶりについても語ってくださっている濃い内容です。
https://spice.eplus.jp/articles/287099


※キャスト等はホームページより抜粋

バレエコンサート
『Mozartiana』
振付:石井竜一
<音楽>チャイコフスキー
プリンシパル…梅澤絋貴・髙橋ナナ(19日)/戸塚彩雪(20日)
セミ・プリンシパル…工藤加奈子
男性ソリスト…愛澤佑樹、森田維央、藤島光太、井上良太
第1ソリスト…立山澄/真鍋歩、藤田瑠美、戸塚彩雪/髙橋ナナ
第2ソリスト…真鍋歩/立山澄、山田琴音、長野ななみ
コールド…松島愛、山田萌奈美、小林汀、矢内七重


役柄ごとに異なる色彩の衣装を纏ったダンサー達が次々と登場し、端正に幕開け。
モーツァルトの音楽への敬意を込めた作風らしく、チャイコフスキーにしては劇的抑揚が抑え目です。
一部女性コール・ドの頭飾りや配色が『ラ・バヤデール』を少し彷彿とさせつつも、きびきびと呼吸の合う踊りで歯切れ良さがあり、
特に2日目のプリンシパル戸塚さんの優雅な軽やかさは目を惹きました。 実は何週間も経過した現在も後半部分の音楽が頻繁に脳内旋回中です。
この曲を用いたバレエはこれまで2度観ており、直近では2017年3月のアナニアシヴィリのガラにて、
座長と同郷出身であるバランシンの振付。女性は長い裾のチュチュで、振付に面白味があったか否かはさておき、故郷のダンサー達が踊る光景を観られたのは幸運。
もう1回は28年前の小林紀子バレエシアターにて、英国人振付家マイケル・コーダーによるもので、クラシカルな作風であったのは覚えているのだが
いかんせん同時上演作品で、前年が日本のバレエ団としては初演であった『二羽の鳩』の衝撃たるや、本物の鳩と共に記憶も飛翔していった次第。
モーツァルティアーナをご覧になった方、いらっしゃいましたらお教え願います。若かりし頃の森田健太郎さんもご出演でした。



『サタネラ』よりグラン・パ・ド・ドゥ
奥田 花純・渡邊 峻郁


本拠地では組んでいない初組み合わせの新国立劇場バレエ団のお2人。奥田さんの華やぐ職人芸と渡邊さんのにこやかで時折覗く純朴な魅力が作品に合い、
晴れやかされど単調系音楽(プーニよ、すまぬ)でも愉しい会話のように響いてニンマリ、終始口角下がらずでした。
2日目は更にこなれて花開き、芯は盤石ながら音楽の余韻に至る迄四肢を柔らかに操る奥田さん、
サポート時も屈託ない笑み零れる渡邊さんが悪魔な娘に首っ丈な物語(解釈違っていたら失礼)を構築です。
とにもかくにも渡邊さんが前週金曜日の、婚約者を連れ去ろうとした恋敵に対して鬼の如き形相で立ち向かい手袋を叩きつけて決闘に挑んでいた
全身から怒りの炎充満なジャン・ド・ブリエンヌと同一人物にはとても思えず。目上の男性に対して失礼な表現と重々承知の上で申すならば実に可愛らしいのです。
登場時の上手側の幕からちょこんと顔を覗かせる箇所から恋い焦がれる女性を浮き浮きした心持ちで探す気満々な表情に笑ってしまうほどで
アントレ直後で奥田さんから仮面を外すところでのドキドキと胸の鼓動が伝わり、外したあとの逸る気持ちを必死に抑えながらの興奮ぶりや
最後脚をむぎゅっと両手で抱き掴む決めポーズも、青年どころかもはや朴訥とした少年でございました。

初日は2階、翌日は1階前方で鑑賞しておりましたが、金曜日のジャンと同一人物とは何度も考えても一致せず。それだけ役への入り込みが深かったからこそでしょう。
ひたすらズンチャッチャ曲調で跳躍続きである音楽と振付双方メリハリにも欠けるヴァリエーションにおいても
恋する青年の高揚する様子を表出され、ほんの僅かな音楽の変化にも機敏な反応を魅せてくださいました。
そして初ペアとは思えぬそして作品の世界観にもぴったり。ふと思ったが、発表会で目にする頻度が高く
そうなると中高生くらいの生徒さんとプロの男性ダンサーによる舞台が圧倒的多数。勿論微笑ましい晴れ姿に感激しておりましたが
しかし今回年上、先輩女性ダンサーと若き後輩男性ダンサーの組み合わせで観て膝を打ち
艶やかな美女と恋に盲目状態にある初心な青年なる絵に、後者のほうがしっくり。奥田さんの紺地に細かな刺繍や装飾がなされたお洒落なチュチュと
渡邊さんのサタネラ男性には珍しい上下白に紫色ベストの調和も宜しく、もう第1部終了時点でチケット代の元が取れてしまった気分。
特に男性はヴァリエーションも含めて音楽も振付も単調で物語として魅せることが難しい『サタネラ』への意識が覆されたのでした。
実は似た図式の同作品を今月末に鑑賞予定のため、俄然楽しみが増しております。

さて、新宿文化センターでもやります髪型考察。今回も丸、ですが疑問符もあり。やや明るさを帯びた色合いでしたが
照明の具合なのかより茶色が増していた印象。分け目や整え方は自然で前週に続き好印象でございます。

前述の通りガラや発表会での上演は大変多く、これまで何度も観ているパ・ド・ドゥですが心底浮き立ったのは約12年ぶり。
12年前とは何ぞやかと申せば、数週間前まで報道映像で見ない日はなかった、現在大阪府の大規模接種会場である大阪国際展示場内のグランキューブ大阪で開催された
夏の風物詩MRBスーパーガラ2009にて、法村珠里さんと山本隆之さんが踊られた舞台で、
ゴージャス美女といつもとは打って変わって能天気青年なお2人の美の連なりでございました。またもや干支一回りの法則が当て嵌まり、恐ろしや。
初日の帰宅後、届いていた新国立劇場会報誌が視界に入った途端巡り合わせに再度驚かされた次第です。(詳細は6月22日記事参照)
尚MRBスーパーガラは大阪国際展示場が接種会場となった関係で急遽会場変更を余儀なくされ、メルパルク新大阪にて今年は開催。
昨年中止からの延期、会場変更と困難を経ての開催で、成功を祈願いたします。

ところでこの作品、あらゆる中で何年も前から調べても内容や振付経緯が未だ整理がつかず分からず。
悪魔、ヴェニスの謝肉祭、プーニ、辺りが鍵のようだが綺麗に繋がらず、ヴァイオリニストのパガニーニがヴェニスの謝肉祭を弾く光景も入った映画も7年前に観たが
つい先日自宅に所有していると思い出したCDの解説書が最も簡潔な説明であるかもしれません。



『トスカ』 全2幕
振付・演出:高橋竜太 音楽監修:井田勝大
<音楽>プッチーニ
トスカ…井脇幸江
カヴァラドッシ…安村圭太
スカルピア…高岸直樹
アンジェロッティ…梅澤絋貴
堂守…江本拓



今回のために書き下ろされたオリジナル新作。オペラ素人入門者にも分かりやすい筋運び、演出でした。
新国立劇場オペラ公演『トスカ』のあらすじを読むと、1800年6月17日の物語だそうで、ちょうど221年が経っての同時期にあたる公演日程であったようです。
来年再演が決定しているためあまり詳しく明かし過ぎないほうが良いかもしれず、ざっくりと綴って参ります。
井脇さんのトスカは情熱を秘めた歌姫で、ワインレッド色のドレス衣装を纏った姿も美しく気高い女性。
カヴァラドッシに会えたときめきからスカルピアとの緊迫した攻防、覚悟を決めた最期に至るまで壮絶な生き様を描いていらっしゃいました。
安村さんのカヴァラドッシ純粋でひたむき、心優しい画家で、トスカとに戯れもほんわか優しい調べが彩り
だからこそ中盤にて拷問を受ける姿がそれはそれは痛々しく目を背けたくなる哀れぶり。
クラシックよりもむしろ野暮ったい(失礼)訳ありな役の方が似合い命からがら脱獄してきた悲壮感と再会の幸福の入り混じりバランスも
丁度良い塩梅であった梅澤さんにも驚かされ、そして高岸さんのスカルピア毒々しさは実に壮烈で
トスカに迫る姿の嫌らしいこと。(褒め言葉です)登場した瞬間から空気をがらっと染め上げるオーラや
相変わらずのすらっとした体躯、そして技術に衰えどころか若返り傾向すら感じさせる機敏な踊り方も見事なもの。
単なる悪役にとどまらず、厚みを加えてくださっていました。尚、強い眼力や濃く雄々しいお顔立ちから
管理人の脳内では『風と共に去りぬ』レッド・バトラーが時折過っていきました。
目を見張ったのは江本さんの堂守。物語の展開の急所で鍵を握る人物として場面と場面の橋渡しな役割を
時にシリアスに、時に滑稽に俊敏なソロでも魅せながらいざなってくださり
身のこなしが軽やかで引き締まった体型も不変、これからも長く踊って欲しいダンサーの1人です。

現代の美術館からタイムスリップする導入部はなかなか良く、現代と言っても某団のお蔵入り『くるみ割り人形』と違って東京都庁が出てくるわけでもなく
あくまで美術館の館内や鑑賞する客、警備員、と芸術空間に身を置いた気分になり、ここからいかにして1800年のローマへと移るのか想像を掻き立てる演出でした。
IBCダンサー達が踊る美術館にやってきた人々の弾むような踊りには青春を謳歌する若人達の心が解放されたような爽快感があり
1800年のローマへ移ってからももっと活躍の場面、振付があれば尚舞踊としての全体の見応えに繋がったかと思われます。

初日と2日目と全く異なる席で鑑賞し、2階席で観た初日は普段オペラは殆んど観ていない私が初『トスカ』であったこともあり
正直なところ少人数の芝居中心部分において分かりづらかった箇所もありましたが2日目に上手側前方で鑑賞すると見え方伝わり方が当たり前ですが大違いで
中でもトスカの願望とスカルピアの野望がぶつかりやがてトスカが刺殺に手をかける場面は、背筋までもが震えを覚える緊迫最高潮場面。
激情に駆られた曲調と合わさって目と耳を突く展開で、同時に小道具の凝り方も思わず観察し、スカルピアのつまみまで気づけば覗き込んでおりました。
芝居の割合が多めでしたので、更にパ・ド・ドゥによる膨らみがあれば一段と引き込まれた気もいたします。
サンタンジェロ城の堅固な装置やトスカ達の愛憎劇を見守る、Nao Morigoさん製作の艶めかしくも美しい大きなマグダラのマリアの絵もオリジナル大作に相応しい迫力でした。

オペラド素人からしても、プッチーニの音楽は甘美で劇的抑揚に富んだ印象が強く聴き応えもありながら
Kバレエカンパニーが2019年に初演した『マダム・バタフライ』を思い出し、オペラ音楽のバレエ用アレンジは難しいと再度考えた次第。
音楽監修は『マダム・バタフライ』と同じく指揮者の井田さんで、2019年5月バレエカレッジでのオペラとバレエ音楽についての講座にて、
音楽の骨格がしっかりとしている『カルメン』と比べてプッチーニは歌ありきなため編曲作業は楽しくも難しいと
Kバレエ『マダム・バタフライ』開幕に向けたエピソードとして紹介なさっていて、そうなると歌無しでも自然と音楽が耳に入ってくる『カルメン』と違って
『トスカ』での重要局面では歌声付きアリアを挿入しての工夫にも納得。ただやや唐突な印象も否めず、演出の難度の高さを考えさせられました。
あれやこれや綴ってしまいましたが、『トスカ』の音楽に興味を持ったのは確かで、ほぼ全編聴くのは初であっても2日間鑑賞すれば所々耳に残り
後日オペラでの描き方を確認しようとメトロポリタン劇場での映像を観てしまったほど。
これまで『トスカ』の音楽は思えばソルトレイク五輪フィギュアスケートでのイリーナ・スルツカヤの滑りで聴いたぐらいであったと記憶
オペラではNHKで放送のガラコンサートでしか耳にしていないかもしれません。
数ある舞台ジャンルの中でもオペラは苦手分野の1つで、決して食わず嫌いではなく、今までに『コジ・ファン・トゥッテ』、『イドメネオ』、『運命の力』、
『蝶々夫人』、『道化師』、『アイーダ』など主に新国立劇場公演にて5回は鑑賞。
『アイーダ』は一度は観てみたいと思っていた凱旋行進曲での有無を言わせぬ黄金色に覆われた絢爛豪華な人海戦術に圧倒され楽しみましたが、
以降は「余程」の理由が無ければ観に行かず、足を運んだのは1回のみ。 2019年3月の藤原歌劇団『椿姫』で(当時の感想はこちら)
約10分のバレエ場面のために2日間通いましたが、明解な話の展開や美術衣装が品良く華麗でバレエ以外の場面も満喫でき
せっかくオペラの音楽に関心が再び高まった今回の『トスカ』を機に、また何かしらは観てみようと思っております。

プログラムは今回も中身大充実で、井脇さんの舞踊人生振り返りやイタリア旅行した際の写真も掲載した『トスカ』構想の経緯、リハーサル写真や
出演者へのインタビューまで盛りだくさんな内容。お城の前での井脇さんの立ち姿が颯爽として惚れ惚れし
現地のワインや美味しそうなお料理の写真には思わずお腹が鳴りそうになりました。(食いしん坊の管理人笑)

後日に井脇さんと高橋さんの対談を視聴し、(井脇さんのインスタグラムにまだ残っているかと思います)
高橋さんの振付ノートには人間のイラストではなく台詞が記されていた振付作業の裏話や
東京バレエ団時代にお2人が経験された、新作を振り付ける際のノイマイヤーとベジャールの違い
また後輩の高橋さんが先輩の井脇さんとどう打ち解けたか、『ザ・カブキ』南米公演話まで面白いお話たっぷり。
そういえば15年か20年ほど前のダンスマガジンにて、私達のバレエ団の紹介なる記事にて井脇さん、高岸さん、木村和夫さんが登場したインタビューで
井脇さん曰く、入団した頃は先輩と気軽に話せるような雰囲気ではなかったため(別書籍での前田香絵さんの記事によれば
前田さんが入団された1960年代後半頃は非常に厳格な団員教育の環境だったようで
井脇さんの入団時は既に約20年経っていたとはいえ当時の名残がまだ少なからずあったかと想像)
今は自分から積極的に後輩達に話しかけることを心がけていると仰っていました。
当時からの周囲への分け隔てない気遣い、優しさもまた現在に繋がって自身のカンパニー設立後も精力的な活動の実現に至っていると感じられる記事です。

群舞付きのクラシック、グラン・パ・ド・ドゥ、そしてオリジナル大作と珍しい構成且つ井脇さんの舞踊生活35周年を飾るに相応しい公演でした。
団員の指導から公演企画、ご自身の鍛錬、と総監督としての仕事は毎日がめまぐるしいことと察し
長年踊り続けて更にはコロナ禍においての公演の継続も井脇さんに並々ならぬ力が備わっているからこそでしょう。
来年の『トスカ』の再演、改訂含め心待ちにしております。




小林紀子バレエシアターで1993年に上演された『モーツァルティアーナ』公演チラシ。ううむ、観たはずだが思い出せぬ。
脳を過るのは1992年に日本のバレエ団として初演を果たし、2年連続上演となった『二羽の鳩』における
極悪人な(褒め言葉)塩月さんのジプシー頭領と、鳩を肩にのせて改心しながら帰宅した志村さんの爽やか少年。
https://ballet-archive.tosei-showa-music.ac.jp/stages/view/7872



新宿駅と会場最寄駅の新宿三丁目駅間の地下通路を歩いて移動する途中にある、ヴェネツィア料理店にて1人静かにノンアルコール赤ワインで乾杯。
6月20日までは緊急事態宣言のため酒類提供ができない中、どこのお店も工夫を凝らして対応。呑んだ気分になれました。(そしてまた発出)
ふと思ったがこのお店、前回2019年9月のIBCガラ帰りに友人と立ち寄り、スタンディングバーのエリアを利用したのでした。
いかにもバルらしい賑やかさでワインや料理のメニューも手頃且つ美味しかったのだが、当分は難しい営業形態なのかもしれません。



あらゆる作品の中で何年も前から調べても調べても内容や振付経緯が未だ分からずであるサタネラ。
悪魔、ヴェニスの謝肉祭、プーニ、辺りがキーワードだが結局何やねんと思いつつ魚介のパスタでヴェネツィア気分。
イタリアを1人旅した身内によれば、12月末のヴェネツィアは凍るような寒さでゴンドラどころではなかったそうですが、予約済であったため乗船はしたとのこと。
八代亜紀の舟唄、ではなく(ぬる燗もあぶったイカも管理人の好物)
オッフェンバック作曲のホフマンの舟歌
(少数派だがダレル振付のバレエ版ホフマン物語、曲も振付も好きでございます)を
口ずさんだか念のため尋ねたがそんな余裕あるわけないと即答。
空港への移動で立ち寄った温暖なローマとは気候が大違いだったそうです。



『サタネラ』も収録されたCD。作品の成り立ちについて、結局この解説書が一番簡潔。ガラや発表会で様々なグラン・パ・ド・ドゥを観るようになって音楽にも興味を持ち
しかし図書館にはまず無いため、また生で観る鮮烈な感激を失わないためにも動画サイトは極力視聴しない派であったためこの手のCDは4枚購入し所有しております。
勿論踊れませんが、何度も観ておりますので振付や衣装はぱっと目に浮かび、ある方とも数ヶ月前に話題になった「妄想バレエ」ならば金賞獲る自信満々です笑。
ただこのCDの表紙にもなっている『タリスマン』、女性ヴァリエーションの後半部分は
仮に真似事であっても私がやるとクルクルパーにしか見えぬ、一段と知性無きソロと化すのは目に見えております。



初めて井脇さんを拝見したのは、恐らくは2001年の東京バレエ団シルヴィ・ギエムとの全国ツアーでの『春の祭典』。
とにかく音楽の難解さにたまげましたが、写真では度々目にしていた一斉に身体を反らしたり、
両手を掲げた儀礼ポーズに圧倒された覚えは今も残っております。 そして男性コール・ド写真の高橋竜太さんがまだあどけない印象。
まさか大先輩である井脇さんに振付作品を手掛ける方になられるとは、将来は分からないものです。
改訂前の、レトロな衣装特にロットバルトのアップリケが名物(迷物⁉)であった『白鳥の湖』でも
井脇さんのスペインが登場すると空気が突如締まって洗練された香りが漂っていたと記憶。



初台駅の新国立劇場方面通路に貼られていたポスター。通るたびに渡邊さんの鋭くも力ある眼差しの磁力に引き寄せられ通過しようとするも
数歩戻って凝視、をのべ5回は行っておりました。つまり『ライモンダ』に向かう5回公演全ての往路、素通りなんぞさせぬ見返り美男でございます。

2021年7月4日日曜日

【短文記事】【何だかんだ役に立つ】バレエ101物語





今回は大変短い記事です。ご安心ください。
調べたい事柄が発生すれば機械音痴で人生の諸先輩方よりもスマートフォンの操作が時々危うい私もインターネットでまずは検索する時代となりましたが
今でも書籍で調べる機会は多々あり。また購入せずに借りて済ませる習慣である私にとって図書館は大助かりな場所です。
つい最近も重宝すると再確認した書籍があり、こちらでございます。

https://www.shinshokan.co.jp/book/b567817.html


上記の『白鳥の湖』湖畔写真表紙のほうは初版で、現在新書館で取り扱いは既に終了したと思われ1998年の新装版のみかもしれません。


在住地域の図書館で取り扱いのある初版しか読んでおらずですが発売が1992年。かれこれ30年近く前で近年初演作品は載ってはいないものの
作品で知りたいことがあればすぐさま頼りにし、今も尚活用しております。
図書館入荷は1994年頃だったか、以降は30回近くは借りており、ひょっとしたら地域で貸出回数最多利用者かもしれません。

特に重宝した時期はABT来日公演記事をきっかけに知り『マノン』に関心を寄せた1996年。
バレエに興味を持ち鑑賞するようになって早7年近く経った頃で、『マノン』を知ったのは非常に遅かったのです。
来日公演では『白鳥の湖』も上演されましたが、ジャフィ、マッケロー、アナニアシヴィリらのインタビューの大半はマノンの話題であったため一段と関心を抱いたのでした。
ところが、記事を読んでからすぐに図書館へ向かい101物語を開いたものの、何の話だかさっぱり頭に入らず。
四半世紀が経った今も覚えております、解説文の中に記されていた「高級女郎」とは「いかさま」とは何ぞやなどと
閲覧席にて首を左右交互に傾げ続け、国語辞典も取りに行った25年前当時の管理人でございます。
執筆者はケイコ・キーンさんで、吉田都現新国立劇場舞踊部門芸術監督が英国ロイヤル・バレエ学校卒業公演でのフロリナ王女写真が掲載された書籍にて
生徒時代の吉田さんについて詳細に書いていらした方であるとすぐ思い出し、『マノン』についても
キーンさんが分かりやすく解説してくださっているのであろうと感じつつも我が理解力及び知識教養の乏しさに肩を落としたものです。
そして当時から思考回路の速度が遅い上に蛇行しやすかったのか、五十音順に記載された目次にふと目を向けると『マノン』はあるにも拘らず
吉田監督がマチルダ・クシェシンスカヤ役を踊られ、なかなか厳しい批評が並んでいた記事に驚き『マノン』と同時期に知った
同じくマクミラン振付作品『アナスタシア』が載っていない点に疑問も生じ、結局何を調べに来たのか目的未達成のままであった、初『バレエ101物語』活用ございました。

話を戻します。この後にもバレエガイド関連本は多数出版されていますが3桁台に及ぶ作品を一挙掲載した書籍はそうそう無いと思われ、今後も重宝しそうです。
何しろ『青汽車』や『巨匠とマルガリータ』、フォーキン版の『クレオパトラ』も掲載しています。

つい昨日も、2週間前に舞踊生活35周年記念公演『トスカ』を踊られた、東京バレエ団で長らく活躍され
現在はご自身のカンパニーの芸術監督を務めていらっしゃる井脇幸江さんと、井脇さんの後輩で『トスカ』振付演出を手がけられた高橋竜太さんの対談を視聴する中で
ベジャール作品やノイマイヤー作品で東京バレエ団に振り付けられた作品が話題に上った際にも、再演は鑑賞していながらうろ覚えな箇所もあり
もう貸出何度目か分からぬちょうど借りてきたばかりのこの書籍を開きながら聞き入っておりました。

ところで初活用から早25年、今回借りてきた目的であった『ヴェニスの謝肉祭』は載っておらず。
インターネットで調べて色々出ては勿論くるもののどうにもこうにも綺麗に繋がらず、書籍にしっかりと纏められたページがあればと思い借りましたがございませんでした。
※恋する悪魔、で載っていたか⁈後ほど確認だ。
全く踊れぬにも拘らず4枚も所有しているグラン・パ・ド・ドゥ集のCDにも収録されておらず。
そうかと思っていたら一番奥にしまい込んでいたロシアものパ・ド・ドゥ集CDに発見!
その話を含む井脇さん舞踊生活35周年記念公演『トスカ』公演についてはまた後日。

2021年6月30日水曜日

12年ぶりの全幕帰還マントでジャン!! 新国立劇場バレエ団『ライモンダ』6月5日(土)〜13日(日)




6月5日(土)〜13日(日)、新国立劇場バレエ団 牧阿佐美版『ライモンダ』を計5回観て参りました。牧版の全幕上演は干支ひと回り、12年ぶりです。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/raymonda/

劇場ホームページには初日の舞台写真が掲載されています。 https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_020354.html

各メディアにも続々記事が掲載されています。是非ご覧ください。
2日目公演レポート。
https://www.sankei.com/article/20210610-7A7FO4XVEZPVPCM5D2CJPSJSCA/

3日目公演レポート。ジャンが天晴れ男前でございます(心臓印)
https://www.lvtimes.net/culture/10311/






大多数であろう、上記その他、既に発信されているプロアマ問わず優れた執筆内容に高い満足を得られた方はここまでありがとうございました。
次回更新予定記事である週末旅券持たず電車1本で伊太利亜周遊2日間記事或いは場繋ぎ短文記事までお待ちいただき、限りある時間を有効にお使いください。
「気力」と「忍耐力」に確固たる自信のある方は以下どうぞ。また、途中で疲れましたら、長さに耐えられず体調が思わしくないとお感じになりましたら
検温して37.5度以下であっても休憩或いは翌日以降に持ち越し、または諦めも推奨いたします。
ただ言いたい放題な表記もばらつきがあり、妄想空想想像をも並べた纏まり欠如の長文新記録感想となってしまい
人口が多い在住区の成人式と同様3分割にすれば良かったかと今となって後悔。




※キャスト詳細はのちほど。記事内容は速報でもない速報と重なる部分もございますが悪しからず。
ライモンダ:米沢唯(5日、13日) 小野絢子(6日) 柴山紗帆(11日) 木村優里(12日)
ジャン・ド・ブリエンヌ:福岡雄大(5日、13日) 奥村康祐(6日) 渡邊峻郁(11日) 井澤駿(12日)
アブデラクマン:中家正博(5日、6日、13日) 速水渉悟(11日、12日)
ドリ伯爵夫人:本島美和 アンドリュー2世王:貝川鐵夫
クレメンス:細田千晶(5日、6日、13日) 廣川みくり(11日、12日)
ヘンリエット:池田理沙子(5日、6日、13日) 五月女遥(11日、12日)
ベランジェ:木下嘉人(5日、6日、13日) 浜崎恵二朗(11日、12日)
ベルナール:速水渉悟(5日、6日、13日) 中島瑞生(11日、12日)



※牧阿佐美版『ライモンダ』は17年前(2004年初演)の新国立バレエ初鑑賞時の作品で、翌年明けの酒井さんと山本さんの『白鳥の湖』が
本腰入れて観に行く決意となりましたがその前の、通い詰め原点とも言える作品です。
また非常に思い入れの強い作品で、十字軍のような過酷行軍では全くないものの夜行バスも初体験であった人生初のバレエ鑑賞遠征(2006年10月大阪公演)、
舞台稽古見学会初当選も(2006年パヴレンコさん/コルスンツェフさん/山本さん)、海外での初全幕鑑賞も(2008年ワシントンD.C.)、
劇場ツアー初体験も(ワシントンD.C.公演時で会場のケネディセンターが土日中心に定期的開催。
予約不要で参加可能でした。日本人参加者は私1人でしたが多国籍な7、8人程度のグループで和気藹々。参加日がライモンダ初日で、夢の場の背景がある状態でした)
海上保安業務で使用しそうないたく大きな双眼鏡をお持ちのお客様がこれまでに1回だけ隣席にいらしたのも牧版『ライモンダ』(2006年パヴレンコさん日)。
つまり、我が鑑賞人生における新たな道開き及び珍体験に関わっている記念碑な作品であり
思い入れを強くしないほうが困難であり、従って今回はたいそう長うございます。罰としてアブデラクマンに攫われぬよう
(我が容姿を思えばそんな心配は一切要りませんが。ジャンも助けに来ません、これが現実。妄想だけは日課と化しておりますが)気をつけて過ごして参ります。



米沢さんは清麗なヒロインで、濁りが一滴もない水流を思わせる純度の高さ、滑らかさが身体の隅々まで行き渡り艶っぽさにも感激。
初日のみ花拾いがほんの少し手間取った感はありながらも(体勢を床に近づけたのちにすぐさま爪先立ちですからこなすのは誰でも困難)
5つのヴァリエーション全てが会心の仕上がり。僅かな粗も見つからぬ澄み切った美しさはそのままに
踊りそのものを通じて内面を表し自在に体現していらっしゃいました。
中でも1幕ピチカートでのまさに音楽と戯れながら爪先で弦を丹念弾くようなポワント運びや、2幕における回転からの素早い移動もいたく涼やか。
また同じく2幕で友人達とアブデラクマンから逃げる交互なユニゾン(言い方違ったら失礼)でも不安な心を小刻みに震わすように身体に行き届かせ
危機一髪な場面且つ大急ぎで通り過ぎて行く箇所においても職人芸なステップを堪能した思いです。

福岡さんは武勲の誉れ高い騎士で、勇ましさと品格を兼備。今回のジャンの中ではトータルの要素が一番バランス良く備え、堂々たる身のこなしや技術とサポート双方の安定感、と
全幕主役としては初挑戦作品ながら(2018年の日本バレエ協会公演ではアブデラクマンの経験はあり)ファーストキャストに相応しい舞台を届けてくださいました。
思えば米沢さんと福岡さんが全幕で組むのは2013年の『ドン・キホーテ』『くるみ割り人形』以来8年ぶり。
火花散らすテクニック合戦であった当時に比較すると落ち着きや優雅さが加わった印象で
序盤はいたくさっぱりした雰囲気かと思いきや夢の場でコール・ドに導かれ光の道を歩む箇所での視線の交わし方にて実に愛情深い様子も明示。
『ドン・キホーテ』のような超絶技巧満載ではない、宮廷を舞台にした作品においても熟練され卓越した踊りと落ち着いたパートナーシップで魅せてくださったペアでした。

小野さんはヒロインが階段を上って変化していく過程の表現は『眠れる森の美女』を観ていても頭1つ抜けた上手さであると以前から感じておりましたが
全幕は初役『ライモンダ』タイトルロールでも圧巻で、あどけない表情で花を持っての心浮き立ちながらの登場から頬を緩ませ
3幕では拝み倒したい思いに駆られるヴァリエーションを披露。静けさに包まれた場内の全空気を支配し、
物音1つも許されぬ集中度の高い客席の緊張感はそう滅多に居合わせぬ異様な雰囲気であったほどです。
随分前には経験した記憶が巡り、そうでした2006年のマリインスキー来日での「ロパートキナのすべて」におけるダイヤモンドのパ・ド・ドゥ。
『パキータ』グラン・パ、『ライモンダ』グラン・パ、そして『ジュエルズ』より「ダイヤモンド」の
3作品ロパートキナ主演によるコール・ド従えて一挙上演され、今思えば絶え間なく昇華しそうな恐るべきプログラムでございますが
中でも「ダイヤモンド」パ・ド・ドゥでの、この世のものとは思えぬ異次元、至高の芸術に触れている観客の視線の集中が凝縮した空気が漂っていた当時を思い起こさせました。
ピアノの音色を中心とした哀愁感ある曲調に沿うように静かに刻むパ・ド・ブレやクールに向けた視線、決意が込められたパッセの前進と言い寸分の隙も無し。
神様仏様小野絢子様、なる毅然とした女王の風格と神々しさを放つ3幕でした。

小野さんは今回の主演者8名の中ではただ1人牧版『ライモンダ』全幕経験者で2008年のワシントンD.C.公演(入団から約半年で夢の場ヴァリエーションにも抜擢)、
同年新潟公演、2009年本拠地公演、と出演豊富。ちなみに2006年公演は研修生として同期の仲間と共に観にいらしていたのは覚えております。
夢の場ヴァリエーションやコール・ド、グラン・パ・クラシック、1幕グラン・ワルツ、友人、と民族舞踊以外の役柄は制覇に近く
今回のチラシ裏面夢の場コール・ド一番左端にいるのが2009年公演時の小野さんと思われます。

奥村さんは夢の場が大変印象に残り、肖像画から出てくるところからロマンティックな風情十二分。
ほんのり寂しそうな表情で、ジャンもまた自らも求めて夢に現れ、ライモンダに会いたくて仕方なかった心情がすぐさま伝わりました。
当初はジャンが夢見がち過ぎてまた騎士にしては線が弱いなんぞ失礼な思い込みもしてしまったのも束の間、
あとにも述べるかもしれませんが、ふにゃふにゃとした蛇行運転を想起させる骨組みが無いに近くカウントが取りにくい夢の場のパ・ド・ドゥの音楽であっても
ライモンダと共に海の中を遊泳するかの如く気持ち良さそうにサポートしつつ踊り続けるのはよくよく考えれば至難の技で、しかもリフトを繰り返したりと多忙振付。
この場面はライモンダを神秘的な水晶のように輝かせ尽くしていた点も含め奥村さんの魅力が一番光り、4人の中でも幻想性を最も描出していたと思わせました。

小野さんと奥村さんは全幕で組むのは初で、事前の対談や毎日新聞でも大きく取り上げられたりと話題沸騰。
毎日新聞では奥村さんが戦争が背景にある作品である点を踏まえた役柄の掘り下げが腑に落ちる内容で
私も似たことは以前から考えてはいたものの整理し切れていない点もあり、鑑賞の大きな手助けとなりました。
対談映像では見どころの1つとして、ジャンが絵画から出てくる箇所はまさに王子、そしてライモンダが攫われそうになる危機一髪な状況で
ジャンが帰還する場面を小野さんが目をぱちくりさせながら強調。
凛とした表情から切り替わり、胸がキュンとするからお見逃し無く、と乙女な顔つきでカメラ目線で訴えるほどでした。
小野さんが絵画からのジャン登場に触れれば奥村さんが手でパカーンと観音開きを再現なさったり、
帰還の話となればマントを羽織る仕草をなさったりとフレッシュ且つ早く観てみたいペアであると期待を持たせる対談で
本番の舞台からは自立心の強い姫と一見お人好しそうだが見た目に反してやるときはやる意外と⁉頼もしい騎士なるペアに映った次第です。

※金曜組が長くなりそうなため先に翌日12日(土)組から
木村さんは当初体力面が不安でしたが蓋を開けてみれば心配無用で、紗幕越しで上階席から双眼鏡無しであってもくっきりと姿が見え
序盤から大きな百合の花が咲いたかのような姿で魅了。そして驚くほどに落ち着きのある丁寧な踊り方で最後まで舞台を進めていた印象です。
またメイクが随分と薄くなり、生来の華ある可愛らしいお顔立ちが生かされていた点も嬉しい収穫でした。
アブデラクマンに対しての拒絶は感情を閉ざしたかと思えば興味も示したり、分かりやすい流れを作って心情の大きな揺れを表現。
のちにジャンが救出に来ると把握していても手に汗を握る緊迫する展開を広げていっていた印象です。

オペラパレスでの有観客公演は実に久々復帰となった井澤さんは、夢の場がとても安定したパ・ド・ドゥで、
先にも述べたようにヴァイオリンソロを中心とした曲調は頗る美しいがふにゃふにゃした旋律でタイミングが掴みにくい振付ながら破綻が無かったのはお見事。
温厚に見守っている様子も好ましく、木村さんと呼吸がよく合い丹念に紡ぎ上げる方向性もぴたりと一致していたのでしょう。
2人で終始大きな絵を描くように舞台を彩っていました。思えばこのパ・ド・ドゥはいつぞやのカウントダウン東急ジルベスターコンサートにて
ザハロワとロヂキンが披露していたぐらいですから、男性もサポート要員のみならず見せ場があり見栄えもして案外好評な振付であるのかもしれません。
(その代わり、マントは無いがまあ仕方ない)

柴山さんはかっちりとしたクラシックの技術の持ち主で、決して華やかタイプではないからこそ
超絶技巧も無く勢いでは誤魔化せず魅せ方が難しい5つのヴァリエーションを始め踊りの連鎖なるライモンダは適役と期待を寄せておりましたが
どの場面を切り取っても職人気質な踊りが嵌り好演。1幕は緊張が隠せない様子でしたが折り目正しさの中から
微細な色分けを見せつつ、段階を経て成熟した女性へと変貌していく過程を体現していました。
恋に恋する乙女な1幕登場から、帰りを待ち侘び寂しくも徐々に希望を見出すように踊っていたヴェールのソロも目に届き、
最後肩に掛けるポーズがインタビューにもあった「ジャンに抱きしめられている」絵がぱっと浮かび
まもなく肖像画からの登場約2分前に迫っていながら管理人ニンマリです笑。
4ライモンダの中では最も深窓の姫君なる雰囲気を備え、されどか弱いわけではない芯はしっかりと持つ奥ゆかしさから、守ってあげたいと思わずにいられぬ姫。
上部で紹介した3日目公演レポート写真にもあるように、アブデラクマンからの誘惑にも断れずきっぱり拒絶できず戸惑いを隠せぬ様子で且つ驚かされたのは
速水さんとの身体のラインの調和がいたく美しく造形されていた点。音楽も含めドラマが重々しく動く場面においても見え方立ち方を心得た姿に唸った次第です。

※更に長く続きます。暑さも増して参りましたので水分補給及び小休止をどうぞ。
渡邊さんは間違い無く似合うであろうと妄想し続けていた甲冑を模した衣装が最初から絵になっていて嬉しい驚きを覚え、プロローグから恍惚と魅了。
立ち姿からして最初から王子ではなく、騎士でございました。紗幕越しでやや見えづらいそして分かりづらい(後にも触れますが)
出征場面でもライモンダの目をぐっと見据えてから真剣な眼差しで頷き、勝利しての帰還と結婚を約束する声がはっきりと聞こえてきそうであったほどです。
柴山さんライモンダからは待ち侘びている台詞が自然と沸いて響いていた気がいたし、
あんなにも力強い真剣な瞳で約束されたら、そりゃ姫は信じて待つしかございません。

肖像画からの登場での佇まいがまあ凛として美しく肩から膝下にかけての線もスラリ。(そして全員に当て嵌まるが誰1人としてお饅頭な騎士の肖像画に似ていない笑)
ライモンダが眠る椅子の周りで踊る、下手すればふわりと舞う薔薇の精にもなりかねない箇所も皆様感情を込めつつきっちりと踊り切っていましたが
語りかけるような目線の送り方と言いガラス細工を扱うようにそっと触れるような手の差し伸べ方と言い、されど雄々しさは残っている点も含め、眼福でございました。
パ・ド・ドゥはちょいとぎこちなく2人揃ってなかなか緊張が解けず、ひやりとする箇所があったのは否めませんでしたが、聴けば聴くほど踊るのが難解そうな
ふにゃふにゃした(グラズノフよ、すまぬ)タイミングが掴みづらい曲調でしかもパ・ド・ドゥですから難易度が相当高いのでしょう。再演に期待です。
今は鑑賞中の声の発出は極力回避が望ましいものの思わずどよめきそうになったのは3幕でのコーダにおける連続跳躍で
品良くまとめてふわっと重力を感じさせぬ印象が強い渡邊さんが、全身から強気なドヤ顔を体現していたく勇ましく逞しい質感であったこと。
戦地から帰還した上に、婚約者を巡る争いにも勝利をおさめた騎士として臨む婚礼ですから、寧ろこの場に相応しいと納得な姿でした。

さて、初台ではご無沙汰有観客公演でもやります、髪型観察。この度も丸、でございます。『コッペリア』と同様にやや明るめの色合いでしたが
変に明るくなり過ぎぬ自然な色味で、また中央分けであっても前回2009年公演に名古屋よりゲスト出演された碓氷さんのようなぺったりにはならず
(碓氷さん、ホセのときは自然な整え方で良かったのだが)前髪の膨らみも程よく残したスタイリングも好印象でした。

柴山さん渡邊さんは『シンデレラ』『ラ・バヤデール』に続いてペアを組み、2作品ともそれぞれ好印象を持ち
感情が一気に昂ぶりながら油彩画のように濃密に交わって昇華する組み合わせでは決してないながら
『ライモンダ』にはとりわけぴたりと嵌る雰囲気であったと思っております。
淑やかで奥ゆかしい聡明な深窓の姫君と、色事には一切関心を寄せず暇さえあれば武芸の訓練や勉学に励んでいたであろう愚直騎士が
少しずつ距離を縮めて徐々に睦まじい関係を築いていったと思わせる、共に古式ゆかしい姫と騎士でございました。このお二方、日本の時代劇でも観たい欲を刺激します。

ハイライト場面の1つで私個人としては最たる楽しみ場面であるのが帰還と決闘。「日によっては」黄色い声援を送りたくなるから云々ではなく、(それもちょいとあるが)
私の初新国立バレエ鑑賞であった『ライモンダ』はザハロワさんとウヴァーロフさん主演の休日公演でしたがご記憶にある方もいらっしゃるでしょう。
ザハロワさんがマントを踏んでしまい、しかしザハロワさんは暫く気づかず、ウヴァーロフさんが振り向きつつ引っ張りながら対応していた、あの日です。
4階最後列でもはっきりと様子が窺えましたから、舞台上の出演者や舞台近くの席ではさぞヒヤヒヤとなさっていたことでしょう。
このハプニングにより決闘の緊張感がだいぶ薄れてしまい、また剣の素材はボリショイと違って鉄ではないため
鋭いとは言い難いカツカツとした音が響くため、臨場感ある決闘になりづらかったのです。
また『ロミオとジュリエット』や『三銃士』より随分と前の時代ですから叩き割るに近い形状、重さの剣であり、大移動しながらの俊敏な争いにはなりづらいとも言えます。
ただ中には、好条件ではなくても上手な方もいらっしゃるかもしれぬと後日情報センターにて2004年初演4キャスト分の
決闘部分だけを連続で鑑賞したところ(何のオタクや笑)勢いの付け方や躍動感などスティーフェルさんとガリムーリンさん対決に軍配であった印象です。

それからライモンダがまさに攫われそうになるあわやのときの、ファンファーレで帰還の瞬間はジャンの最大の見せ場でしょう。
「マントでジャン!」、これがジャンの全ての決定打かと思っております。
ジャンのジャーン!な到着場面も版によって様々で、ボリショイは改訂前は横から舞台前方に出てきて手を上げて立ちはだかり援軍も大勢。改訂後は変更が生じた可能性あり。
ヌレエフ版は集団の中からいつの間にか登場だったか。マリインスキーはアブデラクマンに抱き上げられたライモンダをジャンが力ずくで奪い返す行動に踏み切り
攫われるときのみならず救出も合わせてダブルでお姫さま抱っこ、これはこれで憧れるかもしれん。(但し今回ならば金曜日のジャン限定、妄想が止まらん笑)
新国立牧版の場合は舞台後方、階段上の上手側から光沢を帯びて床を引きずるくらいに長いマントと剣を装着して颯爽と登場し
照明の妙技で煌々とスポットがあたるこれ以上にない華々しい帰還。つまりはこの演出に似つかわしい容姿も不可欠で、絵になるにはハードル高しでございます。

話をもどしまして、2021年、4キャスト見比べたところ喜ばしいことに全キャスト決闘時の腕が冴えていたのは共通。
アクション映画の段取り確認状態になっている人はおらず、全キャストそれぞれ個性も出しつつ見応えある帰還と決闘となっていました。
福岡さんは背が大きい方ではない身体の条件を忘れさせるほど立ち回りが豪快で力強さも抜きんでいて、上背がありガタイも良い中家さんに勝てるのも納得な展開。
初日のみ、帰還してライモンダを抱き寄せた途端に目も合わせずすかさず安全な場所に避難させてしまっていた点だけ気にかかりましたが
姫の安全最優先で取った行動と推察。最終日は視線を交わしてから避難誘導へ。
奥村さんは騎士のイメージからは一番遠かったはずが意外や意外、対峙した姿から堂々たるもので
事前対談映像にて一押しどころではなく激押しであった小野さんの太鼓判を思い起こさせ、立ち回りも素早く、勢いがありました。

有事でも穏便対応を好みそうと想像していた井澤さんは、立ちはだかり方がいたく余裕ある態度。
特別怖い表情を見せるわけでもないながら存在感とプライドを滲ませた圧力をかけ、既に半分勝利を確約している予感すら募らせました。
剣の差し方がもう少し後ろ側にあると尚姿形が決まった気もいたしますが、ずしっと迫る絵になっていたのは確かです。

渡邊さんは刃の如き鋭利な眼で猛然と立ち向かい、城への帰還であったためどうにか抑えていたでしょうが
アブデラクマンを即座に叩き潰したい衝動に駆られていたのは明らかであろう、目に殺意と憎悪の炎がめらめらと燃え盛る
まさに戦場しかも最前線の激戦地を統率し生き抜いて戻ったばかりであると想像。
何と言っても我が夢であったマントに剣のお姿を拝見でき、ああ、幸せの一言では尽くせぬひとときでございました。
想像はある程度しておりましたが、鋭い眼差しを含む顔つきに肩からすっと伸びるラインがマントと調和し、
差した剣もお飾りではなく使い込んでいると思わせるしっくり具合でまさに騎士。
マントの裾が長いために動きづらく、正式な決闘前の剣を手にしての争いから外してしまうために装着時間は実に短く
その約15秒を凝視するために今月は生きて参りましたので(言い過ぎか笑)目に心に深く刻んで来た次第です。
緊迫状況で僅かな時間ながら、駆け寄ってきたライモンダの目をまずはじっと見つめて頷き、安心させていた点も二重丸。そりゃ姫も信じて委ねるしかありません。
驚愕に拍車をかけたのは手袋投げで、他の方々が「投げていた」に対し、叩きつけていたこと。
しかもやや離れた場所に立つアブさんの足元に恐ろしい形相でバシッと叩きつけていましたから響く音も強力で
福岡さんの1公演とは同じ席から鑑賞していたところ床に落ちるまでの速度、音量が全然違いました。(私は何の分析をしに初台へ通っていたんだ笑)
見間違いかもしれないが、剣を交えている最中に顎でもアブさんを挑発し、双方益々闘争心に火がついた様子で、ライモンダは寿命が縮む思いであったでしょう。

ごく自然に映った行動が、倒して勝利した後に駆け寄ってきたライモンダに対してまだ目から闘争心の炎が残りかけていてギラついていた上に抱き方が控え目であったこと。
以前ハーレクイン(ときめきたいわけではなく、水戸黄門と同じく話が定番で必ず幸福な結末であるため読後の気持ち良さに目覚め、頻繁に読んでおりました)
ヒストリカルシリーズかその類の書籍でも読みましたが、返り血や砂埃を浴びている場合が多く、愛する女性をそう簡単には抱き寄せられないのが正直な事情のようで
更には試合ではなく生死を賭けた決闘となればそう簡単には心の切り替えもできず、戦闘体勢が消えるにはだいぶ時間がかかるもよう。
すぐさまにこやかな抱き止めが本来の理想かもしれませんが、リアルな描写としては金曜日ペアに合点であったと考察いたします。
剣を持っても強そうには、戦帰りの騎士には見えないかもしれぬ不安もほんの少しはありましたが
それどころか戦地での獅子奮迅な活躍が目に見える立ち向かい方で、誠に失礼いたしました。
決闘の地が本日ばかりは時代も国も変わって巌流島になるかと危惧しておりましたが中世フランスの城内で
そして帰還時の音楽が管楽器使用ファンファーレは共通でも必殺仕事人ではなくグラズノフで一安心笑。
和洋どちらであれ、友人の名言を拝借し、渡邊さんは武士にも騎士にもなれる稀なタイプでしょう。6月はマント姿でしたが7月は武士ではなく漁師ですが髷姿を拝みに参ります。

そういえば4年前の『ジゼル』にて、一見細身のアルブレヒトではあっても強面で体格も立派な中家さんハンスの肩が捥げる寸前まで押しやったりと豹変ぶりに仰天。
一歩間違えれば掴み合いの、流血騒ぎにも発展したであろう真剣勝負でした。
キャピトル・バレエ団時代に踊られた『海賊』スルタン映像を目にするといつかはアブデラクマンも拝見できる日の到来も切願しており
初めてダイジェスト動画で見た際に強面な風貌や全身から漂う恐怖感、奴隷の娘であれ海賊であれ容赦なく暴力で押さえつける獰猛さは
当時20代前半とは到底信じ難く、荒々しくも危うい色気や風格を備えていて嫌味ある役柄には決して映っていない点にも顎が外れそうな衝撃を受けました。
しかし渡邊さんのアブさんならば、ライモンダは喜んでサラセンに嫁いでしまいそうで、最後はグラン・パ・サラセンだ。
またジャンにしてもランプの精ジーンにしても、忠誠を誓って主君に尽くしお仕えする役が似合うとも結論。
ちょうど公演期間中に開催されたG7コーンウォールサミットの様子やコーンウォールの荒涼とした海辺が映像で出るたび
オペラではなく映画『トリスタンとイゾルデ』を思い出し、仕える王からも信頼される誉れ高く美しい戦士ながら王妃との関係から生じる苦悩が絶えぬトリスタンも
さぞ絵になり役としても嵌るであろうと妄想が巡っておりました。どなたか全幕バレエ化を。この関連話はまた別途綴るかもしれません。

決闘全般の描き方として牧版で良いと思えるのが双方が極力平等な条件になるような配慮。
版によってはジャンだけ兜を装着していて頭部の安全性が有利であったり、忍ばせていた短剣で止めを刺す狡い勝利もあったりと納得がいかぬ描き方があるのが実情です。
しかし牧版ではアブさんのノースリーブは目を瞑りますが、双方顔を晒した状態で武器も最後まで1本勝負であり、またジャンの援軍は無しのおひとり様帰還。
(前日の誕生会にはいたアンドリュー2世王は遠征していない?この版では分からず)
ホームに帰還しても声援の大きさは圧倒的にサラセン側が優勢で、実質アウェーの中での決闘だったに違いありません。
それまで敬意を払う態度を見せてきたサラセン側も、王の命がかかった決闘となれば本能がまさって、ジャンに対して罵詈雑言を浴びせるのも無理はないはずですし
妖精のお膳立ても無し。そうなればこの状況からするとジャンは仮に危機に瀕したときも1人で撃破せねばならず
心身共に相当打たれ強くなければ勝利が極めて困難ともいえるかもしれません。牧版ジャン、天晴れです。

ところで、投げた手袋はともかく、手元に残った片方の手袋の使い道はいかに。片方のみ再度注文とは考えにくく、
ただせっかく素材も丈夫そうであり肘手前まで覆われている形ですから、ここも友人の表現を拝借し、その後は鍋つかみとして使用か。調理場でも役立ちそうです。

このままでは帰還と決闘生中継で終わりそうなため、次行きます。
中家さんのアブデラクマンは貫禄、豪胆な凄み、風格を備えた王で、筋骨隆々で上背もある体格もまた近寄り難さを一層押し出し
物語の展開を重厚に動かしてくださいました。プロローグにて、紗幕越しでのアブデラクマンは見た、なる状況でも筋肉が山の稜線如くくっきり。
想定範囲ではありながらこりゃどのジャンも勝ち目はないと思わせるインパクト大でした。
(後に述べますが中家アブさんと対決のジャンのお2人、意外と!?強かった)
ライモンダに宝飾品を渡すときは掴み方に粗暴な面を見せて強引な印象も持たせましたが
2幕登場では同様に威厳を見せつけたかと思えばライモンダのソロの最中に立ち上がって見つめ、手を伸ばした姿は恋する男性の顔となり
このときばかりは立場も忘れて恋い焦がれる女性しか目に入っていない状態だったのでしょう。
ライモンダは久々に純粋な感情を引き出してくれた存在だったと見受けます。

新鮮であったのは速水さんで、もっとチャラチャラした(失礼)王になるかと思いきや、誘拐や人攫いではなくナンパでライモンダ強奪かと思いきや(失礼)純情一直線。
懸命に見つめては誠心誠意、心の底から懇願する求愛で、振り向いてくれないライモンダに対し悲しそうな表情すら募らせていたほどです。
(勝手な欲を申すならば、口説きが得意なチャラ王と、真面目を超越した愚直騎士の争いの構図も金曜日には見てみたかったが笑)
1点注文を付けるならば、中家さんと異なり頭飾りを極力排したものであったため権力財力も手中にある王ではなく海賊の頭領に見えてしまった点。
ただでさえ衣装も野性味はあれどノースリーブは簡素な気がしてならぬデザインで、せめて1幕と2幕でお色直しがあり
豪奢なお召し物姿もあれば王らしさが遥かに前面に出たに違いありません。
この役は従来ベテランが務める印象が濃く、若手ダンサーが踊る姿は実に珍しく鮮烈。思えばジャンもアブデラクマンも明確な年齢設定はありませんから
いくらでも描き方や対立構図が生まれるも当然で、若きジャンと若くして王に即位したアブさんのぶつかり合いもあれば
大人の成熟した余裕あるジャンとまだ青さが残るアブさんも大いにあり。ベテラン一辺倒な印象が先行していたところを速水さんは大胆に斬り込んでくださった気がいたします。
そしてお2人とも魅力ある敵役でしたから出番や見せ場が少ない演出も惜しまれ
婚約者がいる身であるライモンダであっても、中家さんアブデラクマンに対しては少々強引ではあっても力強い大人の色気にくらりとしかけたでしょうし
速水さんアブデラクマンの、保守的であろうジャンには無い開放的で情熱を懸命に曝け出す面に心が傾きかけそうになるのも頷けました。
それにしても宮廷へ偵察及び求愛に何度か訪れていたにも拘わらずジャンの帰還日時までは把握できず
鉢合わせになったのは運命の悪戯であったのか、アブさんは哀れとしか思えません。そして王の急死によりサラセンにおける後継者争い問題の浮上も案じずにいられず。

ドリ伯爵夫人の本島さんは踊る場面が僅かであったのは心残りですが、師匠であり初演時に同役を務めた豊川美恵子さんを思い出す艶と格で城の催しを牽引。
長い裾捌きや指先から顎の角度まで行き渡った美意識もまた舞台を引き締め、ライモンダがいよいよ攫われそうになるとただ一人サラセン人に訴える勇敢な一面も。
(他の版でも思うが、なぜ誰も姫を助けに行かないのか不思議だが)
モジャモジャ鬘に不自然さがない、貝川さんによるアンドリュー2世の大らかな仕切りっぷりにも毎回安堵。
この王様が不在であったら、2幕終盤は荒事に塗れ収拾がつかぬ修羅場と化していたはずです。

珍しいまた新鮮な組み合わせであったのはクレメンスとヘンリエット。細田さん池田さん組も、五月女さん廣川さん組も体格や踊りの質は全く違えど
呼吸が合っている様子を眺めるうちに綺麗な調和を見せていた気がいたします。そして細田さんのたおやかな優雅さ、透明感には何度心が洗われたことか。
全日あちこちで働きづめであった速水さんベルナールのにっこりと晴れ晴れとした踊りも彩りを添え
時々スプリンクラーな回転でなかなか収まり切らなかったのはご愛嬌。 嘗ては孫悟空と呼ばれた頭飾り(初演の頃だったか)に沿い整っているメッシュも健在でした笑。

ここまで来て書くまでもありませんが、歴史そして舞踊絵巻な作品で主役からコール・ドまで男女問わず踊りの連鎖なる振付、
更にはクラシックと民族舞踊双方、或いは混在バージョンまでもを踊り切る技術が不可欠でありながら総力を挙げ高いレベルの舞台を連日届けてくださいました。
中でも3幕グラン・パ・クラシックの壮麗な仕上がりは絶品で、加えて男性陣の平均身長が180cmに到達したのか、見栄えも力強さも一気に押し上げられた光景でした。
コーダでの最後の一斉リフトのテンポが速く、瞬時に高所へ移動なる鬼振付であっても5回とも危うい人がおらず、喝采。
そしてその勢いのまま、ギャロップだよ全員集合!の流れとなり、版によってはギャロップ無しであったり、
チャルダシュとマズルカのみ出演などまちまちですが牧版では主役からグランパ、チャルダシュ、マズルカまで総出演。
途中フォーメーションを大きく組み変えての交差から縦横揃えての移動など全員が呼吸合わせての締まった踊りが出来なければ大失敗に終わる場面ですが、連日壮観。
私は2018年の頃からぼやいているのだが、NHKバレエの饗宴で披露すべき幕でございます。
ヴァリエーションは躍動感溢れる池田さん、上体も豊かに語る飯野さんお2人とも素敵で壮麗なグランパの直後でも引けをとらぬ晴れやかさでした。
チャルダシュのソリストも皆古株ながら初顔合わせなペアで、福田紘也さんの腰の深い入れ方や
今回キャラクターダンスで生き生きと大活躍な寺田さんの思い切りの良さがぴたりと結合。
奥田さんの見せる角度を入念に計算しているような巧さとこの役にしては幾分のんびりした雰囲気がかえって風変わりな味として引き立っていた小柴さん組も
眺めていて面白みあるペアでした。コール・ドのポーズを揃えつつもメリハリに富んだ踊り方や盛り上がりにつれての熱帯びも血が騒ぐ出来栄えで
優雅さの中にしなやかな強さ美しさを秘めたマズルカは特に手の表情が豊かでじっと見入ってしまいました。

最大の盛り上がりの曲調にてUの字をジグザグに描きながら並びを紡いでいく箇所が教習所のコースかと見紛うのを始めこれといった振付の特徴が見つからぬ第1幕ワルツも
柔らかな襞を重ねていくような繊細さが光るファンタジアも、12年が経った今回久々に鑑賞でき、嬉しさはひとしおです。
サラセン陣営も弾け方と王に仕える品が融和した具合もちょうど良く、スペインは上品過ぎた感もありましたが、サラセントリオ男女の勢いは頗る良く
妖艶さを見せつける渡辺与布さんや朝枝さんの魅せ方も芳醇な色気があり脳裏に焼き付いております。
礼を尽くして余興を見せていたサラセン陣営も、王が愛した姫を争奪するべく本来の目的を露わにしていく終盤は
熱が一気に上昇する踊り狂いでライモンダを取り囲んで眼前封鎖。まあこれならなかなか助けにも行けないか。
それとも、プログラムをよくよく読むと宴の客人の中にアブデラクマンがいると書かれており、決して突撃訪問や飛び込み営業で来たわけではなく
ドリ伯爵夫人は認知してはいたがリスト入りするまでの危険人物とは思っていなかったのか、謎が深まります。
もう1つ謎と言えば、ジャンがライモンダに送った手紙。文字以外に絵らしき物が描かれ、気になっております。中世の手紙事情を調べるしかなさそうですがまさか絵手紙か?
2日目のジャンならば、異国で目にした珍しい動植物を描いて送る姿が容易に浮かびます。

衣装や装置の美しさも特筆に値し、きらりと輝く上品な繊細で目が何度も潤みそうになる色彩美です。
女性のチュチュの胸元が平たいカッティングであるのも嬉しく中世のデザインが盛り込まれ
刺繍が目を見張る凝った細かさで間近でもっと観察したくなり、いつの日か展示会の開催を願います。
ライモンダの頭飾りの耳上が隠れる形状で細かく編まれているような作りにも見入ってしまい
女性陣の腕カバーは初演時は事務仕事のカバーにも見えてしまったものの再演以降は慎ましい品を引き立てるデザインに思えてきており、
ファンタジアのエメラルドグリーンの長めのチュチュはふわっと靡くさままでが優美です。
地球が反転してもあり得ぬ夢でその前に容貌や体型を何とかせいとのお声が入るのは目に見えておりますが
もし世界各地あらゆるバレエの衣装の中から1着だけ選んで着用させてもらえるならば、第2幕のライモンダの青と金、白地の衣装を選びたいと思っており
冒頭で述べた内容と重複いたしますが、誰も攫いにも助けにも来ないでしょうが夢の中でも良いので許されるなら着てみたいものです。
ちなみに管理人の財布の色はこの衣装に似た配色でございます。

紗幕効果も忘れられず。実在したジャン・ド・ブリエンヌが第5回十字軍遠征した13世紀からは大分過ぎた1400年代に描かれたとされる
ベリー公のいとも豪華なる時祷書5月「若葉狩り」ですが、緻密な写本の色合いとそこからイメージを膨らませた衣装舞台美術のデザインから
写本を1枚1枚捲っているかのようなロマンチックな想いに駆られ、いつもなら時代考証に対して中途半端に口煩い捻くれ者な私も気にならず。
さすがに『眠れる森の美女』で使用されるような貴族衣装や、精巧な全身板鎧甲冑が次々と登場すれば時代の先取りにも程があると文字で斬らせてもらいますが笑(ヒュッべ版のようなロココ時代に設定など大幅改訂版は除く)
牧版の場合は写実性を抑えて具体的な時期を出し過ぎぬ、中世十字軍の時代を大枠で捉えてのデザインが誠に魅力あるプロダクションに繋がっていると思えるのです。

また照明の変化の妙も欠かせず、第1幕のワルツ開始時には少しずつ翳り、再び明るさを増して行く流れに目を奪われ、肖像画からの出入り時のジャンが歩く道を照らす光も美しや。
グラン・パ・クラシックでのアダージオに入る部分で全体が翳り、一見星座早見表な背景のモザイク画に星が瞬くように光が灯される箇所も唸らせる演出です。
決闘が終わり爽やかな色と光が広がりぱっと照らしてのジャン勝利祝福も、スケールが浮き彫りとなって3幕結婚式へと繋がる幕切れです。

そして挙げずにはいられません、グラズノフの音楽。ソ連崩壊前からチャイコフスキー三大バレエよりも好みな音楽と思っており
(当時は語り合う友もいなかったが)全幕通して5回聴けたのはこの上ない喜びです。面と向かって或いは執筆物でチャイコフスキーに比較すると
抑揚に欠けるだのつまらないだの後ろ向きな評価を度々見聞きし、確かにチャイコフスキーは偉大ではあるが
どこもかしこもチャイコフスキー賛美に溢れるのも如何なものかと昔から捻くれて考えていた管理人でございます。
三大バレエ作品や音楽の魅力も身に沁みてきたのがソ連時代より虜となっていたボリショイくるみを除けばいかんせんここ17年ぐらいの間でありごく最近。
恥ずかしいながら『ライモンダ』や『シンデレラ』、『ロメオとジュリエット』よりもずっと遅かったのです。
グラズノフに話を戻しますが、星屑が散りばめられたような旋律からスペインやチャルダシュは他の作品以上に地鳴りがしそうな迫力もあり
また2幕序奏や3幕グラン・パ・クラシックにおける渋みある格調高さを帯びた曲調にも毎度聴き惚れております。
1幕の幕開けは吟遊詩人達が楽器を奏でながら戯れる光景が目に見えるような、中世の宮廷へとゆっくりと案内された心持ちになる曲です。
この曲、グリゴローヴィヂ版では改訂後にカットされてしまい寂しうございます。これがあるからこそ中世の浪漫に浸り始める気分になれるのだが。
1幕前半の、ピチカートのヴァリエーションを挟むワルツは世界一好きな曲と言っても過言ではなく
私に万一の事態が生じて旅立つときには流して欲しい曲でございます。(ここに書いても意味をなさず、親族に伝えるべきでしょうが)
事前に視聴した冨田実里さんによる音楽講座にて、アラビア音階を用いたライモンダとアブデラクマンのアダージオにおける魅惑的な旋律も異国情緒な空気に誘われ
聴き方によっては懸命に愛を訴えるアブさんと困惑するも魅力に取り憑かれつつあるライモンダの会話にも思え、一層胸騒ぎを覚えるようになりました。

またプティ版コッペリアのときも綴りましたが、バレエのあらゆる作品の中で一番好きな女性ヴァリエーションは
同意見の方は東京都民で1人いるかいないかの確率でしょうが、2幕でのホルン主旋律で踊り始めるライモンダのヴァリエーション。
ジャンの帰りが近づき希望を募らせつつも久々の再会に内に秘めた恥じらいも見せるような華と哀愁が隣り合わせとなった
歯切れ良くも大きく空間を使ったりと実に優雅な振付で、前半はホルン、オーボエ?、フルートかピッコロ?と
管楽器リレー主旋律な構成も変化に富んでいて聴きどころなのですが、先生方もご存知の方は少なく定着していないのか
全幕上演は別として発表会やコンクールでも披露される機会はまずありません。知名度が上がるよう願っております。
福田一雄さんも講座で仰っていたように、コンクールでライモンダと言えばなぜ夢の場のゆったりした踊りが人気なのか、
そもそも元はライモンダの曲ではなくバレエの情景からセルゲイエフが勝手に挿入したものであり
もっと他にも良いヴァリエーションがあるのに、と寂しがっていらしたご意見に首を縦に振り続けていた管理人です。
2幕ヘンリエットの抑制された中へ晴れ間が段々じんわりと差し込んでいくような旋律が耳に残るアレグロなヴァリエーションも好きですが
淡々としたイメージがあるのか知名度が低いのか、単独で踊られる機会はやはりございません。

グラズノフの音楽についての決して前向きではない印象も周囲その他執筆物で散々見聞きいたしましたが笑、
それ以上にご意見があったのはあらすじで、踊りは楽しいが話はくだらないつまらないとのお考え。
しかし決してそうとは言い切れぬ面白さが詰まった作品と思え、何しろ異なる魅力を備えた男性2人に挟まれる話、しかも双方負けず嫌いで正々堂々争うわけで、
実際には管理人の身にはまず起こらぬ状況設定ですから余計に胸が高鳴るわけです。32年前に初めてボリショイの映像で観たとき
ジャンのヴァシュチェンコとアブさんのタランダには全くときめかなったのだが(失礼)
その頃からこれといった根拠は無いものの三角関係を描くものならば女性2人に男性1人よりも
男性2人に女性1人のほうが潔さがあり、観ていて心躍ると頭の片隅で思っていたように感じます。
更に、幕ごとに成長を遂げていく点は共通であれどひたすら夢いっぱい花いっぱいで世間の綺麗な部分ばかりを見て育っていく『眠れる森の美女』オーロラ姫と違って
ライモンダは姫であってすぐに助けてくれぬ環境にも身を置いて異国から訪れた男性からの誘惑を拒絶し続けたり、自身を巡っての流血絶命事件
また優しさのみならず有事には敵を容赦無く斬り倒す猛者でもある婚約者の二面性にも直に触れてしまったのも
武芸の訓練に励む様子を常日頃より『巨人の星』の星明子の如く物陰から眺めていたならば別として、恐らくは決闘時が初めてだったでしょう。
生々しい騒動に翻弄されていく過程も面白いと映るのです。(実際に身近で起こっては困りますが)
数々の試練を乗り越え精神を鍛えられたライモンダの結婚生活は安心ですがオーロラ姫は100年の時間差を差し引いても結婚生活に苦労すると妄想が過っております笑。

牧版の特徴の1つがジャンが出征するプロローグが付いている演出。別れを惜しむ2人の姿をアブさんは見た!の状況でライモンダを見つめては
嫉妬に駆られたりと恋心を止められずにいる三角関係が見て取れる場面です。十字軍の大きな旗の横切りも
歴史書物に記録された実際の蛮行には一旦目を伏せ、浪漫をも掻き立て物語の世界へと誘われる瞬間です。
しかし管理人は解釈力が無さ過ぎたのか、初演で観たときまさか出征場面とは思えず終い。ジャンが夢の場と同じ身軽な格好でしたし
遠征へ出向くとは言っても当たり前だが私の鑑賞遠征の一例とは規模が桁違いで日帰りで東京大阪往復な短期間行程ではなく
長期間に渡る危険を伴う遠征ですから、もう少し儀礼な装い、演出が望ましいかと思ったものです。
登場すると思い込んでいた1幕ワルツにジャン不在で初演鑑賞時暫くは疑問が消えぬまま夢の場突入でございました。
例えばマントと剣を装着した格好であれば見るからに出征と捉えるでしょうし、勇ましい出陣にも繋がるでしょう。
しかしその格好は2幕のマントでジャン!までのお楽しみに取っておきたかったのかもしれません。(牧さんがそんな安易な意図を組むとは思えぬが)

それから牧さんが最も配慮した点でしょう、アブさん始めサラセン達の描き方。野蛮な異教徒の印象は皆無で、後にも述べますが色鮮やかでお洒落な衣装を纏い
サラセン陣営とライモンダ達フランス側が互いに敬意を払って接する様子をしっかりと描写した仕上がりで2008年米国での公演実現もこの点が大きかったと見受けます。
例えばライモンダのみならず友人達のヴァリエーションでも踊り手が眼前を通りかかるとサラセンの人々も手を掲げて讃えたり
優雅な美しさをじっと見つめたりと礼儀正しい姿が光り、一方ライモンダも芸人達やスペインなど
サラセン達の出し物を嫌そうな顔どころか興味津々に眺め、彼らを丁重にもてなすドリ伯爵夫人と並んで楽しく鑑賞。
いくらサラセンとの接点のある地域に属するプロヴァンス育ちとはいえ普段は城の閉ざされた空間で過ごしていたであろう姫からすれば
異国からの珍しい芸術に触れた初めてのひとときであったのでしょう。 アブさんとのアダージオや終盤の求愛ソロでは心に陰が差し不穏な内面を募らせてはいたものの
もし求愛に関係が無く、ライモンダがジャンに出会っておらす別方向に舵を切った余興であれば、楽しい異文化交流会或いは東西舞踊合戦になったであろうと想像できます。
実際十字軍とイスラムの軍がちゃっかり仲良くなって交流を深めていた例はいくつもあったようで
十字軍側が試合の手ほどきをして、大会後はイスラムでは禁じられているお酒を振舞って宴会状態であったとか。(塩野七生さんの著書より)
十字軍時代よりだいぶ後のギュスターヴ・ドレによる絵ですが、十字軍もイスラム軍も入り混じって所謂「密」状態で宴を催す様子が描かれていました。

考えてみれば、牧さん版初演が2004年で振付に着手なさったのはもっと前でしょうから、2001年に発生した同時多発テロからそう月日が経過していなかった時期と
重なっていたとするならばサラセン達の描き方には尚更神経を擦り減らしていらしたと思われます。
(そういえば、2006年/2007年シーズン開幕前にホワイエで行われたオペラと合同だったか演目説明会でも仰っていたと記憶)
余談ですが、2008年のワシントンD.C.公演鑑賞での往路にて、ロナルド・レーガン・ナショナル空港内の
シャトルバスに乗車し地下鉄乗り場へ向かう際、乗客は私1人であったのですが
運転席の上に貼られた運転手さんの名札を見ると、お名前がムハンマドさん。お顔立ちからして中東あたりがルーツであろう男性で少々ぶっきらぼうな方でしたが笑
目的地を聞かれメトロに乗りたい旨を伝えると、到着時に電車の乗り場への行き方をさらりと説明してくださり親切な心遣いに感激いたしました。
同時に翌日と翌々日に控えた『ライモンダ』公演がぱっと浮かび、米国で上演できるぎりぎりで絶妙な描写、演出であると脳裏を過った次第です。
ABTのレパートリーにあるアンナ=マリー・ホームズ版はアブデラクマンはサラセンの騎士として登場するもののジャンは出征せず十字軍にも触れず
決闘はしても絶命まではせず<追い払う>とプログラムには記されており、(来日公演鑑賞したが記憶が曖昧で失礼)演出が大幅に変わっていて別枠扱いなのかもしれません。
ABTも長らく3幕抜粋上演が続いたのち、ようやくレパートリー入りした全幕版であったそうで、演出にも配慮がかなりなされていると見受けます。
尚、3幕抜粋上演の写真は1980年代後半の雑誌にモノクロながらゴージャスな雰囲気伝わる1枚が掲載され、ジャンは恐らくパトリック・ビッセルと思われます。

セルゲイエフ版やグリゴローヴィヂ版も上演不可能ではないでしょうが、(諸外国でどの程度上演実績があるかは分かりかねますが)
出演者がいくらサラセン側にも敬意を持って踊り演じたとしても、中世ヨーロッパの大河ドラマを彷彿させる重厚で歴史書から飛び出したような演出や衣装、装置で
加えてジャンが勝利する筋書きを追っていくと、ヨーロッパとイスラムの交わりの要素よりも
どうしてもヨーロッパ優位な対立を強調しがちな舞台にならざるを得ないと、あくまで私の勝手過ぎる想像、考えですが捉えております。

思い出したが何かの本で読んだ記憶があるのは、初演の頃はアブさんに連れ去られ囚われたライモンダを助けにジャンがサラセンへ行く演出もあったとか。
情勢を考慮すれば上演し難いでしょうが、アブさんの城への乗り込み方や救出場面など、観てみたい気持ちにはなります。
(但し今回ならば金曜日のジャン限定。また身勝手な笑)

牧版は戦争の史実を題材としていながらも前面に出し過ぎず、中世のデザインを盛り込んでの繊細なデザインを採用し
サラセン側も金や銀を取り入れた色鮮やかな衣装を用いて双方同等に近い洗練された美を追求。
また守護神の白い貴婦人を無しにして夢の中ではジャンがライモンダを導く側になり
また2幕にてライモンダは危機に瀕してもまずは自力で耐えて乗り切る必要があり、自分を巡っての流血事件も目の当たりに。
またジャン帰還時も援軍は無しのおひとり様帰還。3人の血の通った交流や接触
ときには衝突も含め実はかなり生々しくしっかりと描かれており、メルヘンなお伽話にもならず。
複雑に入り組む要素のバランスの図り方が絶妙な加減である演出と思っております。

12年ぶりの全幕再演で出演者の殆んどが初挑戦であり、何しろドリ伯爵夫人の本島さんが前回タイトルロールを務めた公演。
携帯電話にライモンダと入力を試みると、雷門だ、と変換された時代です。
ライモンダ、ジャン、アブデラクマン、そしてドリ伯爵夫人、アンドリュー2世王も全てゲスト無し登録ダンサー無しの
自前契約ダンサー配役であったのはまだゲスト頼みな時代であった12年前を考えると、層が厚くなったとしみじみ。
『コッペリア』終演後練習期間がおよそ1ヶ月間ながら極上な仕上がりで久々のオペラパレス有観客公演
そしてバクランさんも久々の指揮でグラズノフの音楽を存分に楽しませてくださいました。
ただ久々の再演でもうあと一歩な箇所もいくつかあり、だからこそ一層踊り込んでバレエ団の総合力が更に深化しているに違いない次の再演が俄然楽しみでなりません。
今回この状況下で公演に足を運びたくても断腸の思いで諦め、ご覧になれずにいた方も多いはず。2年後あたりには再演熱望です。

振付も音楽も、あらゆるバレエの中で一番好きな作品を全幕で新国立劇場にて12年ぶりに鑑賞でき
しかも錚々たる先輩方が代々袖を通してきた衣装を今のダンサー達が着用して舞台に立ち並んだ姿にも感慨深くそして心躍る5日間でした。
それからまたもや当て嵌まった干支一回りの法則。何と言っても、新国立での全幕再演と同じく12年ぶりに心から虜になるジャンにお目にかかれた至高の幸福の余韻からは
明日からの2021年下半期突入後も当分は抜けられそうにありません。







ヨドバシカメラ新宿西口店の酒館(店内は広々、駅直結で便利)で購入し、冷やしておいた十字軍シャンパンで帰宅後乾杯。
絵のモデルはティボー4世とのことです。ご参考までに。https://www.enoteca.co.jp/article/archives/9542/
渡邊さんのジャンを観た日の夜に必ず呑もうと準備をし、いざ当日。帰還時の姿を浮かべるだけで、或いは
お姿をラベルやコルクの絵に重ねて何杯でも呑めました笑。絵にあるような、本物の騎士の格好も似合うでしょうなあ。今思い出してもニンマリ。
後日キャップを見せ、兜を外すとあのお顔が出てきたらどうしようかと、我が妄想に友人が付き合ってくださり深謝。





速報でもない速報記事でも紹介いたしましたが、前半日程に販売された米沢さん小野さん考案
涼やかな味わいで頭飾りを模した飴細工も美しい「ライモンダの夢」。
それにしても椅子に腰掛け眠り込み、目を開けたら肖像画から出てきた婚約者が手の甲に口付けして導いてくれるとは、ロマンティック過ぎる内容です。



マエストロにてノンアルコールスパークリングと前菜の鰯のマリネとラタトゥイユ。
南仏を意識したメニューと思われ、レモンも十字軍によってヨーロッパにもたらされた食品の1つであった、と
以前のプログラムに掲載されていた木村尚三郎さんの解説を思い出しつついただきます。



メインは大山鶏のソテー リヨン風クリームソース。カリッと香ばしい大山鶏と馨しいソースで
ノンアルコールのロゼとパンが進みました。相変わらず食いしん坊な管理人。



後半日程は福岡さん井澤さん考案のデザート、愛のヴェール。シャンパンムースがふわりと溶け、甘さ控えめで爽やかにいただけます。
ロマンティックな要素が詰められ、よく考えられた凝った一品です。
想像力欠如な私なんぞこんなにお洒落なものは考えつかず、今回ならば「バケツ型兜 ジャン・ド・プリン」が限界。
武骨な品しか構想に至らず、近年は硬めのプリンが喫茶店で再び人気を呼びつつあるとは聞くものの、即却下が目に見えております。



何度か紹介している雑誌『バレリーナへの道』。2004年の初演公演にて吉田都監督がライモンダ役で表紙を飾っています。
のちに購入いたしましたが最初図書館で借りる際、貸出担当のスタッフの方が思わず「まあ綺麗」と暫く眺め感嘆の声を漏らしたほど。
一瞬で吉田監督のポーズや衣装、美術にも惹かれたご様子でした。
振付の進め方や牧先生からの助言など初演時に主演を務めた志賀さん、山本さん、寺島さん、森田さんの対談が面白く
特にのちの2009年公演以降カットされた第3幕のパ・ド・ドゥの辛さについても本音がぽろり。
グラン・パ・クラシックの後にあのパ・ド・ドゥは過労勤務に相当でしょう。カットされて良かったと一観客としても思います。
2020年のニューイヤーバレエで復活しましたが、ガラで披露すると誠に呆気ないため評判は宜しいとは言い難く
何のために作ったパ・ド・ドゥであるのか知りたいものです。
またハードなライモンダ役ではあるが、パ・ド・ドゥにのときは元気が出ていた、と志賀さん談。山本さんは偉大だ。
主役デビューであった寺島さんも、頼り甲斐のある森田さんに助けられたと心からの感謝の言葉が次々と飛び出していました。



雑誌『クララ』における『ライモンダ』のあらすじや登場人物紹介の変遷。
2002年の人物紹介イラストは明らかにグリゴローヴィヂ版を参考。
衣装のみならず、アブさんがタランダにしか見えず。ライモンダと言えばボリショイな印象が今以上に濃かったのでしょう。
ちなみにレッスンモデルは現在新国立にて活躍中で、今回の1幕ワルツファンタジア出演者の中で唯一前回全幕上演2009年の同場面経験者で
さぞ頼りにされていたであろう今村美由起さん。2002年当時は橘バレエ学校の生徒として紹介されています。
他の特集記事では新国立にてプティ版『こうもり』初演。そうか、サッカー日韓W杯の年でございます。

2014年のくりた陸さんによる漫画での紹介は、牧版、グリゴローヴィヂ版、3幕の主役衣装はアンナ=マリー・ホームズ版を参考にしているであろう混在路線で
白い貴婦人がちょっぴりおせっかいな女性としてユニークに描かれています。
結局存在有無のほどは分からぬがSTAP細胞報道が話題となっていた頃にあたる2014年春ですから、牧版は2004年の初演、2006年2009年の再演を経た後ですし
(この間本拠地以外でも大阪や新潟、ワシントンD.C.公演も実施)、ホームズ版は2005年のABT来日公演でも披露済み。
セルゲイエフ版はちょうど現在はつい先日オレシア・ノーヴィコワのプリンシパル昇格で注目を集めている真っ盛りですが
古式ゆかしい演出のためか普段はなかなか着目されぬ版なのかもしれません。私の中でこの版といえばソ連時代に収録されたイリーナ・コルパコワとセルゲイ・ベレジノイでございます。
ところでくりたさんの漫画ではジャンとアブさんの対峙場面はお互い静かに視線を交わす程度でいたく穏やか。
今回の金曜日における、帰還の瞬間から激昂喧嘩腰、目から憎悪の刃を突き出していたジャンとは大違い笑。



今回目を通した十字軍関連書籍。牧版初演時や3年前の日本バレエ協会でのエルダー・アリエフ版上演時にはもっと多くを読んだが
いかんせん十字軍の行為の記述は蛮行ばかりが目立ち、バレエ作品の世界に浸るには読み過ぎないほうが良いかもしれません。
(塩野さんはそこまで生々しい表現は無く、淡々且つ明解な文体で読み進めやすい印象です)
管理人が若かりし頃、世界史の便覧を眺めていて一番の衝撃であったのは十字軍の戦争でイスラム側に運ばれた負傷者は麻酔付きの治療を受けたられたが
ヨーロッパ側に運ばれると斧で切断されてお終い、だったとの記述。
こりゃライモンダ、医療も食も充実進歩しているイスラム側に攫われたらむしろ生活は安心安泰だったか、など考えが巡回したのでした。



福田一雄さんによるライモンダと海賊の音楽講座受講記事でも紹介した、セルゲイエフ版の全曲CD。全体的にテンポ遅めです。
アンドリュー2世が決闘を言い渡してから始まるまでが長く、余りに形式ばってまどろっこしい笑。映像でも観たが、早う始まらんかいと口走りたくなるほどです。
アブさんの姿を目にした瞬間から大剣幕で、即座にこの場で叩き潰す決意が漲っていた金曜日のジャンからしたら我慢ならない展開であったことでしょう。



何を思ったのか、2幕のライモンダ衣装や頭飾りにすっかり魅せられ、見つけた同系色の頭飾りを8年前インテリア用に購入。
製作者にも眺める目的である旨を伝えた記憶がございます。
購入以降そしてこの先々も、管理人の頭上に載る日が生涯到来しないのは目に見えておりますため
知人友人で必要な方がいれば喜んで貸し出します。『海賊』メドーラあたりでも似合うかと存じます。
尚、装着したからと言って危機一髪時に誰かが救出に来る保証はございません。自力解決を宜しう頼みます。


ところで金曜日は帰宅後十字軍シャンパンを呑み、夢見心地で就寝し素敵な夢が見られたらと願ったのも束の間。
会ったのは(遭った)のはジャンではなく長時間の金縛りでございました。数ヶ月に1度は体験するためすっかり慣れてしまい恐怖感は最早無いのだが、
ヴェールは無いからとベッド近くの椅子に洗顔用白地タオルを掛け、そしてなぜか最近我が家の敷居を跨いだ
北国の銘菓白い恋人の袋を貴婦人の代わりに念のため立て掛けた安易にもほどがある準備に罰が当たったのか
バレエのような筋運びは夢のまた夢。現実はこんなモンダ。
しかしライモンダな日々はまだ終わらず、8月にはバレエ・アステラスがある上に9月は抜粋が上演される舞台を鑑賞に西側へ「遠征」予定。
無事に帰還、ではなくそれ以前に本来ならば昨年開催のはずであった舞台。生徒さん達のためにも今年こそは予定通り上演できますように。