2020年5月24日日曜日

【お茶の間観劇】ハンブルク・バレエ団『幻想・白鳥の湖のように』

ハンブルク・バレエ団が配信していたジョン・ノイマイヤー振付『幻想・白鳥の湖のように』を鑑賞いたしました。



DVD化もされており、予告宣伝映像


https://www.hamburgballett.de/en/news/video_on_demand.php

王:イリ・ブベニチェク
影:カーステン・ユング
ナターリャ(王の婚約者):エリザベート・ロスカヴィオ
アレクサンダー(王の友人):アレクサンドル・リアブコ
クレール(その婚約者):シルヴィア・アッツォーニ
オデットを踊るバレリーナ:アンナ・ポリカルポワ
ジークフリート:ヤチェク・ブレス ほか ハンブルク・バレエ

指揮:ヴェッロ・ペーン ハンブルク交響楽団
振付:ジョン・ノイマイヤー
舞台美術・衣裳:ユルゲン・ローゼ


『白鳥の湖』が古典バレエとして骨組みが完成され過ぎているため大胆に置き換えた設定演出版の鑑賞はなかなか気が進まず
オーストラリア・バレエのグレアム・マーフィー版は英国王室を皮肉った演出で来日公演も面白く鑑賞いたしましたが
周囲で絶賛の嵐であったマシュー・ボーン版は1幕の派手な衣装や賑やかさが苦手。ノイマイヤー版の存在は知っていながら
オデットの肩部分にヒラヒラした羽が装着されている程度しか知識がなく、設定を書籍なりで早い段階からきちんと目を通しておくべきでした。
ルートヴィヒ2世の時代に置き換え、しかもノイシュヴァンシュタイン城が深く関わっているとつい最近知り、俄然興味が沸いて大急ぎで鑑賞した次第です。
全編を隈なく把握するには至らず、大雑把な感想ではございますが悪しからず。

まずブベニチェクがルートヴィヒ2世によく似ていて、髪型のせいだけではないと思うが
プロローグでノイシュヴァンシュタイン城の模型らしきものを撫でながら政治そっちのけで
城建設の夢に傾倒しているさまも王が乗り移っているかのような目を見張る入り込み。
1幕のワルツは城の建設中の現場を訪れた設定なのか混沌とした労働現場と化しており
合間にはスポーツに興じる青年も多々いてもう少し踊りの場面を増やして区画整理をして欲しいと感じましたが
市民の熱気と王家の格式が共存するユニークな場面と見受けました。

思わず身を乗り出して見入ったのは湖畔の場面で、王は椅子に腰掛け、『白鳥の湖』上演を鑑賞している設定と思われますが
次第に舞台の世界にすっと入ってジークフリートを差し置いてオデットのパートナーを務め
しかしオデットはジークフリートに戻され再び現実に引き戻されそうになったりと夢と現実の境界を彷徨う表現に
観ているこちらまでもが磁力の如く往復させられた心持ちとなりました。

以下自身の経験ですのでスケール小さき話ではございますが、実は私もよく夢を見る方で幸いなことに悪夢には殆んど縁が無く
見るとすれば現実にはあり得ぬ状況下に置かれた内容。但しどっぷり夢に浸かっているかと言うとそうではなく
脳の半分は夢の出来事を満喫している一方もう半分は現実を見ている状態で、例えば3日前ですと繁華街を歩いている夢でしたが
楽しく歩いてその後はお店で飲酒する内容で幸せ一杯なひとときでありながら、このご時世でマスクしていない
また繁華街を遊び歩いている状況に不信感を抱いていたり目覚まし時計の音はしっかり聞こえている、といった夢と現実が半々の状態になるわけです。
そのためか狭間で揺れ夢うつつな王の状況がごく当たり前の、頻発する出来事に映ってしまったのでした。

ロットバルトの代わりである影のユングの怪しさや、王の憧れの象徴として透き通るように白く
浮世離れしたオデットを踊るバレリーナのポリカルポワの存在感も印象深く、群青色に白鳥が描かれた幕にも1幕が始まる前から釘付け。
ノイマイヤーの代表作でありながら初演から随分と年月が経過した今、ようやく鑑賞できたのは幸運であると思っております。

思いのほかこの作品を集中して観てしまったのは、子供の頃自由研究でノイシュヴァンシュタイン城について調べ、
それ以前にも誕生日にヨーロッパの城や宮殿の写真集を買ってもらいダンスマガジンと同様来る日も来る日も眺めていた経緯もあったため。
当時衝撃であったのは明治維新以降に完成した大変新しいお城で、国力誇示や戦争のためでもなく王の趣味のお城であると知ったときでした。
おとぎ話に登場しそうな外観とは裏腹に王の尋常ではないワーグナーへの傾倒や幼い頃と変わらず狂おしいまでに夢を追い求める心酔ぶりが秘められた城の姿を
いつの日かこの目で確かめたいと思う日々です。



子供の頃から今もしばしば読んでいるヨーロッパの城の写真集。表紙を見てすぐ欲しがったと記憶。



もう1つ、作品を堪能できた理由が一昨年4月に念願のこの場所を訪問したため。現地からこの写真を妹に送ったところバイエルンへ行ったと思ったようでしたが…


実際は兵庫県姫路市の太陽公園に2/3サイズで再現されたお城。山の下にはローソンがございます、しかも青看板に記された地名が白鳥台!
グラッシオバレエスクール発表会『白鳥の湖』鑑賞前日に訪問いたしました。



入口。シンデレラの気分にも少し浸れます。但し王子様はいません、靴を落としても自身で事務室へ行きましょう。これが現実。



城内部入口近くにはバレエにて王が撫でていた模型によく似た形のステンドグラス。プロローグを観てすぐさま思い出しました。



勿論白鳥もいます。



姫路城に比較すると客は誠に少なく、公園目の前の甲子園(今年は中止になってしまいましたが)出場常連校の東洋大姫路高校の野球部グラウンドのほうが遥かに人多し。
お城はほぼ貸切で、城主ルートヴィヒ2世の気分を味わえます。採算が心配ですが。



広間の玉座、お城内部でも写真撮影は自由です。



細かい箇所まで精巧に再現されています。



帰りも人がいません。姫路城(通称白鷺城)よりも、また千葉県浦安市の夢の国のお城よりも格段にゆったり滞在できます。
姫路にお越しの際は和の白鷺城と洋の新白鳥城、どうぞ両方へ足をお運びください。管理人、決して姫路市の回し者ではございません。

4 件のコメント:

  1. さくらもち2020年5月25日 21:06

    ノイマイヤーの白鳥、バレエ団にも勢いがあった頃だし、王様の名演に圧倒されました。
    ノイシュバンシュタイン城は昔人気があって、ジグソーパズルも売り出されるほどでした。
    なにがきっかけだったのでしょう、やはりヴィスコンティの映画だったのでしょうか。
    色々と憧れた若き日々(笑)を思い出す題材で、もう一度たどってみたいお話です。
    そして姫路にはぜひ行ってみようと心に決めましたです、おすすめありがとうございました。



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    1. さくらもちさま

      こんばんは。全編をしっかり把握できず、かなり頓珍漢な感想ながら
      お読みいただきありがとうございました。
      嘗ては来日公演上演を知り、観てみたかったと願いを募らせております。
      迷える王の名演、いや怪演、震え上がってしまうほどでした!

      ノイシュヴァンシュタイン城のジグソーパズル、欲しくなってしまいました笑。
      恐らくはヴィスコンティの映画の影響は多大であったかと想像いたします。
      写真を見るだけでもインパクトは逆三角形の髪型のみならず笑、脆さや危うさを醸している印象でした。
      私もさくらもちさんの若き日々を辿ってみたくなり興味をそそられます笑。
      姫路はおすすめの旅行地です!事態が落ち着き出かけやすい状況になりましたら是非。
      蒸し牡蠣に播磨の日本酒、姫路おでん、アーモンドトースト、ああ思い出します(飲食ばかりですみません)
      姫路城(白鷺城)と2/3サイズに再現の新白鳥城、白き鳥を想起させる和と洋のお城両方へお出かけくださいませ。
      あっ、白鷺城内部見学時は黒い板張りの部屋に足を踏み入れますと
      我らが着物の貴公子(髷姿版)を即座に妄想してしまいました笑。

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  2. ノイマイヤーのこの作、品、日本でも上演されたことがあるのですね。
    とても面白そうですね、ああ、知っていれば是非観たかったと思いました。
    彼の作品はどれも、一癖も二癖もあり興味深いですね。
    管理人さまのご感想も、洞察力が鋭くとても面白く興味深く拝読いたしました。

    40年ほど前、オペラ初心者だった頃、熱烈なワーグナーファン達と同じツアーで、
    ノイシュバンシュタイン城を訪れましたが、日本人のガイドもまだいなかった頃ですが、
    そのワグネリアンさんたちの案内や解説で十分に愉しめたものです。
    彼らは、『ローエングリン』のことをそうは言わずに“白鳥”と仰るのですよ。
    「貴女も白鳥をご覧になるの?」と聞かれた時には、恥ずかしながらすぐには答えられませんでした(笑)。

    >姫路市の太陽公園に2/3サイズで再現されたお城

    未だ姫路城も観たことのない私ですが、訪問時には必ずこの両方を見学したいと思います。
    ご紹介ありがとうございました。

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    1. ひふみ様

      こんばんは。大変お待たせしてすみません。お読みいただきありがとうございました。
      面白かったが何がどう良かったのか上手く抽出できず、いつも以上に大雑把な感想ながら
      じっくり目を通していただき恐縮でございます。
      私もつい最近耳にしまして、90年代中頃に日本にて上演されたようですね。
      城で繰り広げられる王の苦悩に満ちた世界に私も生でどっぷり浸かってみたかったです。

      ノイマイヤー作品を初めて劇場で観たのは2018年でまだ日が浅く、
      1989年の来日公演で上演され、批評を読んで興味を持った『アーサー王伝説』もいつか観てみたい作品の1本です。

      ワグネリアンの皆様、それはそれは濃い会話を交わしていそうで
      百科事典のような情報通でしょうね。
      えっ、せっかくの題名がありながら「白鳥」と呼んでしまうとは、随分こざっぱりとした気もいたしますが
      それだけ大きな要素なのですね。
      白鳥を観るのかと聞かれたら、チャイコフスキーのほうを思い浮かべてしまいそうですが笑。

      はい、姫路へお越しの際には姫路城と太陽公園内の白鳥城両方を是非ご堪能ください!
      太陽公園は姫路駅からバスが出ているためご安心を。

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