2024年7月2日火曜日

涼しげなダブル・ビル  NBAバレエ団『セレナーデ』『真夏の夜の夢』6月30日





順番前後いたしますがこちらから。6月30日(日)、NBAバレエ団  ジョージ・バランシン振付『セレナーデ』、
クリストファー・ウィールドン振付『真夏の夜の夢』を観て参りました。
https://nbaballet.org/official/amidsummernightsdream/


『セレナーデ』
ロシアンウーマン:勅使河原綾乃
ダークエンジェル:米津美千花
ワルツウーマン:山田佳歩
ワルツマン:宮内浩之
エレジーマン:刑部星矢


これまでバランシン作品は『アポロ』や『スターズ・アンド・ストライプス』全編等何本か挑戦していますが『セレナーデ』はNBAとしては初演。
新国立やKバレエ、東京バレエ団、スタダン、牧バレエ等国内の主要なバレエ団が
レパートリー入りしていながら同じ振付でもカンパニーごとに色味が異なってくるのが興味深いと観る度に感じます。
NBAは溌剌としたスポーティーなパワーが光り、後半のエレジーは踊りは盤石ながらもう少し香り立つものがあれば
余韻が残ってより美しさに浸れた気がいたします。序盤やワルツ部分のほうが持ち味を生かしていたと思う印象です。
ただ踊りは非常によく訓練されていて、全体を観ていても気持ち良い、揃ってシャキシャキと刻まれていくテクニックが広がっていましたから
是非再演を重ねて全編の完成度を高めて欲しいと願います。連日続く高湿度な気候の最中、優しく神秘的な明かりがふわりと照らされた幕開けといい、
淡い水色のチュチュが靡いていく光景といい涼やかな気分になったのは間違いなく、NBAで観たい作品が増えました。



『真夏の夜の夢』

ティターニア:渡辺栞菜
オベロン:刑部星矢
パック:新井悠汰
ハーミア:市原晴菜
ライサンダー:伊藤龍平
ヘレナ:別府佑紀
デミトリウス:三船元維
ボトム(ロバ):古道貴大
ピースブロッサム:勅使河原綾乃
デミフェアリーズ:大島沙彩  向山未悠


スケルツォのリハーサル。妖精の真ん中にいらっしゃるピースブロッサム役の勅使河原さんにご注目を。



5年ぶりの鑑賞。しかし2幕仕立てであった点を含め記憶が彼方状態になっている部分も多々あり
また訳あって昨年の春の大型連休中に7回も観たアシュトン版が刷り込まれているせいか新鮮な心持ちで鑑賞に臨みました。
幕が開くと森の風景ではなくアテネの首領シーシアスの宮殿。結婚を巡ってのいざこざが生じる中、
やがてハーミアとライサンダーが駆け落ちを決意して舞台は森へと移る始まり方でした。

子役による小さな妖精も大勢登場したりとほのぼのとする場面もある一方で妖精や群舞の振付はなかなかの鬼演出で、
中でもスケルツォにおけるピースブロッサムの勅使河原さんが大職人な仕事ぶりに天晴れ。
観ながら思い出しましたがウィールドン版はオベロンやティターニアよりもパックを始め準主役陣やコール・ドに寧ろ出番多く高難度振付を与えていて
殊に目覚ましい存在感を放つのが勅使河原さんによる妖精番長なピースブロッサムでございます。
突風の如く駆け抜け、しかも素早い且つ移動距離も長い脚捌きが冴え渡っていてジャンプも高く、ポジションの切り替えもくっきりと巧み。
妖精を率いながら踊っていても頭一つ抜けた職人芸で、決して手脚が長い背が高いタイプのダンサーではないながら舞台姿が実に大きく見えた印象です。

またデミ・フェアリーズやフェアリーズもシャカシャカとスピーディー爽快に飛び交い、脚先をしっかり見せつつ強弱もつけて舞っていて締まりがあり
オベロンのお付きのようなメンフェアリーズも加わると力強さも増して、パックの新井さんの愛嬌と繰り出される音楽の隅々まで使っての強靱なテクニックもお手の物。
別府さんヘレナの顔と身体ともに表情豊かでいますがどういう心理状況であるか明快に示して場面を盛り上げてくださっていた姿も脳裏に刻まれております。
ほっこりぬいぐるみなロバを被った古道さんボトムは首を傾げたり頷いたりするだけでも可愛らしく、魔法薬がなくてもティターニアは恋とは違っても夢中になったと想像。

婚礼衣装に着替えたハーミアとライサンダー、ヘレナとデミトリウスを筆頭に結婚式に臨むカップル達のお祝いも披露され
オベロンの刑部さん、ティターニアの渡辺さんによるパ・ド・ドゥもしっとりと端正で
思えば1幕のとりかえ子(養子)の奪い合い喧嘩もアシュトン版ほどは激しくなく子には一段と優しい演出で、おっかない責任転嫁もなく笑
ウィールドン版は急速展開な高難度振付とほんわかとした空気感の双方が備わっていると捉えております。
最後は再び妖精達が集まっての幕切れも幸福がぐっと増して、金吹雪もあり。再び戻った平和な森の風景を明示しながらの良き演出と思えました。

バランシンとウィールドンの振付を同日にダブルビルとして観る楽しさ、そして両作品とも肩肘張らずに鑑賞でき
衣装の素材も爽やか涼しげで音楽も胸がキュッと高鳴るような旋律も散りばめられ、清々しい気分で会場をあとにいたしました。








終演後見送りサービス。セレナーデもピースブロッサムもシングルキャストの勅使河原さん、古道さん、新井さん、前日のティターニア山田さん。
ボトムロバの古道さんが、勅使河原さんに面白く絡んでいました笑。



約1年半ぶりの東武東上線。列車発着音楽がモーツァルト?



会場最寄り駅の大山駅近くでつけ麺、ラーメン店のさい。へ。 店名に丸がつきます。さいは動物のさい。レジ横にさいコレクションがありました。



キンキンに冷えたジョッキでビール!お通しのメンマが葱と馴染んでいて美味しい。メニューにもさいのシルエット。



スタンダードなラーメンを。つけ麺がメインのお店のためかスープは濃いめでしたが後味良く、飲み干してしまった。
丼の花模様がパックが手にしているお花に似ています。



板橋区立文化会館。大ホールへは2017年8月以来の訪問。そのときは発表会鑑賞であったため2階3階へは上らず気づかなかったが、壁やロングシャンデリアが立派な作り。



雨のように伸びて光が降り注いでいます。



ぼんぼりのようにも見える形です。



今回の板橋ふしぎ発見。謎の秘密基地なテーブルと椅子達。



半個室です。用途は不明。秘密会議でも行うのでしょうか。



椅子によっては死角で外から見えず。



なかなか古き風情ある作り。



秘密基地を出ると真ん中には円卓。幕間の会議用でしょうか。会議は踊る!



ハッピーロード大山を抜ける。



大山駅。また8月のお盆の時期に参ります!NBA鑑賞のこの日に概要が発表され、同じ会場ですからタイミングといい喜びもひとしおでございました。

2024年6月30日日曜日

日本の文化や自然を愛おしむ忍者達 新国立劇場   森山開次  新版・NINJA





順番前後いたしますが6月28日(金)、新国立劇場にて森山開次さんによる新版・NINJAを観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/dance/ninja/





【演出・振付・アート・ディレクション】森山開次
【音楽】川瀬浩介
【照明】櫛田晃代
【映像】ムーチョ村松、Thomas PAYETTE
【衣裳】武田久美子
【音響】黒野 尚

【出演】
森山開次
青木 泉
浅沼 圭
佐藤洋介
根岸澄宜
府川萌南(新国立劇場バレエ研修所)
美木マサオ
水島晃太郎
南 帆乃佳
吉﨑裕哉


現在上演中ですので、さらりと参りますが、初鑑賞で予備知識なく予習もせずぶっつけ本番で鑑賞に臨んだものの
日本の文化や自然を愛おしむ忍者達のユーモアでお洒落な踊りの連続で、和の趣もばっちり。
床照明のプロジェクションマッピングの繊細緻密な美しさや吊るされたカラフルな手裏剣の組み合わせも目に響き
想像以上にわくわくと面白く、満喫いたしました。忍者の1人が差し金に付けた虫だったか、客席に伸ばすとお子さんの観客も大喜び。
またこっそりひっそりの台詞を始め日本語のリズムや語呂合わせや自在に別の生き物に変身する忍者達の姿、手裏剣を模したクッション?投げにも
お子さん達の遠慮のない笑いも度々起こり、<大人も子どもも楽しめるダンス作品>のコンセプトにも納得です。
忍者と言っても黒装束一色ではなく皆色違いで、時代劇の黒装束一色な立ち回りではなく、目にも楽しい色合わせ。
そして前回バレエ研修所の中川奈奈さんが務めて話題となった役を今回は府川萌南さんが踊られ、
濃い朱色や金色を重ねた和装なチュチュも似合って空間支配力もあり、スパっと伸ばした脚で次々と語らっていく様子に吸い寄せられました。
そして森山さんの小道具使いにもたまげ、新体操のリボンな道具を炎に見立てながら回転を続けてめらめらと燃え上がる光景の描き出しも驚かされたひと幕です。

お茶目な雰囲気から一変、後半はシリアスな場面が続くも、肉体をぐっと駆使しては造形していくポーズの数々や
ちょうどこの日の昼頃までの天気を想起させる土砂降りといった自然の厳しさの描き方も見入ってしまう演出でした。

忍者の格好をしつつも第一線で活躍する布陣が集結していて、ダンスも演出振付全てが隙なく高水準。
加えて森山さんの日本の情緒を丁寧に汲み取りユーモアや侘び寂びも含ませて美しく描く演出力に触れると
そうです。『竜宮』再演を熱望いたします。勿論今夏の貝川鐵夫さん新作である夏の子どもバレエ『人魚姫』も楽しみですが
太郎が辿り着いた竜宮城での涼やかで賑やかな海の神秘の世界観や四季を丹念に舞踊化した作品、
2020年、2021年と子供達も劇場に訪れにくい時期の上演でしたのでどうか来年夏こそは再演を。幅広い世代の方々にご覧いただきたい作品です。




第一線で活躍する方々が集結。



開演前に初めてオペラシティのそじ坊へ。日本の家屋な作りの中でいただけます。そば焼酎、つややかな喉越しでした。

2024年6月21日金曜日

フランス・ダンスの歴史V「ダンスとドラマ」 第5回 : 『椿姫』(ジョン・ノイマイヤー振付)





6月19日(水)飯田橋の東京日仏学院にてアートのアトリエ : フランス・ダンスの歴史V「ダンスとドラマ」 第5回 : 『椿姫』(ジョン・ノイマイヤー振付)受講して参りました。
昨年頃に講座を知ったものの気づけば終了或いは申し込み期限を過ぎてしまったりと機会を逃し、今回ようやく受講できました。 講師は岡見さえさん。ご自身の経歴そして開講場所もその名の通りフランス地域に特化したテーマで講座を開いてくださっていいます。
https://culture.institutfrancais.jp/event/cours-culturel-printemps2024-5

今回は『椿姫』原作の成り立ちや振付の見どころ、青・白・黒それぞれのパ・ド・ドゥの醍醐味等をパリ・オペラ座2008年映像を見ながら分かりやすい説明で進行。
悲劇であっても狡賢いキャラクターの瞬間駄目行為(マルグリットが落としたさりげなくネックレスをお持ち帰り)といった思わずクスリと笑ってしまうポイントも把握でき、
6年前にはハンブルク来日で、その前にはボリショイシネマで鑑賞していたが気づいていなかった点が
多々あったと反省。今年のシュツットガルト来日の参考にしたいと思っております。
初受講でしたが終了後は質問内容を共有したりと和気藹々としていて岡見さんも気さくなお人柄。
堅固な建築にて夕暮れから夜へと変化していく中庭の景色も素敵な空間です。
寂しい気持ちには全くならぬどころか参加できて大変嬉しい楽しい講座でした。

岡見さんとはこのたび初対面。プロフィールに書かれていた日本で教鞭をとられている大学名や
トゥールーズ・ミライユ(現ジャン・ジョレス)大学で学ばれたご経歴、加えて親しみを持たずにいられぬありきたりでないお名前から
是非受講したいと思い5回シリーズ最終回にしてようやく受講に至りました。私が学生時代にお世話になった先生のこともよくご存知な上に
南仏のバレエ団のご出身で現在初台で華々しい活躍真っ盛りな舞踊家のお話云々学びと楽しい時間が凝縮。ありがとうございました!
頭を中東中国から総入れ替えしてフランスの世界に身を置いた水曜日の夜でした。また受講が待ち遠しい講座です。




中庭。レストランやテラス席もあります。テイクアウトできる商品もるようで、入口近くではグッズやお土産も販売。マスタードが目に留まりました。



飯田橋駅前。線路は続くよどこまでも。



上は野獣の研ぎ澄まされた飛翔写真、下は強面スルタンのダイナミックで彫刻のように整ったリフト。こういった野性的な色気ある役柄ももっと拝見できますように。
ケースを開けても解説所やディスクに渡邊さん。2017年1月に立て続けに購入したトゥールーズのキャピトル・バレエ団の大切なDVDです。
※美女と野獣、新国立劇場のシアターショップで取り扱っているようです!

2024年6月17日月曜日

【速報でもないが】【おすすめ】新国立劇場バレエ団  デヴィッド・ビントレー振付『アラジン』前半日程2024





新国立劇場バレエ団デヴィッド・ビントレー振付『アラジン』前半日程を4回観て参りました。
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/aladdin/


告知映像。2019年公演より。奥村さんアラジン、米沢さんプリンセス、渡邊さんジーン。



初日の様子。カーテンコールにビントレーさんも登場!



ジーン達のリハーサル。三者三様です。



バレエチャンネルさんによる動画




バレエチャンネルさんによる福田圭吾さんロングインタビュー。これまでのキャリアから18年同じバレエ団にて活動できた理由や今後の夢等ボリュームたっぷりな内容です。



まだ後半日程がありますのでここではさらっと程度の感想にとどめ、詳細は全日程終えてから載せて参る予定でおります。
初日は福岡雄大さん小野絢子さん組。福岡さんアラジンは憎めないやんちゃ坊主で
ここぞという見せ場での作り方、アクセントの付け方も巧みに見せ、年々若返るお化けな身体能力にまたもや脱帽です。
小野絢子さんは芳しく知的なプリンセスで音楽と繊細に戯れる優美さとマグリブ人誘惑でのダークなお色気戦術もうう鳥肌もの。
トリッキーで角度の付け方やバランスも非常に難しいパ・ド・ドゥを何とも音楽を共に奏でるように紡ぐ鉄壁超越なパートナーシップはこの2人ならではでしょう。
アラジン初挑戦の速水渉悟さんは笑い上戸な能天気アラジンで、ママ大好きな甘えん坊少年。駆け回る姿を始め、とても似合っています。
益田裕子さん母と楽しい親子ぶりで、益田さん母が現れると途端に目がキラリとして「ママー」との吹き出しが見えたほど笑。
柴山紗帆さんは淑やかゆかしいプリンセスでアラジンにそっと心を開いて行く様子がいじらしい。マグリブ人誘惑は笑み迄湛え大胆に変化していました。
バヤデールのときは冷や冷やが尽きなかったパ・ド・ドゥも破綻なく、ひとまず無事終了。

奥村康祐さんアラジンは可愛さが倍増で悪戯するときのはしゃぎっぷりも子供らしい無邪気さ。
宝石場面の仕草が細かく、エメラルドの手のポーズの真似やダイヤモンドお付き達が次々と登場し
目の前を通過していく光景に興奮して数えたり、両腕を大きく掲げたりと反応が多彩でした。
米沢唯さんはしっとり上品で輿に乗る直前にアラジンを再度見つめて笑みを送っていた表情が実に愛らしいプリンセス。
奥村アラジンとは優しさがほわっと広がるパ・ド・ドゥを披露され、心安らぐ気分で幸せに。
しかし3幕前に米沢さんが体調不良のため3幕は降板。約30分遅れて開演して3幕は福岡さん小野さん組が代役を務めました。
眠りやドンキとは全然違った独創的なパ・ド・ドゥが3幕にもあり、ペアごと交代でないと対応不可能であったのでしょう。
緊急事態でしたが福岡さんと小野さんは全く動じず、幕が開くと1幕2幕で踊っていたかのように
新婚生活を謳歌しチェスで遊ぶアラジンとプリンセスとして登場され、大きくあたたかな拍手が沸き起こりました。
2年前の『シンデレラ』最終日に奥村さんが2幕で怪我をされ、3幕からは井澤さんが代役を務められたときも登場時には大きな拍手で迎えられたことも思い出します。
カーテンコールでは緞帳前に奥村さんも登場され、大喝采。そして奥村さんが福岡さん小野さんを呼び込んで3人で手を繋いでの特別挨拶が心に沁み入りました。
突如の事態に最も苦しい思いをなさっていたのは米沢さんご自身でしょう。どうか回復を願っております。
勿論無理はして欲しくありませんが、次の土曜日公演は出演できますように。

今回の公演をもって退団される福田圭吾さんアラジンは(ラスト公演は6月22日土曜日夜公演)市場の後方から現れる一見見えづらい登場シーンであっても
屋台を覗く仕草や友人への挨拶、隙を突いて泥棒行為に走る部分始め行動全てがはっきりと見え、友人達と輪になっての水平跳びも形がぴったり。
池田理沙子さんはちょこっとクールで近づき難いお姫様が少しずつ心を開いて行く様子が愛らしい。
2幕パ・ド・ドゥはアラジンとプリンセスこれまで全く異なる人生を歩んできた過程をゆっくり振り返りつつ
気持ちの昂りが一気に突き上げていく流れを大らかに表現され、いよいよ福田さんのラスト公演が迫っていると思うと22日夜は冷静に観ていられるか心配な管理人でございます。

ランプの精ジーンも三者三様で渡邊さんは力み無く何処へでもふわりと舞う妖精らしい浮遊感に、主人に仕える忠臣ぶりに加えて上に立つ支配者らしい威厳も強まり
大看板であり誰も太刀打ちできそうにない福岡さん小野さんペアをがっちり支えて導く風格や存在感も見どころ。
初役木下嘉人さんは俊敏に跳ね回って舞台引き締め、井澤さんは大魔神な圧のある重厚感と以前よりキレキレ感も増した印象。3人見事なまでに全く異なるジーンです。

アラジンが辿り着いた洞窟の宝石達の場面は目にも眩く独特な質感の衣装もじっくり観察。
直塚美穂さん渡邊峻郁さんが振り幅拡張型セクシー変わり種路線燃ゆる灼熱ルビーで
直塚さんの身体能力や技巧の上手さが存分に発揮されている上に、盤石に受け止め更に背中のうねりや雄弁な腕運びによる
ダイナミックなサポートで規格外なポーズを構築していく渡邊さんも見事というほかありません。
一方奥田花純さんと渡邊拓朗さん組のルビーは真っ直ぐ力強く美しく、整理整頓され敷き詰められたような宝石。
男性のお顔はそっくりながら笑、昼夜での見比べが非常に面白く思えた先日の土曜日です。
男性のおでこの装飾模様は彎曲系と直線系と2種あるのか、それぞれ違っていました。
全身が磨き抜かれた精巧な輝きを纏うダイヤモンドそのものな奥田花純さんはまさに宝石職人で、構造が複雑なステップもくっきり正確。
エメラルド小川尚宏さんの上半身が蛇化したように語る柔軟性もびっくり。初役者の鮮烈な発見の連続です。
思えば2022年には吉田都セレクションで演目変更生じてこの財宝の洞窟場面を抜粋上演するはずが中止に。
2012年の記念すべき第一回NHKバレエの饗宴ではトップバッターとしてこの場面が上演された日が懐かしい。

またカール・デイヴィスの音楽が時に東洋の趣を帯びた美しい旋律に彩られて聴き惚れ、
遥か彼方へと導かれていきそうな壮大な序曲から管理人は毎回胸が一杯になっております。
一部勝手に空耳アワーいたしますが、プリンセスのテーマ曲でアラジンが1幕最後にまた会いに行くぞと決心するところを始め随所で演奏される旋律が
1990年7月25日に発売されたKANさんの『愛は勝つ』の必ず最後に愛は勝つ〜に似ている気がいたします。
もう一つ、1幕ルビーの最初部分が、合唱コンクールで馴染み深い『時の旅人』冒頭のめぐるめぐる風〜の箇所と重なって聴こえます。

気のせいとの指摘は見えておりますためそれはさておき今後の再演時に劇場側にお願いしたい要望もあり、アラジン親子の格好や
所々中国の文化が取り入れられている理由についてはプログラムに明記願いたい。
幕が開くと街はアラビアな風景ながらアラジンと母親は中華帽に中華服な格好で登場し、結婚のお祝い事では獅子舞、3幕フィナーレでは龍の舞が披露され
当たり前ですがホワイエの会話でもあちこちから聞こえてきました、何で中国やねん。
決してビントレーさんが適当にアジアンミックスしたわけではなく、初演のプログラムによれば〈アラビアンナイトの原作では、
アラジンは「中国の町」に暮らす中国人の少年なのである〉
〈ディズニー映画『アラジン』が公開されるまで、イギリスの子どもたちは中国風の格好をしたアラジンに親しんできた〉と紹介されています。
そして他のビントレーさんのインタビューにて、日本ではアラジンといえばアラビアンナイトだから、
アラジン親子はアラビアの街に移住した華僑に設定したと明かしていらしたかと記憶しております。
様々な地域の文化が混在した演出にはなっているものの、露骨で恐ろしく問題ありな描写は概ね見当たらず
同じくビントレーさんの振付全幕作品で2011年に新国立で上演した『パゴダの王子』の4地域の王様達の描写
(21世紀に制作した作品としては問題視を避けられない衣装や設定と思います汗)とは違って許容範囲かとは思っております。

『アラジン』に話を戻します。大掛かりな仕掛けや美術装置、やんちゃな少年アラジンが誰かの助けを借りつつも困難を乗り越えプリンセスと結ばれるまでを
楽しくユーモアに富んだ展開で進行していきます。新国立劇場バレエ団のために振り付けられた世界初演は2008年。
直前にリーマンショックが襲い、当時の総理大臣が突然辞任したりと明るくはない報道が立て続けに発生していた頃で
当時の牧阿佐美芸術監督も世相を憂慮する挨拶文を初演のプログラムに寄せていらっしゃいました。
演出に突っ込みどころが全くないわけではありませんが、開放感のあるハッピーエンドな大団円で爽快な気分で劇場をあとにできる作品です。
どうぞ劇場に足をお運びください。

6月22日(土)夜公演は18年間在籍されていた大功労者の福田圭吾さんのラスト公演。
5年前に主役デビューなさった作品でのさよなら公演、寂しいですしまだまだ在籍して欲しい気持ちは拭えませんが、しっかり見届けます。
福田アラジンにお仕えするのは渡邊ジーン。私にとっても、間違いなく特別な舞台になりそうです。



※一部写真を載せて参ります。続きはまた後日、東京公演総括編にて。


初日の儀



空もジーンもブルー



アラジンのポケットサンド。挟まっているのは宝石ではなくヒレカツです。羽田空港にも限定模様のサンド、ありました!



美しい青。チャイナブルーカクテルで乾杯!



いざ劇場へ。ジーンの指先そして強い視線がオペラパレス入口に向いています!

2024年6月13日木曜日

救われるソロル K-BALLET TOKYO  『ラ・バヤデール』6月1日(土)





6月1日(土)、K BALLET TOKYO『ラ・バヤデール』を観て参りました。Kバレエのバヤデールは初演以来10年ぶりの鑑賞。(浅川さん遅沢さん井上さん組でした)
熊川さんの出演が途中から決まったり、TBSのはなまるマーケットでも宣伝がなされたりと当時が懐かしく思い起こされます。
https://www.k-ballet.co.jp/performance/2024Bayadere.html



ニキヤ:日髙世菜
ソロル:杉野慧
ガムザッティ:長尾美音
ハイ・ブラーミン:大僧正:ビャンバ・バットボルド
ラジャ:ニコライ・ヴイユウジャーニン
ブロンズ・アイドル:石橋奨也
マグダヴェヤ:栗原柊
ソロルの友人:グレゴワール・ランシエ



日髙さんは弧を描くように艶かしく踊る姿がこの世の人間に思えぬ舞姫で、極力表情は抑えながら静かで雄弁な身体の語りかけが響きました。
とりわけしなるように伸びる脚や腕のラインを過剰に使わず音楽をそっと細やかにに奏でるような踊り方も好印象。
実は失礼な話かもしれませんが日髙さんが一昨年1月に踊られたクラリモンドのイメージからもっとお色気芳醇で勝気なニキヤを想像しておりましたが
大僧正に対してもソロルとの逢瀬も、一歩引いての慎ましさを感じさせて意外や意外でしっとり優美なニキヤでした。
奉納は真っ赤なハーレムパンツや豪奢な頭飾りとは相反する悲しみを湛えた身体から繰り出す舞いがじんわりと胸に触れ
舞姫としての務めと愛するソロルを失いつつある複雑な胸中をそのまま歌い上げるような苦しさが手に取るように伝わりました。
3幕は狂いのない技術で誤魔化しの効かない白いクラシックな世界をきっちりと、加えてしなやかな美しさを示し出しながら踊るお姿が目に焼き付いております。
ベールでの回転も滑らかで、最後はソロルを許し受け入れる心を開いて両手をソロルに向かって坂の上から掲げる様子も光と共に慈悲深さが広がって、
悲劇ではあってもハッピーエンドにも見て取れる幕切れでした。

杉野さんは一見向かうところ敵なしに見える野性味のあるソロルながら(Kソロルは基本髭付きらしい。そういえば遅沢さんも付けていた記憶)
ニキヤにもガムザッティにも実に紳士的で優しく、マグダヴェヤとのやり取りも段取り通りにならず瞬発的で会話が聞こえてきそうな間の取り方等も上手いと思わせました。
またあとにも述べますが熊川さん版はジャンペの前半終了後にガムザッティが登場するためソロルとのお見合い時間が他の版より短く
効率性が求められるのですが笑、
ガムザッティの手を取って手早く話し続けていて、古代インドにおける業務のスリム化先駆けだったのかもしれません。
ファーストキャストなだけあって期待が大き過ぎたのか、ソロの部分は精彩を欠いていた印象が否めず
ヴァリエーションの終盤も脚が開き切っていなかったりと少々心配になってしまったものの
場面と場面の繋ぎ目が途切れない見せ方をよく心得た立ち振る舞いや物語の牽引力やサポートは見事でございました。
結婚式での象に乗っての登場も贅を尽くした式典らしい堂々たる腰掛け姿で、熊川さんがやりたがっただけなのか笑
演出意図は分からぬものの、ラジャ一族の財力の誇示効果や見映えは間違いない。

場をぐっと締めてくださっていたのがバットボルドさんの大僧正。寺院建立からの歴史を全て背負っていそうな重厚感で、
怪しく重々しいテーマ曲をそのままキャラクター化したお坊さんそのものでした。
仕草が1つ1つずっしりとねっとりと険しく、しかしニキヤにそっぽを向かれると
しょんぼりする様子がいたく悲しそうで、心の中では既に壁の崩壊が始動していたに違いありません。
寺院の頭として常時気を張っていた最中に現れたニキヤが愛おしくてたまらない胸の内が伝わりました。

そして直前の変更により抜擢された長尾さん。ファーストキャストの浅川さんの代役ですから重圧緊張はいかほどであったか想像に難くありません。
恐らくは浅川さんガムザ、また日髙さんニキヤと浅川さんガムザの対決が目当てでこの組を選ばれた方は多いでしょうし私もその1人。
前回10年前にニキヤで鑑賞した浅川さんのガムザッティも観たい欲が募り、日髙さんとの大人な対決も楽しみにしておりました。
ですから公演数日前に浅川さんの怪我による降板を知ったときはか肩を落としていたものの
結果、長尾さんの魅力に唸る夜となりました。大ぶりな装飾てんこ盛りな頭飾りや衣装負けしない立ち姿にまず驚かされ
ソロルの肖像画を見せられたときの純粋な喜び、そしてソロルと対面し、興味津々に顔を見つめる愛らしさも魅力的で
ニキヤとの対決も日髙さんに全く引けを取らず、マイムも迫力十二分。お顔立ちがエキゾチックな風貌であるのも衣装のしっくり感を後押ししていて
素直にすくすく育ったお嬢様ぶりと、突如振り乱される事態に困惑する弱さの双方バランス良く備わっていた印象です。
加えて美しいテクニックの持ち主で、宴コーダでのフェッテの強靭な回転軸や音楽にぴたりと合う力みのない回り方にも目を奪われました。

影の王国は影が24人。ソリストトリオは成田さん、小林さん、岩井さん。(豪華な面々だが過労にならぬか心配も尽きず)
影の坂下りは1段坂で、直前に観た新国立劇場での幻想的な雰囲気に包まれた3段坂の32人を観慣れてしまっていたためスケールが小さめに思えるかと不安視するもとんだ失礼で
星々が煌めく宇宙を思わす背景にパールの縁取りでふわりと丸みがあるチュチュを纏った影達の連なりがキラキラと綺麗なこと。
新国立やボリショイ、谷バレエの幽玄美や東京バレエ団の緊迫感貫く路線とはまた違った、
どんよりとしたソロルの心を照射するように現れた光り輝く美しい世界として説得力がありました。

男性の見せ場をたっぷり散りばめられた点もKバレエらしいと思え、1幕冒頭、ソロル登場前の戦士達のスキップ行進は
ボリショイでも似た振付があるはずがお茶目にも映って今回は思わず笑みが止まらず。
ジャンベの前に戦士達が勢揃いする箇所におけるチェス台を用いて屈伸して全身を上下に動かして行く健康体操な振付も
躍動感があってユーモアもあり、周囲からも笑い声が聞こえたほど。マグダヴェヤと苦行僧達の踊りも嵐のように疾走感が鋭く、
栗原さんマグダヴェヤに飛び弾ける身体能力に仰天すると同時に、見かけは迫力あれど苦行僧達が無理な身体の使い方をしていないか些かの心配も。
ソロルの水タバコを支える場も設けられて集まっては慰めの儀式を執り行う等、ソロルの支援隊として大活躍です。

1幕後半、舞姫代表なのか、ニキヤがガムザッティの結婚の貢ぎ物を運ぶ担当として慎ましく登場し、いったん去った後に
ガムザッティがニキヤ呼ぶようアイヤに命じるとすぐにニキヤがやってくる時間軸も違和感ない演出。
他の団の場合、ニキヤはいつから待機していたか、或いはガムザッティ医師の診察を待合室で待っている患者ニキヤなる設定と錯覚してしまうときもございました。
またガムザッティの登場がベールを外すところではなく顔を覗かせて登場し、ソロルの肖像画を眺めてからベール被って再度登場する演出は
観客としてはソロルと共に美貌に驚きたい気持ちになる一方、父親が用意してくれたソロル肖像画を見て一気に恋心が色めき立ち
ベール被って準備万端にしてソロルの前に婚約者として嬉々として現るガムザッティ側の視点で描かれている演出のどちらもそれぞれに良さがあると考察。
お互いに一目惚れしてテーブルでのお見合いも手を取り合って睦まじく、途中までは理想的な政略結婚だったでしょうに
まさかニキヤに掻き乱される末路になるとはガムザッティは知る由も無く、狂い始めた歯車は悲劇まっしぐら。運命の悪戯としか思えません。

さて熊川さんも嘗て世に名を知らしめた名演の1役でしょう、ブロンズアイドルは終盤に披露。
(1992年の英国ロイヤル来日公演で私も観ております。ニキヤがダーシー・バッセル、ソロルはゾルタン・ソリモジ、ガムザッティはフィオナ・チャドウィック)
そうはいっても2幕の冒頭に鎮座して後方に現れ、光が当てられて動き出したりと摩訶不思議な存在感をソロを踊る随分前から示していて
(後方席であったため見間違いあるかもしれぬが)
寺院崩壊後にやっとこさ登場。何もかもが壊れて無の境地になったところへビュンっと跳ね上がりながら踊り出していました。最後の救世主な役目なのかもしれません。

衣装はニキヤとガムザッティはゴージャスで、パ・ダクシオンは可愛らしいパステルカラーの水色とピンクでどれもじっと観察。戦士達やジャンペは原色なデザイン。
太鼓の踊りも含まれていて、果たしてインドに伝わる舞踊文化かはさておき盛り上がって楽しめる演出です。
ソロルの水タバコが巨大で、チューバを吹く吹奏楽ソロルに見えたのはご愛嬌ですが10年ぶりに観たKバレエのバヤデール、目一杯堪能いたしました。




来場者へのプレゼント。解毒剤ではありません。



マーメイドの宣伝。雑誌クララ最新号にて小林美奈さんがインタビューにて、グラズノフの聴き馴染みのある音楽も使用されていると仰っていて選曲堪能も楽しみです。



衣装イラスト。夏の初台の人魚姫との見比べもわくわくいたします。



帰りは行きつけになりつつある渋谷のインドカレーを中心としたアジアンダイニングの店へ。1人でも入店しやすい。



ルビーのような赤みがかった石も!



ビールと象さん。Kバレエバヤデールのソロル用の巨大象はよく作ったもんだ。ヌレエフ版にも同様の立派な象に乗ってソロルが出てきます。



デリーの南西に位置するジャイプル地方に伝わるジャイプルスパイシーチキンカレー。
約20種類のスパイスを贅沢に使用したとのことで、複雑に締まりながら絡み合っていて摩訶不思議な美味しさでした。
サラダがハートの器で、マンゴーや海老も入っています。カレーの金色の器やお盆がラジャー感を増幅です。



後日、飯島望未さん組を鑑賞した我が後輩とKバレエバヤデールを語る会。牧版、マカロワ版、熊川版、それぞれに光る演出があると意見一致。
私が注文したのは健康プレート?なセットで、一見量が少なめに見えかけたものの食べ始めると色々ギュッと詰まっているのかお腹も大満足。
セットのアイスチャイ、濃いめな茶量で最後まで味わい深くいただきました。

2024年6月9日日曜日

セントルイスブルース!  堀内元  BALLET FUTURE 2024





堀内元さんプロデュースBALLET FUTURE 2024を観て参りました。この企画の鑑賞は初。
今回は初めてセントルイスバレエのダンサーも日本に招いての上演が叶ったとのことです。
https://www.balletfuture.com/




Valse fantaisie  
振付:ジョージ・バランシン
作曲:ミハイル・グリンカ 幻想的ワルツ

竹内菜那子さん(谷桃子バレエ団)と上村崇人さんが主軸を務め、セントルイスバレエのダンサー3人と寺澤梨花さんによる構成で披露されました。
歯切れ良くも哀愁漂うワルツの旋律にのせて絶え間なく展開されていき、殊に竹内さんの身体能力、ボリュームあるテクニックに脱帽。
セントルイスバレエのダンサーたちの中にいても迫力負けしないどころか、艶やかなオーラや脚をスパッと上げてはおさめたりと
切れ味鋭く畳み掛ける踊りも目を見張りました。緩急を自在に操る上村さんの身体のコントロール力も恐るべし。


In Reel Time
振付:ブライアン・イノス
作曲:フィリップ・ダニエル

セントルイスバレエ委嘱作品で、イノスはシカゴ在住の気鋭の振付家とのこと。
光と影のスポットを生かして吹き荒ぶ嵐とテクノ系を合わせたような不思議な音楽と溶け合うダイナミックな作品で、
次々とパワフルにフォルムが紡がれて行く展開から目が離せず。
リフトの降下からのカチッと嵌るポジション等クラシックをベースにしつつ
自由に引き伸ばされていく動きも面白く、黒系の衣装でしたがよく見ると模様も様々。


Toya&Friends On Stage
Voice of Angels
プレリュード「空色」
徳家"Toya"敦(Piano,Keyboads)
南明男(Guitar)  佐藤邦治(Drums)  金森佳朗(Bass) 山崎ユリエ(Alto Sax)

バレエ『セントルイス・ブルース』
振付:堀内元
作曲・編曲・音楽監督:徳家"Toya"敦
演奏:Toya&Friends
「セントルイス・ブルース」詞・曲:W.C.Handy
歌唱:剣幸


第2部はコンサートとバレエの合体型舞台で、楽器のパート紹介も照明を当てて華々しく行われ
滅多に見ない光景のせいか、いつも観る公演とはだいぶ違う空気感に浸りながら気持ち新たに鑑賞です。
途中で徳家"Toya"敦さんのお話が入り、堀内さんと知り合ったきっかけがブロードウェイミュージカルに出演されていた市村正親さんの舞台だったようで
今回音楽監督を務める、バレエ用に曲を増やして膨らませたセントルイス・ブルースとバレエとの共演で披露できることを心から喜ばれているご様子でした。
両脇に椅子とテーブルが配置され、お酒セットは確か無かったものの、何処かのバーの設定なのでしょう。
パ・ド・ドゥもあれば、日本から選抜された女性ダンサー達の黒で統一した衣装を纏っての
ショーダンスのような踊りも披露され(少々お行儀が良過ぎた感もありましたが)
驚くべきは堀内さんの変わらぬ軽快さの健在ぶり。身体も締まっていらして、日頃から芸術監督業務と同時に相当な訓練を絶えず積まれていると想像いたします。
女性の衣装は膝丈の色とりどりなスカートで押し出しの強いパフォーマンスでアピール。
2階から眺めていると夜の大人な世界で花がきらりと開花しているように目に飛び込み
何より感激であったのがサックスとバレエの共演。今回足を運んだ最大の目当てでもありますが
新国立劇場バレエ団のデヴィッド・ビントレーさん振付「テイク・ファイブ」では鑑賞して以来久々に目にできて喜ばしい限り。
高校時代吹奏楽部であったため2年半ほどサックスの経験がございまして(但しテナー)
賑やか且つスタイリッシュな音楽の中での山崎ユリエさんによるサックス演奏とバレエと結び付きを目撃でき、嬉々たる夜でした。




帰りは都立大学駅近くのビールバーへ。アメリカラガーが効いたチョコレートのような芳醇なビールで乾杯です。
セントルイス・ブルースの曲は知っていながらセントルイスと言えばトム・ソーヤや
ヌートバー選手が所属する大リーグカーディナルズの印象のほうがありましたので、生でじっくりと演奏を聴けてよかったと思えた5月最終日。



お隣の方(関東近郊のあちこちでの劇場遭遇率第1位です。前日曜日には上野で、翌日はオーチャードホールでお目にかかる、同じ鑑賞コース笑)のグラスが目に留まり撮影。



ビールが進みます。



ハートランドビールもいただきました。

2024年6月7日金曜日

懸垂と消防士ロミオだけではない  東京バレエ団  ジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』5月26日(日)







5月26日(日)、東京バレエ団ジョン・クランコ版『ロミオとジュリエット』を観て参りました。
今回は5月下旬と6月上旬に跨る公演期間で、本日から6月公演が開始。まだ公演期間中ですので感想はさらりと控えめに綴って参りますが、
この週末の公演もお1人でも多くの方々にご覧いただきたい良きプロダクションです。
2年前のバレエ団初演にてクランコ版を初鑑賞し、非常に上質でマクミラン版の元になったとの話を踏まえると面白い発見も多々あり早い再演を待ち侘びておりました。
https://www.nbs.or.jp/stages/2024/romeo/

※NBSホームページより
東京バレエ団「ロミオとジュリエット」全3幕
振付:ジョン・クランコ
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ

キャピュレット家
キャピュレット公:安村圭太
キャピュレット夫人:伝田陽美
ジュリエット:足立真里亜
ティボルト:鳥海 創
パリス:樋口祐輝
乳母:坂井直子

モンタギュー家
モンタギュー公:岡﨑 司
モンタギュー夫人:政本絵美
ロミオ:池本祥真
マキューシオ:生方隆之介
ベンヴォーリオ:山下湧吾

ヴェローナの大公:木村和夫

僧ローレンス:中嶋智哉

ロザリンド:加藤くるみ

ジプシー:榊優美枝、中沢恵理子、髙浦由美子

カーニバルのダンサー:岡﨑 司
           工 桃子、本村明日香
           井福俊太郎、海田一成


指揮:ヴォルフガングハインツ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
 

足立さんのジュリエットは確固たる意思のある少女で、乳母とのやりとりにおいても主張も悪戯も俊敏且つはっきり明快。
名家の伝統や古いしきたりには従わなそうな予感を既に与えていた印象です。パリスに対しては礼儀正しく振る舞うも
安泰な人生にとどまる風には見えぬ、大胆な事柄にも突き進みそうな強さが確立した姿で接していたと見て取れます。
舞踏会でのロミオとの出会いでは、ただでさえ大きな瞳が一段と膨らんで語り、しかし目線だけでなく
例えばちょっとした手を差し出す仕草のタイミングも前回より自然で加えて雄弁で、
恋心が高まって沸々と事態が急変していく展開を音楽の流れとも一体化して表現していました。

足立さん池本さんはペアとしては初鑑賞でしたがパワーと情熱をぶつけ合いながら愛を交わすロミオとジュリエットで
2人とも決して大柄ではないはずが舞台姿が迫力大。ジュリエットがバルコニーにやってきたロミオから持ち上げてもらいながら
下に降りて行く様子の2人はとびっきり可愛らしい姿でありつつ、ジュリエットとの恋を歓喜するように
池本さんの鋭く張りのあるテクニックでソロを披露され、すると足立さんもみるみるとロミオに引き寄せられてパワーを返して昂ぶりを体現。
足立さんの底知らずなスタミナとダイナミックで時にはしっとりと舞い、変化に富む音楽によく乗った踊りが
ジュリエットの心に芽生えたはち切れんばかりの感情を伝えてくださいました。
恋の加速の中にも、 ジュリエット抱っこやロミオを膝枕させたりとじっくり愛情を確かめ合う場も設けられた
クランコ版の丁寧な描写が音楽との響き合いと共に目に心に届きました。そして名物ロミオの懸垂接吻はジュリエットも応援体勢になっていたとも思え
驚きのあまり思わず笑ってしまっていた子供の観客がいたのも納得。池本ロミオ、
力振り絞るひたむきさやジュリエットとの別れを体当たりで惜しむ一途さは子供の心をも動かしていたようです。

終盤ジュリエットの墓場にやってきたロミオ、マントを引っ掛けながらの降下が消防士ロミオにも見えて仕方ないと前回と同様感じずにいられませんでしたが
懸垂接吻と同じく、怖い物知らずな若者の大胆さ伝わる演出と捉えております。
ヴェローナ消防団にて活動しているであろうロミオ、だからこそ訓練の賜物で懸垂もお手の物なのでしょう。

鳥海さんによる黒い翳りやキャピュレット家のプライドが滲む豪快なティボルト、
長身で長い手脚の持ち主ながら高難度で複雑な技巧を次々と繰り出していく、王子貴公子系役の印象が先行していた生方さんの鮮烈なマキューシオも印象に残り
見るからにおっかなそうなティボルトを茶化すのは並大抵勇気では不可能なはず。
そういえば珍しくロミオ、マキューシオ、山下さんのベンヴォーリオの3人全員爽やか系で纏まったトリオでした。
樋口さんの何処か冷たさを帯び傲慢さが見え隠れする、終盤ジュリエットに対しては冷ややかな怒りが凍るように伝わってきたパリスも忘れられられずにおります。
貴族達のクッションをしっかり手に持つ鷹揚とした踊りや茶や黒で緻密な模様で彩られた統一感ある衣装の凝った、特に全て形状が異なる帽子のデザイン観察も楽しく
厳粛な場に飛び込んでくる白地に赤いリボンをあしらったドレス姿のジュリエットの眩しさとの対照的な色味もくっきり。
1幕での作物までもが飛び交う街の喧騒の光景も目に焼き付いてきっとこの年は豊作だったのであろうと想像が巡り
2幕のカーニバルのキュートなカラフル衣装や、女性ジプシー3人組の弾け散る喜びも、訳ありな事情が多き3人でしょうが何だか晴れやかに映るのは
お祭りを徹底して明るい賑わいに重点を置いた描き方によって晴れ晴れとしためでたさがまさって見えるのかもしれません。

最後はジュリエットがロミオを抱いた状態で幕が下りるためか、来世では結ばれて自由に青春を謳歌しているあろう2人が脳裏を過ぎり
悲劇ではあっても温もりがふわりと覆うような余韻を残す幕切れと思えました。
何より、カーテンコールにて池本さんロミオが両手を大きく広げて足立さんジュリエットが胸に飛び込んでくる挨拶が反則な甘酸っぱさで魅了。
最後の最後までロミオとジュリエットの世界観を観客に見せ続けてその光景を目に残しながら帰途につけたのは幸せなことです。
5月公演は空席が目立っていた点が惜しく、今週末もしお時間の許す方は是非足をお運びください。



※足立さん、池本さんへのインタビュー。互いの信頼感が伝わり、池本さんをあるキャラクターに例える足立さんの表現にクスッと笑ってしまいました。是非お読みください。






足立さんの使い込んだポワント。文字も美しい。



ビュッフェにパンダさん




多言語対応のキャスト表、解説。学習中の言語がある方、ご興味のある言語のある方はどうぞお読みになってみてください。



帰りは会場近くの酒場CONA上野へ。お酒はカクテルが中心な当ブログレギュラー後輩と。



生ハム盛り合わせ。後輩の大好物です。クランコ版では第1幕前半に美味しそうな作物がたくさん出てくる演出も、
自称・バレエ公演使用飲食物監視員な管理人は好きでございます。
(お世話になっている方の中に、落下物処理監視員がいらっしゃいます)
クランコ版での野菜の投げ合いにはびっくり笑。但し、もし本物のニンニク投げられて仮に割れて目に汁が入ったら激痛が走りそうです。



そして今回の、どころか5月後半における当方観劇後の飲食物ヒット上位に入るであろう、イタリアン水餃子。
どちらかと言えば小籠包に近い厚めの皮の香ばしい食感、肉汁の多さで、しっかり果肉の味を感じるトマトソースと合うのです。
クリアな盛り付け方も綺麗でございます



白赤ワイン飲んでからのビール。店名のCONAの文字が入っています。毎回こんな呑んでばかりの先輩ですまんのう笑。



ハーフアンドハーフピザ。お互いに好きな種類を選択したら、後輩は明タラポテおもち。
和物ですみませんと言うていたが、美味しそうな組み合わせなのだから大歓迎。それに場所柄か、下町スペシャルなるピザもメニューにあり。



渡り蟹のトマトソースパスタも蟹が想像以上に多めに入っていて万歳。このご時世を考えたらお手頃で破格価格なメニューばかりなのだが、
どれも満足度の高い味でした。店員さんの接客もさっぱりと丁寧な口調で、好印象です。調理トラブルで提供する料理の遅れについても丁寧に説明に来てくださり、
こちらは時間はたっぷりある上に寧ろどんな料理か、楽しみ度が増した後輩と私でございます。そしてスタッフさん渾身の水餃子の美味しいことよ!



後輩と行くと大概デザートも必須です。(ティラミスを美味しそうに頬張っていて、可愛いのう)そういえばティラミスはヴェネト所縁のお菓子だったか。