2024年7月15日月曜日

新たな冒険と旅立ち  怒涛の青赤坊主な週間  新国立劇場バレエ団『アラジン』6月14日(金)〜6月23日(日)  計8回







だいぶ遅くなりましたが、新国立劇場バレエ団デヴィッド・ビントレー振付『アラジン』を8回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/aladdin/


※速報でもないがの記事と重複する部分が多々ありますが悪しからず。

2024年6月14日(金) 19:00

【アラジン】福岡雄大
【プリンセス】小野絢子
【ランプの精ジーン】渡邊峻郁
【魔術師マグリブ人】中家正博

2024年6月15日(土) 13:00
【アラジン】速水渉悟
【プリンセス】柴山紗帆
【ランプの精ジーン】木下嘉人
【魔術師マグリブ人】中島駿野

2024年6月15日(土) 18:30
【アラジン】奥村康祐
【プリンセス】米沢 唯
【ランプの精ジーン】井澤 駿
【魔術師マグリブ人】中家正博
※3幕は米沢さんが体調不良のため降板。
アラジン福岡さん、プリンセス小野さんに交代。

2024年6月16日(日) 14:00
【アラジン】福田圭吾
【プリンセス】池田理沙子
【ランプの精ジーン】渡邊峻郁
【魔術師マグリブ人】中島駿野

2024年6月21日(金) 13:00
【アラジン】福岡雄大
【プリンセス】小野絢子
【ランプの精ジーン】渡邊峻郁
【魔術師マグリブ人】中家正博

2024年6月22日(土) 13:00
【アラジン】奥村康祐
【プリンセス】米沢 唯
【ランプの精ジーン】井澤 駿
【魔術師マグリブ人】中家正博

2024年6月22日(土) 18:30
【アラジン】福田圭吾
【プリンセス】池田理沙子
【ランプの精ジーン】渡邊峻郁
【魔術師マグリブ人】中島駿野

2024年6月23日(日) 14:00

【アラジン】福岡雄大
【プリンセス】小野絢子
【ランプの精ジーン】渡邊峻郁
【魔術師マグリブ人】中家正博








福岡さんアラジンは憎めないやんちゃ坊主でここぞという見せ場での作り方、アクセントの付け方も巧みに見せ、年々若返るお化けな身体能力にまたもや脱帽。
21日は高校生達楽しませようと⁈枠外迄はっちゃけ踊って更に驚異な若さが加速していました。
この日は林檎食べ過ぎて咽せかけ、千秋楽はプリンセスの手を取る寸前のもういっちょ齧って笑、食べることに命懸け。
薬混入時の布被りが遅れても纏める力に恐れ入りました。
小野さんは芳しく知的なプリンセスで、登場時のそっと足を差し出す僅かな間にも気品が吹く貴さにうっとり。
プリンセスのソロはこれといって難易度高い振付ではないながら腕の差し出し方や音楽と繊細に戯れる優美さに心溶かされた思いでおります。
マグリブ人誘惑でのダークなお色気戦術も鳥肌ものです。
福岡さんと小野さん、言わずと知れた大看板ペアですが、トリッキーで角度の付け方やバランスも非常に難しいパ・ド・ドゥを
何とも音楽を共に奏でるように紡ぐ鉄壁超越なパートナーシップはこの2人ならではでしょう。

アラジン初挑戦の速水さんは笑い上戸な能天気アラジンで、ママ大好きな甘えん坊少年。駆け回る姿を始めとても似合っていて
前回のバヤデールでは時折見かけた力みもなく、大担ぎ半周リフトも成功。(ふう)
益田さん演じる母と楽しい親子ぶりで、母親が現れると怒られそうとビクつくこともなく途端に目がキラリとして「ママー」との吹き出しが見えたほど笑。
柴山さんは淑やかゆかしいプリンセスでアラジンに静かに心を開いて行く様子がいじらしい。マグリブ人誘惑は笑みも湛えて大胆に変化していました。
お風呂場ではシャララララと響く楽器と共鳴しながらのポーズが何とも魅惑的で、
顔を少し傾けての表情や腕を上下にしながらのゆったりした動きも慎ましさから覗く品が愛らしく映りました。
バヤデールのときは冷や冷やが尽きなかったお2人のパ・ド・ドゥも破綻なく、ひとまず無事終了。札幌公演も楽しみにいたします。(札幌も無事終了)
速水さんの札幌公演に向けてのインタビューのお言葉を拝借し、私もお腹パンパンで劇場に向かうのは間違いありませんが笑。(間違いなかった笑)

奥村さんアラジンは可愛さが倍増で悪戯するときのはしゃぎっぷりも子供らしい無邪気さ。
好奇心旺盛でその上踊りも若さが戻っていた気すら覚えるとにかく可愛らしいアラジンでした。
宝石場面の仕草が細かく、エメラルドの手のポーズの真似やダイヤモンドお付き達が次々と登場し
目の前を通過していく光景に興奮して数えたり、両腕を大きく掲げたりと反応が多彩。
洞窟に閉じ込められたときの不穏な嘆きも寂しそうで、さっきまでの宝石達を目の前にした歓喜が跡形もなく消え去って窮地を訴えていました。

米沢さんはしっとり上品で、輿に乗る直前にアラジンを再度見つめて笑みを送っていた表情が実に愛らしいプリンセス。
浴場での指先脚先から潤いが零れるような踊りや、3幕にて狩りへ行こうとするアラジンに対して
甘酸っぱい香りを漂わせながら寂しさを募らせる箇所もすっと伸びるポーズの美しいこと。
奥村アラジンとは優しさがほわっと広がるパ・ド・ドゥを披露され、心安らぐ気分で幸せに。
しかし15日夜公演では3幕前に米沢さんが体調不良のため3幕は降板。約30分遅れて開演して3幕は福岡さん小野さん組が代役を務めました。
眠りやドンキとは全然違った独創的なパ・ド・ドゥが3幕にもあり、ペアごと交代でないと対応不可能であったのでしょう。
緊急事態でしたが福岡さんと小野さんは全く動じず、幕が開くと1幕2幕で踊っていたかのように
新婚生活を謳歌しチェスで遊ぶアラジンとプリンセスとして登場され、大きくあたたかな拍手が沸き起こりました。
2年前の『シンデレラ』最終日に奥村さんが2幕で怪我をされ、3幕からは井澤さんが代役を務められたときも登場時には大きな拍手で迎えられたことも思い出します。
カーテンコールでは緞帳前に奥村さんも登場され、大喝采。そして奥村さんが福岡さん小野さんを呼び込んで3人で手を繋いでの特別挨拶が心に沁み入りました。
突如の事態に最も苦しい思いをなさっていたのは米沢さんご自身でしょう。22日昼公演は奥村さん米沢さん揃って
全幕主演できて安堵。米沢さん包む奥村さんのあたたかさにほっこりいたしました。

福田さんのアラジンは市場の後方から現れる一見見えづらい登場シーンであっても
屋台を覗く仕草や友人への挨拶、隙を突いて泥棒行為に走る部分始め行動全てがはっきりと見え、友人達と輪になっての水平跳びも形がぴったり。
22日夜公演であった惜しまれつつさよなら公演では、(実は後日のまさかの事態により22日夜がさよなら公演ではなくなったのだが)
登場時から演奏が聴こえづらくなるくらいの割れんばかりの拍手で迎えられ、全出演者のベクトルも全力で福田さんに向いている公演でした。
いたずらっ子なアラジンであっても大騒動を巻き起こしても、何だか周囲も怒りつつも嬉しそうで笑、悪さする様子を楽しんでいる印象すら受け止めた気がいたします。
宝石場面ではシルバー役の衣装から布が落下してしまうも、自然に拾い寧ろ演技に溶け込ませて
ラッキーと言わんばかりにひらりと見せて帽子に収納する対処の名手。最後まで必殺仕事人です。
中家さんのサルタン守衛とは浪速な面白バトルで、一呼吸置いてからニヤリとドヤ顔してからの追いかけっこで
強面なはずの守衛がどうしても見れば見るほど笑いの渦に呑まれてしまうのでした。

池田さんはちょこっとクールで近づき難いお姫様が少しずつ心を開いて行く様子が愛らしい。
2幕パ・ド・ドゥはアラジンとプリンセスこれまで全く異なる人生を歩んできた過程をゆっくり振り返りつつ気持ちの昂りが一気に突き上げていく流れを
大らかに表現されていました。マグリブ人誘惑の踊りでは足の軸が非常に強く、音楽にふらっと身を委ねてからの切り返しも巧みで
手にした杯をアラジンに向けて薬を早く入れるように示す合図はかなりの強気で揺らしながら作戦実行!

22日夜公演は18年間在籍されていた大功労者の福田さんのラスト公演であり、前代未聞な特別フィナーレも用意。
満場の観客からのカーテンコールが鳴り止まぬ中、ジーンがふわっと舞台袖に向かって誰かを呼び込み、
登場したのは福田さんを労う獅子舞。そして獅子の頭を取ると、中に入っていた主は同門である大阪のKバレエスタジオ出身の福岡さん!
いつ練習していたのでしょう笑!?後ろ足担当は獅子舞のベテラン達人の1人、安心の原さんでした。
そうこうするうちに福田さんは突然シューズを脱ぎ始め、何事かと出演者も観客も見つめていると山口百恵さん風にシューズを幕前に置き、一礼。
そうは言っても靴位置が定まらず、もっと前に置くようにスタッフから指示が飛んでいたと見受けましたが福田さんよりも先に池田さんが即座に理解してチャキチャキと指示。
最後までしっかり者のプリンセスと抜けたアラジンな物語がカーテンコールまでずっと続いているお2人でした。
プリンシパルではなくファーストソリストの退団での大フィナーレに疑問を投げかける方もいらっしゃるかもしれませんが
牧阿佐美さん、ビントレーさん、大原永子さん、吉田都さんの4名の芸術監督下で18年在籍され、入団間もない頃はラッパ手も務め地道な努力で遂に掴んだ全幕初主役は2019年のアラジン。
そして再びの全幕主役が退団公演のアラジンとなりましたが、主役ではなくても
ありとあらゆる公演にて舞台をぐっと引き締める役で大活躍され、舞台の何処かしらにいて欲しいと思わせる存在でした。
近年は振付活動でも新国立内外で活躍の場を広げ、特に大和雅美さんと組んでのDAIFUKUは定期公演化しています。
福田さんによる振付で存在を一気に押し上げたダンサーも何名もいらっしゃり、
殊にDAIFUKUでの小柴さんによるクラシックバレエも⁉きちんと踊る猫役は、強烈なキャラクターでございます。
福田さんの主役デビューも、退団公演も、アラジン初演メンバーやダンサー仲間も多数駆けつけ、福田さんの人徳でしょう。
懐かしい光景で溢れ、初演メンバーによる人数縮小版の財宝の洞窟の場面上演も可能な集結ぶりでした。

王子貴公子ではない、貧しい少年が主人公なわけですが、それにしても今回は4人中3人の昭和末期世代アラジンが
前回より若返っていたり表現が一層子供らしくなっていたりと深化にびっくり。
福岡さんはガキ大将、奥村さんは無邪気な子供、福田さんはやんちゃ坊主。
初挑戦の速水さんはママに甘えん坊将軍といった印象で、誰も似たり寄ったりがなく連日楽しませてもらいました。
そんなお騒がせアラジンに試練を与えてとことん追い詰めて行くのがマグリブ人で、中家さんのマグリブ人は豪胆で太く濃ゆい攻め。
中島さんはすっと冷たく入り込んできてからの高笑いが怖し。

ランプの精ジーンも三者三様。渡邊さんは力み無く何処へでもふわりと舞う妖精らしい浮遊感に、主人に仕える忠臣ぶりに加えて上に立つ支配者らしい威厳も増強。
大看板であり誰も太刀打ちできそうにない福岡さん小野さんペアをがっちり支えて導く風格や存在感に天晴れでした。
日によって、お仕えするアラジンによって変化もあり、学校公演の21日は笑みが多めで平伏しから起き上がる過程も美が濃縮。
学校公演時のポスター撮影場所はジーン、高校生達にも大人気で、腹筋を指でなぞりながら
鍛え抜かれた体型に感心している生徒さんもいて、満喫された様子が微笑ましく思えました。

福田さんラスト公演ではアラジンに呼ばれると宙吊りであっても喜び隠せず笑、ランプの精としての威厳は薄まっていたのはご愛嬌。
睦まじい関係性であり、ジーンがアラジンを慕って全身全霊で尽くしていて眺めているとほっと和む、そんな2人でした。
3幕終盤、無事絨毯に乗って故郷へ帰還した福田アラジンに再度呼び出され、いつものように恭しく平伏すも
解放を言い渡されたときは喜びの中に寂しさも入り混じった少しショボンとした表情が何だか可愛らしかったのでした。
対する福岡アラジンには互いに一歩も引かぬ火花を散らし合う強気のバトルな主従関係で、ギラついた熱さを重ね合いながらの展開。
ファーストキャストの福岡さん、ラスト公演であった大先輩である福田さんの18年間を締め括りの双方に相応しいジーンでした。
ジーン5回も拝見でき、場面から場面への橋渡し時の後ろ姿や浮遊姿もじっくり語りかけ
総踊りでのキンキラキンな側近達を束ねる力量や、ジャンプの成分表を網羅するかの如くふわふわ優美系から瞬発力の強いものまで
多種の跳躍を踊りこなし常に宙に浮いているように見せる、それでいて勢い任せにせず
全体に品を行き届かせるセクシー且つ高貴な妖精で、恐れ入る技術と支配力でした。
そういえば、3幕にてアラジンプリンセスの新居で違法訪問販売なマグリブ人に呼び出され寝台の下から出現したときの、
ビヨンビヨンとスプリングのように上下に動く様子が現れたばかりの妖精感があって目に焼き付いております。
アラジンに初めて呼び出されたときの、合わせた両手を片耳に当ててお寝んねしていましたの仕草を見ると、
このジーンは眠るときは子供の寝巻きに付いているような三角帽子を被って就寝しているのであろうと想像を膨らませ
一方で洞窟の上にシルエットとして現れたときの色めき立つ威厳や指先や顔の角度までもがこの世のものではないような美しいフォルムには息を呑んだり
ご主人は誰でも良いかと言ったらそうではなくマグリブ人の家に呼び出されたときの苦渋や、プリンセスを苦しめるマグリブ人の横暴な接し方に対して放つ鋭い眼光からは
ジーンにも心はあり、仕えたい相手とそうでない相手の差がはっきりと住み分けされているのだろうと初めて意識して考察。
ただご主人の言いなりになって跳んで回るだけでない、ジーンの多面性に気づかされました。

意外にも初役な木下さんは俊敏に跳ね回って舞台を取りまとめ、とりわけ仕草や目線も優しげ。
かなりやんちゃそうなアラジンに人生訓話を言い聞かせていそうな笑、今までお目にかかったことがないタイプのジーンでした。
井澤さんは大魔神な圧のある重厚感と前回よりキレキレ感も増した印象。
寝ているところを起こした奴は名乗れと言わんばかりの出現シーンは閻魔大王なおっかない迫力もあって、
アラジン母子が怯えるのも頷けます。3人見事なまでに全く異なるジーンです。

アラジンが辿り着いた洞窟の宝石達の場面は目にも眩く独特な質感の衣装もじっくり観察。
シャキシャキと飛び込んできてはコロコロ転がるようなピアノの音がパールやオニキスの軽やかさを思わせるオニキスとパールは爽快で
上下左右に次々とスピーディーに動きをペアで拡張させていく様子もユニークで面白い。
ゴールドとシルバーは渡辺与布さん朝枝さんの味わい深い煌めきが音楽を溶け合ってゆったりと心地良さを誘い
デカシルバーこと(褒め言葉です)吉田さんのはらりとした靡きや内田さん の柔らかくも芯あるゴージャス感も目に響きました。
サファイアは池田さんはくりっとした愛らしさで、木村さんは艶かしい風情を香らせ両者異なるアプローチ。
4人のサファイアのお供達からは水の泡がふわりと放っていそうな潤いが漂い、
どなかただったか福岡アラジンから肩をツンツンと突かれていてもにこやかな笑みやしっとりした体勢を崩さず動じず笑。

ルビーも3組個性様々。直塚さん渡邊さんは振り幅拡張型セクシー変わり種路線燃ゆる灼熱なルビーで
直塚さんの身体能力や技巧の上手さが存分に発揮されている上に、盤石に受け止め
更に背中のうねりや雄弁な腕運びによるダイナミックなサポートで規格外なポーズを構築していく渡邊さんも見事というほかありませんでした。
序盤の肩や背中の粘りや後も姿でも引き寄せる燃ゆるルビーでございます。踊りに加えて坊主に派手な曲線模様の頭飾りもセクシーに魅せていました。
新国立の投稿によればエジプトの赤をイメージと記されていましたがエジプトには見えないものの(坊主頭にシュッと髪が纏まって髷のようの出ているので中国?)
闇の帝王思わす妖しさやダークなオーラも放散するルビーでございます。
奥田さんと渡邊拓朗さん組のルビーは真っ直ぐ力強く美しく、整理整頓され敷き詰められたような宝石で
男性のお顔はそっくりながら笑、特に15日の昼夜での見比べは非常に面白く思えたのでした。
男性のおでこの装飾模様は彎曲系と直線系と2種あるのか、それぞれ違っていたのが気になるところ。
木村さんは洞窟の女王、井澤さんは洞窟の大魔王な組み合わせで急斜リフトもぴたりと綺麗な空中姿勢。

エメラルドは小川さんの上半身が蛇化したように語る柔軟性もびっくりで、立体感とストイックな雰囲気も好印象。
眩い光を纏い身体の緩急の付け方も鮮やかな渡辺さん花形さん、トリオのバランスもよく取れていました。
中島さんは瞬時に華やぎが広がり、益田さん原田さんの神経が行き届いた腕運びや身体の捻りの美しさも目の保養。

背中含めて全身が磨き抜かれた精巧な輝きを纏うダイヤモンドそのものな奥田さんはまさに宝石職人で、構造が複雑なステップもくっきり正確。
利き足と逆回りであろう回転も余裕綽々である上により一段階粘ってのされど音楽にぴたりと嵌る至芸に痺れました。
山本さんは空間の使い方がとても大きく、お付き達を従えていても新人抜擢感を思わせず舞台度胸も強し。
お付き達のコール・ドは何度観ても、集合体からの散りばりのフォーメーションの変形やシャキンと構えるポーズといい
爪先立ちのまま両腕を流れるように掲げながらの移動といい、ダイヤモンドの多面的な光を体現する振付に唸ってしまいます。
ダイヤモンドからそのままコーダへの突入し、宝石それぞれの音楽を盛り込みながら特徴ある振付を再度踊り登場してくる展開や、
最後、円形になって内側からのリフトの連鎖も初演時からずっと胸をキュッと揺さぶられる場面の1つです。
ディヴェルティスマンとは呼んでも、踊り終える度にアラジンが絡んで次へと橋渡ししていくためぶつ切りには感じさせず
宝石の受け取り方も、宝石達を眺める様子もアラジン各々に委ねられているのか
可愛らしく摘まんでイチゴ狩りもあれば頭から根刮ぎ取ろうとするアラジンもいて笑、人それぞれです。
コーダが終わると再び流れる序曲にのせて、ダイヤモンドの合図で全宝石達が身体を交わしながら道のりを作ってアラジンを案内し
ランプへと到達させる導きもよく練られた演出で、のちの冒険に欠かせないランプと遂に対面する場面として申し分ない浪漫掻き立てる出会いでしょう。
思えば2022年には吉田都セレクションで演目変更生じてこの財宝の洞窟場面を抜粋上演するはずが中止に。
2012年の記念すべき第一回NHKバレエの饗宴ではトップバッターとしてこの場面が上演された日が懐かしく思い出されます。
ところでジーンの出現と同時にザルにたっぷりと宝石を盛ってやってきた宝石達。アラジン母が家の中にジーンと宝石達をそのまま招き入れていましたが、
いったいどんなもてなしを受けたのでしょう。裕福なお家ではないはずですから、お茶淹れての宴でも開催したのか。

アラジンと取り締まる、警察ならぬ守衛24時な活躍を見せるサルタン守衛もダブルキャスト個性が全然違っていて
渡邊拓朗さんの守衛隊長の取り締まりも毎回ツボ。とりわけ福岡アラジンを取り締まるなんていくら舞台の中でのこととはいえ余程の勇気がないとできないはずでしょうが
しかし首根っこの掴み方といい鬼の形相での追いかけ方といい懲らしめっぷりがおっかない。
また今回初めて守衛隊長の動きを追ってみると、アラジンを部下達が一斉に捕まえようと覆い被さろうとするときは
直前に守衛隊長が部下達に指示を即座に与えて連携対応させたりと実は張り巡らしも万全に行っていると初演から16年経ってようやく分かった次第です。
中家さんは福田アラジンの箇所で少し触れましたが、一呼吸置いてからのニヤリとした表情や間の取り方が
どうしてもコメディ路線に走り、怖そうな風貌とのギャップに毎度笑わせてもらいました。
ただアラジンの女性風呂侵入を防げなかったのは謎で、のちに警護任務違反としてサルタンに罰せられなかったのか、心配も募ります笑。

問題児なアラジンを育てるアラジン母の愛情もそれはそれは大きく、中田さんはオカンで突き抜けた迫力。腰を傷めている設定なのか
市場でのアラジンの騒動では愛息子を追いかけては出店の屋台に手を置いて腰をさする様子がリアルで自然。
2幕アラジンの裁判にてサルタン守衛やサルタンには命を差し出す覚悟すら滲む肝っ玉母さんでした。
益田さんは可愛らしいママで、息子の罪の許しを願うときのひたむきさが健気。
怒るときもそこまでおっかなくはなく怒っても息子が愛おしくて仕方ないママっぷりです。

大掛かりな仕掛けや美術装置も見どころで、やんちゃな少年アラジンが誰かの助けを借りつつも困難を乗り越えプリンセスと結ばれるまでを
楽しくユーモアに富んだ展開で進行していきます。マグリブ人の腰掛けた定位置が実は既に魔法の絨毯の仕掛けが隠されている点や
高台の上に登ったアラジンが後方を向いている間にぐるっと装置が回転して洞窟への階段が現れる転換、
行方不明になったアラジンが母のもとに帰ってくる煙を炊くびっくり箱な演出も毎回アラジン母の気分で仰け反り驚いてしまう息子の帰還です。
時間軸戻ってアラジンを中心とした街の喧騒では音楽の波にのって街の人々がうねりを作ったり
浴場から裁判行う宮廷への転換には真似する一呼吸続出!?サルタンや裁判官達の鷹揚とした登場の行進が含まれ
さりげない箇所や次場面への過程においてもぶつ切りにならぬどころかより面白さが増幅するような隙なき工夫が随所に見られます。

またカール・デイヴィスの音楽が時に東洋の趣を帯びた美しい旋律に彩られて聴き惚れ、
遥か彼方へと導かれていきそうな壮大な序曲から管理人は毎回胸が一杯になっております。
楽器多彩で東洋の趣な音楽を万華鏡の如く連日演奏してくださった東フィルにも拍手です。
ちなみに、札幌公演での札幌交響楽団はだいぶ演奏カラーが異なりましたので、また後日綴って参ります。

それから全く同様の内容を速報でもない速報で記しましたが、今後の再演時に劇場側にお願いしたい要望で、
アラジン親子の格好や所々中国の文化が取り入れられている理由についてはプログラムに明記願いたい。札幌公演でも中国への疑問を語るお声が多々聞こえました。
幕が開くと街はアラビアな風景ながらアラジンと母親は中華帽に中華服な格好で登場し、結婚のお祝い事では獅子舞、3幕フィナーレでは龍の舞が披露され
当たり前ですがホワイエの会話でもあちこちから聞こえてきました、何で中国やねん。
決してビントレーさんが適当にアジアンミックスしたわけではなく、初演のプログラムによれば<アラビアンナイトの原作では、
アラジンは「中国の町」に暮らす中国人の少年なのである>
<ディズニー映画『アラジン』が公開されるまで、イギリスの子どもたちは中国風の格好をしたアラジンに親しんできた>と紹介されています。
そして他のビントレーさんのインタビューにて、日本ではアラジンといえばアラビアンナイトだから、
アラジン親子はアラビアの街に移住した華僑に設定したと明かしていらしたかと記憶しております。
様々な地域の文化が混在した演出にはなっているものの、露骨で恐ろしく問題ありな描写は概ね見当たらず
同じくビントレーさんの振付全幕作品で2011年に新国立で上演した『パゴダの王子』の4地域の王様達の描写
(21世紀に制作した作品としては問題視を避けられない衣装や設定と思います汗)とは違って許容範囲かとは思っております。
肌を青緑に塗ったマグリブ人の描写については、賛否両論もあるかもしれませんが。

新国立劇場バレエ団のために振り付けられた世界初演は2008年は直前にリーマンショックが襲い、当時の総理大臣が突然辞任したりと明るくはない報道が立て続けに発生していた頃で
牧阿佐美芸術監督も世相を憂慮する挨拶文を初演のプログラムに寄せていらっしゃいました。

アラジンが走っていってモロッコに辿り着いたとされる設定や、ジーン、マグリブ人、プリンセスの人形が飛んでいくときと魔法の絨毯で浮遊時に
アナログな差し金の鳥さん達が飛翔している演出等突っ込みどころが全くないわけではありませんが、
開放感のあるハッピーエンドな大団円で爽快な気分で劇場をあとにできる作品と感じております。
次回上演ではきっと新たなアラジン、プリンセスも誕生することでしょう。4年後と仮定して渡邊ジーン、可能ですわな。次もルビーも⁉
5年ぶりの今回も、青と赤の坊主限定髪型期間を堪能いたしました。
※札幌公演へ続く




アラジンのポケットサンド。宝石をいくつも採ってはポケットに入れていく行動にちなんでのサンドイッチらしい。(羽田空港バージョンは空港で食べたことがあります。)
ビールの注ぎ方は自画自賛笑。まずまずジューシーなカツサンドでした!
ところで私はラッコ好きなのですが、バレエでのアラジンは一見帽子の中が四次元ポケット状態にあるのかと疑うような、宝石を入れた帽子をそのまま被っていましたが
ラッコは身体を自在にポケット化させて次々と貝やら石やら収納していく名人です。




洞窟場面の氷柱に似ている夜のオペラパレス外階段の灯り。



米沢さんが心配になってしまった15日夜。22日(土)昼公演は奥村さんと米沢さん揃って全幕出演でき、心から安堵いたしました。魚介と夏野菜のマリネ、いただきます。



帆立貝とルッコラのトマトソースのペンネ。帆立ゴロゴロ。サファイアの海模様な衣装、振付はいつ観ても涼やかで美しや。
果肉たっぷりトマトソースそして赤ワインの輝きがルビーにしか見えません。



フロマージュブランのムースとファーブルトン。チェリーらしきフルーツがぎゅっと濃縮。
フワフワクリームと一緒に締め括りです。イチゴやソースがルビーにしか見えません笑。美しく赤きルビー。



毎度のオアシスで、チャイナブルー。今回の演目役柄にぴったりです。



足りなくて、ビールも欠かせません。



さあこれからルビー!そして、どうか予定通りの主演ペアで全幕上演できますように。
千秋楽はカップケーキに長細いお菓子が刺さっていた気がしたが、増えたのかシュークリームか何かの代わりか。気になるところ。



良かった、奥村さん米沢さんの久々の全幕共演が無事実現。まずはこの話題で持ちきりでした。お2人特有のほんわか爽やかな雰囲気、心癒されます。
そしてルビーも堪能。赤が目立つ前菜盛り合わせとキールロワイヤルで乾杯です。



5年前の公演にて木村さんと組まれたときはほんのり妖しいペアでしたが直塚さんとはコブシの効いた、ねっとり規格外ダイナミックルビーでこれはこれで大興奮。



奥村さん米沢さん組の公演を思い起こさせるまろやかなシュレッドチーズとクリームソースでした。



いよいよ福田さんラスト公演。ジーン、しっかりお仕えを!



千秋楽!やっとこさケバブサンド。トマト味強めで刺激は抑えめだったかと記憶。具がはみ出過ぎず、食べやすい。



前週とは異なるグラスの形でチャイナブルー。



3ジーン、三者三様で見比べ楽しい期間。プログラム上から、強気なときと忠臣なときの振り幅が大きいふわふわ妖精、
シュッとした切れ味で優しげに導く仙人、初台の大魔神、と全員違って面白く鑑賞いたしました。



ブルーハイボール。赤もありつつ7回分の5回は青い、なる公演期間でした。しかし新国アラジンの冒険はまだ終わっておらず、このあとは札幌公演。(公演終了、感想は後日)
カール・デイヴィスの壮大で東洋の趣きを帯びた色彩豊かな音楽を札幌交響楽団が演奏するのも注目しております。
空飛ぶ絨毯に、ではなく飛行機に搭乗して、1幕序曲や3幕絨毯飛翔の音楽を脳内再生しながら管理人も津軽海峡夏景色を眺めつつ北の大地へと飛んでいきました。
5年前の富山公演と同様、7月にマイ誕生石のバレエ版を虜なお方で拝見できるとは、うう楽しみ。
アラジンではないが、宝石ではなく美味しい飲食物をたらふく胃袋に入れての鑑賞になりそうで、
体型がこれ以上サルタン化しないよう注意を払わねば。(もう遅い。ラーメン3杯食べて参りました)

2024年7月11日木曜日

日本舞踊とバレエが織りなす展覧会の絵 ムソルグスキー生誕185周年記念コンサート 7月1日(月)





順番前後いたしますが、先にこちらから。7月1日(月)、銀座の王子ホールにてムソルグスキー生誕185周年記念コンサートを鑑賞して参りました。
http://www.russian-festival.net/program.html

前半はミハイル・カンディンスキーさんによるピアノ演奏で『禿山の一夜』。
ヴィタリ・ユシュマノフさんのバリトンによる歌劇『ボリス・ゴドゥノフ』より、山田剛史さんのピアノ伴奏で披露されました。
カンディンスキーさんは渋めな曲を軽やかで力強いタッチで演奏され、ユシュマノフさんはとても滑らかな歌声。
身体と違って耳が肥えていない私ですが、どちらも楽しませていただきました。

そしてお待ちかね。後半は『展覧会の絵』を日本舞踊とバレエ、ピアノ演奏で披露するプログラム。
プロムナードに始まりひよこ、キエフの大門まで、10本の要素から成り、木曽真奈美さんのピアノ演奏で
藤間蘭黄さんの日本舞踊と、山本隆之さんのバレエによる共演が実現いたしました。
舞踊ジャンルは異なるも、藤間さんによるムソルグスキーと山本さんによるガルトマン(ムソルグスキーの親友)の間で交わされる温和な感情が響き、
木曽さんによるソロとは思えぬ多層的な演奏に包まれ調和していく光景に胸が高鳴り続けました。
藤間さんが踊られる姿を拝見するのは恐らくは初で、日本舞踊家の公演鑑賞は2010年に半蔵門の国立劇場(行く末が懸念されるが)で開催された
矢上恵子さん振付のコンテンポラリーを日本舞踊家達が踊る企画公演や、2016年に山本隆之さんが日本舞踊家西川祐子さんと共演された舞台、井上バレエ団ゆきひめ以来かと思いますが
力強く踏み締める踊りがずしっと響き、所作も綺麗なだけでなく太い輪郭で描き出すような鮮やかさ。
冒頭のプロムナードから余りに音楽と一体化していたためか日本舞踊で演じるムソルグスキーにも違和感無しでした。

そして山本さんのガルトマンの美しいこと!シャツにパンツのシンプルなお姿がしなやかな身のこなしを一段と引き立たせ、
ムソルグスキーへの語りかけも上体から大らかで優しい情感がふわりと零れて香り、
病で倒れるところは胸が締め付けられそうになるほど苦しそうで、床を履いながら今にも息絶えてしまいそうな恐ろしさを放っていて震えが止まらず。
やがて気丈に立ち上がっても何処か命の限界を彷徨うように、されど晴れやかに歩み出す姿に心を持っていかれました。
遂に命を落としたときにムソルグスキーの後悔や絶望は全身から涙を流すかの如く重たい悲しみが空気を覆い
しかしガルトマンの幻影(白い衣装に替わりました)が現れると、輝きをもたらすような純白な踊りに救われ
徐々に気力を取り戻していくムソルグスキーが眩しく見えた次第です。最後は昇華したガルトマンが上半身裸体になり、削ぎ落とした美が神々しうございました。

王子ホールは昨年7月21日に開催された滝澤志野さんのピアノリサイタルにて初めて足を運びましたが
今回は音響もさることながらピアノ1台と2人の舞踊家が共演する舞台として面積もほどよく
両脇の扉も生かしての出入りも工夫が行き届いてスムーズ。ムソルグスキーが考え込んでいるところへ
ふとガルトマンが現れる鮮烈な喜びの演出も、扉の奥からの登場が鍵にもなっていたと見て取れました。

プログラムに掲載された桜井多佳子さんの解説によれば、初演は2017年のキーウで、黄金の門(展覧会の絵でも描かれているキエフの大門)の中に組まれた特設ステージで
このときはムソルグスキーが藤間さん、そしてガルトマンは寺田宜弘さん。解説に目を通して初めて初演時の様子を知り、
作品の世界観そのままな場所での初演に目が飛び出そうになったものです。
可愛らしく軽快な響き合いが印象深いひよこの踊りの部分は初演時はキーウ国立バレエ学校の生徒が寺田さんの振付で務めたそうですが今回はガルトマンつまりは山本さん。
カラッと明るい笑みを全身から静かに照らしながらムソルグスキーを見守りエネルギーを注入するように舞っていらして、それはそれは涼やかな美の連続。
この曲が人生初バレエの発表会の中の1曲で自体に思い入れがある私ですが(ひよこの格好してパタパタバタバタしながら踊りました。今も振付は覚えております)
当たり前ながら山本さんが踊られると全く違う曲に聴こえ、最高級な響きが脳に胸に迫ってくるのですから不思議なものです。

一方で寺田さんも出演されキーウで初演された作品を現在の情勢下におけるロシア文化フェスティバルで上演するのは複雑さもあり
会場外では拡声器を用いて開催に抗議する方の姿も見えました。バレエ界においてはボリショイやマリインスキー、ダンチェンコ始めロシアのバレエ団来日や、
個人であっても、諸外国の所属ではあってもロシアのダンサーの来日も容易ではなく(ガラ等では来日していますが)
ボリショイシネマは即刻中止。ボリショイ劇場で行われるブノワ賞授賞式も協賛機関が離れていく中、厳戒態勢での実施しょう。
そんな最中、ロシア連邦文化省が後援の1つであり、司会者による今後のロシア文化フェスティバルプログラム内容紹介にて
ロシアの数々の映画や音楽、演劇関連の名称が次々と紹介されていった状況に違和感を覚えなかったかと聞かれたら首を決して縦には振れません。
勿論、上演は嬉しく私もすぐさまチケットを購入はいたしましたが、芸術は切り離して考えるべきとも思いつつも
とどまることがないロシアによるウクライナ攻撃の報道を見聞きするたび、手放しでは喜べぬ難しさは何処かに残っております。
ただ繰り返しにはなりますが木曽さんのピアノで藤間さん山本さんが舞踊のジャンルを超えて共演する夢舞台は幸福をもたらしてくださいました。




矢上恵子さん版『展覧会の絵』。2008年にKバレエスタジオでの上演時に鑑賞しております。
恵子先生作品にしては珍しく女性がポワント履いて踊る振付もありました。
雛の場面にて、ジュニアの生徒達がランドセル背負って卵の殻のような頭飾りを被って踊る演出も衝撃が走りました。
そして2010年に国立劇場で鑑賞した矢上恵子さん作品を日本舞踊家達が踊る破天荒⁈企画。恵子先生が藤間さん、桜井さんとのご縁がきっかけで実現したようです。日本舞踊とコンテが妙にしっくりな面白い企画でした。



帰り、会場すぐそばのマトリキッチンにて。夜でもセットメニューがお手頃価格でいただけました。



モルドバの赤ワイン



ボルシチはあっさりめ、ピロシキの中はひき肉たっぷり。



1階のワインの並び。

2024年7月2日火曜日

涼しげなダブル・ビル  NBAバレエ団『セレナーデ』『真夏の夜の夢』6月30日





順番前後いたしますがこちらから。6月30日(日)、NBAバレエ団  ジョージ・バランシン振付『セレナーデ』、
クリストファー・ウィールドン振付『真夏の夜の夢』を観て参りました。
https://nbaballet.org/official/amidsummernightsdream/


『セレナーデ』
ロシアンウーマン:勅使河原綾乃
ダークエンジェル:米津美千花
ワルツウーマン:山田佳歩
ワルツマン:宮内浩之
エレジーマン:刑部星矢


これまでバランシン作品は『アポロ』や『スターズ・アンド・ストライプス』全編等何本か挑戦していますが『セレナーデ』はNBAとしては初演。
新国立やKバレエ、東京バレエ団、スタダン、牧バレエ等国内の主要なバレエ団が
レパートリー入りしていながら同じ振付でもカンパニーごとに色味が異なってくるのが興味深いと観る度に感じます。
NBAは溌剌としたスポーティーなパワーが光り、後半のエレジーは踊りは盤石ながらもう少し香り立つものがあれば
余韻が残ってより美しさに浸れた気がいたします。序盤やワルツ部分のほうが持ち味を生かしていたと思う印象です。
ただ踊りは非常によく訓練されていて、全体を観ていても気持ち良い、揃ってシャキシャキと刻まれていくテクニックが広がっていましたから
是非再演を重ねて全編の完成度を高めて欲しいと願います。連日続く高湿度な気候の最中、優しく神秘的な明かりがふわりと照らされた幕開けといい、
淡い水色のチュチュが靡いていく光景といい涼やかな気分になったのは間違いなく、NBAで観たい作品が増えました。



『真夏の夜の夢』

ティターニア:渡辺栞菜
オベロン:刑部星矢
パック:新井悠汰
ハーミア:市原晴菜
ライサンダー:伊藤龍平
ヘレナ:別府佑紀
デミトリウス:三船元維
ボトム(ロバ):古道貴大
ピースブロッサム:勅使河原綾乃
デミフェアリーズ:大島沙彩  向山未悠


スケルツォのリハーサル。妖精の真ん中にいらっしゃるピースブロッサム役の勅使河原さんにご注目を。



5年ぶりの鑑賞。しかし2幕仕立てであった点を含め記憶が彼方状態になっている部分も多々あり
また訳あって昨年の春の大型連休中に7回も観たアシュトン版が刷り込まれているせいか新鮮な心持ちで鑑賞に臨みました。
幕が開くと森の風景ではなくアテネの首領シーシアスの宮殿。結婚を巡ってのいざこざが生じる中、
やがてハーミアとライサンダーが駆け落ちを決意して舞台は森へと移る始まり方でした。

子役による小さな妖精も大勢登場したりとほのぼのとする場面もある一方で妖精や群舞の振付はなかなかの鬼演出で、
中でもスケルツォにおけるピースブロッサムの勅使河原さんが大職人な仕事ぶりに天晴れ。
観ながら思い出しましたがウィールドン版はオベロンやティターニアよりもパックを始め準主役陣やコール・ドに寧ろ出番多く高難度振付を与えていて
殊に目覚ましい存在感を放つのが勅使河原さんによる妖精番長なピースブロッサムでございます。
突風の如く駆け抜け、しかも素早い且つ移動距離も長い脚捌きが冴え渡っていてジャンプも高く、ポジションの切り替えもくっきりと巧み。
妖精を率いながら踊っていても頭一つ抜けた職人芸で、決して手脚が長い背が高いタイプのダンサーではないながら舞台姿が実に大きく見えた印象です。

またデミ・フェアリーズやフェアリーズもシャカシャカとスピーディー爽快に飛び交い、脚先をしっかり見せつつ強弱もつけて舞っていて締まりがあり
オベロンのお付きのようなメンフェアリーズも加わると力強さも増して、パックの新井さんの愛嬌と繰り出される音楽の隅々まで使っての強靱なテクニックもお手の物。
別府さんヘレナの顔と身体ともに表情豊かでいますがどういう心理状況であるか明快に示して場面を盛り上げてくださっていた姿も脳裏に刻まれております。
ほっこりぬいぐるみなロバを被った古道さんボトムは首を傾げたり頷いたりするだけでも可愛らしく、魔法薬がなくてもティターニアは恋とは違っても夢中になったと想像。

婚礼衣装に着替えたハーミアとライサンダー、ヘレナとデミトリウスを筆頭に結婚式に臨むカップル達のお祝いも披露され
オベロンの刑部さん、ティターニアの渡辺さんによるパ・ド・ドゥもしっとりと端正で
思えば1幕のとりかえ子(養子)の奪い合い喧嘩もアシュトン版ほどは激しくなく子には一段と優しい演出で、おっかない責任転嫁もなく笑
ウィールドン版は急速展開な高難度振付とほんわかとした空気感の双方が備わっていると捉えております。
最後は再び妖精達が集まっての幕切れも幸福がぐっと増して、金吹雪もあり。再び戻った平和な森の風景を明示しながらの良き演出と思えました。

バランシンとウィールドンの振付を同日にダブルビルとして観る楽しさ、そして両作品とも肩肘張らずに鑑賞でき
衣装の素材も爽やか涼しげで音楽も胸がキュッと高鳴るような旋律も散りばめられ、清々しい気分で会場をあとにいたしました。








終演後見送りサービス。セレナーデもピースブロッサムもシングルキャストの勅使河原さん、古道さん、新井さん、前日のティターニア山田さん。
ボトムロバの古道さんが、勅使河原さんに面白く絡んでいました笑。



約1年半ぶりの東武東上線。列車発着音楽がモーツァルト?



会場最寄り駅の大山駅近くでつけ麺、ラーメン店のさい。へ。 店名に丸がつきます。さいは動物のさい。レジ横にさいコレクションがありました。



キンキンに冷えたジョッキでビール!お通しのメンマが葱と馴染んでいて美味しい。メニューにもさいのシルエット。



スタンダードなラーメンを。つけ麺がメインのお店のためかスープは濃いめでしたが後味良く、飲み干してしまった。
丼の花模様がパックが手にしているお花に似ています。



板橋区立文化会館。大ホールへは2017年8月以来の訪問。そのときは発表会鑑賞であったため2階3階へは上らず気づかなかったが、壁やロングシャンデリアが立派な作り。



雨のように伸びて光が降り注いでいます。



ぼんぼりのようにも見える形です。



今回の板橋ふしぎ発見。謎の秘密基地なテーブルと椅子達。



半個室です。用途は不明。秘密会議でも行うのでしょうか。



椅子によっては死角で外から見えず。



なかなか古き風情ある作り。



秘密基地を出ると真ん中には円卓。幕間の会議用でしょうか。会議は踊る!



ハッピーロード大山を抜ける。



大山駅。また8月のお盆の時期に参ります!NBA鑑賞のこの日に概要が発表され、同じ会場ですからタイミングといい喜びもひとしおでございました。

2024年6月30日日曜日

日本の文化や自然を愛おしむ忍者達 新国立劇場   森山開次  新版・NINJA





順番前後いたしますが6月28日(金)、新国立劇場にて森山開次さんによる新版・NINJAを観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/ninja/





【演出・振付・アート・ディレクション】森山開次
【音楽】川瀬浩介
【照明】櫛田晃代
【映像】ムーチョ村松、Thomas PAYETTE
【衣裳】武田久美子
【音響】黒野 尚

【出演】
森山開次
青木 泉
浅沼 圭
佐藤洋介
根岸澄宜
府川萌南(新国立劇場バレエ研修所)
美木マサオ
水島晃太郎
南 帆乃佳
吉﨑裕哉


現在上演中ですので、さらりと参りますが、初鑑賞で予備知識なく予習もせずぶっつけ本番で鑑賞に臨んだものの
日本の文化や自然を愛おしむ忍者達のユーモアでお洒落な踊りの連続で、和の趣もばっちり。
床照明のプロジェクションマッピングの繊細緻密な美しさや吊るされたカラフルな手裏剣の組み合わせも目に響き
想像以上にわくわくと面白く、満喫いたしました。忍者の1人が差し金に付けた虫だったか、客席に伸ばすとお子さんの観客も大喜び。
またこっそりひっそりの台詞を始め日本語のリズムや語呂合わせや自在に別の生き物に変身する忍者達の姿、手裏剣を模したクッション?投げにも
お子さん達の遠慮のない笑いも度々起こり、<大人も子どもも楽しめるダンス作品>のコンセプトにも納得です。
忍者と言っても黒装束一色ではなく皆色違いで、時代劇の黒装束一色な立ち回りではなく、目にも楽しい色合わせ。
そして前回バレエ研修所の中川奈奈さんが務めて話題となった役を今回は府川萌南さんが踊られ、
濃い朱色や金色を重ねた和装なチュチュも似合って空間支配力もあり、スパっと伸ばした脚で次々と語らっていく様子に吸い寄せられました。
そして森山さんの小道具使いにもたまげ、新体操のリボンな道具を炎に見立てながら回転を続けてめらめらと燃え上がる光景の描き出しも驚かされたひと幕です。

お茶目な雰囲気から一変、後半はシリアスな場面が続くも、肉体をぐっと駆使しては造形していくポーズの数々や
ちょうどこの日の昼頃までの天気を想起させる土砂降りといった自然の厳しさの描き方も見入ってしまう演出でした。

忍者の格好をしつつも第一線で活躍する布陣が集結していて、ダンスも演出振付全てが隙なく高水準。
加えて森山さんの日本の情緒を丁寧に汲み取りユーモアや侘び寂びも含ませて美しく描く演出力に触れると
そうです。『竜宮』再演を熱望いたします。勿論今夏の貝川鐵夫さん新作である夏の子どもバレエ『人魚姫』も楽しみですが
太郎が辿り着いた竜宮城での涼やかで賑やかな海の神秘の世界観や四季を丹念に舞踊化した作品、
2020年、2021年と子供達も劇場に訪れにくい時期の上演でしたのでどうか来年夏こそは再演を。幅広い世代の方々にご覧いただきたい作品です。




第一線で活躍する方々が集結。



開演前に初めてオペラシティのそじ坊へ。日本の家屋な作りの中でいただけます。そば焼酎、つややかな喉越しでした。

2024年6月21日金曜日

フランス・ダンスの歴史V「ダンスとドラマ」 第5回 : 『椿姫』(ジョン・ノイマイヤー振付)





6月19日(水)飯田橋の東京日仏学院にてアートのアトリエ : フランス・ダンスの歴史V「ダンスとドラマ」 第5回 : 『椿姫』(ジョン・ノイマイヤー振付)受講して参りました。
昨年頃に講座を知ったものの気づけば終了或いは申し込み期限を過ぎてしまったりと機会を逃し、今回ようやく受講できました。 講師は岡見さえさん。ご自身の経歴そして開講場所もその名の通りフランス地域に特化したテーマで講座を開いてくださっていいます。
https://culture.institutfrancais.jp/event/cours-culturel-printemps2024-5

今回は『椿姫』原作の成り立ちや振付の見どころ、青・白・黒それぞれのパ・ド・ドゥの醍醐味等をパリ・オペラ座2008年映像を見ながら分かりやすい説明で進行。
悲劇であっても狡賢いキャラクターの瞬間駄目行為(マルグリットが落としたさりげなくネックレスをお持ち帰り)といった思わずクスリと笑ってしまうポイントも把握でき、
6年前にはハンブルク来日で、その前にはボリショイシネマで鑑賞していたが気づいていなかった点が
多々あったと反省。今年のシュツットガルト来日の参考にしたいと思っております。
初受講でしたが終了後は質問内容を共有したりと和気藹々としていて岡見さんも気さくなお人柄。
堅固な建築にて夕暮れから夜へと変化していく中庭の景色も素敵な空間です。
寂しい気持ちには全くならぬどころか参加できて大変嬉しい楽しい講座でした。

岡見さんとはこのたび初対面。プロフィールに書かれていた日本で教鞭をとられている大学名や
トゥールーズ・ミライユ(現ジャン・ジョレス)大学で学ばれたご経歴、加えて親しみを持たずにいられぬありきたりでないお名前から
是非受講したいと思い5回シリーズ最終回にしてようやく受講に至りました。私が学生時代にお世話になった先生のこともよくご存知な上に
南仏のバレエ団のご出身で現在初台で華々しい活躍真っ盛りな舞踊家のお話云々学びと楽しい時間が凝縮。ありがとうございました!
頭を中東中国から総入れ替えしてフランスの世界に身を置いた水曜日の夜でした。また受講が待ち遠しい講座です。




中庭。レストランやテラス席もあります。テイクアウトできる商品もるようで、入口近くではグッズやお土産も販売。マスタードが目に留まりました。



飯田橋駅前。線路は続くよどこまでも。



上は野獣の研ぎ澄まされた飛翔写真、下は強面スルタンのダイナミックで彫刻のように整ったリフト。こういった野性的な色気ある役柄ももっと拝見できますように。
ケースを開けても解説所やディスクに渡邊さん。2017年1月に立て続けに購入したトゥールーズのキャピトル・バレエ団の大切なDVDです。
※美女と野獣、新国立劇場のシアターショップで取り扱っているようです!

2024年6月17日月曜日

【速報でもないが】【おすすめ】新国立劇場バレエ団  デヴィッド・ビントレー振付『アラジン』前半日程2024





新国立劇場バレエ団デヴィッド・ビントレー振付『アラジン』前半日程を4回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/aladdin/


告知映像。2019年公演より。奥村さんアラジン、米沢さんプリンセス、渡邊さんジーン。



初日の様子。カーテンコールにビントレーさんも登場!



ジーン達のリハーサル。三者三様です。



バレエチャンネルさんによる動画




バレエチャンネルさんによる福田圭吾さんロングインタビュー。これまでのキャリアから18年同じバレエ団にて活動できた理由や今後の夢等ボリュームたっぷりな内容です。



まだ後半日程がありますのでここではさらっと程度の感想にとどめ、詳細は全日程終えてから載せて参る予定でおります。
初日は福岡雄大さん小野絢子さん組。福岡さんアラジンは憎めないやんちゃ坊主で
ここぞという見せ場での作り方、アクセントの付け方も巧みに見せ、年々若返るお化けな身体能力にまたもや脱帽です。
小野絢子さんは芳しく知的なプリンセスで音楽と繊細に戯れる優美さとマグリブ人誘惑でのダークなお色気戦術もうう鳥肌もの。
トリッキーで角度の付け方やバランスも非常に難しいパ・ド・ドゥを何とも音楽を共に奏でるように紡ぐ鉄壁超越なパートナーシップはこの2人ならではでしょう。
アラジン初挑戦の速水渉悟さんは笑い上戸な能天気アラジンで、ママ大好きな甘えん坊少年。駆け回る姿を始め、とても似合っています。
益田裕子さん母と楽しい親子ぶりで、益田さん母が現れると途端に目がキラリとして「ママー」との吹き出しが見えたほど笑。
柴山紗帆さんは淑やかゆかしいプリンセスでアラジンにそっと心を開いて行く様子がいじらしい。マグリブ人誘惑は笑み迄湛え大胆に変化していました。
バヤデールのときは冷や冷やが尽きなかったパ・ド・ドゥも破綻なく、ひとまず無事終了。

奥村康祐さんアラジンは可愛さが倍増で悪戯するときのはしゃぎっぷりも子供らしい無邪気さ。
宝石場面の仕草が細かく、エメラルドの手のポーズの真似やダイヤモンドお付き達が次々と登場し
目の前を通過していく光景に興奮して数えたり、両腕を大きく掲げたりと反応が多彩でした。
米沢唯さんはしっとり上品で輿に乗る直前にアラジンを再度見つめて笑みを送っていた表情が実に愛らしいプリンセス。
奥村アラジンとは優しさがほわっと広がるパ・ド・ドゥを披露され、心安らぐ気分で幸せに。
しかし3幕前に米沢さんが体調不良のため3幕は降板。約30分遅れて開演して3幕は福岡さん小野さん組が代役を務めました。
眠りやドンキとは全然違った独創的なパ・ド・ドゥが3幕にもあり、ペアごと交代でないと対応不可能であったのでしょう。
緊急事態でしたが福岡さんと小野さんは全く動じず、幕が開くと1幕2幕で踊っていたかのように
新婚生活を謳歌しチェスで遊ぶアラジンとプリンセスとして登場され、大きくあたたかな拍手が沸き起こりました。
2年前の『シンデレラ』最終日に奥村さんが2幕で怪我をされ、3幕からは井澤さんが代役を務められたときも登場時には大きな拍手で迎えられたことも思い出します。
カーテンコールでは緞帳前に奥村さんも登場され、大喝采。そして奥村さんが福岡さん小野さんを呼び込んで3人で手を繋いでの特別挨拶が心に沁み入りました。
突如の事態に最も苦しい思いをなさっていたのは米沢さんご自身でしょう。どうか回復を願っております。
勿論無理はして欲しくありませんが、次の土曜日公演は出演できますように。

今回の公演をもって退団される福田圭吾さんアラジンは(ラスト公演は6月22日土曜日夜公演)市場の後方から現れる一見見えづらい登場シーンであっても
屋台を覗く仕草や友人への挨拶、隙を突いて泥棒行為に走る部分始め行動全てがはっきりと見え、友人達と輪になっての水平跳びも形がぴったり。
池田理沙子さんはちょこっとクールで近づき難いお姫様が少しずつ心を開いて行く様子が愛らしい。
2幕パ・ド・ドゥはアラジンとプリンセスこれまで全く異なる人生を歩んできた過程をゆっくり振り返りつつ
気持ちの昂りが一気に突き上げていく流れを大らかに表現され、いよいよ福田さんのラスト公演が迫っていると思うと22日夜は冷静に観ていられるか心配な管理人でございます。

ランプの精ジーンも三者三様で渡邊さんは力み無く何処へでもふわりと舞う妖精らしい浮遊感に、主人に仕える忠臣ぶりに加えて上に立つ支配者らしい威厳も強まり
大看板であり誰も太刀打ちできそうにない福岡さん小野さんペアをがっちり支えて導く風格や存在感も見どころ。
初役木下嘉人さんは俊敏に跳ね回って舞台引き締め、井澤さんは大魔神な圧のある重厚感と以前よりキレキレ感も増した印象。3人見事なまでに全く異なるジーンです。

アラジンが辿り着いた洞窟の宝石達の場面は目にも眩く独特な質感の衣装もじっくり観察。
直塚美穂さん渡邊峻郁さんが振り幅拡張型セクシー変わり種路線燃ゆる灼熱ルビーで
直塚さんの身体能力や技巧の上手さが存分に発揮されている上に、盤石に受け止め更に背中のうねりや雄弁な腕運びによる
ダイナミックなサポートで規格外なポーズを構築していく渡邊さんも見事というほかありません。
一方奥田花純さんと渡邊拓朗さん組のルビーは真っ直ぐ力強く美しく、整理整頓され敷き詰められたような宝石。
男性のお顔はそっくりながら笑、昼夜での見比べが非常に面白く思えた先日の土曜日です。
男性のおでこの装飾模様は彎曲系と直線系と2種あるのか、それぞれ違っていました。
全身が磨き抜かれた精巧な輝きを纏うダイヤモンドそのものな奥田花純さんはまさに宝石職人で、構造が複雑なステップもくっきり正確。
エメラルド小川尚宏さんの上半身が蛇化したように語る柔軟性もびっくり。初役者の鮮烈な発見の連続です。
思えば2022年には吉田都セレクションで演目変更生じてこの財宝の洞窟場面を抜粋上演するはずが中止に。
2012年の記念すべき第一回NHKバレエの饗宴ではトップバッターとしてこの場面が上演された日が懐かしい。

またカール・デイヴィスの音楽が時に東洋の趣を帯びた美しい旋律に彩られて聴き惚れ、
遥か彼方へと導かれていきそうな壮大な序曲から管理人は毎回胸が一杯になっております。
一部勝手に空耳アワーいたしますが、プリンセスのテーマ曲でアラジンが1幕最後にまた会いに行くぞと決心するところを始め随所で演奏される旋律が
1990年7月25日に発売されたKANさんの『愛は勝つ』の必ず最後に愛は勝つ〜に似ている気がいたします。
もう一つ、1幕ルビーの最初部分が、合唱コンクールで馴染み深い『時の旅人』冒頭のめぐるめぐる風〜の箇所と重なって聴こえます。

気のせいとの指摘は見えておりますためそれはさておき今後の再演時に劇場側にお願いしたい要望もあり、アラジン親子の格好や
所々中国の文化が取り入れられている理由についてはプログラムに明記願いたい。
幕が開くと街はアラビアな風景ながらアラジンと母親は中華帽に中華服な格好で登場し、結婚のお祝い事では獅子舞、3幕フィナーレでは龍の舞が披露され
当たり前ですがホワイエの会話でもあちこちから聞こえてきました、何で中国やねん。
決してビントレーさんが適当にアジアンミックスしたわけではなく、初演のプログラムによれば〈アラビアンナイトの原作では、
アラジンは「中国の町」に暮らす中国人の少年なのである〉
〈ディズニー映画『アラジン』が公開されるまで、イギリスの子どもたちは中国風の格好をしたアラジンに親しんできた〉と紹介されています。
そして他のビントレーさんのインタビューにて、日本ではアラジンといえばアラビアンナイトだから、
アラジン親子はアラビアの街に移住した華僑に設定したと明かしていらしたかと記憶しております。
様々な地域の文化が混在した演出にはなっているものの、露骨で恐ろしく問題ありな描写は概ね見当たらず
同じくビントレーさんの振付全幕作品で2011年に新国立で上演した『パゴダの王子』の4地域の王様達の描写
(21世紀に制作した作品としては問題視を避けられない衣装や設定と思います汗)とは違って許容範囲かとは思っております。

『アラジン』に話を戻します。大掛かりな仕掛けや美術装置、やんちゃな少年アラジンが誰かの助けを借りつつも困難を乗り越えプリンセスと結ばれるまでを
楽しくユーモアに富んだ展開で進行していきます。新国立劇場バレエ団のために振り付けられた世界初演は2008年。
直前にリーマンショックが襲い、当時の総理大臣が突然辞任したりと明るくはない報道が立て続けに発生していた頃で
当時の牧阿佐美芸術監督も世相を憂慮する挨拶文を初演のプログラムに寄せていらっしゃいました。
演出に突っ込みどころが全くないわけではありませんが、開放感のあるハッピーエンドな大団円で爽快な気分で劇場をあとにできる作品です。
どうぞ劇場に足をお運びください。

6月22日(土)夜公演は18年間在籍されていた大功労者の福田圭吾さんのラスト公演。
5年前に主役デビューなさった作品でのさよなら公演、寂しいですしまだまだ在籍して欲しい気持ちは拭えませんが、しっかり見届けます。
福田アラジンにお仕えするのは渡邊ジーン。私にとっても、間違いなく特別な舞台になりそうです。



※一部写真を載せて参ります。続きはまた後日、東京公演総括編にて。


初日の儀



空もジーンもブルー



アラジンのポケットサンド。挟まっているのは宝石ではなくヒレカツです。羽田空港にも限定模様のサンド、ありました!



美しい青。チャイナブルーカクテルで乾杯!



いざ劇場へ。ジーンの指先そして強い視線がオペラパレス入口に向いています!