2020年5月31日日曜日

【お茶の間観劇】【バランシン周遊】ニューヨーク・シティ・バレエ団『ドニゼッティ・ヴァリエーション』他

ニューヨーク・シティ・バレエ団から配信されていたバランシン振付『ドニゼッティ・ヴァリエーション』を初めて鑑賞いたしました。
日本では20年前に小林紀子バレエシアターが上演し、もしやと思い調べたところ<ステイジド・バイ:ナネッタ・グルーシャク>の文字に胸躍り
もっと遡れば足川欽也さんがガラで踊っていらしたと記憶しております。
女性7人と男性4人程度の構成の入れ替わり立ち替わり踊る緩急に富んだ展開で、
主軸を務めたアシュリー・ボーダーの身体コントロール力、突き刺すような脚力の強さに惚れ惚れ。
ボーダーは一昨年の『世界バレエフェスティバル』Bプログラムにおける黒鳥グラン・パ・ド・ドゥでの
優雅さが無いに等しい(失礼)体育会系オディールに驚きを覚えましたが、2013年のNYCB来日公演では『タランテラ』で
急速テンポでも一瞬たりとも揺るがぬ盤石のテクニックを披露して本家本元の誇りを示し、このとき以来の好印象。濃いピンク色の村娘衣装もお似合いでした。

音楽はガエターノ・ドニゼッティの『ドン・セバスチャン』より、ニューヨークシティ・バレエ団初演は1960年でメリッサ・ヘイドンが主役を務めたとのこと。
ドニゼッティはバレエではなかなか聴く機会がないものの2006年の世界バレエフェスティバル幕開けを飾った
オーストラリア・バレエのルシンダ・ダンとマシュー・ローレンスによる『ラ・ファヴォリータ』にしても
ルグリ振付のパ・ド・ドゥにしても(曲は恐らく同じ構成)クラシカルで祝祭感があり、また観てみたい作品です。
兄ジュゼッペ・ドニゼッティの音楽は昨年八王子での発表会における魔王登場時、時代劇の大物参上を彷彿させた曲で強烈な印象に残っております。

さて、ほぼ毎週末劇場での鑑賞を当たり前のように行っていた以前では特例を除いては考えられなかった動画延々検索行為に走ってしまったところ
先に述べたNYCBよりも心を掴まれた映像を発見。ゲルシー・カークランドとミハイル・バリシニコフが踊る
1978年のアメリカンバレエシアター『テーマとヴァリエーション』です。公式ではない配信経緯不明のため大々的には紹介いたしませんが
カークランドと言えば1977年にスタジオ収録されたバリシニコフと組んだ『くるみ割り人形』での幸が薄そうな(失礼)クララと
麻薬中毒に陥り楽屋でも倒れ、のちに執筆した暴露本の印象ぐらいしかありませんでしたが、まさに完成されたプリンシパル。
ステップやポーズ1つ1つがクリアで正確、実にエレガントでクラシック・チュチュを着けた姿は初見でしたが脚がすらりと真っ直ぐ伸び
クラシック・バレエの真髄に魅せられた気がいたします。バリシニコフの無駄のない美しい跳躍や澄み切った品の良さにもこれまた見入り
コール・ドも精度高く、誠にゴージャスな舞台。総合力に圧倒された次第です。尚衣装はプリンシパルは白、他は赤系で纏められていました。
1980年前後辺りのABTのコール・ドにも憧れを抱き、シンシア・ハーヴェイとバリシニコフの『レ・シルフィード』や
シンシア・グレゴリーとフェルナンド・ブフォネスの『パキータ』は30年前から映像で目にしておりましたが
大人数のバランシン作品においても呼吸の合った舞台を堪能です。

その後は『ユニオンジャック』に到達。同じベースの振付で披露された関西や四国の舞台を思い返し再び県境を跨いでの移動が自由になる日を夢見つつ
(大阪にて井澤駿さんが踊られたこともあり、セーラー服でスキップなさっていても王室から派遣されたであろう随分上品な水兵さんでした笑)
『スターズアンドストライプス』では日本のバレエ団としては全編初上演を果たしたNBAバレエ団の公演が思い起こされました。

ところで余談ですが管理人、今春以降飲酒量が激減。劇場帰りの乾杯が習慣化していたにも拘らずお茶の間観劇においては酒瓶に手を触れる行為にはなかなか至らず
この日は焙じ茶を飲みながらのバランシンでした。肝臓は弱まったか、それとも肝臓の働き方改革遂行によりむしろ丈夫になったか
新国立の巣篭もりではイタリアワインを用意して臨み確認したいと思っております。

2020年5月29日金曜日

【できるかな】【お茶の間妄想】新国立劇場バレエ団で『スパルタクス』

緊急事態宣言は解除されましたがまだまだ油断できぬ状況が続いております。
時々当ブログにも登場する管理人の妹は子供達と接する仕事をしているため暫くの間休業状態でしたが、来月から通常勤務に近い状態で再開予定。
ただ在宅時間が長く続いたとはいえ遊んでいたわけではなく、再開の準備や子供達が家で楽しく過ごすための策を練っていたとのこと。
その内の1つが工作絵本で、各々好きな絵を描いて着せ替え人形のように絵柄が変わる絵本の作り方の図解説明書を製作しウェブ公開または配信していたそうです。
幸い私と似ておらず、幼い頃から一般教科のみならず図画工作も得意であった妹ですので
(4歳違いのため小学校は2年間在籍が重なりましたが、妹の担任の先生と廊下で会うたびに何回褒められたことか)
従事する職業においても素質が存分に生かされており、一族の誇りでございます。(対する姉の管理人は幼稚園児の頃から趣味だけは確立するも人生迷走、現在に至る)

さて工作といえば、ウェブ配信がない時代から大勢の子供達に支持されていたテレビ番組が2本ありました。
両者とも教育テレビ(当時の名称)で『つくってあそぼ』(7年前頃まで放送)と『できるかな』です。
前者はわくわくさんと心優しい熊のゴロリが、後者はノッポさんと何の生き物かは不明なゴン太くんがペアを組み
身近にある材料を使って工作を楽しむほのぼのとした子供番組でした。『できるかな』は大長寿番組で私も好んで視聴しておりましたため
昨今バレエ関係の会話にて英国ロイヤル・バレエ団プリンシパルのワディム・ムンタギロフさんの多種の愛称の1つ「ムンタくん」を最初に新国立劇場で耳にした際には
思わずゴン太くんが浮かび、鋏と紙を手にして工作に勤しむムンタさんが脳裏を過ったものです笑。

さて本題。『できるかな』を懐かしく思い出したつい先日、ちょうど福岡雄大さんが司会進行を務めるインスタグラムライブトーク通称『雄大の部屋』にて
渡邊拓朗さんが登場された回でのこと。挑戦したい役や作品を尋ねられ、『白鳥の湖』王子とロットバルト両方と回答した後にもう1本
新国立では難しいと思いますがと前置きした上で口にしたのは『スパルタクス』
福岡さんも思わずおお!!と声を上げ、鎖付けたスパルタクス役が拓朗さんに似合いそうと嬉々として語っていらっしゃいました。
そういえば、拓朗さんは10代の頃にカルロス・アコスタ主演の『スパルタクス』をご覧になり
男性らしい魅力が詰まった作品から受けた大きな衝撃を2018/2019シーズンガイドブックでのインタビューにてお話しになっていて
今回のライブトークも視聴した限り、また昔のバレエ映像研究家でもある兄上の存在もあり笑(複数のインタビューで拝見)、恐らくは振付も全て頭に入っていて
ムハメドフやワシリエフなど往年のボリショイキャスト映像も目に焼き付けていらっしゃることでしょう。
『スパルタクス』なら役柄問わずやりたい、男性ダンサー達が一斉に行進して雄々しく踊り出す箇所に憧れを抱いているなど『スパルタクス』愛に溢れたお話でした。

私も好きなバレエ作品で上位13選に入っており、ソビエト時代のバレエ作品に絞った半期講座のみならず
2017年には『スパルタクス』特集の講座にも足を運んだオタクではございますが
当時新国立劇場バレエ団に当て嵌めたときには主要4キャストは瞬時の妄想が巡ったものの
男性ダンサーの平均身長も上がり、層も厚くなってきている傾向があるとは言いながら
グリゴローヂヴィヂ振付作品には不可欠な長身且つ筋骨隆々な体型でなければスパルタクス側クラッスス側何れにしても男性群舞は困難であろうと想像しておりました。

しかし今回のライブトークから、ある程度の上背は必要でしょうが何も皆が皆ボリショイ男性な体格である必要はなく
踊りこなす技術があるのは前提として、要所要所にはイーグリング版『くるみ割り人形』アラビア常連隊を配置してあとは踊り方の工夫、スタミナの持続
そして内面から沸き出るパッション(最重要かもしれない)を持ち合わせていれば実現できそうと妄想。
「できるかな」から「できそう」、「できる」、観たい!と考えが徐々に変化していった次第です。
多少は筋肉増強が望ましいでしょうが、筋トレの帝王!?貝川鐵夫さんに弟子入りし、
劇的な色合いを込めた近頃話題の「ドラマチック筋肉体操」の考案者福岡さんに入門して実践すれば自ずと作品の理想体型に近づきそうです。(勝手な推進で失礼)
大原永子監督も説明会でしばしば男性ダンサーの強化を課題に掲げ、『トロイ・ゲーム』や「Men Y Men」といった
男性のみによる構成作品のレパートリー化も行ってはいますが、私の見る目が無いのか今一つ印象に残るものが無いままでございます。(お好きな方、すみません)

そんなわけで、拓朗さんのお話からつい妄想が膨らみ今も膨張状態。まずは幕開け、中央に集合したローマ軍の一斉に前方への突進と
足踏みしながらのクラッスス凱旋場面を初台でも観てみたいと欲が妄想が止まりません。
本島美和さんによる毒々しさと華々しさを兼備するエギナも想像するだけで平伏してしまいそうです。そしてボリショイ、どうか予定通り来日できますように。



ボリショイシネマの宣伝映像。43秒あたりの盾を持って身を潜めていた軍たちが豪快に飛び出して踊り出す箇所、生で早く観たいものです。

2020年5月27日水曜日

【お茶の間観劇】【必見】佐々木美智子バレエ団『バフチサライの泉』




大阪の佐々木美智子バレエ団が、2018年に上演した創立40周年記念公演『バフチサライの泉』の
少しずつ切り取り編集した映像をインスタグラムとブログにて公開してくださっています。どうぞご覧ください!
リンク先のインスタグラム、ブログともに各映像に解説を明記してくださっていて場面状況や人間模様はすぐ分かるようになっています。
インスタグラムにおいては全編をほぼ網羅しエピローグまで載せ、ブログではまだ途中段階ですが引き続き更新してくださるようです。

プーシキンの叙事詩をもとにバレエ化され、東西の文化が交錯し入り乱れて苦悩、憎悪、嫉妬、といった
人間の感情が奥底から沸き真正面からぶつかり合う魂を揺さぶる濃密な作品でバレエ団の十八番として節目ごとに上演を重ねています。
テレビでも放送されたマリインスキー・バレエによる上演の印象が強いかもしれませんが
2013年に初めて佐々木バレエでこの作品を観たあとにマリインスキーの映像を観ても良く言えば上品過ぎてしまい物足りなさを感じてしまい
東大阪の土地が育んだのであろう、大地が唸りそうな熱きエネルギーが結集した
佐々木バレエの『バフチサライの泉』は是非とも生で一度はご覧いただけたらと常々願っております。

とにかく映像を見て明記の説明を読んでいただけれ当ブログの解説なんぞ不要であるのは重々承知しておりますが、以下は言わせてください。
まず、山本隆之さんによるギレイ汗の重厚な存在感と色気に陶酔。韃靼軍を率いる威厳、異国の姫に好意を持ってしまい
寵愛していたはずのザレマを拒絶する苦悩といい何時どの場面においても全身が物語る姿が胸を突き刺し圧巻です。
ギレイ汗に尽くす隊長ヌラリは佐々木大さん以外にはもはや思い浮かばず忠誠心と野性味が内側から溢れ出ていて、
そして目を通した限り他の批評では取り上げられていなかったものの心を鷲掴みにされたのが第二夫人の杉前玲美さん。
研ぎ澄まされた細身の肢体から繰り出す妖艶な輝き、ザレマに負けじと誇り高くダイナミックに踊りギレイ汗へ捧げるソロも
豪華な美術までもが霞んで見えるほどに目に心に迫るものがありました。
全編通して前半の貴族たちにしても後半のハイライト韃靼群舞まで全出演者の渾身のエネルギーが炸裂し、2018年に約80回鑑賞した中でも上位6本に入る公演です。
(他5本は板東ゆう子ジュニアバレエのジゼル全幕、篠原聖一さん版ノートルダム・ド・パリ、
新国立劇場バレエ団眠れる森の美女、不思議の国のアリス、ニトリホール・旧北海道厚生年金会館閉館ガラ。この年は同率1位が多かった)



バフチサライの泉 佐々木美智子バレエ団バレエ団インスタグラム・ブログより 万一リンク先を誤っておりましたら申し訳ございません------

https://instagram.com/p/BtCZ2ZIn04X/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12593253887.html
王道少女漫画恋愛模様なマリアとワズラフ

https://instagram.com/p/BtN47bslkQR/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12593966124.html
マリアとワズラフのヴァリエーション、剣の踊り

https://instagram.com/p/BtclqdsgV-I/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12594817058.html
マリアとワズラフのアダジオ、貴族たちの勇壮且つ優雅なコーダ

https://instagram.com/p/BuJGKv2A2CK/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12595787717.html
やがて韃靼突入

https://instagram.com/p/BuVvb0GA-e2/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12595984093.html
ギレイ汗登場!ワズラフ死

https://instagram.com/p/Bv81ajRAzpx/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12596535698.html
大奥な部屋 第二夫人も

https://instagram.com/p/BwJthYRAzxt/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12596959661.html
ギレイ汗達帰還

https://instagram.com/p/BwY10OsgA73/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12597223847.html
マリアに全て捧げようとするギレイ汗と嫉妬するザレマたち。ギレイ汗の坊主姿が嗚呼セクシー、鼻血要注意。

https://instagram.com/p/Bw1NvZHgwru/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12597654757.html
鈴の踊り、壺の踊り、ザレマも渾身のソロで訴えるもギレイ汗は興味示さず

https://instagram.com/p/BxXFsH5guJp/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12599428954.html
第二夫人も踊るがギレイ汗退席

https://instagram.com/p/BxtMSxzgbs5/
https://ameblo.jp/sasaki-ballet/entry-12599890188.html ザレマ再三の訴え虚しくギレイ汗の心はマリアへ

https://instagram.com/p/Bxy8GlmAibv/
マリアは竪琴を弾きワズラフや故郷想うがギレイ汗に迫られる

https://instagram.com/p/BzrPFGygew9/
ギレイ汗マリアを諦める

https://instagram.com/p/B5hSvulga_0/
マリアの死

https://instagram.com/p/B_RjKQgAfvq/
ザレマ処刑 ギレイ汗苦悩

https://instagram.com/p/B_W2Z9WgYBs/
韃靼群舞!!さあ皆様もタオル持ってレッツ韃靼笑。但しお怪我防止及び近隣住民へのご迷惑にならぬよう細心の注意をお払いください。

https://instagram.com/p/B_i4YbHAOEx/
ギレイ汗の涙


※ご参考までに、公演の感想はこちらでございます。前日には響きだけは似ている世界バレエフェスティバルーササキガラーを鑑賞し終演後そのまま夜行バスで大阪入り。
東京と大阪2日連続でササキバレエを満喫した2018年のお盆でした。バフチサライ公演前に心斎橋で食した韃靼蕎麦、また味わいたいものです。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2018/08/816-191a.html

2020年5月24日日曜日

【お茶の間観劇】ハンブルク・バレエ団『幻想・白鳥の湖のように』

ハンブルク・バレエ団が配信していたジョン・ノイマイヤー振付『幻想・白鳥の湖のように』を鑑賞いたしました。



DVD化もされており、予告宣伝映像


https://www.hamburgballett.de/en/news/video_on_demand.php

王:イリ・ブベニチェク
影:カーステン・ユング
ナターリャ(王の婚約者):エリザベート・ロスカヴィオ
アレクサンダー(王の友人):アレクサンドル・リアブコ
クレール(その婚約者):シルヴィア・アッツォーニ
オデットを踊るバレリーナ:アンナ・ポリカルポワ
ジークフリート:ヤチェク・ブレス ほか ハンブルク・バレエ

指揮:ヴェッロ・ペーン ハンブルク交響楽団
振付:ジョン・ノイマイヤー
舞台美術・衣裳:ユルゲン・ローゼ


『白鳥の湖』が古典バレエとして骨組みが完成され過ぎているため大胆に置き換えた設定演出版の鑑賞はなかなか気が進まず
オーストラリア・バレエのグレアム・マーフィー版は英国王室を皮肉った演出で来日公演も面白く鑑賞いたしましたが
周囲で絶賛の嵐であったマシュー・ボーン版は1幕の派手な衣装や賑やかさが苦手。ノイマイヤー版の存在は知っていながら
オデットの肩部分にヒラヒラした羽が装着されている程度しか知識がなく、設定を書籍なりで早い段階からきちんと目を通しておくべきでした。
ルートヴィヒ2世の時代に置き換え、しかもノイシュヴァンシュタイン城が深く関わっているとつい最近知り、俄然興味が沸いて大急ぎで鑑賞した次第です。
全編を隈なく把握するには至らず、大雑把な感想ではございますが悪しからず。

まずブベニチェクがルートヴィヒ2世によく似ていて、髪型のせいだけではないと思うが
プロローグでノイシュヴァンシュタイン城の模型らしきものを撫でながら政治そっちのけで
城建設の夢に傾倒しているさまも王が乗り移っているかのような目を見張る入り込み。
1幕のワルツは城の建設中の現場を訪れた設定なのか混沌とした労働現場と化しており
合間にはスポーツに興じる青年も多々いてもう少し踊りの場面を増やして区画整理をして欲しいと感じましたが
市民の熱気と王家の格式が共存するユニークな場面と見受けました。

思わず身を乗り出して見入ったのは湖畔の場面で、王は椅子に腰掛け、『白鳥の湖』上演を鑑賞している設定と思われますが
次第に舞台の世界にすっと入ってジークフリートを差し置いてオデットのパートナーを務め
しかしオデットはジークフリートに戻され再び現実に引き戻されそうになったりと夢と現実の境界を彷徨う表現に
観ているこちらまでもが磁力の如く往復させられた心持ちとなりました。

以下自身の経験ですのでスケール小さき話ではございますが、実は私もよく夢を見る方で幸いなことに悪夢には殆んど縁が無く
見るとすれば現実にはあり得ぬ状況下に置かれた内容。但しどっぷり夢に浸かっているかと言うとそうではなく
脳の半分は夢の出来事を満喫している一方もう半分は現実を見ている状態で、例えば3日前ですと繁華街を歩いている夢でしたが
楽しく歩いてその後はお店で飲酒する内容で幸せ一杯なひとときでありながら、このご時世でマスクしていない
また繁華街を遊び歩いている状況に不信感を抱いていたり目覚まし時計の音はしっかり聞こえている、といった夢と現実が半々の状態になるわけです。
そのためか狭間で揺れ夢うつつな王の状況がごく当たり前の、頻発する出来事に映ってしまったのでした。

ロットバルトの代わりである影のユングの怪しさや、王の憧れの象徴として透き通るように白く
浮世離れしたオデットを踊るバレリーナのポリカルポワの存在感も印象深く、群青色に白鳥が描かれた幕にも1幕が始まる前から釘付け。
ノイマイヤーの代表作でありながら初演から随分と年月が経過した今、ようやく鑑賞できたのは幸運であると思っております。

思いのほかこの作品を集中して観てしまったのは、子供の頃自由研究でノイシュヴァンシュタイン城について調べ、
それ以前にも誕生日にヨーロッパの城や宮殿の写真集を買ってもらいダンスマガジンと同様来る日も来る日も眺めていた経緯もあったため。
当時衝撃であったのは明治維新以降に完成した大変新しいお城で、国力誇示や戦争のためでもなく王の趣味のお城であると知ったときでした。
おとぎ話に登場しそうな外観とは裏腹に王の尋常ではないワーグナーへの傾倒や幼い頃と変わらず狂おしいまでに夢を追い求める心酔ぶりが秘められた城の姿を
いつの日かこの目で確かめたいと思う日々です。



子供の頃から今もしばしば読んでいるヨーロッパの城の写真集。表紙を見てすぐ欲しがったと記憶。



もう1つ、作品を堪能できた理由が一昨年4月に念願のこの場所を訪問したため。現地からこの写真を妹に送ったところバイエルンへ行ったと思ったようでしたが…


実際は兵庫県姫路市の太陽公園に2/3サイズで再現されたお城。山の下にはローソンがございます、しかも青看板に記された地名が白鳥台!
グラッシオバレエスクール発表会『白鳥の湖』鑑賞前日に訪問いたしました。



入口。シンデレラの気分にも少し浸れます。但し王子様はいません、靴を落としても自身で事務室へ行きましょう。これが現実。



城内部入口近くにはバレエにて王が撫でていた模型によく似た形のステンドグラス。プロローグを観てすぐさま思い出しました。



勿論白鳥もいます。



姫路城に比較すると客は誠に少なく、公園目の前の甲子園(今年は中止になってしまいましたが)出場常連校の東洋大姫路高校の野球部グラウンドのほうが遥かに人多し。
お城はほぼ貸切で、城主ルートヴィヒ2世の気分を味わえます。採算が心配ですが。



広間の玉座、お城内部でも写真撮影は自由です。



細かい箇所まで精巧に再現されています。



帰りも人がいません。姫路城(通称白鷺城)よりも、また千葉県浦安市の夢の国のお城よりも格段にゆったり滞在できます。
姫路にお越しの際は和の白鷺城と洋の新白鳥城、どうぞ両方へ足をお運びください。管理人、決して姫路市の回し者ではございません。

2020年5月22日金曜日

【お茶の間観劇】韓国国立バレエ団 グリゴローヴィヂ版『ラ・バヤデール』

韓国国立バレエ団が配信していたグリゴローヴィヂ版『ラ・バヤデール』を鑑賞いたしました。初めて観るバレエ団の映像です。



バレエ団の映像チャンネルより、影の王国リハーサル映像


書籍に掲載された来日公演や評論記事にて、『白鳥の湖』『くるみ割り人形』共にグリゴローヴィヂ版を取り入れ
バレエ団の持ち味に合っていると読み、一概には言えないもののサッカーW杯などの応援やテレビドラマの宣伝で目にする熱さ迸る国民性や表現力、
舞台写真を一目見て女性は細身で恵まれた体型、男性は筋骨隆々で上背のあるダンサー揃いである印象から何処となく想像はついておりましたが
今回初めて舞台映像を全幕で観て納得。どのダンサーも技術は揺るぎなく、表現は熱くされど荒々しくはならず優雅さとダイナミックな魅力双方を備え
何よりバヤデールの重大要素である陰謀渦巻く愛憎劇を繰り広げるに相応しい心の底から沸き上がる感情を火傷しそうなほどに強く表現し
修羅場はどのバレエ団よりも恐ろしや。また容姿からして役柄が明確で、ニキヤは慎ましく薄幸ながらも伏し目がちな表情ですら情念を滲ませ
ガムザッティはいかにも勝ち気そうな美女。蛇の仕込みの疑いをニキヤに名指しされても澄ました顔であしらい、犯人確定です笑。
グリゴローヴィヂ版のガムザッティはソロルの前に歩み出てヴェールを捲られ姿を現わす溜めに溜めてからの登場ではなく
1幕第2場の行進曲が始まって早々にガムザッティが踊りながら登場するため、何時の間にかの登場にもなりかねない振付ですが
そんな心配何処吹く風で一気に目を惹く艶やかなオーラを放散。同じ版つまりは本家ボリショイでも瞬時にインパクトを与えるのは難しく
2006年と2014年の来日公演で計6回観ている中でもいたく凛然としたマリーヤ・アレクサンドロワと
ゴージャスな輝きに満ちたアンナ・ティホミロワぐらいであったと記憶しております。

男性の見せ場もふんだんに用意され、とにかく兵士たちも登場しながらの跳躍多し。
演出によっては女性の役の活躍に比較するとひたすら行進してはお仕えするにとどまりがちになるわけですが
ガムザッティのお披露目にしても婚約式にしても、上背があり筋骨隆々体型のダンサーが揃いも揃って跳びながら舞台を横切る光景は大迫力で
婚約式コーダでのブロンズ像も兵士も太鼓もお祭りわっしょいな勢いで交互に登場する流れはボリショイよりも強烈なパワーを放っていた気もいたします。
レパートリー入りしているグリゴローヴィヂ版『スパルタクス』も観たくなりました。

男性のみならず婚約式での女性のコール・ドや壺の踊りも熱く、一歩の一歩の移動距離が長く上半身もコントロールを効かせつつ大きく動かし
端正さはそのままに全身が高揚してうねるような力強い印象をも与えていました。コール・ドは扇隊とオウム隊の2編成で壮麗豪華。
きらりとした頭飾りも付けずシンプルに削ぎ落とした衣装効果もあって幽玄この上なく、すらりと美しい四肢が映える統制のとれた影たちにも息を呑みました。

衣装の抑えた色彩や太めの縁取り、ティアラの耳上部分の湾曲具合からしてもしやと思ったら予想的中ルイザ・スピナテッリが手がけたとのこと。
婚約式でのガムザッティはより煌々とした黄金な装いのほうが好みではあるものの、品のある青と白を組み合わせた華やぎのあるデザインも目に宜しく
ソロルは平たいヘアバンドのようなものを装着。新国立の丸みのある輪っか(装着者によってはねじり鉢巻)によく伸びた羽飾りも懐かしく思い出しますが
主役からコール・ドに至るまで、徹底した訓練が生み出す隙や斑のない上質な全幕バレエを堪能できました。
ダンサー名は全てハングル表記表示で管理人には一切分からず、把握できなかった点は惜しまれます。

韓国国立バレエ団の最後の来日は記憶が正しければ2002年のサッカーW杯日韓共催大会直前の4月。『白鳥の湖』と『ジゼル』の2作品上演でダンスマガジンを捲ると
グリゴローヴィヂ版『白鳥の湖』の写真が大きく掲載され、ボリショイの専売特許また外部のバレエ団に上演許可を下すとしても
ヨーロッパ圏に限ると思っていたため、顔立ちの系統は日本に似ていながら特徴や強みは全然違ったものを持っているのバレエ団であろうと読み進めたものです。
同年5月には新国立劇場バレエ団2002年日韓国民交流年記念事業公演『ドン・キホーテ』に
来日公演でも主演したキム・ジュ・ウォンとジャン・ウン・ギューがゲスト出演。
新聞の宣伝記事で目にはしておりましたがまだ新国立の公演を頻繁に鑑賞する前の時期で、足を運ばず終いであったのは悔やまれます。
2005年頃には康村和恵さんが渡韓して何度かゲスト出演され、朝日新聞にも旅立ち前のインタビューが報じられ
言葉を覚える手段として韓国ドラマも活用していると語っていらしたかと思います。
康村さんがクララ役で出演されたグリゴローヴィヂ版『くるみ割り人形』現地レポートは桜井多佳子さんがダンスマガジンにて詳しく執筆されていました。
写真はモノクロでしたが2幕で棒状の蝋燭を手にする花のワルツ男性たちの坊主な鬘がどうしても僧侶の行列に見えてはしまったものの
雄々しさは写真でも伝わり、長い手脚を持ち華もあり表現も豊かな康村さんはコール・ドを従えても一際見栄えする容姿と
ボリショイバレエ学校仕込みの技術でバレエ団に溶け込みつつ舞台を牽引なさっていたと想像いたします。
矢上恵子先生(2019年逝去)は日本人振付家としては初めて招聘され、振付作品も上演されたそうです。

以下は余談ですが、家電量販店にて電子辞書販売を担当していた頃にちょうど『冬のソナタ』といった韓国ドラマが大流行し
スマートフォンがない時代も関係したのかコリア語を学ぶために電子辞書を購入しようと多くのお客様にお越しいただいた光景は今も覚えております。
そしてペ・ヨンジュンさんのキーホルダーやチャン・ドンゴンさんの写真などグッズを嬉しそうに見せてくださる方もいらっしゃり
年齢を重ねてもときめく心の維持は大切であると学んだ次第。(バレエにおいてもこれ大事)◯◯ダ電機某店へのご来店の皆様、誠にありがとうございました。
お客様の好みを理解しようと当時の韓流四天王を暗記し、ドラマは私も視聴はいたしましたが
二体の雪だるまを近寄せての接吻を始め純愛過ぎる展開に気恥ずかしさが募ってしまい早々に断念。
歴史物においては身内同士での陰謀やら身分差による禁断の恋など事件が凝縮し、ありとあらゆる箇所にて嘆きや憎悪の声が響き渡る流れに
これまた心が付いていかず。しかし思えば『ラ・バヤデール』に通ずる要素満載で、ドラマは苦手でも(韓国にも喜劇や刑事物など多種のドラマは存在すると思いますが)
韓国国立バレエ団によるバヤデールのような愛憎劇バレエは一癖あって面白い、しかも舞台の質も高し。他の作品にも着目して参りたいと思っております。

※そういえばニキヤは元新国立劇場バレエ団の楠元郁子さん、ニキヤの奉納時に中央寄りの立ち位置にいた扇隊の1人が米沢唯さん、
そしてソロルの肖像画がムンタさんに似ていた気がいたします。再配信の機会があればどうぞご注目ください。

2020年5月20日水曜日

お茶の間観劇のお供による初再生は初演から半世紀・ベジャール版『火の鳥』

一部の地域では緊急事態宣言が解除されながらも劇場に行けぬ日が続いている昨今、配信映像で芸術鑑賞を堪能いる方は大勢いらっしゃることと存じます。
これまで管理人におきましてはせっかく劇場へ行きやすい環境にて生活している以上はバレエは極力で生で観る、
知り合いがいれば会場のロビーで談義する、そして帰りは一杯ひっかける流れをバレエ鑑賞の基本としておりました。
しかしバレエは劇場で観る感覚を大事にしたい、劇場で生まれる鮮烈な感激を薄めたくないために
特例を除いては極力動画サイトでの検索や視聴は控えてきた頭の古さがここにきて行き詰まりかけてそうは言っていられなくなり
劇場通いで手一杯であったとはいえネット上での全幕映像鑑賞とは無縁であった今までの慣例にとらわれず
現在は配信映像を活用して鑑賞を満喫しております。配信情報を発信してくださっている皆様、ありがとうございます。

さて、先月上旬のボリショイバレエ団の配信『スパルタクス』『眠れる森の美女』の頃までは
ipadが古いだのパソコンが故障中だの我が「機器」管理能力欠如による大画面での配信映像が鑑賞できぬと言い訳がましくぼやいておりましたが
心配してくださったのか大変お世話になっている方が勧めてくださった機器を購入し解決。こちらです。



※訳あってポルトガルのニワトリの置物コッコちゃん(名付け親は管理人)を飾っておりますが、こちらは別売りです。


テレビに接続して自宅で利用しているWi-Fiに繋げ、動画を携帯の画面ではなくそのままテレビに映し出せる優れものでございます。
機器事情に疎遠であったためまさかYoutubeをテレビ画面で堪能できる日が到来するとは思いもせず、現在ではバレエ鑑賞のみならず
動物関係の動画を見たがっている家族共々活用しております。上野の森バレエホリデイでの上映では一部vimeoでの配信でしたが
箱には明記されていないながらテレビでの視聴も可能でした。東京シティ・バレエ団の「L' Heure Bleue」や
井上バレエ団の『ゆきひめ』も岡本佳津子さんと井上博文さんのNHKバレエの夕べ最終回の写真も思い出しつつ無事鑑賞でき喜びもひとしおした次第です。

さて、GoogleChromecastを繋げるには自宅で利用中のWi-Fi登録が必要で簡単にできると何処を見ても記載されていましたが
子供の頃から時代遅れ、化石、20代の頃には身内から年寄りと呼ばれております機械関係も苦手分野である管理人にとってはかなりの時間を要してしまうありさま。
接続以前にYouTubeのアプリもダウンロードしておらず(アプリ音痴も家族から度々指摘を受けております…)その段階から準備を開始。
一部始終を隣で眺めていた家族も心配している様子でしたが、約45分が経過し無事完了。
接続成功後最初の記念再生映像は既に購入前から考えており(それよりも接続が先でしょうがとの突っ込みは受け流します)
これまでに観た中で最も好きな動画がこちら。『雄大の部屋』こと新国立劇場バレエ団の福岡雄大さんが同僚のダンサー1人ずつと対談を行う
インスタグラムトークライブにて、渡邊峻郁さんがトゥールーズのキャピトル・バレエに在籍されていた頃の特に思い出深い作品として
退団直前に踊られたこの『火の鳥』を挙げていらっしゃいましたが当時2016年の公演に向けて制作されたリハーサル映像です。
複数名の場面とソロの場面の2本のリハーサルを交互に編集しています。前半は同時上演の『パキータ』が収録されているため、お急ぎの方は1分43秒からどうぞ。
(ただどちらも流れているのは火の鳥の曲で、編集の名手がいるのでしょう。ぴたりと嵌っています)





ベジャール版『火の鳥』の初演は1970年20世紀バレエ団、初演から今年でちょうど50年を迎えます。
実はこの動画は前ブログにて遡ること3年前の2017年に2回紹介しており、1回目は干支の酉年の幕開けに鳥に関する作品の内容として。
※こちら→http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2017/01/post.html
2回目は同年のゴールデンウィークに開催された、ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017でのフランス国立ロワール管弦楽団演奏の『火の鳥』鑑賞時の感想に
いずれも半ば無理矢理こじつけての紹介でした。しかし2回とも反響は多くはなかったのが正直なところで
1回目は酉年の幕開けとして新国立でレパートリー入りしているフォーキン版『火の鳥』回顧と前年入団のダンサーの宣伝も兼ねて
さらりと綴ったのであろうと友人曰く思ったらしい。私としては、新年の一発目にご登場願うのは余程のお方に限ると思い耽るも、周囲は知る由も無いわけで
同年6月の『ジゼル』でようやく周囲がまさかな事態に驚くに至ったのはあったのはさておき
前年2016年の『シンデレラ』おけぴリハーサルレポートや写真を目にして読んで以降虜になりかけ
そして翌年のお正月に「特例」行為に値するひたすらトゥールーズ時代の動画を検索していた最中にこの動画を発見。
一度見ただけでも魂を撃ち抜かれるような強い衝撃を受け、古典ではなかなかお目にかかれない鋭い視線や
火の鳥に変身し敢然と戦いに挑む革命軍の青年らしい勇猛さや雄々しさが全身から漲り、映像を見るだけでも心を突き動かされ
2017年はその年明け以来ほぼ毎日の頻度で再生しては見入っておりました。(お正月辺りは日に50回ぐらい再生していたと記憶)
このときが当ブログに記事の内容のメインとしては渡邊さん初登場、及び元祖王子のフォーキン版のイワン王子の写真と新鋭王子のベジャール版のタイトルロールの映像が
同じ記事内での競演実現!と1人感激しきりであった2017年酉年記念一発目2本立ての火の鳥なるお正月であったわけです。

衝撃の強さを物語る話をもう少し。2017年の新国立『ジゼル』記事内での暴露にてお正月明けに訪問する大阪府の天王寺の下調べも放ってと綴っておりましたが
正確には、天王寺入りして目的の舞台を鑑賞しホテルに戻ってもベッドの中でひたすら再生。
宿泊したのはユースホステルで2段ベッド4台が設置された女性8人相部屋でしたからシャワーを浴び終え部屋に戻ったら同室の宿泊客に配慮して
すぐ就寝の予定であったはずが、閑散期だったためか私1人。つまりは8人部屋を1人で貸し切り、シングルルームと同等な状態を良いことに寛ぎなから
四天王寺前夕陽ヶ丘駅での舞台の余韻にも浸りつつ、一方で我が年齢より遥かにお若いながら大人の貫禄すら漂わす姿にすっかり見惚れてしまった
数日前に発見の衝撃動画を度々眺めていたのでした。浪速に来てまで何をやっていたんだか笑。

さて話を2020年に戻します。無事テレビでの再生が成功し、大画面にこの動画が映し出されると予想以上に画質も宜しく大興奮。
しかし隣には家族もおりましたため露わな声出しは控え、黙って目を心臓印にして眺めておりますと横から「この人、日本人?」と聞かれ
藤原歌劇団『椿姫』バレエ場面の闘牛士、新国立劇場バレエ団『ラ・バヤデール』ソロルのいずれも字の難しい人、と2回は公演で鑑賞しているはずだが言うべきか
まだ諸々繋がっていないようで寧ろ高校大学時代に学んでいたから読めるとフランス語表記の題名の方に興味津々な様子でしたので今回はまあこれで良いか。
回り道を失礼。バレエ鑑賞人生における過去2回の転換期である2005年と2017年はいずれも酉年、更には双方鳥関係の作品。(2005年は白鳥の湖。2029年はいかに!?)
そんなわけで、テレビ画面での初再生を数あるネット上の動画の中から2017年お正月の衝撃『火の鳥』を選んだ記念として箱の隣にコッコちゃんを並べて撮影。
実はコッコちゃん、ポルトガル旅行前に観光場所を悩んでいた母に対してトゥールーズのある作品のDVD鑑賞がきっかけで登場人物や所縁の地を私が口走り
訪問地を安易に決めてしまったようで、現地で買ってきてくれた置物でございます。その話はまた何処かの機会で行うかもしれません。

2回目の記事についてはほぼ割愛で失礼。『火の鳥』の音楽聴きたさに何度か演奏会に足を運びラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2017もその1本でしたが
ただ好みや聴き慣れもあるでしょうが最もテンポや表現がしっくり響いたのは2018年3月の季節外れの降雪日、サントリーホールにて開催された
トゥールーズ・キャピトル管弦楽団の演奏でした。来日中であるのは前日に知りましたがこれは何としても行きたいと、チケットを無事確保して鑑賞に出向き
受取でお世話になった隣席の方には大雪にも拘わらず大急ぎでチケット入手をして足を運んだ経緯が不思議に映ったようで
理由を正直に申し上げたところ希少動物を目にしたような驚きを見せていらっしゃったもののバレエにも理解ある方で、
演奏会慣れしていない私に肩の力を抜いて楽しむコツやお連れの方とも幕間にはビュッフェで乾杯。
赤ワインが渋めで重厚な好みの味わいであった点も含め今も忘れられぬ体験です。

右に左に話が流れ続けて申し訳ございません。ひとまずは次の2回はさらっと短めに、今週鑑賞した配信映像の感想を綴る予定でおります。

2020年5月14日木曜日

【お茶の間観劇】デンマーク・ロイヤル・バレエ団 ニコライ・ヒュッベ版『ライモンダ』

デンマーク・ロイヤル・バレエ団が配信中のニコライ・ヒュッベ版『ライモンダ』を鑑賞いたしました。
配信関係はそう多くは観ておりませんが時代設定を変えた演出に興味を持ち
またデンマーク・ロイヤル・バレエの全幕舞台は生でも映像でも観たことがなく、鑑賞した次第でございます。
※ネット配信映像をテレビ画面で視聴する環境が整い、携帯頼みであった以前よりは格段に快適に。
衣装製作現場の映像もアップされ、手作業で仕上げに臨むスタッフの姿や試着するダンサーの姿も。色とりどりのデザインにうっとりです。





※キャストやスタッフは動画サイトに掲載されていましたが、デンマーク語での転記の自信がなく、気になる方は恐れ入りますがご自身でお調べください。

振付や物語展開は他の版とそう変わりはないものの、ヒュッベ版の大きな特徴の1つが設定を中世十字軍時代ではなくロココ時代にしている点。
コルセットが入っているであろう腰部分が絞られどっしりと膨らみがあるドレス姿の貴族たちの衣装や鬘、小道具からもはっきりと見て取れます。
主要人物の衣装はあくまでクラシカルで、膝丈のふんわりとしたチュチュがお洒落。
ライモンダにおいては1幕は爽やかな青と白に眩い金色で輝き、2幕でのはっとさせられるルビー色も目に残る色彩で
クレメンスとヘンリエットの1幕では一方は白と水色、もう一方は淡い黄色(判別が付かず失礼)、2幕では金系で揃え品良くゴージャスな装いです。
ベルナールとベランジェや1幕ワルツの男性たちは髪をリボンで束ねて柔らかなシャツと薄い色合いベストで整えられており、ワルツの女性たちは白い膝丈チュチュ。
陽光射し込む庭園を背景に、1幕は全体を通して明るい爽やかさが漂っていました。

それからもう1つ、アブデラクマンはジャンとの決闘で絶命せず握手して和解。しかも仲裁に入るのはライモンダ自身で
白の貴婦人が背後にいたものの、ただ待っているだけ怯えているだけの姫では全くなく臆せず行動に移す性格として描かれています。
世界情勢に配慮しての設定かそれとも他の理由か分かりかねますが例えばアブさんが2幕で登場し、率いる軍団の余興を見せる際も
ライモンダの近くに大人しく腰掛け、ライモンダはいたく楽しそうに見物しているためあたかも『くるみ割り人形』クララとドロッセルマイヤーと見紛ったほど。
順番前後して1幕で突如ライモンダの前に現れたときもライモンダは戸惑いも少なそうでジャンとはタイプが異なる男性に興味津々な様子でしたし
婚約者の留守を良いことにクレメンス、ヘンリエットと共に女学生の会話の如く魅惑的な男性に出会えた喜びを共有していたと推察。
2幕でのアダージオでは心配して引き離そうとする友人らを横目に、ライモンダが視線を下から上へとじっくり送りアブさんを誘惑している構図とも見て取れ、
悪人ではなく綺麗なアラブの騎士として捉えたとされる牧阿佐美さん版に比較しても、
これまでに観たアブさんの中ではライモンダへの接し方においては最もノーブルで物静かな人物でした。
しかし、ジャンを前にすると本能を露わにして一歩も引かず、肩を掴んでは押し倒すか投げ飛ばす勢いでただ大人しいだけではないようで
基本敬意を払って人に接するが、いざ競争心に火が付くと抑えられなくなる気質なのかもしれません。
また夢の中では露出度の高い服装で出現、野性味や官能美を押し出していたこのときばかりはジャン以上に!?勇敢そうなライモンダも戸惑いを隠せずにいたのは納得です。

ロマネスクを始め中世をイメージした音楽が連なりながら意外にもロココの世界にも違和感なく嵌っていた点にも驚き、
中でもユニークな使い方であったのは幕開けの吟遊詩人の曲。ボリショイのグリゴローヴィヂ版ではいつの頃からかカットされてしまった
いかにも中世の宮廷音楽らしいリュートあたりを想像させる(実際はヴァイオリンであると思われる)
繊細な旋律で始まる、聴くと一気に中世ロマンの世界へと入り込む曲調です。
しかしヒュッベ版では使用人らしき女性たちが一旦仕事の手を止めて整然と戯れながら踊る振付で
溌剌と軽快で跳躍も多く舞台全体を覆いながら踊るうち、ライモンダ登場の合図がなされると花並べを行って準備完了。
主人公いきなりの登場よりは一呼吸置いて宮廷の様子を見渡せる情景場面が挿入されている方が
舞台の世界に引き込まれますし、主人公の登場にも一層華やぎを持たせる効果があると思わせます。

3幕はマズルカは無し、但し他の版では省略されがちな子供たちの踊りが用意されており、グリゴロ版ではジャンが3幕で踊るヴァリエーションでの使用曲に乗せて披露。
元々は子供用に作曲されたと聞いた覚えがあり、原典に忠実な演出といえるでしょう。
チャルダシュはポワント・バレエシューズチームとブーツチームの2構成で、中盤に差し掛かると後者が登場。
グラン・パ・クラシックは概ね基本通りでしたがライモンダ含めて5ペアであったため寂しい気もいたしました。
ライモンダの衣装が黒と金色基調であるためオディールに見えかけたりもしましたが、重厚な色味と装飾で結婚式には相応しいと感じさせます。
群舞は揃っているとは言い難いのが正直なところですが、女性は筋肉がしっかりと備わり上背のあるダンサーが多数。
パワフルで威勢の良い、されど1幕のワルツや夢の場は呼吸も合っていて調和も取れていた印象です。

どうしても把握に至らなかったのはジャンの設定で十字軍時代でもなく、夢の場で初めて登場。
1幕ではハンガリーの御使いがやって来て内股ステップを踏み、ジャンの動向を説明して本日は帰還せずといった内容を伝えた途端
その場にいた全員が落胆する大袈裟なコントの如き光景が広がってはいたものの長期出張なのかそれとも他の事情があるのか分からぬままでした。
バレエ団のホームページにはあらすじ解説が記載されているとは思いますので、デンマーク語及び英語に自信のある方は各自でお調べ願います。(無責任ですみません)

現在のデンマーク・ロイヤルのダンサーについては失礼ながら全く存じ上げず、未だオーゼ・ガッドゥで止まったまま。
書籍での『ゼンツァーノの花祭り』作品解説といえばブルノンヴィル本家本元として必ずと言って良いほど登場していたと記憶しておりますが
そういえばアナニアシヴィリと親交が深かったのか、東京で開催され映像化もされたデビュー10周年ガラにも出演。
また先日紹介した1992年モスクワ赤の広場での野外ガラにも出演がカーテンコール映像からは確認できますが
副題としてロシアバレエのスターたちと名付けられているためか映像化においては出番はカットされたもよう。
やや濃いめのエメラルドグリーン村娘衣装からして『ゼンツァーノの花祭り』と思われます。
(だからこそジゼルのパ・ド・ドゥを披露したカロル・アルボとカデル・ベラルビの
パリ・オペラ座ペアが収録されたのは判断基準が謎でございます。大トリのドン・キホーテで
アナニアシヴィリと組んだベラルビの株がロシア国内で急上昇したのか、何れにしても収録は今思うと私としては嬉しかったが)

さて管理人、これまでの人生においてデンマーク人との接点は1度だけあり。昨年の10月大阪へ行く新幹線の自由席車内で隣りに掛けたのがデンマーク人の女の子でした。
家族旅行での来日で、席がある程度埋まっていたためご両親やご兄弟とは離れて座ったようで
富士山の写真を一生懸命撮影しようとしていたため手伝うといたく喜んでくれて私にとっても嬉しい記念となりましたが、今頃どう過ごしているか気にかかっております。
当時はまさか1年も経たぬうちに地球規模の大変な事態に見舞われるとは思いもせず、平穏な日々に戻るよう願ってやみません。



ニューヨーク・シティ・バレエ団時代アポロを踊るヒュッべ、ワシントンD.C.のケネディ・センターの案内パンフレットに登場。
2008年の新国立劇場バレエ団ワシントンD.C.公演先でいただきました。

2020年5月10日日曜日

【おすすめ巣篭もり】福岡雄大さんのインスタグラムライブトーク『雄大の部屋』

新国立劇場バレエ団の福岡雄大さんが、巣篭もり企画として連日バレエ団のダンサー1人ずつと対談する
インスタグラムライブトーク通称『雄大の部屋』が4月28日より配信され、引き続き明日以降も行われますのでどうぞご覧ください。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/news/detail/26_017434.html

1回30分、日によっては1日に複数回行い既に何名ものダンサーとの対談が開催されましたが
とにかく福岡さんの司会進行がお見事。同僚とは言え入団後の経過年数や年齢も様々なダンサーを相手に
時には学校の進路相談中の先生と生徒或いは上司と新入社員との定期面談と化してしまうのもご愛嬌、
緊張気味であれば話をゆっくり引き出してあげたり、さりげなく褒め言葉をかけて自信を持たせたり
女性ダンサーとのレオタードや化粧品の話題においてもしっかり会話もこなされていて
臨機応変柔軟に対応なさり、絶え間なく到着する質問やコメントにも目を通しながら拾うタイミングの見計らいも万全で
毎回心和む笑いと楽しい時間を届けてくださっています。
またメディアへの登場が殆んどない普段コール・ドを踊るダンサーにも焦点が当たり、話を聞ける機会に繋がったのは嬉しいこと。
テレビ番組においてもこういったゲストを招いてのトーク番組、コーナーは多々あり
時間のあるときは欠かさず見ていた昼番組に重ね、「福岡雄大のごきげんよう」(敬称略)や「新国でいいとも!インスタショッキング」など
勝手に名付けては福岡さんが小堺一機さんやタモリさんに見えて1人笑って楽しんでおりましたが
どうやらバレエ団公式SNSにおいても『雄大の部屋』が定着したもようです。
確かにスタジオではなく実際の福岡さんのご自宅のお部屋からの配信ですので、本家『徹子の部屋』よりも現実味ある名称かもしれません。

休日は極力、平日も在宅時には視聴しており2回目から見ており特に印象深く残っている内容をいくつか挙げますと
木下さんのヨーロッパでの豊富な舞台経験話や双子のお嬢さんも登場し前に抱え背中に乗られて素敵なお父さんぶり、
稲村さんのお辛い出来事も多々あったのであろうと見受けながらもクールに発言なさっていた「何やかんや」に
フェスにも行くほど日本のロックバンドがお好きでレッスンでのTシャツがバンド系ばかりといった趣味のお話や
説明が非常に明確で論理的な中家さんによるサプリメントとバレエダンサー特有の偏った身体をメンテナンスする大切さについて語っている最中に愛猫が目の前を通過。
今村さんの、2009年モスクワのボリショイ劇場公演『椿姫』に備えて現地の舞台条件に慣れるためスタジオが傾斜状態になっていながら
同年12月初演の牧阿佐美さん版『くるみ割り人形』衣装試着と回転までさせられたなど牧先生の大胆な指示が窺えるお話にも笑ってしまい
怪我のため研修所修了公演にて『ドン・キホーテ』第2ヴァリエーションが踊れず悔しさが残っていたが昨年のバレエ・アステラスで悲願の披露が叶ったと
福岡さんからも感動秘話と何度も言われていた廣川さんのエピソードや、イーグリング版『くるみ割り人形』花のワルツの男性コール・ドの難しさと
回数をこなしていくうちに組みやすくなったとパートナーから褒められたときの喜びを語る太田さんのひたむき精神にも胸が熱くなりました。
本日の小野寺さんの前半はゲーム話一色。ドラゴンクエストに登場するのはピーチ姫と勘違いしていたほどゲーム音痴の管理人、理解できずも楽しい趣味話でした。
原田さんは印象深い作品として『ファスター』を挙げ、ビントレー作品初出演であったため難しいカウントも含め好きな作品と目をきらきらさせて熱弁。
実は研修所入所前の原田さんの舞台を名古屋で観ており、2007年のBALLET NEXT市川透さん版『ドン・キホーテ』森の女王を踊られ
今後が期待される若手とプログラムの紹介文の通り、初々しくも美しい妖精でした。

とても全ては書き切れませんが、そうでした福田紘也さん笑。眼鏡にスーツ姿で決めて登場し、カメラを高めに設置していたため尚且つ声も通り饒舌過ぎて
まるでインターホン越しの胡散臭い訪問販売営業(しかし思わずドアを開けてしまいそうだ)。内容が余り入ってこなかったのは言い訳になりますが
コメントに寄せられていた、道化とエスパーダが観たいとの要望を見て管理人ニンマリ。東京在住者では数少ないと思いますが紘也さんの両役、鑑賞しております。
道化は2018年徳島の清水洋子バレエスクール第20回公演『白鳥の湖』で登場した瞬間の印象、まあ大きい笑。
しかしおっとり味わい深さと懸命なお仕えぶりは外見バランスの違和感を超越。
ちなみに王子は福岡さん、今回の対談と異なりこの公演では紘也さんを大事にしていらっしゃいました笑。
エスパーダは2015年大阪にて、Kバレエスタジオ第30回記念コンサートでの全幕『ドン・キホーテ』。
従来のエスパーダの概念を覆し、登場するや否や流し目で観客を見渡す姿に黄色い歓声は無く場内を良い意味で不思議な笑いが包んでいたのは明らかで
ケイスタの上演史に残るキャラクターであったとのこと笑。思い出したが2015年はドン・キホーテ大当たり年で全国各地で鑑賞。
福岡、徳島、大阪、世田谷区、愛媛にて観る機会に恵まれましたが福岡県と世田谷区での山本さんの王道色男、徳島での福岡さんのキレキレ男に比較すると
紘也さんの流し目エスパーダは実に独特の趣きであったと回想いたします。

それから新国立劇場は画伯揃いなのか福岡さんの似顔絵を披露されたダンサーもいらっしゃり、廣川さんはipadで描いたと思われる優しいタッチの漫画風で
稲村さんは黒系のペン1色でギリシャ彫刻のような描画。紘也さんも渾身!?の1枚で黒ペンを用いて
斜め下に向けて画面を見ている視線を矢印付きで描き、服にはブランド名がカタカナで明記笑。

さて、今や黒柳徹子さん以上に司会進行で手腕を発揮されている福岡さんですが決してお話が頗るお上手なタイプでは決してなかったはず。
公の前で話をなさる姿を初めて拝見したのは2012年の朝日カルチャーセンターにおける講座で、新国立劇場バレエ団によるビントレー版『シルヴィア』前の時期で
守山実花先生との対談形式での開催でしたが、大阪ご出身とはいえ底抜けに明るそうでもなく所謂我々が想像する関西人とはやや違いそうな印象があり
話が続くのか、守山先生の助け舟によってどうにか1時間経過となる事態を友人らとも心配していたものです。
しかし開始すると福岡さん、一生懸命言葉を選びながらチューリッヒ時代での高所恐怖症には辛過ぎる高い位置で寝そべりや滑り降り体験や
ヴァルナのコンクール、新国立入団後のことをたっぷり語ってくださり
狙ったわけではなくてもふと出た一言がどれも面白く、和やかな笑いを度々起こしてくださいました。
その次が翌年チャコット新宿南口店で開催された新国立ダンサーイベント。2本の企画で1本が寺田亜沙子さんと堀口純さんによる公開バーレッスンで
もう1本が福岡さん、八幡さん、厚地さん、奥村さんが登場の男性ダンサーによるトーク。(容貌が同系統かはさておき4人は新国ジャニーズと呼ばれていた気が笑)
そのときには既にリーダー格な存在で頼もしくチームを引っ張り、奥村さんのはしゃぎっぷりが止まらなくなると調整役をこなしていらしたと記憶しております。
そして現在は外出自粛最中の救世主であり『雄大の部屋』の主。新国立入団前の舞台から拝見している者としては、振り返っていくと妙に感慨深い思いに駆られます。

ところで『雄大の部屋』ではライブトーク中に質問やコメントを送ることができ、皆さん素早く器用にこなしていらっしゃるもよう。
しかし質問コメント云々以前に管理人、インスタグラムの使い方を把握できておらず初視聴の際は何処を押せばライブ画面に遷移するかも分からずあたふた。
奥村さんの回は少し遅れての視聴となってしまいました。ライブ画面に遷移すると自身のハンドルネーム?と参加表明の文字が表示されびっくり。
服装髪型全て自由であった校風を活用せず高校時代に周囲から化石と呼ばれていたとは言え、
現在も尚流行文化の先端からいかに疎遠状態にあるか、思い知らされた次第です。
それにしても質問やコメントは皆さん短文でまとめ上げ絵文字も入ったりと色とりどり。
更には会話中の話題はみるみると変わりますから送信には素早さも求められ、私なんぞ眺めているだけで精一杯でございます。

しかし、昨日5月9日に限っては何か送ると心に決め(そこまで決心する必要もないとは思うが…)
恐る恐るされど即座に送信、アイコンと自身が送った文字がそのまま表示された画面を見ると1人感激していた
冗談抜きで誕生時テレビは存在したか、国道20号でアベベに声援を送っていたであろうと
1964年の東京五輪以前生まれとしばしば誤解されがちである流行の先端には程遠い管理人でございました。
そして外出自粛の状況下に連日楽しいひと時を届けてくださっている福岡さん、ご準備も大変かと存じますが毎回ありがとうございます。
また昨日は数ある中から我が駄文の質問を読み上げていただきましたこと、心より感謝申し上げます。
久々に乙女になった(いや、なっていないか)昨日、今月分のエネルギーを使い果たしたと言っても過言ではありません。



本日、予定通りならば全日程通っての『ドン・キホーテ』千秋楽でした。
バレエ団の快挙とも言える、契約ダンサーのみで日替わりバジル6人
しかも誰1人似たり寄ったりではなく個性様々、このままスライドしての上演を切望いたします。
新国立巣篭もりドンキと先日紹介したヌレエフ版3幕抜粋含む映像を再度眺めながら気分だけでもバルセロナで乾杯。

2020年5月8日金曜日

【お茶の間旅行】高所好意症の始まりはシアトル

二転三転歳月20年超の時間を辿る内容でございます。お急ぎの方は次回をお待ちください。

ゴールデンウィークから連続して昨日今日と休暇の方もいらっしゃるかと存じます。
例年この季節といえば賑わう観光地や混雑する新幹線発着駅、高速道路の渋滞といった報道が連日なされていますが今年は例外。
随分と前から旅行を計画しながら泣く泣く断念された方や帰省を諦めた方も少なくはないはずです。
自身を振り返ると生まれも育ちも東京で帰省とは無縁なまま現在に至り、ゴールデンウィークだから旅行へ出かける流れにはなったこともございませんが
バレエの用事があれば他の時期と同様出向いたことは何度かあり。前回に触れましたが昨年は初台シンデレラ、大阪、また戻って初台
4年前は初台ドン・キホーテ(もうじき配信されます)、西宮市での発表会、また戻って初台でしたが但しこのときのドン・キホーテは4回観ようと思えば行けたものの
大事を取って夜行バスで朝東京到着した当日は鑑賞せず、計3回鑑賞。昨年のシンデレラは同じ条件で帰京いたしましたがそのまま自宅にて数時間休息後初台へ。
2016年と2019年の間の何処かで鑑賞体制に大幅変更が生じ、比較にならぬほど初台への執念が強まってしまったがためでございます。

旅と言えば、今年に入ってからは1月以降はご無沙汰しておりますが、前ブログのアンデオールバレエ日和でも綴っている通り
バレエ鑑賞を伴う旅が多いのが当ブログの特徴で鑑賞、お酒、旅、主にこれらの要素によって成り立っております。
そして思い起こしていくと、家族旅行や修学旅行林間学校を除いてバレエを伴わない旅は殆んどしないまま気づけば2020年。
バレエのおかげで全国津々浦々へ、回数こそ少ないものの時には旅券が必要な場所へも出向く機会に恵まれたのは幸運に尽きる思いでおります。
時期によっては毎週のように大阪訪問、或いは毎週全国各地探訪時には帰京後朝風呂済ませてそのまま劇場へ向かう
西村京太郎トラベルミステリー並みの行程と自負していたこともございました。
しかし親類縁者一族の中では国内中心の我が移動範囲は狭いほうで、野生の象やキリン、かばさんが見たいからと新婚旅行でケニアへ行った両親や
草原でお馬さんに乗りたいからとモンゴルへ、オーロラを見たいからとアラスカへ1人で行った妹
(バレエ好きなオタク姉の血筋なのかオーロラを眺めながら眠れる森の美女結婚式のグラン・パ・ド・ドゥコーダ部分を歌っていたとか笑)
何の取材であったかは目的は未だ不明だがアフガニスタンに滞在していた亡き父やオーストラリアに留学していた叔母に
ヨーロッパ各地で過酷過ぎない登山を満喫する大叔母など強者揃いな一族なのです。

さて外出自粛が続く現在、先日ある歌番組で森進一さんの『襟裳岬』や細川たかしさんの『北酒場』など
管理人好みの旅情気分に浸れる曲特集が組まれ、束の間のお茶の間国内旅行を堪能できましたので
当ブログにおきましても真似事を行いたいと思います。管理人の人生においては稀少である、バレエを伴わない且つ旅券が必要な地域へ出向いた際の出来事です。

遡ること22年前の1998年、夏の全国高校野球甲子園大会にて横浜高校の松坂大輔選手が一世を風靡した時期の話でございます。
管理人、バレエ鑑賞でもなく家族旅行や修学旅行でもなく米国のシアトルに行く機会がありました。
当時はスターバックスコーヒー日本上陸2年後でイチローさんのマリナーズ入団前の頃、
周囲にシアトルの名前を出しても場所説明が欠かせず、また位置する州がワシントンであると話せば首都のワシントンD.C.と勘違いされ
大都市ではあってもニューヨークやロサンゼルス、サンフランシスコに比較すると随分と知名度は低かった覚えがあります。
バレエにおいてはシアトルに本拠地を置くパシフィック・ノースウェストバレエがあり、中村かおりさんが入団されて1年弱が経過した頃。
中村さんと言えば渡部美咲さんと並んで山本禮子バレエ団の2枚看板と80年代後半の雑誌『バレエの本』で度々目にしておりましたから
(恐らくはローザンヌにて先に中村さんが、あとから渡部さんが入賞なさったぐらいの時期)
シアトル訪問時には中村さんのお姿が目に浮かんだものの当時周囲にはバレエについて熱く語り合える友人もおらず話題にもできずでございました。

滞在していたのはワシントン州沿岸地域の郊外でシアトルを訪れたのは2回でしたが、中でも特に面白い体験であったのが高所自転車。
シアトルパシフィックサイエンスセンターのアトラクションの1つでおよそ5mの高さ、
重りが吊るされた自転車に乗って円形に沿ってゆっくり漕いでいくものです。2階建ての家の屋根の上から自転車に乗る様子をご想像ください。
恐怖感は無く、ペダルは重たいものの空中遊泳な気分ですが映画E.T.の最後のように軽やかには漕げません笑。
またベルトで腰部分を固定はしておりますが油断すれば体勢が崩れて宙吊り状態にもなりかねず、気を張っておかねばならず体幹の大切さも身に沁みて感じた次第。
バレエは勿論、自転車乗車時と格好は似ているであろう乗馬の愛好者のバランス感覚や体幹の強さにはたまげるしかなく
幼い頃からバレエと乗馬両方に取り組んでいた歌手の華原朋美さんは只者ではなかったと高所自転車の上で考えたものです。
余談ですが、華原さんはこの前年にはなぜか自宅から徒歩10分程度の場所にプロモーションビデオの撮影いらしていて
小室哲哉さんプロデュースのもとデビュー時から立て続けにミリオンセラーを記録していた人気歌手が海外の絶景やお洒落なスタジオでもなく
なぜごくごく普通の住宅街近くの桜景色をお選びになったのか。ボリショイとパリ・オペラ座の異色ペアであったアナニアシヴィリとベラルビによる
モスクワの赤の広場ガラでの大トリ『ドン・キホーテ』実現の映像初鑑賞と同様、23年経った現在も謎でございます。
ちなみに華原さんはダンスマガジン2008年1月号のインタビュー「ダンスと私」にご登場。
バレエを習っていて良かったこと、ミュージカルへの挑戦について語っていらっしゃいます。

そんなわけで、どうやらシアトルへ行ったこの頃から私は高所好意症に拍車がかかり、展望台だけでは欲求を満たせず
以降バレエを伴う旅ではモスクワの雀が丘や天橋立、札幌の大倉山ジャンプ競技場のリフトや、大阪梅田のHEP FIVEや道頓堀のドン・キホーテ観覧車
徳島の眉山や函館のケーブルカー、兵庫の天空の城と呼ばれる竹田城や愛媛の別子銅山など行く先々で高所を楽しむようになりました。

話が二転三転長い年月に跨る内容となってしまい失礼。次回は高所恐怖症の話から派生するバレエ内容の予定でおります。



高所旅行地シリーズ写真として色々掲載しようかと考えましたが取り急ぎシアトルパシフィックサイエンスセンターの高所自転車を楽しむ22年前の管理人。
ベルトは巻いておりますが他は露わな状態です。日本でうっかり購入してしまったPUFFYのTシャツ、国内では恥ずかしく、米国にてようやく着用。

2020年5月3日日曜日

長年の謎・赤の広場でアナニアシヴィリとベラルビが組んだ理由/愛弟子が踊るヌレエフ版『ドン・キホーテ』3幕抜粋で乾杯

晴天が続くゴールデンウィーク、皆様いかがお過ごしでしょうか。
昨年を振り返れば初台『シンデレラ』初日鑑賞後東海道新幹線で大阪入りして地下鉄中央線深江橋駅の魚と日本酒が美味しい「和たなべ屋」にて1人打ち上げ
(店名と同じ名字で方の入るナベの字の店主に管理人、チラシ見せて強調宣伝笑。店主より、シュッとしたええ顔立ちや男前やとお褒めいただき満悦)
翌日同じ沿線の地域にて年間1回の貴重な有酸素運動を無事終えて当日出発の夜行バスで帰京し家で4時間休息後また初台『シンデレラ』、と
バレエと移動三昧が幻であったかのように今年は自宅で粛々と連休を過ごしております。
ただ仕事内容の都合上自宅勤務が不可能なため出勤は緊急事態宣言発令以前と変わらず、平日週1回は自宅待機日が割り振られた以外は暦通り。
極端な運動不足や曜日感覚の狂いとは無縁ながら、危険と言われつつも何処でもドアが開発されない限り避けては通れぬ電車通勤では
乗客同士立ち座り問わず自発的に距離間隔維持に努めており引き続き気をつけながら過ごして参りたいと思っております。

さて本題バレエの話に移ります。前々回マクシモワの記事で触れました、1992年の赤の広場野外ガラ・コンサート映像の紹介です。
そもそも最大の目当てはニーナ・アナニアシヴィリで、この映像収録のレーザーディスクを入手した23年前当時はまだポケットベル流通の時代であり
(所有はしておりませんでしたが)インターネットも使いこなせず動画サイトも存在せず映像の市販も少なく
アナニアシヴィリ収録映像は辛うじて揃っていたほうで、日本で開催されたデビュー10周年ガラ、ペルミ・バレエ客演の『白鳥の湖』『ドン・キホーテ』
そしてエッセンシャル・バレエぐらいであったかと記憶しております。いずれも収録は1990年代初頭の頃です。
当初はペルミ・バレエ『ドン・キホーテ』を検討いたしましたがキーロフ・バレエの英国ロイヤル・オペラハウス公演も収録され(故ダイアナ元妃のお姿も)
赤の広場のほうにはマクシモワ、プリセツカヤも出演者に名を連ねていたため
旧ソ連含むロシアバレエに注目してきた我が好みに合致すると思いエッセンシャルに決めたのでした。

さて男性ダンサー出演者に関しては気を留めずでしたのでガラの大トリ、アナニアシヴィリの『ドン・キホーテ』出番となってびっくり、
バジル役のパートナーは冒頭の『眠れる森の美女』と同じくアレクセイ・ファジェーチェフかと思いきや、パリ・オペラ座(当時)のカデル・ベラルビだったのです。
その映像がこちらでございます。





当時から現在に至る疑問が、アナニアシヴィリとベラルビが最初から組む予定であったのか。
ソ連崩壊前、恐らくは英国ロイヤル移籍直前のイレク・ムハメドフがパリ・オペラ座ヌレエフ版『眠れる森の美女』に客演し
エリザベット・プラテルと共演を果たした写真記事は読んでおり西側東側の往来、ボリショイとパリ・オペラ座の交流が極めて珍しいことでは無かったとは思うものの
野外ガラ冒頭の『眠れる森の美女』ではアナニアシヴィリとファジェーチェフと組んで長年のボリショイ看板ペアとして登場していましたし
何しろソ連崩壊後間もないモスクワの赤の広場、言わば国を象徴する場所での初の野外ガラ・コンサートでの大トリ
しかもマクシモワやプリセツカヤ、ワシリエフやルジマトフ(十八番の海賊を披露)といった
バレエ史に名を刻むロシアのバレエ団のスターたちの後に出演するわけですから、今思い返しても不思議でございます。
またベラルビは『ドン・キホーテ』数作品前にはパリ・オペラ座のカロル・アルボと組んで『ジゼル』2幕パ・ド・ドゥを披露していて
余程の事情が無い限り2作品への出演、ましてや地元ボリショイの大スターアナニアシヴィリと組んで
初演がボリショイ劇場である演目を踊る大トリを務めるなんぞ考えにくい。お2人の共通点は強いて言うなら
アナニアシヴィリはジョージア出身でベラルビは確かトルコ系で、ルーツが近いぐらいかと思います。
実は解説書には『ドン・キホーテ』の欄にベラルビではなくファジェーチェフの名前が記され、執筆者の誤記か定かではありませんが
当初からベラルビで決定だったかそれとも何らかの事情で変更になったのか、未だ謎に包まれたままです。

初めて映像を鑑賞したときから抱いた印象としてベラルビさん、結婚式のバジルはともかく
仮に全幕上演であったとして、1、2幕の床屋バジルが全く想像できずであったこと。
とにもかくにも色男過ぎましていかにも庶民なる床屋さんにはならず、下町からは妙に浮き立ったお洒落なサロンを開業していると勝手に妄想。
鋏や剃刀の手捌きにいちいち色っぽさが宿り、客も落ち着かないであろうと要らぬ心配をしてしまうほどでした。
ましてや狂言自殺場面における、アザラシ或いはアシカ、オットセイの如く身体を起き上がらせて笑いを誘う箇所も
周りの人々、特に女性陣はうっとりするあまり見守るどころではない事態となるでしょう。
また収録の1992年当時バジルの経験があったかは分かりかねますが、(エスパーダは1989年のダンスマガジンで確認済)
もし経験済みであったとしてもパリ・オペラ座はヌレエフ版を採用していますからグラン・パ・ド・ドゥの振付もだいぶ異なりますし、
この映像を観ても明らかにボリショイスタイルには馴染んでいるとは言い難くいたくエレガント(褒め言葉)。
ロシアらしい黒で整えられたバジルの衣装を着用したベラルビの姿は貴重かもしれません。

続きまして、本日ばかりは言いたい放題をお許しください。
さてボリショイとパリ・オペラ座の異色スターペアによるモスクワ赤の広場ガラの大トリ『ドン・キホーテ』披露から28年、
映像の初鑑賞から23年の年月が過ぎた2020年。管理人、ゴールデンウィーク含む5月初旬は旅券持たず電車1本で6回バルセロナへ行く予定でございました。
ベラルビの愛弟子が日本での全幕バジルデビューを飾る予定であった本日5月3日は大本命の1日となるはずで
昨夏のバレエ・アステラスでのグラン・パ・ド・ドゥ鑑賞以来心待ちにしていた日でしたから嗚呼無念。
師匠と違い、1幕から素朴で慎ましい床屋さんがたいそう似合いそうで客に対し、来店時と退店時には両手をぴたりと腿に付けて深々とお辞儀して出迎え見送る
礼儀正し過ぎる接客が容易に想像できます。キトリの父ロレンツォに結婚の許し懇願の際は立て膝ではなく
正座をして額と両手両膝床につけて頭を下げ続けていそうですが(向田邦子ドラマの寺内貫太郎一家のよう…笑)
しかし弾けるときはとことんお調子者になると思われ対比も楽しみでしたし
バレエですから出現するわけはないものの、赤青白の三色サインポールが自然と見えてきそうです笑。
全幕バジルならばぴっちり七三分けでも床屋さんですから髪型観察では丸印を掲げよう、エスパーダ登板もあったならば
昨年バレエ場面にて披露された藤原歌劇団『椿姫』でのオールバックにシニヨンで纏め、揉み上げの長い視線ギラギラな古風なる闘牛士復活なるかと
そんなこんな勝手な楽しい妄想を繰り返してきただけに、今回登板予定であった
新国立劇場バレエ団史上最多の男性主役自前で6人抜擢の日替わりバジルはこのまま変えず、いつの日かの上演を心待ちにしております。

長くなりましたが、本日はトゥールーズ時代にヌレエフ版『ドン・キホーテ』3幕を踊られたときの渡邊さんの映像を眺めながら
『白鳥の湖』オディール/ジークフリート/ロットバルトのパ・ド・トロワにも注目しつつスペインワインを程々に飲み干したいと考えております。
ヌレエフを讃える公演だったようで他に『眠れる森の美女』グラン・パ・ド・ドゥ、『ラ・バヤデール』影の王国、
『ロミオとジュリエット』パ・ド・ドゥも含まれたダイジェスト映像です。
流れている音楽はバヤデールの影の王国コーダ部分ですが、トゥールーズには映像編集の名手が存在するのかどの配信映像においても
違う作品或いは同じ作品中の違う箇所であっても音楽が違和感なく嵌っていて見事な構成でございます。バジル、衣装がまた色鮮やかでお洒落!


2020年5月1日金曜日

上野の森バレエホリデイ@home




先月末より数日間、上野の森バレエホリデイ@homeを視聴いたしました。
大変嬉しいことに、一部の動画の配信が延長されています。
https://balletholiday.com/2020/news/home-3.html

完全網羅はとても困難なほど充実したプログラムでしたので、視聴できた公演映像や対談の感想を順不同で簡単に紹介して参ります。


◆井上バレエ団『ゆきひめ』 小泉八雲『雪女』を下敷きに杉昌郎さんと関直人さんが振り付けバレエ化。ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』を使用しているとのこと。
和製『ジゼル』といった趣きで、青白い照明に包まれ整然と並んだ女性たちが一斉にふわっと薄く白いヴェールを靡かせる光景が
一瞬海月の揺らめく美しさを思わせたのも束の間。冷たさを帯びた幻想性に触れ、体感温度が低下に違いないであろう不気味さも十分。
ゆきひめ役の田中りなさんがほのかな可愛らしさを残しつつおどろおどろしい様相で迫ってくる踊りに震え上がり
小刻みな脚運びがワーグナーの音楽の弦の音色と溶け合って共鳴し、肝試し以上に恐ろしや。夏に生で観てみたい作品です。

関直人さんと言えば井上バレエ団の芸術監督、振付家として長らく活躍されていたことは存じ上げておりますが
お名前を目にしてすぐさま思い浮かぶのは貝谷八百子さんの展示会にて読んだ1948年頃の白鳥の湖公演の新聞記事だったか
その2年前に白鳥の湖(恐らく初演)を観てすっかりバレエに魅せられ上京して小牧さんの門を叩き、2年後には王子に抜擢と紹介されていたプロフィール。
当時バレエダンサーを志す男性は非常に少なかった事情があるとはいえ、2年で主役を射止めるとはと驚いたものです。
そして旧漢字が並んでおり関の字は門構えに糸のような字が2つ入り、その頃は出身学校の掲載が当たり前だったようで白河中學と記され
近年では國學院以外にはなかなかお目にかからぬ學の字に一種の懐かしさが混在する興奮を覚えた次第。
インターネット全盛時代に70年も前の記事を回想するのはさておき『ゆきひめ』は2018年に大和シティバレエの公演にて
小野絢子さんと福岡雄大さんを主演に迎えて上演されました。写真のみでも冷ややかな空気感が伝わります。
https://www.dance-square.jp/smy2.html


◆東京シティ・バレエ団「L' Heure Bleue」
ブベニチェクの振付で、バッハとボッケリーニの聴き馴染みある音楽に乗せて貴族風の装いをした人々が
お洒落にされど時折くすっと笑いが零れるお茶目な面を覗かせ、音楽と一体化した滑らかさにもうっとり。
照明の柔らかな色彩感にも目が行き、生で確かめたい作品の1本です。
https://www.tokyocityballet.org/schedule/schedule_000198.html


◆上野水香さんと高田茜さんの対談
お2人ともおっとりした口調ながら本音をズバズバと零していた会話が面白く、トゥ・シューズは見た目は皆同じにも拘らず履くと全然違い選ぶ作業は毎回悩む、
一番しんどいパ・ド・ドゥは『くるみ割り人形』で長いアダージオに金平糖は長いヴァリエーション。王子はなぜ短いのか、そしてお辞儀は長めにして欲しいなど
日頃の鬱憤!?をあれこれ口になさっていて引き出せばまだまだ噴水の如く溢れ出すに違いないと想像。


◆上野水香さんと小野絢子さんの対談
振付家との出会いの大切さをお2人とも熱弁。上野さんはローラン・プティ、小野さんはデヴィッド・ビントレー。
2001年の『デューク・エリントン・バレエ』にて初めて上野さんを鑑賞したとき
新聞や雑誌を開いて目に飛び込んできた以上に細身で脚がすらりと長いスタイルに仰天したのは現在も覚えております。
小野さんはご自宅らしき場所よりカジュアルな装いでリモート出演に対し上野さんは東京バレエ団スタジオのロビーと思わしき瀟洒なお部屋から。


◆岡崎準也さんによる家でおどろう
岡崎さんの説明が分かりやすく、声のトーンや話す速度など耳に入りやすく感じました。
管理人はこのときも勿論鑑賞専門でしたが(家で動き回ると音だけならともかく踊れば床に間違いなく穴が空き、階下の住人大迷惑は事態は目に見えている笑)
ダンス初心者でも気持ちよく汗ばんで楽しめそうな振付であった印象です。


これ以外にも視聴いたしましたがひとまずここまで。延長配信を引き続き満喫したいと思っております。
予定では例年通り上野の東京文化会館の屋内外でバレエ上演、マルシェ、物作り、限定飲食物に至るまで
多種のプログラムや出店を企画されていたはずが、縮小開催を試みたのも束の間。緊急事態宣言発令に伴い急遽全オンライン配信に変更を決断。
時間がない中、実行委員会の方々はそれこそ睡眠時間を削りながら国内外のダンサーへのインタビュー対応や各バレエ団への映像提供の募り、
SNSを通しての告知や更新に至るまで膨大な作業に追われていたと察します。
開催予定であった日は晴天の行楽日和でありながら悔しがる暇もなく、視聴者がバレエの世界に没頭できるよう
心を砕きながらギリギリまで準備を進めていてくださっていたに違いありません。
結果として、上野の森での開催は中止になってしまっても自宅にいながら鑑賞実践問わず1日中何かしらバレエを満喫できる時間となりました。
まさか全プログラム配信によるバレエホリデイでこうも楽しめるとは、実行委員会及び関係者の皆様に敬意を表します。
本当にありがとうございました。次回こそはまた例年通り上野の森での開催を心待ちにしております。


ご参考までに、一昨年2018年の上野の森バレエホリデイの様子。晴天に恵まれ、新緑がそよぐ中で堪能いたしました。
バレエキャラクターみくじもあり、予想外のジゼルに管理人ニンマリ。但し心臓よりも肝臓を労わらねば。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2018/05/2018-14d3.html

2020年4月28日火曜日

エカテリーナ・マクシモワの命日に心寄せたい『アニュータ』

本日は4月28日、ボリショイ・バレエの名花エカテリーナ・マクシモワの命日です。(1939年-2009年)
逝去された日、ちょうどザハーロワが座長を務めるガラ『ザハーロワのすべて』公演時期であったため
会場の東京文化会館でもマクシモワを悼む声があちこちから聞こえてきた光景が思い起こされます。
2年前に綴った記事とだいぶ重なる内容ではございますが、今一度是非ご覧いただきたい映像であるためご容赦ください。

プロフィールにも掲載しておりますが、マクシモワはとても好きなダンサーの1人です。
書籍を通しては『ロミオとジュリエット』舞踏会で接近するロミオにはっと目を向ける姿が印象深いジュリエットや
『スパルタクス』フリーギア、『くるみ割り人形』マーシャ、『ドン・キホーテ』キトリなど
様々な舞台写真を眺める機会は度々ありながら初めて映像で目にし、心を持っていかれたのが今から23年前。
モスクワの赤の広場に特設された野外舞台で行われたガラ公演を収録したエッセンシャル・バレエで見たウラジーミル・ワシリエフと踊る『アニュータ』でした。
当時は原作も全く知らず勿論設定も把握できずな状態だったにも拘らず、高鳴る鼓動が止まらず
これ見よがしな派手な振付も無い、豪華な衣装を纏っているわけでもないパ・ド・ドゥながら
内面から滲み出る情感、そして目線だけでも語り合うパートナーシップにすっかり惹かれ大きな衝撃を受けたのです。
全幕ではまだ鑑賞しておりませんが、チェーホフの原作で家族のために裕福な家へと嫁ぐヒロインの生き様を描いた
『頸にかけたアンナ』を基にワシリエフがマクシモワに振り付けた作品で
音楽はヴァレリー・ガヴリーリンが手がけ、数々の郷愁感漂う曲で構成されています。
(以前知人に話したところ宇宙飛行士のガガーリンと間違えられてしまった。地球の青さを表現した言葉は名言であるとは思うが)

マクシモワのインタビューによれば最初にバレエ映画として制作されましたが、映画版を観た
ナポリのサンカルロ劇場のバレエ団から上演希望の依頼があり、初演はボリショイ劇場ではなくサンカルロ・バレエだったとのこと。
ボリショイではバレエ団がツアーで出払っている状況下であっても上演可能な作品という理由から上演に繋がったそうです。
ボリショイのレパートリーとして近年も上演されていますが1992年には東京にて上演されマクシモワがご出演。
1998年には現在東京バレエ団芸術監督を務める斎藤友佳理さんがマクシモワの手ほどきを受け
チェラービンスク国立オペラ・バレエ劇場に客演しタイトルロールを踊られました。
2000年には世界バレエフェスティバルでセルゲイ・フィーリンとパ・ド・ドゥを披露。
1992年のマクシモワ本人主演の舞台、そして例え抜粋であっても日本でこの作品を直で観るまたとない機会でありながら
斎藤さんペアによる世界バレエフェスティバルの舞台を見逃してしまい後悔しております。

『グラン・パ・クラシック』や『タランテラ』といった独立した作品や『海賊』や『ダイアナとアクティオン』など抜粋上演がすっかり定着している作品を除いては
ガラではなく極力全幕の中で鑑賞したいと思うものの、『アニュータ』のパ・ド・ドゥに限っては
勿論全幕もそれはそれは心に突き刺さる舞台であると想像できますがエッセンシャル・バレエの映像が格別。
刻々と日が落ちて薄暗くなっていく赤の広場の情景と光が灯された聖ワシリー寺院が映し出され、
荘厳な鐘が鳴り響く余韻に溶け込むようにしてマクシモワが登場。旅愁に一層誘われるのです。
また1992年の収録当時はソ連崩壊から5年も経っていない頃でまだまだロシアのバレエ熱が今以上に凄まじかったのでしょう。
観客の熱狂ぶりも見所、加えてこれぞロシアと唸らせる爆音祭りで盛り立てるモスクワ放送交響楽団の演奏も聴きどころです。

当ブログ、公式配信ではない動画は基本載せない方針ではございますがこれ以上の文字での説明は難しく、この映像は是非ご覧いただきたいため紹介いたします。
2つのパ・ド・ドゥを繋げて踊られていますが、特に前半のワルツが何とも哀切且つ劇的な曲調で
マクシモワとワシリエフが互いに寄り添いながら醸す情感の豊かさに心を揺さぶられます。
このワルツが好きな余り、繰り返し聴きたいと会議録音用の機械を借りてテレビのスピーカー付近に置き
カセットテープに録音する荒業まで行っていた管理人のオタク精神はさておき
パ・ド・ドゥで大事であるのは基本的な技術があるのは大前提として2人が気持ちを通わせ感じ合うこと
身体全体で語りかけることであると話していた約20年前のインタビューがそのまま重なり
好きなパ・ド・ドゥを聞かれ、私と同様この作品を即答なさる方が都内に5人でもいらしたら幸いでございます。





マクシモワの話で思い出すのは、2000年頃に日本の週刊誌にて掲載された記事「過熱するおバレエ」。
(その頃子供の受験を巡る痛ましい事件があり、皮肉ったタイトルを記者か編集者が付けたと思われる)
日本における、一部の教室で行われている早過ぎるトゥ・シューズ許可や余りに難しいテクニックを押し込んでのコンクール出場など
危険な指導方針に警鐘を鳴らしていたこと。「子供に無理のない教育を」と必死に訴えていた内容は今も覚えております。
あれから約20年が経過し、医療も発達して格段に素早い情報収集も可能な時代に移りましたが
コンクール数は町興し状態と見紛うほどに増加傾向にある現在の日本のバレエ事情をご覧になったらどういった指摘をされるのか気になるところです。

※赤の広場野外コンサートでもう1本紹介したい映像があり、来月上旬に綴って参る予定でおります。

2020年4月24日金曜日

【お茶の間観劇】【飛ばし飛ばしで鑑賞】ボリショイ・バレエ団『スパルタクス』/『眠れる森の美女』

ボリショイ劇場が配信した『スパルタクス』、『眠れる森の美女』を飛ばし飛ばしで鑑賞いたしました。
※どうも私は自宅での鑑賞の場合、DVDならば大きめのテレビ画面でじっくり2時間3時間堪能できるようですが
誠に恥ずかしい限りで携帯電話画面での動画鑑賞では30分程度が限界のため
(現在故障中ですが仮にパソコンであっても同様と想像)全幕通しての堪能が困難であり
(劇場という非日常空間に身を置くからこそ集中力も研ぎ澄まされるといった内容を演劇関係の記事で読みましたが、思わず共感してしまった)
このご時世せっかく世界中の劇場が配信してくださっている映像をもっと観るべき満喫するべきであるのは重々承知しておりますが
旬の配信映像詳細鑑賞記には到底至らぬ、何時にも増して大雑把な内容である旨をどうかお許しください。


『スパルタクス』
スパルタクス:ミハイル・ロブーヒン
フリーギア:アンナ・ニクーリナ
クラッスス:ウラディスラフ・ラントラートフ
エギナ:スヴェトラーナ・ザハーロワ


まだ全編通しては生でも映像でも観たことがない作品ながら、ハチャトリアンの魂揺さぶるドッカンな音楽も含め好きでたまらぬこれぞボリショイな作品。
幕開けのローマ軍たちによる舞台を目一杯覆う一斉跳躍付き行進が視界を支配し、開演早々に興奮へ到達です。
ロブーヒンの雄々しく熱い叫びが聞こえてくるスパルタクスに、ニクーリナの美しいラインはそのままに
全身から涙が零れ落ちていそうな情感のこもった踊りが胸を打ち、ガラでも抜粋披露の機会が多いアダージオは
全幕の中で観ると抑圧された思いが画面越しにも広がりを感じさせて止まず、高いリフトもただ持ち上げているのはなく
溢れ出る感情がそのまま昇華したフォルムに思えるばかりでした。
配役で驚かされたのはラントラートフによるクラッスス。善良な役柄の印象が強く、
所謂敵役をどう造形するか興味をそそられましたが、序盤から舞台の支配力に驚嘆。
ギラリとした視線や他を圧するパワー、対角線上にひたすら跳躍を繰り返しながら移動していく身体泣かせな振付も余裕綽綽な姿でした。
ザハーロワのエギナは女王感は歴代随一であろう君臨ぶりで、会った者には有無を言わせぬ艶かしさ、
更に持ち前のプロポーションをこれでもかと生かし脚線美でも観る者を虜にさせるのも説得力あり。
ただこの役はマリーヤ・ブイローワの野心見え見えで渋き美しさも醸す姿のほうが好みでございます。
1984年収録映像にてご覧になれますので是非どうぞ。スパルタクスはムハメドフ、フリーギアはベスメルトノワです。

それから衣装にも着目。全編殆どが茶色系の衣装ばかりで下手すれば唐揚げ薩摩揚げ肉団子で埋まった彩りの宜しくないお弁当状態にもなりかねない条件ながら
そう思わせないのはボリショイで数々の作品の衣装や美術を手掛けたシモン・ヴィルサラーゼのデザインだからこそ。
ローマ軍側には渋めの銀を大胆に合わせて程よい光沢を出し、飽きのくる色彩とは感じさせないのです。

とにかく今年11月末の来日公演で予定通り鑑賞できますように。ボリショイ劇場のオーケストラも帯同ですから
長らく他国の支配に脅かされていた自身の祖国アルメニアに奴隷たちの心情を重ねながら書き上げたとされる
ハチャトリアンの音楽を汗だくな熱い演奏で聴かせてくださるに違いありません。


※守山実花先生による『スパルタクス』に特化した1日講座(主催・ダンサーズサポート)を2017年に受講。
概要や名演ダンサー、振付の特徴、音楽についても学んだ濃くそしてマニアックな講座でした。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2017/04/4-86ef.html



『眠れる森の美女』
オーロラ姫:スヴェトラーナ・ザハーロワ
デジレ王子:デヴィッド・ホールバーグ
カラボス:アレクセイ・ロパレヴィチ
リラの精:マリヤ・アラシュ
フロリナ王女:ニーナ・カプツォーワ
青い鳥:アルチョム・オフチャレンコ



2011年ボリショイ劇場新装こけら落とし時のリハーサルやホールバーグへのインタビュー。グリゴロさん、客席から何か指示を飛ばしています


NHKでテレビ放送され、DVD化もされていながら放送を見ず録画も購入もせずなまま気づけば2020年。
主役2人は割愛しますが(無責任にもほどがありますが)、今回観る気になったのは主役以外の配役の充実に惹かれたためであり
フロリナ王女のカプツォーワ、勇気の精のアンドリエンコ、銀の精のティホミロワ、カナリア/赤ずきんのスタシケーヴィチ、
そしてブライドメイドにはスミルノワまでが配役。男性陣も層が厚く、4人の王子にはラントラートフにあの人は今なるドミトリチェンコのお名前も並び
リラの精の小姓にベリャコフにロヂキン、と現在はプリンシパルとして主役を張る方々が
コール・ドや個人名無しの役柄で大活躍で、主役そっちのけで観察に勤しんでしまいました。
ただ携帯電話画面では限界があり、配信へ感謝を込めてDVD購入を検討しております。

1点気がかりであったのはボリショイにしては、またバレエの殿堂である劇場の新たな船出の初日にしては熱量が低く淡白であった点。
綺麗であったのは紛れもない事実ですが、上品にまとまり過ぎていた気がいたします。
あくまで憶測ですが、ボリショイの改装にあたり天井の高さ不足などツィスカリーゼが不満を訴えていた記事を何かで読み
新体制への疑念は上演にも何かしら影響が及んでいたのかもしれません。

美術や衣装も一新され、衣装はフランカ・スクァルチャピーノが担当。これまでのヴィルサラーゼによる
王道路線ながらも華美な装飾は控え、やや陰りのある色彩美で整えられたデザインとは様変わりして明るいトーンへと変更。
ヴィニチオ・シェリによる降り注ぐ陽光彷彿させる照明効果もあり、とにかく全体が煌びやかな装いであった印象です。

実はボリショイの眠りはヴィルサラーゼの衣装の時代も含めて映像でも生でも目にしたことが殆んどなく、好きなバレエ団ながら不思議なもの。
振り返ると、バレエを観始めた頃にボリショイのレーザーディスクが続々発売され、『ライモンダ』や『くるみ割り人形』と同様
眠りの映像も自宅にて目にする機会はありました。しかし主演のニーナ・セミゾロワが
鑑賞歴数ヶ月のド素人が観てもオーロラ姫が似合っていなかったのが明らかで16歳にしては妖艶過ぎる姫に1幕では目を疑ってしまったほど。
(セミゾロワの名誉のために申せば、石の花での銅山の女王は威厳や恐ろしさを秘めた役どころがぴったりで絶品)
結婚式は辛うじて鑑賞できましたが、今度はオーロラ姫のヴァリエーションがボリショイ特有の楽譜なのか
終盤で回転しながら舞台を大きく回りつつ脚を高く上げる箇所にてアウフタクト(音楽用語自信無いが恐らく)が無く、ぶつ切りに響いてしまったのです。
眠り全幕を上演しアナニアシヴィリ、グラチョーワ、ルンキナが日替わりで登場した2002年の来日公演には残念ながら一度も足を運べませんでしたので
(主役の鬘は各々に任せられていたのか当時の書籍での記憶ではアナニアシヴィリは無し、グラチョーワはグレー系、ルンキナは白)
その際の音楽も気になるところですが、そんなこんなでボリショイ眠りにはほぼ触れることなく現在に至っていたのでした。
ソ連時代の映像で1幕をナデジダ・パヴロワ、2幕をリュドミラ・セメニャカ(王子はアンドリス・リエパ)、3幕をセミゾロワ(王子はユーリー・ヴァシュチェンコ)が
分担で登場した映像でもアウフタクトやはり無し。図書館で借りた、ボリショイ劇場管弦楽団による眠りCDでも無し。
理由は未だ分からず約30年来の謎です。ご存じの方がいらっしゃいましたらお知らせいただけますと幸いでございます。


※詳細キャスト
https://www.fairynet.co.jp/SHOP/4560219322660.html

※美術のエツィオ・フリジェリオと衣装のフランカ・スクァルチャピーノはご夫婦だそう。
パリオペラ座のヌレエフ版『ラ・バヤデール』もお2人が組んで手がけているとのこと。
https://www.abc.es/cultura/abci-ezio-frigerio-y-franca-squarciapino-sesenta-anos-juntos-dentro-y-fuera-escena-201805050135_noticia.html


次回のボリショイ劇場配信は『現代の英雄』。ボリショイ・バレエinシネマさんのツイッターにて詳細な鑑賞手引きをご覧いただけます。
2017年にシネマで鑑賞。幕ごとに色合いががらりと変わる展開で青年ペチョーリンの人生を描いた、レールモントフ原作の重厚な作品で
ペチョーリンは幕ごとに異なるダンサーが務め、各々に絡む女性も合わせて主役級が総登場しますので
とっつきにくいとお思いになった方も一度はご鑑賞をお勧めいたします。
当時の感想はこちらでございます。
http://endehors.cocolog-nifty.com/blog/2017/05/post-0842.html

2020年4月17日金曜日

新国立劇場バレエ団 牧阿佐美さん版『白鳥の湖』を振り返る




※今秋2020/2021シーズン開幕演目はピーター・ライト版『白鳥の湖』から『ドン・キホーテ』へ変更。
それに伴い、来春に延期となった山形公演では牧さん版『白鳥の湖』の上演決定と発表がありました。
今回振り返りを行ってしまいましたが、再度牧さん版白鳥総仕上げ編として来春行う予定でおります。


今年4月4日(土)新国立劇場バレエ団初の東北公演を予定していた山形での牧阿佐美さん版『白鳥の湖』公演鑑賞後に綴ろうと思っておりましたが
公演は来年に延期。上演可能か否か先が見えぬ中で練習を重ねてきたダンサー
そして新国立劇場バレエ団との初共演にも注目が集まっていた山形交響楽団を始め
公演に向けて準備に携わってこられた方々の心境を察すると胸が詰まり、世界規模での緊急事態であるとは分かっていてもやるせなさばかりが込み上げてきます。
また延期となった公演においてはバレエ団が今秋より採用するピーター・ライト版上演予定と発表されましたため
初演から鑑賞している牧阿佐美さん版『白鳥の湖』振り返りを中途半端な機会ではございますが書いて参りたいと思います。

初演は2006年11月。この年のシーズン開幕や演目の並びは今思えば特異で、バレエ団の開幕が10月上旬。
しかもガラではなく『ライモンダ』全幕で開幕でしたので、10月11月12月と
全幕物を3ヶ月連続で本拠地にて上演した珍しいシーズンでした。単発ではなく各々の演目につき5回以上は公演があり
『ライモンダ』は大阪公演(梅田芸術劇場にて1回、バレエ団にとって初の大阪公演)も行われ
開幕から3ヶ月はいつにも増して大変多忙な日程であったと想像いたします。

牧さん版『白鳥の湖』は初演以降も多くの再演を重ね、ひょっとしたら『シンデレラ』に次ぐ再演回数多数の作品かもしれません。
プログラムや会報誌のジアトレなど牧阿佐美さんへのインタビュー読み進めると牧さんのこだわりや美意識が思い起こされ
悲劇ではなく幸せな結末にして観客に劇場をあとにして欲しいと確かアトレのインタビューで語っていらっしゃり
愛の力でロットバルト打倒とはいえ王子がオデットを担いでの前進姿を観る度「最終兵器オデットマン」に思えてしまった終幕も今は懐かしさが募ります。
振付の基盤はセルゲイエフ版とさほど変わりないものでしたが、一番の変更点はプロローグ挿入とルースカヤの追加でしょう。
プロローグは刺繍をするオデットと侍女の3人いたはずが、いつの頃からかオデット1人に(確か)。
ルースカヤは侍女を従えるわけでもなく本当にソロでしかも短いとは言い難い曲で踊るため魅せることが容易ではない役ながら
ベテラン重鎮から中堅、時には将来を期待される若手が務め、歴代のダンサーを並べるとまさに百花繚乱です。
それから現代の観客の時間感覚に合わせようと休憩は1回のみに変更。舞踏会と終幕の湖畔の場が休憩無しでの上演となりました。
女性陣の着替えの多忙さに更に拍車がかかり舞台袖にあるであろう着替え小屋の猛烈な慌ただしさは想像に難くありません。

そして湖畔前の不安や憂鬱さを募らせるソロと舞踏会のあとにオデットを追いかける王子の嘆きと懺悔なるソロが追加。
後者は閉まった幕の前で披露され、下手すれば場繋ぎ及び時間稼ぎ役或いはオデットたちの前座な役にもなりかねないわけですが
そこは新国立男性陣。ただの間抜け王子にはならず、内側から迸る心情を届けてくださっていました。

最終幕は、オデットが許し王子との愛を再確認するこれまたいつの頃からか悲しみを鬱々と引き摺るゆったりしたワルツがカットされ
すぐさま愛の攻撃作戦へ。スピーディーな展開を更に追求したが故でしょうが、心残りな1点です。

衣装は随分と大胆に一新。重厚ではっきりとした色彩、濃いめのベルベットを多用していたセルゲイエフ版に対して
牧さん版は全体が繊細ですっきり洗練路線を展開し、特に1幕ワルツのソリスト男女の淡い緑を配した色彩は
ドイツ周辺地域の初夏の低湿な陽気を思わせる清涼感が漂い、幕開けから爽やかな心持ちにさせるデザインでした。
王子の前半の衣装が光沢を含んだ青いベルベット地に金糸で彩った見事なまでに品良く華やぐ色味であった点も忘れられず、
ウヴァーロフやマトヴィエンコ、リー・チュン、ムンタさんらゲストで招聘されたダンサーの方々も
持ち込みではなく皆さん着用なさっていたと記憶しております。
そして花嫁候補は喜んだであろう、お揃いのソフトクリーム帽子からめでたく脱却し
白を基調にしつつも頭飾り衣装ともにお国柄が表れたデザインへと変更。
加えて王子は提灯袖から、ロットバルトはチリチリラーメンヘアーなビジュアル系ロックバンドから脱却。

一方セルゲイエフ版のほうが私個人としては好みだった衣装も何点かあり、例えばオデットとオディールの衣装。
牧さん版は良く言えば身体の線がくっきりと見える、ラインストーン以外は極力装飾を控えたすっきりしたデザインですがやや物寂しい気もしており
セルゲイエフ版における両役とも羽をこんもりと盛ったチュチュ、オディールに至っては頭飾りも含め赤いストーンを散りばめていたくゴージャス。
提灯袖、チリチリラーメンロットバルト、ソフトクリーム帽子も合わせて
セルゲイエフ版踏襲のこどもバレエ『白鳥の湖』でお目にかかれる機会がまたあれば幸いでございます。

美術がぼんやり淡めのタッチで描かれていた点も設定国を明確にせずお伽話の世界に入り込んで欲しいとの意向だったようで
中でも抑えた暗めの色で整えられた湖がシンプルに描かれた背景美術はダム湖にも錯覚させましたが、プログラムに目を通すと納得したものです。
美術とはまた違いますがハリボテ白鳥廃止になった点も寂しく笑、王冠被った白鳥を目にした王子が大袈裟に驚いて弓矢を持ったまま袖へと走る
往年の古き良きロシアバレエと日本昔ばなしが融合したあの不自然さこそおとぎ話な『白鳥の湖』を観に来た気分を高めてくれる効果大だっただけに
白鳥さん、子どもバレエでの遊泳を心待ちにしております。

さて前置きが長くなるのは毎度の定番であるのはさておき、公演年ごとに印象深く刻まれている内容を綴って参ります。
万一抜けがありましたらご容赦ください。


2006年11月公演
初日を飾ったのはゲストの常連であったザハロワとマトヴィエンコペア。
歓喜したのは酒井はなさん山本隆之さんペアの公演日がのちにDVD化されて新国立バレエ初の映像ソフトとして2009年に発売。
勿論大事に手元に持っております。(同時発売は2009年ザハロワ主演日のライモンダ)
当時研修生であった小野絢子さん、井倉真未さんがナポリでの出演も話題になりました。
この後何年も続いておりますが、何と言っても山本さんの青いベルベット衣装のお姿がまあ眼福。
花嫁候補トップバッター寺島まゆみさんが煌めくオーラ発散、初日は寺島さんが現れた瞬間
遂に遂にソフトクリーム帽子からの脱却と観客から祝砲が飛んでいた気がいたします笑。
花嫁候補が恐ろしく豪華で寺島さん始め本島美和さんに真忠久美子さん、寺田亜沙子さんの並びなんぞ
華麗なる火花を散らす対決でございました。


◆2008年大阪フェスティバルホール公演
ボリショイよりルンキナ、ウヴァーロフを迎えて上演。大阪公演ならばなぜ山本さん主演でなかったのか
干支一回りした今も疑問を投げかけたくなるわけですが、海外ゲスト希望など諸々事情があったのでしょう。
フェスティバルホールは初訪問。当時は改装前でしたので古めかしい雰囲気漂う内観だったはず。
客席での出来事も印象深く、隣にいらした50代位の女性2人組が話しかけてくださり
主演のルンキナさん良かったですね、といった内容でしたが言葉が徐々に熱を帯びていく展開に。
「大阪言うたら山本隆之君の出身やなあ。何で今日主演やなかったんやろう?(私も心底同感)
あんたはバレエ習ってへんの?習ったらええのに。私たち今やってるねん。楽しいでー。青春や、青春!あはははは!!ほなまたな!!」
劇場や待合室など人が集まるところで偶然席が近くになった方と会話することは時々ありますが
初対面であってもこんなにも賑やかに言葉を発してしまう関西のパワーにはまだ大阪通いを始めてから3年目の新米東京人な管理人はたいそう驚き
そして大阪の方のオープンな人柄に触れることができて幸せに感じたのでした。


2008年6月公演
川村真樹さんがオデット/オディール初挑戦。平日昼公演でしたが鑑賞に出向きました。
5月公演の『ラ・バヤデール』を脚の治療のため降板なさっていた山本さんが千秋楽に復帰。
今思えば、最後に観た酒井さん山本さんペアによる初台での白鳥全幕でした。
当時はまだ正団員ではなかった?古川和則さんが新国立初登場、1幕ワルツの場で目に留まった際には
東京バレエ団での活躍が記憶に新しかっただけに大変衝撃でしたが新国立に新風を吹かせ
その後は『シンデレラ』陽気な義理のお姉さんや『ペンギン・カフェ』でのシマウマさんなど
思い返せば独特の個性で大活躍。近年も『シンデレラ』や『ロミオとジュリエット』モンタギュー公で出演され舞台を引き締めてくださっています。


2009年5月公演
新型インフルエンザが流行して若年層の間でも広がり、中学生のためのバレエ鑑賞日(ほぼ全席中学校団体が貸切)には来場者全員にマスク配布。
この日も足を運びましたが、当時は異様な光景に映っていたと今も覚えております。
確か男子校の中学生たちで幕間はたいそう賑やか笑、王子の騙しに成功したオディールが
高笑いして花を投げ走り去って行く箇所で中学生たちは終幕と思ったのか、喝采に嵐となった事態も微笑ましかったのでした。
同時に中学生諸君、君たちが観た王子様は世界トップクラスであることをよく覚えておくようにと後方席から無言で言い聞かせていた管理人笑。


2010年1月公演
小野さんがオデット/オディールデビュー。水曜日夜の公演でしたが、注目度が非常に高まっていた日程であったかもしれません。
ゲストのザハロワが直前降板し、他日主演の厚木三杏さんが急遽初日登場。初日開演前には牧さんが幕前に立ち挨拶。
ザハロワが出演を予定していたもう2回は厚木さんと川村さんが分担し
来日してから組むことが決まったお2人に寄り添うウヴァーロフの心のこもった鉄壁サポートも忘れられず。
福田圭吾さんの新国立での道化初挑戦もこの年であったはず。
前年秋に入団の福岡雄大さんによるフレッシュなトロワとキレキレスペインも話題になりました。
この年のダンツァでの山本さん、福岡さん、福田圭吾さんの対談によれば、福岡さんはトロワの衣装を実に気に入っていらしたご様子。
伊東真央(まちか)さんのナポリが反則級の可愛らしさで、両手を上に掲げてのお日様きらきら振付に頬が蕩けっぱなし。
ちなみに管理人の妹、前年に初演されたばかりの牧さん版くるみでの現代東京の演出には肩透かしだったようでしたが笑
全然知らずに観たクララの伊東さんの弾ける可愛らしさ軽やかさのすっかり虜になり、伊東さんのナポリ目当てに白鳥の湖も鑑賞。
1幕の村人でも伊東さんはすぐ発見できた、ウヴァーロフの頭身バランスが良い意味で驚異過ぎる、など満足度は高かったようで安堵。


2012年6月公演
米沢唯さんがオデット/オディールデビュー。中国国立バレエから初ゲストとしてワン・チーミンとリー・チュンが登場。


クラシックバレエハイライト(湖畔の場面のみ) 厚木・姫路・和歌山
厚木公演のみ鑑賞。平日夜でやや遠方とは言っても新宿から1本で行ける距離に位置する厚木で来客見込めるのか不安であったが的中。
しかしプログラムの質は良く、堀口純さんのオデットがしっとり感情を奏でる美しさがあり全幕が一段と楽しみになったのでした。


2014年2月公演
大雪に見舞われた翌日あたりに開幕。ちょうど冬季五輪開催中であったロシアのソチよりも東京の方が遥かに寒く積雪量も多き天候でした。
厚木でのクラシックバレエハイライトで観た堀口さんの全幕オデットに感激。
英国バーミンガムロイヤルバレエ団での『パゴダの王子』客演を控えていた小野さん福岡さんペアは初日の1回のみ登場。
16日の米沢さん、菅野英男さんペア日は皇太子殿下(現天皇陛下)が来場なさっての上演でした。
長田佳世さん、奥村康祐さんが共に初役?だったと思うが奥村さんの勢いと爽快感が止まらぬ鮮烈なジークフリート王子デビュー。
お2人とも翌月の新潟県柏崎市公演でも主演。




手塚プロダクションとのコラボレーションでピノコ登場。
そういえば、一時期存在したホワイエのガチャガチャはいずこへ。お目当てのダンサーが出るまで粘っていた友人もいました。


2015年6月公演
ムンタさんがゲスト出演。ゲネプロも鑑賞し、ペッタリ斜め分けだったためか一昔前のサラリーマンを彷彿笑。
そして入団前の木村優里さんがファーストキャストのルースカヤで登場。期待のかかり方が窺え、その後も目を見張る活躍を見せています。
米沢さん、ムンタさん日はNHKで放送されました。(録画したが、放送時にちらっと見た1幕冒頭以降はまだ見ておらず)





賛助会会員の方よりお声かけいただきゲネプロ鑑賞。サービスドリンク、アルコールも対象でした。


2018年5月公演
2公演のみの鑑賞であった前回2015年とはまるで別人となった管理人、心境及び鑑賞体制大違いで全日程鑑賞。
渡邊峻郁さんが牧さん版全幕では初のジークフリート王子役。
2016年の子ども白鳥を見逃しておりましたが、新国立では2015年以降この先全公演Z席(4階末端の最安値席)鑑賞で十分と宣言していた私が
2017年のヴァレンタインバレエでの黒鳥パドドゥ目当てにC席を購入する行動に走り、その後については省きますが
感情が深くこもっていて全幕観ているかのような出来に感激。(髪型はもう一歩だったが笑)
外部でも特殊なスタジオ空間にて1m程度の至近距離で鑑賞した湖畔のパドドゥのみや
全幕の中の1幕から湖畔までといった抜粋では何度か鑑賞していただけに待ちに待ったご登場でした。
ただ渡邊さんの白鳥の湖においては牧さん版よりも2019年の子どもバレエのほうが心に刻まれおり、
東京以外でも急遽の大阪公演含めて2回観たりと回数が多かった、だけではないと思うのだが。
演出が好みだった点も一因か、そうだ牧さん版のときより髪型が自然だったのだ。(そこかい)

主役日だけでなくソリストな役以外でも連日何処かしらにご登場、トロワは分かるが
プログラムにもキャスト表にも未掲載ルースカヤの付き人には大仰天。踊る箇所は一切無く、冒頭で登場するルースカヤ嬢に付き添い
背後を歩いてエスコート。王子がオディールに愛を誓い雷鳴が轟くと再び一緒に退散する、これだけの役で注目なんぞしたことはありませんでしたが
毛皮の帽子始め衣装、ブーツも渋めの茶色ですっきり整えたロシアな格好がまあ似合い
役の存在すら忘れかけていた身としては白鳥の楽しみ方がまた1つ増えたのでございます。
付き人も演者によって様々で渡邊さんは厳格な護衛官、中島駿野さんはおっとり優しい執事、小野寺雄さんはおとなしいお小姓、
木下嘉人さんは神経質そうなマネージャー、と個性も多様。2006年の初演から観ている牧版白鳥にて
まさか付き人観察する日が到来するとは人生分からぬものです。プリンシパル昇格前のダンサーに注目するとこうも連日面白いのかと
『シンデレラ』御者事件に続き『白鳥の湖』においても感じた公演でした。

付き人で締め括りそうになりましたが日によってはトロワが最も印象に刻まれた日もあり、
そう口にするのは人生初のバレエ鑑賞であった1989年ABT来日公演バリシニコフ版『白鳥の湖』以来。
柴山紗帆さんの美しい型を崩さぬオデット/オディールも予想以上に心に響き、他日も我が心はゴールデンウィークお祭りわっしょい。
今思えばこの年の公演が牧さん版白鳥最後の鑑賞となりました。



限定デザートカリッと香ばしいスワンシュー。子ども白鳥では湖を模したゼリーが敷かれ、小ぶりの三羽。
更なる進化型で販売していました。マエストロ自信作!?



柴山さん奥村さん主演日鑑賞後はお世話になっている友人とスワンレイクカフェへ。レジ前に描かれた白鳥さんたち、おめかしして乾杯。



スワンレイクビール。グラスも白鳥です。



たっぷり注いでくださったワイン。コースターがまた細やかで美しい柄。1997ですから新国立劇場と同い年のようです。


2018年11月札幌公演
札幌文化芸術劇場こけら落としシリーズの一環でチケット入手できず残念ながら鑑賞は叶いませんでしたが、小野さん福岡さんが2日連続で主演。
貴族が全国公演ならではの配役だったようで、興味津々。


長くなりましたが、初演からほぼ全公演鑑賞しており振り返れば様々な出来事が脳内を駆け抜けていきます。
多少は突っ込みどころもあったにせよ、綺麗なバレエを魅せる古典作品としては衣装や美術も合わせて良作であったと思いますし
奇を衒っていないためバレエ初心者にも案内しやすかった点も強みだったかもしれません。
最後の上演と強調されていた山形公演を見届けることができずに終わってしまったのは悔やまれます。

今秋からはピーター・ライト版『白鳥の湖』。国王の葬儀から始まり、幕開けから黒を基調とした舞台美術や衣装に彩られ
爽やかな祝宴であった牧さん版とは全く異なる趣きです。
スウェーデン王立バレエの映像を講座で少し鑑賞し、1幕は特に王子の細かい芝居が至るところにあり
技術は勿論、相当な演技力がなければ場を持たすことが不可能な演出と見受けました。
新鮮なペアも組まれていますので、開幕を楽しみに待ちたいと思っております。

2020年4月8日水曜日

【今更ですが】【バレエオタクが突然歌舞伎を観に行ったら】歌舞伎版『風の谷のナウシカ』12月6日(金)




珍しくバレエではない投稿且つ昨年の出来事で恐縮ございますが、
昨年の師走はくるみ三昧であったため翌年に綴ろうと考えておりましたため、
またお子さん方の春休みに合わせて(ただ今年ばかりは新学期も開始できぬ学校が多いと思われますが)
金曜ロードショー・スタジオジブリ映画2週連続放送もありましたのでこの機会に失礼。
昨年12月6日(金)、新橋演舞場にて歌舞伎版『風の谷のナウシカ』初日夜の部を観て参りました。
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/shinbashi/play/604/

歌舞伎鑑賞は12年ぶり2回目。前回は言い訳を並べますと新国立劇場バレエ団『シンデレラ』新潟公演翌日だったため、
かの坂東玉三郎さんの舞が披露されながらあろうことかリラの精の魔法にかかってしまった管理人。
以来歌舞伎からは遠ざかっておりました。歌舞伎俳優さんの知識ほぼ皆無ながら
(バレエで例えるなら草刈民代さんと熊川哲也さんしか知らぬレベル)
『風の谷のナウシカ』の映画は上位五本に入るほど魅せられているため
また三鷹の森ジブリ美術館にも度々出向いており、歌舞伎化にも自ずと興味を持ち足を運ぶ決意に至りました。

さて以下は昨年1月上野での藤原歌劇団『椿姫』鑑賞時と同様、ここ数年は年間約80回舞台鑑賞のうち9割以上をバレエが占めている
バレエオタクが突如別分野の舞台を目にした珍感想が続きます。歌舞伎精通者からはお叱りを受けるかもしれぬ
素人にもほどがある或いは分野問わずバレエにとらわれている感のある且つ大雑把な支離滅裂内容でございますが悪しからず。

一言で申せば、よくぞあの壮大な物語を歌舞伎化したと唸らせる舞台でした。
原作は大変な長編ながら登場人物は一通り出てきますし、心配していた飛行物もメーヴェはワイヤーを使って
スキー場のリフトのように再現。映画でも原作でも実際にはもっと多数の飛行物が登場しますが
(映画のみでもバカガラス、コルベット、ブリック、ガンシップ、バージ等々風の谷にしてもトルメキアやペジテにしても各々装備は様々)
とても全ての再現は困難であるのは想定の範囲でしたから、ナウシカの相棒こと
メーヴェの大掛かりな登場のみでもまことに嬉しい演出でした。

またポスターからも分かるとおり、風の谷の王女ナウシカとトルメキアの王女クシャナを同等の主役として描いている点も魅力。
映画化にて原作ファンが最も不満を募らせたのが映画でのクシャナがまるで悪女のような描き方であった点と耳にしており
確かに映画だけを観ると、小さな国を脅かす傲慢で手段を選ばぬ悪党の女としか思えなかったのは事実です。
しかし歌舞伎では2人の心の交流を細やかに描き、葛藤や不安を打ち明けあったりとナウシカとクシャナ2人きりの場面も多し。
原作ファンの方も満足できる演出と見て取れました。

そういえば、敵役と思われがちなキャラクターも原作に即して主役同等と捉えた舞台といえば時節柄すぐさま浮かんだのが
新国立劇場バレエ団が2017年よりレパートリーに加えたウエイン・イーグリング版『くるみ割り人形』。
ネズミの王様を他日王子を務めるダンサーまでもが兼任し、英題にはMouse Kingの記載もあり
全体の演出が好みであるか否かはひとまず差し引き、ネズミ王の位置付けは納得いくものでした。
更には、ナウシカの原作者で映画史に残る数々の名作ジブリ作品を生み出してきた宮崎駿さんもくるみ割り人形の物語に魅せられた1人で
ジブリ美術館にて企画展まで開催。しかも展覧会名を「クルミわり人形とネズミの王さま展」と題するほど
ネズミの王様も主役級として描いていらっしゃいました。この企画展には勿論足を運びましたが
(ジブリ美術館まで頑張れば自転車で行けます笑。駐輪場もまた木や落ち葉に包まれ素敵なのです)
当然バレエについても触れていらっしゃり、宮崎さんが描いたプティパが余りに似ていなかった点はさておき
宮崎さん監修の実際にくるみが割れるくるみ割り人形が飾られていたり
手回しで動く絵を展示して戦闘シーンを臨場感たっぷりに伝えたりと相当凝った企画展でございました。

話が二転三転いたしましたので戻します。幕開けから驚かされたのは、メーヴェと並ぶナウシカの相棒のキツネリスのテトが
ぬいぐるみであった点。動物をいかにして描くか気にはなっておりましたがまさかぬいぐるみが登場するとは、
良い意味でほのぼの感が増して頬が緩んでしまうひと幕でした。しかも歌舞伎らしく、黒子さんが持つ棒の先端にテトが装着し
ナウシカの肩の動きに合わせて寄り添うように黒子が操作。何処かに行っているようナウシカに促されると
テトが舞台をサッサカ歩くように床上にて犬の散歩の如く動かして退散。
実のところ、黒子が登場した途端真っ先に脳裏を過ったのは同年1月に上演された新国立劇場バレエ団ニューイヤー・バレエでの
中村恩恵さん版『火の鳥』における黒子さん。火の鳥を裏で支える謎めいた役柄として3名登場し
役名や衣装の色彩は同じでも和風、中華風、ハリウッドアクション映画風と各々衣装が異なっていたわけですが
浮かんだのは勿論和風の黒子さん。ああ、テトを大事そうにナウシカになつかせていると思うと愛おしさも妄想も倍増せずにいられず
新橋演舞場においても、人間とはかくも身勝手な生き物であると猛省していた管理人でした。

さてバレエの話からは切り離しまして、衣装は主要な役柄は原作に近い、或いは原作の味わいに着物を合わせたデザイン。
中でもユパ様の大きな帽子に髭と着物の組み合わせは和洋折衷な装いでなかなかユニークでした。
ただ気にかかったのは、民衆の衣装が完全和物で戦国時代のドラマを彷彿。(大河ドラマ平清盛に近かった気がいたします)
ナウシカの舞台はこれといってはっきりとした設定国はないものの風の谷のモデルはパキスタンのフンザとされていて
映画や漫画で服装を見る限り少なくとも日本ではない。また和装の民衆の光景を眺めると
宮崎駿さんの名作の1本である、日本を舞台にした『もののけ姫』を脳内再生。
ナウシカの世界への入り込みにやや時間を要した一因にも繋がり、伝統芸能に漫画を当てる難しさを明示していたともいえます。
アスベルも着物に髷でしたが、工房都市ペジテの出身らしくもう気持ち飛行機乗りな装いであると尚良かったと思っております。

台詞回しや声についてはいかんせん歌舞伎ド初心者であるためバレエ鑑賞時の如く重箱の隅をつつくことは致しかねますが
セルム役の中村歌昇さんも声が映画のナウシカにてアスベルの声を務めていらした(もののけ姫のアシタカ担当)
松田洋治さんの声に似ている印象で、引っかかりながらの鑑賞となってしまいました。これは中途半端なジブリオタクな管理人の脳内設定がいかん笑。
動物系の演出にてテトと並び興味津々であった、ナウシカやユパが映画中で乗用していた鳥のトリウマは人間が組み合わさった形。
私の席から花道が見えず、夜の部にも登場したかは定かではなく尾上菊之助さんが跨る姿は目にできずでしたが
まさか本物のラクダを連れてくるわけにはいかないでしょうから人間合体型と後から知って納得でございました。
ただ人間合体型である都合上、映画で目にしたような疾走場面は無かったもよう。

終盤では歌舞伎といえば大勢の方の脳裏に浮かぶであろう頭をブンブン振り回す連獅子と思われる場面もあり
歌舞伎を観に来た気分を一層高めたと同時に記憶が正しければ主要な2人がブンブン回していて
後方で多めの人数がぐるぐると回っていたため(頭ごと振り回していたかは記憶曖昧)
上階から眺めるとバランシン振付『シンフォニー・イン・C』でのフィナーレにおける第3楽章を彷彿。
目が回るよりもビゼーの交響曲が先立って流れた観客は恐らく私1人かと思います。
干支一回りぶりの歌舞伎鑑賞でバレエからは簡単には離れられず、諸々疑問も投げかけてしまいましたが
『風の谷のナウシカ』映画公開は36年前の1984年、つまりバレエ界では吉田都さんがプロデビューされ
ボリショイバレエ団がグリゴローヴィヂ版『ライモンダ』を初演し、日本でダンスマガジン創刊号が発行された年。
監視体制に疑念を抱き始めた役人を主人公に描いたジョージ・オーウェルの代表作も『1984年』です。
(あらすじには記録の改竄作業に打ち込むと記され、現代の日本を風刺しているとも受け取れる内容だが)
私にとっても縁ある年で、ザ・ベストテンを欠かさず視聴しロサンゼルス五輪をテレビ観戦しながら
体操の森末慎二さんや陸上のカール・ルイスの偉業に拍手を送っていた日々を懐かしく思い出すと綴っているのは
当ブログには遅くに到来した4月1日の行事か否かは想像にお任せしつつ
年月を経ても色褪せぬ、現代社会にも突き付けるテーマが宿る作品であると歌舞伎においても再度感じさせました。
他にも王蟲や巨神兵など申したいキャラクターや演出は多々ありますが、長くなりましたのでこの辺りでお開き。
夜の部のみでも4時間超えの長丁場ながら、疲弊は多少あれども笑
ナウシカの世界の要素を取り入れた、初心者も堪能できる歌舞伎であった印象です。
もし再演が決定し、ご覧になろうとしている方は映画ではなく原作の知識があれば尚のこと楽しめるかと思います。
登場人物も多岐に渡り名前も独特の響きですので、原作本読破おすすめでございます。
映画の内容は今回鑑賞した夜の部ではなく昼の部つまりは前半に含まれているため、
再演の際には昼の部鑑賞を決意。腐海の底の澄み切った世界や王蟲の触手の描き方が特に気になっております。

ところで先述の通り宮崎駿さんはジブリ美術館でくるみ割り人形展を開催し、想像でお描きになった
似てはいないプティパの絵を公開なさっていたほどでジブリ作品のバレエ化もそれ以前から勝手に夢見て妄想しております。
ビントレー版『アラジン』を観た際には新国立の舞台機構を生かしてタイガーモスやフラップター、ゴリアテといった
飛行物の空中演出も可能であろうとラピュタが良さそうに思えましたが、日本を題材にしたもののけ姫も推しております。
本島美和さんのエボシ御前や寺田亜沙子さんのタタラ場リーダー、ぴったりかと想像。
アシタカを乗せて旅を共にするヤックルをどうするか、これは難題だ。




歌舞伎通且つバレエもご覧になっている方と木挽町広場で待ち合わせ。初めて訪れ、お土産の種類の多さにびっくり。
お土産といえば演舞場内にも充実。舞台写真も販売されていましたが、ブロマイドの呼称で親しまれているらしく
近年耳にしないためか不思議な響きに感じた次第。新国立劇場の場合は舞台写真、と記して販売されています。
ブロマイドと聞くと、フォーリーブスや更に遡って宝田明さんや岡田眞澄さんといった
往年のアイドルや映画スターが写っているものを想像してしまうのは私ぐらいか。



歌舞伎といえばお弁当。食いしん坊の管理人、木挽町広場で購入。



帰り道、大都会の銀座。石原裕次郎さんと牧村旬子さんの『銀座の恋の物語』を再生しながら闊歩。



闊歩するうちに有楽町ガード下へ。今度はフランク永井さんの『有楽町で逢いましょう』の気分。



日本酒熱燗と鰆の炙り焼きで乾杯。


ナウシカの漫画。壮大な世界観に圧倒されますが、正直申し上げると繰り返し読みたくなるような内容ではございません。
とにかく重たくそして虫の描き方が写実的でなかなかのインパクト。



CDも集めて大事にしておりました。



2003年に東京都現代美術館にて開催されたジブリ立体模造展で購入した書籍。
他にも池袋のアニメショップで見つけた映画公開当時のアニメ雑誌もございますが、表紙が強烈な絵柄であるため
バレエブログでの掲載は遠慮いたします笑。



DVD特典フィギュアセット。自宅に届いた際、家族が仰天しておりましたが無理もないか。



英語学習用のテキスト。テスト問題もあり、これなら親族の間で学業成績の話題は現在も禁物状態にある管理人も勉強が捗りそうです。

さてバレエではない分野の鑑賞記事ながら長くなり申し訳ございません。
当ブログ、先月末で開設から7年を迎えました。開設時は新国立劇場Dance to the Future2013上演の時期で
ここまで継続できているのは読者の方々の存在があってこそであり
繰り返しにはなりますが、知名度の低い且つ素人が綴っているしかもタイトルはアで始まるからと30秒程度で思い付いた
適当にもほどがある性格の管理人が運営する当ブログに1秒でもお越しくださった方は貴重な貴重な読者様です。
本当にありがとうございます。
まさか開設から7年後、舞台芸術の開催鑑賞がここまで厳しい状況になるとは思ってもおらず
感染拡大や医療崩壊等世界各地で気が滅入る状態が続く情勢に胸が痛まずにはいられません。
収束を願いつつ、他人事ではなく明日は我が身と意識を持ちできる対策は念入りに行っていきたいと思っております。
バレエは劇場で生で鑑賞する鮮烈な感激を大事にしたい一心で特例もあるものの長時間の動画検索や再生は極力控え
記事のテーマも劇場に足を運んでの鑑賞記が大半でしたが現在は困難であり
公演を中止にしても生活に潤いを届けたいと映像配信をしてくださっている劇場及び舞踊関係者の方々に感謝し
関連書籍や映像、雑感の範囲を広げる等趣向を転換させつつ継続して参りたいと考えております。
筆が遅く、更新は週1回程度のこまめとは言い難いブログではございますが今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。

※次回は4月4日に東北地域にて鑑賞予定であった公演に関する内容を検討中でございます。

2020年4月2日木曜日

【お茶の間観劇】食卓の椅子に着席してライブストリーミング開演 新国立劇場バレエ団DANCE to the Future2020コンポジション・プロジェクト 3月28日(土)

3月28日(土)、新国立劇場バレエ団DANCE to the Future2020
コンポジション・プロジェクトライブストリーミング配信を鑑賞いたしました。

https://www.nntt.jac.go.jp/dance/dtf/

https://www.nntt.jac.go.jp/dance/upload_files/DtF2020-livestreaming-program.pdf

https://spice.eplus.jp/articles/264453

音楽を手掛けられた平本正宏さんのツイッター。音楽の聴きどころや
リハーサルで振付作業に打ち込むダンサーたちと接しながらの作曲過程を丁寧に綴ってくださっています。
https://mobile.twitter.com/HiroHiramoto?p=i


ライブストリーミング配信映像、明日4月3日15時まで視聴可能です。



コンポジション・プロジェクトによる作品
音楽:平本正宏
アドヴァイザー:遠藤康行

Works from The Composition Project

「〇 〜wa〜」
グループ『DO/ 動』 衣裳:朝長康子
渡邊峻郁 木村優里 益田裕子 稲村志穂里 太田寛仁 関 優奈 徳永比奈子
中島春菜 中島瑞生 原田舞子 廣川みくり 渡部義紀 伊東真梨乃


「A to THE」 グループ『ZA/ 座』
柴山紗帆 飯野萌子 広瀬 碧 福田紘也 益田裕子 赤井綾乃 太田寛仁
関 晶帆 仲村 啓 西川 慶 原田舞子 樋口 響 廣川みくり 横山柊子


DO/動は小宇宙に鋭く斬り込んでくる連鎖を思わせ、テクノ系の音楽と融合してのせめぎ合いが迫りくる感覚。
暗闇の中で自在に変容していくすっきり時には混沌とした不思議なSF世界が現れた印象で
中でも渡部義紀さんのダイナミックに駆使する身体能力に驚かされました。衣装は全員淡いブルー系。
ZA/座は重力を引き摺るような趣で、西川さんのしっとり且つ訴えかけてくるソロを軸に展開。
女性ダンサーたちの黒いダボっとしたシャツと黒い短パンが眩しく映えるデザインでした。
どちらのチームもダンサーの案とアドバイザー遠藤康行さんの助言が上手く合体していたと見受け
目で追うのが面白い作品に仕上がっていた印象です。全員が振付家として挑んだ共同作品である以上
所々ばらつきや無理やり繋いだ感のある箇所もあったのは否めませんでしたが
本公演ではなかなか実現しないであろう斬新な人員構成やダンサーの新たな一面の発見も多々あり。
横山さんと赤井さんによる実はコンテンポラリーもお手の物な女性コンビ披露もこのプロジェクトならではでしょう。

振付家発掘はDTFの醍醐味ではあり、始動は2012年ですから年々ダンサーによる作品のレベルは上がりつつも
ここ数年常連のダンサーの名前ばかりが並んでいる状況は気になっていた点でもありました。
(そのため概要を掲載したチラシを初めて手にした際、振付者の欄に渡邊さんのお名前を見つけ
更には振付は初めてであるとアトレのインタビューでも仰っていたため二重に驚いた次第)
遠藤さんの助言を得ながら自身の構想を伝えて取り入れたり、
階級や契約登録関係なく意見を交わしながら新しい作品を仕上げていく作業は大きな収穫であったに違いありません。

公演中止は残念でしたが先行き不安なこの状況において一部だけでも配信してくださり
配信の環境を整えてくださった劇場に感謝するばかりです。
一方入念な準備を重ねながら公演中止を余儀なくされ、無観客の場での披露は
出演者やスタッフの方々の心情を察するに余りあるもので事態の早期収束を願うしかありません。

惜しまれるは我がパソコンは長年故障しておりタブレット端末は古いモデルのため動画鑑賞が不可能。
渡邊さんのベジャール版火の鳥主演リハーサル映像を連日再生していた頃はタブレット端末での鑑賞でしたから
約2年半前は再生可能であったのか。そんなわけで今回は携帯電話画面での鑑賞であったため
目に飛び込む範囲が格段に狭まり、新国立の鑑賞ながら珍しく短文であった点はお許しください。(むしろ良かったか)
尚映像配信であろうが携帯電話鑑賞であろうが新国立鑑賞には変わりなく
毎度の開演前アナウンスや幕間の一杯妄想はしかと行った管理人でございます。


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※残念ながら観客前でのお披露目は持ち越しになってしまいましたが上演予定であった団員振付作品。
毎回全作品胸躍らせて鑑賞に臨んでおり、次こそは上演を心待ちにしております。
6年前に映画『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』を鑑賞していた経緯もあり(加えて云々笑)「Seul et unique」は勿論のこと
バレエ団本公演では同じ役や曲で共演する機会がまずなさそうな個性豊か過ぎるメンバー構成の
「コロンバイン」も特に気になる作品の1本。髙橋さんがいかに取りまとめたか、披露を待ち侘びております。

「Seul et unique」
【振付】渡邊峻郁
【音楽】ニコロ・パガニーニ
【出演】中島瑞生、渡邊拓朗

「Contact」
【振付】木下嘉人
【音楽】オーラヴル・アルナルズ
【出演】米沢 唯、木下嘉人

「福田紘也2020」
【振付】福田紘也
【出演】速水渉悟、宇賀大将、川口 藍、原田舞子、福田紘也

「アトモスフィア」
【振付】木下嘉人
【音楽】ルドヴィコ・エイナウディ
【出演】福岡雄大
【ピアノ演奏】蛭崎あゆみ

「神秘的な障壁」
【振付】貝川鐵夫
【音楽】フランソワ・クープラン
【出演】米沢 唯

「コロンバイン」
【振付】髙橋一輝
【音楽】ソルケット・セグルビョルンソン
【出演】池田理沙子、渡辺与布、玉井るい、趙 載範、佐野和輝、髙橋一輝

「accordance」
【振付】福田圭吾
【音楽】峯モトタカオ、アルヴァ・ノト
【出演】小野絢子、米沢 唯、福岡雄大、木下嘉人、五月女 遥、福田圭吾

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帰り、ではなく視聴後は冷蔵庫に手を伸ばして家呑み。
寝床はすぐそこ。日本酒にウイスキー、白ワインを並べ鑑賞後はちゃんぽんだ笑。
金水晶さんは今週から放送開始された、朝の連続テレビ小説『エール』主人公のモデルである
福島県出身の作曲家古関裕而さんに因む限定ラベルも製造。次回呑んでみたいと思っております。



明後日鑑賞予定であった新国立劇場バレエ団山形公演『白鳥の湖』は来年に延期。
新国立にとって初の東北公演、来年こそはお目にかかれますように。
舞台のみならず現地で温泉や銘酒、米沢牛も堪能する気も満々でございます。
気になるのは当初の予定通り牧版か、それとも10月11月のピーター・ライト版上演後の白鳥となれば山形もライト版か
新たな概要の発表を待つのみでございます。
⇒ピーター・ライト版での上演予定と本日発表。
https://yamagata-bunka.jp/news/2020/04/02038323.html

→ライト版上演延期に伴い、当初の予定通り牧版上演。

2020年3月26日木曜日

パリ・オペラ座ダンスの饗宴




1週間以上前ですが、東銀座の東劇にて映画『パリ・オペラ座ダンスの饗宴』を観て参りました。
https://www.culture-ville.jp/celebratedance

https://spice.eplus.jp/articles/266660

https://spice.eplus.jp/articles/266753


デフィレ
アマンディーヌ・アルビッソン/エミリー・コゼット/オーレリ・デュポン/ドロテ・ジルベール/
マリ・アニエス・ジロ/レティシア・プジョル/アリス・ルナヴァン/
ジェレミー・ベランガール/ステファン・ビュリョン/マチュー・ガニオ/ジョシュア・オファルト/
エルヴェ・モロー/カール・パケット/バンジャマン・ペッシュほか

<バレエ学校の生徒と100人と団員154人が一堂に会し>の解説やポスター写真を眺める以上に壮観。
白或いは白と黒を組み合わせた至ってシンプル且つクラシカルな衣装で全員登場し、行進しているだけでも
ゴージャスな眩さに拍手をしたくなったほどです。
ところで、衣装からして多少は踊るのかと思いきや本当に行進とレヴェランスのみであった点も驚きを覚えましたが
跳躍や回転ではなく歩く姿でいかにエレガンスを表現し世界最古のカンパニーのプライドを示すか
パリ・オペラ座の意地を見せられた気もいたします。基本左右対称で幾何学模様を描くように進行し
気づけばガルニエの舞台全体が覆い尽くされ圧巻。


エチュード
振付:ハラルド・ランダー、クヌドーゲ・リーサゲル
音楽:カール・チェルニー
出演:ドロテ・ジルベール/カール・パケット/ジョシュア・オファルト

生粋のクラシック・バレエ技術てんこ盛りでレッスン風景から始まり、中盤にもバーは無くても
レッスンを彷彿させる大勢で整列してのタンデュも取り入れたりと誤魔化しが一切許されぬ
更には終盤にかけて煽るように勢いや熱が一気に帯びていく体力消耗過酷作品。
初鑑賞は2006年のマリインスキー来日公演オールスターガラで、ソーモワ/サラファーノフ/シクリャローフの若手(当時)トリオ。
次が2009年春の東京バレエ団公演で吉岡さん/フォーゲル/サラファーノフ、
映画ではボリショイシネマにてスミルノワ/チュージン/オフチャレンコ、で回数こそ少ないものの何度か観る機会に恵まれております。

ジルベールが安定感と歯切れ良さで全編を締め、女王然とした貫禄。
ロマンチックチュチュでの優雅さよりもクラシック・チュチュでの正確なコントロールの効いた踊りで
空気を斬るかのようにパワフルに全体を率いていた印象のほうがより強く残っております。
パケットの目を惹く華は文句無しだったが他のカンパニー鑑賞時は連続ザンレールであった箇所を
1回こなして次は跳躍のみ、の1回おきであった点が気にかかるところ。
音楽はこれといって華麗でもなくされど様々なピースを組み合わせ次々と見せ場が現れ、
重々しくも弾ける何とも不思議な旋律から一気に最後へと突き進む流れに
随所に跳躍を盛り込んで終盤へと駆け抜ける振付が合わさり、いよいよフィナーレかと思ってもまだ続く
対角線上の舞台を斜め横切りには何度か観ている作品であっても踊り手泣かせなランダーによる技巧の嵐に目が追いつかず。
過酷且つクラシック・バレエの基礎をシンプルに魅せる振付を存分に堪能できました。


くるみ割り人形
振付:ルドルフ・ヌレエフ
音楽:チャイコフスキー
出演
クララ:ミリアム・ウルド=ブラーム
ドロッセルマイヤー/王子:ジェレミー・ベランガール
ルイーザ:ノルウェン・ダニエル
フリッツ:エマニュエル・ティボー
雪の精:イザベル・シアラヴォラ、ステファニー・ロンベール

ヌレエフ版くるみを映像で観るのは初。生では一昨年のウィーン国立バレエ団ガラにて橋本清香さんのグラン・パ・ド・ドゥのみ鑑賞し
橋本さんはいたくスタイル宜しく品格もあり踊りも安定していたもののアダージオ最後のリフトとバランスが冷や汗もので
加えて仰々しい頭飾りばかりが目についてしまったと記憶。そしてオペラ座ダンサーの写真では
2014年末にレオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェ、更に遡れば80年代後半の雑誌で
モニク・ルディエールやエリザベット・モーランを目にしたぐらいで実質初鑑賞者として開幕を迎えた次第です。

不気味さや醜さを前面に出した箇所が多くいわゆる王道のくるみからは離れた路線であると耳にしており
恐る恐る蓋を開けるように眺めておりましたが、序盤からパーティーへ行く中上流階級な人々ではなく
労働者らしい人々が至るところで跳びはねたりと弾けていて、不思議な幕開けにびっくり。
2幕では仮面のような被り物をした怪しい侵入者たちがクララを囲い込み、これまた仰天の連続でした。
しかし全編通してあくまで少女の夢物語の軸が緩まずであったのは、クララ役のブラームの好演が大きかったと推察。
1幕でのパーティー場面では清楚な雰囲気である上にあどけなさもあり、子供らしさはそのままながら
複雑なステップや足捌きも涼しい顔で難なく踊り、目を見張る軽やかさに天晴れです。
グラン・パ・ド・ドゥはすっかり大人の顔で艶っぽさが漂い、1音1音に何かしら嵌め込まれたややこしい振付も
1つ1つのポーズの優雅さも保ちつつ滑らかな軌跡を描くように舞台を彩る好演でした。
ブラームを以前鑑賞したのは友人の代わりに足を運んだ2017年の来日公演『ラ・シルフィード』で
儚いたおやかさに魅せられ、近年は希少であろう古しきゆかしきロマンチック・バレエの真髄を体現していて大変好印象を持ちましたが
クラシックしかもヌレエフ版をも余裕で、脚で雄弁に語る技術の高さに感激するばかりでした。

ガルニエの舞台を覆い尽くす圧巻のデフィレから研ぎ澄まされたクラシックの技術が不可欠な『エチュード』、
そして独特の不気味な世界観も含ませたヌレエフ版『くるみ割り人形』ハイライトまで見応えのあるプログラムを満喫。
6年前にシネマで鑑賞した『水晶宮』での全体が重たい印象が拭えずであったため(失礼)
近年のパリ・オペラ座バレエ団が踊るクラシック作品の舞台に対しプラス方向ではない考えを勝手に抱いてしまっておりましたが
今回はどれもしっかり響き、大きなスクリーンで鑑賞できて良かったと感じております。

2020年3月25日水曜日

ボリショイ・バレエ in シネマ Season 2019 - 2020『ライモンダ』

3月18日(水)、ボリショイシネマ『ライモンダ』を観て参りました。
https://spice.eplus.jp/articles/265958





音楽:アレクサンドル・グラズノフ
振付:ユーリー・グリゴローヴィチ(原版:マリウス・プティパ)
台本:ユーリー・グリゴローヴィチ(原作:リディア・パシコワ)
出演:オルガ・スミルノワ(ライモンダ)
アルテミー・ベリャコフ(ジャン・ド・ブリエン)
イーゴリ・ツヴィルコ(アブデラーマン)


スミルノワは内面からの感情や顔の表情よりも空間を大きく使って繰り出される1つ1つのポーズの厳格なラインで魅せる崇高な姫。
1幕では若さ初々しさが大事と嘗てあらゆる作品にて主演を務めてきたマリーヤ・アラシュだったか
インタビューで話してはいたものの1幕から貫禄あり過ぎる姫君で
アブデラーマンの迫りにも怯えたり戸惑う様子もなく涼しい顔一辺倒な印象で、ライモンダの心境の揺れ動きや
幕ごとに成熟度を増していくさまは見えづらかった気もいたします。
しかし決闘に敗れた瀕死のアブデラーマンから目を逸らそうと恐怖感を募らせた後のアダージオは
敵国の男性とはいえ自らのせいで命を落とした姿を眼前にして心身が硬直していた姿からジャンの包容力によって
徐々に解れ落ち着きを取り戻す過程を優美で希望が見えるかのような旋律に乗せて丁寧に描写。
このアダージオが入っているのは誠に説得力があると毎回思え、1人の人間しかも自身を求愛した男性が目の前で亡くなった状況から
すぐさま心を切り替えてファンファーレでめでたしめでたしとはし難いと思うのです。(牧阿佐美さん版はファンファーレ賛美だが)
しっとりと愛を確かめ合い肩にもたれかかるような体勢のリフトのままによる幕切れはいたくロマンティックな風情を残し
3幕へと繋がっていました。いずれにしても近寄り難いほどに孤高で凛然とした風格に惚れ惚れし
今夏の東京シティ・バレエ団客演も今から楽しみです。

ベリャコフはなかなかの渋い男前で王子ではなくきちんと騎士に見えたジャン。(これ大事)
眼差し鋭く、マント捌きも颯爽としていてグリゴローヴィヂ版名物の1つである出征前の部下騎士らしき2人分従えての
勇壮なファンファーレに乗せたマントのトロワなる見せ場も絵になっていて宜しうございました。
但し、ベリャコフの責任ではないが真上から羽根らしき鋼が直立に装着されている兜の形状が
どうしてもラディッシュに見えてしまうのはどうしたものか。
それはともかく、人を寄せ付けないほどに気高いライモンダを振り向かせ心を開かせたのも納得な
高貴さと強さを兼備した騎士でございました。どちらかといえば純白な王子貴公子よりも
一癖ある役柄のほうが似合いそうな印象で、来日公演での『スパルタクス』クラッススは誠に期待が高まります。
ジャパンアーツのサイトから辿りご本人の投稿舞台写真一覧を眺めていってみたところ
20年以上前に観た衝撃が今も忘れられぬ、赤の広場特設舞台で踊る
マクシモワとワシリエフの映像で哀愁がしっとりと流れる振付と音楽にすっかり魅せられた
『アニュータ』のパ・ド・ドゥや(パートナーはオブラスツォーワ)や『明るい小川』のバレエダンサー
(シルフィードの衣装着けて自転車に乗る場面でのフィーリンが忘れられないが笑)も経験済みのようで
既に役柄の幅はかなり広いようです。

燃え盛る表現で観客の拍手を攫ったのはアブデラーマンのツヴィルコ。
後にも述べますが何しろグリゴローヴィヂ版でのこの役は名演者タランダで一度観てしまうと
誰が踊っても薄く見えてしまう懸念すら持っておりましたが、ギラリとした視線や粘り気と熱さが共存した踊りで嵐を起こし
うつ伏せ体勢で脚を交互に蹴り上げるようにして横へ横へと移動しながらの跳躍を始めテクニックも炸裂。
他の版と異なりアブデラーマンにも比重が置かれ、スペインや2幕のコーダでも自ら中央に入り率いて
興奮の最高潮へと導く力演でした。ただ単なる悪者ではない人物と映ったのは
ライモンダや伯爵夫人への礼を尽くす所作が深々と美しく、格も持ち合わせていたからこそ。
思えば城に怪しい人物、しかも姪っ子の婚約者の十字軍遠征先の地域からやって来た人物なんぞ
本来ならばドリ伯爵夫人は邪険に扱ってもおかしくはなくすぐさま引き取り願うところなのでしょうが
(そしてこの作品を観るたびに思う、城の警備体制は機能しているのか疑問。そうか働き盛りは十字軍に行ってしまったと結論)
あくまで丁重にもてなすのは一見強面で敵対国の人物であっても
アブさんの人間力(加えて財力やサラセン地域の発達した文化への憧憬も含むかもしれぬが)に惹かれるものが夫人自身もあったものと推察。

また場面は戻ってアブさん初登場は1幕後半の夢の終わり、幻のジャンとの再会後ライモンダが魘される場で
夢から覚めるまでが他版よりも非常に長くつまりはそれだけアブさんがしつこく付き纏う展開のため
余程のダンサーでなければ冗長になってしまいがちなところ。しかしツヴィルコの舞台全体を覆い尽くす勢いと怪しいオーラで席巻し
更にこのときばかりは怯えや不安を募らせていたライモンダとの呼応もあって
終わりかけた夢の最後の最後までを重たく引き摺り、その後ライモンダの目覚めをより鮮やかに感じさせる流れに繋がっていました。

元々バレエ作品の中では最も好きであり、しかもボリショイシネマでは初登場で概ね満足いたしましたが
従来と比較すると、音楽の順序変更や何箇所もの端折りの生じがあり疑問が残った部分も少なからず。
最たる衝撃の1つは1幕の幕開けの壮大なテーマ曲が流れた直後に入っていた吟遊詩人たちの踊りの曲がカットされていた点で
リュートを想起させる(実際の演奏はヴァイオリンであろうが)軽やかな調べで始まり、この部分があるからこそ
中世の宮廷の世界にすっと入り込めると捉えていただけに、テーマ曲の直後に
突如ライモンダの登場曲が響いてきた際には唐突な展開に思えてなりませんでした。
もう1箇所、順番前後して序曲も様変わりしており従来は3幕の前奏曲として演奏されていた
仰々しい曲が(今年の新国立劇場ニューイヤー・バレエでの海賊の前座の如き扱いな短か過ぎるパ・ド・ドゥ使用曲として記憶に新しい)
1幕の前奏曲として演奏。ソ連時代の収録映像の刷り込みはこちらの勝手な事情であるものの
首を長くして待ちわびていた開演のはずが1、2幕は飛ばして3幕のみ上演と錯覚。心がなかなかついていけなかった点は否めませんでした。
そういえば白の貴婦人も登場しなかったがいつから無しになったのか、また3幕ではチャルダッシュとマズルカの順序が入れ替えで
マズルカから開始し、チャルダッシュの後にはすぐフィナーレのギャロップ。
まさかグラン・パ・クラシックの前に披露とは想定外の順序でしたので遡って要調査です。
『ライモンダ』と『スパルタクス』を上演した2012年の来日公演に一度も足を運ばず終いであったのは一生の後悔でございます。

『ライモンダ』の市販映像として日本で最初に出回ったのが恐らくはベスメルトノワとヴァシュチェンコ主演の
1989年収録のグリゴローヴィヂ版と思われ、その後も全幕映像の販売は三大バレエに比較すると到底少なく
動画サイトが普及したとは言えこの映像が刷り込まれている方は多くいらっしゃるかと思います。
私もその1人で、以後2005年ABT来日公演でのアンナ・マリー=ホームズ版における十字軍無しでチャルダッシュが1幕披露の設定や
新国立劇場での牧阿佐美さん版初演時にはプロローグでジャンが出征してしまい1幕のワルツ不在、
日本における全幕初演のカンパニーである牧阿佐美バレエ団のウエストモーランド版での
結婚式でもライモンダが豪華なティアラや装飾を頭に付けていない点(花冠な形)や騎士たちの絵が十字軍の時代よりも近代寄りと思えた点や
日本バレエ協会アリエフ版のお洒落すぎる甲冑やキエフバレエ全幕でのピンクがかった
メルヘンな世界など(現新国立の菅野さんがライモンダのお友達役でご出演)
基準がグリゴローヴィヂ版であるがゆえに気にかかる点がいくつも浮上してしまい、刷り込みの恐ろしさを思い知るばかりです。

ただ情報を容易に入手できる時代になっても強烈な印象が刻まれているのは、キャラクター設定や振付の骨格がしっかりしているからこそ。
これといってドラマ性がない、往年の少女漫画な三角関係、なんぞ言われる作品ですが
(少女漫画といえば帰還後の鉢合わせでアブさんに抱き上げられての連れ去り寸前も、
直後にジャンのもとへと戻るときもライモンダはお姫様抱っこをされている状態。
くるみ割り人形でも最後マーシャは結婚式でマントした王子に飛び込んでお姫様抱っこされる演出で
勇壮な作風の印象があるグリゴロさんは案外乙女心をくすぐる要素もお好きで入れたがるのか、考えが巡ります)
主要男性キャラクターであるジャンとアブさんの両方に重きが置かれているのは重要ポイントであり
例えば2幕ジャンの帰還とライモンダ連れ去り失敗されどめげぬアブさんの対決では決闘まで暫くの時間
両軍の集団戦やら間に入りつつ跳躍対決まであり、大河ドラマや歴史映画での
戦闘シーンに近いものがある印象。男性が豊富且つ雄々しい演出に対応可能な人材が揃うボリショイらしい振付です。
そういえば、『ラ・バヤデール』でもグリゴローヴィヂはニキヤとガムザッティの1幕修羅場にて
跳躍対決の振付を取り入れ、極力舞踊で見せる振付を好むと再確認。

ジャンも最初から勇壮な歩みによる登場で印象付け、1幕の後半まではワルツもライモンダと踊ってしかも
そっと寄り添い別れを惜しむ情感を含ませる見せ場を持たせたのち通常3幕で踊られるヴァリエーションを挿入したり
(グリゴローヴィヂ版3幕でのヴァリエーションは、先月受講した福田一雄さんの講座によれば本来は子供の踊りとして作られた曲らしい)
単なる舞踊の洪水にはとどまらぬ構成となっています。そしてアブさんに焦点を当てて男子の憧れの役として確立させた功績も大きく
先述の通り夢の場の引き際をずっしり怪しい場面とさせてライモンダの怯えをより募らせ
2幕後半では殆ど独壇場。3幕開演前のインタビューでツヴィルコは、生徒時代からタランダが踊るアブデラーマンに憧れていたことや
悪人ではなく愛に生きる人物として捉えていることを饒舌に語る姿から役への愛着が窺え
ひょっとしたら作品中で最たる存在感を示す役柄といっても過言ではないでしょう。
更に2幕では他のバレエ団の追随を許さぬであろうボリショイ自慢のキャラクターダンスがこれでもかと地鳴りの如き力を発揮。
ソ連時代の刷り込みによって改訂版を観た今回唐突に感じた場面もありながら、重厚な歴史舞踊絵巻な
グリゴローヴィヂ版『ライモンダ』待望の映画登場に感激は尽きず。いつの日か現地ボリショイ劇場での鑑賞を再度決意です。

美術は茶色を基調にしつつ写実的で立体感があり、特に回りををカーテンのような波で模した美術は圧巻。
衣装は渋みを効かせ、貴族女性の平たい胸元のカッティングやシンプルであっても
抑えた青や金といった色彩もセンスの良さを感じさせるデザインそして頭飾りも含め
歴史書から飛び出した人々のようです。シモン・ヴィルサラーゼの名前を目にすると
色彩の魔術師の如く派手さはない色味から不思議な光を放つ衣装の数々に、30年以上前から安心感を覚えております管理人でございます。
ボリショイシネマ名物カテリーナ・ノヴィコワさんの複数言語による案内も快調。
客席や準備中の舞台上にて舌が休む間もなく語っていらっしゃいました。
通訳文字起こしもついていけなかったのか、過去にボリショイでライモンダを踊ったダンサー紹介で
グラチョーワやステパネンコだったか、口にしていながら字幕では表示されぬ事態に笑。

ところで両腕を交互に下に向かって振り回すサラセンたちのコーダ冒頭の振付、
1993年のサッカーJリーグ開幕直後からスター選手として活躍し現在も現役選手である
三浦知良さんによるゴール後のパフォーマンスことカズダンスにそっくりであると思った方は5人程度はいらっしゃるであろうと切願。
開幕の頃テレビでヴェルディ川崎(当時)の試合を視聴するたび
舞台を劇場からスタジアムに移してのサラセンダンスに見えて仕方ない、そんな風変わり観戦をしていた管理人でございます。

さて、繰り返しになりますが全幕上演の機会が少ない作品で、もし今春のパリ・オペラ座来日公演にて
来日決定時の発表通りヌレエフ版『ライモンダ』上演であったらならば連日通い詰めていたであろうと想像。
しかし演目が変更となったため見合わせましたが、来年2021年6月には
新国立劇場バレエ団が12年ぶりつまりは干支一回りぶりに全幕再演。
ボリショイとは大分趣異なる繊細で緻密な衣装美術で中世の写本をめくるような色彩美も見どころ、どうぞご来場ください。
少しずつ主役は決まって参りましたが、残りの枠そしてアブさんの発表も心待ちにしております。
初演の2004年に比較すれば格段に男性ダンサーの層が厚くなりましたから
アブさんの見せ場増加の改訂も願います。そしてあのお饅頭の騎士なるジャンの肖像画も描き直しを笑。



新宿TOHOシネマの1階、映画のチケットを見せると特典を受けられます。
管理人はスパークリングワインを無料でいただき、そして焼き牡蠣セット。


※ベスメルトノワとヴァシュチェンコ主演映像はDVD化されており現在も入手可能です。
アップになったときのベスメルトノワのお顔が気合いの入り過ぎた舞台化粧のせいかなかなかの迫力ですが(失礼)色褪せぬ演出です。
そしてツヴィルコ少年も憧れたタランダのアブさんは必見。


さて昨今では当ブログでもしばしば行っている男性ダンサーの髪型観察。
実は私がバレエを観始めて最初に髪型ど突っ込みをしたのが平成突入まもない頃、ジャンを踊るヴァシュチェンコでした。
前髪が盛ったようなボリュームがあり、全体がやや長めの三角形シルエットに
パーマか天然か、映像をまじまじと眺めてしまった記憶は今もございます。
ヴァシュチェンコの映像はその後立て続けにベスメルトノワとの『ジゼル』、
アッラ・ミハリチェンコとの『白鳥の湖』、ボリショイ・バレエ・イン・ロンドンでの
『ショピニアーナ』やリュドミラ・セメニャカとの『ドン・キホーテ』グラン・パ・ド・ドゥなどで観ていながら
ノーブルであるのは分かるのだがさほど印象に残らず(失礼)。
その頃から早30年、昨今における数年に渡っての特定ダンサー猛集中の髪型観察継続は
無尽蔵の魅力が備わりが心から虜になっているからこそとお受け止めください。