2023年9月3日日曜日

篠原さんの生き様を投影していく作品の継承   Dance for Life2023   篠原聖一バレエ・リサイタル   8月27日(日)





8月27日(日)、池袋の東京芸術劇場にてDance for Life2023   篠原聖一バレエ・リサイタルを観て参りました。
http://www.seiichi-yurie.com/Infomation.html






「クリスタル」
初演は1995年、淡いエメラルドグリーンの長めのチュチュの衣装を纏ったコール・ドに
主軸は女性2人と男性1人の構成。バランシン『ジュエルズ』エメラルドに近いイメージです。
今回は吉本真由美さん、奥田花純さん、奥村康祐さんが率いる形で、中でも奥田さんが微風に包まれて輝くガラス細工そのものな繊細さで魅了。
脚先にまで届き奏でる音楽性の鋭さはに感嘆し、職人肌な踊りをこの度も堪能です。
ベテランながら奥村さんの若い息吹を思わすクリアな身体の使い方や、奥田さんそして芳醇な魅力を全身から醸す吉本さん双方と通じ合うパートナーシップも見所でした。
コール・ドの切れ味ある統制の取れ方にも目を見張り、音楽がテーマとヴァリエーションと同じ音楽でバランシンの振付が過るのも束の間、
素早い角度の切り替えや腕や脚のラインの連なりも反射するガラスの輝きの如く多面的な光を見せ
チャイコフスキーの音楽を更に細かく解いて全員で昇華させていた印象です。
最後はキンキラキンと光り輝く紙吹雪が降り注ぎ、煌きは最高潮へと達しました。


「Leave it to the flow」
浅田良和さん、荒井英之さん、檜山和久さんのトリオで踊られ、スピード感たっぷりに光がぽっかりと映された暗闇の中を縦横無尽に疾走。
どこまでも駆ける身体の器用さやスタミナ、突如3人で作り出す奇怪なポーズですらユニークと感じさせるもすぐさま次の展開へと繋がり、ダンスが凝縮していました。
プログラムによれば約6分間の作品と記されていましたが、もっと短く思えたほど。


「Charlie」
リサイタル開始の初期から手を加えながら上演され、私の初鑑賞は2012年。当時は記憶が正しければ金子優さんとのデュエット作品で、青山円形劇場の構造を生かし
篠原さんが客席から登場しながら愛嬌振り撒く演出にびっくりしたものですが、今回は無し笑。
チャップリンをイメージさせる帽子を被った女性のアンサンブルがパリのカフェを舞台に要所要所で絡んでは話を動かしていく役目を果たし
整列してショーダンスのように踊り出すかと思えばキビキビと隊形を変えながら舞台転換へ導いたりと大活躍。
Charlieは勿論篠原さんが踊られ、喜劇の中にも篠原さんの生き様が深く刻まれてしんみり。
女主人との掛け合いや客達とのひと騒動を滑稽さやおかしみを湛えつつ次々と降りかかる歓喜と寂しさ、ほろ苦さを表出しながら踊られ、
Charlieの人生をお洒落なステップ満載で披露されました。初演時は台詞も入り、「疲れたー、もう62歳」と仰っていましたから11を足して現在のご年齢を計算すると
パ・ド・ドゥをこなされる上に若手も含まれているであろうアンサンブルと一緒にいても、藤島光太さんが務めるパワフルな紳士との対決でも不自然さがなく
中規模作品のたっぷり踊る主人公として今も尚衰えが一切見えず、恐るべき若さであろうと思います。

音楽はコンスタント・ランバートやジョン・スティーブンソン他様々な作曲家で構成され、
私が30年以上前にバレエで観て気になっていた『ホロスコープ』が英国人作曲家のランバート作品であるとやっとこさ判明し、解決。
(アシュトン振付『レ・パティヌール』編曲者でもあるとのこと)
プログラムにも未掲載で30年前はインターネット普及前でしたから調べる術がなく、近年は英字でホロスコープ、バレエと入力すれば検索できたかもしれませんが
カタカナでしか入力していなかったためかヒットせず。「クリスタル」初演前から、Jリーグ開幕以前より気になってから気づけば30年以上の時が過ぎた今回
ホロスコープに似た節があると聴こえ後日調べたところ無事辿り着くことができました。
ちなみに本来のあらすじは把握できず(星座が登場するのか?)、銀河系を想像させる壮大な天体空間広がるシリアスな旋律でございます。


「Les Saisons」

初演は2012年「Season」としての下村由理恵さんリサイタルにおける上演を鑑賞しており、今回は改訂して「Les Saisons」として上演。
当時は下村由理恵さんを主軸に大畠律子さん佐々木大さん組(緑ぺア)、森本由布子さん山本隆之さん組(ピンクペア)、
大長亜希子さん荒井英之さん組(黄土色ペア)、奥田花純さんが配役されていました。音楽はチャイコフスキー『四季』管弦楽版より抜粋です。
クランコ版『オネーギン』と同じ2月の曲で始まる序盤に先陣を切って登場したのは藤島さんのパックで
前回は奥田さんが踊られ、それはそれは初々しく可愛らしい妖精が細かな脚捌きでぴょんぴょん跳ね回っていた印象が刻まれておりましたが
対する藤島さんは逞しいパワー全開で、全ての技がぴたりとおさまる安定感も抜群。
タイプが大きく異なるダンサーが務めるからこそ生じる違いの面白さに目が冴え渡りました。
小野絢子さんが下村さんパートを、奥村さんが山本さんパート担当等、胸が熱くなる一新キャストで
小野さんの孤高な哀愁や慈しみを漂わせながら空気を締めて引き上げる凛としたソロは2階席から観ると下村さんに似たシルエットにも思えてきて
冬の存在を想起させる白い枝の持ち方からして継承がきちんとなされていた印象。
違いを強いて申すなら下村さんは皆を優しく見守る女神、小野さんは君臨する女王といった趣き。どちらも私は好きでございます。

北村さんと奥村さんのペアは初組み合わせかと思われますが、何処かクールな北村さんとあたたかく引き寄せる奥村さんのバランスが宜しく
ドピンク衣装の着こなしも万全。母性が優しく滲む吉本さんと受け止める浅田さんも流れに厚みを加え、
闊達なパックから移行された奥田さんと檜山さんのペアが新鮮に映り音楽をしっとりと体現する身体の呼応にも目を奪われました。
最後は重厚華々とした9月の曲で全員集結し、円形劇場では四方を向くように立ってのポーズで締め括っていた幕切れは今回は全員正面向きに変更して終了。
人間模様の哀しみや喜びをも包む美しさを、生命力や大地を思わす力強さを膨らませていくチャイコフスキーの楽曲が奏でる四季折々の彩りに重ねた
観るとじんわりと胸に響き続ける作品です。今回の背景の木々が遠目では葱か何か、野菜に見えかけたときもありましたが(失礼)
再演の機会が巡ってきたことを、初演を観た者の1人として歓喜しております。
尚、初演地の青山円形劇場では手が届きそうな距離で山本さんを拝見し、演歌じゃないから触れるのは禁止と
友人らから念を押されたことも懐かしく笑、キャスト一新しての再演嬉しく鑑賞いたしました。

※ご参考初演時の感想でございます。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2012/07/2012-01ea.html


作品によっては約30年の時を経ても古さを感じさせず、それどころか新たなキャストによって命が再び吹き込まれ
作品が生き続けていく継承の大切さを再確認した思いがいたします。ミストレスとして今回は支える側に回られた下村さんの貢献にも頭が下がります。
また篠原さんの作品ははっきりとした物語の有無問わず人間が持つあらゆる感情を美しく包み込んで洗練された踊りに表していると今回再び感じ入り
今回のような篠原さん作品のミックスプログラム、是非上演をお待ち申し上げます。
北海道出身のバレエダンサー、振付家というと英国で長らく活躍されたのちにバレエ団を立ち上げ、
昨夜のTBS番組出演を始めメディアへの露出も多い熊川哲也さんに注目が行きがちですが
道内の舞踊界牽引の先駆者として全国各地で作品上演、指導も行っていらっしゃる篠原さんの偉大さは計り知れないものがあると思っております。




池袋にも開店と聞いて行ってみたかった、オールシーズンズコーヒー。



爽やかなアイスコーヒーにアイストッピング。


鑑賞前に、池袋のルミネで昼食。ハートランドビールを注文したら、SEASONの文字入りで嬉しい。
そしていかにして改訂しLes Saisonsとなったか変化にも期待が高まります。
Saisonといえば、西武池袋の動向も気になるところ。



季節のケーキ。桃がどっしり、瑞々しい甘さでした。友人はシャインマスカット入りの桃ケーキ。



コンサートホール前の天井



ガラス屋根



帰り、サッポロビールで乾杯。インタビューによれば、篠原さんがチャイコフスキーがお好きなのは
北海道出身で生まれ育った地理も影響しているかもしれないと語っていらっしゃいます。
私は北海道はこれまで数回しか行ってはいないものの、札幌交響楽団が演奏する『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』の
太く力強い演奏は今も忘れられず、ロシアの楽団の演奏に似ていると捉えた記憶がございます。
さてこの夏最後の鑑賞が無事終了。昨年ほど移動は多くなかったが、暑さが長引いた今夏でした。私の夏が終わりました。

2023年9月1日金曜日

ぶらり京王線 東京西部における夏の癒しの風物詩 BALLET NOW(バレエナウ)第16回発表会 8月23日(水) 《東京都府中市》




8月23日(水)、東府中のふるさとホールにて、BALLET NOW(バレエナウ)第16回発表会を観て参りました。
川崎浩美さん主宰で貝川鐵夫さんも指導や作品振付を手がけていらっしゃるスタジオです。今回のゲストは昨年に続き新国立劇場バレエ団の渡邊峻郁さん、速水渉悟さん。
私の中では毎年恒例ぶらり京王線東京西部における夏の癒しの風物詩で、2019年、2021年、2022年に続いて4回目。今回は東府中での開催でございます。
https://ballet-now.com/

バレエナウさんのインスタグラムより。1枚目が『王宮の花火』です。

 




第1部、第2部は小品やグラン・パ・ド・ドゥ構成で昨年『アルレキナーダ』を渡邊さんと踊られた生徒さんが同じく渡邊さんとグラン・パ・クラシックを披露。
これといったあらすじのない、技巧を格調高く華麗に見せていくのが非常に高難度な振付と思われますが
テクニック見せつけ大会にならず、品位ある語らいが伝わってくる2人で1つな一体感や、ポーズの僅かなタイミング、余韻までもが自然と合って調和にもニンマリ。
特にアダージョのホルン主旋律の部分はホワホワした曲調でカウントが取りにくく
(管理人一応グラン・パ経験者。勿論パ・ド・ドゥではないが12歳のとき男性ヴァリエーション曲も女子2人で丸々踊りました)、
されどその中で呼吸の合ったポーズやステップを繰り出して音が余る或いは足りない事態にもならずしかるべき箇所でぴたりと着陸する心地良さをも感じさせました。
物語がない分、加えて音楽が重厚華麗で技術や品格がよほど十二分に備わってしないと成立困難な作品ながら
コンクール入賞歴からするとまだ中学生くらいのご年齢の生徒さんが品良く美しく格式高く踊っていて天晴れでございました。
また渡邊さんでずっと拝見したいと思っていた作品の1つで、(その経緯については小学生時代の私の惨事な話に遡り、語ると長くなるためまたいずれ)
特にヴァリエーションやコーダの冒頭部分の跳躍の方向転換や滞空ふわりな軌跡を眺められてようやく願いがまた1つ叶った気分でおります。
副題に今春の大型連休の初台を夢世界にいざなったシェイクスピアの戯曲と同名が含まれた、
ふるさとホールからも程近い東京競馬場にて7月に開催された大会以上に胸が充満する花火がグランパにて打ち上がりました。

グラン・パ・ド・ドゥもう1本はパ・ド・ドゥ初挑戦の生徒さんが『海賊』で速水さんと組み、
堂々と伸びやか、きりっとした踊りでハッとさせられる瞬間も多く、速水さんの見守り方もにこやかで安心して踊っていた印象。
強いバネの持ち主で上品でありつつも底からパワーが湧き上がって決めるポーズの格好良さも魅力に映り、淡いマリンブルーの膝丈の衣装もとってもお似合いでした。
速水さんはテレビ放送もされた2020年の新国立ニューイヤーのときより好調そうで、とても気持ち良さそうに踊っていた印象。
生徒さんを大事に大事にサポートされ、目線で何度も心を解していた光景も好印象でした。
それにしても、グランパと海賊の生徒さんお2人は2年前に速水さんと『海と真珠』を踊ったときはまだとてもあどけなかったはずが、
背も伸びて今ではすっかり美しくなった印象。新国立のプリンシパル相手でも臆する様子もなく
一方通行にならず一緒に作り上げる(これ大事)パ・ド・ドゥの喜びや素直でまっすぐな心も伝わり、お2人の今後が益々楽しみです。

バレエナウさん名物のキャラクターダンスも毎度の楽しみなプログラムで、小学生くらいの生徒さん達がまず可愛らしくブルガリア辺り?(把握できず失礼)の踊りを
女の子は赤い村娘な衣装で、男の子は紺色っぽいハーフズボンと白いシャツで不思議な魔力に吸い込まれそうな音楽にのって披露。
続いて上級者達が『白鳥の湖』よりマズルカ。踵の打ち鳴らし方や腕の掲げ方、身体の向きの変え方までメリハリが効いていて、訓練の行き届きが窺えました。
コーダは全員集合で再びフォークダンスな速度のある曲での大団円で、勢いのままに舞台袖へ。幼児さんであろう年齢から大人の生徒さんまで息を合わせて楽しんで踊る様子に
観客も更に心がぱっと明るくなって舞台と客席が楽しさを共有しながら終了。
キャラクターダンスを子供の頃から経験し舞台で踊る機会は他の教室ではなかなかないと思われ、
しかも観客側も心から弾むような喜びで応える一体感は格別。バレエナウさん名物としてこれからも続けて欲しいと願います。

第3部は全員出演作品で貝川さん振付『王宮の花火』。4年ぶりの上演で前回は第1部の作品として披露されましたが今回は改訂も入り、
ゲストや保護者の方々の出演も加わってより華やぐ作風になっていた印象です。
ドガの絵に出てきそうなふわっとしたチュチュに提灯袖が可愛らしい衣装でグループごとに色違いで着用したり
男子はエチュードの男性な上下白系、ゲスト陣は一般非公開となった2020年発表会での『エチュード』と似た、上が白シャツで下が黒。
荘厳な旋律が響く中で生徒さん達の折り目正しさや様々なテクニックを堪能すると同時に
第1部2部でのグラン・パ・ド・ドゥと同じ組み合わせのペアで優雅に踊る箇所もあれば
子供達がはしゃぎ回る演出もあり、次々と変化を見せて行く展開で飽きさせず。晴れやかな祝福感と端正な趣きが混ざり合った作品でした。
異彩を放っていたのが、渡邊さんと速水さんによるムーディーな男同士パ・ド・ドゥもあり、暗がりな照明空間に現れて対になったりリフトまで披露。
発表会ですし純クラシックな作品ですから決して妖しい艶かしいわけではないものの、端正な中からふと仄かな情熱が発せられ、
特に渡邊さんの色気を漂わせながら残る余韻が肌をも伝って吸い寄せられるばかりでした。
渡邊さん速水さんのお2人が並ぶと、どうしても2年前の6月『ライモンダ』全幕金曜日公演における
火花どころか炎を猛々しく盛り放つ2幕終盤の対決を思い出してしまいますが
今回は舞台上で2人きりのときも節度を保ちつつも仲睦まじくほんのり熱を帯びたペアと化していました。初台ではまずお目にかかれないパフォーマンスでしょう。
出演者全員作品であるため挨拶に川崎さんと貝川さんもご登場。貝川さんのエスコートや
お2人とも端から生徒さん達を讃え観客に挨拶をなさるお姿がまた素敵でございました。

そして今回初の試みとして第4部をチャレンジセクションとして設け、生徒さん達がソロを踊る機会持たせる企画が登場。
司会進行は川崎さんご自身で、コンクールまでは踏み込めなくても舞台で、お客様の前で、ソロを踊ってみたいとの要望が多く今回実現したそうです。
とても良い案と思え、そもそもバレエは芸術で上級者や初級者の差はあっても本来点数を付けたり他人と競い合うものではありませんから
レベルアップやスカラシップ等はっきりとした目標があるならともかく、
ただ賞や肩書きが欲しいからとやみくもにコンクールに挑戦するのは如何なものかと思う私でございます。
また近年コンクールが増え過ぎていてプロを目指すか否か問わず出場しやすくなり、随分と低年齢から出場可能な部門も多々あって
バレエ習う=コンクール出場必須は決して良いことではないと前々から思っております。(踊れぬズンドコドッスン素人がとやかく言うなとお叱り受けそうですが)
またバレエナウさんではまず皆で1つの作品を作り上げる舞台は以前から力を入れていらっしゃり、
アンサンブルにもきちんと取り組みつつソロを踊る機会を持つのは尚のこと興味を持たせ大歓迎。
発表会にてソロの披露を望む生徒さん達のチャレンジ精神やその気持ちを汲み取り実現させた先生達の行動力にもまず拍手でございます。
踊った後には先生からの紹介や質問、一言挨拶等、生徒さん1人1人の個性が伝わって笑いあり、時には悔しがる様子や感激の涙あり。 皆さん素直で頑張りさんな生徒さん達で何度心が洗われたことか。各々が選び、勿論先生からの助言やレベルや年齢に即して振付のアレンジもあったかと思いますが
丁寧にしっかりと踊っていて、仮に振りをシンプルにしたところで簡単になるわけでなく寧ろ粗が目立つ恐れも出てくる中
止めるべきところでしっかり止めたり、次のポーズへ移るときも滑らかな印象を残すよう意識を行き届かせたりと忠実な姿勢で臨んでいる生徒さんばかりでした。
お1人、社会人になった今もバレエ衣装のお仕事と両立 して続けている生徒さんがいらっしゃり、
いつも様々な作品でのリード役としても活躍されているお姿を毎回目にしておりましたので
生徒さん達にとって、頼もしい心の拠り所な存在と想像いたします。
今後はアシスタントも務められるそうで、心のこもった謙虚そうなご挨拶が心に響きました。

例年より1時間弱上演時間が長くなったものの、食い入るように観てしまい、時間は瞬く間に過ぎていった気すらいたします。
毎年恒例東京西部での夏の癒しの風物詩、来年も今から心待ちにしております。





開催日が平日のため毎回早退して向かっておりましたが、今回は午後半休にしたため時間にも余裕があり、会場近くでのんびりコーヒー時間。



お店お手製のチーズケーキがさっぱりツヤツヤ上品な爽やかさ。グラスやコーヒーカップも、ランプ型の灯りもクラシックな美しさでございます。
いつもは八王子珈琲で天国と地獄を脳内で流しながらケーキセットをいただいておりました。



ぶらり京王線の旅、帰りはまずはビールで乾杯。



食べてみたかった、豆乳担々麺。具沢山で、麺はコシ強め。良い具合で豆乳がまろやかな辛さを演出しています。



2023年の新国立劇場のカレンダー。8月には2021年秋のDance to the Futureのナット・キング・コール組曲を踊る貝川さんが写っていらっしゃいます。
再演のこのとき、ひょっとして一番沸いたのは本島美和さんと貝川さんが手を取り合いながら登場された瞬間であったかもしれません。
年齢を重ねるたびにスタイリッシュ且つ円熟した魅力を増しているベテランペアの美しさに見入りっぱなしであった私です。


2023年8月29日火曜日

【人生6度目】アーキタンツにてレッスン受講




先週日曜日、アーキタンツでイガール・ペリ先生の初級Ⅱクラスを受講いたしました。レッスン自体は約2ヶ月ぶり、今年4回目のズンドコドッスン日記でございます。

ペリ先生の紹介
http://a-tanz.com/wp/teacher/イガール・ペリー

クラス開催の紹介。読めば読むほど楽しみになりました。
http://a-tanz.com/ballet/2023/08/15115219


なぜ突如ペリ先生のクラス受講に至ったか、理由は簡単で山本隆之さんがジョフリー・バレエ団に在籍し米国で活躍されていた頃の先生でいらっしゃるからです。
山本さんのプロフィールを拝見するたびに目に飛び込んできたお名前で、近年は山本さんが東大阪市で主宰されているオープンクラスのスタジオである
ガレージアートスペースでオーディションも兼ねたクラスも開催。その様子の記事もガレージさんのフェイスブック記事にて拝読しており
明るく和らぎのある雰囲気な教え方をなさっていたと綴られ、鹿さん達を背景に奈良観光も伸び伸びと満喫されているご様子の写真もあり
ひとまず安心感はありました。しかし優しい先生とはいえども大変なご経歴の持ち主でいらっしゃり
初級Ⅱであっても私のようなレッスンは昨年の年5回でもかなり増えました状態の者が受講して良いか不安もございましたが
事前調査の結果恐らく問題なかろうと結論に達し、いざ受講。人生初、外国人の先生のレッスン受講となりました。

学業不振については当ブログでも何度も触れておりましたが英語も同様で、中学英語も危うい私であり
例えば新国立劇場等で開催される海外の振付家のトークショーでも何一つ聞き取れない恥ずかしさでございますが
パの名称は世界共通である点や身体芸術であること、そしてペリ先生が日本語も織りまぜお手本やコツを見せてくださり開始してしまえば心配無用で受講できました。
自己紹介のときから「日本語は少し」、とにこやかソフトに語ってくださり、
世界各地加えてアーキタンツや東大阪といった国内でも指導経験は豊富。リラックスした空気を作りながら進めてくださいました。

アーキタンツにてこれまで受講した初級Ⅱの中では最もシンプルな振りが多く、上級者に対しても立ち方や身体の保ち方といった基本の注意がたくさん飛び
その度に皆で共有。特にポールドブラは先生のお手本をゆっくりと見ながら全員で一斉に復習したりと基礎に立ち返る内容が大半でした。
見回すと明らかに初級ではないハイレベル者が多かったかと思われますがそれでもペリ先生はまずは基礎をきちんと行いたいとお考えになっていたのでしょう。
シンプルなアンシェヌマンを繰り返し行いつつ、少し変化をさせて概ね同じ内容でやってみる、じっくり教えてくださるクラスでした。
最後までシンプル路線は貫かれ、締め括りのグラン・ジャンプも片道に3人ずつグラン・パ・ドゥ・シャしておしまい!
受講者は約16人くらいでしたが山手線並みに順番が早く回ってきて、西側でのレッスンを懐かしく思い出してしまいました。

ペリ先生の前のクラスがレギュラーを持たれているジョヴァンニ先生のクラスで、「左からお願いします~」等と
流暢な日本語を駆使されたご様子を受講前にドア越しに見学。
昨年10月にもクラス受講前にロサンゼルス・バレエやモンテカルロ・バレエで活躍されていたレズリー・ワイズナー先生のクラスを眺めていたところ
簡単な表現を選びながら教えてくださっていたのは承知で、意外と聞き取れるかもしれないと少し安堵。 
ペリ先生も、ご自身では少しと仰っていながらも見本を示しながら、
英語もシンプルな表現を心掛けてくださったおかげでバレエと英語双方音痴なクラス一番の底辺住民であったであろう私も安心して楽しく受講できました。
そして、日本バレエ界のレジェンド山本さんが教えを受けていらした先生から私も教わってしまったのかと思うと、不思議な喜びが込み上げてきたものです。




屋根付きデッキ道よりこちらの道路沿いを歩くのが好きです。少々暑かったですが汗。



スタジオ近くの田町駅付近の景色。モノレールが通過中、近未来な街並みです。



バリシニコフではないが港区にはミーシャがいます。20年ほど前のダンスマガジンにて、
山本さんが好きなダンサーとしてバリシニコフを挙げていらしたかと記憶しております。



生まれも育ちも住居もずっと東京である私ですが毎回おのぼりさんですので、東京タワーを見ると興奮。
そういえば、子供の頃に習った先生のお1人が現在は慶応義塾大学にて強弁をとっていらっしゃるようで、三田か日吉どちらか?日吉なら今頃はお祭り騒ぎな様子でしょう。



今回は北口側へ。慶応仲通り商店街にて、とても1人のレッスン帰りとは思えぬ内容ですがレッスン後はビールに限る。
江藤勝己さんのCDもまた欲しくなってしまいます。パキータは来春3月にバレエ協会で全幕上演です。
今年夏に開催された千葉県柏市でのパキータグランパ総ざらい音楽講座、大変大きな学びとなりました。



そしてお刺身と唐揚げも。今回は今治ザンギです。



2023年8月27日日曜日

ようやく生で全幕フランツ!! 胡桃バレエスタジオ40周年記念発表会『コッペリア』8月13日(日)《神奈川県川崎市》





8月13日(日)、新百合ケ丘駅近くの麻生市民館ホールにて胡桃バレエスタジオ40周年記念発表会『コッペリア』を観て参りました。
2019年のDance the Dance Vol.3にも足を運びたかったのですがどうしても行けず、今回ようやくの鑑賞です。
https://kurumi-ballet.net/

神奈川県、東京西部のタウン情報紙に、今回の発表会を区切りとして伊藤胡桃先生から武石先生、中澤先生に受け継ぐスタジオ運営について綴られています。
https://www.townnews.co.jp/0205/2023/07/28/689870.html

ゲストに新国立劇場バレエ団渡邊峻郁さん、後藤和雄さん、宮本祐宜さん、東京バレエ団の山下湧吾さん、芝岡紀斗さん、
卒業生で現在新国立劇場バレエ団アーティストの関優奈さんを迎えての記念舞台でした。

第1部は『エフゲニー・オネーギン』ワルツにのせてのデフィレや大人の生徒さん達のSonata di Rossini、『白鳥の湖』パ・ド・トロワ、
そして武石光嗣さん振付のコンテンポラリー作品Spiegel。全幕を控えていますから適度な本数、長さでした。(これ大事)
生徒さんはほぼ全員出演と思われるデフィレは勢揃いした光景が瑞々しく、これから始まる舞台にわくわくと一層楽しみが強まり、
大人の生徒さん達の生き生きとした活力溢れる姿やトロワの綺麗で上品な可愛らしさにも癒されました。
Spiegelは宮本さんを主軸に生徒さん6人と共に摩訶不思議でクールな雰囲気の中で踊られ、
舞台の両サイドを用いた演出も作品がより拡張して面白く見える効果もあり、瞬く間の時間でした。

第2部は『コッペリア』全幕。スワニルダは1・2幕は生徒さんで3幕は関さん、フランツが渡邊さん、
コッペリウスが後藤さん、市長が芝岡さん、フランツの友人が宮本さん山下さんです。
1・2幕のスワニルダを踊られた生徒さんがしっかりと安定感のある踊りもさることながら芝居が大変お上手で、舞台を立派に率いていてお見事。
特に1幕フランツとの絡みにおいては一貫して不機嫌でプンプン怒っている演出で、下手すればただの怒りん坊になりがちにも拘らず
側に寄ってきたときにさらりと交わしたり、許しそうに引き延ばしつつやはりまだ怒っている状態を表現したりと
自然な流れで配分バランスも絶妙な加減でセンス抜群でした。フランツと共に踊っていない場においても舞台にいる時間が長く、
追いかけられてもすかさず避けて行ってしまう構図を可愛らしくも颯爽と見せながら
2人の浮き沈みな関係性を客席から笑いをも起こしそれぞれの場面をリードしていた印象です。
いくら劇中のやりとりとはいえ、新国立のプリンシパル相手にずっと不機嫌になり続けるのは容易ではなかったはず。
2幕でもどうしようもないド天然なフランツを救出しようと、スペインもスコットランド人形な踊りもシャキシャキとこなされ、
強烈な個性のコッペリウスとの対決も落ち着きを払いながら堂々と挑んでいて
こりゃフランツも頭が上がらない、賢く強いスワニルダとして物語を生きていました。

そしてようやくようやく、長く待ち望んでいた渡邊さんの全幕『コッペリア』フランツを生で鑑賞。
スワニルダに怒られっぱなしなだいぶ間抜け、ド天然青年が舞台に現れました。バルコニーにいるコッペリウスによる魔法で序盤から自在に操られ、
すこんと正座して座り込んでしまったりとやられっぱなしなちょいと可哀想な(愛すべき鈍感と言うべきか笑)青年をチャーミングに踊られていました。
先にも触れた通り、コッペリアに夢中な様子に機嫌を損ねたスワニルダになかなか振り向いてもらえず、捧げた花も捨てられてしまい
近寄ってもささっと交わされて先に歩いて行ってしまわれるかなり情けない姿をご披露。
嬉しいことに1幕も舞台に滞在している時間が長く、彼女が鬼になっていると仕草で友人に訴えては同情の反応を誘い
こどもたちの一員から慰めてもらう様子からも憎めない青年で、フランツ友人とのトリオでの踊りの見せ場もあり、活気付く広場を盛り上げてくださいました。

2幕ではコッペリウス家の不法侵入からして笑わせてもらい、正面のドアへ後方から梯子で登ってくるガラス戸越しのぼやけた姿からして間抜け度満点。
中に入ると整列しているのが人形と安心し、すると背後から忍び寄ってくるコッペリウスに振り向くも複数回の寸止め姿に人形と思い込み、
挙げ句の果てにコッペリウスがかけている眼鏡をクイクイっといじっては再び人形とみなしてホッと胸を撫で下ろす判断力のなさに大笑い。(褒め言葉です)
180センチの長身が嘘であるかのようにコッペリウスに追い回され逃走を図るも捕まってお仕置きをとことん受ける全身泣きっ面状態も衝撃でございました。
秘薬入りのお酒を飲まされたとき、テーブルや腰掛けた椅子がやや小さく、かえって異質な存在感を濃くしていた点もまたフランツのおっちょこちょい度を上昇。
突っ伏したテーブル上で寝返り打ったり、目を覚ますところは二日酔いのサラリーマンのようでしたが笑、
過ちを恥じてスワニルダに詫びる流れに説得性を持たせていた印象です。
2人で逃げるときだけはスワニルダの手を引っ張る頼もしいリードで、やるときはやるフランツなのでしょう笑。

3幕は結婚式の開幕に関さんと優雅に登場され、2人揃って白い婚礼衣装がしっくり。
真ん中を踊る姿も、渡邊さんと組まれるパ・ド・ドゥも初見の関さんでしたが音楽をたっぷり全身で使いながら紡いでいく優雅さに見惚れ、渡邊さんとも高相性でした。
本拠地ではまず組むことがないお2人であっても、じっくりと交わす視線や手の取り方1つ1つから丹念に積み上げていく喜びが伝わって幸福に満ち、
少し戻りますが人形の破損をコッペリウスに詫びるスワニルダの姿も、1、2幕を通して踊ってきたかのような反省ぶり。
渡邊さんはフランツのソロでよく耳にする『泉』の曲ではなく通常『シルヴィア』で使用される曲でのソロで珍しい回転も晴れやかに冴え渡り、
なかなか目にする機会のない曲ながら昨年多摩センターでの発表会以来再び拝見でき嬉々たる思いでおります。

コッペリウスを踊られた後藤さんのお力にも恐れ入り、てんやわんやな話をガッチリと支え、みるみると面白味ある方向へ導いてくださいました。
1幕序盤からフランツに目をつけ、バルコニーから魔法を仕掛けてはシメシメと企むお姿からして
元の容貌が最早分からぬほどの変わり者お爺さんメイクも違和感なく笑、陰気な不気味さを醸して魅了。
フランツとの丁々発止で波長は最高潮に達し、現行犯逮捕の警察官の如くとっ捕まえての達者なお仕置きや
秘薬入りのお酒を飲ますときには後半はグラスを口にくっつけさせてフランツを仰け反らせながら無理やり大量摂取させる横暴ぶりもど迫力。
コッペリアに変身したスワニルダとのバトルもただ可笑しいだけでなく互いに一歩も譲らぬ緊迫感も漂わせ、ビシッと締まりあるやりとりを構築されていました。

全体の演出も見応えがあり、全員の生徒さんが何かしら主役な出番、見せ場になるよう
場によって大人の生徒さん中心、小さなお子さん達が中心、と目立つ場を作りつつ登場の入れ替わりもスムーズで賑やかな広場の様子を描写。
小さな生徒さんを除けばほぼ全員が1幕は舞台上の何処かしらに配置されていた記憶もあり、もしかしたら決して大人数のスタジオではないため
舞台に隙間ができぬよう策を練った演出であったのかもしれませんが結果としてスワニルダとフランツを軸に活気に溢れる空間と化していた印象で
生徒の皆様が脇にいても芝居上手で流れも自然。2幕の人形達は音楽の変化に合わせて更に人数が増えて
コッペリウス家の人形大宴会な雰囲気も色づき、スワニルダがスペイン、スコットランド人形を踊るときには
それぞれの人形達も加わって一段と立体感が増し、工夫が行き届いていたと思わせました。
コッペリア役の生徒さんの静か且つフランツが惹かれるのも頷ける、カクカクしているだけでない可憐な人形の佇まいや
随分とスタイリッシュな芝岡さん市長のふともたらす心和む存在感も忘れられず。(芝岡さんと言えば、東京バレエ団マラーホフパン眠り初演時カラボスが脳裏を過ります)
全編通して楽しくて仕方ない胡桃バレエ版『コッペリア』全幕でした。

スタジオ40周年おめでとうございます。節目にこうも楽しい心躍る舞台にお目にかかれた喜びに感謝し、心よりお祝い申し上げます。
そしてここまで徹底してお調子者でど天然間抜けな(褒め言葉)全幕フランツを拝見できるとは、2月に起きた生涯背負うであろう二・二三事件の悔しさを少しは晴らした私です。




実はこの会場、太古の昔に私が高校生のとき芸術鑑賞教室で落語と漫才を鑑賞した会場でございます。
都内の小田急線沿線に位置する公立高校でしたので、他に映画鑑賞教室でも来ていたかと記憶しております。
まさかのちにバレエ観に行くとは、しかも私の中では地球上の2大貴公子でいらっしゃるうちのお1人を目当てに足を運ぶ機会に恵まれるとは当時は知る由もありませんでした。
芸術鑑賞においては生徒間では落語が大好評で後日に地理の授業冒頭に先生が皆で感想を語り合うのも大切だからとを時間を設けてくださったことは今も覚えております。
鑑賞日当日は社会科の教師を目指していた教育実習生が担任をしていた時期で、しかし他の現職の先生方よりも遥かに貫禄があり笑
会場前で声を張り上げて出欠を取る姿や、私が日本史で最も混乱していた蘇我馬子や蘇我入鹿、聖徳太子あたりの奈良時代の出来事を
現職の先生よりもすっきりわかりやすく説明してくださったりと、余計な装飾をしないシンプルな路線がいかに大事かを体感。(今の私にも言い聞かせたいが汗)
もっと長く、可能なら卒業まで常駐して欲しかったお方であり、平清盛あたりの時代も整理して教えていただきたかった実習生でした。
胡桃バレエさん鑑賞2週間前に奈良寄りの東大阪にバレエ鑑賞へ行き、紫といえば聖徳太子を思い浮かべる原点であったかもしれません。
実習生だった期間限定の担任の先生、お元気でお過ごしでいらっしゃることを願います。



悪天候予報が出ていて往路は新百合ケ丘駅から会場へ向かおうとしたタイミングで豪雨に見舞われましたが通り雨で暫くすると止み、いざ会場へ移動。
帰りは降らず、ささっと最寄駅近くで乾杯。コッペリウスが飲ませた特製の薬入りお酒は赤ワインか白ワインか、気になるところ。



季節限定のパスタがございました。北海道帆立冷製パスタとのことで、7月の北の大地での滞在を思い出します。今年再び行きます!
それにしてもパスタに使用の小麦の説明文を読みながら思った、麦の穂は本当に鳴るのか知りたいものです。

2023年8月24日木曜日

水と映像の活用効果 スワン・レイク・オン・ウォーター   8月12日(土)夕方公演




東京国際フォーラムにて、ウクライナ・グランド・バレエ『スワン・レイク・ウォーター』を観て参りました。
https://www.promax.co.jp/swanlakeonwater/

https://search.yahoo.co.jp/amp/s/spice.eplus.jp/articles/315998/amp%3Fusqp%3Dmq331AQGsAEggAID


テレビでの宣伝映像や、ハリコフ・オペラ・バレエに元々所属していたダンサー達が再集結してのツアー公演と聞いて興味を持ち足を運びました。
題名にもあるように、本物の水を用いての演出が見所と事前にチラシ等を読んではおりましたが正直無理矢理感があったのは認めざるを得ない印象。
水が登場するのは2幕の湖畔、第4幕でしたが、2幕では舞台一杯に水を張った池のようなスペースにオデットや王子、バシャバシャ音を立て飛沫を上げながら白鳥達が登場。
あれ?確かあらすじでは、湖から陸にあがってきたオデットが人間の姿に変えて云々のはずで、2幕はあくまで陸の上で物語は進行するんじゃあなかったか?
そんなわけで、やたらめったらにバシャバシャと水の中を、オデットならまだしも王子までもが歩き回る行動はだいぶ違和感を覚えました。
それならば何処で水を生かすか疑問になるわけで、オデットの登場では版によっては羽から滴らせた雫を落とす仕草がありますから、そこで少し噴射するか
大きな白鳥達の踊りでの音楽が高揚したあたりで吹きかけるなり(益々センスを疑われそうか汗)
ただ何れにしても、水を張ったスペースでバシャバシャ踊るのは首を傾げる演出に思えました。
しかし浅瀬とはいえ水圧で踊り辛い条件下であっても群舞は整っていて、防水加工したシューズで器用に踊っていました。
Sの字のそぞろ登場やオデットが王子の狩をやめさせるところからのワルツ、四羽の白鳥、コーダは概ねオーソドックスな振付であったかと思います。
ロットバルトもバシャバシャしながら踊っていました。

1幕3幕は王道スタイルで、ワルツや各国の踊りはベルベットな質感のカラフルな衣装でなかなか上質で、1幕トロワは3人とも上出来。
特に男性つまりベンノ?がすっきり端正で体型もシュッと締まり、ブルーの衣装もしっくり。最初こちらが王子と私は思い込んでおりました。
王子はややずっしり系な体格でしたが、浅瀬とはいえ水の中でオデットをサポート、リフトもこなしていただけあり、盤石ぶりには拍手。
オデット/オディールは(多分同じダンサー、配役表が無しであったため正確には分からず)
すらりとした長身で艶かしくしなやかな踊り、特に腕の雄弁さが目を惹きました。

背景は基本映像で、シャンデリアが上下したり、景色の色味が変わるのはまだしもスタイリッシュと思えたものの
白鳥達が飛んで行く群れはにほんむかしばなしや往年のバレエ映画を彷彿。オデットが白鳥から人間の姿になる箇所はアニメーションを駆使していたかと記憶しており、
そこはかなり凝った仕掛けだったか(初期のセーラームーンの変身シーンに似ていたかも)そのため登場シーンが今一つよく見えなかった気がいたします。

初めて観る演出目白押しでなかなか話に入り込めなかったのは正直なところです。しかし戦禍に見舞われ凄惨な襲撃も受けたハリコフのダンサー達が
生活だけでも精一杯でまだ満足な練習もできずにいるであろう状況下で、どうにか新たな出発を大作『白鳥の湖』の大胆な演出で
しかもオーケストラ演奏付きで踊る心境を思うと、またウクライナ国内でも団によるかもしれませんがチャイコフスキーのバレエが上演できないカンパニーもあり
そう考えると大きな箱の舞台でどんな演出であれ古典の白鳥全幕を踊り、観客から拍手を貰う時間は束の間の幸運なのかもしれません。

それから冒頭に記した通り、ハリコフの地名も今回関心を持った点の1つ。(現在は多くの媒体でハルキウと表記されています)昨年4月にめぐろパーシモンホールにて鑑賞した
私が幼い頃の恩師の1人であり、エヴァ・エフドキモワ記念エデュケーショナルバレエコンペティションの事務代表でもいらっしゃる
大串千恵子さん(通園していた幼稚園の園長先生のご一族で、私が唯一の全幕経験シンデレラは千恵子先生演出振付でした)が率いる
東京インターナショナルバレエカンパニーによる Bright Ballet Performance Peace for Ukraineウクライナに平和を公演にて鑑賞した『ラ・バヤデール』舞台装置が
ウクライナ人デザイナーのナディア・シェヴェツさんが手掛け、ハリコフの劇場で製作されたものでした。
太い曲線を生かした大胆なタッチで、彫刻の立体感の再現も十二分。樹木から長く伸びる枝の絡み具合が
お国は異なりますがカンボジアのアンコールワット遺跡や天空の城ラピュタを想起させ、圧巻のスケールだったのです。
元々ウクライナとの交流が盛んな団体で、そもそも舞台装置は2015年に上演した夏休み親子芸術劇場『ラ・バヤデール』全幕のために製作されたと昨春知り、
ハリコフの劇場と日本のバレエの団体が育んできた深い所縁に驚いたのでした。ですからこの『スワン・レイク・オン・ウォーター』を上演するウクライナ・グランド・バレエの元が
ハリコフの劇場と目にしたとき、記憶が脳裏を巡ってどういう演出であれ観たいと欲が募ったのは事実です。
劇場の再開や状況については把握しておらずですが、本来ならば優秀な団員やスタッフ、
衣装や装置も質の高いものを有する劇場であったのは想像でき、今後の活動再開は可能であるのか気がかりでなりません。

その他会場の雰囲気がいわゆるバレエやオペラを上演する劇場ではないため、休憩時間の案内するにも係員が拡声器を手に行うなど、
合同企業説明会やコミケ?思わすイベントホールな空気感があり、また配役表や簡単な案内手引き配布物も一切なし。
そこまで手が回らなかったのかもしれませんが、バレエを普段ご覧になっていない層も多かったと思われ
せめて簡単な冊子があれば尚バレエに興味を持ってもらう機会になったとは思えてなりません。

つまりバレエ初鑑賞、白鳥の湖をご覧になったことがない方もいらっしゃり、そういう方からすれば特に3幕なんて
いきなり民族舞踊始まって、白い衣装着た女性達が出てきて、黒鳥が来て、王子が懺悔していて、と展開されても何のこっちゃなわけです。
実は私のお隣の方がバレエ初鑑賞者でパンフレットを貰うなり買うなりしてあらすじ理解を深めようとしたら何もなく、
バレエ観たことあるなら白鳥の湖のあらすじを教えて欲しいと聞かれ、幕間に素人の私が講義。
「招かれざる客」など何処かで聞いた表現を用いながら説明し、新国エデュケーショナルが役立った有楽町の夜でございました。





帰りは地下鉄へ行くまでの通り道にある国際フォーラム内のお店へ。ささっと有楽町で食べましょう。
フランク永井さんの『有楽町で逢いましょう』、名曲です。お若い世代の皆様、ご自身でお調べください。
まずは白ワインで乾杯です。



ふわふわと羽のようなクリームがかかった生パスタです。



デザートはキャラメルソースのかかったバニラアイス。1玉かと思いきや大きめサイズが2玉。涼やかな喉越しでございました。

2023年8月22日火曜日

ゲームとバレエの交差点になった夏のオペラパレス  スターダンサーズ・バレエ団『ドラゴンクエスト』 8月12日(土)





8月12日(土)、スターダンサーズ・バレエ団『ドラゴンクエスト』を観て参りました。5年ぶり2回目の鑑賞です。
https://www.sdballet.com/performances/2308_dragonquest/


白の勇者:林田翔平
黒の勇者:池田武志
王女:塩谷綾菜
魔王:大野大輔
賢者:福原大介
戦士:杉山桃子
武器商人:鴻巣明史
伝説の勇者:久野直哉
聖母:角屋みづき


主役の白黒勇者は5年前と同じ、白が林田さん黒が池田さん。林田さんは前回はどこか淡白な印象が否めずな造形でしたがあれから5年。
ロビンズの『コンサート』など突拍子もない⁉変わり物作品の経験も重ねたためか踊りの線がだいぶガシッと太くなり、
また頼りないヘナチョコヒーローから冒険を経てやがて王女を助け出すまでの過程の試練をより緩急を付けて体現されお見事。
酒場の女達にてんやわんやな勢いで振り回されオロオロしているときと黒の勇者との対決場面の姿が同じ人物とは思えぬ変化ぶりで
展開は分かっていても手に汗握らせ興奮や冒険心の高鳴りが止まらずでした。

池田さんは前回も迫力にたまげた記憶は5年経った現在もよく覚えておりますが、
登場時から全身から燃え盛るようなパワーとダークな魅力を発散させていて、テクニックもキレキレ。
2幕冒頭の臣下達を率いて鋭い行進、隊列変化の披露は黒の勇者の権力、企みをとことん強調し、特に痺れる場の1つです。
また王女の静止に阻まれ、徐々に弱い部分を見せ始めていく箇所も勇者の心の葛藤がよりくっきりと表れ、上階隅から観ていても胸が苦しくなったほど。
だからこそ、生き別れた兄弟と知ったときの和解には舞台全体から安堵と再出発の期待双方が膨らんでいた印象です。

塩谷さんの王女は初見。楚々としていた渡辺恭子さんに対して塩谷さんは可愛らしくも活発で意志の強い姫君で、
小柄ながら王宮での踊りは身体の使い方が実に大きく、広大なオペラパレスでもスカスカ感が出ず、裏打ちされた技術の高さで存在感を示していました。
大試練に見舞われてもただ助けを待つだけでない王女の性格には前回も好感を持っておりましたが
白の勇者と黒の勇者の争いに臆することなく仲介に入って自らが壁となる姿は心を打ち、
敵味方問わず争いではなく優しさで解決しようと奮闘する行動は昨今の世界情勢を思うと一層考えさせられるものがあります。

そして初役と聞いた杉山さんの戦士にも惚れ惚れし、以前観た愛嬌満点な西原さんとはまた違った、高貴でクールな戦士。
相手をぴたりと静めて率いるような静寂な潔さが垣間見られ、序盤は少々緊張気味かと思いきや酒場での踊りっぷりや鞭の扱いに恐れ入った次第です。

衣装がどれも手が込んでいて、王女の友人達は例えばそのまま『白鳥の湖』1幕にも溶け込みそうな白やキラリと光る装飾で雅やか。
武器商人もゲームの絵そのままで、恐らくはゲームファンの方々でしょう。登場時どよめく声が最も沸き立っていたキャラクターかもしれません。
モンスターの再現度の高さや、被り物着けているとは思わせぬ高度なテクニック炸裂な振付も板につき、体幹の強さにも天晴れです。
導きや天空の妖精の幻想的な群舞も用意され、白の勇者と王女が心を通わせていく場面や黒の勇者と王女の奇襲や拒絶の絡みにおいて
パ・ド・ドゥがしっかり盛り込まれている点や群舞の見せ場、最後の大団円、そして男性のキャラクターの生き生きとした活躍、と
ゲームの世界を再現しつつバレエの要素もしっかり備わった、よく練られた作品と今回も感じ入りました。

尚前回5年前にはなかったと思われる演出で、開演前にはゲーム音な予鈴で観客を冒険の旅へと誘い
冒険心を擽るあのテーマ曲では白黒勇者が飛び交う映画のオープニングのようなスケール感たっぷりに吸い込まれる映像美にもワクワク。
約30年前にはバレエでいうならば東京バレエ団と東京シティ・バレエ団を同一バレエ団と思い込むと同様に
漫画ドラゴンボールZと同一作品と勘違いし、更には前回5年前に初バレエドラクエ鑑賞にあたり
姫が登場と知って思わずピーチ姫と口走り、スーパーマリオと混在させていたほどのゲーム音痴な私でも序曲から心躍りっぱなしでございました。
(奇しくも5年前、会場は同じ新国立劇場で新国立の白鳥の湖終演後に翌週新百合ケ丘でのスタダンドラクエ話題になったとき、
それはスーパーマリオですとバッサリ指摘を受けましたが汗、双方白黒の対比を描いた作品同士であると今更ながら気づく)

見回すと会場にはゲームファンの方々も多数駆けつけていたご様子で、キャラクターTシャツをお召しになっていたり、
ホワイエの展示物を興味津々に眺めて撮影なさっていたり、男性客も多し。幕間にはプログラムを開きホワイエの丸テーブルで語り合い、
すっかりオペラパレスにも馴染んでいらっしゃる方々も目に留まってバレエを存分に楽しまれている表情にこちらまで嬉しくなったものです。
マントやベルトを付けて戦士の格好でしょう、姿勢正して颯爽と歩く小さな女の子も。
バレエ鑑賞常連さんの中にも、トートバッグにスライムキーホルダーを付けて来られた方も見受け、バレエとゲームでドラクエ三昧。
Tシャツ販売も盛況で、2日目には前日に王女役を踊られた渡辺さんが幕間に店番をなさるサービスまで。ひときわ賑わう売り場と化していました。
今のところスタダンのレパートリーでは一番好きで、再演お待ちしております。

因みに管理人、ゲームを所有したことがなく仮に今からドラクエのゲームに挑戦といったところで、まず機材から揃えねばなりません。
リモコン?の操作も全く分からず、そもそもスーパーファミコンとは、プレイステーションとは何ぞやレベルでございます。
しかしシャドウバースは存じており、但し以前仕事先で耳にしただけで内容は結局把握できず終了。
バレエに置き換えれば、未だ三大バレエが言えず、第一ポジションですら分からぬも同然なゲームの分野でございます。





オペラシティには何度も来ていながら初来店、西安餃子。ドラゴンハイボールと記されたハイボールを飲んでみた。普通のハイボールと何かが違うと思われます。



ついすぐ食べてしまい写真撮り忘れましたが棒餃子もジューシーで美味しくいただきました。よだれ水餃子もピリピリに辛くてドラゴンハイボールが進む味。
ドラクエ観る前にも拘らず、スーパーサイヤ人が目に浮かぶ管理人であった。それはドラゴンボールである。



ホワイエ歩くとドラクエの世界、魔王編。シューベルトではない。



賢者編。ハリーポッターではない。ゲーム音痴は生涯不変であろう私である。
終演後は、スタコラさっさと移動し再び白黒対比を描いた作品を観に有楽町へ。会場や内容、色々な考えが巡りました。それはまた次回。

2023年8月20日日曜日

優美典雅な『ライモンダ』と大木満里奈さんのヴァリエーション  令和5年度全国合同バレエの夕べ   8月11日(金)




8月11日(金)、令和5年度全国合同バレエの夕べを観て参りました。
意外と思われるかもしれませんが、伝統あるこの企画公演の鑑賞は初でございます。
http://www.j-b-a.or.jp/stages/r5zenkokugoudouballet/

バレエ協会の全国各地の支部が東京に集結しての公演で、第一線で活躍するプロと上手なアマの境界線が混在曖昧な様子も魅力なのかもしれません。
発表会ではなく最安値席でも4000円はする公演であり、また私は公演の関係者でもなければ親族身内でもありませんから
見る側として目をそれなりに尖らせておりましたが秀作と唸らせる作品もあり、予想以上に楽しめた印象です。
(そもそもバレエ協会とな何ぞや、とは昔からの疑問ではあるが)

特に面白味があったのがまず中部支部の川口節子さん振付選曲『マダム・バタフライ』。元のオペラはオペラ通では全くない私でも知っている作品であり、
近年バレエではKバレエカンパニーの再演による練り直しが好評であったのは記憶に新しいところ。
川口さんがいかにして1幕物の舞踊として振り付けされたか想像がつかずにおりました。
音楽はプッチーニのオペラ曲やロベルト・シューマンの曲も取り入れ、蝶々夫人がピンカートンとの別れの場面における心理に焦点を当てた作と捉えております。
オペラにしてもKバレエの熊川さん版にしても、別れや命を絶つ場面は本来は残酷な行為でありながらも生々しくなり過ぎないように演出されている印象がありましたが
川口さん版は正反対。ピンカートンが他の女性と結婚した現実を突きつけられた蝶々夫人は大きなショックを受けるも
それでも尚思いを訴え、ピンカートンにしがみ付きながら、時には上着をずり降ろすほどに力強くもがきながら重たく引き摺る情念を露わにして
響き渡る波の音も心の虚しさを膨らませ、蝶々夫人の内面に宿る憎悪や恨みをも時間をかけ、抉り出すように描き出していました。
オペラですとここまで生々しくは描かず、見捨てられても一途な思いを貫く健気な面に重きを置いた描写であろうと思いますが
考えてみれば夫が子供も置いて別の女性のもとへ行ってしまった、復讐心を募らせてもおかしくない展開なわけですから、川口さん版の演出にも大いに納得です。
2人を隔てる海を群舞で表す手法や振付も効果をもたらし、抗えない距離感、大海原が眼前に出現するとどうにもできぬもどかしさや悔しさを後押し。
蝶々夫人は川瀬莉奈さん、ピンカートンは市橋万樹さんで、重たい悲しみを背負いながら息詰まる修羅場を造形されていました。
スズキ、息子、ピンカートン夫人も配され、蝶々夫人の心理をより浮かび立たせるように静かに関係性や状況を明示。客席の集中度の高さも肌を伝う秀作でした。
川口節子バレエ団の定期公演では創作も積極的に上演しているようで、興味を持つきっかけとなりました。

もう1つは東京地区岩田守弘さん振付『ライモンダ』。歯切れ良い序曲が流れ幕が上がると出演者全員が集合した光景をまず観客に見せ、壮観さは抜群。
鑑賞前は3幕をほぼ丸々上演かと思いきや、グラン・パ、クラシック以外の方々の衣装を見るとチャルダッシュではなさそうで
もしやと思ったら1幕のグラン・ワルツを組み込み、ライモンダが踊るピチカートはカットしてそのまま続きのワルツ、その後はグラン・パ・クラシックへと繋がっていく演出でした。
『眠れる森の美女』でいうオーロラの結婚、『コッペリア』でも1幕のマズルカを取り入れた結婚式の『ライモンダ』版といった演出でしょう。
チャルダッシュ無しは少々寂しく感じたものの、世界で最も好きな1幕のワルツを目にできると思うと
こちらのほうがお披露目機会が滅多にない場面ですから胸が高鳴りっぱなしでした。
ワルツは膝丈のチュチュで花のロープな小道具もあり、優美で典雅な趣を重視した振付であった印象です。

グラン・パ・クラシックはライモンダが蛭川騰子さん、ジャン・ド・ブリエンヌが清水健太さん。
蛭川さんは所属の国際バレエアカデミアで拝見したことはあれど、今回は透明感と艶やかさのバランスが絶妙に合わさった美しさと端正な技術で魅了。
白地に大きな模様が描かれた衣装や豪華な頭飾りも絵になるお姿でした。
清水さんはまずまず騎士に見え(失礼、抜粋でも重視してしまう私です汗)、カチッと折り目正しく厚みある踊りも好印象。
そして今回初台に来た最大の目的、来期から新国立劇場バレエ団に入団される大木満里奈さんのヴァリエーションが絶品で
長い手脚のコントロールが美しく、脚捌きの切れ味や角度の示し方も惚れ込む味付けで魅せてくださいました。
グラン・パ・クラシック後に披露される、お馴染みのカエルぴょんぴょこな振付の踊りで
お1人で踊っていても舞台が一気に狭く感じられ、それだけ空間の取り方の大きさや見せ方を心得た踊りだったからこそでしょう。
先日届いた会報誌アトレに新入団員インタビューが掲載され、ラ・バヤデールがとてもお好きな作品とのこと。
3幕では影コール・ドに入ったとしても、すぐに見つけたい心持ちでおります。
大木さんを最初に注目したのは2021年3月、バレエ協会のクラシックとコンテンポラリーの眠り2本立て公演にて2日目の古典眠りにて
リラの精を気高くダイナミックに踊られたお姿は忘れられず。この公演ではコンテンポラリー眠りではカーテンコールは撮影可能で、
訳あって2日間とも1階最前列で観ていた私は後頭部から執念を発しながら撮影していたと後方席にいた知人に指摘された思い出がありますが汗、
もし2部古典眠りも撮影可能だったならば、大木さんを懸命にカメラに収めていたに違いありません。

グランパの精度も高く、全体の技術は大変良い仕上がりでした。コーダの後に賑やかギャロップも入り、
ワルツ陣も出演。更にアポテオーズも付いて壮麗優美な幕切れとなりました。
2点欲を申すならグランパ女性の衣装が黄色や黄緑も含まれていて一見『ラ・バヤデール』パ・ダクションな色彩デザインであった点と
頭飾りがドロップ型輪っか1つで、もう少し重厚なティアラもあれば良かったかと観察。
公演前に劇場レストランマエストロにて初めてインドカレーをいただいたせいもあるかもしれませんが中世フランスの宮廷には感じづらかった衣装デザインでした。
もし胸元が平たいカットであれば中世の時代性(中世と言っても長い期間に及んだが)はより前面に出たかもしれません。
岩田さんの振付と知ったときは、長くボリショイで活躍されたキャリアからしてグリゴローヴィヂ版のような勇壮堅固な雰囲気を色濃く出すかと思いきや
優美典雅な路線であったのは意外でしたが、品ある纏まりと華やぎのある『ライモンダ』抜粋でした。

関東支部の松下真さん振付『アルル』は柔らかなチュチュの女性と上下黒で整えた男性も絡むクラシカルな作品で
関西支部の磯見源さん振付Woman et femme à nouveauxは女性のみで踊られる暗闇から繰り出すパワーに包まれたコンテンポラリー。
ミストレスと出演者名に、2009年大阪のKバレエスタジオ公演にて矢上恵子さん振付『カルメン』にて
虐待を受けた設定の幼少期の歪んだカルメンを踊られた衝撃が今も脳裏に残っている桑田彩愛さんのお名前があったのも嬉しい発見でした。

東北支部の『コロンバイン』は一昨年新国立劇場バレエ団Dance to the  Futureにて上演された、
当時は団員として在籍されていた高橋一輝さんの作品で男女ペア6人に子供のアンサンブルを追加。少々長いかなとも思えたものの、
くっついたり離れたりして展開を見せていく振付やレトロ調な衣装が風に吹かれ雨に打たれながらもしぶとく咲く花々に見えました。
甲信越支部の『畔道にて~8つの作品』は金森穣さんの演出振付。パッヘルベルのカノンやホフマン物語の舟歌等聴き馴染みあるクラシックの名曲を繋げ
群舞が道なりを描きながら進行。金森さんの演出ノートによれば新潟市洋舞踊協会から依頼を受けて新潟の子供たちのために作った完全オリジナル作品とのこと。
郷愁感や懐かしさがふと込み上げてきそうな構成で、暗闇からであっても瑞々しさが放出されていくと見て取れました。
終盤、井関佐和子さんと子供が出てくると雰囲気は一変し、厳かさのある空気を押し上げ包み込まれた気分になったものです。

観客の大半は関係者と思わしき層で、当日券売り場も簡素なセッティングでしたが、
各地からの作品の中でも思いがけず面白い作品との出会いもあり、新国の中劇場であった為2階席からも観易く、堪能いたしました。



公演前に、早めに着いて知人と昼食。マエストロでは初めてビールで乾杯。



ランチ限定のバターチキンカレーを初めていただきました。そこまで辛くはなく、しかししっかりスパイシー。パクチーも少々のっています。



涼やかなパンナコッタ。


帰り、毎度のオアシスで白ワインで乾杯。あちこちの劇場でお目にかかる常連さんと3名で
何故だか地元の高低差地形や坂の話題となりタモリさんにお越しいただきたい自慢な内容から、暫しお盆時点での夏の総決算です。
全国合同バレエの夕べは初鑑賞である旨を申し上げると驚かれ、新国立に入団される大木さん目当てに来たことついても伝えました。
カウンター角には千葉ロッテマリーンズのマーくんと幕張の海に住む謎の魚とされるキャラクター。
あれ、MarinaさんとMarines、並びが似ている気がするが気のせいか。
3名とも何かしら鑑賞梯子する日々で、お1人は身体が2つあるとしか思えぬ回数を短期間でご覧になっているご様子!
複数の公演が短期間に集中して客の奪い合いが起こり、特にガラは飽和状態になった今夏の東京でございます。
私は今夏のガラはオペラ座ガラ、ウクライナ国立、アステラスの3本行きましたが3本全て、目の前の列や左右が10席以上空いている客入りでした涙。
ウクライナ国立やアステラスはプログラム内容も良かっただけに心残りでございます。

2023年8月17日木曜日

中身充実もガラ飽和状態な現実 バレエ・アステラス2023 8月6日(日)




※改めまして、佐々木美智子バレエ団『ドン・キホーテ』(公演日は2023年7月30日)記事につきまして、関係者の方がリンクを紹介してくださったようで
当ブログでは昨年秋の新国立劇場バレエ団『ジゼル』以来であろう、テレビ番組で例えるならばNHK連続テレビ小説『おしん』並みのアクセス数に喜び驚愕しております。
アクセスしてくださった方、ありがとうございました。
鑑賞後すぐに綴ることが困難な脳みそであるが故に鮮度が薄れた頃に更新されるブログでございますが、宜しければ今後もお立ち寄りいただけたら幸甚です。
気づけば現在5本ほど溜まっておりますが、地道に更新して参ります。


8月6日(日)、バレエ・アステラス2023を観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/asteras2023/


※昨年のバレエ・アステラス2022フィナーレの様子。グラズノフの『バレエの情景』よりポロネーズにのせた祝祭美満開なフィナーレでございます。
お急ぎの方は開始30秒から48秒あたりまでどうぞ。遂に本拠地でお披露目となった『海賊』、また観たくなります。
予想以上に精巧な作りだったせいか、上半身網網付きアリ衣装もなかなか宜しかった。



オープニング
前回までは『エフゲニー・オネーギン』ポロネーズでしたが今回からは管弦楽組曲第3番ト長調。
テーマとヴァリエーションのフィナーレ部分でございます。管理人、両曲大変好きでございます
今回からはスターウォーズのような吸い込まれるような天体風映像付きで始まりました。


※作品名等は公演ホームページより

『シンフォニエッタ』
振付:牧 阿佐美
音楽:シャルル・グノー

研修所看板演目の瑞々しい作品でアステラスでは度々披露されてきました。今回からか女性の衣装がシフォンスカートからクラシックチュチュのデザインに変更。
音楽にのせてスカートがさらりと舞い翻るさまも魅力だっただけに最初は違和感が少々募るも、クラシックチュチュを着用してのカチッとした踊りもこれはこれで良いかと観察。


『Love Fear Loss』よりLossのパ・ド・ドゥ
振付:リカルド・アマランテ
音楽:エディット・ピアフ
ピアノ演奏:中野翔太

五十嵐愛梨 (アトランタ・バレエ)
セルジオ・マセロ (アトランタ・バレエ)

中野さんのピアノにのせてしっとり躍動、目で追いかけ連なりの軌跡をじっと観察したくなる安らぎをあたえてくれるパ・ド・ドゥ。
五十嵐さんが静かに語りかける身体のラインにも自然と目がいきました。


『サタネラ』よりパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ
音楽:チェーザレ・プーニ

後藤絢美 (アメリカン・バレエ・シアター スタジオカンパニー)
三宅啄未 (アメリカン・バレエ・シアター スタジオカンパニー)

大阪の川上恵子バレエスクール発表会でで度々拝見した後藤さんが曇りのない高い技術で可愛らしく披露。
1つ1つのテクニック、ポジションが正確でしかもひけらかすことも一切なく上品な踊りがある上に悪戯な笑みも浮かべたりと完成度の高さに仰天。
三宅さんは力みないジャンプやパとパの繋ぎ部分に至るまで滑らかさを失わず、何より2人で楽しく戯れるように踊る姿が微笑ましく
そして空間の使い方も大きく、広いオペラパレス舞台がスカスカならず。ガラの大定番である作品を一段と底上げさせていました。


『夏の夜の夢』よりファイナル・パ・ド・ドゥ
振付:リアム・スカーレット
音楽:フェリックス・メンデルスゾーン

吉田合々香 (クイーンズランド・バレエ プリンシパル)
ジョール・ウォールナー (クイーンズランド・バレエ プリンシパル)

衣装やメイクはややモダンな風味がありながら振付はクラシックがベースで、音楽の抑揚と溶け合いながら2人の身体が優美に舞い
満天の星空に吸い込まれそうな美しさに感嘆。全幕で観たくなるパ・ド・ドゥでした。


『コッペリア』よりパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ
音楽:レオ・ドリーブ

ジェシカ・シュアン (オランダ国立バレエ プリンシパル)
山田 翔 (オランダ国立バレエ ソリスト)

白い衣装の2人が花畑を歩くような幸福に満ちた姿で登場。シュアンの強靭な軸に対し脚先や指先は薄い花びらを重ね合わせたような繊細さで紡ぐ踊りにうっとり。
ガラであるため背景や周囲に参列者役の出演者がいなくても観客を参列者に見立ててか上階席にいる私までもが話しかけられている気分になってしまい
それだけ瞬時に会場を作品の世界へと引き寄せる力量の持ち主なのでしょう。
山田さんの伸びやかでクセのない、朗らかな味のある踊りも好感を持ちました。オランダ国立バレエ、いつか来日を。


『アルルの女』よりラストソロ(ファランドール)
振付:ローラン・プティ
音楽:ジョルジュ・ビゼー
出演:吉山シャール ルイ

急遽プログラムに入った作品でしたが、力強い様相に悲哀を帯びていく内面を吉山さんはダイナミックに体現され、
最後の窓からの飛び込みは僅かに片腕のほうが伸びていて、競泳やスーパーマンに見えず一安心。
いつも思うが、飛び込みポーズはどれが正しいのだろうか疑問でございます。


『ジゼル』 第2幕よりパ・ド・ドゥ
振付:ジャン・コラリ / ジュール・ペロー/マリウス・プティパ
音楽:アドルフ・アダン

木村優里 (新国立劇場バレエ団プリンシパル)
中家正博 (新国立劇場バレエ団ソリスト)※次シーズンよりファーストソリストへ昇格

木村さんの復帰をようやく鑑賞。お墓の前で立ちはだかる姿からしてすぐさま舞台空間を墓地に変え、
まだ微かな人間味を残しつつアルブレヒトを愛し求める心やミルタから守ろうとする強さも伝わりました。
中家さんの貴公子系の役は久々、ヒラリオンの印象があるものの大らかなサポートや踊りの芯の太さも安心度を上昇。
もし全幕で踊られたら、純愛系か火遊び系かどちらの方向へいくか気になるところです。
昨年秋は連日、ピュアブレヒトだのダメブレヒトだのあれこれ語り合ったジゼル全幕を思い出します。


ミラノ・スカラ座バレエ・アカデミー

『Largo』より
振付:マッテオ・レヴァッジ
音楽:ヨハン・ゼバスティアン・バッハ
チェロ演奏:上村文乃


『La fille mal gardée』よりパ・ド・ドゥ
振付:フレデリック・オリヴィエリ
音楽:ルートヴィヒ・ヘルテル

『Largo』はフォーサイスを柔らかくしたようなコンテンポラリーで摩訶不思議なクールな空間が出現。
皆身体能力が高く、チェロの響き合うように自在に繰り出される動きも観ていて気持ち良し。
『La fille mal gardée』は編曲が随分とゴージャスで、現地では主流なのか分かりかねます。
表現はもう一歩でしたがのどかで真っ直ぐな、初々しい輝きのある2人でした。


『ドン・キホーテ』第3幕よりパ・ド・ドゥ
振付:カルロス・アコスタ
音楽:レオン・ミンクス

栗原ゆう (英国バーミンガム・ロイヤルバレエ ファースト・ソリスト) マイルス・ギリバー (英国バーミンガム・ロイヤルバレエ アーティスト)

栗原さんのカラッと晴れやかな踊り方が好印象。ただキトリの衣装が白色ホルターネックのせいかリゾートの水着にも見えてしまいセンスには首を傾げます。
全幕で再度観たいかと聞かれるとアコスタ版、2019年の来日公演では鑑賞したものの無駄に目立つ叫び声等突っ込みたい部分満載であったため、以下略。次行きます。


『SOON』
振付:メディ・ワレルスキー
音楽:ベンジャミン・クレメンタイン

刈谷円香 (ネザーランド・ダンス・シアター1)
パクストン・リケッツ (ネザーランド・ダンス・シアター1)

昨年に続き刈谷さんを鑑賞でき嬉しく、光の当て方がずれた位置から身体を覗かせたりと全く予測できぬ状態へと発展させていく踊りで
細胞がミリ単位で迸ってはぴたりとおさまる様子を面白く観察。


『Shakespeare Suite』よりロメオとジュリエット 振付:デヴィッド・ビントレー 音楽:デューク・エリントン 水谷実喜 (英国バーミンガム・ロイヤルバレエ プリンシパル) ロックラン・モナハン (英国バーミンガム・ロイヤルバレエ プリンシパル)

プログラムを読み、エリントンがシェイクスピア好きであると初めて知り、題名と振付家名からしてもずっと観てみたかった作品で
ロメオとジュリエットの世界がジャズといかにして触れるか注視。水谷さんが意思を強く持つジュリエットに見え、ただバルコニーの熱愛を濃く描いた光景ではなく
しっとり優しく、2人をジャズが包むように愛を育んでいくパ・ド・ドゥと感じさせました。
『Shakespeare Suite』にはシェイクスピア文学の様々な人物が登場するそうで、全編通して観たくなります。


『眠れる森の美女』第3幕よりパ・ド・ドゥ
振付:マリウス・プティパ
音楽:ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー

ジェシカ・シュアン ※ (オランダ国立バレエ プリンシパル)
吉山シャール ルイ (チューリヒ・バレエ プリンシパル)

急遽の組み合わせでの披露、だったはず。光の粒を静かに降り注ぐように踊るシュアンの姫に骨抜きにされ、
吉山さんは王子の印象はこれまで無かったがドンと構えた骨太な貴公子姿でシュアンとのペアもお似合い。


フィナーレは前回まではオープニングで演奏されていた『エフゲニー・オネーギン』ポロネーズ。
先月は東京シティ55周年トリプル・ビルの、昨年にはバレエシャンブルウエスト『タチヤーナ』にて川口ゆりこさんのタチヤーナ役勇退フィナーレにて演奏されたり
聴く機会はまずまずあるため、同じぐらいに頗る好んでいるものの耳にする場には滅多に遭遇しない
前回までのグラズノフ作曲『バレエの情景』ポロネーズが聴きたかった欲がまさる私でございます。(たまには変えたい事情もあると察しますが)
それはさておき、今年も古典からコンテンポラリーまでバランス良く、また各バレエ団ならではの作品も目立ち、しかも基本生演奏。
数年前までは時々見かけた、人選と作品の不釣り合いも見当たらず、上質で充実したプログラムでした。
ただ例年、特に今回は上階席のクオーター貸切状態な空席の多さは目に痛く、視界の良好を喜べるレベルを超えております。
公演が大集中した週末であった事情は十二分に理解できますが来日ガラ、帰国系ガラが飽和状態になった今、更なる販促や工夫が求められることと思います。




新国立劇場の三箇所全ての劇場で舞踊公演開催。



帰りは移動して4日前に大活躍であった渋谷での発表会出演者や関係者の方々を労って乾杯。



生ハムの絨毯!!我が後輩の大好物が敷き詰められています。
それにしても、たくさん食べてもスレンダーな身体を維持しているのは
日頃相当気をつけながら過ごしているであろうと想像いたします。私はすぐにズンドコドッスン汗。



前菜盛り合わせ。そしてパンはおかわり自由。オリーブ等が練りこまれたものと、フォカッチャの2種だったかと思います。
言うまでもなく、何回お替わりしたか分かりません笑。ワインも会話も進みました。



サプライズ成功!予約時に文言をメールで送信、そして一足早く到着してお店の方とささっと打ち合わせ。
真面目で努力家なお2人が日頃の成果を舞台で披露できたことが私にとっては何よりの喜びです。お2人とも、謙遜ばかりしないように笑。

2023年8月15日火曜日

新制作を携えて ウクライナ国立バレエ Thanks Gala 2023夕方公演 8月5日(土)




8月5日(土)、ウクライナ国立バレエ Thanks Gala 2023夕方公演を観て参りました。
https://www.koransha.com/ballet/ukraine_ballet/thanksgala/

※キャスト等は光藍社ホームページより


第1部
「パキータ」
振付:N.ドルグーシン
オリガ・ゴリッツァ、ニキータ・スハルコフ ほか

昨年冬鑑賞時の『ドン・キホーテ』と同じ組み合わせの主役ペア。ゴリッツァとスハルコフ共に
大人な風格と、これ見よがしなことをせずとも端正で香り高い美しさを奏でるとても好きなペアで、この度も再び鑑賞でき嬉しい限り。
スハルコフの隙や粗を一切見せずに駆使するダイナミックなテクニックや安心感あるサポートも一層冴え渡っていた印象です。
パ・ド・トロワのミクルーハ、パンチェンコ、パスチュークの3人が音楽と楽しそうに語らうように踊る姿にも頬が緩み、されどポーズ1つ1つや着地に至るまで盤石さも十二分。
特にトロワは発表会の大定番ですが、こうも格のある踊りになるのかと息を呑みながら眺めておりました。
コール・ドもよく整っていて、主役もトロワ陣も含め全員の基礎力が高くそしてそこからぱっと華やぐ香りが漂い、エレガントな祝祭感を堪能です。


第2部
「森の詩」よりパ・ド・ドゥ
振付:V.ボロンスキー
イローナ・クラフチェンコ、ヤロスラフ・トカチェク ほか

2017年のバレエ団創立150周年ガラで観て以来。この団ならではの作品ですから抜粋であっても再演を待ち望んでおりました。
白いクラシックチュチュの雪の精達の群舞を交えながらのパ・ド・ドゥの振付は観ているこちらも不思議な森に迷い込んだ心持ちに。
幻想的な中にも技巧の見せ場もあり、終盤対角線に並んだ雪の精達が隊列を移動させる形の中で
マフカが回転を行っていく箇所は舞台移動の変化観察が面白く、全編観てみたい作品です。
クラフチェンコが艶やかさと儚さが溶け合う神秘的なオーラを纏う森の妖精マフカ、トカチェクのルカーシュは朴訥とした青年ぶりもよく似合い、
別世界へといざなわれそうな森の木々が描かれたエメラルドグリーンを基調とした繊細な背景も見所でした。


「Ssss…」より
振付:E.クルグ
アナスタシア・マトヴィエンコ、デニス・マトヴィエンコ
【演奏(Pf)近藤 愛花】

久々に観たマトヴィエンコ夫妻、アナスタシアさんは以前よりパワーが増して力強く刻むように身体を操る踊りに釘付け。
デニスさんも年齢と共に強靭さが倍になっているのか、しなやかさはそのままに小刻みに痙攣するような動きも全力で披露。
静けさの中からお2人のパワーが咲き乱れる作品でした。新国立劇場バレエ団のシーズンゲストとして
長年あらゆる作品に客演されてきたデニスさん、まだまだ踊れそうな逞しい勢いです。


「シルヴィア」より
振付:J.ノイマイヤー
シルヴィア・アッツォーニ、アレクサンドル・リアブコ

お2人の『シルヴィア』パ・ド・ドゥを観るのは2015年の世界バレエフェスティバル以来!?ハンブルクバレエも世代交代が進んでいると思われ
この組み合わせではもう目にする機会はないかもしれないと心の何処かで思っておりましたので思いがけず鑑賞が叶いました。
互いに少し手を翳したり、ふと静寂に包まれている時間でさえ磁力のような糸で繋がっていると思わせ
音楽に呼応しながら伸びやかに絡む身体から何処かほっとした安らぎが滲み、手を合わせる思いで見つめてしまいました。


「ファイブ・タンゴ」
振付:H.V.マーネン
オリガ・ゴリッツァ、ニキータ・スハルコフ ほか

どうしても観てみたかった作品。新国立劇場で上演予定が2回飛び(次こそは上演求む)先にウクライナ国立公演で観る運びとなり
あえて予習はしていなかったため予備知識なく、ピアソラの音楽構成だから間違いはないであろうとぶっつけ本番鑑賞で臨みました。
『パキータ』でも触れた通りとにかく全員の基礎力が高く、癖のない美しい踊りが持ち味であるダンサー達の身体はタンゴにも柔軟に対応でき
クイッと捻りある振付やキレキレな美で大人の色気や情熱をムンムンと醸していました。
特にスハルコフのソロでは行き届いた身体のコントロール力が更に発揮され、ときめきはしないのだが(失礼)
タメの効かせ方や見せ方に思わず歓声をあげそうになったほど。実際複数のエリアから黄色い歓声が響き渡り、納得でございます。
前回のドンキを観たときも、状況を考えるとバレエ団全体のレベルの高さの維持に驚かされ
余計なトレーニングをしていないためなのか真っ直ぐな脚線など身体の条件もきちんと調整されていて、基礎鍛錬の行き届きがこの度も窺えました。

さぞかし上出来な仕上がりになるであろうと期待は寄せておりましたが想像以上で
同時に新しい作品に取り組む喜びがこれでもかと伝わり、新制作の成功を心から祝します。

終演後はトークショーがあり、司会進行は桜井多佳子さん。まずは寺田宜弘監督へ、その後はリアブコとデニス・マトヴィエンコも登場してのお話が繰り広げられました。
戦争が続く辛い状況下でも団員が戻ってきてくれたり、日本からの義援金で『ファイブ・タンゴ』や『スプリングアンドフォール』といった
新作上演や衣装の制作にも漕ぎ着けた喜び、若手ダンサーの台頭等、前進し続けるバレエ団の今を誇らしく語ってくださり、
次回来日上演される『雪の女王』の解説もあって冬の来日が益々楽しみになりました。
リアブコとマトヴィエンコを交えたお話では、バレエ団への惜しまぬ協力や寺田さんの活動を讃えては
今度は寺田さんがリアブコのバレエ学校時代での練習から既に芸術家な一面が覗けたエピソードやのちに主演舞台の『椿姫』を観たときの衝撃や客席の様子
ウクライナの男性ダンサーの1つの転換期ともいえたマトヴィエンコの非常に高いテクニック特に回転技術等、お2人を讃え始めると止まらなくなり
(新国立劇場に客演されたときのノリノリバジルや空中回転で延々と移動していきそうであったソロル等強烈であった記憶あり)
3人が互いを尊敬し合いながら今は力を持ち寄ってバレエ団の活動を支えていらっしゃるお話にただただ拍手を送るしかありませんでした。
一番の望みは戦争の終結。たた終わったとしてもその後も難しい現実を突き付けられる日々は続くと思われ、
今日が終戦記念日である日本は78年が経っても、癒えぬ傷や未解決の問題もまだ多く残されています。
厳しい状況下であってもバレエ団が更に前進し芸術の灯火が消えぬよう願ってやみません。





展示のパネル。昨冬のスハルコフさんバジルを思い出します。



展示のパネル。昨夏のガラを思い出します。



今冬の来日公演の宣伝と、今回は涼を求めての効果も大であった『雪の女王』パネル。コール・ドも美しそうな作品です。



帰りは新橋にあるスマチノーゴへ。ウクライナから避難されてきた方々が勤務されています。内幸町や虎ノ門駅のほうが近いかもしれません。
カトラリーの金と水色が綺麗。スタッフの方々は日本語を丁寧にゆっくりと話してくださり、とても一生懸命です。
団扇を眺めていたら、発音の仕方を優しく教えてくださいました。まずはウクライナの赤ワインで乾杯です。渋みと深みがあって美味しい。



鰹出汁を使ったボルシチ、さっぱりされど味わい深い。お替わりしたかったくらい笑。黒パンは見た目以上に中身が香ばしくぎゅっと凝縮。食べ応えありました。
前菜の盛り合わせ等、他にも惹かれるメニュー多数。また行きたいお店です。



雪の女王の漫画案内本も配布、わかりやすい、そして観たくなる。通信教育学習資料宣伝送付物の付録本を思い出します。
そしてバレエ学校時代のお話が出ましたので80年代後半のバレエ雑誌に載る生徒時代の寺田少年。
テストのお話やバレエ学校の地方公演メンバーへの選抜の喜び等が綴られています。脚線が美しい。
ソ連時代の留学生活について一般読者が知る貴重な情報源であり、苦しいこともさぞ多かったに違いないでしょうが、
地道に練習を重ねて卒業し入団、そして現在はバレエ団の芸術監督。リアブコとマトヴィエンコがひたすら敬意を表し続けていたのも納得です。